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『罪の価格 3』 作者: 名前がありません号
概ね、何事も順調に事が運んでいった魔理沙に、転機が訪れたのは、二週間後のことだ。
研究の大部分が一段落し、新しい研究テーマに取り掛かる前に、
アリスをおちょくってやろうと考え、アリス宅へと訪れた。
しかし、ドアを何度ノックしても応答が無い。
これだけしつこく叩いていれば、嫌そうな顔してドアを開けるか、
ドア越しにでも「五月蝿い」と言ってきそうなものなのだが。
「留守なのか……?」
研究で家に籠っていた自分が言うのもなんだが、このところアリスの姿らしい姿を目撃していない。
最後に居たと思しき図書館でも、パチュリーは特に何も言っていなかった。
「ん……?」
何か引っかかる。何だ?
ふと図書館の様子を思い出す。
図書館は弾幕ごっこと思しき戦闘の跡。
壁や床に焦げ跡が残っていた時点で、かなり激しい戦闘だ。
そもアリスとパチュリーが仲違いしたとしても、
パチュリーが図書館内で自発的に激しく戦闘を起こすとは考え難い。
アリスも図書館の蔵書は魅力的だろうから、
パチュリーとの関係を悪化させる事を、自分からはしないはずだ。
じゃあ何故、あの場で弾幕ごっこが起こったのか。
何かが引っかかっている。
何か。
「ありがとな。感謝するぜ、パチュリー」
「ええ、“貴女みたいに、しっかり本を返してくれると助かるわ”」
あの時はまったく気にもしなかった。
貴女みたいに、ってどういうことだ。
それじゃまるで、別の誰かが本を奪っていることに―――。
「まさか……」
アリスが本を奪うなんて事は考えられない。
頭が冷静に考えれば考えるほど、嫌な想像が出来る。
そして、あの山田太郎との会話を思い出す。
「貴女の犯した罪をこの紙に書けば、“貴女の罪はこの紙に乗り移りますので”」
紙に罪を書けば、紙に罪が乗り移る。
じゃあ、その紙を誰かに渡したらどうなる?
山田太郎は一度だって、紙の使い道を話さなかった。
山田太郎は一度だって、その紙を誰かに渡したらどうなるか話さなかった。
これは仮説だ。でも多分、合っている。
罪を書き込んだあの紙を誰かに渡すと、その罪はその誰かの罪になるという事。
魔理沙は紅魔館へと飛んだ。
「パチュリーッ!」
「な、何? 魔理沙。そんな大声出して。図書館では静かに」
パチュリーが魔理沙に注意するよりも早く、魔理沙はパチュリーに詰め寄る。
突然の出来事にパチュリーは、わたわたと慌て始める。
「な、何? 魔理沙。ち、近いわ……」
「なぁ、パチュリー。私が二週間前ぐらいに図書館に本を借りに来た時、図書館には誰が居たんだ?」
「な、何よ、急に」
「いいから答えてくれ!」
「わ、わかったわよ。そんな大声出さないで……」
魔理沙の様子に気圧されながら、パチュリーは「アリスよ」と答える。
「図書館で弾幕ごっこやった後、アリスは何処に行ったんだ?」
「さ、さぁ。帰ったんじゃないかしら?」
いつものパチュリーならポーカーフェイスを通せたかもしれないが、
今のパチュリーは完全に魔理沙に気圧されて、言葉が震えていた。
魔理沙は図書館の周りを見回し、パチュリーの寝室へと向かう。
「ちょっ、そこは開けちゃダメ!」
パチュリーの忠告も聞かず、魔理沙が扉を開けると。
ボロボロに汚されたアリスの姿があった。
目からは生気が失せ、床に転がされていた。
