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『幻想侵略記11』 作者: IMAMI
ふらっ。と妹紅の体が揺れる。
「お前……!」
妹紅の炎を霧雨の剣で振り払った肥満体が妹紅の様子を見て告げた。
「ああ。その小刀に蓬莱の薬?の中和薬がたっぷり塗られてる」
(もう、薬が出来たのか!)
「ぐっ………!」
蓬莱の薬の1000年以上もの呪縛から妹紅は解き放たれた。妹紅の身体に今その縛られた時間が襲い掛かる。
「むぐっ…ごぇぇぇっ!」
びたびたと妹紅の口から血と膿が混じった吐瀉物が抜け落ちた歯と共に吐き出された。
「ふふっ、よくわからないが辛そうじゃないか。解放されたきゃ動くなよ?」
(こうなったら……!)
妹紅は小刀を引き抜いてスペルカードを発動させた。引き抜いた刺し傷が治癒される。まだ完全には中和はされてないらしい。
『パゼストバイフェニックス』
妹紅の身体を中心に鈴仙を焼き殺したものとは明らかに異なる炎が立ち上る。
妹紅自身を焼き付くし、魂を中心にした巨大な炎となる妹紅の妖術だ。
「今度のは服だけじゃあ厳しいみたいだな…
さっきの鳥みたいな形の火も辛かった。服で耐えれるのはあれが限界だ」
肥満体の男はそれを見抜き、刀を納めた。
「何をしている?焼かれるのが望みか……?」
「いいや?居合いで斬るんだよ。火をな」
腰を落として構える肥満体。
「火が斬れるわけがない。"斬れる"のはそれが物質であることが前提だよ。
火は物質じゃない。現象だ」
妹紅が妖力を高めながら肥満体に告げた。
「現象でも、俺なら斬れる。岡崎教授に頂いた力があれば、火でも雷でも斬れるさ」
(………)
たしかに肥満体からは凄みを感じる。この男なら本当に炎でも斬らんばかりの気迫がある。
………やることは1つだ。
「いくぞ…!」
「ふん。来な」
妹紅は一つの巨大な炎になる。そして───
「あ?」
180度のクイックターンを決めて空の彼方へ飛んでいった。
「………まぁ、そうだわな」
逃げた。逃げたのだ。
「はぁ……」
肥満体の男はため息と共に構えを解いた。
「なんだよおい……
でもまぁ、蓬莱の薬とやらが中和されたことを別の連中に伝えに行くのが普通か」
ペッ。と妹紅の吐瀉物に唾を吐き出すと肥満体は山の中へ引き返していった──
「戻ったわよ」
「お帰りなさい小兎姫」
会合を終えた霊夢と小兎姫をメルランが向かえた。
今小兎姫の仕事場を含めた自宅にはプリズムリバー三姉妹、大妖精、チルノ、レティ、霊夢、小兎姫本人、そして一時的にこの場所にとりついたカナがいる。大所帯だ。
「………吸うかしら」
小兎姫が霊夢に煙管を差し出す。
「ううん。いらない…」
「そう。……まだ疑っている人がいるわね。あなたのこと」
「うん……」
会話が途切れてしまう。小兎姫は訪ねた。
「霊夢。まだ訊いてなかったわね。別の博麗のこと」
「博麗靈司……」
霊夢が博麗の人間らしい名前を口にした。
「二代目博麗の神官、宮司よ」
「……逢ったの?」
「ええ。神社に来たの。
私を懐柔しようとしてきたわ」
「なるほど…」
霊夢は向こう側に必要な人材だということらしい。少くともすぐに殺すつもりはない。ということだ。
「その、博麗靈司っていう男はどんな感じ?」
「………襲われてから古文書を調べたけど、天才と言われ、何千もの妖怪を葬った博麗の一人よ。でも、博麗の神官ってよりは、人間として妖怪を殺したみたい」
「どういうことかしら?」
「人間の利のために妖怪を殺したの。鉱脈があるけど妖怪の住みかになっている山から妖怪を追い出したり、森に住んでいる妖怪が開墾の邪魔だから追い出したり。とか──」
「そんな……
でも、そんな動きがあったから今の人里があるのよね」
「ええ………」
小兎姫はおもむろに拳銃を取り出した。
「でも、安心して。霊夢は私が守るわよ。魔理沙だって霊夢を信じてくれるわ」
ドンドン!
