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『バテる・ドーム!』 作者: コメごん

バテる・ドーム!

作品集: 24 投稿日時: 2011/02/27 15:16:25 更新日時: 2011/02/28 00:16:25
「第583回・お嬢様定例会議」

紅魔館の一室に、そう書かれた張り紙の貼られた部屋があった。
集まっているのは議長であるレミリアをはじめ、
幽々子、天子、輝夜、そしてなぜか八雲紫が同席していた。

大層な名前の会議であったが、その実態はだらしのないもののようで。
幽々子はお菓子を食べ、紫は雑誌を読みながらローラーのようなもので顔をこすっている。
天子はというと、置いてあったゲーム機で輝夜と遊んでいる様子。

画面では青っぽいキャラが爆弾にはさまれ、爆死したようだ。

「次! 次は私!代わって代わって!」

レミリアが二人に急かす。

「はいはい…、にしても飽きたわね ゲームばっかやってんのも」

コントローラーをレミリアに渡しながら天子は言う。

紫と幽々子はゲームにはまるで興味がないようで、
操作もルールも覚えるのが面倒くさいらしい。

「そうね、永琳も新しいソフトとか買ってくんないし なんつーかマンネリよね」

輝夜はゲームの腕前はあるようだが、飽きっぽい性格だった。

「マジでクソゲーばっかだし、誰か面白いゲーム作ってくれないのかな〜
 もっとこう、アグレッシブでビンビンくるやつ」

天子は飽きもせず楽しそうにプレイするレミリアの背中を見ながらつぶやく。
レミリアはゲームが下手なようで、明らかに手加減されているようだった。
てきとうに相手をしながらジュースを飲んでいる輝夜。

「輝夜、あんたのとこの永琳だっけ 天才なんだからゲームの一つや二つ作ってくれるんじゃない?」

「うーん たぶん専門外だと思うわ 変な薬ばっか作ってて、なんか怖いし
 あんま話しかけたくない」

「ダメもとで頼んでみてよ」

「……まあたぶん無理だと思うけどね、一応…聞いてみる」

退屈には敵わなかったようで、輝夜は永琳に頼んでみることにした。




数日後、レミリアたちのもとに一通の手紙が届けられた。

差出人は輝夜のようで、すごいゲーム機が完成したから
一度みんなにプレイしてもらいたい、という内容であった。
そして自称お嬢様を含む四人は期待を膨らませ、永遠亭に集まってくる。

「ようこそいらっしゃいました 私、薬が趣味の八意永琳と申します」

ギョロリとした目、長い白髪、不健康そうな肌の色をした永琳という女は、
不気味に固まった笑顔でレミリアたちを歓迎した。

ゴクリ… その異様なオーラに飲まれそうになった4人は
不安そうに顔を見合わせながら、案内されるまま永琳についていった。
不自然なほどに静まり返った屋敷には最低限の明かりしかついておらず、
生活の気配を感じ取ることができなかった。

「これが手紙でお伝えしていたゲーム機でございます」

案内された場所は十六畳もある、大きな部屋。
その奥まった場所に件のゲーム機はあった。

「大きい…」

天子が思わずこぼしたとおり、それは6畳分のスペースを占領するほどの大きさで、
絶えず冷却ファンが大きな音を立て、たまに電子音が聞こえた。

「なんだか怖いわ…」

さすがの幽々子も、部屋の重苦しい空気、
ゴウンゴウンとうなる機械に恐れをなしたようである。

「ご安心ください、とても楽しい時間が過ごせますよ 
 輝夜様は既にあちらでお待ちしております」

永琳は画面を指差す。
そこには「待機中・・・蓬莱山輝夜」という文字が顔写真とともに表示されていた。

「やりたいやりたい! 早くやるやる!」

レミリアはやる気満々だ。

「ふふ、何だか面白そうじゃない」

天子は強気な態度を崩さずにいる。
二人の反応に手ごたえを感じた永琳は、彼女らに説明を始めた。

それは、実際にゲームの世界に入ってプレイすることで、
圧倒的なリアリティと興奮が得られるという胡散臭い内容である。
だが、主催者である輝夜が現れないところを見ると、どうやら本当らしい。

