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『奪』 作者: もやし
言わずと知れた吸血鬼の住まう、紅魔館
そこの門の番を任されている紅美鈴は手に持っている怪しげな青黒い本を凝視していた
寝て起きたらいつの間にか横に転がっていたようだ
多分あの永遠のハロウィンが本を持ち帰る時に落としていったんだろう
開けてみようとするが何故か開く事が出来ない、ページを捲る事が出来ない
「あ、咲夜さん!この本なんですけどパチュリー様に渡しておいて
貰えないでしょうか?多分魔理沙の盗品だと思うんですけど、門を離れるわけにはいかないので」
様子を見に来た私に美鈴はそう言って本を私の目の前に持ってくる
…さっきまで寝てた癖によく言うわね、私がそう言うと美鈴はアハハ〜と笑顔をこちらに向ける、鼻血でそう
「…何の本かしら?これ」
自室に入り私は椅子に腰掛ける、本は少し埃被っていて所々破けている
パッパッと払って本を捲ってみる、ちょっとくらい見ても構わないだろう
…その本には「他者の何かを奪う」ための方法が書かれていた
「能力」「声」「髪」など、他にも色々載っている
能力を奪いたければ自分の能力を代償に
声を奪いたければ自分の声を代償に
髪を奪いたければ自分の髪を代償に
つまり自分の持っている何か一つを犠牲にして他者から同じ物を奪い取るというものだった
「ほ、本当にこんな事が出来るのかしら?…」
早く返してこよう、そこで少し怖くなった私は立ち上がろうとした
「やぁ」
「きゃあっ!!?」
大きな叫び声をあげた後、そのまま私は後ろに椅子ごと転けてしまった
自分以外誰もいないこの空間で誰かの声がしたからだ
「だ、誰なの?どこにいるの」
机の下を覗き込む、誰もいない、トイレの中、誰もいない
…気のせいだったのか、少し疲れが溜まってるせいかもしれない
椅子に座り直そうとしたその時…
「おい、ここだ」
「わひゃあ!!」
一オクターブ高い声で叫び、椅子に座りそこねそのまま尻餅をついた
口から心臓が飛び出るかと思った、今度ははっきりと分かった
その声は机の上にあるアレから聞こえてきた
「ほ、ほほほ、本が喋って…?!」
「怖がらなくていい、何もしやしないさ、それより封印を
解いてくれた事に感謝するよ」
「解いたって…私はただ本を開いて読んだだけなんだけど…」
「それだよ、本を開く事で封印が解かれ目を覚ます事が出来た」
随分簡単に解ける封印なのね、そう言うと目の前にいる本は言う
「そうでもない、この封印を解く、開く事が出来るのは物凄く欲の深い
愚か者にしか出来ない、君みたいなね、そんな事より私は封印を解いてくれた君にお礼がしたい!私の出来る事なら
どんな望みでも叶えてあげ……おい、その右手に持っている物はなんだ」
左手でしっかり本を掴み、私は右手に持っているナイフを振りかざす、さようなら
「な、なにをする、きさまー!」
「急に喋り出して感謝したと思ったら人の事を愚か者だの欲深いだの…ころしてでも だまらせる」
「…許してくれ、礼はする」
「…じゃあ書かれてる事は本当に出来るのね」
勿の論だとも、私が淹れた紅茶をストローでチュルルという音をたてて飲みながら本は言う
…その破けて出来たと思ってた穴は口なのか…濡れないのかしら…?
そんな疑問を頭に浮かべ私がカップに口をつけた途端、本は音をたてるのを停止させる
「君、好きな人がいるだろう」
私は口の中の紅茶を全て本にブチまけた、いきなり何を言い出すんだこの本は
「…む、ぐ…言い方を間違えたかな…いないかと聞くべきだったか……
もしいるのだとしたら、好きな人はあそこの門の前で立っている紅い髪の女性だろう?」
窓を見ながら本は咲夜に聞く。咳をしながら私は問う
「な、ゲホッ、ゲホッ、何で、そう思うのよ…」
「さっきからあの女性をちらちら見てその度に溜め息をついていたからそう思ったんだ、当たりかい?
