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『まぼろし』 作者: タンドリーチキン
※当SSは私の拙作『OLIVE』の設定を使用しています。
が、読まれてなくとも全然大丈夫です。向こうを読んでないと話が分からない、という箇所は無いはずです。
取り返しのつかない事になってしまった-----
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜はそう小さく呟いた。
厨房に立っている咲夜の目の前には、勢いよくグツグツと音をたてる鍋が一つ。
キノコを使ったシチューを煮込んでいるらしく、キノコの芳ばしい香りと牛乳の甘い香りが鍋の周囲に漂っていた。
現在鍋の中身は半分ほどだが、鍋の内側を見るに、元は一杯だったようだ。それをこの量になるまで煮詰めたらしい。
作業には相当な時間と労力が掛かっているはずだが、咲夜に達成感を感じている様子はまったく無かった。それどころか冷や汗をダラダラ流し、浮かない表情を浮かべていた。
咲夜は恐る恐る、お玉でシチューを掬ってみる。すると、通常ならトロォ〜としているはずのシチューが、ボトッ、ボトッと、半ば固形物と化すほどに粘性を増していた。指で少量掬い舐めてみる。味は完全に崩れていた。
咲夜は頭のどこかで、まるで他人事のように、自分の体を流れる冷や汗の量が増加していくのを感じた。
「な、なんで?何でこんなに煮立っているのよ?!私はちゃんと時間を止めたのに!!!」
そう叫ぶ咲夜の口元には涎が垂れた跡があった。激務で疲れて眠くなってしまったので、調理の途中、仮眠を取ることにしたのだ。椅子に座り、時間を停止させた状態で眠りについた-----はずだった。あまりの眠気に、きちんと時が止まっている事を確認せずに寝入ってしまったのだ。
結果として時間は通常通り進み、鍋には火がかけっ放し。水分はほとんど飛んでしまった。
ようやく目が覚めて鍋の中身を確認した咲夜の思考は完全に停止し、ただ唖然として立ち尽くすことしか出来なかった。
何故ここまで咲夜が焦っているかというと、唐突に『とびっきりおいしいものが食べたい』と言い出したレミリアに、咲夜は『ならば今晩のディナーは、私自らが腕によりをかけてお作り致しますわ』と言ってしまっていたのだ。
メニューは、以前レミリアがおいしいと言ってくれたキノコのシチューに決めた。
瀟洒な従者に二言は無い。楽しみにしているお嬢様を落胆させてはならないと、咲夜は現状を打破する策を、必死に考えようとしている。
どうする?どうすればいい?
咲夜の頭がようやく動き出した。
やってしまったものはしょうがない。過ぎた時間も戻らない。この失敗作を、どうにかしなくてはならない。
何とかアイディアを搾り出そうと、う〜ん、う〜んと唸りながら考え出した。
残念ながら、一から作り直すという選択肢は無かった。時間が無いというのもあるが、一番の原因としては食材がほとんど底を突いていた為である。特にシチューを作る上で欠かせない小麦粉と牛乳を、このディナーの準備で使い切ってしまっていた。
本来なら買出しは妖精メイドの仕事だが、気まぐれな妖精のこと、咲夜がちょっと目を離すと直ぐに仕事をサボっていた。少しくらいなら大目に見てもいいかなと思ってはいたが、ここまで来ると職務放棄に近い。
これは制裁を加えなければならないな、と咲夜は思った。
「奴らは後でリンチにしましょう。いや、細切れにしてミンチにしましょう。そしてパン粉と油でメンチにしましょう。我ながらいいアイディアだわ」
咲夜は、とても混乱していた。
このままではいけないと思い、一旦気持ちを切り替える為、両手で自分の頬をパンパンと叩く。そして落ち着いたところで食糧庫を覘きに行く。新しい具材を投入して味を整えるつもりなのだ。
食糧庫には、少量ながら肉と野菜があった。その中からシチューの具材として使えそうなものを片端から掴む。そして手早く水で洗い、皮を剥き、切り刻み、鍋へと投下してゆく。
水を追加するのを忘れない。飛んでしまった水分を補充しないと、食べられたものではない。再び煮立ってきたら、出た灰汁を丁寧に掬ってゆく。バターも追加投入した。油は舌に旨味を感じさせてくれるので、味をごまかすには最適なのだ。最後に香料として月桂樹の葉を数枚入れ、鍋に蓋をした。後は暫らく煮込むだけだ。
その最中、壁に掛けてある時計をチラッと、見る。ディナーの時間が迫っていた。
蓋を取り味見する。完璧とは言いがたいが、そこそこおいしいと咲夜の舌は判断した。
次は盛り付けだ。急いで器を取り出し、鍋から一掬いし、器へと流し込む。
完成したところでシチューの時間を、今度は確実に止める。これで冷めることは無い。
「ふう、どうにか間に合ったわね………」
食堂のテーブルにスプーンやナプキン等を準備し、傍らにパンを置き、シチューの入った器を乗せると、咲夜はため息混じりに呟いた。
その時、
「あら、随分とお疲れねぇ」
と、背後から声が掛かってきた。
「お、お嬢様!」
咲夜が慌てて振り返った先には、紅魔館の主、レミリア・スカーレットが立っていた。
「ど、ど、どうしてこちらに?!まだお呼びしていないはずですが」
「廊下を歩いていたら何だかおいしそうな匂いが漂ってきたものだから、待ちきれずに来ちゃったわ」
そう言うと、レミリアは自分の席に座る。そしてスプーンを手に取った。
「お嬢様、少々お待ちいただけますか。すぐに妹様とパチュリー様をお呼び致します」
「ああ、その必要は無いわ。フランは激しく鬱になっていて食事どころじゃないし、パチェは小悪魔と、返ってきた大量の本の整理で手が離せないみたいで、後で食べると言っていたわ」
言いながらレミリアは器の蓋を掴む。咲夜は慌ててシチューの停止した時間を解除する。
蓋が取り除かれるとそこには、
「……何これ。なんという料理なの?」
少し焦げて茶色く変色してしまった、嘗ては白いシチューだったものが盛り付けてあった。
次々と具材を投入した結果、シンプルな料理だったはずのキノコのシチューは、混沌とした創作料理へとその姿を変えたのだった。
「…び、ビーフストロガノフです!」
「ビーフストロガノフって、こんなだったっけ?何か違うような…」
「…具を見てもらえれば、牛肉が入っていることがお分かりになられると思います」
「いや、確かに牛肉は入ってるんだけどさ…具の種類がやたら多くて見た目が悪くなってて…」
「見た目より、味をご賞味いただけませんか」
「いや、だってこれ…」
「味を、ご賞味、いただけませんか」
咲夜の押しに、レミリアはわかったわよと呟き、スプーンで掬い、シチュー(?)を口にする。すると、
「あら、おいしいじゃない!見た目はアレだけど、イケるわ、これ!!」
レミリアは次々と絶賛の言葉を口にしだした。
「-----なのよね!中でも決め手なのが、この仄かに香るキノコの風味!」
咲夜の表情が、一瞬引きつった。
「具が崩れちゃってるのが残念だけど、これは出汁として使ったからかしら。これが入っていることで他の具材が際立つというか、引き立て役になっているというか-----」
残念。出汁。引き立て役。
これらの言葉が、咲夜の胸にナイフのごとく突き刺さる。おいしいと言ってくれるのは嬉しいが、本来の主役具材がただの引き立て役になってしまったのは、何故だか咲夜を複雑な気持ちにさせる。
「うん。おいしかったわ。ご馳走様」
咲夜はこの言葉に、ハッと我に返る。器を見ると、空になっていた。
「恐れ多い言葉を頂きまして、恐縮ですわ」
恭しく一礼する。
「次も期待しているわね。よろしく」
そう言うとレミリアは食堂を後にする。
バタンッと、ドアが閉められた直後、咲夜は盛大にため息をついた。
「…次、か……」
食材がもう無いのだ。このままでは『次』は無い。
妖精メイドに任せていては埒が開かないと考えた咲夜は、明日の早朝買出しに行くことを心に決めた。
*
翌日。
咲夜は長年履いて少しよれた愛用のブーツを履き、マフラーを首に巻いて、人間の里へと買出しに行こうと正面玄関を出た。
すると、門のところに妖精メイドが集っているのが見えた。その妖精の向こう側では、中国人風の妖怪が困った顔をしている。
「どうしたの美鈴?何か問題でも起きた?」
美鈴と呼ばれた妖怪、紅美鈴は、咲夜を見つけると、助けてくださいと叫んだ。
「このメイド達が外に出るって聞かないんです!咲夜さんからも言ってやってくださいよ!」
咲夜は妖精メイド達を見渡した。彼女らは買出しを任せていたメイドだった。妖精メイド達は咲夜の顔を見るや、まるで今から解体されることが分かってしまった豚のような目をし、急速に青ざめだした。咲夜は妖精メイドに尋ねる。
「貴女達はどうして外に出ようとしているの?」
「え、えっと、その、あの……、か、買出しです!食糧の!」
「うん?行けばいいんじゃない?貴女達が余りにサボるから、私が行くところだったのよ」
「サボってなんかいません!ほ、本当です!ここ数日、全然門から外に出してもらえないのです!」
そう言って妖精メイドは美鈴へと顔を向ける。
美鈴はキリッとした表情をする。その表情は、外には絶対出さないぞと語っていた。
