【全ては名前のため】
私の眷属となったサボテンも紅魔館でそれなりの知名度を得るようになった。
音楽を流すとどこからともなくやってきて踊りだすサボテンは下手すれば私よりも知られているかも知れない。
私が放っておいても特にトラブルは起きず、サボテンはメイド妖精達の間ではすっかり受け入れられていた。
そんなある日、あるメイド妖精からこんな指摘を受けた。
「この子には名前が無いんですか?」と。
サボテンで事足りているので特に名前を付けるつもりはないと話したところ、それではかわいそうだと言われた。
そういえばお姉様はここのメイドとして雇い入れる時、名前を持たない者(ほとんどだったが)に名前を付けた。
お姉様にとっては有象無象を識別する記号を与えたに過ぎなかったのだろうが彼女達はとても喜んでいた。
もしかすると名前を持たずに生まれてきた妖精達にとって名前とは特別な物なのかも知れない。
それは名前を持っている事が当然である私達には決して分からない価値なのだろう。
少々話が逸れたがともかくメイド妖精達から名前を付けた方がいいという要望があったのだ。
しかし私は生き物、いやサボテンはもはや生き物ではないが、まあそういう類のモノに名前を付けた事がなかったし、恐らくサボテンと長い時間を共にしているのは私ではなくメイド妖精達なので、彼女達に名前を付けてもらう事にした。
そこで紅魔館の要所要所に写真とともに箱を設置、付けたい名前を書いて入れるように頼んだ。
これならいい名前が集まるだろうと考えたのだが、ここで思わぬ壁に直面することとなる。
それはメイド妖精達の圧倒的な識字率の低さだった。
じゃあ普段の仕事はどうしているんだと聞いた所、基本的に咲夜ちゃんが口答で指示を伝えて回っているらしい。
恐ろしいまでの非効率さである。
しかし名前を考えてもらうには字を覚えてもらうしかないので、仕方なく私が教える事にした。
で、各メイド妖精のシフトを見て空いている時間毎に集めて字を教えようと思ったのだが、ここでさらなる問題が。
察しのいい者ならもう分かるだろう、紅魔館のメイド妖精達にはシフトや部署といった物が存在しなかった。
詳しく聞いてみると仕事は咲夜ちゃんが全て管理していて、彼女自身が必要に応じて適当に仕事を与えているらしい。
しかもそれも本当に時々で大体は咲夜ちゃんが片付けてしまうとか。
「なんつーアバウトな組織管理……アイツはこの現状を把握してるのかしら」
ここまでくるとアイツの領分だし直接聞いた方が良いだろう。
「お・ね・え・さ・ま〜!!」
「フランドールどうしたのよそんなに肩怒らせて。
とりあえず紅茶でも飲んで落ち着きなさい」
「ありがとう一杯いただくわ……ってこれ毒入りじゃない!!」
思わずバルコニーの外に投げ捨てる。
「ああ、そのティーカップ高いのに……」
「私は毒入りは飲まないって前から言ってるでしょ。
そんなことより!メイド達に部署割りやシフトがないってのは本当?」
「無いわよ」
「なんで?」
「咲夜がわざわざ決めなくても自分でやった方が早いですって言ったから」
「あ〜もうこれだから協調性の無い天才は……」
「いやあの娘も友達と一緒に遊びに行ったりするから別に協調性が無いわけじゃ」
「オフじゃなくて、仕事で人を使えないとダメなの!紙とペンは!?」
「そこの引出し」
仕事の管理が一ヶ所に集中するという事は即ち権力の一極集中を意味する。
独裁政権など碌な末路を辿わない事は歴史が何度も実証済みだ。
このままでは咲夜ちゃんの教育上よろしくないし、彼女が失踪したり死んだり殺されたり謀反起こしたりした時にスカーレット家は断絶の危機に立たされてしまう。
この歳で路頭に迷うなど冗談ではない、私はずっと貴族のお嬢様として楽な生活を送っていたいのだ。
「何書いてるの?」
「部署割。とりあえず咲夜ちゃんにメイド妖精を割り振らせてシフト通りに働かせる。
仕事を上手く分散させる事で神輿を軽くしていつでも取り替えられるようにするのよ」
「あ〜そうね、咲夜の次誰にしようかな……」
「それはあと30年くらいはまだ考えなくてもいいけど、とりあえずメイド長は咲夜ちゃんじゃなくても務まるようにしとかなきゃ……はい出来た」
「どれどれ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
レミリア・スカーレット直属メイド隊
