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『【リレー小説】 愛、おぼえていますか?』 作者: 灰々→変態牧師→機玉→うらんふ→ウナル
■起(灰々)■
「明日、告白しよう」
魔理沙はそう決意した。
何を告白するか、それは自分が“鈴木愛”であるということである。
“鈴木愛”とは何か、それは偽名である。この“鈴木愛”という名が半年ほど前から幻想郷を少しばかり騒がせているのだ
事の始まりはほんの好奇心だった。ある日、いつもの様に香霖堂でくつろいでいるとき、店主の森近霖之助が何気なく読んでいた新聞が目についた。
魔理沙が、
「面白いのか?」
と尋ねると、霖之助は「まあ、それなりにね」と、本当にそれなりに面白いと思っているのか疑わしい無愛想な顔で返した。
「最近は紙の価値も下がってきたみたいで天狗の新聞大会も空前の盛り上がりを見せてるよ。そのせいで窓ガラスを何度割られたことか……。だから、こうして一部ほど採ることにしたんだ」
霖之助はそう言って手に持っていた“文々。新聞”を魔理沙に向けて見せた。彼の話では“文々。新聞”を採り始めてから窓から投げ込まれることはおろか店の周りにばら撒く行為もピタリと止んだとか。
魔理沙の頭の中には「あそこの店は私の新聞を採ってるんだ。勝手に新聞を持ってくんじゃないわよ」と後輩天狗に幅を利かす射命丸文の姿が浮かんだ。
なるほど、こいつはなかなか現実味のある想像じゃないかと魔理沙はクスクス笑った。
「私にもちょっと見せてくれよ」
と、霖之助が返事をする前に机の上にあったまだ読んでいないであろう新聞を手に取り、バサリと広げた。
一面には先日の竹林の火事の写真が出ていた。
「あー、これ私も見たぜ」
輝夜と妹紅の喧嘩の末の惨事だったと魔理沙は記憶していた。それを、文らしい大げさな文体で語っている。しかも、若干事実とことなっている点も見受けられた。
他の記事も見てみたが、どれもさほど驚くような記事ではなかった。
「これなら私でも……」
ふと、そんなことを思ってしまった。
魔理沙は幻想郷に広い交流がある。飛ぶ早さだって天狗に引けを取らなかった。それでいて読書家なので筆も立つ。
そんなことを思っていると自分も新聞を書いてみたくてしょうがなくなった。
思い立ったが吉日とばかりにすぐさま家に帰ると新聞作りの為の準備に取り掛かった。
霖之助の話では、印刷技術は天狗しか持っておらず、それ故新聞は天狗達の専売特許だというのだ。
だったら、印刷する道具を作ってやろう。魔理沙はそう思った。
こうみえて魔理沙は魔法道具屋の娘である。魔法と工学の組み合わせに関しては天才的なセンスを持っていた――といっても彼女はそれに気付いていないのだが。
魔理沙は一週間かけて見事に魔術式印刷機と魔法カメラを完成させてしまった。
「やればなんとかなるもんだな」
出来上がった魔道具たちをしげしげと見つめ、そうつぶやく。
魔術式印刷機は書いた紙をセットすればあっという間に印刷機に入れている紙全てに内容をコピーできる優れもの。魔法カメラは100メートル離れたところからでも鮮明な写真が取れるし、シャッター音も無い。
どれも、天狗達の技術を一歩上回る出来だった。
道具は完璧、あとはネタだった。
記念すべき新聞一号の一面を飾ったのは鬼の伊吹萃香が全裸で寝ている写真だった。
魔法カメラの試し撮りをしようと飛び回っているとき偶然にも収めることのできた一枚だった。
珍しいかといえばそうでもないのだろうが、天狗達の上司に値する鬼の失態を記事にする天狗はいない。
「あとは、これにそれらしい文を添えればいいのか」
サラサラと萃香の失態の様子を描写して新聞の内容は完成した。
「うーん、何新聞にするかな?」
二分程悩んだ結果、魔理沙はこの記念すべき幻想郷における人間初の新聞を“知恵袋新聞”と命名することにした。
そして、記事を書いた人物の名を“鈴木愛”にすることを決めた。