「美鈴も、何でメイド達を買出しに行くのを止めているのよ。もう紅魔館の食糧庫は空よ。今日行かなくちゃ、もうパン一個だって焼けないわ」
咲夜の言葉に、美鈴は怪訝な顔をした。
「……あれ?咲夜さんは気付いてないんですか?」
「…何によ」
「視線ですよ。数日前から四六時中、どこかから視線を感じるんです。きっと紅魔館に害を及ぼそうとしているに違いありません」
「…私には感じられないわよ」
「う〜ん。…それは恐らく、余程の達人が気配を消しているのか、物凄く遠くから見ているかのどちらかでしょう。私は業務柄、そういうのに人一倍敏感ですから」
「…視線を辿って捕まえて吐かせればいいじゃない。貴女ならできるのでしょ?」
「それが、全然位置が特定できないんですよ。それに、捜しに行って門を長時間離れるわけにも行きませんし…」
咲夜はやっと得心がいった。
その何者かが視線だけ送って他の行動を起こさないのは、恐らく美鈴を警戒しているからだろう。もしくは、遠距離からの視線は美鈴が視線を辿って門を離れた隙に紅魔館へ侵入するという、陽動作戦とも考えられる。同様の事を美鈴も考えたのだろう。その視線を発する何者か(複数の可能性もあるわね)から妖精メイドを守るために、美鈴は門で止めていたのだ。妖精メイドは力が弱い。容易く捕らえられ、何をされるか分かったものではない。
「成る程。よく分かったわ。じゃあ買出しには私が行ってくる」
「え?!危険ですよ咲夜さん!」
「だからといって、このままじゃ餓死しちゃうわ。正体不明な相手の兵糧攻めが、紅魔館の首に見事に極まっているわよ。誰かが行かなくちゃ」
「ですが…」
「大丈夫よ。私を誰だと思っているの?」
咲夜は自らの突起に乏しい胸を張り、ドンッと叩く。
美鈴は、咲夜のまったく揺れないそれを見て、不安になってきた。もう咲夜の成長期は終わったはずだと思うと、それを直視できなくなってきた。スッと、それから目を逸らす。
「……何か、失礼な事考えてない?」
「い、いえいえ!滅相もありません!」
「とにかく、私が里まで行ってくるわ。貴女達は業務に戻りなさい」
「…分かりました。どうか、気をつけてくださいね」
「ええ、貴女もね」
咲夜は紅魔館の門を出て、人間の里まで繋がっている道を歩き出した。
暫らくは何事も無く、それとなく警戒していた咲夜が少し拍子抜けした時だった。
ちょうど紅魔館と里との中間を歩いていると、どこからともなく馬のヒズメの音が聞こえてきた。その音は、段々と近づいてきているらしく、徐々に大きくなってきた。そしてその音の発信源が、森の中から飛び出してきた。
「おらおらぁ!!そこのメイドさんよぉ〜、痛い目見たくなかったら、有り金全部置いていきな!!」
それは、どこからどう見ても、典型的な強盗だった。人数は全部で十人。彼らは咲夜の前後の道を塞ぎ、金銭を要求する。
こんなのの視線に気が付けなかったのかと思うと、咲夜はため息が出た。
「おっ!アニキ!こいつぁ、なかなかの上玉ですぜ!」
「何ぃぃ?!よし、お前!!金は出さなくていい!!お前の体ごと全部貰っていく!!」
強盗達は、久々の女だぁ〜と歓声をあげた。
咲夜は、げんなりした。
「ん?あれ?アニキ……」
「どうした!」
「こいつ、よく見たら……」
咲夜は、ようやく自分が紅魔館のメイド長であることが分かったのだなと思った。自分の事は幻想郷縁起にも記載されている。それを読んでいれば、彼らはいかに無謀な事をしているかが分かるだろう。ただの強盗が咲夜に正面から挑むのは、勇気と無謀を履き違えている輩か、ただの馬鹿である。そして彼らは-----
「全然胸がありません!真っ平らです!!」
「何ぃぃ?!よし、お前!!攫うのは止めてやる!!金だけ出せ!!」
-----全員後者で、巨乳好きだった。強盗達は、はぁ〜貧乳かよぉ〜とため息をつく。
咲夜のこめかみに青筋が浮かんだ。
「……貴方達に出すお金は、一銭だってありませんわ」
「てめえ!!折角アニキが金だけで許してやるってんのに、なんだその態度は!!」
「もういい!!胸は無くとも、下半身に穴はあるだろうが!!ヤっちまえ!!」
強盗達は馬を降り、手には得物を持って、咲夜に襲い掛かってきた。
咲夜は精神を集中させ、『力』を溜めてゆく。そして、
「……時よ、止まれ」
咲夜がそう呟いた瞬間、強盗の動きがピタッと止まった。誰も彼もが瞬き一つせず、馬から降りる途中の体勢で、空中で停止している者も居た。それどころか、辺りの虫や動物、風に揺れる木の枝も、全てが止まった。
この異常な空間の中、咲夜だけが通常どおり動いている。
「今、この瞬間は、私だけの時間ですわ」
咲夜はそう呟くと、作業を開始した。
強盗達の体を動かし、それらの得物が各々の臀部に向くよう、調整する。
得物を持っておらず余った者達は後ろを向かせ、ナイフを三本取り出し、勿体無いとは思いつつ、投げつけた。
ナイフは咲夜の手を離れた瞬間から、グググッと速度を落としてゆき、強盗の十数センチ手前で止まる。
「……そして時は動き出す」
咲夜がそう呟いた瞬間、強盗達は動きだした。
「ぎゃあ!!!」
「ぐえぇぇ!!!」
「あふん!!」
そして刀が、鉈が、槍が、銛が、矢が、棍棒が、各々の臀部に突き刺さる。それらの得物は強盗達の体を串刺しにし、中には腹から得物を飛び出させる者も居た。
「下半身の穴なら貴方達にもあるでしょうに。ご自分達のをお使いくださいませ。私のは貸せませんわ」
そう言い捨てて、咲夜は踵を返す。
ふと、咲夜は、彼らが巨乳好きだということが心に引っ掛かった。そして自分には視線が感じられず、美鈴だけが感じていたことを思い出す。つまりそういうことだろう、と咲夜は一人得心がいった。
謎が解け、咲夜の足取りが軽快になった。捥げろ捥げろこん畜生と呟きながら、再び里へと歩き出す。
毒が塗られた自分達の得物に貫かれた強盗達は、毒が体中にまわっていき、暫らくの間ピクピクと痙攣した後、次々と息絶えていった。
*
無事に買出しを済まし、咲夜は紅魔館へと帰って来た。両手には、大量の食糧が入った袋を提げている。
美鈴は咲夜に駆け寄り、袋を受け取る。
「ふう。ただいま、今帰ったわ」
「おかえりなさい、咲夜さん。
大丈夫でした?少し時間が掛かったみたいですけど…」
「ええ、途中『粗大ゴミ』が落ちていたから、キレイに掃除してきたわ。これでもう大丈夫でしょ」
「え?う〜ん、まだ残ってるかもしれませんよ?『粗大ゴミ』」
「そうなの?」
「はい。まだ変わらず視線を感じます」
美鈴は咲夜が歩いてきた道へと視線を向ける。
咲夜もつられて美鈴の視線の先を見る。見えたのは、湖、森、遥か遠くに聳える妖怪の山。それだけで、人の姿はおろか視線や気配すら感じられない。だが美鈴は何者かの視線を感じるという。嘘ではないだろうから、まだ残党が居るのかもしれない。
「そう。一人ぐらい生け捕りにして、いろいろと吐かせればよかったわね。失敗だったわ」
「でも咲夜さんがコテンパンにやっつけたのでしょう?普通なら恐ろしくなって、紅魔館に仇をなそうという考えは消えると思いますけどね」
「普通なら、ね」
「ん?向こうさん方、普通じゃなかったんですか?」
「ええ」
咲夜は美鈴の豊満な胸へと視線を落としながら言った。
「とてつもない、変態だったわ」
美鈴は目を丸くして一瞬考えた後、大声で笑い出した。
「…何よ。そんなに笑うことないじゃない。そもそも、大きさなんて関係ないのよ」
「あっははは!い、いやいやスミマセン、スミマセン。やっぱり気にしていたんですね。そんなに気になるのなら、詰め物という手もありますよ?」
「嫌よ。そんなのやらないわ。それをやったら、私の女としての尊厳が無くなってしまう気がするもの」
「そうですか?確かにとやかく言う輩は大勢居ますが、私は悪い事だとは思いません。言わばこれは化粧や服装と同類の、ファッションの一種ですよ」
「それでも、よ。他人の意見や目がどうこうじゃなくて、『私はやりたくない』の」
「成る程。あくまでも今の自分を偽らずそのままに、というわけですね」
「…文句でもあるの?」
眉を顰める咲夜を見た美鈴は、ニヤニヤしだした。
「いえいえ滅相も無い。たとえそれがマイナス面でも我が意を貫き通す。いいんじゃないですか咲夜さんらしくて。ずっとそのままの咲夜さんでいてくださいよ」
「当然じゃない。なによ急にニヤニヤして。気持ち悪いわね」
「ほんとほんと、気持ち悪いわねぇ。まるで幼子を目にした性犯罪者の笑顔みたい」
突然の第三者の声に咲夜と美鈴が振り返ると、そこにはレミリアが居た。その傍らには妖精メイドが立ち、日傘で日光からレミリアを守る。
「「お、お嬢様!!」」
「咲夜、気をつけなさい。さっきの美鈴の表情は、明らかに咲夜の体を狙っていたわ」
咲夜はハッとして腕を胸の前でクロスさせ身を守るように、瞬時に美鈴と距離をとる。
妖精メイドとレミリアは口を手で隠し、嫌ですね〜貧乳が趣味ですって、とか、気をつけないと私達も危ないわよ〜等とボソボソと小声で話している。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!そんなこと、思ってもいませんって!!」
