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『イジメではよくあること』 作者: 穀潰し
東風谷早苗は幼少の頃よりイジメられていた。
それは彼女の現人神たる力の所為なのか、それとも緑色の髪という外見上の特徴が原因なのか理由は定かではない。
もしかしたらただ単に、加害者達の憂さ晴らしに選ばれたのが彼女だったというだけなのかも知れない。
まぁ何にせよ。
彼女がイジメられていたのは紛れもない事実だった。
『気持ちの悪い蛙女』
『神様が見えるとかいう大ボラ吹き』
『頭の緩い可哀想な娘』
そんな文字が教室の黒板を彩る。それを彼女は毎回涙を堪え消していた。
その背後からはクスクスという笑い声。しかし振り返れども犯人は分からない。
それはそうだろう、彼女を笑っているのは『クラスの誰か』ではないのだから。
黒板に、机に、そしてノートに。一体何時書いているのかと逆に感心するほど、早苗を貶す言葉は増えていった。
もちろんそんな事が続けば、流石に彼女も担任へと相談する。
しかし、早苗は心根が優しい少女である。周囲に下手な波風を立たせないように、『イジメ』という単語は口にせず、遠回しに「最近クラスの雰囲気が悪くないか」と口にした。
そして幸いなことに担任も賢明だった。彼女のその言葉で何が起きているかを大方理解したのだ。
だから担任は早苗にこう言った。
「注意はする。だがイジメられる方にも問題があるはずだ。まずはそれを見直してみろ」と。
その言葉を聞かされた時の早苗の心情たるや、幾ばくの物だったか。
しかし、担任に見放される、それだけならどれほどマシだっただろう。
次の日より、イジメは一層凄惨になってきたのだから。
彼女が担任へと告げ口したことが知れたのだろう、今まで控えめに視ればからかわれる程度だった内容が、実力行使へと発展したのだ。
もはや殴る蹴るは日常だ。しかも腹や背中など普段なら服に隠れ見えない場所ばかりを狙う分なおタチが悪い。さらには鞄や上履きの中に剃刀の刃が混じり、椅子や机には画鋲が設置される。
いつの間にか彼女の手は絆創膏だらけになっていた。
ある日、いつものように起床し、顔を洗いに洗面所へとやってきた早苗。
今日もまた『学校に行かなければならない』、そう彼女が考えた瞬間だった。
「っ!? うぇっ、うぉぇえええええええっ!!」
彼女を襲う猛烈な吐き気。異が縮こまり、内容物が押し上げられ、食道を逆流し、口外へと飛び出す。しかし早苗が急な身体の異変に目を白黒させるも、嘔吐は止まらない。内容物を全て吐き出し、黄色い胃液のみになってもまだ吐き出し続ける。
「げぇっ!! おごっ!! げぇほっ!!」
それがどれほど続いたか。
ふと気付けば彼女は洗面台にもたれ掛かるように倒れていた。激しい嘔吐によって貧血を起こしたのだろう。まずは口を濯がないと……と、ぼんやりした頭をむりやり働かせ立ち上がる早苗。
その顔色はともすれば病人のそれ。頬は痩け、顔色は青を通り越し白くなっている。
それでも彼女はそんな身体を引きずり、学校へと向かっていった。
そして異変は始まる。
次の日も、その次の日も、いつも朝に嘔吐が襲ってくる。学校へ行こう、そう考えるだけで胃は裏返り、体中から冷や汗が止まらなかった。
何か悪い病気にでもなったかと考えた早苗だが、それも訪れた病院で「原因はストレス」だと言われるまでだった。
ストレスと言われれば原因など1つしか思い当たらない。しかし早苗に、それを言い訳にして学校を休むことは出来なかった。
彼女のその強制的とまで言っていい行動理由。その根幹にあるのは「家族と、家族同然の二柱に心配を掛けたくない」という健気な考えだった。
その考えが着実に自身の身体を蝕んでいると理解しているにも関わらず、早苗は耐えた。もはや朝の嘔吐が日常となるまで彼女は耐えた。
(行きたくない行きたくない学校怖い学校怖いジメられる罵られる蹴られる殴られる行きたくないあいつらの顔なんて見たくないあんな担任の所なんか行きたくない痛い痛い痛い痛い怖い怖い話怖い怖い怖いもうやだ行きたくないなんで私ばかりやだやだやだやだでも行かなくちゃ心配掛けちゃう心配されちゃっお父さんにもお母さんにも知られたくない諏訪子様にも神奈子様にも心配は掛けられないそうだ私が耐えれば済むこどなんだちょっと我慢するだけなんだそうだずっと続く訳じゃない大丈夫私は耐えられる我慢できる簡単だああでもやっぱり怖い怖い怖い怖い何されるの何言われるの行きたくないよいたいのやだよ学校行きたくないよでも行かなきゃ学校行かなきゃ)
毎朝思考に蝕まれながらも早苗は学校へと通った。それはもはや義務とか責任感とかではなく拷問へと代わっていた。
いっそのこと全てぶちまければどれほど楽になるか。虐めてくる同級生達を力を持って戒めれればどれほど楽か。役に立たない担任を首に出来ればどれほど気分がスッキリするか。悪意ある存在を根刮ぎ纏めて消してしまえばどれほど彼女は救われるか。
けれどもそれは儚い夢だった。
『今』彼女が身をおいているのは科学が魔法を凌駕した世界。そんな世界で超常的とも言える奇跡の力を使えば、待つのは異端として身の破滅のみ。彼女が風祝という社会上の地位についているのだってその風当たりを少しでも緩めるため。自らそれを壊すことなど早苗に出来るはずもない。