幽々子、紫は乗り気でないようだったが、脳みそが若く、
新鮮な時期にしか遊べないというよく分からん口車に乗せられ、あっさり承諾してしまった。

4人は助手である鈴仙に、薬を飲まされると深い眠りに入っていった。
それから少しして、完全に寝入ったのが分かると隣の部屋から怪しげな人影が進入してくる。

「どうやら上手くいったようですね…」
「くくく、バカどもが…」
「過ごさせてもらいましょう、楽しい時間を…」
「フヒヒ…最高の退屈しのぎになるでしょうね」

人魂、メイド、沢山の尻尾、ひらひらした服

どうにも統一感のない集まりであったが、
みな誰もが邪悪な笑みを浮かべているのは同じだった。





レミリアたちが目を覚ますと、そこは四畳半に砂嵐の古いTV。
そして型の古いゲーム機が一台置いてある部屋だった。

「遅かったじゃない、何もすることがないから退屈だったわ」

先客であった輝夜は寝転がった状態からあぐらになると、コントローラーを手に取る。
それにはマイクがついており、外部との通信が可能なようだ。

「永琳、みんな集まったわ ゲームを開始してちょうだい」

そう伝えると、しばらくしてノイズ交じりの音声で

「かしこまりました…それではどのソフトにいたしますか?」

「うーん…そういえばあんまり考えてなかったわね…あなたに任せるわ」

「くくく…よろしいのですか? ええいいですよ、私の大好きなソフトがあります」

ブツン! という音とともに砂嵐だった画面にタイトルが表示される。

『-労奴乱那亜-』

このゲームは、ブラック企業に勤める社員が会社の金を盗み、脱出するという復讐の物語である。

「これなら1週間もかからないでクリアしちゃったし、楽勝ね!」

輝夜は自信満々でコントローラーを握り、ゲームをスタートさせる。

その瞬間、彼女の体が画面に吸い込まれ、一同は驚愕した。

画面には小さく表示された輝夜が立っている。

「これはけっこうリアルね、楽しめそうだわ!」

トテトテと画面内を走り回る輝夜。
順調に金を回収し、警備ロボットの襲撃を回避していく。
だが、集中が切れたせいか、終盤に差し掛かったところでロープから落下してしまった。

「うー…いてて こりゃ失敗したわ〜」

ガシンガシンと何かが近づいてくる足音が聞こえてくる。
輝夜を追跡する警備ロボットたちである。
通路の両側から大挙して押し寄せてきたため、もう逃げるすべが無い。
捕獲できる距離まで接近されてしまった輝夜。

「あーだめか、ハハハ 降参こうs…

言い終わるまでもなく、液体を噴霧された。

「!? 熱っ! 熱い熱い! 痛イ!イダイイダイ! ギャアアアアアーー!」

ロボットの噴射した液体は強力な酸であった。
輝夜の体はたちまち溶けていき、骨、内臓が露出する。

「ダズゲデ! 誰ガーーーアアアア!」

続々と各所から集結するロボによる酸の集中攻撃。
のた打ち回り逃げようとする輝夜だが、数があまりにも多すぎる。
ロボを押しのけようとするも、スタンガンを浴びせられ気絶する。
そこへ今度は火炎放射。

