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『最近のよくある事件』 作者: NutsIn先任曹長
東風谷早苗は幻想入りすることになった。
信仰が得られなくて困っていた二柱の神、八坂神奈子と洩矢諏訪子の提案で、
我が家でもある守矢神社と共に幻想郷に移住することになったのであった。
自宅が幻想入りしてしまうので近所の分社に引っ越すことになった両親との別れを、早苗は惜しんだ。
だが、このセカイでの早苗の心残りは、それだけだった。
贄の生活はもうたくさんだ。
幻想郷は、最低限の決まりごとがあるとはいえ、弱肉強食が幅を利かせているとのこと。
上等だ。
常識に縛られ、折角の賜り物である『奇跡』を行使できないセカイに比べれば、天国だ。
「いいのかい? 幻想入りするということは、このセカイには、最初から存在しなかったことになるということだよ」
神奈子が早苗に最後の確認をした。
早苗の意思は揺るがなかった。
守矢神社は、
二柱の神は、
生き地獄に心をすり減らされた現人神は、
人々の記憶から、
役所や学校の公式文書から、
このセカイから、
過去から現在までの存在記録を抹消された。
当然、
現人神の心を傷つけ、
そこから滴り落ちた生き血を啜って青春時代を謳歌した、
若者達の記憶も、
該当箇所がNullに置き換えられた。
だが彼らは、
生贄を嬲り者にして得た、
快楽の麻薬の味は、
忘れることは無かった。
幻想郷に来た当初の早苗は、
二柱の信仰を得んと、幻想郷唯一の神社を潰しにかかった。
外界での理不尽な暴虐の反動か、それは極めて高圧的なものであった。
すぐに、その神社の巫女、博麗霊夢から制裁を受けることになったが。
幻想郷は、そんなはねっかえりの新参者を受け入れた。
博麗神社での、守矢神社の分社建立記念兼、守矢一家歓迎の宴会が行なわれた。
早苗は、自分を凌駕する力を持った人妖に囲まれ、初めての酒に酔いしれた。
恐怖の権化である妖怪達に、無理やり酒を飲まされているというのに、
自分をコテンパンにした紅白巫女と黒白魔法使いに、さきの『異変』での失態をからかわれているというのに、
早苗の顔から笑みが消えることは無かった。
外界では、
早苗達が存在しないことになっても、
恙無く人々は日々を暮らしていた。
だが、
かつて優しき心を持った風祝の涙を甘露としていた餓鬼共は、
再びそれを味わいたいと、涎を下品な口元から垂れ流していた。
学校を卒業した、早苗の同級生達は、それぞれの進路を選択し、離れ離れになった。
そして、破滅していった。
ある少女は結婚して、やがて一児を設けた。
愛する夫との愛の結晶を見つめた彼女は、
舌なめずりをした。
赤ちゃんの泣き声がうるさいと小突き、
赤ちゃんの取り替えることを怠ったおむつから漂う排泄物の匂いが臭いと頬をつねり、
赤ちゃんにお乳を与えることが恥ずかしいと何も栄養を与えず、
赤ちゃんの育児が面倒くさいと首を締め上げて一年に満たない生を終わらせた。
彼女は警察に逮捕されたが、悪びれる様子は無く、
当然、重い刑を求刑された。
ある少女は就職して、やがて多数の部下を持つ立場になった。
配下のやや物覚えの悪い部下の勤務評定を書いていた彼女は、
酷薄な笑みを浮かべた。
部下の些細な失敗を取り上げては大勢の目の前で罵声を浴びせ、
部下に無茶な目標を勝手に決めては日付が変わるまで家に帰さず、
部下を疲労困憊の状態にしたにも拘らず無理やり飲みに誘っては酔い潰し、
部下を精神的、肉体的に追い詰めて自殺に追いやった。
彼女は部下の遺族から糾弾されたが、逆に部下の無能振りを声高に叫び、
当然、会社から見限られた。
ある少女は福祉関係のボランティアに取り組み、やがて老人達の余生を過ごす施設で働くようになった。
激動の時代を乗り切って安住の地を得た好々爺達に接していた彼女は、
慢性的なイラつきを覚えるようになった。
老人を寝かせる時にベッドに乱暴に放り出し、
