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『KillingRoom』 作者: スレイプニル

KillingRoom

作品集: 23 投稿日時: 2011/01/24 10:23:27 更新日時: 2012/12/31 14:43:40
|□004番□008番□011番□015番□021番 |
|□024番□028番□032番□037番□045番 |
|□048番□063番□067番□069番□071番 |
|□078番□085番□089番□092番□097番 |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

霊夢は、その紙を見ながら思案しながら1つの番号に小筆で綺麗に丸をつけた。

「今回はどれが生き残るかしらねぇ…」

その紙を脇の机に起き、ふぅと溜息をつく。

「面白くなれば良いんだけれど」

霊夢は、不気味に輝く数点のモニターを見ながら冷たく笑った。





――――






冷たい床。
その冷たい床に20人あまりの人が倒れ伏している。
1人1人、安らかな顔で寝息を立てていた。
20人も入れる大部屋、広々としているが、その大部屋は隅から隅まで白で統一されていた。
その大部屋の端の端、保護色とも言える程白い薄いローブのような服を着た女が、レム睡眠から急速に現実に引き戻されようとしていた。

女の瞼が薄く開いた。
その眼に映る世界は、どこも真っ白で、床に目をやると自分以外の女達がすやすやと寝息を立てていた。
女の意識が6割程覚醒しようとしている。女はここが何処だか分からない。
女は眠る前の風景を思い出そうとした。だが、女には眠る寸前の記憶が無かった。
何かがおかしい、そもそも自分が誰だかすらも女は分からなかった。
記憶障害でも起きているのかとも女は思った。
そうこう考えている内に女の意識は100%覚醒した。
ともあれ、まだ状況を把握していない。
女はすぐ近くで顔を背けたように眠っている女を叩き起すことにした。
眠っていた女は怠惰な睡眠からゆったりと起きた。
眠っていた女は顔をしかめ、寝惚け眼でこちらを向いた。



「「えっ?」」


起こした女と起きた女は両方驚いた顔をした。


先程まで起きていた女は今起きた女の後ろに寝ている女とその顔を比べていた。
今起きた女は、自分を起こした女の後ろに寝ている女とその顔を比べていた。

「「同じ…顔?」」

ドッペルゲンガーという言葉がある。世界には自分と同じ顔が3人いて、顔を合わせると死ぬという話だ。
だが、この大部屋にいる者たち20名全員が同じ顔だった。これはドッペルゲンガーどころの笑い話ではない。

女の記憶が戻りつつあった。
自分の名前は東風谷早苗、守谷神社の巫女…2柱の神奈子と諏訪子の力を借りながら神社の信仰を集める風祝…。
しかし、何処か記憶の所々が曖昧で8ミリフィルムの途中の映像がハサミで切り取られたかのように寸断されている。
しかも自分と同じ「東風谷早苗」がこの部屋に20人も居る。
これは幻覚か何かかと早苗は思いながら近くにいた東風谷早苗を見た。
自分と変わらぬ容姿、何処をどう見ても東風谷早苗だった。
しかも同じ容姿の20人の東風谷早苗…、早苗は頭がどうにかなりそうだった。

1人1人どこも違いがない…いや…違いはあった。

「4番…?」

早苗は自分が見ていた東風谷早苗の右肩に黒々と004と焼きゴテか何かで焼印を押されているのがはっきりと見えた。
それを見て、まさか自分もと思いおそるおそる右肩を見た。

「11番…」

はっきりと、自分の右肩に011と痛々しい程強く押された焼印が嫌でも目に付いた。
他の者にも同様の番号の羅列が押されており、それらは全て統一性がなかった。

「これは一体どういう事ですか!?」

先程起きたのだろう、015と焼印が押されている早苗が叫んだ。

「知りませんよ、私には分かりません。」

まだ、状況を把握出来てすらいない045と焼印が押されている早苗が周囲の異様な状況を見て答えた。

「何故、私と同じ顔の人達がこんなに沢山居るんですか!!??」

032と焼印が押されている早苗が周囲を見渡しながら言った。
どれも同じ声で、若々しい女性の声は部屋内に良く通った。
それらの早苗の叫びに呼応するように様々な番号の早苗がざわざわと大波小波に喋りだした。

「何故、こうなったのでしょう…記憶が…頭が、痛い。」

004番の早苗が必死に何故こうなったかを思い出そうとした、しかし記憶を辿ろうとすればするほど前頭葉の奥が針に刺されるような痛みが走った。
自分の今ある記憶は、守谷神社での日々の暮らしが少しと、風祝の仕事、幻想郷の事についてと、自らの培った知識以外は何も思い出せない。
「こういうことがあった」という結果だけしか思い出せず、自分がその時何をしたかすらも思い出せない。
004番の早苗はこの悲観的な状況をどうにかしようと周囲を見渡した。
周りには錯乱している早苗や、激怒に震えている早苗、泣き崩れている早苗、状況を理解できず突立っている早苗…とても状況を打開出来そうにない。4番の早苗はそう結論付けた。

つまりは、この絶望的状況では、自分は無力なのだと。
しかし、一体誰が?

《あーあー聞こえてるかしら?》

そう考えていると、早苗達の頭上からスピーカーで増幅されたノイズ混じりの女の声が聞こえる。

《皆起きてるわね、良い事だわ。手間もかからないしね》

若い、しかし何処か大人びているような、透き通った声。
早苗…いや、早苗達はこの声の主、博麗神社の巫女…博麗霊夢の声を覚えていた。

《まー、薬で一時的に記憶が抜け落ちてるから説明するわね》

面倒くさそうに頭上から、溜め息混じりに言う霊夢。それはいつもの、茶の間で茶を飲んで毎日を過している気怠そうな霊夢の声だった。

《あんた達、東風谷早苗…あーもう「東風谷早苗」じゃあなかったわね。今ではもう「東風谷早苗」だったモノ達だったわ》

当然のような口ぶりで言い放つ霊夢、その言葉はまるで挨拶のような自然な発言に20人の早苗達はざわめく。怒号のように叫ぶ者すら居る。

《はいはい、そう騒がないの。五月蝿いだけだし面倒臭いじゃない。あんた達は昔は「東風谷早苗」だったってワケ、「昔」はね。「今」はもう「東風谷早苗」じゃあない。ただの人間…》