「あら?誰?」
話の腰を折られて小兎姫は苛立ちながら外に声をかけた。
『早苗です!霊夢さん大変です!』
「早苗?」
今の状況で大変なこと。
霊夢は嫌な予感を感じながらも立ち上がる。
「開けてあげて」
「ええ。
どうしたのよ早苗」
霊夢はドアを開けた。そこには布切れを手に持った早苗がいた。
「………?」
霊夢はその布切れに見覚えがあった。
「フランドール…」
早苗の持っていた物。それはフランの帽子だった。
「はい。フランドールさんの帽子です」
と、いうことは──
「紅魔館は全滅なのね………」
「……はい。跡形もなく壊されていました。紅魔館があった所にフランドールさんの死体があったので、埋葬して帽子をこうして持ってきました」
早苗が答える。
「なら多分、紅魔館を破壊したのはフランドールよ」
と霊夢。
「えっ…」
「フランドールの死体しかなかったのかしら?」
「はい……」
「ならフランドールが敵に追い詰められてやったのよ。敵ごと館を壊そうとしたのね。
あいつらを倒す程だから、きっと敵の幹部クラスがやったんだと思うわ」
「……きっと無事では済んではないでしょう。叩くなら今です」
と、早苗。だが霊夢は首を振った。
「それは里香がやってるわ。あのあと博麗神社から妖怪の山に偵察に行く算段になってたのよ。危なくなったら逃げることになってたけど、里香どころか明羅も来ないわ」
そして表情を曇らせる霊夢。
「霊夢さん……」
「そうだ早苗。あなた、神降ろし出来たかしら?」
突然思い出したかのように霊夢が顔を上げた。
「えっ……?」
「神降ろし。出来たかしら?」
「……はい。心得はありますが、なぜです?」
「博麗靈司を倒せるかもしれないの!」
霊夢はそう言って立てた算段を早苗に話した。
「──里香さんが言ってた、アレですよね……?霊夢さんじゃない博麗の力を持つ人の…」
「そうよ。あいつを倒すにはこれしかないかもしれない。それだけ戦い慣れてるの」
「たしかに、霊夢さんや里香さん、理香子さんの推測が正しければ、それはありかもしれませんけど……霊夢さんが神降ろしをするわけには──」
すると霊夢は笑って答えた。
「悔しいけど、うちの神社の神様は凄い格が低いのよ。あの秋の神様より低い。
だから、あなたに頼むわ。早苗」
霊夢は、早苗の巫女、風祝としての力を認めてそう告げた──
ドシャッ──!
迷いの竹林の奥、永遠亭の前に大きな物が落ちた。
「っ!?」
丁度外にいた輝夜は驚いて落ちてきた物体に近寄り、さらに驚いた。
「もこ……う───!?」
落ちてきたそれは、ワイシャツとズボンを赤黒い血で染めた妹紅だった。
「妹紅!何があったの!?」
妹紅の健康的な肌は腐乱死体のような色になり、死臭を放っていた。血は空を飛んでいるときに吐いたものだろう。
「かぐや……そこにいるの……?苦しい…苦しいよぉ……」
「妹紅!すぐに永琳の所に───!」
「姫様!どうなさったの──!?」
永琳が音を聞いて駆けつけ、虫の息になり腐敗したようになった妹紅を見て言葉を失った。
「えいりん──蓬莱の薬が……ちゅうわ…れた……」
「嘘っ──!?」
凍った時間が妹紅を駆け巡り、妹紅を破壊したのだ。
「永琳!すぐに妹紅を助けて!妹紅!死んじゃやだ!」
輝夜の叫びに永琳は首を横に振った。
「姫様……もうこうなっては妹紅は助かりません。薬が中和され、ただの人間となっては千年以上生きていくことが……!」
「嘘……!永琳ならなんとか出来るでしょう!?」
「れいせん……殺したよ…
ごめ……記章落とし………た……」
「妹紅!妹紅っ!」
輝夜が妹紅の手を握り込む。妹紅は握り返すことはない。冷たい。なんて冷たいのだろう。
「かぐや……勝負……つかなかったな……
かぐや……ありがとう
──だいすきだったよ」
妹紅は最後にそう言った時、輝夜は妹紅の手から、身体から力が抜けるのを感じた。
「妹紅…妹紅!嫌ぁっ!妹紅!