美鈴は割りと本気で弁解を図ろうとしだした。
レミリアは
「冗談よ、じょ、う、だ、ん♪」
と言い、美鈴を宥める。美鈴はため息をついた。
「ところでお嬢様。どのような用向きでこちらに?」
場が落ち着いたところで、咲夜が尋ねた。
「それはね、-----」
美鈴も気になっていたようで、レミリアに注目する。
「-----お茶が出てこなかったからよ」
「…えっと?」
「だからお茶よ。いつまで経っても出てきやしないものだから咲夜を捜してたの。そうしたら、門の方から笑い声が聞こえてきてね。見に来てみたら、そこに居たってわけよ」
咲夜は懐中時計を取り出し、現在の時間を確認する。いつもレミリアにお茶を出す時間を、とうに過ぎていた。
「そこらのメイド捕まえて持ってこさせようとしたけど、お茶どころか食糧も底を突いてるって言っていたわ。食糧が無いってどういうこと?咲夜、説明なさい」
「…分かりました。少々長い話になりますので、どうかお部屋でお待ちください。紅茶も一緒にお持ちいたしますわ」
*
「ぷっ!くっくくく、あっはははは!!!」
事のあらましを聞き終えたレミリアは、その後のパチュリーとのお茶会で、咲夜に聞いたことをパチュリーに話した。
それを聞いたパチュリーは突如笑い出した。
「ああ、ごめんなさい、余りにも可笑しかったものだから」
「謝んなくてもいいわよ。私も咲夜から聞いたときは思わず大笑いしたし」
そう言ったレミリアの額には、咲夜のナイフが一本刺さっていた。レミリアは鬱陶しそうに、ナイフを無造作に掴んで引き抜く。すると額の傷は見る見るうちに塞がっていき、数秒と経たず完治した。
「胸のことを馬鹿にされて、余程頭にきたのね。あの子がレミィに手をあげるなんてどれくらい振りかしら」
「さあ、随分昔のことだし、忘れちゃったわ。咲夜は最近、周りから『瀟洒な従者』なんていわれるほど落ち着いちゃったからね」
レミリアは昔を懐かしむように、昔の咲夜ならナイフ一本程度じゃなくてロードローラーを持ち出してきただろうな〜と、昔の事を語りだした。その途中、パチュリーが口を挟んだ。
「……レミィ、あんまり咲夜に入れ込むのは止した方がいいわよ」
「ん?何故?」
「咲夜を溺愛したい気持ちは分からないでも無いけど、あくまでもあの子は人間よ。貴女とは寿命の長さが全然違うわ。人間の寿命なんて私達からしたら、一瞬よ。今は楽しくていいかもしれないけど、咲夜が居なくなった後、その反動に、悲しみや喪失感に必ず襲われるわよ。貴女の想像を遥かに超えて、ね」
「……パチェの言いたいことは分かるわ。確かに今の咲夜は人間。あっという間に年老いて死んでしまう。でもね、私はそれでもいいと思うのよ。咲夜が居るこの楽しい時間が一瞬だというのなら、私はこの一瞬を余すとこなく楽しむわ。
いい、パチェ。大切なのは、暗い未来(サキ)を憂う事じゃないの。現在(イマ)を楽しむ事なのよ」
「それでも、いつかあの子が居なくなることに変わりは無いわ」
「そうね。だから現在私にできることは、少しでも咲夜のことを記憶に焼き付けておくこと、かしらね。髪の色とか、声色とか、どんな匂いとか、全部。
そしたら後で、咲夜が居なくなってしまった後ででも、その話をしましょう。あの時何があって咲夜は何をして、皆は何を感じたのか、パチェは何を思ったのか。それを私にも聞かせてよ」
パチュリーは関心したような、呆れたような、笑っているような、いずれとも判らない、あるいはその全ての表情を浮かべ、ため息を一つついた。
「……いいわよ、レミィ。それが貴女の望みならね」
それを聞いたレミリアは満足げな表情を浮かべ、席を立った。
「どこに行くの?」
振り返りながらレミリアは答えた。
「決まってるじゃない。記憶に焼け付けに行くのよ」
紅魔館の廊下を、咲夜は肩を落としながら歩いていた。
いくらコンプレックスを盛大に笑われたとはいえ、主人にナイフを投げつけるなんて。絶対にやってはいけない事だ。反省しなければと思い、何て言って詫びを入れようかと考えていた。
考えが纏まらぬうちに咲夜は自室の前へと辿り着いた。
とりあえずシャワーでも浴びてサッパリすればいいアイディアも出るだろうと考え、着替えを取るため、自室のドアを開けた。そこには、
「くんか!くんか!くんか!ほっほ〜う、これが咲夜のブラジャーの匂いね!で、こっちが……おおぅ!きわどいのを穿いてるのね!ほとんど紐じゃないのこれ!まったく、けしからんわ!くんか!くんか!くんか!そしてこれが咲夜愛用のブーツね!くんか!くんか!くん………あっ!!!さ、さささささささ咲夜!!!こ、これはね、違うの!!えっとね!!その、ね!!そう!これは-----」
咲夜のクローゼットを漁り、下着類や靴の匂いを記憶に焼き付けようとしているレミリアの姿があった。
咲夜は頭のどこかで、何かが切れる音を聞いたような気がした。
後にレミリア・スカーレット(500+X歳)は、ケータイ片手に取材に来た新聞記者へ、その当時起こったことをこう語っている。
「殺人鬼を見た、等と言えば笑われるでしょう。だけど、これを適切に表そうとすると、これ以上のものは思いつかないわ。
ふと気付けば、いつの間にか別の場所に居た。
普段から咲夜の能力を間近で見ている私にとっては、いい加減珍しくも無いけど、馬鹿らしい話……いや、化かされたような話というほうが正しいわね。
次に見えたのは、私の周囲あらゆる方向を取り囲む、無数のナイフ。その向こうで揺らめき、見るものに死を覚悟させる、咲夜の赤い眼。その眼はまるで、月兎の、狂気の眼のようだったわ-----
(中略)
-----そのうち、ロウソクや鞭で痛めつけられる不快さを感じる前に、一種の恍惚が追い越していくようになったわ。
それと気付かぬうちに、主と従が逆転し。気が付けば、攻めと受けが入れ替わっていた。
例え話だけど、そう言ったことは此処に限らず良くあるものよ。
ただ、この場合性質が悪いのは薄々気が付いていても、やって来るのは決まって忘れた頃だということ。全くの無防備、無抵抗のままにそれを受ける他に術は無かったわ。
…え?途中から話が変わっちゃってるし、やたら長い?そろそろ纏めろ?………え〜〜と、ゴホンッ!
瀟洒な従者。
当時彼女のことを、そう言っている者達が居たわ。何故だかその言葉だけは未だ脳裏に焼け付いたまま。どこかでその言葉に納得する所があったのかもしれないわね」
*
その日は、朝から分厚い雲が空を覆っていた。
これは雪が降るかもねと思いながら、咲夜はバケツの水に雑巾を入れ、取り出して絞り、丁寧に窓を拭いていく。
それが終わると、次は廊下をモップがけ。鼻歌交じりにかけてゆく。
そしてモップがけを終えたところで、レミリアとフランに紅茶を出す時間が近づいてきた。
今日のフランは鬱でもなければ、躁でもなかった。情緒が落ち着いているときは、決まってレミリアの部屋で姉妹そろって紅茶を飲む。咲夜は二人分の紅茶とお茶請けを用意した。
紅茶のポットと温めたカップとお茶請けを盆に載せ、冷めないようこれらの時間を停止したときだった。
「あ、咲夜さん。何かお手紙が届いてますよ」
妖精メイドが一通の手紙を届けに来た。
咲夜は封筒に収められた手紙を受け取ると、封筒の表と裏を見る。そこには宛名としての咲夜の名前しか記載されていなかった。
誰からだろうか。
咲夜には手紙を貰うような心当たりは無かった。よく知っている人間や妖怪なら、用事があるのなら、手紙など書かず直接会いに来る連中ばかりだ。
まあ、中を見れば分かるだろう。そう考えた咲夜は封を開け、折りたたまれた便箋を広げる。そこには、
「…これは、恋文…………なのかしら?」
なにやら臭い言葉で愛の言葉が綴られていた。そして自分は此処で返事を待つという文字の下に、日時と場所が記載されていた。
場所は人間の里寄りの森。日時は今日。時間は-----
「…って!あと三十分ないじゃない!!」
-----もう間もなくであった。
どうしよう!!
普通の人間と仲良くすることを諦め、それゆえ今まで一度たりとも男性から恋文など貰ったことの無かった咲夜は、差出人と会うことを意識した途端、とても舞い上がり、同時に酷く混乱しだした。
咲夜はポケットから懐中時計を取り出し、指定された場所までの所要時間を計算した。
指定された場所まではそれほど時間は掛からなさそうだ。大急ぎで往復すれば、レミリア達のお茶の時間には間に合うだろう。
いやいや待て、問題はそこじゃない。この手紙の主に何と返事をするかだ。
結局差出人は分からないままである。恐らくは里の男性だろう。だが、咲夜に心当たりは無かった。
そもそも咲夜と里との接点など、買い物で訪れた店の人間か、上白沢慧音ぐらいのものである。
やはり可能性があるのは、訪れたことのある、いずれかの店の店員だろうか。その中で自分に気がありそうな人は、と考えたところで咲夜はさらに混乱してきた。
(八百屋の店員はいつも明るく接してきてくれたし、花屋のお兄さんはこちらに優しく微笑んでくれていたような気がするし、酒屋の店長も-----)
いくら考えてもこの調子であり、どの人物もあやしく思えてきたのだ。
どうする?!