はじめは本名でやろうかと思っていたのだが何かあったときのために偽名を使うことにしたのだった。
こうして無事刷り上った知恵袋新聞は幻想郷の各地にひっそりと置かれることになる。
結果はというと……これが、たいそう評判がよかった。
天狗の書くわざとらしい語り口でもなく、それでいてユーモアのある文。鮮明な写真にはそれだけで人々を魅せるだけの力があった。
二号、三号と刷ったがどれも人々には好評で、知恵袋新聞を巡ってちょっとした小競り合いなんかも起きたというから鼻が高い。
博麗神社に遊びに行くと新聞お断りの札まで作って天狗を撃退していた博麗霊夢が縁側で茶をすすりながら新聞を読んでいたものだから魔理沙はニヤニヤしてしまった。
「結構面白いわね。幻想郷にもやっとまともな新聞を書く奴が現れたみたい」
と書いた張本人に向かって霊夢が言うものだから魔理沙は舞い上がってしまった。
こうなってくると誰かに正体をバラしたくなるのが人間の性というやつなのか。
魔理沙は自分が“鈴木愛”であり、“知恵袋新聞”の発行者なのだと誰かに言いたくて仕方なくなってしまった。
そんなこんなでとうとうこのウズウズが我慢の限界を迎えたのが今さっきである。
魔理沙は自分が“鈴木愛”であると知ったら皆どう思うだろうかと想像しながら床に就いたのだった。
・
・
・
■承(変態牧師)■
「ん……」
暗闇の中、うっすらと目を開けた魔理沙の視界の中に黒くごそごそと蠢くものがあった。
寝惚けた脳が、窓を閉め忘れたのか程度の思考を生み出し、霞がかかったように考えがまとまらない頭がゆっくりと覚醒してゆく。
布団は寝ている最中に跳ね除けてしまったのか、部屋に流れ込んでくる肌寒い外気が肌に当たり、魔理沙は耐えられずに思わず身震いする。
だが、窓を閉めるために身体を起こそうとするが、四肢がまるで動かない。
「んんぅぅッ!!??」
その瞬間、魔理沙の意識は完全に覚醒した。
手首や足首にかかる感触から、自らの両腕と両足がロープで大の字に縛り付けられていることを自覚する。
しかも、何時の間にやら猿轡を噛まされており、くぐもった呻き声以外、意味のある言葉を発することが出来ない。
そして、緩やかに目が慣れてくると、天狗の射命丸文がそこにいることに気付いた。
「くふふふふ……はたてや椛と協力して、ようやく正体が掴めましたよ、“鈴木愛”さん」
「ん――――っ! ん、んぅぅ……んうううううう!!」
「はははッ! 私達、天狗を出し抜こうなんて甘いですよーだ」
心の底から邪悪な笑みを浮かべ哄笑する文に、魔理沙は生きた心地がしない。
“鈴木愛”の正体が魔理沙自身であることを知った文が、何をするつもりなのかは判らなかった。
だが、四肢を縛められている今、少なくとも魔理沙にとってプラスとなる行為は なされることは無いはず。
「さて、これから何をされるかはわかりますよね?」
文の言葉と共に、魔理沙の寝巻きの胸元の部分が掴まれ、事も無げに引き裂かれる。
少女らしく発育途上の乳房が露になり、魔理沙は頬を羞恥に染めた。
自分が性的に辱められることを自覚し、四肢を振りたくって拘束から逃れようとするが、縛める縄はびくともしない。
「んんんんんッ!! んぅぅぅぅぅぅッ!!!」
「いーっぱい、恥ずかしい写真を撮影して、ビッチな記事で、一生肉便器生活を楽しめるようにしてあげますからねー・・・ま、ず、は……人里の物乞いの方々に、その3つの肉壷で御奉仕なんてのはどうです?」
文がぱちん、と指を鳴らした瞬間、部屋の扉から薄汚い身なりの男達が入ってくる。
その言葉の意味を理解する間もなく、何時風呂に入ったのかわからない悪臭が部屋中に漂い、魔理沙は思わず顔を顰める。
その全ての男達が魔理沙を欲望に満ちた視線で舐めるように眺めていることを自覚した瞬間し、彼女の身体はカタカタと震え始めた。
(やだ……ぁぁ!! たすけてっ! 誰かッ! だれかあああああッ!!!)
