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『東方ゲロ娘『嫁のメシがまずい』』 作者: んh
聖は美しい
非の打ち所がない
慈愛に満ち、一点の汚れもない
すべての者に優しく、すべての所作に気品が宿っている
ああ聖はすばらしい
たった一つを除いて
「さあ皆さん。お食事の支度が整いましたよ。」
今日は二月十五日、涅槃会(ねはんえ)である。簡単に説明しておくと、お釈迦様が入滅なされた(亡くなられた)日だ。寺院ではこの日に、娑羅双樹の下で臥したお釈迦様と、その回りを涙で囲む生き物を描いた仏涅槃図を見ながら、法話会を行う。そして涅槃団子という団子を食したり、参拝者の方に配ったりする。そう、団子を作って食べるのだ。
卓の前に座る聖は上機嫌だった。弾んだ笑顔にはほんの少しの恥じらいも見える。一言でいうと萌える
「星も早く座って下さいな」
私は聖に言われるまま腰掛けた。隣には真っ青な顔をしたナズーリンがいる。卓を挟んだ席には、ムラサと一輪が引きつった笑みを浮かべながら座っている。末席には聖と向かい合う形でぬえがいた。そろそろ現実を理解し始めたこの居候は、どうやってこの一家団欒を逃げ出そうか隙を窺うようにうつむいている。
「今日は、皆さんと囲む久しぶりの涅槃会です。思えば千年前、私が法界に封印されたときは、またこのような日が来るとは思いもしませんでした。それを……貴方達は私のことを、ずっと覚えていて、迎えに来てくれるなんて……こんな有難いこと、なんてお礼を言えばいいか……」
聖は感極まっているようだ。かすかに震える唇を手のひらで覆い隠す聖、すんげえかわいい
と、いつまでも観賞しているわけにいかないので一同で慰め、聖に感謝の言葉を述べた。
「有難う、本当に有難う……ですからせめてその思いに応えたいと、今日は皆のために、星、ムラサ、一輪、雲山、ナズーリン、そしてぬえのために腕によりをかけて作りました。」
卓を覆っていた布が外された。想像以上の惨劇だった。
「さあ、皆さん。どうぞ召し上がれ」
真ん中にそびえるのは山盛りの団子だった。たぶん団子なんだろう。一日放置したイカの身のようにでろりと崩れた団子は全部くっついて謎の塊となっていた。上からかけられたみたらしのたれと思しき液体は、あめ色というより錆びた鉄の色である。正確に言えばそれは液体ではなく、胡麻豆腐みたいに団子の上でふるふる揺れていた。
横には色とりどりの団子があった。コバルトブルー、モスグリーン、ウルトラバイオレット、硫黄色、まっくろくろすけ……全部団子である。それらはやはりすべてくっついて、子供が遊ぶカラフル粘土を半分混ぜた時みたいになっていた。
その横には、ヘドロもち、いやずんだもちがあった。間違いない、あれはずんだだ。そう信じよう。その横のはあんかけだろうな。半透明のあんの中にはまるごとの野菜と団子が突き刺さっている。
ああよかった隣にはカレーがある。団子料理のわけないからあれはきっとムラサが作ったんだろう。そうだと言ってくれ。
一番奥には飛鉢が鎮座している。中には褐色の液体がなみなみ注がれているようだ。ぜんざいだなきっと。
聖はもじもじしながら私達の方を見ていた。伏し目がちな顔にはハートマークに縁取られて「どうでしょうか?」と書いてある。ああくそかわいいなチキショウ
「と、とてもおいしそうですね。」
一輪が声をひねり出した。私達も首をぶんぶん振って頷く。聖に後光が差した。なんと尊いことか。
「よかった。こういうもの作るのあんまり慣れていなくて……ちょっと自信なかったんですけど。」
慣れるとか以前の料理達はむろん全部聖が一人で作ったものだ。明日の太陽を拝むため、私達が異臭漂う厨房へ入ろうとすると「だめ、今日は見ちゃだめです。私が全部やりますから」とか言って追い出された(=吹き飛ばされた)。エプロン姿で恥らうお茶目な聖マジおすすめ