メイド長補佐メイド隊
廊下清掃メイド隊
個室清掃メイド隊
大部屋清掃メイド隊
浴室・化粧室清掃メイド隊
大図書館司書メイド隊
キッチン清掃・料理担当メイド隊
買出し担当メイド隊
洗濯担当メイド隊
音楽演奏メイド隊
有事対策専門メイド隊
ここまでは紅魔館当主レミリア・スカーレット及び側近メイド長十六夜咲夜の管轄下とする。以下上記に属さない独立部隊。
フランドール・スカーレット直属メイド隊
門番補佐メイド隊
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「私が思い付く限りではこんな感じ。あとは必要なら咲夜ちゃんに調整させて。
割り振りとシフトの管理も多分咲夜ちゃんに任せれば大丈夫だと思うからお姉様から言ってちょうだい」
「まあ、分かったわ」
「ああ、そうそう。ちゃんと適度な休憩は取らせるようにしてね。
じゃないと多分あいつら逃げ出すから」
さて、これで暫くは私に出来る事はない。
咲夜ちゃんの手腕に期待しよう。
ん?何か大事な事を忘れてるような……ってそうだあいつらシフト決めても字読めないんじゃん!
「お姉様ゴメンあいつら字読めないんだった。
時計を館中に設置してそれで判断させるようにして」
「それは面倒ね……」
「必要なことだから頼むわよ」
「はいはい、でも時計そんなに急には用意できないわよ」
「う〜んそうね……あ、魔法なら術式複写するだけで簡単にたくさん用意できるわ」
「それならパチュリーに任せましょうか」
「OK、術式は私が作るから運用はパチュリーに任せましょう」
本人の知らぬ所で仕事を押し付けられてしまったパチュリー、ごめんね。
でも彼女ならこの程度はなんでもないだろう。
さあ今度こそ私は術式を用意してしばらく待つだけだ。
それから一週間半後。
「どうなった?」
「仕事は進み難くなったみたいだけど、一応皆ちゃんと仕事してるみたいよ」
「よしよし、ひとまずは成功ね。
じゃあメイド妖精達のシフト貸してくれる?」
「はい」
ふむふむ、一人の平均労働時間は一日約四時間か。
これなら空き時間使って勉強できるわね。
早速スケジュールを決めて勉強会を開くことにしよう。
紅魔館の一角にある大部屋の中にメイド妖精を全員集合させた。
私の隣にはちゃんとサボテンも呼んである。
「はいはい皆静粛に〜!今からなんであなた達は集められたのかを説明しま〜す」
好き勝手に喋っていたメイド妖精達は口を閉じてこちらに注目した。
なかなか聞き分けがいい。
「今日皆に集まってもらった理由はは他でもありません、皆にこのサボテンの名前を決めてもらおうと思います!」
おお〜という軽い驚きの声があがる。
「先日何人かのメイド妖精達からこのサボテンの名前を決めた方がいいのではないか、という意見がありました。
正直私は名前を付けるつもりが無かった為良い名前を思いつきませんでした。
そこで普段このサボテンとよく遊んでいる皆さんにも一緒に考えてもらおうと思います」
今度は喜びの声が次々とあがる。
サボテンが愛されているようで私も嬉しい。
「しかし!一つ大きな問題があります」
再び部屋は静かになる。
「あなた達に聞いて回ったところ、文字を書けない妖精が多数いることが分かりました。
流石に文字が書けなければ名前を考えてもらう事はできません。
そこで、私が皆に文字の書き方を空いている時間を利用して教えようと思います!
この子に名前を付けてあげるため、皆是非頑張ってね!」
おお〜!!と気合の入った返事が返ってくる。
知識とは好きで勉強しているやつでない限りは基本的に身につきにくいので、こうして明確な目的を与えてやった方がよいのだ。
名前を考えてもらいたいのは本当なので、彼女達には是非頑張ってもらわなければ。
時間は午前と午後に一時間ずつ取ることにする。
こうしてメイド妖精達の為の勉強会が幕を開けた。
「は〜いあなた達、あいうえお表作ったからこれトイレとベッドに貼って毎日眺めなさい。
物を覚える時はとにかく何度も見て目に入れ、声に出して耳に入れるのが一番なのよ。
私の部屋にもたくさん貼り紙があるわ」
「たくさんあったら逆に覚えられないんじゃないですか?」
「私は覚えられるからいいの。あなた達が覚えなきゃいけないのはこの紙だけだから気にすることはないわ」
「『あ』は突き出す!『お』は突き出さない代わりに点が入る!
