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			『何かを得るということは何かを失うということ』 作者: スレイプニル		 
	
	
	
「ここが幻想郷か…」 
 
無縁塚、そのひとつの丘で、高い背丈の女の人がそこから見える幻想的な風景を見ながらその美しさに見惚れていました。 
 
ここは幻想郷、外の陰鬱な情勢からかけ離れた桃源郷とも言われる場所。 
森は鬱蒼と茂り、水は何処の水よりも清く透き通り、空気は何処よりも澄んでいました。 
現存している全ての自然は、その女が元に居た時代のどの場所よりも美しく、その壮大さにただただ感心していました。 
女の名前は明羅、四尺六寸はゆうにありそうな高い背丈に似合う凛々しい顔で微風になびくその流麗な髪はとても良い香りがしそうです。 
服装は質素でそれでいて綺麗な着物を羽織り、左腰にはとても値打ちのありそうな刀を下げていました。 
 
「私が住んでいた所もそれなりだったが、この景色を見れば…それも霞んで見えるな」 
 
その景色をしばし見惚れていましたが、あまり長居もしていられません。 
幻想郷はもう夕方になりそうでした。 
明羅は、これではいけないと、宿を探さねばならない事に気づき。名残り惜しい美しい景色を後にしました。 
 
一応、道のようなものを辿って歩くと、左右2本に別れた道がありました。 
左の道は森が鬱蒼と茂っていました。右の道は特に何もなさそうで平坦な道が続いてそうに見えます。 
明羅はこの幻想郷の地理が良く分からないので右の何もなさそうな道を選んで歩いて行きました。 
 
半刻程歩いた先、1人の女がこちらへと歩いてきました。 
これは助かったと明羅は声をかけることにしました。 
 
「もし、そこの方」 
 
「はぁ、何ですか?」 
 
声をかけられた女は右肩に薬鞄、両手に薬鞄を抱えてとても重そうでした。明羅の眼にはその女の人が藥師に見えました。 
 
「この幻想郷に足を踏み入れた者だ。明羅と申す。」 
 
「で、その明羅さんが何か用ですか?」 
 
丁寧に明羅が自己紹介すると、その女の人は丁寧に返してくれます。 
明羅はその反応に、幻想郷も元居た世界と同じく普通に言葉が通じて安心しました。 
 
「人が多く居る所へ行きたいのだが、この道で合っているか?」 
 
明羅は、この先の、女が歩いてきた道を指差して言いました。 
 
「あぁ、人里ですか?一応この先にありますが…」 
 
その時、明羅はその女の風貌が、どこか普通とは違う事に気づきました。 
服装は上は厚そうな布でとても動きにくそうでしたが、下は短く特徴的で風で揺られれば下着が見えてしまいそうでした。 
顔に視線を移すと、それはそれは美しい顔で、程良くふっくらとして、それでいて髪にはなにやら長い長い耳がついておりました。 
話の間、その耳がぴこぴこと揺れ、とても気になりましたが、明羅は敢えて口にはしませんでした。 
明羅は、礼を言うとその女の人は一礼し、そそくさと去って行きました。 
しばし、その姿を見送った後、明羅は暮れそうになる日を見据えて少々駆け足気味に道を歩いて行きました。 
 
 
 
 
日がとっぷりと暮れた幻想郷。 
月は満月、それに合わせるかのように鈴虫の合唱が鳴り響き、けたたましい程の蛙の鳴き声が周りから聞こえます。 
それは明羅が元の世界でも良くあった風景でした。これも幻想郷の原風景なのだなと、一人、大きな木にもたれかかりながら思いました。 
結局、明羅は女から聞いた人里へとまだたどり着けませんでした。 
仕方ないと、明羅は丈夫そうな大木にその身を預け、野宿することにしました。 
刀を腰から外し、大木に立てかけるように置き、辺りを一応確認して、眠る為目を瞑りました。 
 
 
 
 
 
一夜を過ごし、日がひょっこりと山から顔を出す時間帯。 
明羅は、鳥の鳴き声と共に起こされました。 
 
「さて、今日は人里とやらには着かねばな」 
 
と奮起するように、刀を左腰に下げました。 
しかし、お腹が恥ずかしい程に空腹の音を立てます。 
 
「…しかし、腹が減ったな。食料も持って来れば良かったか…。」 
 
明羅は荷物を軽くと、路銀だけ持ってきた事を後悔しました。 
 
「いや、こんなに自然がある。獣の1匹ぐらいは居るだろう。」 
 
と、希望観測を持ちながら空腹の腹を我慢しつつ明羅は平坦な道を歩き始めました。 
陽はさんさんと降り注ぎ朝の陽気に明羅の歩く足取りもとても気持ちが良いものでした。 
やはり、幻想郷は自分の居た所より美しい所なのだと痛い程分かりました。 
そう考えながら道を歩いていると、向こう側からなにやら喧騒のような声が聞こえました。 
これは何かの一大事かと、明羅は直ぐ様駆けつけようと走りました。 
 
