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『罪の価格 2』 作者: 名前がありません号
「ふぅ。何とか間に合ったぜ」
図書館から借りた本により、研究はさらに一段階進行した。
あの胡散臭い山田太郎には、それなりに感謝しておこう。
しかし、新しい材料が足りなくなってきた。
外で調達してくる必要があるだろう。
「また、アリスと鉢合わせはしたくないんだがなぁ……」
会えば必ず諍いになるのが、最近の魔理沙とアリスの関係である。
どういうわけか、同じ時期に同じものを必要とすることが多いためか、
遭遇率が高く、必ず弾幕ごっこに発展する。
ついついヒートアップして、本来の素材の回収を忘れてしまう事もしばしばだ。
「ま、会ったら会ったでその時か。とりあえず今日は寝よう」
そういって、足の踏み場さえない床をそろりそろりと歩きながら、
ベッドへとたどり着く。
―――そろそろ掃除しないとなぁ。
そう思いながら、結局明日になっても掃除をしない魔理沙であった。
数時間の睡眠の後、魔理沙は家を出る。
いつもより早起きしたのは、アリスより先に目的の素材を得るためである。
アリスもそれを見越して起きている可能性があるが、
とりあえず先に移動しておくに越した事は無いのだ。
「おお、寒っ……」
この頃ともなれば、多少は温かいものだが、
最近になって寒さが戻ってきた。
まだレティが暴れているのかね、などと思いつつ、森を散策する。
ほどなくして、目的の素材のある場所に到着する。
まだアリスは来ていない。
しめしめと、魔理沙は素材の採集を始める。
素材の採集が終わっても、アリスが来る気配はない。
(今日は運良く被らなかったってことか……? 珍しい事もあるもんだ)
本来、目的の品が被るほうが珍しいはずだが、
それが何度も続いていただけに急に無くなると不思議な気分だった。
(ま、別に私に不都合はないしな。丁度いいぜ)
と、素材を袋に詰めて家に戻ろうとすると、空に見慣れた人影を見かける。
アリスだ。しかし、こちらには目もくれず紅魔館の方へと飛び立っていく。
(アリスが紅魔館に用事ってーと、図書館か。律儀なもんだぜ)
パチュリーにしてみれば、本を借り、しっかり返してくれる貴重な人物である。
もっとも魔理沙がそう思っているだけだが。
(時間を長く使える奴らは気楽でいいね)
魔理沙はふとそう思う。
魔理沙は意識していなかったが、
パチュリーやアリスに対して知らないうちに嫉妬していた事にまだ気付いていない。
素材の加工を終え、保存の準備を済ませるとここからしばらくは研究は一段落する。
平行して進めている研究を進行する為に、新しく図書館から本を借りてこよう。
昨日借りた本は特に用事が無いので、返す事にした。
―――気付けば返せるんだがなぁ。
大抵、読み飽きてポイッとゴミ山のように物が散乱する床に投げ捨てる為、
返そうにもどれが返す本か分からなくなる。
それこそ掃除すればいいのだが、そこは魔理沙。
眼前の光景にすぐにやる気が失せてしまう。
それよりも他のやりたい事を優先する。
結果物と本がゴミのように散乱していく。自業自得である。
しかし当人にはそれを直す気がまったくないのだから質の悪い事である。
昨日借りた分はあるので、その本を袋に詰めて、
紅魔館へと飛び立った。
「なんだぁ……?」
図書館に到着した魔理沙の眼前には、弾幕ごっこと思しき戦闘の跡が残っていた。
ある程度片付けはされているが、壁や床のあちこちに焦げ跡のようなものが見える。
すると図書館の奥の扉から、パチュリーが出てきた。
顔には少し煤がついている。
「よぉ、どうしたんだ?」
「少しね」
少し機嫌が悪そうである。
アリスと一悶着あったのかもしれない。
下手に機嫌を損ねると借りられるものも借りられないので、
簡単に本を返しにきたことと、また本を借りたい旨を伝えると、
徐々に落ち着いてきたパチュリーが、了承してくれた。
「ありがとな。感謝するぜ、パチュリー」
「ええ。貴女みたいに、しっかり本を返してくれると助かるわ」
数週間前までは盗みっぱなしだったが、まったく記憶に無いような口振りである。
まぁ都合がいいのは事実だが。
用事を済ませると、魔理沙は図書館をあとにした。
それからしばらくして、アリスの姿を見かけなくなった。
大方、研究に籠っているんだろうと思い、魔理沙は特に気にかけなかった。
「ふぁ……っとと、寝てたのか……」
机に突っ伏して寝ていたらしい。
机に涎が垂れてしまっている。腕でごしごしと涎を拭き取る。
今回の研究も概ね順調だ。全て上手く行っているのは実に気分がいい。
おまけに邪魔も入らないと来ている。
そんな時、窓から強い光が差し込んでくる。
太陽の光ではない。これは確か……。
「文か! 乙女の寝顔を写すとはいい度胸だぜ!」
ニタリと腹立たしい笑顔を浮かべながら飛び立っていく。
眠気を吹き飛ばし、箒でもって文を追跡する。
「こらぁ! カメラ寄越せ、パパラッチィ!」
「ははは、怖い怖い。欲しければどうぞ。捕まえられればですけどね?」
不敵に笑う文に、魔理沙の頭に血が昇っていく。
箒を握る手にも力が加わっていく。
しかし地力の差はどうしようもない。
魔理沙の全速力を嘲笑うような、文の高速機動。
それに加え、魔理沙との決定的な違いはその速度で旋回から急停止までやりたい放題である。
(くそっ、ふざけた機動しやがって! 妖怪様様ってか!)