違いが分からない奴は何度も読み上げながら書きなさい!」
「それでも分からない時は?」
「そいつは恐らく脳か眼に欠陥を抱えてるから私がブチ抜いて新鮮なのに替えてあげるわ。
ただし、分かるけど覚えられないって奴は私が直々に覚えさせてあげましょう」
「今回はあなた達の為に名札を作ってきたわ。
これに自分の名前を書いて胸に付けなさい」
「私達お互いの名前ならもうわかってますけど?」
「だから誰かと会う度にその名前をどうやって書くのか確かめるのよ」
「なるほど〜」
「フランドール様、『は』と『ほ』の違いが覚えられません!」
「じゃあ片仮名から覚えなさい」
「フランドール様、『シ』と『ツ』の書き分け方が分かりません!」
「『シ』は斜め棒を下から書く、『ツ』は斜め棒を上から書く」
「先生!『そ』の書き方は二つあるみたいですけどどっちを覚えればいいんですか?」
「好きな方を覚えなさい。個人的には書きやすい方が良いと思うわよ」
こうしてメイド妖精達は私の指導の下日々研鑽を積み、少しずつ平仮名、片仮名を覚えていった。
私がメイド妖精達に文字を教え初めて数週間。
「はいじゃあ今回の平仮名片仮名表のテスト結果発表するわよ……全員満点!おめでとう皆さんよく頑張りました」
メイド妖精達から歓声が上がる。
いや皆本当によく頑張った。
たったの二週間で全員ここまで成長してくれると教えていた身としても感慨深いものがある。
サボテンの名前もこれで決めることができるというわけだ。
「じゃあ皆サボテンの名前を考えたら紙に書いてこの箱に入れてちょうだい」
あ〜そうだっけみたいな反応を返す奴が結構いるのはまあ仕方ないか、あれから結構経ってるし。
しかし思い出せば本来の趣旨なので面倒臭がる者はいない、それぞれが書いた案が次々と箱に集まった。
「これで全員分集まったかしら?
じゃあこの中からサボテンと一緒に決めるからちょっと待ってね」
サボリン、サボキュー、サボのすけ、サボじろう、サボッキー、サボリーヌ、ドンタコス、サバンナドリーム、メキシブル……個性的な名前が勢揃いだ。
それを熱心に捲って見るサボテン、というかこいつ字読めたのか。
と、その時サボテンが一つの紙を抜き出して私に見せた。
「なになに『サボンドール』?」
「ンドール」の部分を頻りになぞって見せているのでもしかして私の名前と似ているのが気に入ったのだろうか。
尋ねてみると(多分)肯定の意を示したので合っているようだ。
「じゃあこれで決まりね。
はい皆今日からこの子の名前はサボンドールよ。これからも仲良くしてあげてね」
こうしてサボテンの名前が決まった。
【キッチンが吹き飛べば妖精が儲かる】
「キッチンが大破したわ」
「私は何もしてないわよ」
いつもと同じように魔法の研究に勤しんでいるとお姉様が妙なことを言ってきた。
今回は本当に何もしていない。
そもそも私は館の一部を破壊するような行為をする場合は館の運用に支障が出ないようにして……いや、気をつけていても壊してしまう時は壊してしまうのだがともかくキッチンを壊した覚えはない。
「いや、犯人は魔理沙なのよ」
「魔理沙……ああこの前の人間の魔法使いね。殺したの?」
「メイド服を着せて咲夜に扱き使わせてるわ。
今問題になってるのはそれとは別の事」
紅魔館で出される料理は当然の事ながら紅魔館のキッチンで作られている。
もちろん魔女であるパチュリーやメイド妖精は言わずもがな、妖怪である私、美鈴、お姉様だってしばらくは食わなくても余裕で生きていられる。
だが皮肉なことに悪魔の館に住んでいるのは人外だけではないのだ。
「確かこの前新しく人間のメイド雇ってたわよね?」
「ええ、そうなのよ」
現在紅魔館ではお姉様お抱えのメイドである咲夜以外にも人間のメイドが住み込みで働いている。
先日お姉様が戯れで鴉天狗の新聞を通して募集したら意外なことにそれなりに希望が集まったのだ(主に身寄りのない若い人間だったらしい)。
人間は食事を採らないとすぐに動かなくなってしまうので、料理が作れなくなるとするならばそれなりに問題だ。
