トラウマ

…りん、扉の錠を外しなさい

大丈夫…すよ、私は…しません



こんにちは、気分はどうですか？

…最悪みたいですね

貴方の心の恨み節がここまで聞こえてきますので

え？「早く俺にはめられた枷を外せ」と

いえいえ、それは無理です

貴方が私と妹を退治しようとしましたので

一応、私は死にたくありませんし

私もまだ人生を謳歌したいのですよ





「バケモノ、心を読む怪物、外道」ですか…

まぁ、貴方がそう思うのも仕方が無いですね

人間は自分の理解が及ばない物に対して恐怖を抱きますから

お札と、妖怪退治用の武器

それと私と妹に対する強い敵意を持ってここに貴方が来た

私の事が怖いからでしょう？

私の事が目障りだからでしょう？

…まぁ、当たり前ですね

私と妹は貴方達からしたら危険な存在ですから





いやはや、貴方の攻撃は見事でしたよ

特にあの狩猟用の銃

一見すればただの鉄砲ですが

アレ、弾に妖怪殺しの魔法が付呪されてましたね

実際、その弾丸の掠った私の右手

まだかすり傷が消えていません

直撃すれば、多分私は死んでいたでしょう

あの時、私が貴方に使った催眠術

あれは苦し紛れでした





「俺をどうするつもりだ、汚らわしい怪物め」と…

いえいえ、私はどうこうするつもりはありません

今から地上へとお返ししようとも思っております

ただ、お空…ああ、あの鴉の女の子ですよ

そのお空がどうしても貴方の事が許せないそうで

ずっと

「殺してやる、主人を傷つけた人間を殺してやる」

と、

朝から心の中であの子は考えておりました




大丈夫ですよ

あの子にはちゃんと言い聞かせておきました

貴方に手は出しませんし、出させません






そういえば、貴方は戦いの最中

私がトラウマを見せる幻覚を見せた時

どうして私がトラウマを人に見せるのか

気になっていましたよね

…

「どうでもいい、早く解放しろ、クソが」

なるほどそうですか、でも

「ああ、とても気になる」

とも思ってますね

ふふふ、貴方の奥底から今も聞こえますよ



…いいでしょう

教えてあげましょう

目を閉じてください


『■■■■■』

では、夢の世界へと…

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俺は今、逃げている
沢山の追っ手から逃げている

奴らの手には農具や銃、それに剣
逃げなければ殺される
殺される

あ、

しまった！
地面に躓いてしまった！！

やめろ…
やめろ…！！

やめてくれ！！

来るな！
俺を傷つけるな！！

やめろ！！！









あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！！！！！！！

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『ねえ、お兄ちゃん』

…何だい？

「どうして私達は嫌われるの？」

…

『いやだよ』

『わたし、いやだよ』

『人に嫌われたくないよ…』

『いやだよぅ…』



…ごめんな

…ほんとにごめんな



………ごめんな

………守ってあげられなくて



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ああ、熱い


俺の手に火が

熱い

奴らに捕えられた

俺は木に縛られた

熱い

奴らが俺の縛られた木に火を付けた

熱い

顔が焼ける

熱い



ああ、妹が

討伐隊に囲まれている

討伐隊の中に見覚えのある顔が

親父

俺の親父

どうして

妹を囲う輪が狭くなる

「こいつ、どうせ死ぬんだから」
「ああそうだな」
「ヤっちまおうぜ」
「上玉だな」
「気持ち良くなれそうだ」




『助けて…！』





やめろ

やめろ

妹に手を出すな！

やめろ！！！

やめろぉおぉぉおおおおおお！！！！



うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

…

……


俺たちは助かった
俺は何とか火傷で済んだ

生きてた、

妹も生きてた

空を見上げて座っている

俺だ

妹よ

返事をしろ

『…』

おい、妹よ
返事をしろ

『…』

返事をしてくれ

『…』

返事を…

『…』






妹は空を見上げている

血と、良くわからない何かの液にまみれ

空を見上げている



妹の目が死んでいる

涙を流したまま死んでいる


生きているのに

死んでいる



…ごめんな

…ごめんな

兄ちゃんがお前を守れなくて





…ごめんな




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…

……

…どうでしたか

私のトラウマ達は

貴方が見たのは

私の記憶です

私を貴方に置き換えて

貴方の脳内に映しました



さて、理由ですね

私が人にトラウマを見せるのは





私のトラウマを忘れたいからです





この記憶、忌々しい過去を

消したいから

八つ当りで

他人にトラウマを見せてしまうのです




貴方、

泣いてるのですか？

「ごめんなさい、すみません、ゆるしてください」

「あなたたちをきずつけてしまって」

「あなたのかぞくをきずつけて」




顔を上げてください

別に貴方に謝らせようと思ったわけではありません

ただ、

貴方に知って欲しかっただけです






私達妖怪側の苦しみを



人間と同じく

私達妖怪もまた苦しんでいるということを






さあ、地上へお帰りなさい

橋姫と鬼達に地上まで護衛してくれる様に頼んだので安全ですよ？



では

さようなら