「―――!」 
 
「―――!」 
 
あまりの早口に明羅には何を話しているか分かりませんでした。 
一応、日本語のようでしたが、とても理解出来そうにありません。 
 
「どうした?何があった?」 
 
仲裁するように明羅がその2人の間に入ります。 
2人はいがみ合っていた目をこちらに同時に向けました。 
 
「何!何よ!」 
 
「貴方こそ何!」 
 
殺意に近い罵声をぶつけられ明羅に汗が垂れます。 
幻想郷にも色々な人が居るのだなと思いました。 
 
「いや、何をそんなに争っているのかと思って。昨日ここに来たばかりの身ではあるが力になれるなら尽力しよう。」 
 
そう、凛とした声で言います。そうすると2人は毒気が抜けるように溜息を1つ付きました。 
 
「いやぁ、ね。このパチュリーが私の魔理沙に―――」 
 
右の少女が、やれやれとした口調で言います。 
 
「何、今『私の』って言わなかった?アリス、いつから魔理沙は貴方の所有物になったのよ」 
 
左の少女が、それに対して指摘するように問いかけます。 
どうやらこの話によると、右のブロンドの見目麗しい少女の名はアリスで、左のやや身長の低い少女がパチュリーという名らしい。 
 
「つまり、色恋沙汰という訳か?」 
 
明羅は痴話喧嘩には付き物の色恋沙汰だと判断してそう言いました。 
その言葉に2人の目が悪鬼の様な形相で見つめてきます。 
 
「私は認めていないわよ!パチュリーが勝手に言ってるだけだわ!魔理沙は私の―――」 
 
「はぁ?貴方ねぇ、冷静に物事を考えきれないの?魔理沙は私を必要としてくれてるはずだわ」 
 
ぎゃあぎゃあと先程と同じような喧騒になる2人。とても話になりそうにありませんでした。 
これはまいったと、明羅は汗を垂らし、ありもしない急用があると言ってその場を去りました。 
 
 
 
 
 
日も天高く上がり、昼になりそうな頃。 
何里歩いたかは知りませんが、未だに人里にたどり着けませんでした。 
明羅は、腹が減って腹が減って仕方がありませんでした。 
空腹を我慢しながらまだ着かないかと歩いていると、向こう側に少女ぐらいの背丈の女の子が歩いてきました。 
その背中にはその少女に似つかない程大きな袋を背負っており、とても重そうでした。 
もしかしたら、自分と同じ旅人ではないかと明羅は思いました。 
そうだとしたら食料か何かぐらいもってそうだと、思い声をかけてみることにしました。 
 
「もし、そこの人」 
 
「…ん、何だ?」 
 
その少女は多量の汗がついている顔を見せながらこちらへと向きました。とても疲れてそうです。 
 
「もしかして旅人か何かか?もしそうなら食料を持ってないか?不覚にも食料を持ってこなくて…」 
 
「残念だが私は旅人じゃないし、それと食料も持ってないぜ。他を当たってくれ、それに私は忙しい。」 
 
とても疲れた顔でその少女は言いました。よく見ると顔はゲッソリとしていてその美しい顔立ちが痛々しく見えました。 
明羅はそれについては何も言わず。そちらも身体に気をつけてと一礼すると、その少女はそそくさと去って行きました。 
去っていく時にその少女はボソリと、「あの2人から逃げないと…」と呟いた気がしましたが、明羅には聞こえませんでした。 
 
 
 
 
明羅は、本格的に困ったと、高低のある長い長い山道を見て思いました。 
初めは楽観的に食料は問題ないと思っていましたが、今の空腹の状況を見るとかなり辛辣になっている事を痛感しました。 
何でも良いから何かを食べたいと、明羅は思いました。 
しかし、自然が豊かな幻想郷で、今の所獣1匹すら見ていません。 
そう考えながら歩いて数刻たちました。もう辺りは夕暮れ時で、烏がとても五月蝿い鳴き声を発しています。 
また野宿か、と明羅は気が滅入りました。 
どれ、今日は良い場所は無いものかと、暗くなる景色を背中に辺りを散策していたところ。 
 