「どうするのよ、キッチン」
「キッチンの修理は香霖堂の店主を呼んだ上でパチェと一緒にやらせるわ。
あと設備に関しては、しばらくワンパターンな食事が続く事になるけどバーベキューセットでも出して凌ぐしかないわね」
「あれ?でも逆に言えばそれでしばらく凌げば何も問題ないんじゃない?」
「実は燃え尽きたのはキッチンだけじゃないのよ」
「え、まさか……トイレとか?」
「悪くない発想ね、大外れだけど。調味料が燃え尽きたのよ」
「あらら、それはちょっと困るわね」
「そう、だから調達してこなきゃいけないんだけど、その場所が問題なのよ」
「どこに借りを作るか、かあ」
ルールのおかげで見事に平和ボケしている幻想郷だが流石に全勢力仲良しこよしなんてことはない。
取引をするには交渉が必要だし金を払えばいいという問題ではないのだ。
ちなみに普段は咲夜ちゃんが里で買えるものは買い、その他は八雲紫から調達している。
普段よりもまとまった量がしかも急に必要となると、相手を選んでリスクとすり合わせなければならない。
「調味料となると妖怪の山とかかな……いや待てよ、もっと良い所があるかも?」
「当てでもあるの?」
「私の、私のコネを使えば何とかなるかも知れないからちょっと待って」
「2回言わなくても恩に着るから早く頼むわ」
通信玉を取り出した私は早速連絡を入れた。
「もしもしチルノ、今暇かしら?」
しばらくすると呼び出しに応えたチルノがやって来た。
今回ばかりは私が玄関で応対する必要があるため、お姉様に人間のメイド達を全員下げてもらって私とお姉様でチルノを迎えた。
「フランドール久しぶり。急にどうしたの?」
「実は調味料が急になくなっちゃって、手に入れたいんだけどチルノどこかから手に入れられないかしら?」
「ちょうみりょう?」
「砂糖、塩みたいな料理に味を付けるためのものよ。あとは油とかもいるんだけど」
「ああ、そういうのね。それならたくさん持ってる奴いるわよ」
「本当?じゃあその妖精達に頼んで持ってきてもらえるかしら?」
「別にいいわよ」
「お願いね」
再び飛び立ったチルノを見届けるとお姉様が心配そうに話しかけてきた。
「本当に妖精なんかで大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、あいつら結構豊かな生活してるのよ。
もしダメでも妖精ならリスクがないし気にすることはないわよ」
「それもそうね」
調味料は料理に必須というわけではないので、今日手に入らなかったら入らなかったで味の薄い料理で我慢すればいい。
なんて思っていたことを私達は謝るべきだろう。
「これは……」「壮観ね……」
大勢の妖精が調味料を抱えて来るわ来るわ、砂糖、塩、胡椒、花の蜜、醤油、オリーブオイル、ローリエ、シナモン、ミント、etc……
まるで貴族に納税する領民だ。
少し違うものまで集まっているのはご愛嬌だが、正直期待以上の成果である。
「米とか小麦粉は」
「まあ、使わせてもらえばいいんじゃない?せっかく持ってきてくれたんだし」
「そうね、ちゃんとあとで礼をしないと」
ところが持ってきた妖精はそのまま帰っていこうとしている。
あわてて呼び止めて代価について話すと既にチルノから魚を受け取っているらしい。
ということは、代価はあとでチルノにまとめて渡せば良いということか。
しばらくすると妖精達は全員いなくなり、チルノが戻ってきた。
「こんなもんでいいかしら?」
「十分よ、ありがとう」「ありがとう、あなたのおかげで助かったわ」
「ふふん、これぐらい軽い軽い」
チルノは誇らしげに胸を張った。
彼女によれば妖精はそれぞれ宿っている自然物に関してはある程度干渉することができるらしく、(例えば花の妖精ならば花の蜜をたくさん収穫して蓄えておける、という具合に)自分が手に入れにくい物と引き換えに取引をしているらしい。
本当に軽いことなのかどうかは知らないが、凄い事であることに変わりはない。
前にも少し話で聞いてはいたが妖精のコネクションは侮れないものがある。
さて、お礼はどうしようか?