「−−−っ! ぁ…! ぅ…ん゛ーー!」

声帯も焼け落ち、まともな声も出せずに火達磨の輝夜は踊り狂う。
圧倒的な火力で炭化し、ブスブスと煙が上がるだけになると
ロボたちは持ち場へと帰っていった…


プレイ画面を見ていた四人は口をあけたまま動けなかった。

「ななな、何これ!? ど、どうなってんの!?」

ずっと不安そうにしていた紫だったが、
さすがにこの事態を見て耐えられなくなった。

「ククク、お楽しみいただけましたでしょうか?」

ザリザリとノイズが混じった声で永琳が感想を聞く。

「ふ、ふざけないでよ! 輝夜は? 死んじゃったの!?」

天子が大声で叫ぶ。
レミリアはブルブルと震えながら幽々子と抱き合っている。

「はい、死にました ゲームの中では自機を一つ失いました
 まだ大丈夫ですよ、あと2回死んだらゲームオーバーです」

確かにゲーム画面では輝夜がスタート地点に無傷で立っている。

「え、永琳! ゲームはもういいわ 中止しましょ!帰りたい!」

ついさっき無残な最期を遂げた記憶があるため、
輝夜に普段の余裕は全く見られなかった。

「…駄目です、あと二回死んでください
 そうすれば画面から出られます」

永琳からの残酷な一言に輝夜は泣き出した。

「無理!無理よ! もうあんな死に方したくない! し、死にたくないよぉ!」

「あと二回死んでください そうすれば画面から出られます」

「帰ったら絶対許さないんだから! 
 今なら許してあげる、ゲームから出しなさい!」

「あと二回死んでください そうすれば画面から出られます」

「……なんで…なんでなのよぉ…」

機械的に同じ返答しかしない永琳の不気味さに、
さすがの天子も半泣き状態であった。

「紫、あんたの隙間で脱出できないの?」

一応聞くだけ聞いてみる幽々子だったが。

「無理ね…できたら自分ひとりで脱出してるわ」

体である本体はゲーム外に存在しており、このシステムは
プレイヤーにリアルな夢を見せることで成立しているらしい。

「うふふ…みなさんお楽しみのようで…」

永琳でも鈴仙でもない声が聞こえてくる。

「…藍!? どうしてあなたがそんなところに!?」

紫が声の主に驚くと、四畳半の部屋がぐらりと揺れ、天井がごっそり取り払われた。

そこには紫たちと関係の深い者たちが集まっていた。
ただ一つおかしい点といえば、
まるで巨人のような大きさで紫たちを見下ろしているということだった。

いや、実際は逆であり、紫たちがミニチュアの部屋に押し込まれているだけであった。

このゲームは妖夢、衣玖、藍、咲夜、そして永琳の手によって仕組まれた罠だったのだ。

「くそー! あんたら…よくもやってくれたわね
 絶対に後悔させてやるんだから!」

天子が衣玖たちを非難するが、
どう見ても手のひらで遊ばされているのは天子らの方で、何の迫力もない。

「お嬢様方は最近遊びほうけてばかりで、仕事らしい仕事をしていませんでした
 私たちはカリスマあふれる以前の状態に戻っていただくべく、
 更正プログラムをご用意させていただいたのです」