こうして考えている間にも時間は刻一刻と進んでいる。このまま徒に時を消費するわけには行かない。とにかく行かなくては!行って、相手を見てから考えればいい。もし可能なら、返事は少し待ってもらおう。うん、そうだ!そうしよう!
時間が無い。咲夜は着替えることなく、メイド服のまま外へ出た。
だが、飛び出そうとした時に、ある考えが思い浮かんだ。
それはこの手紙ははたして本物なのか、というものだ。
一度そう考えてしまうともう止まらない。どんどん熱は引いていき、足が止まり、冷めた目で手紙を読み返す。すると、手紙の怪しさが一気に増していった。
まず差出人の名前が無いのはおかしい。やはり手紙を出す以上、記載するものでは無いだろうか。
仮に何かしらの意図で書かなかったとしよう。だが待ち合わせ場所が里の外の森とはどういうことだ。普通の人間がこんな所に突っ立っていたら妖怪に襲われてしまうではないか。
これも仮に何かしらの理由、対策があっての事だとしよう。だが決定的なのは、指定の日時に猶予が無さ過ぎることである。この手紙は今日届けられた。その返事がその日の内の、それももうすぐとは。少し慌ただし過ぎやしないだろうか。
(…嘗めたマネをしてくれるわね。これはただじゃ置けないわ)
咲夜は指定の場所へと再び進みだした。しかし、その理由は変わっていた。今、咲夜の脳内会議であがった議題は恋文の返事ではなく、この悪戯(?)の犯人をどう処分するかであった。
だが咲夜は、心のどこかで、この恋文が本物であるという考えを捨て切れずにいた。
人生初の経験。それがくだらない悪戯などとは思いたくなかったのだ。どのような制裁を加えるかを考える傍ら、もしこれが本物だったならどう対応しよう、と期待の気持ちとで半々であった。
それも、指定の場所に近づくにつれ、願わくは本物でありますようにと、期待の割合が増えてゆく。
やがて辿り着いたその場所には、
「………」
誰も居なかった。懐中時計を見る。ちょうど待ち合わせの時刻を指していた。
到着が遅れているのだろうか。それともやはり悪戯で、どこかから犯人が見ていて、のこのこやってきた私を笑っているのだろうか。
さらに現在の咲夜の気分を表すかのように、大粒の雪まで降り出してきた。
咲夜は大きなため息をついた。
なんにしても、此処にいつまでも留まるわけにはいかない。すぐに帰らなくては。そう考え、咲夜は歩を進めた。
次の瞬間、先ほどまで咲夜が居た空間へ、横から何かが空気を切り裂き、木に突き刺さった。咲夜は突然の飛来物に驚き、振り返って何が飛んできたのかを見る。
それは、矢であった。
もし咲夜が動いていなかったらなら、確実に矢は咲夜の体を貫いただろう。この矢は明確な殺意を持って放たれている。
それを認識してパッと頭を過ったのは、美鈴とも話した、先日の強盗の残党であった。そうであるなら仲間の復讐が目的であろう。あの恋文は咲夜を呼び出す道具か。
咲夜は体勢を低くし、矢の飛んできた方向を見る。森の木しか見えなかった。太い木が生い茂るこの場所は、隠れられる場所が無数にある。息を潜められると視認は非常に難しい。
(-----のだけれど、それは普通の人間が相手の場合の話。私には何の意味も無いわ)
咲夜は精神を集中させ、『力』を溜めてゆく。時間を止め、ゆっくりと狙撃者を探す為だ。
「時よ、止まりなさい」
そう呟き、そして立ち上がる。咲夜はさっさと終わらせて帰りたかった。
そして一歩、二歩と歩き出した時、
「いっ!!」
突如足に激痛が走った。あまりの痛みに立っていられなくなり、倒れこんでしまう。
何が起きたのか、確かめるべく目を向ける。
すると、咲夜の右の太ももに、矢が刺さっていた。傷口から血が流れ出る。
「ははっ!!今度こそ当たったぜぇ!!」
「おい、静かにしろ。声で場所がばれるぞ」
今度は狙撃者達の声が聞こえてきた。どうやら敵は最低でも二人の男性のようだ。間違いなく、あの強盗達の残党だろう。
それよりも咲夜が気になったのは、停止させた時の中で、自分以外の者が動いているということだった。
自分以外にも時間操作能力を持った者が居たのか、などと考えていると、ふと何かが咲夜の視界を横切った。
雪だ。雪が降っている。時間は停止しているはずなのに、雪は変わらず舞い降りてきている。
いや違う、と咲夜は呟いた。狙撃者達も雪も、停止している時間の中を動いているわけではない。そもそも時間が止まってないのだ。
またしても停止しそこねたか。そう思った咲夜は舌打ちし、再び集中を始める。同じ轍を踏まないようにと、慎重に能力を使用する。
今度こそ確実に時間を停止できたか、と考えていると、今度は背後から矢が襲い掛かる。矢は咲夜の左腕に掠り、腕の肉を少し抉っていった。これで敵は最低三人だ。
咲夜はとっさに木の陰に隠れる。
(じ、時間が、止まらない!!操作できない!!!なんで?!!)
いつもなら難なくできることが、今は出来ない。これには咲夜も焦りを感じ出した。
「なあ!ここでは奴は能力を使えないんだろ!!ちまちまやってないで、一気にやっちまおうぜ!!」
「だから黙れって。時間が操れなくなっても、他に何かあるかもしれん。確実に行こう。確実に」
またしても話し声が聞こえてきた。
咲夜は今の狙撃者達の会話から、この場所には時間操作能力を封じる何かがあるのだと推測した。そして厄介なことに、強盗としては珍しい、慎重な奴が居るようだ。頭の悪そうな方を抑えていることから、こいつが現リーダーだろう。
咲夜は深く、ゆっくりと息を吸う。
太ももに刺さったままの矢を引き抜こうとするが、足が痛むばかりで抜ける気配が無い。返しがついているのだろう。この場で取り除くのは無理そうだ。
動く際の邪魔にならないよう、矢を折る。
次に首だけを動かし、辺りを見渡す。すると、遠くの木に、小さくお札のようなものが見えた。人里の自警団が妖怪の捕縛に使っているお札に似ている。おそらくそのお札数枚をここら一帯に貼り付けて、能力封じの結界を形成しているのだろう。
咲夜にお札を一枚一枚探し出して破壊する余裕は無い。能力無しでここを脱出、もしくは敵を殲滅しなければならない。
咲夜はゆっくりと息を吐く。
落ち着け。落ち着いて矢が飛んできた方角を確認しろ。
相手は場所を特定されないよう、息を潜めている。それに地面は枯れ枝や枯れ葉が敷き詰められている。移動すれば、どうしたって音がする。それが無いということは、相手は矢を放った位置から移動していないはずだ。さらに言えば、能力を封じているにも関わらず接近してこないということは、敵は接近戦に持ち込まれたくないのだと考えられる。大体の方角さえ分かれば、間合いを詰めて、一人ずつ確実に接近戦で倒して行くのがベストだ、と咲夜は考えた。
咲夜は一発目と三発目の外れた矢を見る。その矢から、飛んできたのは、二時と六時の方角だと当たりをつける。そして二時方向から会話が聞こえてきていた。つまり二時方向は二人で確定だ。
六時方向の敵はどうだろうか。こちらも複数の可能性がある。何とかして人数を探れないものか。
「貴方達!何の恨みがあって、私を狙うの?!」
咲夜は狙撃者達に向かって叫ぶ。会話する確率を上げるため、敵の会話の聞こえてきた、二人組の方向を選んだ。うまくすれば、頭の悪そうな方が答えてくれるかもしれない。
「ああぁ!!忘れたとは言わせねぇぞ!!テメエがアニキ達を殺ったんだろうが!!どちくしょうが!!アニキ達の仇とケツに受けた傷の恨み!!まとめてテメエに返してやるぜぇぇぇ!!!」
掛かった。しかも親切なことに、先日の強盗の生き残りであることまで喋ってくれた。あの時の強盗達の総数は十人。あの状況で生き残る可能性があるのは、咲夜が自前のナイフを投げつけた、三人。ナイフでは致命傷にならなかったか。そう考えれば矛盾点は無い。これで確定だ。六時方向の敵は、一人だ。
まずは六時方向の一人を始末する。
「ああ、あの時の。そう、彼らは亡くなったのね。それは悪いことしたわ、ごめんなさいね。でもいきなり攫うだのヤっちまえだの言われたから、怖くなっちゃったのよ。
どうかしら、お詫びとしてヤらせてあげるから、それで許してもらえないかしら。今、そっちに行くわ」
咲夜は話しかけながら右腕の袖口にナイフを仕込んだ。そしていかにも危害は加えませんとアピールするため、両手を上げた格好で立ち上がり、六時方向の敵へとゆっくり歩き出した。出来るだけ二時方向の敵からは木の陰になるよう、横目で確認しながら、一歩、また一歩と、距離を詰めていく。
不意に前方の木の左側から、髭を生やした男が覘いた。髭の男はそのまま弓を構え、咲夜に矢を放つ。
咲夜は左側に倒れるように避け、地面に左肩が接触する寸前、頭上に上げていた右腕を勢いよく振り下ろす。
咲夜の袖口からナイフが飛び出し、緩い放物線を描き、髭の男の額に突き刺さる。
「テメエェェ!!!」
「ッ!!」
倒れた咲夜はすぐに起き上がる。一瞬遅れて、背後から、咲夜の倒れていた場所に矢が突き刺さる。
咲夜は一目散に木の陰に隠れた。そしてナイフを投げつけた髭の男を見る。男はうつ伏せになり、もう動く気配は無い。
(…あと、二人……)
これで挟まれて狙撃される心配は無くなった。一方向のみに集中できる。