「チルノ、あなたが魚とりあえず渡しといてくれたみたいだけど、代価は何が欲しいかしら?」
「ん〜そうねえ……巫女とかメイドがふわふわしてるの持ってるじゃん。これと同じような形した。
あれ私持ってないから欲しい」
チルノは通信玉を見せながらそう言った。
なるほど、ビットか。
「咲夜ちゃんのビットはパチュリーが作ったからパチュリーに頼めば」
「ごめん、今パチェは多分手が塞がってると思う」
「あ〜キッチンか、一応聞いてきてみる」
しかしキッチン(だった場所)を覗いてみると聞くまでもなく二人は忙しそうだった。
ちなみに人員がこの二人だけなのは外部に流出するとまずい情報が含まれる為だ(店主については普段から紅魔館と取引をする関係なので大丈夫だろうと判断された)。
記憶遮断魔法とか使えばもっと確保できるんだろうがそれなら自分だけでやった方が早いとパチュリーが言ったのでそのままになっている。
「まだ出来てなかったでしょ?」
「ダメね。チルノ、悪いけど今忙しいからしばらく待ってくれる?」
「別に良いけど、フランドールなら出来るんじゃないの?」
「私?いや私ビットは作った事がないんから出来るかどうか分からないんだけど」
「まあいいから作ってみてよ。フランドールが作ったのなら面白そうだし」
「う〜ん、そこまで言うならやってみようかしら」
「じゃあ、チルノへの代価はフランドールに任せるわね。
私は、魔理沙いじってくるわ」
「OK」
新しい事に挑戦するのは嫌いではないしチルノがいいのなら遠慮なくやらせてもらおう。
まずは色々な奴が使用していたビットの性能を確認してみよう。
紅魔館が関わった異変等ではそれなりに情報が収集されているのでそれを見れば分かる。
ここに説明を全部載せると読むのが面倒なのでとりあえず名前だけ列挙させていただく。
・博麗霊夢
ホーミングアミュレット
パスウェイジョンニードル
・霧雨魔理沙
イリュージョンレーザー
マジックミサイル
レインボーワイヤー
エブリアングルショット
空中魚雷
・十六夜咲夜
ジャック・ザ・ルドビレ&ジャック・ザ・リッパー
ミスディレクション&パワーディレクション
・レミリア・スカーレット
サーヴァントフライヤー
霧雨魔理沙だけ多いのは地底異変の時にパチュリーがちゃんと他の奴のビットも調べておいたから。
お姉様のはビットと呼べるか微妙だがルール上はビット扱いなので含めておいた。
さて、次はこの中から魅力のある性能を抜粋してみる。
・追尾性能
・貫通性能
・炸裂
・遠隔操作
・変形
こんな所か。
あんまり強すぎると咲夜ちゃんのビットみたいに封印されてしまうので慎重に調整しなければならない。
まず遠隔操作は付けても恐らく使いこなせないので省こう。
あとホーミングも無し、威力が弱いのはダメだ。
その代わり砲口が自動的に敵に向くようにしよう。
可動性が良すぎるとホーミング弾と似たようなものになるので傾く角度は左右30度まで。
弾そのものに追尾性能が無ければ必中ではないので威力を極端に下げる必要もない。
射出するのは氷を想定しているので貫通と炸裂も無し。
う〜んしかしこれだとパスウェイジョンニードル の二番煎じね。
変形を使って何か付けよう。
付ける武装は、そうね、チルノのスペルカードを見て考えようかしら。
後ろでサボテ……サボンドールと遊んでいたチルノに声をかけた。
「チルノ〜、ちょっとあなたのスペルカード全部見せてくれる?」
「いいわよ」
本人の説明と実演で全てのスペルカードを確認する。
「この前は即行で負けたからそんなにあまり見る事が出来なかったけど、チルノは奇数弾と偶数弾と使い方がうまいわね」
「そう?よく分からないけど」
奇数弾と偶数弾は本来なら楽にかわせる弾幕に過ぎないが、チルノのそれは欠点をカバーしている物が多い。
例えば通常弾幕@(※1)では奇数弾の氷を鏃状に並べて高速で放つ事で瞬間的にそれらが一つの巨大な弾であるかのように錯覚させ、敵に大回りな回避をさせやすくしている。
またパターン化が困難な凶悪弾幕、凍符「パーフェクトフリーズ」では凍らせたランダム弾が動き出す前に偶数弾を放つが、これは本来ならじっとしていればかわせる弾幕と良い位置に移動して置かなければ再び動き出す時に押し潰されてしまう弾幕を組み合わせる事で敵をジレンマに陥れている。
「おっと話が逸れたわね。さて、どんな武器がいいかしら」
「ん?それを決めるためにスペルカードを見たんじゃないの?」
「ごめん、正直よく分からなかった」
特に決定的な弱点も発見できなかったしどうしよう。
「そうだ、私剣が欲しい」