「さーて、イッツ、ショータイム!!」
文の愉快そうな声が男達の耳に届くと共に、歓喜の咆哮が狭い部屋に響き渡り、男達は一斉に魔理沙に襲い掛かる。
無骨な掌が露になった魔理沙の胸や太腿に殺到し、下半身を覆っていた寝巻きも破り捨てるように剥ぎ取られ、全身が幾多の手や舌によってメチャクチャに揉み解される。
なす術も無くその身を貪られるしかない恐怖に、魔理沙は心の中で恐怖と絶望の悲鳴をあげた。
・
・
■転1(機玉)■
「うおおおおおお危ねえええええええええ!!」
魔理沙は非の打ち所のない悪夢から飛び起きた。
彼女は精神の安定を図るために、気分が沈んでいるときには胡蝶夢丸通常タイプ、高揚しているときにはナイトメアタイプを服用するようにしており、今回は昨晩寝るときに服用しておいたナイトメアタイプが“鈴木愛”の正体を明かした場合に起こりうる悪夢を見事に見せてくれたというわけだ。
こんな夢を見ては流石に魔理沙も正体を明かすことなどできはしない、むしろいかにして“鈴木愛”の正体を隠し通すかに焦点を合わせ、思考をフル回転させ始めた。
恐らく鴉天狗の奴等はとっくの昔に調べ始めているだろう。
或いは他の奴等も捜しているかも知れない。
どうする、何処かへ高飛びするか?
しかしこのタイミングで連載を停止して姿を消せば絶対に怪しまれる。
あいつらなら怪しいというだけで適当に事実をでっち上げて消しにかかるという事は十分に有り得るだろう。
ならば誰にも一切怪しまれない形で“鈴木愛”の存在を抹消しなければならない。
しかしこれ程までに広まってしまった新聞の事を世間から消し去る方法等存在するだろうか?
「くそっ、いっその事この知恵袋新聞を作る前に戻せれば……まてよ、戻せれば?」
そうだ、こんな時に正におあつらえ向きの能力を持った奴がいたじゃないか。
魔理沙は念のため河城にとりから借りておいた光学迷彩を羽織り、箒を引っ掴んで人里へ向かって飛び出した。
目指すは寺子屋で教師をしていたはずの半獣だ。
「なるほど、事情は理解した。あの新聞を書いていたのはお前だったのか」
「理解が早くて助かるぜ。そうと決まればやってくれるか?」
「その新聞が出来る歴史を食べてくれという事か。まあ、確かにあの新聞はこのまま放っておいても良い事にはならないだろうしいいだろう」
慧音も知恵袋新聞の内容は既に把握してある。
なるほど、確かに面白かった。
語り口もうまかったし、何よりも内容がある程度は事実に基づいていた。
しかし、慧音はだからこそ危機感を抱いた。
新聞を作っている天狗達への明らかな挑発行為になる事は勿論だが、それ以上に知恵袋新聞はあまりにも「知りすぎて」いたのだ
妖怪に対する人間の根源的な恐怖は理解出来ない物への恐怖に基づいている。
もしこのまま知恵袋新聞が様々な妖怪の情報を暴き続けた場合、幻想郷を成り立たせているパワーバランスに多大な影響を及ぼしかねなかったのだ。
そういう意味では、慧音にとってもこうして魔理沙が名乗り出てくれた事は僥倖だった。
「では、お前がその知恵袋新聞を書く前まで歴史を食わせてもらう。同じ過ちを犯すことがないようにお前と私の記憶だけは残しておく事にしよう」
「ああ、それで頼む」
「では……ああ、少し待った」
「どうした?」
「この能力は決して安いものではない。悪いがこれからお前がミスをする度に頼られるようなことにならないためにも条件を付けさせてもらおう」
魔理沙は少々嫌そうな顔をしたが、もともとやってもらう他に選択肢は存在しないので先を促した。
「で、条件ってのは何だ?」
「そうだな、ではお前がこの新聞を作るために作り出した2つの道具、それを貰おう。歴史を食い終わったらお前はその道具を作り終わった時点に戻っているはずだからそれを持ってきてくれ」
「分かったよ。ただし横流しはしないでくれよ」
「ああ」
道具は設計図さえあればいくらでも作り直せるので魔理沙は素直に了承した。
もっとも、しばらく作り直す事はしないだろうが。
ともあれこうして魔理沙は新聞づくりの道具を手放し、無事“鈴木愛”の存在を抹消する事に成功したのだった。
慧音に手渡した道具がどんな使われ方をするのか若干気になりはしたが、これ以上この件をほじくり返したくはなかったので魔理沙は大人しく忘れる事にした。
■転2(うらんふ)■
目の前に置かれたカメラと印刷機を見て、慧音はしばらく考え込んでいた。
確かに、魔理沙のつくった「知恵袋新聞」の存在は幻想郷にとって厄介なものになるだろう。この歴史を食べる、という所までは賛成だ。
しかし・・・書かれた新聞まで無くしてしまうのは、いささかもったいない気がする。
慧音は、ふと親しい友人の事を思い浮かべた。
稗田阿求。
幻想郷の歴史を紡いでいる彼女は、その歴史書を描くためだけに、生きている。
外の世界でも、歴史書に命をかけた者がいるらしいという話を聞いている。
例えば、史記、という歴史書を書いた司馬遷という人は、男の尊厳を踏みにじられる宮刑という処罰を受けてさえ、自分の使命である歴史書を書き遺したというではないか。
(魔理沙が書いた、という歴史は食べてもいい)
(しかし)
(この新聞自体を無くしてしまうのは、あまりにも惜しい)
慧音は考えた。
考えながら、新聞を眺める。切り口が面白い。阿求の書いている幻想郷縁起とはまた違った視点から妖怪というものを見ている。
(これは、阿求の役に立つのではないか?)