咲夜からの説明に納得がいかないレミリアは。

「そんなこと誰が命令したのよ!
 こんな反逆行為をして、こっちがあんたらを調教しなおしてやるわ!」

その言葉に続き、天子や幽々子も何やらわめき散らす。

「………」

永琳は無表情のまま人差し指をミニチュアの部屋に差し込む。

「な、何するの!?」
「うわーーー!」
「キャーー!」

指はいとも簡単に畳を突き破り、大きな穴を開けた。

「…お嬢様方の生殺与奪の権はこちらにあります
 魂は妖夢さん、プログラムは藍さん、空間は私咲夜が握ってます」

そして咲夜に続き、妖夢が説明する。

「そういうことです 電力は衣玖さん、
 眠りから覚ます薬を持っているのは永琳さんですので、逆らわないほうがいいですよ」

完全に袋のネズミとなったセレブ少女たちは、
いよいよ事態の深刻さを実感せざるを得なくなっていた。

「ゴロゴロしているのがお好きなら、そこで一生遊んでいればいいんですよ
 こっちは別に出てこなくても生活に支障はないですし」

と、辛らつなことを述べる妖夢。

「ま、待って妖夢! 反省した! すっごい反省したし!
 何というかガッツわいてきた、死んだ気になって魂入れ替えるから、許して!」

急に卑屈になる幽々子。

「そうですか、じゃあ信じます」

なぜかあっさり承諾する妖夢。

へへっ、あんたのとこのは話し分かるじゃん。
などとニヤついた顔で幽々子と顔を見合わせる一同。

「ですが誠意を見せてもらいます」

「は? せーい?」

無条件で出してくれると本気で思っていた幽々子は首をかしげた。

「そうです、私はすぐに出してあげてもいいんですが
 それだと皆さん納得しないと思うんですよ」

(チッ…面倒くさい奴だな) と幽々子は内心思った。

「幽々子様たちにはこれからゲームに参加していただきますが、
部下である私たちを信頼して下さい 絶対に裏切ったりしないでください」

「…? 信頼ならしてるわよ! いつだって信じてるわ、あなたのこと」

今まさに部下によって窮地に立たされているはずなのに、
あっさりとそういう言葉が吐けるというのは、やはり大物である。

「よくぞ言ってくれました、さすが幽々子様です」

その言葉を聞き、満足げな表情でこぶしを握り締める妖夢であった。

「では早速開始したいと思います…が、輝夜さん 後二回死んでください
 でないとゲームができませんし、それだとみんな帰還できないのです」

やはりそこは守らないといけないらしい。

「ちょっ!? えー? いや、ないでしょー空気的にさ
 そっちが権限持ってるんだからどうにかできる…

「輝夜!がんばって早く死んでね!」
「誘導してあげるから大丈夫!」
「おなかすいたからさっさと死んで!帰りたい!」

……多くの声援に助けられながら、輝夜は二回惨殺された。




「…さて、準備が整いましたので開始したいと思います
 これからお嬢様方はゲームの中に入り…」

説明をし始めた咲夜であったが…

「えー? また入るのー?」

見るからにやつれた輝夜が抗議の声を上げるが、他の4人に睨まれ、あっさりと降参した。

「プレイしていただくソフトは”ザ・ボマー”」

このゲームは爆弾を設置し、壁を破壊しつつ敵を倒すゲームである。
天子たちが遊び飽きたというのもこのゲームであった。

「それでは、ゲームを開始します」

その声とともに5人の体は画面へと吸い込まれていった。



「こ…これは?」

画面に入った紫は自分の体を見渡した。

紫色の全身タイツ!

どうやら強制的にそういう格好をさせられているようだ。
体のラインが強調され、
処理していなかったワキ毛や股間の陰毛がタイツから飛び出しており、己の怠惰な生活を呪った。

「こ、これは恥ずかしすぎる…!」

どこかへ身を隠そうとしたが、体が動かない。

「何で!? どういうことなの?藍!」

上を見上げるとそこにはコントローラーを持った藍たちがいた。

「大丈夫ですよ紫様、上手くやりますから」

すると紫の体が勝手に動き、壁に爆弾をセットした。
すかさず通路に身を隠すよう、「動かされる紫」。

しばらくしてセットした爆弾が起爆すると、紫の背中を爆風が焦がした。

「ひっ!? 熱っ!」

火薬の臭いと煙で視界が良く見えない。
だが、この一連の流れによって紫は藍によって操作されていることを認識した。

「ちょ、ちょっと! 藍がやってるの!?
 危ないじゃないの! 背中やけどしちゃったかもしれない!」

「だめですよ紫様、動かさないとやられちゃいます
 ほら、何か聞こえるでしょ?」

そういえば、遠くから爆発音が響いている。
やはり他の者たちも同様に、体を操作されているらしい。

「あんた! 頭おかしいわよ!こんなことしてたら本当に死んじゃうじゃない!」

「大丈夫です、ゲームですから まあ、殺られたらごめんなさいね紫様」

どうかんがえても藍は他人事のようにしか思っていない。
実際藍にとっては単なるゲームなのだから当たり前といえばそれまでだ。

一方幽々子は…

「ハー! ヒィーー!フーー!
 よ、妖夢もう動けない、限界なの…休ませてぇ…」

「近くに敵が迫ってます!すぐそこです!
 輝夜さんみたいになりたいんですか?」

「でも、もう走れないの…死んじゃうわ…」

普段あまり激しい運動をしない幽々子の筋肉は限界に達していた。
だが、強制的に動かされる状態では、そんなことは無関係である。
たとえ足が骨折していようとも、妖夢が右ボタンを押せば足が勝手に右へ進む。
そういう仕組みなのだ。