「剣?なんでまた?」
「この前半分幽霊の奴が持っててカッコよかったから。あと、太陽の力持った烏も最近手に入れたみたいだし」
「なるほど、でもチルノが使える剣か……いや、ビットだからわざわざ手に持つ必要はないのか。ならできるかも」
「おっ、できる?」
「いわゆる剣とは違うけどそれっぽいものなら、ちょっと待って」
え〜と過去を刻む時計を作った時の術式はどこにやったかな……あったこれだ、これ作るのに割と苦労したのよね。
「じゃあ氷は水だからアクアマリンに術式刻んで軽く銀でコーティングして……はい完成」
「早っ!もうできたの?」
「これから調整が必要だと思うけどね、一旦おしまいよ。
とりあえずこれで使ってみて何かあったらまた言って」
「分かった、じゃあねフランドール!」
チルノにあげたビットには先程の前方集中型ショット「アイシクルバルカン」と過去を刻む時計を流用して作った近接戦用装備、「レーザーギア」が搭載されている。
前者はともかく後者の使い勝手は不明なので、実際に使ってもらって必要なら改良していくしかない。
さて、今日は皆忙しいだろうし何もしないでシャワー浴びてとっとと寝よう。
おやすみなさい。
そして次の日、チルノは早速ビットを持って私の部屋へやって来た。
ちなみにキッチンはまだ修理中だ。
「フランドールこれちょっとひどすぎるわよ」
「どうしたの?」
「発射する方向が上下にがっくんがっくん動いて全然安定しない」
「え、本当?それは悪かったわね。
ちょっと貸して……ああなるほど、玉をちゃんと固定しなきゃいけなかったのか。
これならすぐ直せるからちょっと待って」
「うん」
実験とは往々にして盲点を突いたミスが出てくるものなので、こればっかりは仕方ない。
「はい出来た、今度はここでちょっと試し撃ちしてみて、あっちに向かって」
「OK、えいっ」
「あだだだだだだ!!ストップストップ!今度は自動照準の角度制限付け忘れてたわ」
「物作るのって大変ね」
気を取り直して再び調整、試し撃ちをしてもらって今度こそ大丈夫である事を確認する。
「ふう、これで完成ね」
「うん、まだあるんだけどね」
「ああ、まだあったのね……今度は何?」
「これ、何とかギアとかいうぐるぐる回る奴。
レーザーがこっちにも回ってくるから危ないのよ」
「そう?そっちに切り替えた時は使用者から離れるように設定したはずだけど」
「う〜ん、飛んでるとビュンビュン動くから」
「あ〜そうか、どうしよう」
「前だけ攻撃できるようにはできないの?」
「ふむ、前だけか。
じゃあこんなのはどうかしら、今まではビットを正面で水平方向に回転させてたけど、今度は垂直方向に回転させて前方にレーザーを突き出すようにする。
そうするとレーザーでドリルみたいに突き刺せる刃が出るから攻撃範囲は狭くなるけど良い感じに抉れ」
「ごめん、全然分かんない」
「うん、分からないわよね。じゃあ紙に書くから」
私は簡単に紙に書いてチルノに見せた。
「お〜なるほど。試してみれば良いんじゃないの?」
「よし、じゃあ設定し直してみるわよ」
ビットの術式を書き換えて先程の案の通りにする。
名前は「レーザードリル」といった所だろうか。
「しかしこれだとちょっと物足りないかな」
「なに、これだけじゃダメなの?」
「いや武器としては良いのかも知れないけど、これだけじゃちょっとシンプル過ぎてつまらないと思って」
「ん〜、じゃあこんなのは?」
そう言うとチルノは先程の絵のレーザーにギザギザした模様を加えた。
「あ〜チルノ、悪いけどこの刀身は途中で形を変える事はできないのよ」
「そうなの?でも先っぽで曲がってるじゃん」
「これは曲がってるんじゃなくて両脇からそれぞれ一本のレーザーが出て合わさってるのよ」
「じゃあ、玉をを増やせばもっと曲げられるってこと?」
「ああ、その手があったわね」
ビットを二つ増やし書き加えてみる。
「こんな感じかしら?本当はもう一押し欲しいけど、あんまりやり過ぎると強くなり過ぎちゃうしこれでいいか。
名前は『サヴィッジドリル』とかそんなとこで」
「あとは使う時に工夫すればいいわよ、工夫」
「そう、じゃあそこは任せるわ。また何かあったら相談してちょうだい」
「分かった。ところでフランドールまだスペルカード持ってないの?」
「あーあれね、全く持ってないだと支障がある事がお蔭様で分かったから一応最低限必要だと思われる分は用意したわ」
世の中には避けられない戦いもあるという事を学んだ。
「じゃあ試しに相手してくれない?」
「私?私あんまり得意じゃないけど、それでもいいなら」
「いいよいいよ、試せれば大丈夫だから」