慧音は友人の事を考える。
発表するから、問題になるのだ。
ならば、発表しなければいいではないか。
「鈴木愛」
ペンネーム。
このペンネームを使わなければならないのは、魔理沙だけである必要はないだろう。
普段の自分は、歴史を「食う」存在。
しかし、月に一度、自分は歴史を「作る」存在になる。
(その時に)
役に立てよう。
こうして。
誰も、魔理沙も、知らない間に。
第二の「鈴木愛」が生まれた。
・・・そして満月の夜が来る。
■結(ウナル)■
阿礼乙女とは幻想郷縁起を持って、幻想郷の歴史をつむぎ続ける存在です。
彼女は百数年、場合によっては数百年ものスパンを置いてこの世に転生を繰り返します。
しかし、ここで一つ疑問を皆さんは抱かないでしょうか。
彼女が人として生きられるのはわずか三十年にも満たないのです。にも関わらずなぜあれだけ緻密な情報を得ることができるのでしょうか。彼女が彼岸の地を踏んでいる間、いったい誰が幻想郷で起きた事件や妖怪の詳細を記録するのでしょうか。
妖怪の寿命は長いとはいえ、数百年あれば新しい妖怪の誕生も古参妖怪の死亡も数え切れぬほどありますし、幻想郷には多くの妖怪が居場所を求めて足を運びます。現に今回の阿礼乙女、稗田阿求の代では守矢神社と命蓮寺という新たな妖怪が幻想郷に居を構えました。
あくまで幻想郷縁起は人間向けの妖怪の恐ろしさを説く本とは言え、阿礼乙女のあり方ではどうしても情報を集めるのに限界がくるのではないでしょうか
この疑問に対しては、すでにいくつかの説が唱えられています。
稗田の家のものが細やかに事件を書き留めている。
阿礼乙女は彼岸にいる間も幻想郷を見守っている。
一番有力とされているのは妖怪の大賢者と阿礼乙女は密接な関係があり、その賢者から情報を得ているという説です。
しかし、全て根拠に乏しい仮説の域を出ていません。
今回、特派員は稗田の家への潜入調査に成功。
遂にその秘密に迫りました。
そう、 幻想郷縁起は阿礼乙女一人が作っているのではないのです。もう一人の『謎の協力者』が歴史を調べ記し、それを元に阿礼乙女が本を編集している、これこそが幻想郷縁起の真実の姿なのです。
残念ながら“謎の協力者”の詳細については突然の取材拒否により、調べることはできませんでした。
しかし、特派員の必死の交渉を行っているとき、屋敷内を謎の人物が通り過ぎました(写真@)。これこそ稗田の屋敷に潜む“謎の協力者”の姿なのでしょうか。
また同時期に特派員は魔法の森の中で怪しい人影と遭遇、これを追跡しました(写真A)。この人影は木々の間を自在に舞い、そして空の中に溶けるように消えてしまいました(写真B)。
仮説はますます信憑性を増したように思えます。
年を取らず、誰にも見えず、そしてただ世界を観察し続ける者。
我々の知らない場所でそんな存在が息づいているのです。
この仮説を証明するのは困難を極めるでしょう。
しかし文々。新聞は弾圧には屈しません。報道の自由と真実はこの手にあるのです。
真実の幻想郷縁起を皆さんにお伝えできる日を夢見て。
××××年4月1日 ――射命丸文――
「馬鹿馬鹿しいぜ」
ぽいと新聞を投げ捨て魔理沙はベッドに横たわった。
「そんな都合の良い話があるかってんだぜ。年を取らず目に見えない協力者? 相変わらず適当吹いてるなあ射命丸のやつ」
魔理沙が見ていたのは文々。新聞のコラム記事である。『むぅ』と名づけられたこの記事は幻想郷に散らばる噂やらデマやらを取り上げ、適当な取材活動のもと面白おかしい仮説を語ることをテーマにしている。
例を上げれば『妖怪の山にある古代遺跡を見た!?』『守矢の湖に潜む伝説の怪獣、モッシーとは!?』『地底に住まう巨人の正体は如何に!?』などである。