箸をもったまま硬直する私たちが何かに遠慮していると思ったのか、聖はいそいそと団子を小皿にとりわけ始める。団子がくっついて取れないが、聖は無理やり引きちぎった。バツンという音が団子から漏れる。
「はい、これ星の分です。」
ピサの斜塔ばりに傾きつつ、なお倒壊の様子を見せない団子が載った皿を、聖は満面の笑顔とともに私へ差し出した。なんでこの人僧侶なのにいちいち誘惑してくるんだろう
いよいよ逃げようがなくなった。一向に分裂する気配を見せない団子に箸を突きたてながら、お互いの生存を祈願しつつ私達は同時にそれを口に含んだ。
まず最初に襲いかかってきたのは苦味だった。次に襲いかかってきたのも苦味だった。ひたすら苦味だった。苦味は奥歯に張り付いたままいつまで経っても口の中に居座っている。中はボッソボソで唾液を吸い取られるのに、表面はネッチャネチャで苦い。なぜこれが一つの団子の中で共存できるのか、これが平等ということなのか?
たまらず上にあったしょうゆだれ思しきゼリーを口に入れる。だがそれもやっぱり苦かった。しょうゆをこれでもかと徹底的に焦がした香ばしさ、そして喉に刺さる塩辛さと、むせるほどの酸味と、舌がひん曲がるほどの甘みが押し寄せる。今全ての味覚が等しく私の口の中に存在しているのだ。私は平等という理想にいくばくかの不安を覚えた。そういえばうま味がいないか。なんでいないんだ。
「どうですか星?」
「こ、これほどのものは食べたことがありませんね……どうすれば作れるのですか?」
聖は「うれしい……」と言って顔をほころばせた。あれを褒め言葉だと取ってくれるんだ。ホントいい人だよなーもぉー
「普通は米粉で作るそうなんですが、がんばりすぎたら作りすぎちゃったみたいで粉が足りなくなっちゃいまして……蔵にあった粉を色々混ぜたのです。お恥ずかしい……」
聖は頬を赤らめた。なぜそこでそんなかわいくなるんだ。殺意が薄まるだろ
「そ、それふぁ……小麦粉とかですか?」
団子に奥歯が盗られそうなムラサが尋ねる。
「それもあったかな。あと重曹? でしたっけ。あれを入れました。一袋。あと……ホウ酸……?」
ナズーリンが口を半開きにしたまま泣きそうな顔でこっちに助けを求めている。がんばれ、死ぬときはみんな一緒だ。
ぬえは半ばやけくそになったようにカラフル団子を食い始めた。一個ほおばるごとに信号機みたいに顔が変わる。
「ぬえ、そんなにがっついてはいけませんよ。」
聖によるとカラフル団子の染料は「ないしょです♪」らしい。だからなんでそんなにかわいく言うんだよコンニャロ怒れなくなっちゃうだろ
私もやけくそになってずんだもどきに勝負を挑んだ。……え、えぐい
「本当はお豆を使うそうなんですが……炭水化物とたんぱく質だけでは栄養が偏っちゃうかなと思いまして、今朝採ってきた山菜で作ってみました。」
聖は優しいなあ。わざわざ私達のために朝早く山に登ってゼンマイやらウドやらセリやらワラビやらコゴミやらを一つ一つ摘んで、それをすり潰してくれたんだ……よく見たら団子にはヨモギ混ぜてあるじゃん。手が込んでるなあ。これでアク抜きさえちゃんとしてくれたらまだよかったんだけどなあ。重曹あんなに使ったのに。あとは山菜の中にトリカブトやドクゼリが入ってないことを祈ろう。
一輪はあんかけと格闘していた。料理見本のように皿ごと持ち上がったそのあんは、団子より固そうだ。野菜を噛むごとに、ボリゴリという野趣溢れる音が部屋を揺らす。顔には「しょっぱくて血管が千切れそう」と書いてあった。
「どうですか? 先日一輪が作ってくれたあんかけ豆腐がとても美味しくて、私なりにアレンジしてみたんですが。」
「ふぁ、ふぁい。すごく……よくできていると思います。」
念のためフォローしておくと一輪が作ったあんかけ豆腐は大変美味しかった。決してにんじん、大根、ごぼうが土から掘り出されたままの形で入ってたりはしなかった。干ししいたけの石づきをとらず、水で戻すこともなくあんに浮かべたりしていなかった。ほどよくとろみが付いた滋味深いあんであり、石鹸みたいな煮こごりじゃあなかった。
