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『アルティメットサディスティッククリーチャー天子』 作者: ナレン・フライハイト
「皆! こっちこっち!」
「ちょっとぉ! 早いってリグル!」
「ま、まってよチルノちゃん……リグル……こっちは危ないってぇ……」
「そーなのかー」
「あーべーまりーあー♪ るーるるるーるーるーるるー♪」
心地良い日差しと風が吹き抜けるある夏の日、蟲の妖怪であるリグル・ナイトバグと氷精チルノ、大妖精、宵闇妖怪ルーミア、夜雀ミスティア・ローレライは、幻想郷でもっとも綺麗に花が咲き誇る場所、太陽の畑へと足を踏み入れていた。提案者はリグルである。様々な花が多く咲いているので、仲の良い友人たちとその光景を楽しもうという考えからであった。自慢気に四人を牽引していくリグルであるが、はやる気持ちを抑えられないのか些か駆け足気味になってしまっている。チルノはリグルに付いていくのに必死であり、大妖精は何かを恐れているようである。ルーミアはそんな大妖精の話を真面目に聞いているのかいないのか同じような受け答えばかりし、ミスティアにいたっては、一体何処で聴いたのか、シューベルトの『アヴェ・マリア』をうろ覚えで歌っている。
「どうしたの大妖精? さっきから何を恐れてるの?」
大妖精の様子に、さすがのリグルも不信に思ったのか足を止めた。
「だ、だってぇ……ここって太陽の畑でしょ?」
「うわ! 大ちゃんものしり!!」
チルノがすかさず横槍を入れるが、大妖精はそんなチルノを諌める余裕もないようだった。
「リグルも分かってるはずでしょ……太陽の畑ということはさ……いるんだよ……」
「いるって?」
大妖精は口をつぐんでしまう。まるで口にしてしましまうことすら恐ろしい呪われた言葉を言うかのようであった。
「だーかーらー! いるのあの人が!」
「あら、あの人ってだれかしら?」
その場の空気を一瞬で凍りつかせてしまうかのような冷たい声が、突如として怯える大妖精の背後から聞こえた。四人は恐る恐る声のした方向を見るをみると、そこにはウェーブのかかった短めの緑髪を靡かせ、日傘をさし、明るい色の服着た、静かに笑みを浮べる少女が立っていた。しかしながらその美しい外見からは想像もできないような恐ろしい威圧感を四人は感じ取った。弱い生き物は総じて身の危険を察知する能力に優れているのである。
「……ゆ、幽香さん……そうか……そうだった……」
リグルは体中に夏の暑さからかく汗とは全く違った汗を全身に掻いていた。花の妖怪風見幽香は表情を一切変えずに、これまた表情を変えることが出来ずに硬直してしまっている四人を見下ろしている。
「あらあら、こんなところに害虫が。やあねえ夏は。忘れっぽい害虫がこうやってすぐ湧いてきてしまうんですもの。さっさと駆除しないと、ね!」
「うぐっ!!」
幽香の蹴りがリグルの腹を捉えた。死なない程に加減しているとはいえ、その威力はリグルのような弱い妖怪にとっては計り知れなかった。
「お、おえええええええええっ!!」
「あ、ああっ!! リグル!!」
当然のことながら、リグルは勢いよく嘔吐してしまう。他の四人が慌てて駆け寄るが、リグルは明らかにおかしな呼吸の仕方をしながらうずくまってしまった。
「さて、次は……」
「う、うわあああああああああああっ!!」
幽香が次は誰にしようかと品定めをするような目で見下ろしたため、五人は生命の危機を感じて脱兎の如く逃げ出した。無論、リグルは他の四人に抱えられていたのだが。
「うふふふふ……あぁ、気持ちいいわ」
幽香は自分よりも弱いものを虐げることを好き好んでいた。彼女のテリトリーに侵入した者への攻撃は厭うことなく行った。弱者の悲鳴は彼女にとって最高の音楽であり、苦しむ姿は至高のショーであった。彼女自体が非常に強力な力を持つ妖怪であるため彼女に反抗できるものの数も限られており、幽香はそれをいいことに暴虐の限りを尽くしていた。この幻想郷において、他の生き物は全て自分を楽しませるために存在していると思うほどであった。
そんな彼女が比那名居天子のことを知ったのは、博麗神社にて行われた宴会の時であった。
◇◆◇◆◇
「比那名居天子?」
「ああ、それがもうめちゃくちゃなやつでな……」
少なくとも彼女にとって充実した日々を過ごしていたある日、幽香は博麗神社にて行われた宴会にて魔理沙から興味深い噂を聞いた。天界にいる不良天人、比那名居天子は自分を退治してもらうために異変を起こしたという上質のマゾヒストだという。
「へぇ、なかなか面白そうな子ね。興味が湧いたわ」
幽香はそれを聞くと心が踊った。その天人はいかにサディストとしての自分を満足させるだろうか。どんな哀れな姿を晒してくれるだろうか。そんな期待が彼女の胸の内を支配した。
「あーあ、天子も災難だなぁ、とんでもない奴に目をつけられちまったなぁ。やれやれ」
魔理沙はまったく悪びれもなくそう言った。
宴会が終わった次の日、幽香はさっそく天子に会うため、天界の地へと足を踏み入れた。道中で天狗の文屋に諌められたりしたが、幽香にとってそんなものは虫の羽音程度のものでしかなかった。それほどに幽香は天子と会ってみたかったのだ。そして幽香が探し求めた相手は、思った以上に早く見つかった。
「あら、あなたは?」
白い花が咲き誇る花畑の中、ポツリと飛び出している岩に腰掛けている青い髪の少女――比那名居天子はその長髪を風に靡かせながら、興味深そうに幽香を見た。
「こんにちは、不良天人さん。私は風見幽香。単刀直入に言うわ。あなた、ペットになりなさい」
幽香は何の前置きもなく、不躾に言い放つ。そのあまりに唐突過ぎる言葉を聞いた天子は、一瞬呆気に取られたが、その次の瞬間には微かに頬を釣り上げた。
「ふぅーん……? 面白いこというじゃないの。だったら……」
天子はゆっくりと石の上から飛び降り、懐から緋想の剣を取り出す。
「あなたが私を倒すことができたら、なってあげてもいいわよ。弾幕勝負じゃなくて、れっきとした殺し合いでね」
「へぇ? 粋なことを言うじゃない。でも後悔するわよ、その言葉」
幽香は普段から持ち歩いている傘を刀を水平に構えるかのように構え、天子の腹部を狙う。本来ならもっと的確な急所を狙うが、幽香はあえて狙わなかった。ここで殺してしまってはあとでいたぶる面白さがなくなってしまう。圧倒的な差を見せつけ、私の責めに耐えられる従順なしもべを創りだすのだ。幽香はそんな算段を立てながら、勢いよく駆け出した。天子は突進してくる幽香に対し、特に構えることもせず、だらしなく立っているだけであった。あっという間に間合いを詰めた幽香は手に持った傘を天子目掛け勢いよく突き出した。勢いが、良すぎるほどに。
「……空振りっ!?」
「遅い」
背後から天子の声が聞こえてきたと思いきや、幽香の後頭部に強烈な衝撃が走った。天子が緋想の剣の柄で幽香の頭を殴打したのだ。幽香は顔面から地面に勢いよく叩きつける。
「ふぐっ!!」
あまり衝撃により、幽香の整った形の鼻はひしゃげ、だらしなく鼻血を垂らした。幽香は即座に起き上がり、後ろへと跳ね飛び一端距離を取る。
「あら、私をペットにするんじゃなかったの?」
天子は小馬鹿にしたような態度で、いつの間にか奪った幽香の傘をまるで木の棒を折るかのように何回もへし折りながら幽香に蔑んだ視線を浴びせた。そのふてぶてしい姿と、お気に入りの傘を折られたことに、プライドの高い幽香が耐えられるわけもなかった。
「ず、図に乗るなぁ!」
幽香は怒りのままに天子に向かって一直線に突進する。が、しかし、幽香が攻撃態勢を取るよりも早く、天子は幽香の懐へと潜り込んだ。
「えっ……!?」
「それじゃあ、しばらくおやすみなさい」
不敵な笑みを浮かべた天子は、幽香の腹部に力強く拳をめり込めせた。
「……!!」
声に出せないほどの痛みを感じた後、幽香の視界はだんだんと闇に包まれていった……。