だが、問題もある。もう不意打ちは使えない。しかも右足から痺れ感や刺すような痛みが消えない。血を流しすぎたのだろうか。この右足では素早く走ることは出来そうにない。
どうしようかと思案していると、枯れ葉を踏む音が聞こえてきた。足音は左右に別れ、咲夜を大きく迂回するように回りこんでいく。
どうあっても挟み撃ちの形にしたいらしい。
そうなることは避けたい咲夜は、右手の指の間にナイフを三本挟み、左手にナイフを一本逆手で握り、足に走る激痛に歯を食いしばり、可能な限り素早く、左側の敵へと向かう。咲夜の視界に映ったのは、弓を持った、短髪の男だった。
「ッ!!!来いやゴラァァァ!!!」
短髪の男も咲夜の接近に気が付いた。素早く弓を引き、放つ。
一射目は咲夜の脇の木に刺さった。
短髪の男は素早く次の矢を引き、放つ。
二射目は咲夜の体の中心目掛けて飛んできた。
咲夜は咄嗟に左足を軸に体を右回転させ、矢をかわす。矢は咲夜のわき腹を掠っていった。
「ああああ!!!!」
咲夜はかわした際の回転そのままに一回転し、その勢いを乗せて右腕を左袈裟に振り、ナイフを投げつけた。
ナイフは一本、短髪の男の左腕に刺さり、弓を落とす。
「ぐっ!!ヤロウ!!」
短髪の男は、手に持っていた三本目の矢を後ろに放り捨て、腰の後ろに差していた大鉈を手に取った。そして大きく振り上げ、なおも接近してくる咲夜に向かって、満身の力を込めて振り下ろす。
咲夜は頭を地面スレスレまで下げ、そのまま前転して大鉈をかわし、短髪の男の右側を抜ける。
短髪の男が振り返って追撃する前に、咲夜は立ち上がる動作に左回転を加え、左手のナイフの柄に右手を添えて、斜め下から押し込むように短髪の男の胸へと突き立てる。
男の目が大きく見開かれた。咲夜がナイフを捻る。
「ぐふっ…」
男の口から血が溢れてきた。
咲夜は男の胸からナイフを引き抜く。すると、血が噴水のように噴出してきた。
男は二歩、三歩と後退した後、力無く仰け反り、仰向けに倒れた。
「ぜえ、ぜえ、あ、あと、一人、…はあ、……ふぅ」
咲夜の息があがってきた。顔面の火照りが凄まじく、汗が止め処なく流れる。
とにかく呼吸を落ち着かせようと、意識的にゆっくりと深呼吸を繰り返す。
ふと手元を見ると、両手が血でべっとりと濡れていた。柄が血でぬるぬるになったナイフを捨て、エプロンとスカートの裾で手に付いた血を拭う。そして新しいナイフを取り出す。
咲夜は木の陰から周囲を窺うが、人の姿は見えない。短髪の男と別れたもう一人はどこだろうか。残った一人は、あの慎重な男だろう。
ついてない。咲夜はそう思った。先に慎重な男を倒せれば、残った短髪の男を倒すのはそう難しいことではなかったはずだ。確率二分の一を、外してしまった。
(…それにしても、全然気配を感じないわね…)
咲夜は再度様子を窺うが、物音はおろか、視線、気配すら感じなかった。
もしかしたら逃げたのではないだろうか。咲夜がそんな疑念を抱いた時だった。
「はあ、はあ、…ぐっ、がは」
咲夜は自分の胸に、痺れを感じるようになった。それどころか痺れは手足にまで拡がり、立っているのが困難になってきた。
(これは、もしかして…)
咲夜には一つ、この症状に心当たりがあった。もし咲夜の推論が当たっているとすると、非常にマズイ状況に陥っていると言わざるを得ない。咲夜はついに立っていられなくなり、膝をついてしまう。
「ようやくまわってきたか。どうだ。もう、まともに動けまい?」
その時、眼鏡をかけた男が、木の陰から、ゆっくりと姿を現した。
咲夜はその眼鏡の男の方を睨みつけるも、言われたとおり、胸が苦しく、まともに動けそうにない。
「即効性の毒のはずなんだがな。随分と時間が掛かったものだ」
そう。咲夜に起こっているこの状態は、毒物によるものだった。咲夜は自分の太ももに刺さったままの矢を見る。おそらくは、この鏃に毒が塗布されていたのだろう。
咲夜の頭の中には、あらゆる毒物の特徴から症状、対処法までが記憶されている。その中から、自分が受けた毒を特定し、処置を考える。
出た結論は、この場での対処は不可能ということ。一刻も早く紅魔館へ戻って治療を受けないと、やがて心筋細動が起こり、確実に死に至る。
だが、その毒の影響で、体はうまく動かない。今から紅魔館へ帰っても、持つかどうかは五分といったところだ。問題はそれに加え-----
「まったく、お前一人を仕留めるのにここまで損害がでるとはな」
-----まず目の前の敵を倒さなくては、ここを立ち去ることができそうにないことだ。
「だが結果的には、俺の勝ちだ。ざまあみろ」
考えなくてはならない。この状況を打破する策を、できるだけ早く。
見れば、眼鏡の男は弓と矢を手に、無防備に向かってきている。一見隙だらけだが、それは咲夜の状態を分かった上での行動だ。確実に射抜ける距離になったら、間違いなく咲夜に止めを刺すだろう。
時間が、考える時間が欲しい。
「俺の?俺たちの、の間違い、かしら」
僅かな糸口でも欲しい咲夜は、眼鏡の男に話しかける。男は咲夜の言葉に、ピクッ、と僅かに表情を変化させ、歩む速度を遅らせる。
咲夜との会話が続ければ、眼鏡の男が攻撃してくる可能性は低くなる。眼鏡の男にしてみれば、いくら時間を掛けても、自分の不利になることはないと思っているはずである。それどころか時間が経つにつれ、毒に侵されている咲夜が不利になると思っているだろう。むしろ完全に、自分の勝利を確信している。でなければ咲夜に話しかけたりはしない。違うのであれば、無言で、手に持っている矢を放ってくるはずだ。
「いや、俺の、であってるよ。あの二人は時間稼ぎの捨て駒さ。そのことは二人には教えてないがね」
そして、こんな風に得意げに語ったりは、絶対にしない。
咲夜はこの男は完全に油断していると確信した。
「仲間、じゃあ、なかった、の?」
咲夜は毒で苦しいことをアピールするため、話す言葉を、わざと途切れ途切れにする。
眼鏡の男の心理状態は判った。次は、いかにして咲夜のナイフが届く範囲にひきつけるかだ。痺れのあるこの腕では、投擲は軌道がぶれて、急所に当たりそうに無い。直接斬りつける以外の攻撃は、致命傷を与えられる確率は低いだろう。
相手は弓を持っている。咲夜にまだ余力があり、反撃の意思があると分かれば、途端に距離をとり、遠くから時間を掛けて狙い撃ちにするに違いない。
しかし男の武器が弓だということは危機と同時に、絶好の機会でもある。
敵の会話から察するに、咲夜に矢を放っていたのは髭の男と短髪の男だけで、この眼鏡の男は一度も弓を引いていない。それは何故か。恐らく眼鏡の男は、弓の腕前が良くないのだ。もし他の二人並みの腕前を持っているのなら、咲夜は三方向から狙撃されていただろう。それが無いということは、木が乱立するこの場所で、咲夜を射抜く腕前と自信は無いということだ。
「はぁ?仲間だぁ?冗談じゃないぜ、あんな低脳な連中。どいつもこいつも、頭領までもがスゲェ馬鹿でさぁ、いい加減ウンザリしてたんだ」
咲夜は、貴方も連中と大して変わりないわよと言いかけるが、堪える。
確かにこいつは他の強盗連中よりは頭は切れるようだが、中途半端感が否めない。現に咲夜へ、まだ止めを刺していないのに既に勝った気になり、情報を駄々漏れさせている。戦闘中も仲間のおしゃべりを許し、咲夜に情報を与えてしまった。彼らは、確実に止めを刺すまでは無駄なことは口にせず、黙々と行動すべきだった。
眼鏡の男は咲夜から五メートル程の距離を残した位置で止まった。
咲夜は膝をついた体勢からさらに腰を落とし、ぺたんと、地に尻をついた。すると、スカートが僅かに捲り返り、太ももの付け根の、きわどいところまでを覗かせた。眼鏡の男の視線が、そこに向けられる。
「…はあ、はあ、くぅ…」
咲夜はその視線に気付いているのかいないのか、気にする素振りを見せない。そのまま後ろに手をつき、体を反転させて四つん這いになり、短髪の男の死体を乗り越え、息を荒げながら、眼鏡の男から逃げるように這う。
眼鏡の男の視線が、今度は咲夜の臀部に向けられた。もともと短いスカートで四つん這いになれば、当然スカートの中が露になる。咲夜のまるで紐のようなショーツは、陰部以外の、臀部の大部分を露にしていた。
「あう!」
短髪の男の死体から五メートル程進んだところで咲夜は左手を滑らせ、短い悲鳴とともに地面に転がってしまう。そして何とか体を起こし、近くの木に背を預け、左足を若干前にした状態で屈み、男の方へと向き直る。
眼鏡の男は再び歩き出し、短髪の男の死体を跨いだところで足を止めた。距離は先ほど足を止めた時と同じ、約五メートル強。そこが男にとって、咲夜の反撃を受けても対処でき、且つ確実に弓で射抜ける距離なのだろう。
「ね、ねえ、命だけは助けてくれない?あるんでしょ、げ、解毒剤。
助けてくれるのなら、な、なんでも、する、から」
そう言いながら咲夜は木を背にしながら立ち上がり、左手に持っていたナイフを前に放り、スカートをたくし上げる。男からは、咲夜の局部は左足に隠れて見えないが、左足の付け根までが露になった。
「も、もうナイフは無いわ。
それに強盗なんて商売じゃあ、女を抱く機会なんて無いでしょ?そうとう溜まってるんじゃない?