違うわね、と付け足すように言う霊夢。早苗達全員は焦りとも恐怖とも取れない顔をしている。

《あんた達は、昔は「東風谷早苗」だったけど、全員失敗するわ面倒な事ばかり起こすわ出来損ないばかりの「東風谷早苗」ばっかりだから、ここに戻ってきたってワケなの。「戻ってきた」の、牢獄のような所に収監され…あーまぁ薬で牢に入れられてる間の記憶は思い出せないでしょうけど、人間以下の扱いだわ、今のアンタ達はね。》

その証拠に、と霊夢は薄くせせら笑う。

《その右肩の烙印が物語ってるじゃない。その番号、普通の人間は付けないわ。普通の人間、人間ならね。奴隷っていう扱いか?って言われるとそうでも無いわね。何と例えれば良いかしら…》

アレでも無いし…これでもない。そうスピーカー越しにブツブツと呟きながら思案する霊夢。
つまりは、ここにいる右肩に番号の烙印を押された早苗達はもはや「東風谷早苗」ではない。つまり奴隷…霊夢が言うにはそうとは違うらしいが、つまり、この20人の「東風谷早苗だったもの」はどうして生まれたのか…どこから来たのか…?

《あぁ、そうね。言い忘れてたわ。アンタ達は忘れたでしょうけど、アンタ達全員「東風谷早苗」のクローンよ。クローンって知ってるかしら?知らなくても私は困らないけどね。》

それはそうと何て呼ぼうかしらと思案を続ける霊夢。
20人の早苗達は、この霊夢の発言で皆、合点がいった。クローン…同じ遺伝子から同様の身体を幾らでも作り出せる技術…ならば同じ顔で同じ身体という事も理解出来る。
しかし、何故20人も作ったのか、何故「東風谷早苗」に固執するのか?

《そうねぇ、奴隷ってのも言うのは気が引けるから今からアンタ達を「廃棄物」って呼ぶわ、ようこそ20人の廃棄物さん。色々前置きは長くなったし、もう本題に入るけど良いかしら?》

―――廃棄物、つまりもう要らないモノ、ゴミ…もはや人としても見られない言葉、奴隷の方がまだ少しは人権というのが浮浪者の食べ滓ぐらい残ってる。しかし廃棄物、もう捨てるのだ。
要らないからゴミ箱に紙くずを投げ捨てるような扱いに成り下がっているのが。この早苗達…は。
部屋内の早苗達は、もう誰一人とて喋らなくなっていた。

《普通に処理してあげても良いんだけど、それだと疲れるし面倒だからね。今日はちょっと趣向を凝らしてみたってワケ。まぁ簡単に説明すると…》

―――シンデモラウワ

冷たい、ブリザードの吹き荒れる氷山のような冷たい一言だった。
今さっきまでの少し可愛げのある抑揚とは180度変わっていた。

《―――死んでもらうって言っても、少しはそっちにもチャンスは与えてあげるわ。こちらが用意した相手を倒すか、それとも脱出出来るか。脱出口はその部屋から3ブロック先にある所にあるわ、そこまで出れたら生かしてあげる。OK?》

つらつらと説明するスピーカーの声、言葉の端々はさっきまでとは違い冷たかった。
早苗達は汗は出る者、足が笑っている者、身体の震えを抑えるため肩を抱えているものすらいた。
記憶は消えているとはいえ、体は覚えているのだ。霊夢にされた「こと」を、霊夢がしていた「こと」を。
恐怖というものは、身体に深く刻まれる。どんなに忘れようとも、何かをきっかけにフラッシュバックのように蘇るのだ。その例えようのない恐怖に早苗達は震えている。

《あれ、どうかしたかしら?ふふふ…まぁいいわ。じゃあ、このゲームのミソを言うわね。》

霊夢は、何も知らないような口ぶりで喋り続ける。しかし、その笑い声はとても笑っているような声ではなかった。何処かで早苗達を虫を見る科学者のような目で見ているに違いない。そう取れるような声だった。

《最近、読んだ…漫画っていうの?外の世界の読み物らしいけど、たまたま手に入れたのよね。それで、それに出てくる人物をかたどって符で精巧な人形を作ってみたの。パチュリーとかアリスから色々教わったわ…まぁそれはともかく、それがアンタ達を殺しにくるわ。大丈夫よ1人だけだから、それと頑張れば倒すことも出来るわ。これって簡単な話じゃない?うふふ…》

そこまで言って笑う霊夢、早苗達は直立や体育座り…様々な姿勢で緊張したように聞いていた。

《ブロック毎に数個程色々袋を置いてるわ、それでも使いなさい。何が入ってるかは教えないけど。》

はぁ、長々と喋るのも疲れるわねぇ…と溜息をつく霊夢。

《じゃ、20秒のカウントの後にゲームスタートね。それじゃあ、頑張ってね》

唐突にゲームスタートまでのカウントダウンを始め、20と口にする霊夢。
それと同時に大部屋の北に位置する壁の中心に人が2人ぐらい肩をぶつけながらも入れそうなぐらいの扉が空いた。
早苗達はビクりと兎が敵に反応したかのように背筋を伸ばした。つまりは、後19秒以内にここにいると殺されてしまうかも知れない。
20人の早苗達は立ち上がり、一斉に出口を目指した。


しかし、067と烙印を押された早苗は恐怖で立ち上がれず、足をガクガクとさせていた。
そんなことを気づかずにバーゲンに群がる主婦のように出口でもたつく早苗達、もう数名はこの部屋から出ていた。

「あ!」

出口の後方で待っていた011番の早苗が後ろを振り向き、出遅れている067番に気づく。

「あの人を助けないと!皆さん!」

011番が出口でもたついている他の早苗達に向かって叫ぶ、だが、他の早苗達は誰も聞く耳を持たず出口の中に消えていく。

「なんで…」

011番は前で1人1人出口の中に消えていく早苗達と部屋に残っている067番を見比べ、どうするか迷った。
カウントはもう7になっていた。

「もう「東風谷早苗」でなくても!私は…『私』は!困っている人を助けます!」

そう011番は昔の風祝だった頃をおぼろげながらも思い出し、まだ立てない067番に向かって走っていく。
カウントはもう4になっていた。011番は067番に近づいた。011番が067番の早苗の肩を抱く。

「大丈夫ですか!しっかりしてください!」

その言葉に067番は震えながらゆっくりと011番の顔を向いた。

「あ…あ…?」

067番の顔は一面恐怖に彩られ声も発せそうになかった。
しかし、011番はしっかりと肩を抱き、強く言い放った。もうカウントは1となっていた。

「安心してください!私がついてます!」

《…ぜーろ、あれ2人残ってるじゃない。まぁいいわ。ゲームスタート、頑張って生き残ってね。》

スピーカーの音が途切れると同じくガシャンと、部屋の最奥の天井から天窓が叩き割られるようなに何かが開く音が聞こえた。
そして次に、ウィンウィンとモーターの駆動音のような音と共に何かが此処に下ろされている音が続いて聞こえた。
011番は、瞬時に此処が危ない事を察知した。