「もうやだあ! 帰る帰る!」

泣き喚きながら強制的に走らされる幽々子。
その時、目の前の壁が爆破され、破片のつぶてが彼女を襲った。

「痛っ! いたたた…」

目前に現れたのはレミリア。
その手には爆弾を持っている。

「幽々子様逃げて!」

逃げるも何も、妖夢の操作で無理やり走らされる幽々子。
体の節々がミシミシと不快な音を立てながらも通路を全力で駆け抜ける。

「うぐーー!ンーー!痛いいだい! 妖夢痛い!
 もう走りたくない! いやだやだやだ痛いの無理!」

幽々子は顔を真っ赤にし、涙、鼻水を垂らしながら歯を食いしばって走らされる。

後ろからはレミリアの爆弾が床を滑りつつ襲ってくる。
通路を右に曲がり終えようとする瞬間、爆風が幽々子の右半身を襲った。

「ギャアアアア! 腕! 足がぁ! 妖夢ーー!」

手足を吹き飛ばされた幽々子は床に転がり、ゴロゴロと暴れる。

「幽々子様! がんばって!
 寝ている場合じゃないですよ!やられちゃいます!」

「……っ! ……っ!」

白目を剥いたまま、片手片足の状態でキョンシーのようにジャンプしながら逃走を図る幽々子。
爆圧の衝撃と恐怖で脱糞したらしく、
全身タイツのお尻は黒く変色し、不自然に盛り上がっていた。

「お嬢様!チャンスですよ!
 西行寺さんの先は行き止まりです!」

「さ、咲夜…もう走れない! 水を飲ませて…」

攻撃的なプレイスタイルであった咲夜に操作されていたレミリアは、
体力こそあったものの、それでも限界が近かった。

通路の行き止まりには、咲夜が言ったとおり負傷した幽々子がうずくまっており、
どうあっても爆弾からは逃げられそうになかった。

「あ…いやだ…殺さないで! レミリアさん助けて!」

「ごめん、こんなことしたくないけど、咲夜が動かしてるの」

そういうとレミリアは目の前に爆弾をセットすると、
自爆しないよう、通路から離脱しようとした…

が、その時レミリアの頭上から爆弾が降ってくる。

「え? 何で何で!?」

パニック状態になるレミリア。
どうやら爆弾を投擲できるようになるアイテムがあるらしい。

「総領娘様! やりましたよ! 吸血鬼をハメました!」

「え?そうなの? こっちからじゃよく見えないんだけど…」

要領を得ない天子だったが、
壁の向こうから爆音と断末魔の叫びが聞こえると、話を理解した。

「あーやられちゃいましたね…」

「ごめんなさい、お嬢様…」

肉片になった幽々子とレミリアの残骸を見つめ、残念そうにつぶやく二人。
だがその目は明らかに笑っていた。



永琳の操作する輝夜は壁を破壊し、順調に移動範囲を広げていた。
その最中、破壊した壁から救命胴衣のような上着が出現する。
それを着せられた輝夜は、ある地点までいどうさせられると動かなくなった。

「永琳、どうしたの? 動かなくていいの?」

輝夜が不安そうに尋ねる。

「………」

永琳は相変わらず無口なままである。

紫と天子は輝夜を無視した状態で一騎打ちを行っていた。

「紫様!ダッシュブーツありました!」

「え!? もう嫌!これ以上早く走ったら死んじゃう!」

アイテムを入手すれば、効果が反映されるのだが、
それによる使用者の肉体的リスクまでは全く考慮されていなかった。

無情にも移動速度上昇アイテムを拾わされ、さらに早く走らされる紫。
プレイヤーは完全にゲームとしか思っていないので、単なる拷問ショーである。

紫は足だけが高速で動き、上半身をひきずりまわしながらプレイさせられていた。

そんな紫に追い掛け回される天子は、手当たりしだい爆弾を設置し、
爆風の熱に体を焼かれながら必死に応戦していた。

そこへヒョッコリと輝夜の姿が現れる。

何を思ったのか、足元に爆弾をセットしたまま動かない…

「え、永琳永琳!動いてよ、動かしてよ!
 何?自殺するの?ふざけないでよ!」

輝夜、必死の呼びかけもむなしく、爆弾は起爆までのわずかな時間を刻み続ける。

「あ…ひぃ! やだっ!しし死ぬ! う…うわあああああーー!!」

真っ白な閃光に包まれた輝夜は爆発の瞬間、すかさず爆弾を出す。
それが誘爆し、さらに出した爆弾にも誘爆する。
先程入手した救命胴衣のようなものは被爆後、一定時間無敵になれるアイテムだったようだ。