お願い。助けてくれたら-----」
しかし、男の反応は、冷ややかなものだった。
「やらせてあげるわ、ってか。ふん、そんな手には乗らないぜ。色仕掛けして、俺を近くに引き寄せたところを襲おうって魂胆だろ。さっきからケツ見せてきたり、あからさま過ぎるんだよ。それに、その手はこれで二度目だ。バカでも分かる。バレバレだぜ。
それにな、お前が助かる方法なんて無いんだよ。この毒に解毒剤は、存在しない。
そんなこと、本当はとっくに分かってたんじゃないのか?死体を調べようともしなかったしな。
普通思うだろ。毒を扱うなら解毒剤の類を持ってるんじゃないかって。それをしないってことは、やっぱり分かっていたとしか思えん。もう死しか無いことが。
それでも逃げずに俺を仕留めようとするとはな。やっぱり近づくのは危険なようだ。遠くからゆっくり、毒で死ぬのを待つとしよう。
そういや、溜まってるかって聞いたよな?なに、心配には及ばん。お前が死んでまだ暖かいうちに、存分にその体、使わせてもらうとするさ」
男は後ろに下がろうとする。その時、男は一歩下がったところに短髪の男の死体があることを思い出し、意識をそちらに向け、大きく跨ごうとする。その瞬間、咲夜の目が大きく見開かれた。
「あああ!!!」
咲夜は激痛を堪えながら右足で大地を蹴り、前に出していた左足でしっかりと踏ん張り、腰を回転させ、右腕を振り上げ、右手に隠し持っていた矢を男へと投げつけた。変則的ではあるが、それはまるで投槍のフォームのようだった。
隠し持っていた矢は、短髪の男によって、放たれることなく捨てられた、三本目の矢であった。咲夜は左手を滑らせて転んだ振りをして、実はこの矢を拾っていたのだ。
「ちっ!!」
突然のことに、男は思わず手の甲で払ってしまう。そして男は、矢の先端、鏃で手の甲を切った。
それはつまり、解毒剤の無い、確実に死に至る毒に侵されたということ。
「ッ!!ああ!!て、テメエェェェ!!!!何てことしやがんだぁぁぁ!!!!」
その事を認識した男は激昂した。
咲夜はというと、にこやかな笑顔を男に向けていた。
「ッッ!!道連れってか!!嘗めたマネしやがって!!ふざけんなよこのやろう!!!テメエ一人で死ねやぁぁぁ!!!!」
男は落ちていた大鉈を拾って、何にも考えず無用心に詰め寄る。そして距離が縮まったところで大鉈をおおきく振りかぶった。
咲夜はそこから一歩前へ踏み出し、間合いを詰め、振り下ろされる男の右腕の手首を、左手で掴む。同時に男の殴りかかろうとする左腕を、右手で掴んだ。
互いの顔が、すぐ目の前にあった。
咲夜はさらに、男の首筋へと顔を伸ばす。
そして咲夜は、口から空気が漏れたような音を発しながら、そのまま男の首に噛み付いた。
「があぁああああぁあああああ!!!!」
男は密着している咲夜の体との間に足を割り込ませ、蹴り飛ばす。
咲夜は地面に尻餅をついた。
次の瞬間、男の首筋から血が、物凄い勢いで溢れだした。
咲夜は、ぺっ、と何かを吐き出す。それは、男の首にあった、頸動脈やらを含んだ、肉の塊だった。
男は必死に出血を抑えようと手で押さえるが、血は一向におさまることなく、指の間から溢れ出す。
「ああああ!!!畜生!!!止まらねぇ!!くそ!!止まれ!!!止まれぇぇ!!!!」
男が無駄な努力をしている間、咲夜は立ち上がり、一度放り投げたナイフを再び拾い、そして男に向き直っていた。
その事に気付いた男は、手は首を押さえたまま、膝をつき、空いているもう片方の手を咲夜に伸ばし、叫んだ。
「ま、待ってくれ!!このままじゃ死んじまう!!血、血を止めないと!!!血が!!血があぁぁぁ!!!!」
男の言葉に、咲夜は呆れ返った。
「確か、貴方はさっき、『テメエ一人で死ね』と言った、わよね?私も、同感、ですわ。道連れ、なんて、冗談ではあ、ありません、わ。死ぬのなら、貴方、一人で死んで、もらえます?
私は、貴方とは付き合えませんわ。ごめんなさいね」
咲夜はそう言い放つと、ナイフで男の喉を、横一文字に切り裂いた。
男の喉は一瞬気管を覗かせたかと思うと、次の瞬間には血が噴出し、赤く染まってそれ以上は何も見えなくなった。男は喉を押さえたまま後ろに倒れ、そのまま息絶えた。
咲夜は懐から、ここへ呼び出されるきっかけとなった手紙を取り出すと、ビリビリに破り、男の方へばら撒いた。
「さて、後は、帰るだけ、ね」
そして踵を返して紅魔館へと歩き出す。その足取りは、とても重そうだった。
「う、うぷっ!!
げええええええ!!げほっ、げほっ、がはっ、はあ、はあ」
咲夜は途中何度か、吐瀉物をぶちまけた。激しい吐き気、嘔吐が一向に止まらなくなった。
ふらふらになりながらも、それでも、一歩、また一歩と、紅魔館目指して歩いてゆく。
「は、早く帰らなきゃ…お嬢様に、お茶を出す、時間を、すぎ、ちゃったわ…」
ぐちゅり。
咲夜が左足を一歩踏み出したとき、ブーツから多量の湿り気を帯びた音が聞こえるようになった。これが出血している右足ならば不思議はないのだが、逆の足からである。
疑問に思って視線を下に向けると、自身の股から液体が流れて太ももを伝い、ブーツの中を濡らしているのが見えた。
咲夜は、尿失禁していたのだ。
お茶を出す前にシャワー浴びなきゃダメね、などと考えながらも、歩くことは止めない。
視線を前へ戻すと、だんだんと前方が明るく見えてきた。森を抜け、湖に出たのだ。後は湖畔沿いに歩けば、そこが紅魔館だ。
もう一息だ。そう自分に言い聞かせながら、ぐちゅり、ぐちゅりと咲夜は歩く。
霞んできた視界に、紅魔館を捉えた。そして何かがこちらに向かってきているのも。おそらく館の誰かが咲夜に気付いて迎えに来たのだろう。
咲夜は急に足の力が抜けてしまい、その場に倒れた。
立ち上がろうとするも、もう手も足も感覚が完全に麻痺してしまい、ピクリとも動かない。同時に胸の締付感が増してきた。心臓の鼓動に耳を傾けると、リズムと音がおかしい。
「………!!………!!!」
叫び声が聞こえる。何て言っているかは分からないが、誰かが大声で叫んでいる。
その誰かは咲夜を両手で抱え、顔を覗き込んできた。そしてずっと咲夜に向かって大声で叫んでいる。
咲夜は口を開き、肺の空気を搾り出すように、目の前の、館の誰かに向かって一言発した。
(ただいま)
その声が相手に聞こえたかどうかは咲夜にはもう分からなかったし、それを気にするための思考も永遠にできなくなった。
*
咲夜の葬儀は、しめやかに行われた。
紅魔館の敷地内の一角に、住人一同が集まった。その中には、普段外に出ないパチュリーやフランの姿もあった。
全員喪服で身を包み、『十六夜咲夜』と刻まれた墓標に向かって、黙祷を捧げている。中には、すすり泣く者がおり、つられて泣き出す者が続出した。
レミリアは、涙を見せることなく、じっと咲夜の墓標を見詰めていた。
「パチェ。咲夜を生き返らせる方法が知りたいのだけれど」
葬儀が終わってパチュリーの元へ訪れたレミリアは、開口一番にそう尋ねた。
パチュリーは読んでいた本から顔をあげ、レミリアへと視線を移す。レミリアは喪服姿のままであった。
「レミィ、何時か私、言ったわよね?『あんまり咲夜に入れ込むのは止した方がいい。深い悲しみや喪失感に必ず襲われる』って」
「………」
「その後レミィは大層な物言いをしていたけれど、それはどこにいっちゃったの?」
「………………………………咲夜が…」
レミリアが、静かに口を開いた。
「咲夜が、年老いて、寿命で死んだというのなら、天寿を全うして死んだというのなら、分かる。それが、人間を傍に置いた者の運命だからね。
だが、これは違う!!あまりに理不尽だ!!!納得行かない!!!全然納得できない!!!納得なんかしたくない!!!!」
「………」
レミリアの叫びが、パチュリーの書斎にこだました。そして二人とも、目を合わせたまま動かなくなった。
「パチュリー様。頼まれた死者蘇生に関わる資料はこれで全て…で……す……」
そこへ、大量の本を抱えて小悪魔が現れた。小悪魔は、二人の間に形成されたただならない空気に気圧されて、口を噤んだ。
「………」
「………」
「………」
しばらく三者とも押し黙った。
そして沈黙を破ったのは、レミリアだった。
「……なによ、パチェ。貴女も咲夜に生き返って欲しかったんじゃない」
「いや、これは、その、えっと、あれ、アレよ、アレ。単に次の研究テーマが死者の蘇生に関するものだっただけよ。ちょうど良く故人もいることだしね。
…なによ二人とも、そのにやけた顔は」
「「い〜〜え。何でも無いわ(ありませんよ)」」
*
「私は反対です」
美鈴に咲夜蘇生の話をしたレミリアは、そう返された。
「反対?何故?貴女、咲夜と仲が良かったんじゃないの?それともそれは私の錯覚?」
「いいえ、お嬢様。確かに私は咲夜さんとは仲が良かったです。少なくとも私はそう認識しています。