「えーっと、早苗…っていうのもアレですので067番さん!走ってください!このままでは死にます!」

011番は067番の左腕を自分の右肩で背負い、引きずるように出口へと向かって走った。いや、走るとは言いがたい程の遅さだった。067番の身体には殆ど力が入っていない。
011番はそれでも067番を放すことは無く力を籠め、出口へと走…最早歩くスピードで目指す。
後ろではモーター駆動の降下音がどんどん遅くなりつつあった。
つまりはもうここに降り立ちつつあるのだ。011番は焦りが頂点に達しつつも067番と一緒に出口まで後5メートルぐらいという距離を必死に歩いた。

ガシャン、と後方で何かが止まる音がした。

011番の頬に汗が1つ垂れる。

011番がゆっくりと後ろを向いた。

「………。」

そこから20メートルぐらいの所、エレベーターのようなもので降りてきたのであろうゴンドラのような物の中からソレがこちらをしっかりと見ていた。
服装は早苗が外の世界で頻繁に見たことのある黒い学生服でマントのように羽織るように着ていた。
長身で髪型は特徴的なオールバックで一番目立っていた。

この距離であってもソレの目はここからでもよく見えた。こちらを見る目…瞳孔はまるで死んでいるような目で、何処までも暗闇の様な目だった。

すっと、ソレの右手がこちらを指差すように水平になる。その右手にはカステラ箱に握りを付けた子どもが考えた玩具のような黒い塊が握ってあった。



瞬間、011番はぱらららという小刻みで特徴ある爆竹を大量に鳴らしたような連続した音を聞いた。

011番の視線はソレから離れどこまでの真っ白だらけの天井を強制的に見ていた。

「あっ…あ…?」

011番には今起きた状況が理解出来なかった。

「熱い…何…コレ…?」

腹部から熱した鉄棒を強く押し付けられたような熱さが011番を襲った。
011番は天井から腹部に視線を移す。

「ああああああああああああ!!」

穴が空いていた。どんぐりぐらいの穴が1つだけではない。
3つや5つ、柔らかそうなお腹に空いていた。
そこからクリームのようにどぷどぷと赤い…血が吹き出していた。

「――――――ッッ!!!!!」

やっとここで、痛覚が011番を荒々しい波のように襲いかかった。
それはもはや暴力を超えた痛みで、声はもう出なかった。
段々と眼が霞んでいく、薄れ行く意識の中、隣で一緒に倒れている067番を見た。
流れ弾か、067番の頭の上半分はそこがもう元々無かったかのようにすっぱりと吹き飛ばされ、頭の内容物が白い床にぶちまけ赤で汚していた。
あぁ、私は1人1人すら守れないのか…、011番は自分の無力さを再度痛感しながら、もう消えかかっている命の灯火を吹き消すかのようにもう一度、その耳はぱらららという音を聞いた。



白い部屋、出口付近で、仲良く血と臓物と脳漿を無残に周囲にぶちまけている2人を見ながら、ソレは、その2人の死体にゆっくりと近づく。

「………。」

まじまじと、その死体と、銃創を見ていた。
数秒それを見た後、ソレは右手のモノ…イングラムM10短機関銃の空になったマガジンを捨て、新たな9oパラベラム弾がたっぷりと入ったマガジンを装填して。2人が行くはずだった出口へと歩いて行った。




―残り18人






出口から次のブロックへと出た18人は数十秒後、数度に渡って連続した銃声を聞いた。
数人ヒッと小さな悲鳴をあげた。

「早く行かないと、皆殺されちゃいます!」
「確かに、早く!」
「ああ、怖い…怖い…」

皆口々に叫んだり怯えたりしながら、この縦長の100メートルぐらいはある最初のブロックから脱出しようと走った。ここも前の部屋と同じくどこもかしこも真っ白だった。

「あっアレ!」

037と烙印の押された早苗が丁度中心ぐらいを指し、言われて皆の足が止まり指された所を見る。
指された先には黒い、麻の袋のようなものが5つ程置かれていた。
つまり、アレが霊夢が言っていた「チャンス」なのだろう。

「アレさえあれば!」

089と烙印が押された早苗が糸のような細い希望得て、そこへ向かって一心不乱に走りだした。

「待って!」

085と烙印を押された早苗が089番に静止の声を上げる。
何かがおかしい、085番は思っていた。こんなにポツリと置いているはずはない。
私達は殺される為に走っているはずだ。だから何かしらの罠…そう罠が―――!!!

「あっ…ああ…?」

走っていた089番が先程までの走りが嘘のようにピタリと停止した。
後ろで見ていた皆は、何故止まったのか不思議がった。
089番の足はガクガクと震えていた。

085番は気づいた。

089番の胴体…鳩尾あたりから下がゆっくりと前に落ちていっている光景が…

どしゃりと、089番の早苗の上半身が半分に別れた胃と胃液をこちらに見せつけながら床に倒れ、その衝撃で内蔵が血と共に勢い良く床に飛び出していた。
089番を殺したモノ…それはそこだけが赤い血が細い線のようになっている。
085番以外の早苗達もそこでやっと気づいた。089番の新鮮な死体の頭上、その空間に目を凝らしてやっと見えるぐらいの細い鋼線が何重にも張り巡らされているのを…

「ワイヤートラップ…」

早苗達の中で1人が呟く

「だから、待てって言ったのに…」

085番が涙ながらに悔しさを歯を食いしばりグッと堪えながらも、前を見る。
しかし、止まってはいられない。進むしか無いのだ。

「走ってください!じゃないと」

「いやああ…死んじゃうんだ…ああ…」


085番の周りの早苗達はさっきまでの少しの希望を持っていた事は何処へやら、今は萎縮して怯えており、とても話を聞いてくれそうになかった。
自分だけでも進まないと…、武器か何かしらのものはある…!
089番のような末路にはならぬよう、ワイヤーが張り巡らされている所で一度止まった。
そして、085番は自分が着ていた白いローブのような衣服を意を決して脱いだ。服を脱ぐという露出の羞恥は何処にもなかった。
衣服を脱ぎ、豊満で形の良い胸と男が好きそうな程良く肉の乗った柔腹と、キュッとしまってそれでいて柔らかそうな尻が露出した。
遅れて付いてきた早苗達は何をするのかと痴女同然の085番の姿を見て思っていた。
085番は脱いだ服を、グッと盾のように構えた。そして、前進した。それはまるで旧時代の盾持ちの騎士が前線を押し上げるような前進だった。