「そうそう、アレンジといえばこのカレーもそうなんです。ムラサが食べさせてくれたとき私とても感動してしまって、いつか作ってみたいと思っていたんです。是非食べてみてください。」
やったねムラサ。聖のご指名だよ。あの団子カレーさっきから蒸れた酸っぱい臭いがするんだよね。
「ふぼっ!……はい、これはすごいんじゃないでしょ、か?」
「そんな……私なんかぜんぜんダメです。ムラサをびっくりさせたかったんだけど作り方や材料がよく分からなかったので、里の調理人やお山の神社の皆さん、吸血鬼のメイドさんなどにアドバイスをいただいたり、あと八雲さんに外から材料を分けてもらったりして作ったんです。皆さん本当に良い方たちで」
カレーの中には大量の香草がぷかぷか浮いていた。犯人はあれか。誰だよ聖にハーブなんか教えたやつは。オーバーキャパもいいとこだろ。パクチーとレモングラスまみれのこんにゃくが不憫で仕方ない。
しかし我々を思うこの健気さ、がんばりはどうだ。聖の真摯な想いに人妖が心動かされ協力を引き受けたのが眼に浮かぶようだ。昨日はバレンタインだかで幻想郷も浮かれていたが、みんなこの聖の姿勢を見習ってほしい。聖が手作りチョコとか作ったら幻想郷が消滅するだろうが。
聖は飛鉢をかき混ぜた。やばいすごいぞこれ。吐く、吐く!
「一緒に異国の果物まで頂いてしまって……甘味ですからぜんざいに入れたら美味しいかなと思って作ってみたんです。栗ぜんざいみたいな感じで。」
一つ断っておくと聖が作るあんこはたいてい"甘味"ではない。いまだに砂糖と片栗粉の区別が付かない人なのだ。お姉さんキャラなのに天然ドジっ子なんだぞ参ったかこの野郎
どうやら今日は片栗粉じゃなかったらしい。あんこは固形ではなかった。成長したんだなあ。でもね聖、キウイとかマンゴーとかイチゴとかドラゴンフルーツは、あったかいぜんざいに入れるものじゃないと思うよ。
さあ聖特製のぜんざい、早速いただいてみましょう。……うーん生煮え小豆のゴリゴリした食感と、ねっちょりもっそりの苦団子、そしてほんのりレアに火が通ったドロドロトロピカルフルーツが壮絶なハーモニーを奏でております。砂糖の代わりに入れたたっぷりの塩と全然隠れていないココナッツミルクが口の中で取っ組み合いをする中、それでもハーブとフルーツのエキゾチックな臭みがきちんと利いているあたりは流石ですね。白濁したあんこに浮かぶキウイとドラゴンフルーツの種はちょっとしたトラウマ映像といったところでしょうか。
「どうでしょうか、美味しくできたでしょうか。」
「な、なかなか個性的な味だね……どうだい聖、君も少し食べてみては」
「いえ、私のことなど構わないでくださいナズーリン。私は皆が食べている姿を見るだけでおなかいっぱいです。」
ナズーリンのささやかな抵抗は、慈愛に満ちた笑顔でばっさり否定された。けしからんほどの笑みだ。キスしたい
「ああいけない。もう一皿あるんでした。皆さんは食べていてくださいね」
聖は慌てて厨房へ駆けていった。その言葉が示唆する絶望すら今の私達には些細なことだった。目の前の大量破壊兵器はそれほど圧倒的な禍々しさを放っている。
「もうやだ……こんな正体不明のもん食べらんない……」
口火を切ったのは涙目のぬえだった。
「うるさい、黙って全部食べるのよ。残したら聖が泣いちゃうでしょ。」
「待てムラサ、ホウ酸団子かもしれないんだぞこれ。泣く泣かない以前に食べ物ではないぞ。」
「びびってんじゃないよナズーリン。あたしら妖怪よ。そんなもんで死ぬもんですか。」
ナズーリンとムラサの応酬はなおも続いた。私が二人の間に割って入ろうとすると、突っ伏した一輪が呻く。
「ごめ、も無理……吐きそう」
一人頑張って腹に生物兵器を押し込んでいたのだ。既にあんかけ(六人分)はほぼ完食である。一輪は本当に健気なやつだとつくづく思う。
だが、どうやら一輪の言葉は私達の間に摩訶不思議な同調を引き起こしたようだ。胃が一斉に消化を拒否し始めた。やっぱりホウ酸か? トリカブトか? それともそれ以前の問題か?