もちろん仮説と言っても完全に根拠に欠いておりどちらかというと妄想に近いのだが、それは読者も織り込み済みで、どれだけトンデモ理論が展開されるのを楽しみにして今日も新聞を開いている。
「どうもー。『案山子念報』です」
「おお、ほたて。ごくろーさん」
「はたてよ! あんたわざと言ってるでしょ!」
「お前があんまり引きこもってるから名前を忘れたんだぜ」
「最近はそこそこ出てるわよ。お得意さんへの新聞配達だけはしないといけないし。前までは適当にばらまいてりゃ良かったのに。はぁ、部屋が恋しいわ」
「その分、売れてるんだからいいじゃねえか」
窓枠を叩いて姿を現したのは、文と同じ天狗のはたてだ。その手からぺらぺらの新聞を受け取るなり、一面を蹴飛ばし中ほどのページへと目を滑らせる魔理沙。
「……なんか執筆者としては複雑な気分だわ」
「このコラムのために買ってるようなもんだ。他の奴もだいたい同じ感想だと思うぜ?」
「ぐぬぬ」
魔理沙が開いたページは『ここがおかしいぞ! 文々。新聞!』という文字がデカデカと書き殴られた装いも挑戦的な見開きである。
はたてが持つ力は『他人が撮影した写真を念写する能力』である。この能力と本人が生来の出不精が合わされば、見事な二番煎じ新聞のできあがりなのだが、当然そんな記事を読むような物好きは一部のはたてファンくらいで、人気は数ある新聞の中でも下から数えた方が早いという状況が何十年も続いていた。
だが、はたては自身の能力を逆手に取った。他人の二番煎じをするのではなく、他人の書いた記事を検証する新聞を作ったのだ。なんせ、事後に相手の手の内を読むことはいくらでもできる。前後の写真を見て状況を推察したり、相手がわざと削った写真を見て都合の悪い部分を晒したりと、こと調査に関してはたての能力は非常に有効だったのだ。
これを利用して作ったのが、文々。新聞の『むぅ』を検証する『ここがおかしいぞ! 文々。新聞!』というコラム記事だ。射命丸が築いたトンデモ仮説をはたてが真剣に検証するという紙面戦争は、暇な幻想郷住民に多いに受け入れた。こうして金魚の糞よろしく文々。新聞の尻にくっつくことで、はたての案山子念報も一躍人気新聞の地位を獲得したのだった。
「で、今回の『謎の協力者』って実在したのか?」
「んな訳ないでしょ。文の書く記事なんて大半がガセか誇大妄想よ」
やれやれという感じで手を広げるはたて。
「@写真の人物はたまたま稗田の家に来ていた白沢だったし、Aの写真の影はただの木の陰影。Bは命蓮寺の入道だって裏が取れたわ」
「なるほど。あの入道親父ならそりゃ溶けるように消えれるわな」
「そーゆうこと」
『ここがおかしい〜』には文々。新聞掲載時の写真と調査後の写真が比較して並べられており、内容はともかく検証としてはまっとうだ。
はたての言う通り射命丸がわざと載せなかったであろう前後の写真や拡大写真を見れば、確かに『謎の観察者』なる人物はただの見間違いに過ぎないとわかる。
「ま、今回はそんなに面白い検証じゃなかったわね。文ももっと仕込みに気合いを入れてくれないと暴き甲斐がないってもんだわ」
「なんだかんだで、仲いいよな。お前ら」
「誰が!!」
顔を真っ赤にして否定するはたて。それを見て魔理沙はゲラゲラと笑った。
「んじゃ、次のところ回るから」
「ほいよーまたなー」
窓枠に足をかけ、空へと向かうはたて。しかしその直前、思い出したように身体を戻す。
「あ、そだ。ちょっとこれ見てくれない?」
「ん?」
はたてが差し出したのは一枚の写真。
非常に高画質らしく、写真から飛び出さんばかりの美しさがある。