「ちょ、何あれ!?」

「爆発し続けてる!?」

永琳は焦点の合わない目でボタンを連打している。

「がああーー! 熱いあづい! エイリンあづい!
 止めてドメデェエエエエーー!!」

無敵とはいえ、やはり爆熱は遮断できないらしい。

「うわあ!こっち来る!?」

シャカシャカとドラ○もんのように爆弾を出しながら、
火柱を上げた輝夜が天子たちに向かっていく。
スピードアップした紫はすぐさま離脱できたが、
開始時の速度のままであった天子はあっさりと爆熱輝夜に捕獲され、黒焦げになるまで燃やされた。




無敵時間の終了に合わせ、永琳は連打をやめる。

命こそ無事だった輝夜も、頭髪はチリチリに焦げ、全身タイツも背中だけ少しつながっている程度のほぼ全裸だった。

「紫様、もうあっちは奥の手を使い切りました
 見ていた感じだと大したアイテムも入手していません」

「藍、もう勝たなくていいから…ゲームから出して…」

(人のことをオモチャだと思って無茶させやがって…
帰ったら絶対に八つ裂きにしてやるわ…)

復讐だけを生きる糧にして、紫は走り回る。



「永琳、見えないよ…何も見えない…」

爆発の熱によって輝夜の眼球は焼き魚のように白くなっていた。
さっきから爆弾をセットさせられているようだが、状況が全く分からない。
何かアイテムを拾って、動きが遅くなったり早くなったりしている。
と、そのとき後ろからすごい速さで接近してくる音が聞こえた。
おそらくは紫だろう。

「ごめんなさい、でもこれで終わらせるから…」

輝夜の後ろに爆弾をセットしようとした瞬間、彼女は急に抱きついてきた。
すると、紫の体が点滅しはじめる。

「え? 体が重い…? どうして?」

「紫様、ピンチです!
 ウィルスアイテムを感染させられました!」


様々な状態異常を引き起こす、イジワルアイテムも存在するようだ。
そうこうしている隙に永琳操作の輝夜は紫の前後に爆弾を設置し、立ち去っていった。

「ちょっと、これどうすんのよ!
 藍!なんとかしなさい!」

「あーー…無理ですね、これ
 ちょっとおしっこ行って来ます」

「は?おしっこって、待てやコラ!
 おいクソ狐!殺す!絶対ぶっ殺す!逃げんな!
 …おおい!藍!藍さん!らんしゃまーーー!!」

前後の爆弾が光を放ったとき、藍の頭にはおしっこのことしかなかった。


 

画面には表彰台に立ち、無理やりVサインをさせられる輝夜と
紫らの肉片、炭化した天子の姿が映されている。

「お、終わった…」

よく分からないまま終了した輝夜だったが、周囲の空気が変わったことで、ゲームの終了を実感していた。
そのまま強烈な睡魔に襲われ、深い眠りに落ちる輝夜…





目が覚めるとそこはゲーム機の置いてある部屋だった。

「どうやらゲームから脱出できたようね…」

天子が周囲を見渡しながら安堵する。

プレイヤー全員が無事に帰還できたようで、とりあえず無事だったことを感謝しつつ、5人は抱き合った。

そこへ隣の部屋から永琳たちがやってきて、彼女らを拍手で迎える。

「楽しいゲームだったでしょう?
 まあ、これに懲りたら遊んでばかりいないで真面目に働いてください」

と、ドヤ顔で主人らの帰還を祝う。

「ええ、最高のエンターテインメントだったわ…」

紫が藍の肩に手を掛けつつ、やさしい口調で語りかける…

「こんな主人思いの部下には、たっぷりお礼をしてあげないとね!」

全力全開、一撃必殺の勢いで藍の顔面を殴りつける紫。
衝撃で吹き飛ばされた藍は畳を削りながらダウンする。

そこをさらに馬乗りになって追撃し、顔面をタコ殴りにした。
見る見るうちに藍の顔面は砕かれ、原型が何だか分からなくなってしまう。

ビクビクと痙攣する藍。
その両足の付け根をつかみ思い切り引っぱると、
メリメリ音を立てて股間から真っ二つに引き裂いた。

臓物をさらし、立ち上る湯気を背に振り返ると、そこには同じような光景が広がっていた…

ミンチにされた妖夢、串刺しにされた咲夜、生皮を剥がされ、
人体模型にされた永琳…岩の下敷きになった衣玖。

「死ぬかと思った……、今回のはさすがに死ぬかと思ったわ…永琳」

葉巻で一服しながら、転がっている人体模型を足蹴にする輝夜…
筋肉を露出させたまま、プルプルと震える永琳は叫び声一つ上げない。
輝夜は葉巻の火を永琳の眼球に押し付ける。