「ぎもぢ、わる……」
「ぬえ死ぬな! ダメだご主人、このままじゃまた共倒れだ。はやく宝塔で浄化しよう。」
「だめっ!」
ムラサは脂汗をたらしながら卓に覆いかぶさった。
「せっかく聖が作ってくれたんだ。そんなことさせない。これは全部私が食べる。」
ムラサは私達の返事を待たず団子をむさぼった。顔を真っ青にして団子を口にねじ込むそれは、まぎれもなく苦行だろう。
ナズーリンは私の英断を待っていた。私はこんな状態になってもまだ決心しかねていた。やはりいつまでたっても無能な代理のままだな、私は。
でも、やらなきゃいけない。もう逃げることは許されない。聖が私にとって大切な存在であるのと同じくらい、ここにいる皆は私にとってかけがえのない者たちなのだ。千年間眼を背けていた私を、あの時と同じく迎えてくれた彼らは。
聖が戻ってきた。手にある大皿には炭が堆積している。すごいよ、一目見てギブアップだよ。厚揚げで団子を挟んでまた揚げたんだね。その発想の時点でもう無条件降伏だよ。というか揚げ物放置して今までずっとこの部屋にいたんだね。聖、あなたは本当にマーベラスだよ。ガンガンいきすぎだよ。
「ちょっと揚げすぎちゃいました」なんてかわいい顔しながら炭を卓の上に置く聖の前へ、ふらつく体を引きずった。もう私も限界らしい。
「聖、お伝えしたいことが、あるのですが」
涙を浮かべて団子を口に収めるムラサも、血の気が引いた顔の一輪も、苦痛に顔をゆがめるぬえも、変な汗をかきながら唇を震わすナズーリンも、みんな私と聖を見ていた。千年前の過ちが、人と妖の間、そして結局は私達自身の中にあった無理解故であったなら、いまこそ告げなければならないだろう。千年間私達と聖の間にあった決定的な齟齬を。
「今日の料理、聖が私達のために心をこめて作ってくれたことはわかります。ただ、これは食べられません。」
聖の顔も青ざめた。そんな顔しないでほしい。お願いだから。
「聖はいつも料理を作るとき味見をしませんよね。ですから気付かなかったのかもしれません。これは、なんというか、美味しくないです。それも相当。」
「え、でも、皆……」
「聖を傷つけたくなかったのです。私達のために一生懸命作ってくれる聖に申し訳なくて、その、ずっと言えなかったのです。」
「じゃ、そんな、前から……?」
「千年前から、封印される前から……すみません。言わなかった私たちが悪い。ただ、これは味が悪いだけでなく、危険なんです。毒が入っているかもしれない。蔵の中の粉には食べられないものもありました。山菜は慣れない者が採ると毒草と区別できないことがあります。」
聖は目に涙を浮かべて呆然とこちらを見ていた。ああ、おねがいだ。そんな顔をしないでくれ。辛くて吐き気が我慢できなくなるじゃないか。
「すみません、本当にすみません……私は何も気付かず、また貴方達の思いをなにも理解せず、身勝手に振舞ってしまった……」
「聖、オエッ……いいの。聖だけじゃない。私らも身勝手だったんだ。」
「そうだなムラサ。ハァッ、ハァ……まずいものをまずいと言わず食べるというのは、ウグきっと身勝手な気遣いだったんだろうな。」
「私たちが姐さんにちゃんと料理を教えていれば……ウグ……こんなことにならなかったんです。それを……ゥ……姐さんのためだなんて言って誤魔化してたのは私たちです。」
「あ゛だじあんま関係なくない?」
