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『尻毛切り用特殊バサミ』 作者: 液便

尻毛切り用特殊バサミ

作品集: 23 投稿日時: 2011/01/26 14:58:52 更新日時: 2011/01/27 02:16:15
ある朝の永遠亭の診療室では、八意永琳女医が尻毛切り用特殊バサミでもって、もう数百年は排泄機関として以外の用途が存在しなかった己のアヌス周辺の銀色の体毛を掻い摘んでおり、彼女が自らの肛門を硫黄温泉の噴出口と同じように、周囲に草一本生えぬ荒土と化すべく、ぱちりぱちりと丁寧につばみ、68本目の毛が落ちた所で振り返ると、そこには蓬莱山輝夜が晩年のルドルフ・ヘスを思わせる静けさでそっと立ち竦んでいた。

―――如何なさいましたか? と永琳は尻毛切り用特殊バサミを放さぬまま問う。

だが輝夜はそれに応えず、永琳が気配を感じ診療室の引き戸のほうを振り向いたその刹那、引き戸を力任せに押し引いて、気狂いの類だろうか、突如現れた緑色の髪を振り乱した女は、ソマリアのLSD漬けの海賊が時折見せるような獰猛さの中に無関心さを協和させた表情でもって診療室内を睥睨した後に、

―――出た、出た、出た、出た、出た! と口から泡を飛ばしながら叫ぶ。

永琳はそのあまりの驚きに、無理矢理69本目の銀の尻毛を引っ張りぬいてしまい、それにむしゃくしゃした事もあって、尻毛切り用特殊バサミを回転をかけずに緑髪目掛け投げつけると、尻毛切り用特殊バサミは緑髪についている蛙の顔状の髪飾りに直撃し跳ね返り、永琳の右斜め後ろに居る蓬莱山輝夜の頬を微かに切ってどこかへ飛び去ったのだった。

―――出た、出た、出た! 幻想郷の癌が出た! と緑髪は再び唾を飛ばしながら言う。

緑髪は、「○■△早苗」とマジックインキでもって書かれた己の垢まみれの右腕を差し出すと、永琳はそれに聴診器を当て、ニ、三度聴診器を当てる位置を変えてやると緑髪は笑顔を見せ、

―――失敬!あなたも気狂いなのですね、共感の証に、このカバンを差し上げましょう!

と、「HERUMES」と書かれたナイロン地のバッグを永琳に手渡し、静かな足取りで、静かに診療室の引き戸を引き、去っていった。

永琳はカバンのずっしりとした重量を疎ましく思い、床にそれを置いてジップを引っ張って中身を見てみると、血まみれの嬰児の顔がぬっと現れ、頭の重みに耐えかねてか嬰児はカバンを押し広げ診療所の床にごとりと音を立てて倒れこみ、中華料理屋の床にこびりつくラードを掻き集めたような異臭を放つのだった。

―――産まれたのね

頬から血を流したままの輝夜がそっと静かに言うと、永琳は診療室内に発生した血の水溜りの中に散らばる毛髪を拾い集め、電子顕微鏡においてそれらを透過する。時折視界に混ざる蛋白質の美しさに見惚れながらも、彼女は最終的な判断を下す。

―――そのようね

所有権を持つものを喪失した嬰児はこわばって動かず、呼吸も絶え絶えのように思われるが、それを余所に蓬莱山輝夜は己の桃色のブラウスのボタンを一つずつ丁寧に外し始め、次いで己の腰巻を一回のボタンを外す作業で素早く脱ぎ捨て、一通りの脱衣が完了すると、嬰児をまたいで立つのだった。

―――ギャッ、ギャッ、ギャッ、 と嬰児は猿のような口元を歪ませて鳴く。





《なぜ、このような事態を克明に写実し、幻想郷の歴史として記録しなければならないのか?と東風谷早苗の口述を書き留める上白沢慧音は首を傾げた。いえいえ、幻想郷の同時代史においてエポック・メイキングとなる事件に違いは無いのです、と東風谷早苗は言い、彼女はその末期の皮膚癌に侵されたような腹部の皮膚を擦り、己の胎児が血潮のシャワーと共に産まれ出る感覚を反芻する。そして言葉を付け加える。果たしてウクライナの大飢饉下で産まれ出た子供たちの戸籍を書き留める公的機関は存在したのでしょうか?と。それは彼女の真摯な歴史観に基づいた発言と言うよりは、間もなくその命の終焉を迎える彼女の精神の奥底における哀切に満ちた発言と慧音は思い、この文章の冒頭にこう付け加える。『花は散りぬべし』と》






―――忘れ物!遺留品!忘れ物!遺留品!