そしてそこに映っているのは――
「私……か?」
それは机に向かう魔理沙の姿だった。毒々しいキノコを睨み、足元には幾枚ものメモが散らばっている。
だが問題なのはその顔が正面を向いていることだ。いくらなんでも目の前でシャッターを切られれば気付くはずなのだが、不思議なことにこんな写真を撮られた覚えなど魔理沙にはなかった。
「この前、適当に念写したら出てきたの。誰が撮ったか知らないけどすっごい鮮明だし、こんなカメラ持ってるの天狗にもそういないと思うんだけど。心当たりある?」
「……いや、ないぜ」
「そ。それじゃね」
特にそれ以上追求するつもりもないのか、はたては魔理沙から写真を受け取るとさっさと飛んでいってしまった。
確かに覚えはない。
だが、不思議と腑に落ちない。
「ん?」
がさり、とした感触に魔理沙は床を見る。黒い革靴が踏んでいるのは一枚のメモ。
台風の後のような魔理沙の部屋である。床に落ちたメモぐらい珍しいものでもなんでもないが。
「なんだ、これ」
メモを走るように書かれた三つの漢字。
それの意味を、今の魔理沙は知らない。
「――――っ?」
ふいに感じた視線に魔理沙は振り返る。
開け放たれた窓の外。どこまでも青空は続いている。ゆったりと流れる雲は泉に浮かぶ葉のように静かで、一陣の風は魔理沙の香りをカーテンのトンネルから青の果てへと運んでいく。
幻想郷を見守る者がいる。
誰も見つけられず、誰も知らない。そんな“もしも”の少女。
彼女は声を持たない。彼女にあるのは文字だけだ。
彼女は姿を持たない。彼女にあるのは結果だけだ。
彼女は我を持たない。彼女にあるのは意志だけだ。
その手には大きなカメラ。その背には巨大な印刷機。その腰には“知恵袋新聞”と書かれた印刷紙。
「……………」
彼女は、あるいは噂が形を持った妖怪かもしれない。
彼女は、あるいは白沢が作り上げた虚像かもしれない。
彼女は、あるいは皆の夢が生んだ水泡かもしれない。
しかし、彼女はここにいる。
幻想郷を見守り続けている。
おわり
ノリと勢いで始まった無茶振りリレーSS!
私に回ってきたのは“鈴木愛”なる謎の人物でした。
展開が二転三転しているのですが、最終的に彼女(?)に焦点を当てたラストにしました。
名前が勝手に一人歩きし、そしてその存在すら消された少女。誰にも認識されず、誰もを認識する彼女は、果たしてどんな気持ちで楽園を見ているのでしょう。
ともあれ、とても楽しい企画でした。自分の担当したシーンがどうなっているのかとても楽しみです!!
(ウナル)
灰々→変態牧師→機玉→うらんふ→ウナル
作品情報
作品集:
25
投稿日時:
2011/04/01 22:54:28
更新日時:
2011/04/02 07:54:28
分類
リレー小説
皆がいないと思えば、それは『存在を抹殺される』。
魔理沙はいなくなれと思い、それ以外はいて欲しいと思った。
それが、実体を持たない彼女の実態。
存在しない彼女は、幻想郷にぞんざいにいる。
見た事、聞いた事を、発表するために。
すぐに
ずっと
きになることを
ありとあらゆることを
いつでも
知恵の実をばら撒くために。
ともあれ、リレー小説楽しかった!
また機会があったらやりたいですね!!
承でいきなり陵辱モノに方向転換しそうになってて笑いました。その方向の話も見たかったですが。
しかし、こういうオチになるとは!
予想できませんでした。
結構切りがいい終わり方をしてしまったので、自分の後どうなるか気になっていたのですが、なるほどこうなったか。
文が逆にみんなからブルボッコかと思いきや中々考えさせられるエンドでした。妖怪はこうやってできてくんだろうなあと