ブスブスと永琳の目から煙が立ち上っていく。

「本当ならもっと痛めつけてから殺してやるところだけど、
 今日はもう寝ることにするわ さようなら永琳…楽しいゲームだったわ」

光弾で永琳の頭部を吹っ飛ばすと、一同は部屋から出て行こうとした。




「……絶対に裏切らないって約束したじゃないですか、幽々子様…」

天井から声が聞こえる。

まさか!?
と思った瞬間、いつかのように天井がごっそりと持っていかれた。

そこにはやはり妖夢たちが見下ろしており、
ひどく残念そうな顔をしている者もいれば、邪悪な笑み、侮蔑の表情、無関心…様々な顔があった。

「え? な……んで?」

紫はこの先どういう恐ろしい仕打ちが待ち受けているか、
先の先まで想像できる己の頭脳を呪った。

「やっぱり言ったとおりでしょ、咲夜さん
 この人たちの本性なんてこんなもんなんですよ」

ほら見たことか、という思いを隠さない妖夢の表情。

「残念です、お嬢様
 ゲームというのは帰還してからが本番だったんです」

「まあどうでもいいじゃないですか、
 それより暇つぶしの道具が増えてラッキーですよ
 わざとやられて反応見るのもおもしろいし、これから楽しみです!」

遊ぶ気満々の衣玖は既に次のソフトを選んでいる。

「藍!私が悪かったわ!
 何でもするからここから出して!」

ダメもとで藍に呼びかける紫。
かつてないほどに動揺し、泣きながら頼んでもいないのに土下座している。

「嫌ですよ、だって出したら八つ裂きにされちゃいますし
 紫様の体は魔力のタンクとして利用させてもらいます
 橙も遊びたがっていたので、相手してあげてください」

「ち、畜生〜〜! 覚えとけよゴミ狐!
 こっちがこんなに頼んでやってるのに!
 絶対ここから脱出して、今度こそ八つ裂きにしてやる!」

プライドを完全に破壊された紫はその後も何事か叫んでいたが、
なにぶん体が小さいので聞き取れなかった。

「へ、へへへ…永琳…さん?」

「…………」

今まで完全に無表情だった永琳。
輝夜の呼びかけに対し、眼球だけを動かし…

ニタリ…

と口元を歪ませた。




「さて、次にやるゲームソフトはこれにしましょう!」

高く積もったソフトの山から、永江衣玖が引っ張り出したゲームは………
最近ネットの巡回もマンネリ化してきて
やっぱ受け手ばっかやってるからツマランのだと実感。

ちょっとキャラが多すぎた気がします。
出した以上、放置するのもまずいかと思って悩みました。
勢いで書き上げないと完成しないので、そこは勉強が必要かと。
コメごん
作品情報
作品集:
24
投稿日時:
2011/02/27 15:16:25
更新日時:
2011/02/28 00:16:25
分類
レミリア
天子
輝夜
幽々子
手下キャラ
暴力
サイコホラー
1. NutsIn先任曹長 ■2011/02/28 00:38:26
人の上に立つ者は、目下の者の規範とならなければならない。
だというのに、このカリスマの欠片も無い連中と来たら…。
きっと、連中は外に出れたとしても、これは虚構かもしれないと疑心暗鬼に囚われるんだろうな。
2. 名無し ■2011/02/28 01:57:47
Dead Spaceがいいな
おっと多人数対戦じゃないとだめかな
3. 名無し ■2011/02/28 12:29:45
「ダウンタウン熱血行進曲〜それゆけ大運動会〜」で遊ぼう!
リアルファイトも熱くなる友情破壊ゲームだ!
4. 名無し ■2011/02/28 15:14:19
主人の従者に対する扱いの悪さに定評のある東方。
だからこそこういう作品が映えるのですね。最高におもしろかったです!
この後の紫たちが目の当たりにする地獄絵図を想像してニヤニヤ。
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