八意永琳が床に置き捨てられた尻毛切り用特殊バサミを拾いみずからの尻毛処理を続行しようとし、蓬莱山輝夜がその穢れなき裸体と女性器を嬰児の頭上で露出していたところ、再び緑髪を振り乱した女が上のように叫びながら引き戸を力任せに押しやり、部屋内の状況を一瞥したところ血相を変え、左手の釜を振りかざし唾を飛ばす。

―――蹶起の時ぞ、神妙にせい

緑髪は永琳ににじり寄ると、力任せに釜を永琳の顔面に叩き込む。永琳は尻毛切り用特殊バサミで釜の刃先を受け止めようとするが、釜の鋭利な刃先の前に尻毛切り用特殊バサミは容易に吹き飛ばされ、彼女の顔面に釜の刃先は深々と突き刺さるところとなった。ブッ、と鮮血を顔面から噴出し彼女は卒倒し、更に緑髪は仰向けに倒れこんだ彼女の顔面に蹴りを入れ、柘榴の断面をグロテスクに押し広げるところとなったのであった。

―――赤子は我がものぞ

緑髪が振り向くと、蓬莱山輝夜はその裸体で血塗れの嬰児を抱き、乳房に嬰児の猿のような口を押し当てている。この彼女の戦地下における涙ぐましい、母親の健気さと偉大さを思わせる行為に対し、緑髪は

―――癌!

と叫ぶなり飛び掛り、輝夜ともみくちゃになって嬰児を奪い合う。輝夜が絶叫し、緑髪の「○■△早苗」と刻印された垢まみれの右腕に噛み付くと、緑髪はギャッ、とけたたましい悲鳴をあげて仰け反るが、ちょうど彼女が仰け反った先に尻毛切り用特殊バサミが転がっており、緑髪はそれを掴むとエイヤッ、と力任せに輝夜の脳天目掛け振り下ろすが、狙いは外れ尻毛切り用特殊バサミの刃先が突き刺さったのは嬰児の脳天であった。

―――ヒイッ、ヒイッ!

輝夜は嬰児のおぞましき脳汁が胸元に噴きかかるのを避け思わず避け尻餅ついたままの体勢で後ずさりすると、そのまま診療室内から脱出を試み、開いたままの引き戸から耄碌とした足取りで逃げ延びていった。後に残されたのは顔面を割られた八意永琳と、断続的に細やかに打ち震えながら脳天から脳汁を垂れ流し続ける嬰児と、緑髪の女のみであった。





《上白沢慧音は手元の史料に目を落とす。この翌日の鈴仙・優曇華院・イナバの証言によれば、前日に八意永琳は純度の高いスピリタスを大量に飲み干しており、また近年慢性的なアルコール中毒に悩まされていたという。それをこの文章に付け加えるか否かで迷っていると、東風谷早苗がフウ、と消毒液の臭いのする息を吐き出して言う。ニンゲンのリアリズムを重視するようにと。また、印度のベナレスにおいてこの行為は反芻されるべきであると。辻褄を得ない彼女の口舌に、慧音は神経科の患者とはこのようなものだとも思うが、同時にリアリズムという言葉に突き動かされるものを感じたのである。また同時に、己に幻想郷の時代史を編纂可能とさせている何ものかについて、一抹の不安を覚えるのだった》





―――癌だ、癌だ、癌の塊を葬ったぞ!

緑髪は絶叫しながら頭上に切り取った嬰児の頭部をかざすと、素手でぐしゃりと潰してみせる。すると同時に何処からかの音波が受信可能となるのだった。

―――あなたの症状についていま一つの理解を深めたい。近頃スピリタスを……

最初の音声はノイズに掻き消され途絶えてしまったが、すぐに次の音波に合わせられる。

―――現人神よ!現人神よ!われらは祝福する!

緑髪はそこでぷつりと音波の受信を断つ。そしてけたたましい金切り声で叫ぶ。

―――ワタシハ滅スルノデアルカラ、邪魔をスルナ! と。






《上白沢慧音は、この文章の末尾に八意永琳のアルコール中毒についての記載を加えることを決断する。そしてヤジロベーのように頭部をぐらんぐらんと旋回させる東風谷早苗を余所に、ひとつの記述を文中に付け加える事も同時に決断するのだった》







※ 現人神東風谷早苗は自らが癌そのものとなる直前に、その広々とした内面世界において精神の宙返り、急旋回を繰り返す事により、幻想郷そのものを救おうとしたといえる。


















おわり
シリアスなスカトロ=略してシリアスカトロなんて新語どうでしょう
液便
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投稿日時:
2011/01/26 14:58:52
更新日時:
2011/01/27 02:16:15
1. おうじ ■2011/01/27 01:10:42
シリアスカ…新しいw
さなええええ!
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