ローブが細い鋼線に接する。ローブの厚みと殆ど低速の動きに鋼線はローブを切る事が出来ずどんどん前に押されていく。
ブチリと、鋼線が耐え切れなくなって切れる音がした。
その手応えにやったと085番は思った。そのままの勢いでブチブチと鋼線を切っていく。

「よし、皆さん!早く!早く来て下さい!」

最後の1本をちぎったことを確認すると、085番は振り向き、他の早苗に進むように叫んだ。
堰を切ったように動き出す、早苗達。進めるようになる事に歓喜すら覚えていた。

085番は一応、ローブを着直しながら5つの置いてある袋の1つへと手を伸ばした。

085番がズッシリと重い大きめの袋を手にとったと同じくらいに、ぱらららという少し前に聞いた事がある音が後方から聞こえた。

それとその音と同時に悲鳴が数度あがる。

092番と烙印を押された早苗が9oパラベラムの鉛玉の嵐を腹一杯食らって苦痛で満腹な顔をしながら倒れ伏し、口からは吐き出すように血反吐が大量に吐き出される。

どさりとした音と共に、他の早苗達は追い立てられた羊のように走り始めた。
085番の早苗は、先程早苗達が出てきた入り口付近で右手に銃のようなものを構えてこちらを見ている男の姿が見えた。
もう一度、ぱらららと音がした。
しかし、誰にも当たらなかったのか、誰も悲鳴をあげなかった。
それよりも早く此処から出ないと、085番は走りながら右手の重い袋の中身を見た。
中には銃が入っていた。早苗の手に余るその拳銃…名前はH&KUSP9…今の085番の早苗にとってはその800g近い拳銃はとても重く感じた。
マガジンを数個取った後、特にめぼしいものは無い重いだけの袋を投げ捨てた。

ぱらららと連続した銃声がまた早苗達を襲った。

遅れて、袋を取ろうとした008番と烙印が押された早苗が、その数字を押されている右肩をもう一度印を付けるかのように銃弾が幾度も突き刺さり、右肩が吹き飛ばされその衝撃で床に顔を付け、芋虫のように床に這いずり回っていた。

085番は、一度その無残な姿になっている008番を見て、一度は助けようと思って振り向いて駆け寄ろうとしたが、もう一度ぱらららと008番を覆うよう銃弾の嵐が襲いかかり、008番が助ける必要が無い、ただの赤い血を吹出すだけの身体になってしまった光景を見て奥歯を噛み089番は踵を返し出口へと急いだ。

他の早苗達はもう出口近くにいて、もう残ってるのは数人だけだった。

銃を打ち続けていた男は、弾が切れたのか慣れた手つきでリロード操作をしていた。
カランと空になったマガジンが落ちる音が部屋に響き、その音を聞くこの部屋に最後まで残っていた085番はまだなお出口へと付けず走っていた。
男は9oパラベラム弾がたっぷり詰まった新しいマガジンをグリップ内にゆっくりと挿入した。
カチンと、鉄と鉄が合わさる音が響き、リロードが終わった事を085番に教えた。

男の右手が揺らめくようにすぃっと上に持ち上がり、銃口が走り続ける早苗を捉え、M10の簡素な照準器がしっかりと早苗を見据えていた。

「………。」

ソレの暗い眼が085番を見た。そして、その細いガラスのような人差し指でトリガーをゆっくりと引いた。

ぱらららという音と共に、085番は畜生と最後の言葉を発した。

どしゃり、と血を噴き出しながら身体が倒れる音、ガシャンと握っている右手の握力が無くなり拳銃が手から離れ床に金属音と共に叩きつけられる音。

興味なさそうにソレは銃口を下げると、残っている早苗達を追った。




―残り14人




2つ目のブロックまで来れた14人は、後方から聞こえる銃声に耳を塞ぐように進むしかなかった。
助けようとすれば自分も死ぬかも知れない。皆そういう考えだった。1人よりも多く、生き延びなければならない。
もう6人程死んでしまったが、その屍を乗り越えてまでも生き延びなければならなかった。
それは人間の生存本能か生きたいという意志か、自分だけ助かりたいという欲望か…。
少なくとも後者の方の考えの早苗が圧倒的に多かった。
1人だけ必死に袋を取った015番の早苗はその中身を見ていた。
分厚い、刃渡り10pあるであろう軍用ナイフを見て、落胆した。
銃であれば何かしら対抗出来たかも知れないが、接近しないと役に立たないナイフでは幾ら切れ味が良かろうと無駄だからだ。
だが、無いよりはマシだと一応右手に握り締め、他の早苗達と同じように息を荒げながら走る。
またこの部屋も今までどおり真っ白い部屋だった。
だが、今までとは違い部屋の形は円形のように見えた。
円の中心には袋が3つ程置いてあり、その先には出口がある。

「また罠があるかも知れません!皆さん気をつけて!」

032番と烙印を押されている早苗が皆に言った。皆は無言で頷き、辺りをしっかりと確かめながら小走りで走った。
私達を殺す存在はまだ遠くに居る。確かに遠くに居たはずだ。だから少しばかりここでもたついていても良いはずだ。
032番の早苗はそう楽観的に捉え、進んだ。円形であるため、出口までは50m程度しかないのも幸いだ。
しかし、早苗達は危惧していた。そう、前のブロックであったようなトラップだ。

先行して歩いていた078番と烙印が押されている早苗が部屋の中心まで後半分というところでピタリと足を止めた。

赤い細い線が真横にずーっと伸びていた。その線は切れたり付いたり点滅するように断続的に繰り返していた。
その赤い線は見える範囲に何本もあり、真上から真下まで伸びているものもあれば、斜めに伸びているものまである。
目を凝らして通り抜けられる所は1人がやっと入れるぐらいの隙間がいくつかしかなかった。
赤い線で区切られていてまるで、迷路のように囲われていた。
仕方なく、早苗達は2組に別れ、別々の場所からこの赤い線の包囲網を抜けるしかなかった。

まずははじめの関門、人1人ぐらいは余裕で入れる扉のような空き方をしていて皆難なく通過した。
その次の関門は5メートルぐらいの間を空けて存在していた。空き方をは屈んでやっと通れそうなぐらいにしか空いてなかった。