◇◆◇◆◇
「……ん」
闇に包まれ、朧気だった視界と意識がだんだんと鮮明になっていく。幽香は何があったかを思い出すために頭を働かせると共に、今の状況を把握するために自分の体とあたりを見渡した。今幽香がいる部屋は石造りの味気ない部屋であり、天井に吊るされているランプと正面の鉄製の大きめな扉、そして排泄用のバケツ――ご丁寧に『ゆうかのおといれ』と書いてある――以外、何もなかった。部屋は広く、壁には何に使うのかよく分からない装置のようなものや、逆にあからさまに拷問道具だと分かる器具があった。そして次に自分の状況を確かめるため視線を体へ移したとき、幽香は衝撃を受けた。
「……な、なによこれっ!!」
思わず驚きの声を口にしてしまう。それはそうである。彼女は今、服をボロボロに破かれた状態で、首輪によって壁につながれていたのだから。かろうじて胸と秘所は隠れていたものの、これまで体験したことのない、屈辱的な姿であった。幽香は咄嗟に首輪と壁をつなぐ鎖を引きちぎろうとするが、彼女の力を以てしてもまったくもってびくともしなかった。やがてあきらめたのか、鎖から手を話し、力一杯に地面を叩く。
「くそっ!」
どうしてこんなことになってしまったのか、自分はただ単にマゾヒストの天人を虐めに来ただけのはずなのに、なぜこのように監禁されてしまっているのか。幽香の心を怒りと困惑が支配する。すると、その幽香の問いに答えるかのように、正面の扉が薄暗い部屋に光を入れ込ませながら開かれる。姿を表したのは、見間違うことのない、天子の姿であった。
「貴様ぁっ!」
幽香は天子の姿を見るやいなや彼女に向かって飛びかかろうとする。が、首輪によって天子の入るところまでぎりぎりたどり着くことができない。
「あらあら、まるで獣ね」
天子は暴れる幽香の姿を見ながらそんな言葉をこぼし、そっと幽香の元へと近づいていく。そして幽香の手が届きそうなぐらいの距離まで近づくと、無言で幽香へと鋭い蹴りをいれた。幽香はまるでゴムボールのように勢いよく飛んでいきそうになるが、首輪によって引かれ空中で止まり、地面にあっけなく落ちてしまった。
「かはっ……!!」
「少しは大人しくしてくれないかしら。これだから地上の生き物というのは」
苦しみもがく幽香を尻目に、天子は殴った腕をひらひらと振りながら言う。
「あなたの噂はよおく聞いているわ。風見幽香、弱い者を虐めるのがだあいすきなお花の妖怪さんなのでしょう? おそらく、私がマゾヒストだって噂を聞いて、天界まではるばるやってきたって所かしら」
「……え、ええ、そうよ……何か悪いかしら……?」
幽香はなんとか呼吸を整えると、舐められないようにとなるべくいつも通りに威圧感のある話し方で話す。しかし、天子はまったく怯む様子はなかった。
「いいえ別に。なんにも悪く無いわ。でも、あなたは一つ勘違いをしてる」
「……?」
天子は幽香の方へと歩いてゆき、肌と肌がふれあいそうなぐらいまで近づくと、幽香の耳元で囁いた。
「私もね、あなたと一緒で、実はサディストなのよ」
刹那、天子の拳が幽香の鳩尾を捉えた。
「ひぐっ!!」
情けない声をあげながらまたもや吹き飛ばされた幽香は、殴られた箇所に手を当てながら地面を転げ回った。まともに息をすることが出来ず、目を見開き涎を垂らしている。
「あなたは知らないでしょうけど、私、あの時はわざと負けてあげたのよ」
「かはっ……! かはっ……!」
幽香は涙を流しながらあえいでいる。しかし天子は、まったく気にもせず話し続けた。
「で、そのあと神社を乗っ取ろうとしたけど失敗してね。さらにそのあと、天界に神社の完成祝いだなんだとか言って地上の連中が集まってきたんだけど、返り討ちにしてあげたのよ。手加減する必要がなかったからね。あの時は楽しかったわぁ。調子にのった連中を叩き潰すのは、実に快感」
「はぁ……はぁ……」
「それなのに、周りの奴らは私のことをマゾヒストなんて言っちゃうし、天狗の文屋達は根も葉もない記事を書いちゃって、私は迷惑してるのよ。でもまあ、あなたみたいなのがやってきてくれるなら、あながち悪いことばかりらしいわね」
幽香は依然顔を押さえながらもだんだんと落ち着きを取り戻し、天子の言葉へと耳を傾けられるようになっていた。
「あなたにも分かるんじゃないの? 最初から従順な奴を虐めるよりも、気の強い奴や、同じサディストを徹底的に虐めて調服させるほうが、遥かに楽しいって」
「……」
「あ、でもあなたマゾヒストを求めて此処へ来たんだっけ? だったらあなたには分からないか。あなたみたいな、三流じゃあねぇ。くすくすくす」
「……だまりなさい!」
「……おや?」
幽香は痛みをこらえながらも、天子の態度が許せず声を荒げる。かたや天子は、ニヤニヤとその姿を見ているだけであった。
「私が油断したからっていい気になってもらっては困るわね……! 私のほうが、私のほうがあなたより上! 誰が三流ですって!? ふざけるな! まるで鬼の首をとったようにしているけど、その顔をすぐに泣きっ面に変えてあげる!」
常人なら怯えて失禁してしまいそうな幽香の怒り狂った猛々しい姿にも、天子はまるで吠える子犬を見るかのような舐めきった目付きで幽香を見下していた。
「ふぅん……威勢はなかなかね……そうでなくちゃ、面白くないか。ねぇ、そんなに自信があるというのなら、一つ勝負をしましょうよ」
「勝負、ですって……?」
「ええ、明日から二十日間、あなたをありとあらゆる方法で虐めてあげる。もしそれであなたが耐えられたら、大人しくここから開放してあげる。でももしあなたが根をあげたら、そのときは、あなたは私の奴隷となる。どお? 自称一流の幽香ちゃんなら、当然乗るわよねぇ。 それとも、勝てる自信がなくて怖いから逃げちゃう?」
「……何を馬鹿なことを。面白いじゃない。その勝負、乗ったわ。どちらが上が、はっきりと教えてあげる」
幽香の自信に満ちた言葉に、天子は微かに笑った。こうして、幽香にとっての地獄の二十日間が、今始まった。
〜一日目〜
天子による幽香拷問の初日、幽香が捕らえられている部屋に入ってきたのは天子だけではなかった。
「おはよう幽香、よく眠れたかしら?」
「はっ、あんな粗末なベッドで眠れるわけないじゃない。もっといいものを用意しなさいよね。それよりも、もう一人いるようだけど?」
「ええ、彼女は永江衣玖。竜宮の使いよ」
天子の後ろに随伴していた衣玖は無言で幽香にお辞儀をする。そして、自分でもってきたらしい木製の簡素な椅子を部屋の角に置き静かに座った。
「あなたの身の回りの世話と、蘇生担当。これからの私の拷問でもしあなたの鼓動が止まるなんて事態が起きたら、彼女が蘇生してくれるわ。仲良くしてね」
「蘇生? 馬鹿馬鹿しい、私がお前なんかの拷問で死にかけるわけがないわ」
幽香は天子を鼻で笑いながら言う。
「確かに妖怪という生き物は魂を主とするから、人間だったらまず助からないような状況でも直ぐに治っちゃうわね。あなたみたいな大妖怪なら特に。まあ、心がしっかりしている内は、だけどね……」
すると天子は、いつの間にか用意してあった、土木工事の大作業などで使うような大きめのハンマーを持ち出した。
「まあ今日は初日だし、軽くいこうかしら」
天子は幽香が言葉を発するよりも早く幽香を蹴り飛ばし地面に倒れこませさせると、素早く足で幽香の左手首を抑え、息も付かせぬ速さで幽香の太ももへとハンマーを振り下ろした。
「ぐっ……!」
メキメキと骨の折れる音を立たせ激痛が全身に駆け巡りながらも、幽香はそのプライドから悲鳴を上げることを拒んだ。その姿を見て、天子は口の端を釣り上げる。
「あらあら、我慢しちゃって。そのやせ我慢が、果たしていつまで続くやら」
天子は休憩する間もなく今度は左足首を抑え瞬く間にハンマーを振り下ろした。
「っ〜〜〜〜!!」