どうして……どうして死ぬのよ!?私と同じなのに……どうして……!」
「姫様……!」
腐りかけた妹紅を抱き締めて輝夜は声を上げて泣いた。いつぶりだろうか。こんなに悲しいのは。
妹紅の死なんて、最愛の友人の死なんて想像したことがなかった。
「姫様。絶対に仇をとりましょう。絶対に……!」
「ふぅ、上手く繋がったわね」
竹林の中にスキマが展開され、そこからメリーと肥満体の男が現れた。
「わけわからん力だな。ワープみたいな物か?」
「さぁ?よくわからないわ。
貴方から逃げた人はここに居るはずよ。八雲紫の記憶がそう言ってる」
「ああ」
「でも、中和しちゃったんでしょ?死んじゃってるんじゃないかしら」
「でも逃げた方にこいつの仲間がいるんだろ?倒さなきゃいけないのが」
「ええ。まぁね。
貴方、靴紐が解けてるわ」
「あ?」
肥満体の男がメリーに指摘されて靴紐を直そうとしゃがんだ瞬間──
カッ!
肥満体の男の頭部があった場所を矢が通過し、竹に刺さった。
「……すまんな」
立ち上がり、刀を抜く肥満体の男。すると、竹林の茂みの中から弩を構えた少女が現れた。薄桃色のワンピースに、目を引く兎の耳を生やした妖怪兎、因幡てゐだ。
「……八雲紫。相変わらず余計なことしかしないわね」
弩を放り出しててゐは二人と対峙した。
「あら。ありがとう」
メリーがスキマを展開する術を詠唱する。
「あんただけ永遠亭へ向かうつもり?好都合ね」
一人で永遠亭へ行っても永琳と輝夜に返り討ちにされるだけだ。人間の方も一人では自分に勝てまい。てゐの目はそう言っていた。
「舐めた眼をしてるじゃないか。妖怪兎」
霧雨の剣の切っ先をてゐに向ける肥満体の男。
「俺はこっちの世界でかなりの数の化け物を斬ってきた。どういう奴が強くてどんな奴が弱いのかだいたいわかる」
「それは怖いね」
メリーのスキマが展開され、メリーが中に消えていく。それを見届けててゐは言った。
「これでお前は一人。たった一人で──」
てゐが右手を掲げる。
すると竹林の茂みや竹の影から兎、兎、兎──
何匹もの槍や剣を装備した妖怪兎が姿を表した。弾幕を放つ準備は万端だ。てゐの号令で一斉に放つことも出切る。
「これだけの数を相手には出来ないよ。でも、出来なくても相手はして貰う──!」
てゐが右手を下ろすと、第一陣の妖怪兎が槍をつがえて肥満体の男に殺到した──
パシッ!
「きゃっ!?」
永遠亭の深部に簡単にスキマを繋げることが出来たため、メリーは侵入することが出来た。しかしそれは──
「正に孔明の罠ね。何の戦いだったかしら?」
最深部は蓬莱山輝夜の術、永遠と須臾の力で満たされていた。不用意に侵入すれば、その者に残された命の時間は、"溲臾"の間に塵となっていただろう。
「でも多分これで術は解けたわね。すごい疲れちゃったけど。便利なカラダ」
「忌々しい力ね」
背後から声をかけられる。この声の主は──
「あなたに言われたくないわね。不老不死」
首だけを動かしてそちらを向くと、赤と青を基調とした妙な服の銀髪の女が和牛を構えていた。傍らには和服のようなデザインの洋服に身を包む黒髪の女。八意永琳と蓬莱山輝夜だ。
「姫の力を弾き返すなんて、地上の穢い妖怪にしてはやるじゃない」
「妖怪?そうね。妖怪ね。あら──?」
メリーは二人の後ろにいたもう一人の導士服の金髪の女の存在に気付いた。
「紫様……!」
「ふふふ。幾日かぶりね。藍」
「どうしてこんな……!」
「藍は少し良くないわね」
メリーは意味深に微笑む。
「何を───」
「すぐにわかるわ。すぐにね──」
「──なんて奴なの………!?」
てゐは血だまりの中に倒れる同胞を眺め、絶句する。
槍や剣で武装した妖怪兎が束になっても肥満体の男にダメージらしいダメージを与えることが出来なかった。
「残るはリーダーのお前だけだな。幸運をありがとよ」
返り血を拭い、霧雨の刀の血払いをした肥満体の男がてゐに言い放つ。
「んで、それはなんだ」
「…私の武器よ」
てゐは杵を構えて応えた。
「はは、笑えるな。俺ならそんなもの使うなら素手でやる」
「勝手にすれば?」
肥満体の男がてゐへと踏み込みながら刀を振り立てた。てゐは杵の頭で受け止め、つばぜり合いとなる。
「へぇ。斬れないか」
つばぜり合いを解き、後退する肥満体の男。そして再び斬撃を放つ。
(速い───!)