「じゃあスペルカードは三枚ね」
「分かった」
幻想郷ではスペルカードゲームを開始する際にゲーム管理用の結界が自動的に展開される。
プレイヤーがゲームを簡単に楽しめるようにサポートを行うと同時に、ゲームの情報が管理者の元に全て送られ幻想郷の統治に役立てられるのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
Welcom to SPELCARD GAME CIRCLE.
(スペルカードゲーム結界へようこそ。)
Please select the game mode.
(ゲームモードを選択して下さい。)
―――――――――――――――――――――――――――――
「プラクティスモード」
―――――――――――――――――――――――――――――
PRACTICE MODE
Please select your name,play side,SPELLCARD stock,and life stock.
(名前、所属サイド、スペルカード枚数、残機を入力して下さい。)
―――――――――――――――――――――――――――――
「フランドール・スカーレット、防衛側、スペルカード3枚、残機0」
「チルノ、攻撃側、スペルカード0枚、残機制限なし」
―――――――――――――――――――――――――――――
Frandre Scarlet
side:defense
SPELLCARD:3
life:0
Cirno
side:offense
SPELLCARD:0
life:∞
Are you ready?
(用意はよろしいですか?)
―――――――――――――――――――――――――――――
「「OK」」
―――――――――――――――――――――――――――――
SPELLCARD SET……ATTACK!!
―――――――――――――――――――――――――――――
開始宣言と同時に私は宙にセットされていたスペルカードを掲げて発動させる。
禁忌「レーヴァテイン」
細長いレーザーを杖から出現させ前方を薙ぎ払う。
チルノは慌てて後方に下がるが、レーザーの通った空間には弾が残されさらにチルノを追い詰める。
今度は前方へ回避、そこへ私が横からレーザーを振るい、一機を奪い取った。
残機が減ったことを知らせる派手な炸裂音が響き渡るが、今回は彼女の残機は制限なしなので特に意味はない。
―――――――――――――――――――――――――――――
Cirno
stock:∞
―――――――――――――――――――――――――――――
この技は後ろに隙があるので私の後ろをまわりつつ接近して撃ち込むと割と楽に攻略できるのだが、初見でそこまで読める奴は少ないだろう。
チルノもまた例外ではなかった。
「ええい、くそ!」
業を煮やした彼女はショットを撃ち込みつつレーザーの間合いを見極めてかわすという荒技に出た。
しかし、レーザーで残される弾の数はそれ程多くはない為あながち悪いとも言い切れない手ではある。
残機をもう一機落としつつもチルノはショットを撃ち込み続け、攻撃が2ループ目の半ばに差し掛かった辺りで障壁を破壊された。
―――――――――――――――――――――――――――――
Cirno
stock:∞
SPELL BREAK
―――――――――――――――――――――――――――――
続いて二枚目。
禁忌「フォーオブアカインド」
分身を三体作り出し、私を含め計四体で弾幕を放つスペルカード。
分身の登場までに少しのラグがある為、その瞬間が接射のチャンスだ。
チルノはその隙を逃さずドリルで突いた。
弾が放たれるとすぐ様ショットへ切り替え、後方へ下がる。最初に奪われた体力がじわじわ響き、このスペルカードはノーミスで突破された。
―――――――――――――――――――――――――――――
SPELL BREAK
―――――――――――――――――――――――――――――
そして最後のスペルカード。
禁弾「スターボウブレイク」
私の後方へ放たれた弾幕がやがて失速し、前方へ飛んでいく気合避け要素の高いスペルカード。
発動の瞬間には目の前ががら空きになるので、やはり接射のチャンスとなる。
チルノは最初に接近してドリルを撃ち込み、少し下がって弾幕の間をくぐると再びドリルで突くという多少強引な手段で張り付き続け、速攻で攻略した。
―――――――――――――――――――――――――――――
SPELL BREAK
GAME OVER
Winner is Cirno.