連続して骨を砕かれる激痛に襲われながらも、幽香は歯を食いしばりなんとか耐えた。ふと衣玖の座ってる方を見ると、なぜか衣玖が、もの欲しげに自分を見ているような気がした。
「頑張るわね。でも、まだ終わらないわよ?」
天子の言葉に幽香は再び天子の一挙一動へと関心を移した。今度は先程とは違い、ゆっくりと間を持たせながら幽香の左腕を踏んで抑えこむ。抑えこんでからも、なかなか天子はハンマーを振り上げようとしない。
「ど、どうしたよ……もしかして、私が怖くて怖気付いたのかしら?」
「くすくす、分かってないわね。こういうのは、間を持たせることが大切なんじゃ、ないっ!!」
天子は最後の言葉を言い終わると同時に、幽香の右の二の腕をたたき潰した。
「がっ……!」
時間の経過によって幾分痛みが和らいでいた幽香にとって、この間を置いた打ち付けは想像以上のものがあった。しかし幽香は悲鳴を堪えた。
結局、同じく間を置いて右腕を砕くも、幽香は最後まで悲鳴を上げず、己の意地を貫き通した。
「さすが、この程度じゃあ音を上げないわね。それじゃあ今日はコレぐらいにしてあげましょう。衣玖、後は任せたわよ」
天子はハンマーをぷらぷらと揺らしながら部屋を出て行った。部屋の角に座っていた衣玖はゆっくりと立ち上がり、一旦部屋の外へと出て、何やらドロドロとしたモノが入ったペット用の皿を持ってきた。
「あなたの食事はこれです。一日一食、様々な食べ物を混ぜあわせているので栄養面に関しては問題ありません。体の再生を促進させる薬も入っています。今あなたは手足が使えないでしょうから、一緒にベッドの上に運びますのでなんとか食べてください。残さないで下さいね」
「……はっ! 馬鹿をいわないで! 私にこんなものを食えと!? こんな豚の餌みたいなものを!?」
「と言われましても、総領娘様からのご命令でして。ちゃんと食べないとその怪我も早く治りませんよ」
衣玖のあくまで淡々とした説明が、幽香の怒りにより油を注ぐ形となる。
「うるさいっ! だったらお前が勝手に処理すればいいでしょう!? お前の食べてるものでもなんでもいいからもっとまともなものを私に食べさせなさいよ!」
そう幽香が衣玖に吠え散らす。しかし衣玖は、ただ黙って動けない幽香と皿をベッドの上に運ぶだけであった。
「おい! 聞いてるの!? 少しは返事をしたら――」
乾いた音と軽い痛みが、幽香の怒りに満ちた叫び声を遮る。衣玖が、先程までとは打って変わって、怒りにあふれた形相で幽香の頬を彼女の纏っている羽衣ではたいたのだ。
「いい加減にしろよ……」
口調も先程までの無機質な丁寧語から、荒々しいものへとなっている。
「自分の立場を理解しろよな? お前には一切の自由なんてないんだよ。総領娘様のおもちゃになれたくせに……! ふざけやがって……!」
「なれたくせに、ですって……?」
幽香が衣玖の最後の言葉に疑問を覚えるも、衣玖は幽香にその疑問を口にさせる暇すら与えず、話し続ける。
「明日までには食べなさい。そうでなきゃ、後悔するのはあなただから。分かった?」
衣玖はそう言い残すと、そそくさと部屋から出ていってしまった。結局、幽香はその悪臭を放つドロドロの夕食に手を出すことは無かった。
〜二日目〜
「あら幽香、せっかくあなたのために腕によりをかけて作ったご飯、食べてくれなかったのね?」
台詞とは裏腹に、天子は楽しそうにニタニタと笑いながら幽香に言った。当の幽香は、まだ四肢が完全には回復しておらず、あまり自由に動けずうつ伏せの状態でベッドに横たわっていた。
「当たり前でしょ。こんなの、食べたいと思う?」
「いいえ、思うわけないわ。くすくす。でも、あなたには食べてもらわないと困るのよねぇ。栄養を取らないと、傷の治りが遅くなってぽっくり死んじゃうかもしれないし」
天子と衣玖は、大きなタンクを台車に載せて部屋に運び入れる。タンクには太めのホースがついており、天子はそれを動けない幽香の口へと突っ込んだ。
「ふがっ!?」
「だから、無理やり食べてもらうわ」
天子がホースを口に突っ込んだまま衣玖がタンクに付いているボタンを押すと、ホースから気色の悪い色をしたドロドロな食事が流れこんできた。
「んっ! んん〜〜〜!!」
酷い味だった。これなら普段使っている肥料を食べたほうがまだマシだと思った。一滴たりとも口に入れたくないと思ったが、幽香の意志に反して、ホースからは絶え間なく液体のような個体が流れこんでくる。もう三升分ぐらい飲んだのではないかといったぐらいで、ようやく天子はホースを幽香の口から取り出した。それにより、幽香は今まで詰め込まれたそれを、ベッドの上に思いっきり吐いてしまう。
「おっ、おえええええっーーー!!」
「汚いわねぇ。吐いちゃだめじゃない。ほら、ちゃんと食べなさい」
再び幽香の口にホースが突っ込まれ、食事が流れこんできた。再び食べさせられると思っていなかった幽香の顔色は青白くなる。そして吐いた以上の食事が幽香の胃へと流し込まれる。はっきり言って幽香の胃袋は限界であったが、再び吐き出してはさらに食べさせられてしまうと思い、幽香は再び天子がホースを口から取り外したとき、嘔吐感に襲われながらも、なんとか吐き出さずに済ますことができた。
「わかったわね? ちゃんと食べなきゃだめよ? もし食べなかったら、またこうやっていっぱい食べてもらうからね? それじゃあ衣玖、あとはよろしく」
「はい、総領娘様」
衣玖は出て行く天子に軽く礼をして見送ると、幽香の片手を掴み、地面へと放り投げる。衝撃による嘔吐感に加え、傷が治っていないため鈍い痛みが幽香を襲った。
「いつっ!」
「安心してください。食事を食べたのなら明日には治っているでしょう」
衣玖は幽香に一瞥もくれず、淡々と嘔吐物にまみれたシーツの取り替え作業をする。その手際は、実に鮮やかであった。そして取り替え作業が終わると、幽香を再びベッドの上に戻し、衣玖は取り替え前の汚れたシーツをもって出った。
〜三日目〜
翌朝幽香が目覚めると、幽香の手足は元通り健康な状態へと戻っていた。なるほど、確かに天子達の言っていた通り、食事には回復を促進させる何かが含まれているらしかった。とはいえ、手足が自由に動かせるようになったところで拘束されている彼女にとってはあまり関係ないのだが。
「おはよう幽香。どう? 元気になった?」
天子と衣玖が部屋に入り微笑みながら幽香に声をかけた。それに対し、幽香はベッドに腰掛ながらも天子を鋭く睨みつける。
「ええ、おかげさまで」
「それはよかった。さて、それじゃあ今日も楽しみましょう」
天子がそう言うと、衣玖が大量の鎖を部屋へと持ち込んだ。その鎖の末端は、非常に頑丈そうな釣り針が付いている。衣玖はそれを手際よく、壁から突き出ている妙な突起へと巻きつけた。そして全ての鎖を巻き終えた後、釣り針が付いたほうの末端を全て幽香の側へと持ってきた。
「何をする気なの……?」
幽香はその一種異様とも言える光景に対して訝しげに聞いた。すると天子は鎖を一本持って、それをくるくると回しながら話し始めた。
「この部屋はとっても便利に出来ててねぇ、どんなサディスティックなことだって出来ちゃうように作られてるの。まあ私がそう作らせたんだけどね。例えば……」
天子はくるくる回していた鎖を勢いよく幽香目がけて投げつけた。鎖はまるで生き物のように幽香の頬へと向かっていき、奥深く幽香の頬へと突き刺さった。
「っ!!」
天子は次々と釣り針を幽香の体へと引っ掛けていく。顔、首、腕、手、太もも、足……体中の至るところに引っ掛けた。幽香は微かな痛みを感じながらも、この程度では自分に悲鳴を上げさせることなどできないと思いながらそれに耐えた。全ての釣り針を引っ掛け終えた後、天子は壁に突き出たレバーの方へと向かっていき、それに手を掛ける。
「こんなこととかねっ!!」
天子がレバーを引いた瞬間、壁から突き出ていた鎖の巻かれた突起が一気に引込まれた。
「あああああああああああああああああっ!!」