糞便に塗れた姿からは、少なくともまともな扱いを受けていないだろう事は容易に想像がつく。
そして何より、人間に在るべき腕が存在していなかった。
魔理沙はパチュリーにつかみかかる。
「なんてことしてんだよ、パチュリー!」
「うっ……うぅ、く、くるしい……」
「なんでアリスにこんな事を!」
「うぐっ……うげ……ぐ、ぐるぢぃ、は、はなぢで……」
魔理沙は手を離すと、パチュリーはげほ、げほ、と咳き込む。
息を落ち着かせると、パチュリーは話し始める。
「……アリスがいけないのよ。私の本をたくさん盗んでいって。
散々、容赦しないって言ったのにまた盗みに来た上に、
何のことか知らないだなんて……そんなふざけた話がある?」
「だからもう二度と私の本を盗めないようにしてやったわ。
あとはこれまでアリスがしてきたことの罪に対して、
罰を与えてやったのよ。これぐらいして当然でしょ?」
魔理沙の顔が、どんどん青ざめていく。
罪の肩代わりをする上に、肩代わりした側にはその自覚がない。
つまりこれは本来、魔理沙が受けるべき罰だったのである。
この凄惨な様子を見れば、魔理沙は声を失うしかない。
「でも、貴女にこんなの見せたくないじゃない。
貴女はいつも本を返してくれる人なんだから。
貴女ぐらいよ? こんなに律儀に本を大事にしてくれるのは」
違う。それは私じゃなくて、アリスが受けるべき言葉だ。
魔理沙はもう、アリスの姿を見ていられなかった。
そしてパチュリーに本当の事を話す勇気も無く、図書館から逃げる事しか出来なかった。
魔理沙は妖怪の山に向かっていた。
射命丸文が心配になったからだ。
すると犬走椛と鉢合わせした。
「おや、魔理沙じゃない。どうしたの?」
静止してきたのは犬走椛。
魔理沙は椛に聞く。
「な、なぁ、文ってどうしてるんだ?」
「何です突然……」
「いやぁ、最近見ないなぁって思ってさ……」
「あぁ、文様はですねぇ……」
椛は辺りを見回した後、魔理沙に話し始めた。
「外には漏らさないでくださいよ。……文は現在入院中です」
「にゅ、入院?」
「ええまぁ……にとりのことは知ってますよね?」
「あ、あぁ、知ってるけど……」
「実はにとりが作った新しい発明品の記事を書いている時に、
にとりの発明品が不具合を起こして、大爆発しちゃいまして……
にとりは無事だったんですけど、間近で写真を取ってた文が巻き込まれて……」
「そ、それで……?」
「命には別状はなかったんですけど、
両手と両足に酷い怪我を負ってて……
今後直る見込みも薄いとか……」
「そ、そんな……」
「おまけににとりはそれで責任感じちゃって、ずっと工房に籠ってるらしくて……
それで様子を見に行くところなんだけど、一緒にいく?」
「あぁ……行くぜ」
椛と共に工房に向かう魔理沙達が工房で見たものは、
倒れこむにとりと、劇薬と思しき薬の瓶だった。
机には遺書らしきものが書かれ、「文さん、ごめんなさい」と書かれている。
「……駄目だ。もう死んでる」
「そんな……」
「もっと私がにとりに会いに行ってれば、こんな事には……」
違う、私のせいだ。
魔理沙は赤い紙に書いた内容を思い出す。
紙には「射命丸文を新聞の書けないようにする」と書いた。
こんな形で叶うなんて思いもしなかった。
「くそぉ……!」
山田太郎への怒りがただただ込み上げてくる。
魔理沙は椛に、にとりの事を頼むと言い残して、山田太郎を探しに飛び立った。
―――絶対にたたじゃすませない!