「あなたたち……」
聖は猛然と目の前の団子を口に押し込み始めた。そうなのだ、なぜかいつもこうやって暴走するのだ。きっと禊なんだろうなあ
「ひじ、り……やめろ」
「皆さんにこんなものを食べさせて、私は愚かです。こんな人達にフゴッ!」
聖もあまりのマズさに耐えられなかったらしい。味覚はまともなんだなと、少しだけ安心した。
それでもなお聖はお皿をつかもうとする。その執念を止める余力は、私を含めそこにいる誰にも残っていないように思えた。聖は「食べ物を粗末にしてはいけません」という教えをきっと忠実に守っているのだろう。今まで散々破ってきたわけだが。
キングスライムみたいになった団子を口にねじ込もうとする聖を、しかし制する手が残っていた。雲山だった。残った団子を全てつかんで、彼はそれを一気に口に押し込んだ。ワシだって同じ気持ちだよ――そんな声が聞こえた気がした。
やっと私達は一つになれたのかもしれない。随分と遠回りしたんだろう。今私達は同じ思いを共有することができている、そう確信できた。
一輪は卓に突っ伏したまま嘔吐した。
ぬえも負けじと卓の上にぶちまけた。
ムラサは口に入れた団子ごと噴射した。
雲山は部屋に虹をかけた。
ナズーリンは直立不動のまま撒き散らした。
聖はダイナミックに吐いた。
私は皆を見ながら思いっきりゲロった
一斉に、盛大に、ゲロをぶちまけた。
今食った団子のような物体も、今まで溜めこんでいたものも、全て吐いた。それはとても爽快だった。
命蓮が、微笑みかけてくれた気がした。――やっと言えたね、ありがとう。と
気付くとベッドの上だった。消毒液の臭いに混じって鼻腔を撫でる若竹のみずみずしい香り。そこは診療所だった。
「ああ、星。よかった……」
ベッドの横には顔をくしゃくしゃにした聖が私の手を握っていた。澄んだ眼からほろほろと落ちる金色の水。もう押し倒していいかなこの尼さん
「ごめんなさい、本当にごめんなさい……」
すっと振り向くと周囲のベッドには一輪やムラサ、ナズーリンにぬえもいた。皆一応意識はあるらしい。おもわず安堵の息が漏れた。
「よかった。意識が戻ったのね。」
聖の後ろから顔を覗かせたのはこの診療所の責任者、確か名を八意永琳といったはずだ。横に立つ助手の妖怪兎に簡潔な指示を出しながら、彼女は私を触診する。ちょっとこそばゆい。
「うん、大丈夫そうね。胃の洗浄は済ませたけど、念のためもう2、3日様子見ましょうか。」
八意女医の的確な診断は私を勇気付けた。もうしばらくすれば命蓮寺に戻れる。そしてみんなで、もう一度やり直そう。
「でも白蓮さん、貴方一体どういう料理を作ったの? 食中毒というか、バイオテロの検死報告みたいな毒物リストなんだけど。」
「はい、面目ありません。ずっとこれでいいのかと思っていたのですが、どうすればいいのかも分からず。私は普段何も食さないので。」
八意女医は首をすくめていた。面目ないのはこちらも同じだ。こんな聖を今までずっと放置していたのだから。
「仕方ないわね。じゃあ私が料理の基本を教えてあげるわ。この子達が退院するまでみっちり仕込んであげるから。」
「本当ですか永琳さん。それはとても助かります。」
聖は胸元で手を合わせて、顔を輝かせた。ああ、それもいいかもしれないな。私達だけでなく、他の方に習うというのも視野を広げることになるだろう。我々はどこか仲間内の団結に偏りすぎる。