人間ではあるようだが、人里や時たまこちらに来るタイプの人間とは明らかに異質の身体能力がこの男にはある。
「そこだっ!」
「───っ!!」
肥満体の男が杵による防御が開いたのに合わせて横斬りを放つ。てゐの腹部に刀傷が刻まれる。残心し、構え直す肥満体の男。
「反射神経だけじゃあ、無理があったわね…」
「それだけじゃねぇな」
肥満体の男は、自分の刀の切っ先を見詰めて言った。
「なぜ、真っ二つにならない。少なくとも腹はかっ裂けてるはずだ……
むしろ、こっちの得物が真っ二つになるとこだった」
純粋な驚きを見せる肥満体の男。てゐは皮膚が一枚切れた腹を押さえてニヤリと笑った。
「妖怪と人間の差よ」
「そうか。ふふふ。じゃあこいつを舐めて貰おうか」
肥満体の男が霧雨の剣を納め、短刀を取り出した。
「守矢の軍神を一振りで倒した科学が作り出した得物だ。斬れない物は存在しない」
てゐは笑みを崩さない。
「こちらも、化学が作り出した得物ウサ」
てゐの身体は、国士無双の薬により、運動能力を上げながらも硬質化していた。紅霧異変にて鈴仙が服用したものよりもさらに協力なものである。
「悪いけどすぐに決着つけるわ!」
拳を固め、肥満体の男に突進するてゐ。
「っ!?」
手足こそ短いため、てゐの攻撃は交わすことは出来たが、筋力も増強されており、それによる衝撃波が肥満体の男の肝を冷やす。
(まともに殴られたら吹き飛んじまうな。こりゃ…)
神奈子のときは多少の油断があったから一刀の下に動脈を絶つことができた。しかしてゐには全くの油断がない。
(アレをぶちこんでやるか…)
「たぁっ!あぐっ──!?」
てゐが声を上げ、口を開けた瞬間を見計らい、抜き撃ちの要領で短銃身ショットガンの銃口をてゐの口内にねじ込んだ。
「吹き飛べガキが!」
引き金を弾き、散弾を発車する。てゐがのけぞり、口元を押さえて仰向けに倒れた。
「ゲホッ──!」
てゐは口の中の散弾を血液と歯と共に吐き出した。
(生きていやがるか…)
思ったより頑丈な身体をしている。これでは無傷でこの兎を始末出来るかもわからない。
肥満体の男はショットガンの銃身を見つめる。
───!!
そしてあることに気付いた。
「ぐっ……!!今のは結構効いたわね」
赤黒い血の塊を吐き出すてゐ。ワンピースが口からの血で汚れてしまっている。
「嘘だな」
肥満体の男が首を振る。
「ぜんぜん効いてない筈だぜ」
「………」
「お前さん結構血を吐いてはいるようだが、銃によるものじゃあないな。こっちの銃口には血がついてない。
死ななくなる薬だって作れるんだ。副作用が強い身体能力を上げる薬でも使っているんだろ?薬で内臓当たりにダメージが貯まってる筈だ」
当てられた。それもピタリと。だが──
「それが、何?あんたが不利なのには変わりないわ──よ!」
杵を振りかざすてゐ。肥満体の男は紙一重でかわす。だが、体格を差し引いても杵と短刀ではリーチが違いすぎた。
「っと…、惜しいな」
そしててゐは肥満体の男の瞳を……正確にはその背後を見据えて叫んだ。
「永琳、今だっ!」
(なっ……しまった!!)
陽動だ。目の前の敵に集中し過ぎてしまった。まさか背後にそんな大物がいたとは──!