情報を集める為に人里に入る。心なしか何処か暗い雰囲気が漂っている。
寺子屋にいるであろう慧音を探すが、何処にも居ない。
子供が俯きながら座っているところに、魔理沙が声を掛ける。
「なぁ、慧音はどうしたんだ?」
「けーね先生は病気なんだって……。もうずっとここには来てないよ」
「そ、そうなのか……。なら、何でここで待ってるんだ?」
「先生がいつ帰ってきてもいいように僕は待ってるんだよ」
「そっか……来るといいな、先生」
「うん」
そういって寺子屋を後にした。後悔の念を余計に強めていきながら。
「なぁ、聞いたか? 慧音様、ずっと病気なんだろう?」
「里長様も苦心してらっしゃったな」
「最近じゃ、新しい里長候補に例の妖怪排斥派の名前が挙がってるらしいな」
「あんまり過激な連中が人里を統率するのはなぁ……」
「でも今の里長じゃ、連中を押さえこめんだろう……」
「だろうなぁ……慧音様の御力が痛いほど分かる……」
魔理沙は人里から逃げるように離れていった。
とても聞いていられなかった。
「大分楽になった、慧音?」
「ああ、大分楽に……げほっ、げほっ」
「無理しちゃだめだ。病気が治ったわけじゃないんだからさ」
「わかってはいる……だがこのまま里を放って置くわけには……」
「いいんだよ。今まで頑張ったんだ。これくらい休んでも大丈夫さ」
「しかし……」
慧音の庵から聞こえてくる声。
慧音と、妹紅だろうか。
慧音の病気は思ったよりも重いものだった。
魔理沙は見舞いに行く勇気も無く、その場を後にする。
それ以外にも問題はたくさん起きていた。
聖に話を聞くと、最近の妖怪達は殆ど活動していないという。
活力がまるで無く、ずっと自分の住処に籠っているのだそうだ。
理由を聞いても、なんとなくこうしている、という曖昧な返事ばかり。
香霖堂に行けば、荒らされた店内。
くたびれた様子で香霖は魔理沙に助けを求めてくる。
魔理沙がそれに応じると、柄にも無く、
「助かった、ありがとう」と魔理沙にすがるように感謝する。
その姿がまるで別人のようで、見ていられない。
魔理沙はとぼとぼと自分の家へと戻る。
研究で引き籠っている間に、自分のせいで、
幻想郷全体が著しく変貌している事実に、魔理沙は絶句するしかなかった。
「どうして、こんなことに……」
頭を抱える。
どうすればいいのか、まるでわからない。
山田太郎を探そうにも、手がかりなんてない。
そもそもこんな事になるなんて、山田太郎は一度だって話さなかった。
話してくれていれば、こんな事、しなかった。
自分の手に余る事態。
自分の無力感。
自分の罪を知らずに、他人に押し付けていた罪悪感。
心が押しつぶされそうになる。
あるいは本当の事を話せば、解決するかもしれない。
でも解決する保障は何もない。
話しても意味がないなら、話さない方がいいかもしれない。
頭の中には悪い想像が駆け巡ってくる。
どうにかなりそうだった。
そんな時、ドアをノックする音が聞こえる。
魔理沙は扉の窓から外を覗く。
そしてその姿を目視に、激しい怒りを露にする。
魔理沙の眼前には、あの憎たらしい白袋を被ったスーツの男が立っていた。
続きます。多分次で終わるはず。
自業自得の人生が出来るほど、魔理沙は強くない印象があります。
自分独りの生活自体、父親への反抗心からの方が強そうですし。
そして期待を裏切る私なのであった。
名前がありません号
作品情報
作品集:
25
投稿日時:
2011/03/20 07:02:35
更新日時:
2011/03/20 16:02:35
分類
魔理沙
罪袋
いやー、作者様は分かっていらっしゃる。
根っからの悪人ではない魔理沙は、彼女自身より周りの者を痛めつけたほうがキくことを。
良い意味で裏切ってくれましたね。
最終回で、小心者の魔理沙は自分の罪をどう清算するか、或いはこそこそ逃げ隠れするのか楽しみにしています。
彼は補助はしたかもしれないが、実際に手を下したわけではないのだから。