老人を入浴させるさせる時に湯の温度をわざと高温に設定し、
老人が粗相をしたのを見ては笑いながらケータイのカメラで動画撮影をして、
老人がコツコツ溜めた貯金を言葉巧みに巻き上げた。
彼女は施設の内部調査で追及を受けたが、否定を続け、
当然、悪行が白日の元に晒された。
ある少女は、国内有数の難関有名校に進学した。
以前は学級委員として、クラスをまとめ、困ったものがいれば率先して手助けを行い、学校行事にも積極的に参加した。
さらに器量も良く、性別を問わず生徒、先生問わず人気があった。
スポーツ万能で学業も優秀な彼女が、最高学府に進学したことも当然のこととして見られた。
彼女こそ、
邪教の巫女の如く、早苗を生贄として選び、
早苗の青春時代を涙で滲んだ暗黒に染め上げた者共の中心人物であった。
進学した学校で内気そうな同級生の少女を見つけ、鬱憤晴らしにちょっかいをかけたが、全然相手にされなかった。
頭にきた彼女は、友人達とつるんで更なる嫌がらせをしようとしたが、良識ある友人達に止められてしまった。
鬱屈している彼女は少女のレポートが高評価を受けたのを知って、
少女のゼミの研究室に忍び込み、使用者が少女の名前になっていたパソコンのデータを消去してやった。
このレポートは学校内どころか国際的に評価を受けたものだったが、
故郷を離れて外面を取り繕う必要が無くなり、都会で遊び呆けている彼女がテレビやネットのニュースなどチェックするわけが無く、
当然、そんな事を知るわけなかった。
生徒の名誉ある偉業を消された学校は、警察に通報することも辞さない厳しい態度で、全力で調査した。
その結果、今までの少女に対する嫌がらせ、目撃証言、
とどめに、別のパソコンで実験の観察に使用していたWebカメラに映りこんだ犯人の人相から、
彼女の犯行だとすぐに判明した。
幸いある程度はバックアップが取ってあり、憐憫の情を見せた少女の嘆願もあり、
学校は彼女に対して温情ある処分を行なった。
かくして、退学処分だけで済んだ彼女は、都会を追われ、生まれ故郷に帰ってきた。
しばらく実家でブラブラしていた彼女は、夜中、急に思い立って外出した。
足は知らず知らずのうちに、思い出の場所に向かっていた。
長い石段を登ると、神社があった。
狛犬の代わりに蛙が鎮座し、
柱が境内に何本か聳え立ち、
本殿に太い注連縄が飾られた、
不思議な神社であった。
目は知らず知らずのうちに、思い出の人物を探していた。
境内の片隅で掃き掃除をする少女を見つけた。
袖を腕に直につけた青い巫女服を身に纏い、
蛙の髪留めと、
蛇の髪飾りを付けた、
緑の髪の少女であった。
少女は箒を投げ出すと、裏の林に走っていった。
彼女は知らず知らずのうちに、少女を追っていた。
彼女は懐かしい気持ちに包まれていた。
よく彼女と遊んだっけ。
間違い。
よく彼女『で』遊んだっけ。
ヘンテコな神社。
ヘンテコな装束。
ヘンテコな髪の色。
ヘンテコな神様の話。
それを除けば、少女は非の打ち所の無い、平々凡々な女学生であった。
だが、そんなこと、彼女の知ったことではなかった。
他者と異なる箇所がたまたま彼女の目に付いたので、
少女を娯楽の対象として、生贄に選んだ。
神などいないこのセカイでは、
無用の巫女の利用価値など、
この程度だとも考えた。
深夜。
森の奥深くを走る女性が二人。
先頭を行く少女が転び、足首を押さえて蹲ったことで、追いかけっこは終了した。
彼女はわざともったいぶった足取りで少女に近づき、
少女の前に回りこんでしゃがみこむと、
「さ〜なえっ!!」
かつてと同じように、親しげに呼びかけ、
「何、逃げてんだよっ!!」
かつてと同じように、暴力的に髪を鷲掴みにして、
「おらぁ!!」
かつてと同じように、乱暴に顔を上げさせ、
「ばあああああぁああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
少女の、
大きな一つ目と、
大きな口と、
大きな舌を、