想像を絶する激痛に、とうとう幽香は悲鳴を上げてしまった。全身は釣り針の付いた鎖によって四方八方に引き裂かれそうになるほど引っ張られていた。皮膚は伸びに伸び、幽香の体は鎖の引っ張る力だけで宙に浮いていた。むしろ引きちぎれないのが不思議なぐらいであった。
「まあ、なんて美しい姿なんでしょう!」
「ぎぎ……ぎ……!」
天子は満面の笑みで幽香の姿を見ながら言った。幽香のその姿は、まるで鎖によって捕らえられた罪人のようにも見えた。ちぎれそうでちぎれない皮膚は、そのまま引きちぎれるのとはまた違った痛みを彼女に与える。幽香は目に涙を蓄えながらも、なんとかその痛みに耐えた。どれくらい時間がたっただろうか、一時間かもしれないし、たった一分しかたっていないかもしれない。天子はレバーを戻し、突起が再び壁から付きだしたため、鎖が弛緩し幽香の体は地面へと落ちた。
「うぐっ……! はぁ……はぁ……」
息を切らす幽香に天子は近づいていき、今度はまるでワレモノでも触るかのように慎重な手つきで針を抜いていった。幽香の皮膚は、すっかり弛みきってしまっていた。
〜四日目〜
「う、ううっ……」
その日、幽香は強烈な腹痛に襲われていた。便意である。実のところ幽香はこの四日間排便排尿をしていなかった。生活リズムが整っている幽香は幾度と無く便意に襲われたが、それを今まで堪えてきた。あのバケツに排泄するのは彼女のプライドが許さなかったのだ。拷問の最中にさえ漏らさなかったのは幽香の意地と言えるだろう。
「あらあら、随分とつらそうじゃない?」
「……お前に心配されるほどじゃないわ」
まるで見越したかのように入ってくる天子に幽香は毒づく。だが、それがやせ我慢であることは誰が見ても明らかであった。
「この四日間ずっとおトイレ我慢してるもの。そりゃあきついわよねぇ。いっそ楽になっちゃえば?」
天子は足で『ゆうかのおといれ』と書かれたバケツを小突く。
「ふん、誰がそんな粗末なものでするものですか。私にトイレをさせたかったら、せめて最高級の大理石で作られた洋式トイレでももってくることね!」
それでも幽香はあくまで虚勢を張り続ける。しかし、その弱みを天子が見逃すはずもない。
「踏ん切りがつかないのね、可哀想に。だから私が手伝ってあげる」
「な、なにを……ふぐっ!?」
天子は幽香の腹部に勢いよく拳をめり込ませる。その衝撃によって幽香の便意はよりいっそう激しいものとなるが、彼女の目的はそれではない。天子は苦しみに悶える幽香を間髪入れずに押し倒す。彼女の履いているボロボロのスカートとショーツを脱がすと片手で両足首を掴み上げ、肛門が露になるようにすると、懐から一本の太い、プラスチック製の注射器を取り出した。
「な、何をっ!」
「大丈夫よ、ただの下剤。毒なんかじゃないから安心して」
「やっ、やめっ……!」
天子は笑顔で注射器を幽香の肛門へと突っ込み、内容されている液体を流しこむ。
「うぐっ、ううううううううううっ!?」
「効き目が早い以外は特段市販されてる下剤とは変わらないけど、今のあなたにとっては効き目たっぷりよね」
「いいいいいいいいいいい!!」
天子の言葉は幽香には届いていなかった。それどころか、天子がいつの間にか自分の側から離れていることにすら気付けていない。それほどの激痛が幽香に襲いかかっていたのだ。それはこの四日間我慢してきたそれの比ではない。体中から玉のような脂汗を浮かび上がらせている。少しでも気を緩めれば今すぐにでも排泄していまいそうだった。
「おねがいいいいいいっ!! といれ、といれいかせてぇええええええ!!」
「あら、おトイレなあらすぐ側にあるじゃない」
「それじゃないのおおお!! そんなの、おといれじゃないのおおおお!!」
この期に及んでも幽香はバケツに排泄することを拒否していた。排泄行為は彼女にとって譲れない一線だったのかもしれない。切迫した状況が、彼女から冷静な判断能力を奪っていた。
「そう、それじゃあ仕方ないわね。残りの十六日間、頑張って我慢してね」
「じゅ、じゅうろくにち……?」
その言葉を聞いた瞬間、幽香に冷静な思考が蘇る。
(こ、これをあと十六日間も……? そんなの……我慢できるわけないじゃない……)
しかしその思考が、彼女の緊張の糸を切ってしまうこととなる。
「あ……嘘……いや……いやあああああああああああああ!!」
幽香の肛門から勢いよく茶色い物質が吹き出してきた。勢いの留まることのないそれは、床をどんどんと汚していく。
「あらまあ汚らしい。おトイレを我慢するからそういうことになるのよ」
「ああ……あああああ……」
涙を流しながら、唖然とした様子で幽香は自分の排泄を眺めていた。便と一緒に尿まで漏らしている。この四日間溜めに溜めたものがすべて流れ出しているようだった。
「それにしてもよくこんなに溜め込んだわねぇ。素直に感心するわ」
「うううう……いやあ……」
「もう、人の話くらい聞きなさいよ!」
「ああ……ああ……」
「こりゃ駄目ね。衣玖」
「はい総領娘様」
衣玖が何処からともなく天子の背後に現れる。部屋に充満する異臭にも動じていない様子であった。
「お掃除お願い。あと幽香の体も綺麗にしといてね」
「はい」
「うううう……うううううう」
結局、その日一日幽香が平静を取り戻すことはなかった。
〜五日目〜
幽香はいまだ前日のお漏らしから立ち直れていなかった。部屋と体は衣玖のおかげによって綺麗さっぱり元通りに戻っていたが、どう忘れようとしてもあの排泄の瞬間の感覚と、立ち込める異臭が頭から離れなかった。
「この私が、この私がお漏らしなんて!」
「あらまあ、やっぱりまだ引きずっていたのね」
天子がいつも通りニタニタとした表情でやってくる。前日のことも相まって、その表情が幽香の癇に障った。
「誰のせいだと思ってるのよ!」
「あなたがおトイレでするのを嫌がったからあなたのせいよ」
「暴論ね」
「あらひどい。それよりも、今日はあなたの体を綺麗にしてあげようとおもってね。ちょっときなさい」
「綺麗に? どういう風の吹き回しよ」
「来れば分かるわ」
天子は壁に繋がれた鎖を外すと、犬の散歩をするかのように天子を首輪ごとひっぱり別の部屋へと連れて行く。
「ちょ、やめなさい! 自分で歩けるわよ!」
「嫌よ。あなたは私の奴隷なのよ。奴隷は奴隷らしく畜生程度の扱いでいいの」
「誰が奴隷よ、私はまだ屈服してないわよ」
そうこうしてる間に部屋へと着く。その部屋の床は非常に大きな水槽となっており、部屋の殆どをそれで占めていた。部屋の角には例によって衣玖が待機している。
「ちょっとこれでどうやって私を綺麗にするわけ? まさかここで泳げって言うんじゃないわよね」
「まあそれに近いわね」
「は?」
いまいち天子の意図を伺い兼ねていると、衣玖が幽香の足を縄で縛っている。その縄の先には、要石が縛り付けられている。
「まさかあんた……!」
「それじゃ、頑張ってね」
幽香が天子の意図に気づいた頃にはもう遅かった。天子は幽香を水槽へと突き落とし、衣玖が要石を水槽へと投げ入れた。
「がはっ!! ごぼっ……!! がっ……!」
「必死に溺れていれば、汚れも取れるわよ。ほらほら、もっと激しく!」
天子はまるで子供に泳ぎを教える母親のように天子を煽る。しかしとうの幽香は要石に引きづられ、底深い水槽へと引きづりこまれていた。
(どれだけ深いのよこの水槽は……! このままじゃ、本当に死ぬ……!)
必死に息を止めるも、体は留まることなく沈んでいく。幽香は妖怪であるゆえ、人間より遥かに長い時間水中で息を止めることが可能であるが、この水槽の深さはそんな幽香ですら息を続けられなくなるほどであった。水面から射す光がだんだんと薄らいでいく。命の危機を感じた幽香は、出来る限りの力を持って、必死に上へと泳いでゆき、要石ごと、なんとか浮上をはじめた。
「すごーい! 要石ごと上がってくるなんて、さすが風見幽香といったところかしら!」
(あと少し、あと少し……!)