「行くしかありませんね…」

045番と烙印が押されている早苗がそう呟いた。皆も、そのつもりだった。
1人が後ろを確認して、まだアレが来ていない事を視認すると、皆1人ずつ犬のように四つん這いになり、頭上で赤い線が点滅を繰り返すのを通過するように進み始めた。



一人、一人と屈んで進む早苗達、後残っているのは5人ぐらいだった。
急かすように進む事を要求する残った早苗達、その姿を見ずに袋が置いてある所まで駆け寄る抜けて行った早苗達。何とか対抗手段をと、袋を掴み中身を見る。

最初に袋を取った028番の早苗が取ったのは、玉だった。外の世界ではサッカーボールと呼ばれるゴムに空気を入れてよく弾みそうだが、どう見ても殺傷能力は皆無だった。028番は不要と感じて、適当に投げ捨てた。
004番の早苗が取ったのは、3つに区切って分かれている棒だった。間に鉄で繋がれており、手元に丸く小さいボタンがあり、それを押すと1つの棒上に可変した。所謂三節棍と呼ばれる格闘武器だった。この武器は使い手と場所さえ合えば、強力な武器と成りうるのだが、常人の女性より少し強いぐらいの早苗が使ったところでとても使いこなすことなど出来ないし、こんな開けた所では振り回しても意味はない。
最後の袋、071番の烙印を押されている早苗が手に入れた者は十徳ナイフと呼ばれる非力なナイフだった。

この部屋に置かれている袋にはとても戦闘向きと呼べるものはなかった。

「早く此処から出ましょう、次が最後のブロックです!」

三節棍を持った004番の早苗がそう言う、かと言っても、次のブロックまで行ける出口まではさっきまで程ではないが、赤い線が張ってあった。
簡単なもので、ただジャンプするか匍匐で這いずりまわれば通れるぐらいの線が数本しか無かった。

これなら簡単だと、皆思っていた。
だが、一応気をつけて、進むよう誰かが促した。
もう早苗達が全員集まっており、各々、先に進もうとしていた。
一番最後尾に居た024と右肩に烙印が押されている早苗が一度後ろを振り向いた。

「あっ…あああ!」

震える指で見ている方向を指差す。それに皆が気づきその方向を見る。
入り口、あの男が。
6人もの早苗を屠った男が学生服をマントの如く羽織り、悪魔の如き冷たい双眸でこちらをじっと見つめていた。
学生服の右側、早苗達の方向からは左側がはためくようにばさり揺れる。
右手に握られているのは何度も見た大量殺戮兵器、それから発せられる花火のような火炎。
まさにその銃は銃弾射出機という役目をまっとうしていた。ばらばらと銃口から大量の弾が毎分1280発という驚異的な速さで吐き出される。放たれた鉄の雨のような銃弾は音速と同程度のスピードで早苗達の集団に襲いかかる。

「ぎゃあああああああ!!!!!!」

十徳ナイフを右手に握り締めていた071番の早苗の顔が歪む、右腹を撃たれ、激痛で床に倒れ伏した。
幸い、銃弾は他の早苗達には当たっては居なかった。

「あああああああああ!!!」

部屋内中、071番の苦痛の声が響き渡る。だが、誰もそれを助けようとしなかった。
助ければ殺される。13人誰もがそう思っていた。
生き延びる為には、悪魔にもならなければならない。
この者達はもはや優しい東風谷早苗ではない、ただの「廃棄物」なのだ。
だから、立っている13人は床に倒れ伏して泣き叫んでいる071番の早苗を見限り、地面を蹴り走った。
071番の激痛と共に助けを求める声が何度も聞こえた。歩きながらこちらに寄りつつ、華麗に4メートル程軽々しく跳躍すると早苗達がもたつきながら進んだあの赤い線の包囲網を難なく飛び越えた。

出口へと、懸命に走る早苗達、だが、早苗達は忘れていた。

赤い線の存在を

軍用ナイフを握っていた015番の早苗がそのこと赤い線の存在をすっかりと忘れ、その腹が赤い線を通り抜ける。

「あっ」

通り抜けたと同時にシュンと、015番の真横から。素早く、痛烈に横からトラックに思い切り轢かれたような衝撃が015の腹部を襲った。
何が起こったと、015番は自分の腹部を見る。頭が良く動かなかったが、その目にははっきりと自分に起こった事は見て取れた。何故か、カランと自分が握っていた軍用ナイフが床に落ちる。
深々と、何故こんな質量を持った「槍」が飛んできたかと思えるぐらいの腕ぐらい太い槍が、015番の腹部を突き刺さっていた。
その残情を見て、015番は嘔吐の代わりに血を吐いた。身体が死に至りそうになっているのか、全身が小刻みに震えている。段々と身体が寒さを覚え始めていた。血がだらだらと流れすぎているのか、どうかすらも015番の頭では考えきれなかった。震える身体で、015番は自分の前に撃たれた071番の方を見る。
先程撃ってきたあの悪魔のような男が、最後の包囲網を難なく超え、071番のすぐ近くまできていた。
071番は何か命乞いの文言を発していたが、男は右手の銃で答えた。071番が何も言葉を発しなくなると、男はこちらの方を右手と一緒に向いた。
瞬間、015の目の前が真っ赤そまった。そこで015番の思考が途切れた。身体が2、3度生死を確認するかのようにビクビクと陸にあげられた魚のように震えた後、015番だったものが糸が切れた操り人形のように止まった。

生き残った12人は、今の2人の二の舞にならぬよう出口まで走りぬけようとした。
037番の早苗が、頭に赤い線を引っ掛けた。図太い槍が瞬時に037番の頭を銛で突かれるマグロのように射抜いた。どしゃりと倒れかけようとしたところ、隣で並走していた028番の早苗にもたれかかった。
028番の早苗はその重みに耐え切れず、仲良く床に倒れた。
覆いかぶさるように重なる槍頭の037番の死体から抜けだそうと必死に028番は抜けだそうとしていた。

「手を伸ばして!」

028番はそう聞こえた。闇雲に右手を伸ばす。
ガシッと右手が掴まれ、その力に引っ張られる。
死体からやっと抜けだした028番は自分を助けてくれた者の顔を見ようとした。
不意に右手を握られていた力が抜けた。