…って…本当に大丈夫か?顔が真っ赤だぞ」
顔が真っ赤なのは咳をしているから…多分それだけが原因じゃないのは自分でも分かってはいた
「…私なんかきっと相手にして貰えないわ…人間だし…髪は癖っ毛だし……胸はないし、ていうか女同士だし…」
そこまで言うと私は、本を相手に何を言ってるんだと恥ずかしくなった
「そんな消極的でどうするんだい、さっさとしないと何処の男とも知らない
馬の骨のようなやつと一緒になってしまうかもしれないぞ?」
顔を熱くして手で手を摩る私の近くで本は言う
「それは嫌だけど、伝える勇気がないのよ…美鈴に想いを打ち明けても気持ち悪がられて気不味くなるだけだわ…」
…………
「私の出番のようだな」
「え?」
「さっきも言ったろう、私は君にお礼がしたいと、手に入りそうにないのなら無理矢理
奪ってしまえばいい……君の好きな人の何もかもを……私に記されている魔法を使って……」
「そ、そんな事……」
「自分の力だけで頑張れるのかい?」
「……………」
「……むにゃむにゃ、あれ?また寝ちゃってましたか…」
眠そうな目を擦りながら美鈴は起き上がる、そこで何か胸に違和感を感じた
服が妙にぶかぶかしている、胸元もやけに軽く感じる
「あれ?…なんか胸がいつもより軽いな……???え?あれ?」
胸がやけに小さく、いや、なくなっているのだ
凄い、凄い、あの本の言っていた通りになった…
「うふふふふ…凄い…本当に…本当に美鈴の胸が私についてる…」
その夜、咲夜は自室で興奮を抑えきれずにいた
自分の胸が膨らんだ事に喜んでいるのではない
最愛の人の胸が自分の胸についている事に喜んでいた
重量、匂い、サイズ、間違いなく愛しの美鈴の物だ
本はというと本棚の中に入って既に眠っていた
魔法は連続で何度も使える物ではなく、一日一度が限界らしい
「ふふ、美鈴のおっぱい、可愛い……」
乳首を舐める、噛む、吸う、咲夜はこの上ない幸福に包まれていた
美鈴が欠片が手に入るのなら、どんな物でも差し出せる
次は、明日は美鈴の何を手に入れよう、紅く輝く綺麗な髪にしようか
それとも水晶のようなあの優しい瞳にしようか、うふふふふふ
考えるだけで顔のにやけと涎が止まらなかった
次の日、私は髪の毛を奪ったーーー
その次の日、私は瞳を奪ったーーー
そのまた次の日、私はーーー
「…あれ…ここは、何処…?」
気づいた時は咲夜は当たり真っ白の広い空間に一人立っていた
当たりを見渡す、ふと後ろを見るとでかい鏡が置いてある
咲夜は自分の姿を見て喜びが溢れ出す
そこにはメイド服を着ている美鈴の姿が映っていた
やった…やった!!美鈴だ!!全部渡しの物になったんだ!!
不気味な笑みを浮かべた美鈴の姿をしたソレはその場にしゃがみ
自分のお腹の少し上を両手で強く抱きしめる
「ハァ…美鈴………好きよ…」
「………グ……ぐぁ…ギ…………」
「……?」
後ろから妙な音が聞こえる
「誰か近くにいるの?」
咲夜は立ち上がり音のする方を向く
「………きゃ、きゃああああああああ!!!」
そこには髪のない、目の無い、鼻の無い、口の無い、耳の無い
大陸風の衣装を着たのっぺらぼうの様な化け物がいた
何かを訴えるかの様に私に近づいてくる
「や、や、や…こないで…あ、あなた、め、め、美鈴、なの?!」
目の前ののっぺらぼうは力無く首を縦に降る
違うー!!