幽香の体はゆっくりだが確実に水面へと近づいていた。そしてついに幽香の顔が、ゆらゆらと揺れる水面から飛び出す。
「ぷはっ……!」
その瞬間、水面に電流走る。
「!!」
浮上に体力を費やした幽香が水面を走る電流に耐えられるハズもなく、幽香の体はあっと言う間に仄暗い水の底へと沈んでいった。
(そんな……そんな……)
あっと言う間に幽香の視界から光が消えていく。もう息を止めることも出来ず、幽香の意識もだんだんと闇へと堕ちていった。
「さっすが衣玖! ナイスタイミング!」
「ありがとうございます」
満面の笑みで褒める天子に対し、衣玖はあくまで平然とした表情で答えた。
「でもこのままでは、風見幽香が溺死してしまいますよ?」
「ふぅーむ、それもそうねぇ。ここで死なれたら面白くないし」
天子は片手を高々と上げる。すると要石が急激に浮かび上がり始め、風見幽香ごと水槽から飛び出してきた。当の幽香は青白い顔をしながら気を失っている。その後幽香は衣玖の救命活動によって、なんとか一命を取り留めた。
〜六日目〜
幽香は木製の椅子に座らされていた。頭部、胸部、胴部、両手、及び両足首を皮によって拘束されている。特に足には導線の付いた金具が取り付けられ、頭部には濡れたスポンジを挟めてヘルメットが被せられていた。
「何よこの物々しい椅子は」
「あなた電気椅子って知ってる?」
「さあ初耳ね」
「外界の処刑道具でね、高圧電流を流して罪人を殺すための特別な椅子のことよ」
「ふぅん、それがこれって訳ね」
「そ。特別なルートから手に入れたってわけ」
幽香はあまり恐怖を感じていなかった。前日の水槽では不覚をとったが、直接電流を流される程度では自分は死ぬはずはない、という自信に基づいていてだった。
「随分と自信があるようね。でも一度味わってみれば、そんな余裕も消し飛ぶわよ? 衣玖」
導線の先にいた衣玖が羽衣の先を電極と重ねあわせ、電気を流し始める。常人ならあっと言う間に悲鳴を上げ黒焦げになっていただろう。しかし、幽香は衣玖の流す電流に耐えていた。苦痛を感じていないわけではないが、彼女にとって耐えられないほどでもなかったのだ。
「こ……この程度で私に悲鳴を上げさせようなんて……笑えるわね」
「分かってるわよそのくらい。この程度だったら力のある妖怪なら大丈夫でしょう。あなたが自信満々だったからサービスしてあげただけ。それじゃ衣玖、本番」
「はい」
衣玖の羽衣を包みこむように放たれていた青白い閃光がより一層強くなる。そして流される電圧は、何十倍、何百倍と膨れ上がり、電気椅子へと流されていく。
「い、いがあああああああああああああああっ!!!」
先ほどとは比べ物にもならない苦痛が幽香に襲いかかる。目を見開き、口を大きく開け舌を出し、電流によって制御を失った体の各部位はひくひくとカエルのようにひくつき、秘部からは尿が垂れていた。
「あああああああああああああああああっ! ああああああああああああああ!!」
幽香には悲鳴を上げることしか出来なかった。思考もまともに働かない。ただただ、体を駆け巡る電流に対し叫ぶことしかできなかった。
電流は一向に止まらない。どれくらいの時間がたったのか、一分か十分か一時間か、幽香にとっては永劫ともいえる時が流れていた。
「衣玖、止め」
「はい」
天子の言葉によってようやく衣玖は電流を流すことを止める。幽香はだらしなく筋肉を弛緩させ白目を向きながら、死体のように気を失っていた。
〜七日目〜
「私ね、活花をやってみようと思うの」
天子は部屋に入ってくるなり突然そんなことを言い出した。背後には衣玖が台車に箱を載せて待機している。
「ふぅん、不良天人のくせに生意気なことを言うのね」
「あら、これでも私はお花とか結構好きなのよ。美しい物を愛でる心とゆとりがなければ人生の価値なんてたかが知れてるわ」
「それで、あなたの新しい趣味と私と何の関係があるのかしら?」
「それでね、あなたに花留めをやってもらおうと思って」
「は?」
天子は箱に手を入れると、そこからある花の枝を取り出した。
「……桜?」
「ええ、動かないでね」
天子は幽香の体を強引に抑えつけると、服がボロボロゆえに肌が露出している部分に桜の木の枝を突き刺した。
「ぐっ……!」
「ほら、綺麗な桜って人の血を吸ってるっていうじゃない? だから、生き血を吸わせれば綺麗な花が咲くかなー、って」
天子は遠慮もなくどんどんと幽香の体に桜の木の枝を突き刺していく。腕、太もも、腹部、胸部、その他体の至る所に桜の木の枝が突き刺されて入った。幽香は悲鳴を上げることはしなかったが、次々と刺されていく枝によってできる傷の痛みと流れだす血によって、着実に体力を奪われていった。幽香の体は今、流れだす血によって真っ赤に染まりあがっていた。
「くっ、くうう……!」
「まあ綺麗! どう衣玖! わたし才能あるんじゃないかしら!」
「はぁ……総領娘様、別にいいですがそれだとそれ以上風見幽香をいじめられなくなりますよ?」
「あ……そうか……」
どうやら天子はこの花留めの致命的欠陥を見落としていたらしい。「はぁ」とため息をつくと「飽きた。後始末お願いねー」と言い残し部屋からそそくさと出ていってしまった。
「やれやれ……」
結局、幽香に刺さった桜の木の枝は衣玖が全部抜くこととなった。
〜八日目〜
(クソが……この私が……この私がこんな仕打ちを……!)
幽香は怒りに震えていた。この一週間耐えてきたが、もう我慢の限界であった。もともと自尊心の高い彼女がよく耐えたと言っていいだろう。
(以前の戦いは私が彼女を軽く見ていたせい……そうに違いないわ! 今日、あの天人を地面へとひれ伏せさせて、私の方が強いと証明してやる!)
実は一週間、幽香は拷問に耐えながらも首輪と壁を繋いでいる鎖を引きちぎろうと様々に手を施していた。その結果、鎖と壁を繋いでいる部分の金具がかなり脆くなってきており、力強く彼女が駆け出せば、外れるほどになっていた。
(あの天人がこの部屋に入ってきて……隙を見せた瞬間……襲いかかって奴に一撃を与えてやるわ。奴を叩きのめせば、あのリュウグウノツカイなんて敵じゃない)
幽香の頭の中では、既に勝利の光景が浮かんでいた。負けるわけがない。自分が絶対に勝つ。彼女は自信に満ち溢れていた。
そんな幽香の思惑を知ってか知らずか、天子がいつものようにニタニタと笑いながら部屋に入ってくる。幽香はその笑顔を不快に思いながらも、心情をさとられないようなるべく普段通りに接する。
「あら、今日も無駄なことをしに来たのね不良天人」
「あら、それが無駄かどうかは受けてみないと分からないことよ?」
「へぇ、言ってくれるじゃないの」
あくまで挑発的な態度は崩さない。天子が挑発に乗り、なんらかの隙を作ることを望んでだった。
「今日はまた随分と自信があるわねぇ。まあいいわ。そんなあなたを今日もヒーヒー言わせてやるんだから」
そう言って天子が壁に掛けられている拷問道具を取りに行こうとする。幽香その一瞬の隙に好機をみた。
(今だっ!!)
幽香は駆け出すことによって金具を弾け飛ばし一気に天子と距離を詰める。天子が気付き振り向くも遅い。幽香の拳が天子の顔面を捉える。骨の砕ける音がした。
(勝った……)
幽香は勝利を確信し笑みを浮かべる。全体重を乗せた懇親の拳で、天子の頭蓋骨をたたき割ってやったのだ。しかし、天子は一向に崩れ落ちる気配はない。さらに幽香は違和感を覚えた。天子の表情がおかしい。それは殴られた者のそれではない。
天子は、幽香の拳を受けてなお、笑っていたのだ。それは今までのような小馬鹿にした笑いではない。見る者を震え上がらせる、酷く歪んだ、強者の笑みだ。それは、幽香が弱者を虐げるときの笑みに、よく似ていた。
「残念だったねぇ」
天子はそう幽香に言うと、自分の顔を捉えている手を掴み、ゆっくりと払いのける。その顔には傷一つ付いていない。骨が砕けたのは、幽香の拳のほうだったのだ。
「あ……あああ……」
幽香の顔に初めて、恐怖の色が浮かび、後ずさり始める。震えが止まらない。幽香は悟ったのだ。この者は自分より、強いと。絶対に、かなわないと。幽香が生まれて初めて感じる、弱者の恐怖であった。
「あらあら、さっきまでの威勢は何処へいったの?」
天子はなお笑みを浮かべる。強いものは大抵、笑顔である。
「ごめ……ごめんな……さい……」
幽香の口から謝罪の言葉が漏れる。彼女の頭からはもう、天子に逆らおうなどという意志は微塵の残っていなかった。
「まったく主人に刃向かうなんて、駄目な奴隷ね。そんな子には、お仕置きが必要、ねっ!」
「ひぐっ!!」
幽香の腹部に天子の強烈な膝蹴りが入る。幽香は腹部を抱えゆっくりと地面に倒れこんだ。
「かっ、かはっ!」
「ほらほらほらほらほら!」
天子は何度も何度も幽香の体を踏みつけた。幽香は必死に頭を抱えることしかできない。