ですが、それとこれとは話が違います」
「…一体、どう違うというのかしら?普通、仲の良い者が死んだら、生き返って欲しいと願うものじゃないの?また会いたいとは思わないの?」
「確かに、咲夜さんには会いたいです。一緒に仕事したり、一緒にご飯食べたり、一緒におしゃべりしたり、一緒にお茶を飲んだり、一緒に昼寝したいです。
でも、それは、人間としての咲夜さんと一緒に、という意味です。咲夜さんが自分の意思を持って、という意味です。
咲夜さんの意思を無視して無理矢理にでも、という意味ではありません」
「………」
「人間、十六夜咲夜は、死んでしまいました。とても辛く、受け入れがたいことです」
「だったら-----」
「だからといって、例え生き返らせられたとしても、それは咲夜さんの意志ではありません。
吸血鬼化。妖怪化。ホムンクルス化。手段は分かりませんが、いずれの手段でも、咲夜さんは人間ではなくなってしまいます。それを咲夜さんは望んではいません。
蘇生は中止してください、お嬢様。それは、咲夜さんの尊厳を傷つけることに他なりません!」
美鈴の必死の説得に、レミリアは静かに目を閉じて考え出した。そして出た結論は-----
「う、うるさい!!私は何としても、咲夜にもう一度会うのよ!!私は咲夜の主人なのよ!従者のい、い、意志なんて、か、か、関係無い!!私が生き返れと言ったら、生き返るのが従者ってものでしょ!!!」
「……お嬢様…」
-----『それでも咲夜に会いたい』だった。レミリアは館の内へと、駆けていった。
美鈴もレミリアの気持ちが分からない訳ではない。追いかけもせず、もうそれ以上は、何も言わなかった。
*
「あ、レミィ。見つかったわよ、死者蘇生の方法」
「……そう」
パチュリーの書斎に入ったレミリアは、テーブルを挟んでパチュリーの対面側の椅子に座った。
パチュリーは捲し立てるように続けて話すが、レミリアはちっとも内容を理解できない。
レミリアの頭の中は、先ほど美鈴に言われた言葉で一杯だった。
咲夜の尊厳を傷つける、か。本当にいいのだろうか。これはただの、私の我侭なんじゃないだろうか。そんなものに、死んだ人間を巻き込んでもいいのだろうか。いや、さっきも美鈴に言ったが、そもそも咲夜は私のものだ。それをどうしようと私の勝手だ。でも-----
レミリアの思考は、ぐるぐると同じところを回りだした。
「-----ィ、レミィ!!」
「!!!」
レミリアは、いつの間にかパチュリーに肩を揺さぶられていた。
「ちょっとどうしたのよ?私の話、聞いてる?早速準備に取り掛かりたいのだけれど」
話が見えないレミリアは、首を傾げる。
「…準備?何の?」
パチュリーは、先ほどよりも強くレミリアの肩を揺さぶった。
「ちょっと、なに寝ぼけてるのよ。蘇生よ。咲夜の蘇生!方法が見つかったのよ」
蘇生。その言葉をようやくレミリアの脳は理解した。
「ほ、本当なのパチェ!!どうやるの!!」
「やっぱり聞いてなかったのね。まあいいわ。もう一度説明するわね」
レミリアの頭からはもう美鈴の言葉は抜け落ち、別のことで上書きされてしまった。
パチュリーによる蘇生方法。それは、錬金術を応用したものだった。
その技術は元々、無機物、例えば人形などに、生き物の魂を定着させるものであるらしい。
「要は死んで魂の抜けた肉体を、本来は無機物を使用するところをこの肉体に置き換えて、それに咲夜の魂を定着させようって計画よ。
勿論使う肉体は、咲夜本人のもの。生き返った後も、違和感は無いはずよ。
当然、本人の肉体と魂だから反発や拒絶反応、失敗のリスクも減るうえに、期間も延びるわ」
「さっすがパチェ!頼りになるぅ!」
レミリアはしっかりとパチュリーと握手を交わし、手をブンブンと振り回して、まるで子供のように喜んだ。そしてある言葉に引っ掛かり、その手がピタッと止まった。
「……ん?『期限が延びる』??
パチェ、期限って、なに?生き返るのに、時間制限があるの?」
レミリアは笑顔から一転、真顔になった。
パチュリーは渋い表情をレミリアに向ける。
「レミィ落ち着いて聞いて。さっきも言ったけど、本来この方法は無機物に魂を無理矢理定着させるものなの。
当然相容れない異物どうし、反発して、いつかは剥がれてしまうわ」
「え?え??だって、咲夜の肉体に、咲夜の魂を入れるんでしょ?元々一つだったものが、元に戻るだけの話じゃないの?反発なんて起こらないんじゃない?」
レミリアの言葉に、パチュリーはさらに表情を苦くする。
「…ん〜〜とね。専門的なことを言っても理解しづらいだろうから、グラスとワインに例えて言うわね。
グラスが肉体で、ワインが魂。普通に生きている状態は、グラスにワインが入ってる状態と仮定するわ」
「うん」
「死ぬってのは、このグラスが割れることなのよ。当然中身もどこかにいってしまうわ。
レミィが言っているのは、このグラスを修復して同じボトルのワインを入れれば、元通りになるんでしょ、って言っているようなものよ」
「うん、そのとおり」
「でもね、一度割れたグラスを完全に元通りにするのは、不可能なのよ。
いくら欠片を丁寧に集めて、慎重に接着させても、細かい欠片になってて、接着できない箇所が絶対に出てくる。
そんな穴の開いたグラスにワインを注いでも、やがて漏れ出して、中身は無くなってしまうわ」
「………じゃあ、他のグラスを使うとか……」
「それでも同じこと、いや、もっと早くワインは無くなってしまうわ。
無機物に定着させようっていうのは、いわば割れた皿やカップやら有象無象を無理矢理つなぎ合わせたものに、ワインを注ぐようなもの。
穴は大きく、ワインの減りも早い」
レミリアは腕を組み、説明された内容の理解に没頭した。しばらくした後、パチュリーに向き直り、疑問を問う。
「………なんとなく理解したわ。それで期限は?どのくらい咲夜は生き返っていられるの?」
「…そうねぇ。私は最長一ヶ月と予想しているわ。
ああ、言い忘れてたけど、やれるのは一度きりよ。次はもう無いわ」
「………一ヶ月……一度きり……」
短い。あまりにも短い。レミリアはそう思った。
「…他の方法は無いの?」
「あるけど、お勧めは出来ないわ。
どれも、条件が合わなかったり、やたら失敗のリスクが高かったり、記憶が無くなったりで、実用的とは言い難いの」
「……そう」
レミリアは両手で顔を押さえ、どうするかを考え始めた。
「どうする?やめておく?」
パチュリーの問いかけに、レミリアは顔を上げ-----
「……いや、やる。一ヶ月間でも構わない。私はもう一度咲夜に会いたい!」
-----決心を口に出した。
「ん、分かったわ。じゃあ準備を進めておくわね」
そう言ったパチュリーは振り返り、後ろに控えていた小悪魔に指示を出す。
「永遠亭に行って、このメモにリストされている薬品を注文してきてちょうだい」
「了解です」
小悪魔はメモを受け取るとパチュリーとレミリアに一礼し、書斎を後にした。
一週間後。
永遠亭に注文した薬品が届けられた。それを受け取ったパチュリーは、早速準備に掛かる。
床に描かれた魔法陣。周りに置かれた火の灯ったロウソク。陣の各所に置かれた、さまざまな薬品の入れられた皿。そして、その中心には、保存の魔法が掛けられてキレイなままの、咲夜の遺体。
パチュリーと小悪魔が行う準備の様子を、少し離れた所からレミリア、フラン、美鈴が三者三様の表情で見ていた。
レミリアは今か今かとワクワクした表情で、フランは状況が分かっていないのかキョロキョロと不思議そうな表情で、美鈴はあまり快く思っていないのか苦虫を噛み潰したような表情だった。
「さあ、準備できたわよ。早速、これから蘇生の儀式を始めるわ」
そうパチュリーは宣言した。
小悪魔も魔方陣から離れ、レミリア達の横に並んだ。それを確認したパチュリーは早口で呪文を唱え始める。
すると、魔方陣に変化が起こり始めた。
随所に置かれたロウソクが、風も無いのに、その灯火を揺らしだした。
数々の薬品が蒸発し、その水蒸気が魔方陣を半円球状に包み込み、完全に見えなくなった。
やがてその水蒸気はゆっくり円柱へと形を変え、少しずつ高さを増してゆく。
ある程度の高度になったところで円柱は伸びるのを止め、今度は円柱の頂点の空間が歪みだし、その箇所が紫色に輝きだした。
「!!!」
目の良いレミリアには歪んだ空間の向こうが、微かに見て取れた。
向こう側は、まるで絵に描いたような青空と大草原で、まるで絵本で描かれる天国のようであった。
ああ、あちら側は、彼岸なんだ。なんという。なんという美しさなのだ。
レミリアがそう思った次の瞬間には、その景色は見えなくなり、空間の歪みは収まっていった。
円柱を形度っていた水蒸気も、その濃度を段々と減らしていく。
そして、薄くなった水蒸気の向こうに、咲夜の体が再びその姿を現した。