「あ、ありがとうござ…」

もう引き出されたから助けた者は力を抜いたのかと思った。
097番という右肩の烙印が赤く染まってはっきり見えないその身体は何も答えなかった。
もう、他の早苗達は赤い線を突破し、次のブロックへと移動していた。
028番は、運尽きたとばかりに、後ろを振り向いた。
肩口で、口から赤い涎をだらだら垂らして、眼があさっての方向を向いている097番にもう一度ありがとうと呟くと、最後の力とばかりに、地面を思い切り蹴った。

「うおおおおおおああああああああああああ!!」

女のモノとは思えない気合の入った声と共に、その男まで何も持たず特攻した。







―残り9人






最後のブロック、そこは今までと変わらず白い部屋。
違う所と言えば、部屋の幅が異様に広い事…幅は50メートルぐらいはあろうか
それでいて奥行きは30メートルと短かった。

しかも、前までは中心ぐらいにあった支給される袋はすぐ手前にあった。
だが袋は1つしか無く、その中から拳銃が2丁出てきただけだった。
最初に見つけた021番の早苗がそのプラスティック製で作られた黒塗りの拳銃を手に取った。
整えられたフレームを見ると「GLOCK17」と明記されていたが、021番には何のことか分からなかった。
そして、もう一つは次に見た078番が手に取った。それはさっきのGLOCK17とはまた違った形の銃だった。
所謂リボルバーと呼ばれる銃で、これはS&WM19…銃身は僅か4インチしかない小振りな銃だが、それでも357マグナム弾6発入りの銃はずっしりと重かった。
30メートル先には、今までとは違う色の出口があった。つまり、そこが脱出路というワケなのだろうか。

残った9人は、これまで以上に周囲を警戒した。
だが、どう見ても、ワイヤーや赤い線は何処にも無かった。
一応、早苗達は小走りで周囲を確認しながら辺りを警戒しつつ、9人は進んだ。

024番の早苗が、一番前を小走りで警戒しつつ進んでいた。
その足が、不意に何かに引っ張られるような感覚に陥った。
引っ張られるというより、自分の足の感覚が無くなるという感じだった。
と、同時に前のめりに倒れ、落下した。目の前が暗転し次に映ったのは眼前一杯の地獄の針刑のような大小様々な針、024番は何が起きたかさえ分からぬまま絶命した。

後ろで、その異常な光景を目の当たりにしていた8人には、足を踏み、その勢いで下へ降りたようにしか見えなかった。そして一寸後、ザクリと硬い物が何かが刺さる音が聞こえた。
GLOCK17のグリップを握り、その穴を覗き込む021番の早苗。
一番下まで10メートルはあろうかその大きな穴には、大きな槍のような針で両目を繰り抜かれ、舌は細い針で何本も刺され、美しかった顔は見るも無残な表情になっている024番の死体だった。
下腹部へと視線を移すと、腹部は滅多刺しにされたかのように幾多にも刺ささり、足は異様な方向に折れ曲がり、最早身体が原型を留めている事が素晴らしいぐらいに、全身が針山になっている024番の死体だった。

「落とし穴…!皆さん気をつけて下さい!下手すると落ちます!足元には気をつけて下さい!」

そのありのままの状況を見た021番がそう叫ぶ。
陥穽…、簡単に言えば『落とし穴』…一見子供の遊びのような罠だが、その中身はとても子供が考えつけるような人道的なものではなかった。最後の最後で、こんな短絡的で効率的な罠は無かった。
最早8人となった早苗たちは、手探りしてでも穴の位置を探りたい気持ちだった。
もう脱出路まで後20メートルぐらいしか無い。走ればほんの数秒ぐらいしかない距離、だがそのたった20メートルが果てしなく遠く感じた。

ぱらららという音が、それに追い打ちをかける。

幾度も聞いたその特徴的な銃声のコーラスは何人も薙ぎ倒す魔弾となりて、下をじっと見ながら辺りを警戒していた045番の右手に命中し、貫通すると、太い血管を貫いたのか盛大に血を吹かせていた。

「あぐわあああああ!!!あああ・・・・!!」

痛みにバランスを崩し、右前方に倒れる045番、その千鳥のような足取りはズボリという床に偽装された薄板が破ける音と共に止まった。
落下する図体、その身体は10メートル程降下し、045番はそこから見える外の光を一瞬だけ見て、背中の耐え難い衝撃と共に聞こえるカチリと何かを押す音を―――。

ドゴオオオオオオオオオン!!!!

045番が床に落ちて2秒後、その穴を中心に祝砲のように盛大に打ち鳴らされる爆発音。
他の7人は落とし穴に入っていたものが何かは知らないが、045番がもうこの世にはいないことだけは即座に理解した。
このままでは鳩撃ちだ。ただあの男から狩られるだけの、逃げ続けるだけの。
ここはあの男の狩場と化していた。早苗達はただの獲物、あの銃で撃たれ殺されるだけの。

「戦いましょう!これでは皆無駄死です!」

三節棍を握り締めていた004番の早苗が、そう叫んだ。
確かにそうだ。ただ殺されるよりは抵抗をしたほうが良い。

「こちらには武器があります!それを駆使すれば!あれを!倒すことだって出来るはずです!」

なおも皆を奮起されるように叫ぶ004番、GLOCK17を右手に持っていた021番の早苗がゆっくりと頷く。
ぱらららという音が聞こえたが、皆には命中せず、途中で途切れた。弾が切れたらしい。

「確かに、今なら倒せるかも知れません。」

S&WM19をもった078番が頷きながら答える。他の武器を持たない他の4人はそれにすがるしかないという思いで話を聞いていた。
男は、空になったマガジンを床に落とし、新たなマガジンをポケットから取り出している所だった。

「私が、正面を切ります…!死ぬかもしれないけれど…他の2人は不意をついて撃って下さい!」

その004番の言葉に黙って頷く銃を持つ2人。004番は深く息を吸い。右手に持っていた三節棍を両手に持ち替え、クルリと握り、右親指でボタンを強く押した。シャキンとした音と共に3つに分かれていた棒は、1つの木の棒へと変化した。

「行きます!」

その言葉と同時に、スプリンターばりの走りを見せる004番、もはや疲れを忘れ、脳内は興奮で麻痺し、走る事しか脳がない陸上選手のように、その男に向かって突撃する。
それに反応するように銃を持った2人が銃を構える。
男はもうリロードが完了し、銃口が冷静にこちらへと猛然と走ってくる女に向けて合わせる。
だが、男がトリガーを引き絞るより早く004番の三節棍の棒状だったのが3つに分解しその先端の棒がその男に向けてヌンチャクのように襲いかかるのが一寸早かった。
重い打撃音、004番は闇雲に右から振っていた。しかし、そのがむしゃらな打撃は確実に男の頭を捉えていた。ゆらりと揺らめく男の身体、やったかと004番は一瞬勝利を夢想した。