「あっ、ぎっ、ぎいいっ!!」
何十回、何百回と踏みつけられた後、幽香はやっと天子の踏みつけから開放される。体中アザだらけになり、呼吸は乱れ、虫の息といえる状態であった。
「もう二度と逆らわないこと。分かった?」
「は、はい……」
幽香は天子ただただ頷くことしかできなかった。しかし、その後天子の「そろそろ根をあげたらどう?」という言葉に対してだけは、彼女は決して頷くことはなかった。彼女にとっての最後の意地である。そしてそれは、拷問の日々さらに続くことを意味していた。
〜九日目〜
「あ、あの……これは……」
幽香は全裸で十字架に貼付けにされていた。スタイルのいい幽香が十字架に貼りつけにされているその姿は非常に美しく、何も知らない物が見れば思わずため息を漏らしていただろう。一方天子は、幽香の足元に大量の薪を置いている。もちろん衣玖に用意させたものだ。その衣玖というと、二人から離れた位置で天子の行為を眺めている。
「見て分からないの? 火あぶりよ、火あぶり」
「そ、そんな……! で、でもこんな狭い場所で火なんて焚いたら大変なんじゃ……!」
幽香は普段の彼女からは考えられないような弱々しい口調で尋ねる。昨日の一件は完全に上下関係を成立させたらしい。
「大丈夫よ。この部屋、意外と換気できるんだから」
天子がくいくいと天井を指差す。その先に目を凝らすと、たしかに幾つか換気口のようなものがあった。
「まあそれでも苦しいだろうけど、我慢してね」
天子は懐からマッチを取り出し、火を点けると薪へと投げ捨てた。薪についた火はだんだんと大きくなり、やがて轟々と燃え盛る炎へと姿を変えていった。その炎は、だんだんと幽香の体を包みこんでいった。
「あづい!! あづいあづいあづいあづいあづいいいいいいいいいっ!!」
幽香はためらうことなく体が焼かれていく苦しみを口に出す。幽香の体はどんどんと赤黒く焼け焦げていった。つま先、二の足、そして太ももと、炎が大きくなるにしたがって、幽香の体も焼け焦げていく。通常人間は体の四割以上に火傷を負うと死の危機があると言われているが、幽香は妖怪ゆえそれには当てはまらない。だからこそ、火あぶりは彼女にとって拷問手段となりうるのである。
「あ゛あああああああっ!!」
「ううん! やっぱり火あぶりされる女性っていいわあ! ぞくぞくしちゃう!」
「総領娘様、さすがに彼女が力ある妖怪とは言え、そろそろ危険かと……」
いつの間にか近づいてきた衣玖が天子を諌めるように囁くが、天子は面白そうににやにやしているだけであった。
「へぇ、随分と彼女を心配するのね衣玖」
「そ、そういう訳では……」
「もしかして、妬いてる? 焼いてるだけに」
「そ、そんなわけないでしょう!!」
衣玖は顔を紅潮させながら怒鳴った。その紅さは幽香を焼いている炎の色に負けずとも劣らない。
「ま、そんなかわいい衣玖に免じて、今日はこれで終りにしてあげましょう。それっ!」
天子は何処からともなく巨大な要石を出現させると、燃え盛っている薪を一気に押しつぶした。
「また随分と荒っぽい消火方法ですね……」
「破壊もまた消火の手の一つよ。江戸時代の火消ししかり現代の爆破での消化活動しかり……」
「はぁ……はぁ……」
今にも死にそうな幽香を尻目に、二人の呑気な話はいつまでも続いた。
〜十日目〜
「うっ、うううう……」
ベッドの上で幽香が悶え苦しんでいる。彼女の火傷は日を跨いでも回復していなかった。これまでの回復速度は幽香が食べさせられている食事と、妖怪ならではの回復速度が相まってのものであった。しかし己が天子にかなわないと分かった今、彼女の心は以前よりも弱々しくなり、それが肉体にも影響を及ぼしているのだ。
「はぁ……どうしたものかしらねぇ……この状態で拷問してもいいんだけど、今日やろうと思ってたことはかなり過激だから下手すると死んじゃうしねぇ……」
「だから言ったでしょう。まったく総領娘様と言ったら人の話も聞かず……」
「もう小言は沢山よ! ふぅむ、そうねぇ……」
天子は腕を組みもんもんと悩む。そのらしくない姿に思わず衣玖は吹き出しそうになったがなんとかこらえた。するとなにかひらめいたのか、天子は手をポンと叩き、「そうだ!」と大きく声を上げた。
「あなたをいじめればいいのよ!」
「……え?」
その回答に衣玖は素っ頓狂な声をあげるが、その表情は、困惑と言うよりはむしろ歓喜の感情に近いものであった。
「あなたをいじめてそれを幽香に見せる。そうして幽香に奴隷としてのあり方を教える。どう? なかなかいいアイディアじゃない?」
「ええ、さすがです総領娘様!」
暴論どころではない提案であったが、衣玖はそれを満面の笑みで褒めたたえた。幽香は最初それがどういうことか理解できなかったが、衣玖が最初の日に言っていたことを思い出した。
『自分の立場を理解しろよな? お前には一切の自由なんてないんだよ。総領娘様のおもちゃになれたくせに……! ふざけやがって……!』
そう、衣玖は既に天子の奴隷として調教済みだったのだ。
「さあ衣玖、服を脱いで……」
「はい、総領娘様……」
衣玖は期待を抑えられないのか、その声は誰が聴いても喜びが伝わってくる。顔は真っ赤になっており、やんわりと笑みを浮かべている。衣玖があっという間に全裸になると、天子は衣玖をそこだけ木製となっている壁へと押し付け、両手両足を広げさせると左の手のひらを五寸釘で始めた。
「あああああああああああっ!!」
衣玖はためらいもなく大声を上げる。しかしそれは悲鳴ではなく歓喜の叫びである。表情をだらしなく舌を垂らし白目を向きながらも、確かに笑っていた。
「相変わらずあなたはいい声を上げるわ、ねっ!!」
言うと同時に天子は今度は右の手のひらに釘を打ち付け始めた。
「ああんっ!!だってぇ、だってぇ、そ、総領娘様の、お、お仕置き! 気持、よ、良すぎるん、だもん!!」
その苦痛があまりにも気持いのか衣玖はいつの間にか敬語を使うことを忘れている。それはいつものことなのか、天子は気にせず釘を打ち付けている。
「それにしても今日は随分とよがるじゃないの」
「それは、総領娘様がっ! あん! 最近全然構ってくれないからぁ! いん! 溜まっちゃってぇ……。 うえっん!!」
「そりゃあ、あんたやたらおねだりするんだもん。そんなにおねだりされたら、逆に上げたくなくなっちゃうのがS心ってもんよ? あなたは求めすぎで萎えるのよ」
いつの間にか衣玖の体のあちこちが五寸釘で打ち付けられていた。衣玖はその快感からか、秘部からちょろちょろと愛液を垂れ流していた。そんな幽香の胸の内に今まで感じたことのない妙な感情が沸き起こったが、それが一体どんな感情なのか、言い表すことができなかった。
「さあ仕上げよ。その土手っ腹に、でっかい風穴開けてやるわ。覚悟しなさい」
天子は先端が非常に尖った要石を出現させる。それに腹部を貫かれればただではすまないだろう。なるほど、あれを刺されればたしかに自分は死んでいたかもしれないと、幽香は思った。
「ぎてえええええええええ!! そのでっかい要石で、私の腹をつらぬいてえええええ!!」
衣玖が叫ぶ。天子もそれに答えるように、勢いよくその巨大な要石を衣玖の腹部を貫いた。
「あああああああああああああああっ!!」
大量の血と愛液を出しながら、衣玖は気を失ってしまった。死んでしまったかのように見えたが、「衣玖は殺しても死なないわよ」と天子は吐き捨てた。その言葉を裏付けるかのように、衣玖の表情は、まるで天国にいるかのようであった……。
〜十一日目〜
「んっ、はぁ……」
幽香は排泄行為を行っていた。『ゆうかのおといれ』と書かれたあのバケツにだ。漏らしてしまったあの日以来、幽香はしっかりバケツに排泄を行っている。漏らしたときの羞恥心から「漏らすよりましか」といった具合で、バケツに排泄することを妥協したのだ。ちなみに今は、便と尿、その両方をいっぺんに排泄しているところである。
「まあ、おトイレ中だったかしら!」
「!!」
天子の声が突然飛んでくる。どうやら排泄を見られてしまったらしい。幽香は顔がみるみる真っ赤になっていくのを感じた。
「そんな恥ずかしがる必要ないのにー。だってあなたのお漏らしだって見たのよ私ー」
「う、うるさいわね!」
「くすくす、かわいいんだから。あ、そーだ!いいこと思いついた!」
天子がぱぁっと笑顔になって言った。天子がこの顔でなにか思いついたときはろくなことではないと、幽香はこの十一日間でよく分かっていた。
「ねえあんた、そのバケツの中身飲みなさいよ」
「は!?」
その提案に幽香は素っ頓狂な声をあげる。昨日の衣玖とは違い、完全に困惑の色が見られた。
「だーかーらー、それを飲むの。いわゆるスカトロってやつよ」
「そ、そんなこと……できるわけ……」
「へぇ……あんた、私のいうことに口答えできるご身分……?」