その場にいた全員がパチュリーへと視線を向ける。
パチュリーは、
「…ふう。儀式は、成功よ!」
と語ると、疲弊しきって立っていられなくなり、その場に座り込んだ。すかさず小悪魔はパチュリーへと駆け寄り、肩を貸し、近くの椅子へと座らせる。
「咲夜!!!」
レミリアは叫ぶと同時に咲夜のもとへと駆け出した。そして咲夜の肩を掴んで揺さぶる。
「咲夜!!起きて!!また貴女の淹れた紅茶が飲みたいわ!!咲夜ったら!!ほら起きて!!!」
そして咲夜の目は-----
「………咲夜?」
-----一向に開かれる様子を見せなかった。それどころか心臓がまったく鼓動していない。
つまり、咲夜は生き返っていなかった。
「ッ!!パチェ!!一体どういうこと?!!」
レミリアはパチュリーに詰め寄った。
パチュリーは信じられないものを見るかのように、目を見開かせた。
「…まさか、失敗?そんな馬鹿な!!私の術式は完璧だったはず!!!」
パチュリーはヨロヨロと立ち上がり、術式に使用した陣、薬品類を再点検しだした。だが、異常はどこにも見られなかった。
「………やはり」
それまで静かに佇んでいた美鈴が口を開いた。
「やはり咲夜さんは、人間として死にたいと思っているのですよ。
無理に生き返るのを望んでいなかったからこそ、ここには現れなかったのではないでしょうか」
美鈴の言葉に、パチュリーが反応する。
「………尊厳死というやつね」
「…尊厳死?」
レミリアが聞き返した。
パチュリーは続けて話す。
「そう。人間は何か重い病に侵されたとき、体の自由を失ってまでも薬を投与し続け、闇雲に命を引き伸ばしたがる傾向があるわ。
それをあえて行わず、痛みを和らげる程度の治療で不自然な延命を行わずに、死ぬ最後の時まで人間らしく自然にいることを指す言葉、だったはず。
咲夜は無理に延命されるよりも、人間らしく死ぬことを選んだのね。
だから私の術式が失敗した。
咲夜の魂が、咲夜の意志が、不自然な延命を拒否したのよ。それ以外に失敗の原因は思いつかないわ」
「……そう…なのか。それが咲夜の意志、か…」
レミリアは俯きながら、そう呟いた。
咲夜の遺体は再び墓の下へと戻されることとなった。
美鈴が丁重に棺へ土をかけ、その上に墓石を戻す。その様子をレミリアとパチュリーがテラスから眺めていた。
レミリアは顔の前で手を組み、口を隠しながら小さく呟く。
「……咲夜……ごめんなさい」
強く閉じたレミリアの瞳から、涙が流れ出た。
*
そして蘇生失敗の日から一ヶ月が経とうとしていた。
その日、レミリアは一人でテラスに居た。何をするでもなく、椅子に座ってテーブルに肘をつき、ただぼうっと景色を眺めていた。
考えていたのは咲夜の事。
目をつぶって咲夜の姿を、匂いを、声を、思い出していた。
今はまだ鮮明に思い出すことが出来るが、時と共に霞んでいき、いつか全く思い出せなくなる日が来るだろう。そのことがレミリアにとって、どんな敵よりも恐ろしい脅威に思えた。
ふと、ふふっと短い笑い声が聞こえたような気がした。続けて、コトッとテーブルの上に何かが置かれる音がした。そしてダージリンの良い香りが漂ってくる。
レミリアはゆっくりと瞼を開き、テーブルの上を見る。そこには紅茶が一杯、置かれていた。
いつもそうしていたように、カップを手に取り、口をつける。
「どうですか?今日の紅茶のお味は?たまには希少品なしのストレートもいいかと思い、特別なものは何も入れておりません」
その声には聞き覚えがあった。間違えるはずも無い。なぜなら一ヶ月前までは毎日聞いていた声なのだから。
「ああ、いいな。うん。すごくいいよ、これ。美味い。とても、美味い」
そう言いながら、声のした方へ振り返る。
「咲夜。貴女に言わなきゃならないことが-----」
だが、そこには、誰も居なかった。
「……咲夜?」
辺りを見渡すが、誰の姿も見つけることは出来なかった。
レミリアはもう一度瞼を閉じる。すると、どこからともなく、咲夜の声が聞こえてきた。
(お嬢様、私は人間です。人間としての尊厳を保ったまま、死にます。尊厳を持って死ぬことが出来て、私は良かったです。
生き返り、人としての尊厳を失くし、人間でなくなったのなら、それは私ではなく、私の姿をした、別の誰かです。
大丈夫です。ご心配なく。私は人間として生きている間、お嬢様に仕えることができて幸せでしたわ。
さようなら、スカーレットデビル。
さようなら、可愛くて小さな吸血鬼。
さようなら、我が主よ。
さようなら、-----)
レミリアは再び瞼を開き、空に向かって呟いた。
「……咲夜。貴女と過ごした日々は、とても楽しかったわ。
今まで、ありがとう。そして、……さようなら……」
*
「…それは気のせいか、幻か。何にしても、現実には起こりえないことよ」
幾日かが経過した後、レミリアはパチュリーの書斎を訪れ、自分が体験したことを話していた。
「あら、そう?」
「そうよ。だって考えても見なさい。
咲夜の体は今も土の下。魂はとっくに閻魔の元へと送られていて、二度と現世へは戻ってはこれない。
どうやったって不可能だわ」
レミリアは、ふふっ、と笑った。
「…なにがおかしいの?」
「ああ、ごめんなさい。いや、相変わらず頭固いなと思ってね。
いい、パチェ。幻だって、それは現実よ。だって、確かに私、咲夜の声を聞いたんだから」
パチュリーは関心したような、呆れたような、笑っているような、いずれとも判らない、あるいはその全ての表情を浮かべ、ため息を一つついた。
そこへ小悪魔が紅茶とコーヒーを持って現れた。
「お嬢様。パチュリー様。紅茶とコーヒーをお持ちいたしました」
そう言いながらレミリアに紅茶を、パチュリーにコーヒーを出す。
レミリアがカップに手を伸ばしたその瞬間、衝撃音と共に屋敷全体が揺れ、紅茶がこぼれてしまった。
こぼれた紅茶は、レミリアの腕へとかかった。
「あっちぃ!……もう!!何よ何なのよ!!」
そこへ妖精メイドが勢いよくドアを開け、入ってきた。
「失礼します!!敵襲です!!」
「敵襲?相手は一体誰?」
「はいっ!敵は鴉天狗の新聞記者だと思われます!
『取材させろ!』などと叫んでいました!他にも何事かを叫んでまして、聞き取れた部分から察するに、メイド長のことを記事にしたいようです」
「咲夜のことを?」
「……まったく。どこから嗅ぎつけたのかしら」
レミリアは暫らく考え込んだ後、妖精メイドに指示を出す。
「その鴉天狗に伝えなさい。『咲夜のことを記事にしたいなら、百年経ったらまたおいで。その時まで覚えていたなら取材に協力してやろう』ってね」
「かしこまりました」
妖精メイドは一礼すると、書斎を後にした。
「レミィ。百年とは大きく出たわね。貴女はそれだけの時間が経過しても尚、咲夜のことを覚えていられるの?」
「それはさっきも言ったでしょ?『覚えていたなら』取材に協力してやろうって」
「…まったく」
「それよりパチェ。私にもコーヒー頂戴。私の紅茶、全部こぼれちゃって飲むものが無くなっちゃったのよ」
「…これ、飲んでいいわよ」
パチュリーは自分に出されたコーヒーを、レミリアへと渡す。
カップを受け取ったレミリアは一気に呷った。
コーヒーを飲み慣れていないレミリアにとって、パチュリー用に特別濃くしてあるそれは、まるで泥のように感じられた。
タンドリーチキン
作品情報
作品集:
24
投稿日時:
2011/02/06 04:57:43
更新日時:
2011/02/06 13:57:43
分類
咲夜
レミリア、咲夜さんが今回のような原因でない死に方をしても、同じ事言ったんじゃないですかね。
冒頭の咲夜さんのポカとか正体不明の視線は、眼鏡野郎が能力封じの実験でもしていたのかな?
結局クソ野郎は、咲夜さんが短い人生で会得した戦闘技術によって破れてしまいましたが。
あの野郎が綿密な調査や致死性の毒を用意していたことから、咲夜さん個人を殺そうとしていたようですね。
何故、野郎が咲夜さんを狙っていたのか、この話には関係の無いことですね。
運命を操る程度の能力を持っていても、天命を全うした者を生き返らせることは出来なかったか…。
もしあれがレミリアの危機を守れなかったとかの理由だったら、帰ってきたかもしれませんが、
咲夜さんは自分の生に満足したと思っているようですね。
カメラを持ったほうの記者は、まだ現場復帰していないのかな?
それとも引きこもりのほうが後を継いだとか?
レミリアは約束を忘れませんでしたが。
私、好きですね。短命の者が『生き抜き』、永遠に『生き続ける』話。
これぞ、人生。
序盤の胸やらくんかくんかやらで和んだ分落差激しいな
氏の作品は、登場人物の様々な一面が見れて好きです
最後まで帰ろうとした咲夜さんにも泣いたけど、死亡後のそれぞれのやり方や尊厳死、レミパチェの会話も味わい深かった