間近で凝視することになった。
「っっっっっきゃああああああああああぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
慌てて少女から手を離した彼女は、
しゃがんだ姿勢のまま後ろに倒れ、
背後の崖に転落した。
「!! あぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜…………」
大きな一つ目と、
大きな口と、
大きな舌の、
どことなく茄子を連想させる番傘を持った、
いつの間にか、青い右目と赤い左目の愛らしい顔になった少女は、
震えていた。
感動と官能に、打ち震えていた。
「あぁぁ……、わちき、久々に、お腹いっぱい満たされるぅぅぅぅぅ……」
首都の最高学府。
退学処分にした生徒の元に郵送した事務手続きについての書簡が帰ってきた。
書簡の表には、こう印刷されていた。
『あて所に尋ねあたりません』、と。
事務員は書簡を一瞥すると、何の疑問も持たず、それをシュレッダーにかけた。
穀潰し様作『イジメではよくあること』を読んで、自分流のオチを考えて書きました。
やっぱり陰惨な物語はハッピーエンドで〆ないと。
私の大好物の、産廃ならではのやつで。
ある単語が作中に出てこないのは、非人道的犯罪行為を矮小化すると私は考え、あえて用いなかったからです。
2011年3月7日(月):コメントの返答追加
>1様
そうですか。ケータイでの体裁、表示可能容量について考慮していませんので。
早苗は、主役に取って代わろうとして、結局ヘマをやらかすキャラという位置づけだと考えています。
>2様
どういたしまして。
悪は栄えてはいけないのです。
>砂時計様
この話は、夢に溢れたフィクションです。
しばし、クソッタレな現実を忘れて、お読みください。
>4様
小傘に驚かされた人は、たいてい悲鳴ではなく笑い声をあげますからね〜。
だから、いつもお腹を空かせているのです。
クソアマは、そんな可愛そうな小傘のご馳走になるぐらいしか存在意義が無いですから。
>穀潰し様
ちゃんとお楽しみの対価を払っていただかないと。
だから、早苗がやんちゃをやった場合、陰湿な真似はせず、
正面からボッコボコにしましょう。
>6様
自分の評価が低い理由を、いつも他人のせいにしてばかり。
他人に自分の欠点を指摘されると、いつも逆ギレ。
そういているうちに、周囲から孤立して、教職を追放され…、
あとは、転落人生まっしぐら。
満員電車で、かつての教え子と同じ年頃の少女のケツをさわり、
周囲の人に取り押さえられ、駅員に突き出される寸前に逃走。
ホームから線路に飛び降り、さらに逃げようとする彼の目の前に電車が……!!
ってな末路。
>7様
当然のことをしたまでですよ。
>イル・プリンチベ様
外道には報いを受けていただかないと。
首謀者の少女には、小傘ちゃんのディナーになる名誉が与えられました。
2011年3月13日(日):コメントの返答追加
>幻想保査長殿
欝で終わるのはどうも…。
やっぱり痛快なヤツでなければ!!
NutsIn先任曹長
作品情報
作品集:
24
投稿日時:
2011/02/27 03:16:09
更新日時:
2011/03/13 21:25:49
分類
東風谷早苗
穀潰し様作『イジメではよくあること』を読んで胸糞が悪くなったので後日譚を書きました
小傘
産廃流ハッピーエンド
やっぱり早苗はこうだな
スッキリした終わり方をありがとう
中学校の頃他人をいじめてたりとかする人間はこういう風に不幸にあいはしないんだよな。
逆に他人を虐めた経験を糧にして、上流企業に就職したりする。
虐められていた人間はどこへ行ってもいじめられる存在だから面接で取ってももらえない。
そういうのが事実なんだよなぁ。
でもそれでいくと幻想郷ではっちゃけた早苗さんはその反動を……。
しっぺ返しとはまさにこのことですね。
子傘ちゃんもメシウマってわけですなぁ。
行ってきます!!