「そ……それは……」
天子の迫力に幽香は完全に萎縮していた。力の差を理解する前ならば断っていただろう。しかし、今の幽香は天子の命令を断ることができなかった。
「わ……わかりました……」
幽香はバケツの中を覗き込む。今ではすっかり慣れてしまったあの食事が液体状であるせいか、ほぼ下痢状で排泄される便が尿が混ざり合い、非常に名状しがたい色合いと形状なっていた。自分の排泄物とはいえこれほど酷いものはなかなかないと思った。思わず吐きそうになるが、これにさらに嘔吐物まで混ぜあわせたらいよいよ飲めなくなってしまうため、ぎりぎりのところで堪えた。
「さあ、一気! 一気!」
「う……うう……!」
いざバケツを持ってみると、なかなか踏ん切りがつかない。しかし、天子の言葉に逆らうこともできない。迷うこと数分、なんとか幽香は呼吸を整え、力強く目を固くつぶる。そして、自分の排泄物を幽香は一気に口に流し込んだ。
「きゃー! すてきー! かっこいいー!」
「うっ……!」
これまた非常に名状しがたい味が幽香の口の中に広がる。今直ぐに吐き出したいが、しかし、ここで吐いても絶対それを飲めと命令されることは眼に見えているので、ここでも幽香は意地を見せなんとか嘔吐せずに済んだ。バケツからたれる汁でボロボロになっている服が汚れてしまった。もともと血や嘔吐物などで汚れているので、排泄物の汁で汚れたぐらいどうということはないのだが。
天子はそれで満足したらしく、楽しそうに鼻歌を歌いながら帰っていった。
〜十二日目〜
「なんなの……これは……」
幽香は目の前に広がる光景に動揺する。部屋の至る所に、鉄製の、彼女が見たこともない様々なものが広がっているのだ。いや、一部は見たことがある。それは八雲紫と戦うときに時折スキマから飛び出させるものであった。道路標識である。さらには一部の壁から無数のトゲが飛び出ている。部屋の様相が、より一層異様なものとなっていた。
「これは道路標識と言ってね、外界で道に突き刺さってるものらしいわ。こっちはドラム缶、外界で大量の液体を保存するときに使う物らしいわ。そしてこれはバット、外界でスポーツをするときに使う棒で、これで球を打って遠くへ飛ばすらしいわ。そしてこれがチェーンソー、神をもバラバラにする外界の神器よ」
天子が幽香に説明を始める。しかしその説明は意味のないことは幽香は分かっていた。明らかに説明されている用途と、これからそれを使う用途が違うであろうことは、誰の目から見ても瞭然だからだ。
「さて、これからあなたの首輪を外すわ。そして私はあなたに襲いかかる。もし半刻あなたが私から逃げ切れたら今日はそれでおしまい。飛ぶのは禁止ね。自分の足で駆けまわりなさい。この部屋、結構広いから十分走れるでしょ? 全力で逃げなさいよ?」
幽香は恐怖に震えた。この部屋の至る所に広がる様々なモノ。天子はそれを使って自分を弄ぶつもりなのだ。捕まったらなにをされるか分かったものではない。
天子が壁に止められている鎖に手を掛ける。どうやら鎖を引きちぎるつもりらしい。
「はいそれじゃあ……スタート!」
鎖が引きちぎられたと同時に幽香は全力で駆けた。ある程度距離を作って置かなければ、すぐに追いつかれてしまうであろう。部屋に無造作に置かれている様々なモノを避けながら、幽香は必死に逃げた。天子もその幽香を全力で追う。例にもれず、楽しそうな笑顔で。幽香は必死に逃げた。ときには置かれているモノを使い、天子を足止めした。幽香にできることは、弱者として強者から逃げまわるだけであった。
「ああもう! チョロチョロとめんどくさいわねぇ!」
天子は近くに置いてあったゴミ袋を投げつける。勢いよく投げつけられたゴミ袋は幽香の頭に直撃し、ばらまかれるゴミが彼女の視界を遮り足を止める。
「ごほっ! ごほっ!」
舞い散るゴミが呼吸を妨げる。幽香なんとかゴミを振り払い、再び駆け出そうとしたが、それはもう遅かった。
「捕まえた」
幽香がその天子の言葉を聞いた瞬間、視界が真っ暗になり何も見えなくなる。天子がドラム缶を被せたのだ。さらに天子は、ドラム缶を被せた幽香に、近くに刺してあった標識を抜き取り、それを幽香へと突き刺す。一本だけではなく、何本も。
「…………っ!!」
ドラム缶の中から声にならない幽香の叫びが聞こえる。幽香はドラム缶をかぶったまま何本も標識を突き刺され、立ってるのがやっとの状態で、ふらふらと歩き始めた。しかし天子はそれで終わらない。バットを拾った彼女は、ふらふらとうろつく幽香に向かって構える。視界が遮られている幽香は気づかない。だんだんと天子の方へと近づいていく。そして丁度幽香が天子の真横にきたとき、天子は思いっきりバットを振りかぶった。
非常に鈍い音を放った後幽香は大きく吹き飛ぶ。その先には、壁から生えているトゲ。そして勢いが衰えることなく幽香は、胸部をトゲに深々と貫かれることとなった。
「うーん、快……感」
満面の笑みで天子は言う。ドラム缶を被り、標識を何本も刺され、壁からぶら下がっている幽香はピクリとも動かない。しかしその後、衣玖の必死の救命活動により、幽香はなんとか一命を取り留めることとなった。
〜十三日目〜
幽香はベッドで薄いタオルケットを被り震えていた。昨日の天子の仕打ち。一歩間違えれば確実に死んでいた。体に残る凄惨な傷跡がそれを物語っている。逆らうことの出来ない理不尽な暴力。それはかつて自分が行っていたことでもあった。そして、衣玖の姿を見たときに自分の内に湧き上がった妙な感情。その正体がつかめないことも、彼女に恐怖を感じさせる一因であった。
扉が鈍い音をしながら開かれる。幽香は一瞬ビクつきながらも、扉の方へと目をやる。天子がやってきた。今日もまた拷問が始まる。そう思った。しかし、天子の口から放たれた言葉は、意外なものであった。
「飽きた」
「え……?」
「飽きたのよ、あなたで遊ぶのに。ほら、さっさと自分の家に帰りなさい」
「で、でも……」
「でも何? 口答えなんかしない。さっさと帰りなさいって言ってるのが分からないの?」
「は、はい……」
こうしてまったく予想していなかった形で拷問の日々は幕を閉じた。しかし幽香は納得できないでいた。
なぜ、突然飽きてしまったのだろうか。いくら天子が飽きっぽいとはいっても、唐突すぎる。しかしこれで終りならそれはそれでいいのかもしれない。幽香にとってそれはさほど気にすることでもなかった。幽香が気にしているのは、別のことであった。
何故自分は、帰れと言われたときに躊躇ってしまったのだろうか。
〜十六日目〜
幽香は太陽の畑にある自宅で紅茶を飲んでいた。服もきれいな物に改め、以前と同じように花達の世話をした。それはあの拷問の日々の前に送った、いつもと変わらない日常。そのはずだった。しかしながら彼女は、その日常になにやら足りないものがあると感じていた。それが何かは分からない。考えれば考えるほど、胸の内に湧き上がる妙な感情。それが、この三日間の彼女を悩ませていた。恥ずかしいことではあるが、性欲が溜まっているのだろうかと思い、自慰を行ってみるも、一時的な快楽だけでそれは解決されなかった。
「……こうやってうじうじ考えても仕方ないわね。花達の様子を観に行きましょう」
幽香は太陽の畑へと赴いた。花達の世話をする間が、彼女にとって数少ない癒しの時間となっていたのだ。花達はいつもと変わらず元気に咲き誇っている。花達は幽香にとってかけがえの無い友でもあった。その友がこうして元気な姿をしているのを見て、自然と顔がほころんだ。
「……痛っ」
その時、幽香の頭に何か固いものがぶつかった。地面に落ちたそれを手に取ってみると、つららであった。飛んできたであろう方向を見ると、そこにはかつて虐げた氷精、チルノがいた。
「やっと見つけたわよ風見幽香! この間はみんなにひどいことして! みんなに頭をさげてあやまりなさい!! この乱暴者!」
チルノは怯えながらも大きく声を張り上げる。いつもの幽香であればすぐさまチルノを虐げていただろう。しかし幽香は、自分を罵倒するチルノの言葉に、またあの妙な感情が沸き起こっているのを感じ取った。
「あんたはいっつも弱い者イジメして、みんなメーワクしてんのよ! あんたみたいな奴がいるから世の中から争いが無くならないの! あたいはあんたみたいな奴が大嫌いよ! この花しか友達がいない一人ぼっちのクソババア!」
チルノは勢いに任せ、思いつく限りの罵倒を幽香に浴びせた。その後の事など考えていなかった。しかし幽香は、そんなチルノの言葉を不快に思っていなかった。あの妙な感情で胸が溢れかえっていく。自分よりも下のものに罵倒される屈辱、それが彼女の何かに触れた。幽香は、ゆっくりとチルノの元へと近づいていく。そして、チルノのすぐ目の前で立ち止まった。
「な、何よ……。こ、このっ……! な、なんとか言いなさいよ!!」