訳も無く沸々と苛立ちを募らせていると、文を見失ってしまう。
速度を落とし、旋回しようとしたその時、背後に異質な感覚を感じて振り向くと。
「はっはっは。魔理沙さん。後ろがお留守ですよ?」
そういって、文は風を起こす。
大した勢いの風ではないが、急激に速度を落とし、バランスを崩している魔理沙にはそれで充分だった。
完全に制御不能に陥り、地上に落下していく霧雨魔理沙。
それを愉快そうに見下ろす射命丸文。
そして地面に落下し、葉っぱと枝で服がぼろぼろの魔理沙の姿をカメラに収めていく。
霧雨魔理沙の反応を明らかに楽しんでいた。
「いやぁ、愉快愉快。
次の記事は、『空飛ぶ白黒鼠特集』とかにしましょうかねぇ。
ああダメだ。こんなんじゃ購読者は増えないわ。さ、新しいネタ探しにいきますか」
ケラケラ笑いながら、文はそのまま何処へとも無く飛び去った。
魔理沙の気分は一気に下の下まで叩き落された。
寝起きの写真は取られるわ、良いように弄ばれるわ、最後は無様な姿を写真にまで取られた。
いつにもまして、パパラッチのうざさは際立っていた。
「クソ、何でこんな目に会うんだ……」
「お困りのようですねぇ。助けはいりますか?」
「!?」
声のする方を向くと、見覚えのある袋を被ったスーツ人間。
山田太郎だった。
「いらない……何しに来たんだよ」
「いえいえ。偶然通りかかっただけですよ」
「偶然ねぇ……」
少なくともこんな奴に偶然遭遇する事自体、奇跡としかいいようがないが、
とりあえず魔理沙は立ち上がる。
服についた木の枝や木の葉を払い、山田太郎に向き直る。
「それで、私に何か用か?」
「実を言いますと、先ほどの天狗と一悶着あったのを偶然目撃しましてね」
「……で、図書館の時みたいに力になるとか言う訳か?」
「話が早くて助かります」
「だが、あいつは腐っても天狗だぜ。生半可な方法じゃどうにもならん」
腹立たしいが、文の実力は認めざるを得ない。
天狗という妖怪は傲慢だが、同時にその傲慢を通せるだけの力がある。
生半可な方法では報復されるのは目に見えている。
「なぁに、心配は要りませんよ。とっておきの方法がありますので」
「どんな方法だ、それは?」
「そうですねぇ……こういうものがございますよ」
そういうと、山田太郎は赤い色の紙とペンを取り出す。
「また紙に何か書けってのか? ……色が違うな」
「ええ。こちらは少し用途が違いましてね。こちらは、あの天狗をどのような目に合わせるかお書きください」
「おう、わかったぜ」
「ああ、今度は相手の天狗の名前をお書き下さい」
「あぁ、そりゃ必要だよな」
「ええ」
渡された赤い色の紙に、ペンで魔理沙は射命丸文の名前とどういう目に合わせるかを書いていく。
怒りに身を任せて書いた内容は、魔理沙自身も覚えていない。
見直しもせずにそのまま山田太郎に手渡した。
「ふむ……。これでよろしいですね?」
「ああ、いいぜ。それで」
「わかりました。効果のほどはしばらくお待ちください。必ずご期待には添えますよ」
そういって、山田太郎はどこかへと消えた。
怒りが収まると、急に全身に痛みを感じ始める。
ボロボロの身体を引き摺りながら、箒に跨ると自分の家へと引き返した。
それから射命丸文の姿を見かけなくなった。
それからの魔理沙は、ふと苛立つ事、腹立たしい事があるたびに、
どこからかやってくる山田太郎に自分の怒りや憎しみを渡された紙に書いて手渡ししていった。
やれ慧音が煩い、やれ妖怪達が自分を見下す、香霖が振り向かない等々……。
好き放題に紙に書き込まれていく内容の数々。
見返せば多くは下らない内容だが、魔理沙の中に燻っている劣等感が、
次々と魔理沙にペンを握らせ、数多の内容を書き連ねていく。
あまりの量に山田太郎自身、苦笑することさえあるほどに。
そしてそれらは魔理沙に都合のいいように書き換えられていった。
魔理沙はこの世の春のような気分だった。
それからしばらくのこと、山田太郎とはめっきり会うことが無くなった。
もっとも今の魔理沙には、特に会う理由も無いので問題は無かった。
何も、問題は、なかった。
しかし魔理沙は気付かない。そして考えない。
何故紙に書くだけで自分の都合のいい展開が出来上がるのか。
何故山田太郎は自分に接触してきたのか。そして何故、ぱったりと姿を消したのか。
魔理沙はまだ、気付かない。
まだ続く。
とりあえず前半終了。
期待しないでおくのが吉ですよ、奥さん。
裏切られるのは辛いからね。
名前がありません号
作品情報
作品集:
25
投稿日時:
2011/03/17 19:56:25
更新日時:
2011/03/18 04:56:56
分類
魔理沙
罪袋
某ネコ型ロボットに泣きつくメガネ君の末路を酷くしたようなオチが待っている予感。
直すべき問題点を直していないところがどうにもなあ。
まあ救いようのない末路を期待しますか。
これは最終的に返ってくるフラグか……?
なんだろう、この笑ゥせぇるすまん的な感じ