こんな化け物が美鈴の筈が無いー!!私の好きな美鈴な訳が無い!!
私の美鈴がこんなのっぺらぼうな訳が無い!!!!!
美鈴は私なんだから!!って…………あれ…………??
……私は十六夜咲夜で、でも美鈴の姿をしていて、でも美鈴じゃなくて…
でも目の前の化け物も美鈴じゃなくて…あれ、あれ、あれ?え?
化け物が私に纏わり付き、そしてー
「わぁぁぁああああああああああああっっ!!!!!!!」
ガバッと、大量の汗をかきながら咲夜は飛び起きた
「ハッ……ハッ…ハッハァ…こ、ここは……わたしの、部屋……??」
「…お目覚めかい?…人が魔法の話をしている最中に眠るとはねぇ
何か悪い夢でも見ていたのかい?凄い汗だぞ」
ストーブが暖かくて気持ちが良かったからいつのまにか寝ていた様だ
私は目覚めの悪いまま、机に置いてある本に視線をお送る
「……!!わ、私の体は…?」
「ん?」
美鈴の胸はついてはいなかった、髪もいつもの癖のある銀色だ
洗面所の鏡もいつもの自分の顔が、涙を流した自分の顔が映っていた
「…良かった…夢で…本当に、本当に良かった……」
私は安心しきってその場に崩れる
…あの本に頼るのはやめよう、もう逃げるのはやめよう、自分の力で美鈴に想いを伝えよう…!
私は顔を洗い、本を手に取った
「…で、どうする?魔法は使うのかい?」
「…あなたには頼らない、私は私の力で美鈴に伝える」
「…ほう」
「そして災いを生むあなたは…埋めるわ、誰にも分からない場所に、ね」
あの本を地中深くに埋めてから何週間か経った
昼過ぎ、門の前で紅い髪を冷たい風で靡かせている彼女はだらし無く欠伸を掻いている
珍しく寝ていないからご褒美にと、何か暖かい物でも持っていってあげようかな
そして今日こそは貴女にありのままを打ち明けるわ
優しいお日様の光は楽しそうに話している二人をそっと照らし続けたー
本は深い深い地の底へ封じられました
もし、あなたのそばに本があったらどう扱いますか
メイドが夢で見たような過ちをおかさない自信がありますか
悲劇を起こさない自信がありますか
………ザッ…………
耳を澄まして見て下さい
ザッ…ザッ……ザッ…………
何か音が聞こえませんか
土を掘り返す様な音が
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『綺麗な雰囲気で終わらせようと思ったら
いつのまにか鬱エンドになっていた』
な… 何を言ってるのか わからn(ry
もやし
- 作品情報
- 作品集:
- 23
- 投稿日時:
- 2011/01/25 17:08:57
- 更新日時:
- 2011/01/26 02:08:57
- 分類
- 美鈴
- 咲夜
ストーカーが相手の一部を欲しがるような?
まあ、そういう感性が理解できてようやく一人前の排水溝住民なのかもしれないけど
一人称と三人称混ざってる。
夢オチと邪聖剣ネクロマンサーオチは必要なのか。
陰鬱なまま終わった方が俺得ではあった。
もう少し咲夜が美鈴を好きな描写を丁寧に書いてくれると
崩壊へのカタルシスがあったんじゃないかと
うん、そんな感じでございます。
のっぺらぼうが一番怖い、という20世紀少年の台詞は本当だね。のっぺら美鈴が来たらマジ泣きする自信があるw
終わり方でジュマンジを思い出した。
のっぺらぼう……ああ、そっか、交換じゃなかったんだな
そして俺も振られたが故に、咲夜さんがいまさらに本に頼っちゃおうとしてるんだと解釈
誰にもわからない場所に埋められた本を掘り返せるのは、埋めた本人だけだし