チルノは震えながらも言う。すると、幽香チルノの目の前で膝をつき、手を地面について言った。
「ごめんなさい……」
〜二十日目〜
太陽の畑。月の美しい夜であった。幽香は今日もいつもどおり、花達の様子を見ていた。ゆったりと流れる、彼女だけの時間、空間。彼女の数少ない友との語らい。それは、彼女に取って何よりも代え難いものなのだろう。
「邪魔するわね」
その時間を崩すかのように、宵闇の中、太陽の畑に訪れる影が一人。青い髪の少女――比那名居天子はその長髪を風に靡かせながら、初めてあったときと同じ笑顔で幽香に話しかける。
「久々にあなたの様子を見に来たのだけれど、どうかしら? 最近」
幽香は天子と向かい合う。そして、一切のためらいもなく、彼女の足元にひざまずいた。
「比那名居天子様……どうか、どうかこの風見幽香を、天子様の奴隷にしてくださいっ!!!」
幽香の声が太陽の畑中に響き渡った。向日葵がざわつくように風に揺られる。
「一体どういう風の吹き回しかしら? 今更私にそんなことを頼むなんて」
「私はこの数日思い悩んでいました……自分の中にくすぶる妙な感情を。天子様が永江衣玖をいたぶっていたときに芽生えた、その正体が一体なんなのかを。でも四日前、私は自分より格下の氷精に散々になじられた時、気づいたんです。あの感情は、あなたに虐げられる永江衣玖に対する羨望、そして、虐げられることへの喜びだと! 私は今まで自分が虐げてきたもの達へ頭を擦りつけ詫びました。自分よりも劣っているものに頭をさげる……今思い返しても実に屈辱的で、実に快感でした……。私は生まれ持った立場と強大な力を持つゆえ、誰かの下に立つなんてことは経験したことがありませんでした。だからこそ、誰かに虐げられることを望んでいたのかもしれません……私のこれまでの行為は、私の真意の裏返しだったのでしょう。あなた様は、それに気づかせてくれました。あなた様は、私に被虐の快楽を教えてくれました、感謝してもしきれません。それほどの恩を受けてなお図々しい頼みだとは承知しておりますが……こんな愚かで……淫らで……変態な……卑しい私めを……どうか……どうか天子様の奴隷に……!」
幽香は額に擦りつけたまま言い切る。一方の天子は、その幽香の口上を、表情を変えずに聞いていた。そして、幽香が言い切ると、幽香の顔を足で引っ掛け無理やり自分の方を向かせ、高飛車な態度で話し始める。
「よく言ったわ風見幽香。やはりあなたは私が見込んだとおり、最低の屑だったわね。あなたみたいな屑は、私が奴隷にしてあげる以外、行き場がないんでしょう? そりゃあそうよねぇ、散々他人に対して横暴な振る舞いをしたにも関わらず、実はド変態の超弩級マゾヒストだったなんて、受け入れてもらえるわけないものねぇ? さっきだって、私に自分の事を述べるときに感じていたんでしょう? 自分の恥ずかしい性癖を他人に明かす羞恥心が、たまらなかったんでしょう? いいわ……あなたを奴隷にしてあげる。さあ、奴隷の初仕事よ。ここの汚らわしい土で汚れたこの靴を、あなたの下品な舌で舐めとって頂戴。もしやり方が下手くそだったら、あなたの唯一のお友達のお花をへし折ってあげる」
「! はい! ありがとうございます! 天子様!」
「なんだかその呼び方慣れないわねぇ。私のことは、ご主人様と呼ぶこと。間違えたら許さないわよ?」
「はい! ご主人様!」
天子の言葉に、幽香は嘘偽りのない歓喜を感じた。こんな下賤な自分を受け入れてくれるなんて、なんて素晴らしいお方なのだろう。幽香はそれまで浮かべたことのないような、幸せに満ちた笑みで、天子の足を舐め始めた。
「ん……ああっ……んあん……!!」
「ふん、やっぱり下手ねぇ。はいペナルティ」
天子は近くに生えていた向日葵を引きぬき、それをかつての幽香の傘のように、何回も折り曲げる。
「ああん、ひどいですご主人様っ」
その言葉とは裏腹に、幽香の表情は一切悲しみなど浮かべてはおらず、ただただ、愉悦に満ちていた。
「ほら口を動かす前に舌を動かしなさい。本当に使えない奴隷ね」
「すいません……れろ……んん……んはっ……」
幽香は謝罪の言葉を述べた後、必死に天子の靴を舐め続けた。その技術は未熟だが、その健気な姿が天子の琴線を揺さぶった。
「くすくす……頑張るじゃない。あなた、さっき私が花を折ったとき、実は股を濡らしてたでしょ? 自分の大切にしてる花をめちゃくちゃにされて、それで感じてたんでしょう? 本当にいやらしいわね、あなた」
「そ、そんなこと……んあっ……ないですよぅ……あん……」
「隠さなくていいのよ。そんなどうしようもないあなたを見て、わたしもちょっと濡れちゃったんだから」
「んん……ご主人……様ぁ……!」
愛しい主である天子が自分で濡れた。その言葉に幽香は、奴隷としての最上の悦喜を感じた……。
◇◆◇◆◇
〜××日目〜
「ふふ、今日は天気がいいわねぇ幽香」
「はい、ご主人様」
「こんな日にみんなで散歩できるなんていいと思わない衣玖?」
「そうですね、総領娘様」
ある日の昼下がり、天子は幽香と衣玖を連れ、幻想郷をゆったりと散歩していた。幽香と衣玖は一糸まとわぬ姿であり、首輪をつけ、四つん這いで歩いている。首輪から伸びる手綱は天子が握っており、いわゆる犬の散歩をしているつもりらしい。その姿の異様さは日々目にするような犬の散歩とは似ても似つかないが。
「ほらほらもっとテキパキ歩きなさい。主人の歩調に合わせないなんてなんて駄犬かしら」
「ですってよ衣玖、あなたがとろいから怒られちゃったじゃない」
「あら怒られたのはあなたじゃないんですか? 私のほうが総領娘様の奴隷歴は長いんです。総領娘様の歩調ぐらい完璧に把握してるんですよ」
言い争いを始める幽香と衣玖に、天子は呆れた表情で二人を見た。
「まったく、くだらない言い争いなんかして、そんなことで私に恥をかかせたいの? 誰かが見ていたらどうしてくれるのかしら?」
「誰かが……」
「見ていたら……」
その言葉が二人の羞恥心を煽る。こんな恥ずかしい姿を誰かに見られたら……もしそれが知り合いであったなら……そう想像するだけで、二人は興奮を抑えられない。
「まったく発情しちゃって、いやらしいメス豚たちね。特に幽香、あなた、もう濡れちゃってるじゃない」
天子の言う通り、幽香の秘部からは、ぽたりぽたりと、愛液が流れ落ち、道中に染みを作っていた。幽香の顔が瞬く間に紅潮していく。
「も、もうしわけございません……」
「ふふ、帰ったらお仕置きね。幽香」
「はい……ご主人様……」
幽香は満面の笑みで天子に答える。今や、風見幽香の心も体も、完全に比那名居天子のモノと化していた。
「ご主人様……一生、お使えいたします……」
久々に投稿。
思い立ったのが半年前なのにいままでずっと放置、引越しが近くなり少しの間ネットが出来なくなるから書き上げたとかなんという体たらく……。重度のネット依存症の俺死んじゃう。
そんなことより天S幽Mっていいと思わないかい?
そして十二日目の内容で『MADWORLD』を思い出した人は一緒に酒を飲みながらデスウォッチを観戦したい。
追記
誤字修正しました。>>4様ありがとうございます
やっぱり徹夜明けに確認するもんじゃないね
さらに追記
誤字報告>>9様ありがとうございます
天子S派が思った以上に多くて私、嬉しいです
そして誰もMADWORLDを知らなくて、私、ショックです(ポロン←モノを落とす音
ナレン・フライハイト
作品情報
作品集:
25
投稿日時:
2011/03/21 20:02:35
更新日時:
2011/08/14 11:31:24
分類
風見幽香
比那名居天子
永江衣玖
天S
拷問
天子は倒されなかった場合はここまで増長しそうですね。
天子は幻想郷の有力者より弱いというのは本当のことだったりして。
幽香は弱い者いじめをして粋がるのがせいぜいの実力しかなくて、
自分を最強者の一人と勘違いしたまま格上の天子に挑み、やられて、
潜在的M属性を見出されてしまったとか。
いやぁ、クオリティ高かったです。
いままで高飛車だったキャラが完全に調教されてプライドも無くひれ伏す姿っていいですよね。
特にスカトロと靴舐めと野外露出が個人的に大ヒットしました。
素晴らしい作品をありがとうございます。とりあえず早速自分のおしっことうんちを飲んでる幽香さんで抜かせて頂きました。
この程度しか喋ってないってことは、あいつらはそんなに天子つえーと
感じてないんだろうな。やっぱ単純に幽香が弱いだけ?
しかし気の強い幽香が屈服されるのは良いですね。
9日目の「消化」は「消火」だと思われます。
『実力を隠してわざと負けてやった』もマジだから困る
それはそうとして、素晴らしい調教ものをありがとうございます
気丈でS気取ってる子を屈服させるのがいいんだよなぁ