「………。」

が、ギリリと床を靴で踏みしめ、踏ん張る音が聞こえた。

咄嗟に、004番は回避しようと横へ飛んだ。瞬間、ぱらららと今さっきまで004番が居た所に銃弾の嵐が通り過ぎた。
004番は回避に成功したが、その回避した先、004番が受けるはずだった銃弾は扇状に広がり、その流れ弾が後ろで見守っていた032番の胸へ命中し、何が起きたか理解する暇を与えず床に倒れ伏しその身体は2秒後死に至った。
その光景を、回避した後見て、歯噛みする004番。男の銃撃に応戦するかのように2人の早苗が銃で応戦する。
しかし、銃に関してはずぶの素人の2人がまともに命中させるはずもなく、男の脇を大きく逸れて飛んでいった。

004番は、ボタンを押し三節棍を棒状に可変させ、その先端で男の持つ銃を叩き落とそうと針を縫うように突いた。
体重をかけた突きは、見事銃に命中し、勢い良く銃は回転しながら床にくるくると落ちた。
男が銃を失った時点でこれは攻勢と踏んで004番は勢い良く三節棍を振りかぶり、男の頭上を叩きのめすように振り下ろす。
その光景を男は興味なさそうな眼でじっと観察者のように見ていた。


ぱぁん


軽い、クラッカーのような爆発音。
その音を聞き、あれ?っと004番は男を見た。振りかぶった両手は止まったままで、今にも振り下ろし男の頭をたたき潰しそうだが、そこでフリーズしていた。
男の方から白い煙が舞った。右手には小振りの銃、ワルサーPPKが握られていた。
004番はやっと今起こった事を理解した。
この男は神業のように服の内ポケットからその銃を抜き、004番の胸を1発で動きが止まるように撃ったのだ
9oパラベラム弾に似た9mmマカロフ弾がもう一度男の右手から撃ち出される。
004番の両手から三節棍が離れ、カランと数回音がなった。
両手はだらり、降り、身体は力なく倒れ伏し、その衝撃で脳漿をぶちまけた。
その額には鉛筆がすんなり通りそうな穴が空き、思考を残虐に奪い去って生命を停止させた。

それに反抗するように、銃を持っていた早苗2人が、男に狙いをつけ、乱射した。
男は、当たらない事ぐらい百も承知で、PPKを内ポケットに戻し、床に落ちたイングラムM10を拾い直した。
その通りに、銃弾は掠りもせず、あらぬ方向に飛んでいくばかりで命中弾なんて1発も無かった。

銃を所持している021番と078番は、残弾が無くなった事を数度トリガーを空引きして気づいた。
021番は拙い操作で空のマガジンを排出した。
そして、マガジンを嵌め込みカチリとの音を聞きつつ照準器と共に男を見た。

しかし、男はもうトリガーを引いていた。
021番の視界は男から隣にいた078番の方へと強制的に移さされた。その視線の先、078番はもう隣で事切れていた。
右手握っていたS&WM19は357マグナム弾のバラ弾と共に投げ出され、瞳孔は急速に広がりつつ合った。
021番の思考もその時点で停止し、先程まであった微弱な戦力はこの時点で0になった。

死体から放り投げられるように回転しながらGLOCK17が落ちる。
ガシャンという音を聞いて、ビクリとする生き残りの3人。
残った048番、063番、069番の早苗。

恐怖に駆られ、脱出路に向けて走りだした048番。

「はぁ…はぁ…怖い怖い怖い…!!!」

逃げるように走る048番、ここにいても何も変わらない運がよければもしかしたらあそこに辿りつけるかも知れないぱららら、あぁ音が聞こえる終焉がむかえるやはり終わってしまうのか、あぁあぁあぁああああああああああああ―――
背中に何発も銃弾を喰らい、血と共に思考を寸断され意味のわからない表情で倒れる048番の早苗。

残った2人、まず063番が急いで床に落ちたGLOCK17を右手に握った。
もしかして1発でも銃弾を当てる気かと069番は思った。

「行って下さい。」

それは、自分が囮になって069番を逃がしてくれるのか、と一瞬だけ思った。
しかしその銃口は、はっきり069番の頭部を捉えていた。ついに頭がおかしくなったのか、と069番は思った。063番はゆっくりと動き、男と069番が同ラインになるように移動した。

「069番さん、貴方が私の盾になるんです。」

耳を疑った。

「私は貴方を盾にしながら、脱出路を目指して走ります。貴方はそこで銃弾を喰らって少しでも隙でも作ってください。」

脅しでは無いとトリガーに指をかける063番、069番はこの悪女の馬鹿な自分を見た。
人はこの様な切羽詰った状況だと人の命を利用してまでも生き長らえようとしようとする悪どいものだったのかと、しかし自分の眼に映っている銃をこちらに向けているのは「私自身」だ。
069番は何となく、何故自分達が人間以下の扱いを受け、廃棄物と呼ばれるぐらいに落ちているのか、分かった気がした。

その光景を壊すように男がトリガーを引いた。

ぱらららという一連の流れ作業のような音が響いた。

069番は、その音と共に考えるのを止め、急速に暗くなっていく視界が天井を見た時、絶命した。



「はぁ…はぁ…はぁ…」



ただ1人だけ残った。ただの1人の右肩に063番と烙印が押された早苗。
右手には汗に汚れた銃、額には大量の汗。
後ろからは、全て弾を撃ち尽くしたのか持っていた短機関銃を捨て、内ポケットからワルサーPPKを取り出し、数発早苗に向けて撃った。
しかし、奇跡的に頬を掠めるぐらいで済み、男から全ての銃が無くなった。
だが、男はそれでも足音が殆どしない走りで向かってくる。
063番は振り切ろうと走った。だが、男の走りはとても早く、すぐに追いつかれそうだった。