素早く振り向く肥満体の男。だが、そこには 誰も居なかった。
「隙あり──!」
てゐは一瞬、いやそれ以上に長い肥満体の男の無防備になった胴体に横薙ぎに杵の頭を撃ち込んだ。
「ゴゲッ!!」
杵の頭が肥満体の男の肋骨を砕き、内蔵を穿つ。慣性に従い肥満体の男は吹っ飛ばされ、太い竹にぶつかって動かなくなった。
「………っ!」
てゐは杵を放り出し、膝をついた。やった。倒した。自分が倒したのだ。
「人間はやっぱりどんな時代でも化かされやすいわね」
薬により視界が歪んできた。だがここで倒れている場合ではない。早く永琳の援護にいってやらなくては。
「おっと、その前に」
てゐは肥満体の男の様子を観察する。銃は肥満体の男の手から離れた位置に落ちている。口元から血が出ている所を見ると内臓に損傷があるのだろう。
「遅かれ早かれ死ぬだろうけど、止めは刺すわ」
てゐが肥満体の男に歩いて近づく。しゃがんで側頭部に両手をかける。首を捻折るつもりだ。
「せーのっ!」
力をまさに入れようとした瞬間、てゐの視界が一瞬で狭まった。
「えっ……」
狭まった視界の左側には、肥満体の男の右手が見える。それを視認した瞬間、燃えるような痛みがてゐを襲った。
「いぎぃぃぃぃぃっ!?」
転がり悶えるてゐ。
肥満体の男に右目をあの短刀で刺されたのだ。深々と。
「と、まぁ、人間が一番化かすのが上手いってことだ」
肥満体の男がゆらりと立ち上がる。手には血にまみれた短刀が握られている。
「目がぁっ!いだぁぁぁ!」
「全く、人間より汚い動物はいないな…。生まれた時から今まで卑劣を名案と言いながら同族を殺して来たんだからな」
肥満体の男は悶えるてゐに馬乗りになり、てゐを短刀で突き刺した。
「おぐっ、ぎぃっ!やべてっ!」
何度も何度も突き刺す内にてゐの体から力が抜け、動かなくなる。てゐから流れ出た血が地面に染み込んでいく。それを見受けると肥満体の男は立ち上がり、短刀をてゐの服の血がついてない箇所で拭き取る。
「さて、と」
肥満体の男は当たりを見回してメリーのスキマを探す。先ほどの大立ち回りでずいぶん離れた所にそれはあった。
肥満体の男はスキマの中に身を投げた。
神宝『ブリリアントドラゴンバレッタ』
輝夜が色とりどりの光弾をメリーに放つ。だが、メリーはスキマを器用に操り、自分へのダメージとなり得る弾だけを呑み込んだ。
「くっ、途端に攻撃をしてこなくなったわね…」
(まずいわね。彼女程の大妖怪が自分一人だけの防御に回ったら、押しきれないわ…)
永琳は既にメリーの算段を理解していた。
自分の力を全て防御に回し、足止めのてゐを相方が倒して此処に来るのを待っているのだ。
「永琳。畳み掛けましょう」
「ダメです。消耗しては八雲紫の思う壷…!」
だが、永琳は輝夜に疲労の色が浮かんでいるのがわかっていた。
「でも、ごり押せば……!」
「……紫様には通じないでしょう」
幸いにも、こちらが軽い隙を見せた程度では相手は見に回って攻撃はしてこない。が大きな隙を見せないに越したことはない。
「そうよ。それがいいわ」
メリーは、紫と同じ顔、同じ笑みで言った。
「……今まではね」
メリーは自分の背後にスキマを展開する。既に繋げてある空間を開くだけなのですぐにスキマは現れた。
「………っ」
「お疲れ様」
メリーが肥満体の男の背中を軽く撫でる。すると、てゐと戦ったときの肥満体の男を支配していた全身の痛みが嘘のように消え失せた。
「痛みを感じなくなっただけよ」
「十分だ」
スキマからいきなり現れた男が残忍な笑みを浮かべて刀を構えた。
「……イナバ、ううん。てゐと妹紅を殺したのはあなたね?」
その笑みから感じ取ったのか、輝夜が固い声で訊ねた。
「てい?竹林にいた兎耳ならたしかに殺したな。意外と手こずったもんだ」
「……そう」
瞬間、輝夜に握られていた難題、蓬莱の枝が輝きだした。
