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『ちゆりの青い目に岡崎夢美』 作者: 飯
そのとき、空には雲が立ち込めて、キャンパス内の建物は、一様に色彩を失っていた。
「どうしたんだ、ご主人様」
振りかえると、両手にいちごのパックを抱えたちゆりが、生協の店舗から出てくるところだった。
大量のいちごは、全て私のためのものである。断じて私は、いちご依存症という訳ではない。ただ、デスクの前方、左手のそばにいちごが常備されていると、研究の進みが一割増し、らしい。ちゆりの調査結果に基づいているため、真偽のほどは疑わしいけれど。
「ううん、天気予報も当たらないなぁ、と思って。晴れるって言っていたのに」
私の言葉を聞いて、ちゆりはふうん、と答えて、顔を上げて空を見た。
「重たい空だな」
「そうね」
肌寒い。春の訪れは、まだ遠いようである。
連れだって研究棟へ戻る。研究室には暖房が入っていて暖かい。早く戻ろう。
そう思って、入口のカードリーダーに身分証をかざした。
「あれ?」
反応が無い。
扉が開かない。
「ん? どうした?」
「おかしいわね。反応しないのよ」
ちゆりが覗きこんでくる。見ている前で、もう一度。やはり反応しない。
それを見て、ちゆりも首をひねった。
「変だな。私のカードでやってみようか」
ごそごそと、ポケットをまさぐり、ちゆりも財布を取り出した。
大量のいちごのパックは、左腕で器用に抱えている。
彼女の財布はベージュの薄い布製で、エメラルドグリーンのデコレーションが散らばっている。
その財布を右手に持って、ちゆりはそのままカードリーダーに押し当てた。
「…………」
「やっぱりだめか」
おかしいな、と二人で顔を見合わせた。
そのときである。
突如、地面が紅色に染まった。
「!?」
しかも、なんだか蠢いている。
よく見てみると、それはストロベリークライシスであった。無数のなめらかないちごが、我先にと、研究棟の入り口に向かって押し寄せている。
そのうちの一つが、脚を伝って這い上がってきた。星のような形をしていた。
「星状体ね」
「そうだな」
そう答えたちゆりの頭にも、複数のいちごが乗っていた。いずれも、そらまめに似た質感を持っていた。
そらまめの一つが、ちゆりの髪を伝い落ちた。
滑っていった道筋が、赤い尾を引き、ちゆりの髪を塗らした。そしてそのそらまめは、ちゆりの右頬へと流れ、その柔らかく白い肌へと到達した。
白い雪原のようであった。
白い雪原を、赤いそらまめが、血に濡れた両足で踏み荒らしていくようであった。
「ちょっと」
声をかけられて、ちゆりはこちらに目線を投げてよこした。
目が合う。
私はちゆりに近寄った。ちゆりは、私よりもかなり背が低い。傍に立てば、どうしても彼女が見上げる形になる。
ちゆりの青い目に、私の顔が映る。
それはストロベリークライシスであった。
ちゆりの雪原を踏み荒らす赤いそらまめを、右手で弾き飛ばした。吹き飛んだそれは、研究棟の入り口ドアに衝突し、そのガラスを突き破った。
一面のいちごの海が沸き立った。
ちゆりの青い目に、私の顔が映っている。
キャンパスの全てはいちご色だった。無数のいちごたちが、空へと舞い上がって行く。ちゆりの青い目に、私の顔が映っている。研究棟が、破裂するいちごたちの衝撃によって、瓦解して舞い上がって行く。ちゆりの青い目に、私の顔が映っている。それはSailor of Timeであった。
ちゆりの左手に抱えられたパックのいちごは、瑞々しくて、なかなか美味だった。
- 作品情報
- 作品集:
- 24
- 投稿日時:
- 2011/03/02 14:38:24
- 更新日時:
- 2011/03/02 23:44:45
- 分類
- 東方夢時空
- 岡崎夢美
- 北白河ちゆり
あ、いいです、説明しなくて。夜、お便所に行けなくなりますから。
相変わらず、教授殿シリーズは短いのに何かキている作品ですね。
あ、いいです、芸風変えなくて。昼、仕事の合間に読めますから。