063番はたった後5メートルしかない脱出路までの道を諦め、男の方へと踵を返し、右手に握っていた銃を左手で添え、迎え撃つように立て続け2発撃った。

2発とも、狙いが外れ空を切りながら虚空へと消えていく銃弾。

男はもう後数歩という所まで着ていた。しかし、早苗にとってこれは逆に好都合だった。
腹部を狙えばこの距離、外すはずもない。どんなに下手糞であろうと当たる距離にあの男はいるのだ。
063番はニヤリと笑い、トリガーを2度引いた。銃弾は2発とも男の腹部に吸い込まれるように突き刺さった。
命中だ!063番は勝利を確信した。顔は喜びに満ち、生きているという事を実感していた。
やっと、ここから出られる、と。063番の心の中ではお祭り騒ぎのように勝利を祝っていた。
もう一度、19人も屠った男の顔でも見てやろうと崩れ去りそうになっている男の顔を再度見た。

「えっ・・・?」

そこで、063番は自分の目を疑った。

男の顔は苦痛に歪んでも、痛みに打ち震えてすらいない。しかも、よく見ればその男とも女とも取れる整った顔は汗一つかいてもいない。そしてその表情は氷のような無表情のままだった。
何故と、自分が撃った男の腹部を見る。

そこは、銃弾に撃たれ服が破け…そこまでは良かった。
その奥にその服とはまた違った黒いものが見えた。

男は、左袖から忍ばせていた誰かが持っていた十徳ナイフを引きぬき、063番の首をなぞるように斬った。

その十徳ナイフが何処から来て、誰の物だったか分からず。063番は自分の喉元から出る大量の赤い噴水を途中まで見届けて視界が消えた。










「………。」

男が、最後の1人を始末し、右手に持っていたナイフを適当に投げ捨てた。



《ゲーム終了〜、はぁ、武器まで与えたのに1人も生き残らないなんて駄目ねぇ…》


ゲームが終わった事を告げるスピーカー霊夢の声と共に部屋内に鳴り響く。
その声は退屈そうで、ずっと今までの残情を見ていたようだった。
男はその声を耳に通すだけ通していた。

《まぁ、そんなもんだろう思っていたし最初から期待なんてしてなかったけど、まぁまぁ楽しかったわ》

「………。」

B級映画を見た後のような感想を述べる霊夢。男は、その声を気にせず、自分の腹部に刺さっている銃弾を指で取り出した。
ポロリとひしゃげた銃弾が床に2つ落ちる。
防弾チョッキ、多少の弾なら衝撃だけ受け止め死に至らしめるのを食い止める防具…男はそれを服の中に着込んでいた。

《まぁ、アンタが強すぎたってのもあるのかも知れないわねぇ…見てて面白かったぐらいに―――》

「………。」

《―――ねぇ、桐山和雄?》

その男の名を呼ぶ、霊夢。
学生服をマントの様に羽織り、髪型は特徴的なオールバック、終止氷のような無表情で張りている桐山和雄と呼ばれた男は、自分の名を呼ばれても興味なさそうに部屋内をぼうっと見ていた。






END
かなり長くなりました。というか、量産型さなビッチネタばかりで大丈夫か?
とか考えながら書きました。
途中かなり迷って詰まった所がありましたが、友人の助言で完成することが出来ました。友人にはこの場を借りて感謝を
スレイプニル
http://twitter.com/_Sleipnir
作品情報
作品集:
23
投稿日時:
2011/01/24 10:23:27
更新日時:
2012/12/31 14:43:40
分類
クロさな!
早苗
霊夢
H&KUSP9
イングラムM10
ワルサーPPK
GLOCK17
S&WM19
クローン
キリヤマッシーン
1. 名無し ■2011/01/24 20:01:42
決着直前の露骨な引き延ばしが嫌になって全部売った
2. 名無し ■2011/01/24 21:34:31
これはテーマ設定がいいね!!
ホントに感動的だよ!!


まぁどうでもいいことかもしれないけど、一度死んだ089が生き返ってるシーンがあるね
あと私自信→私自身
あと011を下さい。
097でも004でも構いません。
大切にしますので
3. 名無し ■2011/01/24 23:48:00
銃オタだなぁ・・・
4. NutsIn先任曹長 ■2011/01/24 23:49:51
『今回は』って、生存者が出たことがあるのか、このゲーム!?
あのチェックシート、霊夢は賭けでもしているのか?
元ネタは『映画』なら見たことがあります。MAC10じゃなくてUZI使ってたね、桐山君。

登場する量産型の早苗達。全員、早苗らしかったですね。
いい加減、どこに出しても恥ずかしくない『当たり』の早苗は一人ぐらい出てこないのですか?
5. 名無し ■2011/01/25 18:29:10
きれいな早苗さんも若干居た気がしたけど最後の下衆苗の行動で綺麗に記憶から飛んでしまった。
きれいっぽい早苗さんは何をやらかして廃棄物送りにされたのか・・・

霊夢の武器のチェイスがいやらしすぎる。
サッカーボールや十得ナイフはもちろん、安全装置が特殊で跳ね上がり易いと聞くグロック17や一般人、それも女子の早苗さんが撃ったら一発で反動で手首の骨が砕けるS&WM19コンバットマグナムとか嫌がらせすぎる・・・。

あれだけ大量のクローン苗が創られると手段と目的が逆転して、誰もが認める完璧な早苗さんで無ければ廃棄されてしまうんだろうな・・・
6. 名無し ■2011/01/26 00:11:14
人格障害の超天才殺人マシーンとか中二病と言われたらそれまでだけど、でもやっぱり桐山はほんと良いキャラしてる。
正直主人公より桐山の方が好きだったなぁ当時。ぱらららら…
最後のまでたどり着ければほんとに生還出来たのかなこれ。どうもCUBE的なBADENDしか想像出来ないけれどもw

>霊夢の武器チョイス
ボールや十得はアレだけれど、安全装置が無く引き金引けば撃てるグロックや、同じく操作の用意なリボルバーのM19は寧ろ非常に良心的じゃないか?w .357は勿論.50だって骨が折れるなんてのは迷信。
これがFP-45リベレーターとかジャイロジェットピストル、ツェリスカやThunder.50BMGだったりしたら鬼畜と言わざるを得ないけれどもww
7. 名無し ■2011/01/26 02:07:57
5です。
>迷信。
むかしにニ○ロ+のPCゲームですり込まれたネタでしたけど迷信でしたか、失礼しました。
8. おうじ ■2011/01/26 23:54:29
元ネタの主人公はいろいろうまく行き過ぎてさほど好まなかったな

銃細かすぎて僕にはわからんがすごそう←
9. 幻想保査長 ■2011/01/29 22:54:05
いやー、中々面白い作品だね

霊夢の言動からして過去にゲームに勝った早苗がいるみたいだね

どんな早苗なのかきになるなぁ
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