両親から顔色が悪いと言われれば減量中だからと嘘をつき。
二柱から困り事はないかと尋ねられれば何も心配ないと誤魔化し。
毎夜悔し涙で枕を濡らし、毎朝嘔吐で洗面台を汚し。
それでも彼女は耐えた。
自身さえ耐えれば何時かは終わると信じて。
そして月日は流れ卒業式の日、早苗は同級生に呼びだされた。
最後の最後まで、ともはや観念した早苗に、同級生は唐突に頭を下げた。
「今までゴメン」
いきなりの展開に口をポカンとあけたままの早苗に構わず、同級生は自信の連絡先を書いた紙を早苗に渡しつつこういった。
「仲直りの証ってわけじゃないけど、貴方の連絡先を教えてくれないか」
それは今後も連絡を取り合おうという意思の表れ。今まで虐められていたことも忘れ、早苗は二つ返事で了承した。そしてその同級生をかわぎりに、今まで早苗をイジメていた者、そしてそれを傍観していた者立ちがこぞって早苗に頭を下げだした。
「下らないことをしてしまった」
「視て見ぬフリしてゴメン」
普通の人間なら何を今更と怒り狂うところだろう。だが早苗は優しかった。優しすぎた。だから今までの苦痛も忘れ全てを許した。そしてふと気付けば彼女の手帳は同級生の連絡先で一杯になっていた。その日、帰宅した早苗を視て二柱は驚きの声を上げた。まるで憑き物が落ちたみたいにすっきりしていると。
そして年の瀬、早苗は胸を高鳴らせながら年賀状を書いていた。傍らには連絡先で埋まった手帳。それと見比べながら1つ1つ丁寧に手で書いていく。普段なら現代っ子の早苗もメールの1つで済ませるところだが今回は特別だ。
どんな返事が来るか、それだけを楽しみに年を越し。
そして新年、朝一番にポストを覗いた彼女の目に映ったのは、自身が出した枚数と同じ数だけ帰ってきてる年賀状だった。
跳び上がらんばかりに喜ぼうとして。
そこで早苗は奇妙なことに気が付いた。
全ての年賀状の裏面。本来なら挨拶やメッセージで埋まるはずのそこに、まるで判で押したような同じ文面が踊っていた。
そこにはこう印刷されていた。
『宛先に、尋ね当たりません』、と。
まずはここまでお読み頂き有り難うございます。筆者の穀潰しです。
今回は早苗さんイジメで。といっても肝心のイジメシーンを書く力量がないので経過観察みたいになってしまいました。また最後が判りづらいかもしれませんが、最後の最後まで虐められてたってことですね。
あと分類でも言ってますが、絵板のちかど様作『早苗ちゃんはいじめられっ娘なんで』に影響を受けております。というかそのままです。もし問題があるようでしたら削除させて頂きますので遠慮無く仰ってください。
>NutsIn先任曹長様
是非ともお願いいたします。
>kyoune様
早苗さんは裏も表もある凄いキャラですね。
土下座謝罪のみで済めばいいのですが……。
>3様
そりゃもうヤルことなんて1つだけ……ねぇ?
>4
そしてその絶望の表情の早苗さんで興奮するんですねわかります。
>5様
楽になろうたってそうはいきませんよ。
>6
ある少年漫画からです。
>7様
そうなんですか? 名前が合ってても住所が滅茶苦茶だったら届かないと思うんですが。
>いぬうえ様
ハッピーエンドなんて産廃には存在しません。
>9様
救い……ですと? よろしいならば自殺だ。
>狂い様
綺麗なまま幻想入りしちゃったからあんなにはっちゃけたんですかね?
>11様
校内におけるイジメに対しての学校関係者の役たたずっぷりは異常。もちろん現実でも。
>12
いじめる時はね、なんというか救いがあっちゃ駄目なんだ。
ひとりで、ゆっくり静かに、絶望に浸れるように。
穀潰し
作品情報
作品集:
24
投稿日時:
2011/02/21 00:51:12
更新日時:
2011/02/23 15:47:00
分類
東風谷早苗
短編
絵板No,3623ちかど様作『早苗ちゃんはいじめられっ娘なんで』を見て胸を打たれた。
返信完了
イジメ、かっこ悪い。
私流の後日譚を書きたい気分になりました。
ビッチじゃない早苗さんがこんなにも愛しい。
嘔吐する早苗さんの背中をさすって抱きしめて、「大丈夫だよ」って言ってあげたい。
イジめてた奴らを全員引っ張り出して、早苗さんと神奈子さまと諏訪子さまの前で泣くまで土下座させたい。
それを考えると恐ろしい…
ある程度間違ってても名前はいってるとだいたい届くんだが・・・w
今までビッチとか思ってて本当にごめんよサナきゅん!
後者はイジメを防ぎようがないのがなぁ… 後者の早苗さんに「お前にも責任がある」なんて…このダッチが!!!
割と素直に高度なテクニックに感心しました
二年生になってイジメ側が頭を下げて謝った。
今まで溜めてきた怒りをどうすればいいのか分からず複雑な気持ちになった。
なんであの頃の自分は仕返ししなかったんだろうなぁ…
早く消えてくれねーかな。
小説としては面白かったです。
苛めたほうは忘れても、苛められたほうは一生心に残るもんです。
なのに読んでしまうこの心の矛盾は何?と思いながら読んでたらクラスメイトが謝ってきたから「あ、ハッピーエンドなのかな」と思ったらまさかのオチで見事に裏切られました。
やっぱり産廃ではハッピーエンドを求めてはいけないのですね!!