「〜〜〜♪」 
 
こんな夜中に似つかない幼い少女が宙に浮いていました。 
明羅はあまりの空腹に幻覚を見ているかと思いました。明羅の今まで生きた知識で「宙に浮いている少女」というものは無かったからです。 
しかし、明羅は元居た世界で幻想郷は常識に囚われないと聞いた事があることを思い出しました。 
だから、明羅の今までの知識の範疇を超えるものが幻想郷には沢山あるものだと理解することにしました。 
 
「〜〜〜♪」 
 
その少女は宙に浮いてとても気持よさそうです。 
 
「もし、そこの」 
 
明羅は声をかけてみることにしました。 
少女は宙に浮きながらも、ガラスのような透き通る目でこちらを眺めるように見ました。 
その少女はふわりふわりとゆっくりこちらに近づいてきました。 
少女は、すぅ、と足を水面に乗せるように地面に降りてきました。 
 
「なんなのかー?」 
 
その彼女はとても、不思議そうな顔でこちらを見てきました。 
彼女の顔はとても幼く、目はぱっちりと開き、きらきらと月に照らされているのがよく分かります。 
 
「いや、こんな夜更けにお前のような幼子が出歩いているので少しばかり気になったのだ。」 
 
「〜♪そーなのかー」 
 
彼女はこちらの話を聞いているかどうか分からないような相槌を返してきます。 
明羅が話している間も上の空で明羅の目をしっかりと見ません。 
明羅は、まだ年端も行かない少女特有のものと理解して、その少女の右手を掴みました。 
 
「なにするのだー?」 
 
「ほってはおけん。それ、家は何処だ。送ってやろう」 
 
明羅は生来の正義感か、その少女をほってはおけませんでした。 
右手を掴まれても少女は離そうとせず、何処か遠くを見るような目で明羅を見ています。 
 
「そうだ、お前、名は何と言う?」 
 
「ルーミアはルーミアなのだー」 
 
「ほう、ルーミアと言うのか、少しの間ではあるが…よろしく頼むぞ。」 
 
と、明羅はぽんぽんとルーミアという少女の頭を撫でます。 
少しくすぐったそうな表情をしましたが、どこか嬉しそうです。 
 
「で、ルーミア、お前の家は何処だ?私もこの幻想郷は来たばかりだ。地理は良く解らん。」 
 
その言葉にルーミアはきょとんとした顔をしました。 
明羅はそれを不思議に思い、その顔を覗き込みました。 
 
「ん?家の場所ぐらいは知っているだろう?」 
 
「ルーミアにはお家がないのだー」 
 
その言葉に、明羅はまさかそんなはずはと思いました。 
 
「ルーミアは妖怪さんだからお家がないのだー」 
 
「妖怪…?」 
 
明羅は妖怪という言葉は元居た世界で聞き齧る程度にしか聞いたことしかありませんでした。 
妖怪という存在は、童話じみた昔ばなしだと思っていました。 
 
「そうなのだー」 
 
「そ、そうか…」 
 
ならば、どうしようと明羅は考えました。 
 
ぐぅ、と。明羅のお腹の音がルーミアにも聞こえるぐらいの大きさで鳴りました。 
明羅は顔がりんごのように真っ赤になりました。 
 
「お腹減ったの?」 
 
無邪気な目でルーミアが明羅の目を見ます。 
明羅は少々恥ずかしそうに頷きました。 
 
「そうなのかー、ルーミアもお腹が空いたのだー」 
 
そう言って、ルーミアは可愛らしい両手でお腹を触る仕草をしました。 
明羅はクスリと笑いました。 
 
「しかし、この所、獣1匹すら見ておらんのだ。どうしたものか…まいったものだ。」 
 
「ルーミアは食べ物の場所知ってるよー」 
 
「ほ、本当か?」 
 
明羅は、握っていた手を1度離して、ルーミアをちゃんと見ました。 
 
「そこの道にそろそろ現れるのだー」 
 
と、ルーミアは少し離れた山道を指差しました。 
明羅は久しぶりに食料にありつけると、左腰の刀をグッと握りました。 
 
「なかなか手ごわいかもー」 
 
そうルーミアはつぶやきました。 
 
「大丈夫だ。私はこれでも外の世界では中々に名の馳せた剣士だったのだ。獣の1匹は2匹…」 
 
そう言って、左腰の刀の鯉口を切り、音を立てぬように道の方へと歩いてきました。 
ルーミアは、ずっと上の空で明羅の姿を見ていました。 
 
 
「フゥ・・・」 
 
明羅は息を吐きました。 
目を瞑り聴覚に集中させ、物音を察知しようと神経を尖らせました。 
ルーミアの言ったとおり、微かにこちらへと歩いて来る音が聞こえます。 
明羅はこちらへと来る久しぶりに食べれる獲物に心の中でお祭り騒ぎでした。 
 