(勝者:チルノ)
Thank you for your playing.
(御利用ありがとうございました。)
―――――――――――――――――――――――――――――
ゲーム終了に伴い結界が消失する。
「さて、どうだった?」
「やっぱり使い方にコツがいるわね。
突いて下がって突いて下がって、みたいな」
「ヒットアンドアウェイね。確かにクセがあるけど個性的で良いんじゃないかしら?
アイシクルバルカンもそれなりに強かったしね」
「そうね、とりあえず色んな奴とやってみるわ。
じゃあありがとう、フランドール」
「頑張るのよ〜」
これで私の仕事は終了だ。
暇潰しにお姉様の方の様子でも見てみるか。
「お姉様〜そっちはどんな感じ「違ーう!!やり直し!!こんなのは咲夜の紅茶の足元にも及ばないわよ!」
「レミリアもう勘弁してくれよ、咲夜ができる仕事全部マスターするなんて無理だぜ……」
「ダメ!うちのキッチン吹っ飛ばしたんだからこの程度で許すわけないでしょ!」
「あ〜取り込み中だったみたいね」
「あら、フランドール。チルノの報酬はできたの?」
「できたわよ、そっちはまだなの?」
「まだまだこれからよ。私は忙しいからまた後でね。
じゃあ魔理沙、紅茶は今日の所はとりあえずこれで勘弁してあげるから次は料理よ。
うちのバーベキューセットいじらせてあげるんだから光栄に思いなさい」
「ちょ、そこのあんた、頼むから助けてくれ!レミリアもう許してくれー!!」
襟首を掴むまれてお姉様に引きずられていくメイド姿の霧雨魔理沙を私はハンカチを振って見送った。
ま、お姉様が飽きたら解放されるだろう。
サボンちゃん、名前が付いて良かったね。
しかし、その余波でメイド妖精隊に知恵が付くとは…。
フランちゃん、単なる独り善がりな天才ではなかったのか。
【キッチンが吹き飛べば妖精が儲かる】の感想
ああ、魔理沙のメイド姿の画像が多いのは、こういった粗相をしょっちゅうやらかしているからなのか…。
このおかげで、幻想郷のパワー・バランスに深刻な影響が出そうになるとか。当然、霊夢は放って置くなこりゃ。
チルノがオプション持ちになった!!しかもかなり実用的な物が!!いずれ、異変解決に…、いや、妖精大戦争の続編とか…。
スペルカード・ルールはこういったシステムで行なわれているのか…。
今回もサクサク読ませていただきました。
影の名君、フランドールの日常風景、今後も楽しみにしております。
紅魔館の識字率が上がるとは、紅魔館が強化された気が・・・毒は変なものを紅茶に入れるのが趣味のp、メイド長の仕業かな。
チルノに剣と聞いて、真っ先にスイカバーソードとアイスの当たり棒の剣を思い出しましたw
妖精の貢物の話を聞きつけた某貧乏巫女が真似をして、対価を要求されて涙目になる風景が浮かびました。
このフランちゃん、面倒くさいし面倒ごとが増えるからやらないだけで既にいつでもスカーレット家を簒奪できる気が…
後咲夜関係へのツッコミもナイスだ
メイド妖精が字を覚えたのは結構でかいな、ほんと
そしてやるな、妖精。フランちゃんネットワーク、天狗に妖精と真面目に考えると中々すげえ
ドリルゲットなチルノの今後にも期待だぜ
フランちゃんがいい子で生きるのがつらい
これからもがんばってください!
産廃的な展開にしてもいいんじゃよ?(チラッ
この妖精相手にも対等な対応をするフランちゃん可愛い。フランちゃんのことも物怖じせず親友として認めてるチルノちゃんも可愛い。