そう思って何気なく視線を横に向けた。助手をしていた妖怪兎の顔が、完全に死んでいた。
「まかせなさい。いい、料理は科学なの。食材から抽出される各種成分の量と配分が完璧ならば、私達の味覚は満足を得る。そういう風に生物はできているの。料理のレシピといった前近代的なものはそういった科学的観点を一切考慮していない。なによ"適量"って。何ピコグラムかっつーの。だからああいったものを参考にしてはだめよ。」
「はい。参考になります。」
「私が作った特性のクロマトグラフィーを使えば、味見なんかしなくても味覚に最大の効用をもたらす分子量とその配合比率を一発で導き出してくれる。大さじだとか、強火でだとか、何ミリぐらいの薄切りで、とかそんなアバウトじゃダメ。まず素材を切断する大きさ、量、そして分子の活性化に最適な温度や反応時間を一万分の一単位で正確に……」
ああ、やばいぞ。なんかこの人絶対やばいぞ。絶対料理とかできなさそうだぞ。というか聖こくこく頷いて一生懸命メモってるけど意味わかってんのか、ああもうかわいいなあ
念のため助手の兎さんに視線で確認メッセージを送ってみた。諦めにも似た爽やかな笑顔が返ってきた。たぶん私もあんな顔をしているんだろうな
「よし、じゃあ最初の練習ってことで一緒におかゆ作りましょう。たいしたことないわ、たしか加熱してでんぷんを糊化させるだけよね。」
「まあそうだったんですか。はじめて知りました。」
二人は意気投合して部屋を出て行った。兎さんは私達に胃薬をくれた。かたじけない。
また突貫工事です。飛び込みごめんなさい。
ネタを決めた後配役で悩んだのですが、結局この人選にしました。魔理沙→香霖、勇儀→パルスィあたりが他に候補でありました。それぞれ一短一長がありまして、特に生臭ものが使えないのが書いていて辛かったです。
んh
作品情報
作品集:
24
投稿日時:
2011/02/18 17:02:43
更新日時:
2011/02/19 02:05:32
分類
東方ゲロ娘
寅丸星
重曹…、ああ、よくバラエティ番組で料理をしたことの無い女性芸能人が小麦粉と間違えて使いますね。
ホウ酸…、ああ、よくゴキブリやネズミに食べさせる団子をこれで作りますね。殺す目的で。
最後には、皆が胸に秘めた思いと胃袋の中に押し込まれた破壊兵器をぶちまけましたね。
しかし、悲劇は終わらない。
星君達は、化学薬品が混じった糊でも食わされるのかな?
聖の笑顔の前では喰わざる得ないな
メシマズジャンルも奥が深そうだ。
ゲロとは別で祭りやっても良いんじゃなかろうか。
食べさせられたナズーリンやムラサや一輪が悲惨過ぎってわけですよね。
そりゃ彼女たちの立場だったら、博愛している恩人の料理は食べないわけには行かないからねぇ。
しかも完食白蓮の顔が立たないから…
我輩も白蓮のゲロマズ精進料理は食べたくないですけど、食べざるを得ないのはつらすぎますよ。
言いたい事はそれだけだ。
同時にゲロっちまうなんて、まったく仲のいい事。
おつかれさまでした。面白かったです。
ひじりん可愛い!
大事なことなので2回言いました☆
・・・味覚もまともじゃないと思っていたら、味覚はまともだったんですね・・・
味見しようよひじりん・・・でもそんなところが可愛いなァコンチクショー!