段々と足音が近づいてきます。 
丁度、月が雲に隠れ、視界が良く取れません。 
仕方無しに、明羅はまた目を瞑り、自分の感覚に任せて斬る、心眼で獲物を仕留める事にしました。 
 
風が軽くそよぎます。 
明羅はもうすぐそこまで来ている足音を感じ、一気に足を踏み込むように駆け出しました。 
獲物は逃げる隙も無く、左腰から放たれる神速の抜刀に何も抵抗も出来ず、その刃の餌食になってしまいました。 
 
「やったのかー?」 
 
ルーミアが、事を終えた明羅に近づきながら言いました。 
明羅は、目を開け、月から雲が離れ月光がその獲物の死体を照らします。 
 
「…!?」 
 
明羅は目を疑いました。 
その月の光に照らされた獲物は、その光にきらきらと、赤い赤い血を流した人間…だったからです。 
 
「私は…人を…?」 
 
明羅は、抜身の刀とその死体を交互に見ながら狼狽えていました。 
明羅は、名のある剣士ではありましたが、今の今まで人を斬った事がありませんでした。 
しかし、今、自分の足元にあるのは和装の青年の新鮮な死体でありました。 
 
「久しぶりのゴハンー♪」 
 
無邪気な声で、ルーミアがその死体に食事を与えられた犬のように触れます。 
明羅が静止する前に、その真っ白で鋭い歯が死体の脇腹へと齧り付くように噛み付きました。 
くちゃくちゃと、肉を歯で掘削して食している音が、明羅の耳に嫌という程聞こえます。 
 
「やっぱり人間の肉は美味しいわー」 
 
口元とトマトケチャップを零した赤子のように真っ赤にして、ルーミアが明羅を見ます。その目はやはり上の空で明羅をちゃんと見て空で明羅をちゃんと見ているか定かではありません。 
 
「食わないのかー?」 
 
ぶちり、と片手で簡単に持てるぐらいに千切られる肉、それをルーミアは明羅の方に差し出しました。 
まだ、新鮮な血液を流すその人肉。明羅は何故かそれがとても美味しそうに見えました。 
しかし、人道的に明羅はその肉を食うこと躊躇いました。 
 
ぐぅと、腹の音が鳴りました。 
 
まだ、肉は明羅の目の前に差し出されています。 
 
「…許せ。」 
 
明羅の口がゆっくりと開きます。 
 
 
 
 
その歯がその肉へと――― 
 
 
 
 
そして呟きます。 
 
 
 
 
 
「―――美味しい」 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――― 
 
 
とある山道で、夜な夜な通る人が消えるという噂が人里でありました。 
始めは人里の者たちもただの噂話にしか思っていませんでしたが 
その被害の件数が100を超えたところでこれは大変だと、博麗の巫女の力を借りる事にしました。 
 
 
 
 
 
 
「はぁ、面倒ねぇ…人攫いなんて…」 
 
月も照る深夜、その噂の山道近くを歩く博麗の巫女。 
 
「ここ辺りかしら―――ん?」 
 
がつがつと、音が聞こえました。 
 
「あれ、ね。」 
 
博麗の巫女は、嫌そうな顔でその「2人組」を見ます。 
その二人は大小の影で、博麗の巫女の姿を発見すると、月に照らされてギラギラとした双眸がはっきりとこちらを敵視するように見ていました。 
博麗の巫女は溜息を1つつくと、符を即座に取り出し、その2人を浄化させようとしました。 
もう戦闘態勢になっていた2人は、博麗の巫女へと飛び掛ってきました。 
 
「やれやれ、手間がかかるわねぇ…」 
 
博麗の巫女は文言を幾つか唱えると、その2つの物体は月の光と同化するように影を1ミリ足りとも残さず消えてしまいました。 
 
「終わったわね、さて帰ろうかしら」 
 
博麗の巫女はそう呟くと何処かへ飛び立って行きました。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その山道を少し離れ、ぽっかりと空いた洞穴があります。 
 
そこには真っ白な骨と骨が幾つも幾つも積み重なっておりました。 
 
その壁にとても値打ちのありそうな刀が立て掛けられていたおりました。 
 
刀はいつまでもいつまでも―――主の帰還を待ち続けています。 
 
 
 
 
 
END
	作品情報 
			作品集: 
		23  
			投稿日時: 
		2011/01/29 16:57:46  
			更新日時: 
		2011/01/30 03:01:10  
	 
	
		分類 
					明羅   
					ルーミア   
					霊夢   
					食人   
			 
	
だから、人里の『結界』に阻まれたし、ルーミアと食べた『食事』に抵抗があったのも最初だけだったし…、
博麗の巫女の対妖怪用の術で、浄化されたのかー。