神宝『蓬莱の玉の枝 夢色の郷』
枝を振り立て、七色の光弾を敵に向けて輝夜が放とうとした瞬間───
「…!? ちょっと!」
「藍!?」
今まで主に対してためらいを見せ、ほとんど戦闘をしなかった藍が輝夜を羽交い締めにしたのだ。
「何するのよ!」
「わからない!身体が勝手に───!」
藍は気付いた。かつてはよくこの感覚になった。これは恐らく───
式神『八雲藍』
「あ…あっ……!」
操られているのだ。自分の主に、敵に……
その好機を肥満体の男が見逃す筈もなく──
蓬莱の薬の中和剤が塗り込められた霧雨の剣を振り上げる。
「姫様っ!」
永琳が和弓から月の力を持つ矢を肥満体の男に向けて放つ。矢は肥満体の男の剣が輝夜の柔肌に突き刺さると同時に、肥満体の男の脇腹に風穴を開けた。
「あがっ……!!」
血と骨と臓腑を撒き散らし、肥満体の男は吹き飛ばされた。
「姫様ぁっ!」
「うっ……げぇぇぇぇっ!」
藍に解放された輝夜は、吐瀉物を吐き出し、床を汚す。
「えい……りん……」
ごぽっ、と輝夜の口から血が溢れる。妹紅と同じく、蓬莱の呪縛が解かれたのだ。
「姫様!すぐに助けます!」
永琳はあろうことか、刀傷のある輝夜の首筋に吸い付き、薬を吸い出そうとしたのだ。
「バカね…そんなことしたらあなたも死ぬわよ」
メリーが行っても、永琳は輝夜の首筋に口づけを続ける。
「永琳殿………」
やがて薬が永琳にも回り、永琳の鼻孔から血液が漏れ出す。正常な判断など、もう彼女には出来なくなっていた。
「もう助からないわね。藍来なさい」
逆らえず、藍はふらふらとメリーの前へ歩く。メリーはスキマを展開した。
「入りなさい」
藍はわかっていた。自分は始末される。このときがあるから、今まで生きていられたのだ。
(橙……)
せめて、最愛の式のことを考えて幕を閉じよう。藍はスキマの中に消えていった。
「それで…あなた。生きてるかしら?」
紫が血まみれで転がるの肥満体の男に近づいた。
「……ああ。痛みも感じない。が、動けない」
肥満体の男が応える。
「そう。あの刀……古道具屋から奪ったの?」
「早く治してくれよ。
ああ。そうだ。店主を殺してな。腕はド素人だった」
「そう」
メリーが微笑みながら聞く。
「……早く治せ。出来るんだろ?」
「ごめんなさい。気が変わったわ」
「あ?」
メリーは傘を振り上げる。
「その話聞いたらあなたが憎くて憎くて仕方なくなったわ」
ゴシャッ……
メリーは肥満体の男の頭を叩き潰した。血と脳奬が辺りに振り撒かれる。
「さてと、帰ろ」
永琳と輝夜は、いつの間にか動かなくなっていた。
幻想侵略記11話です。ここまで生き残ってる連中は大体キーマンになってます。いや、そんなことないか…多いんだよな東方キャラ…アサルトライフルっぽい名前のあの人たちみたい。
そして敵方一人死亡。剣補正で強い気がしたけどそんなことなかった。デブキャラは銃を使った方がいいってことですな。
藤原妹紅…蓬莱の薬を中和され死亡。
因幡てゐ…肥満体の男と戦闘し討ち死に。
蓬莱山輝夜…蓬莱の薬を中和され死亡。
八意永琳…蓬莱の薬を中和され死亡。
肥満体の男…メリーに頭を叩き潰され死亡
IMAMI
- 作品情報
- 作品集:
- 25
- 投稿日時:
- 2011/03/30 00:06:46
- 更新日時:
- 2011/03/30 09:06:46
さて、侵略という名の東方キャラの殺戮ショー、遂に永遠亭壊滅ですか。
敵方のデブ男、くたばりましたね。
剣使いが銃に頼るのは死亡フラグ。
メリーは紫の能力をモノにし始めたし、霊夢にも秘策があるようですね。
『紫』はまだ、生きているのか?
そろそろ完結までカウントダウンが始まりましたか?
ほとんど終わっているこの幻想郷、いったいどうなってしまうのか…。
続きを楽しみに待っています。
敵方デブは恐怖も痛みも感じずあぼーん……
素晴らしい!