Deprecated : Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『【リレー小説】 人間の業』 作者: 機玉→うらんふ→ウナル→灰々→変態牧師
■起(機玉)■
「明日、告白しよう」
魔理沙はそう決意した。
決意したのがこれで何度目か彼女は既に覚えていない。
それもそのはず、ここ1週間程何度も言おうとしては取りやめ言おうとしては取りやめを繰り返しているのだ。
「明日こそは、明日こそは……うわああああああああああ!!」
ベッドの上をのた打ち回り、床に転げ落ちて頭を床に打ち付けたかと思えば再びベッドにダイブしてブリッジを始める。
もし誰かがこの光景を見ていたならば粗悪な薬でもキメたか悪魔に憑かれたかと思ったかも知れないが一応単純に思い悩んでいるだけだ。
いつもは不敵で図々しく快活な彼女がこれほどまでに思い悩む事とは果たして何なのか。
これが実は下らない事と大ごとが入り混じったなんとも複雑な状況だったりする。
「私もう人間じゃなくなっちゃいましたなんてどう言えばいいんだよ……」
彼女は自分が人間であることをアイデンティティーとしていた。
人によって受け止め方は様々かも知れないが、彼女は人の身でありながら妖怪とルール上であるとはいえ同等に渡り合えることに誇りを感じていたのだ。
ところがうっかり実験中に滑って転んで劇薬を被り大火傷、我武者羅に様々な魔法をかけて気がついてみたら人間ではない何かになっていた。
おまけに精神も人間だった頃に比べて妙に不安定になり、色々と思い悩んだ末にとりあえず誰かに語ってみようとは思ったものの、誰に相談するかで再び行き詰まってしまって悶絶し、現在に至るというわけだ。
果たして不安定な精神状態が何が原因で生み出されたのか今となっては不明だが、とりあえず今の彼女はもはや人間だった頃の彼女ではないのだ。
「落ち着け私、これは避けられない道なんだ。とりあえず誰かに話さないと、外に出たら誰かに会って気づかれるんだから誰かに話さないといけないんだ。ならどうせなら最初は話し易い奴がいいじゃないか。そうすればきっと楽になれる」
もはやツッコミ所が満載なトンデモ思考であるが彼女自身は至って大真面目である。
ともあれ、ひとまず決心のついた彼女は幼い頃からの腐れ縁で世話になっている古道具屋の男の元へ飛び立った。
■承(うらんふ)■
「人間じゃなくなった?」
霖之助はそういうと、やれやれといわんばかりに手にしていた眼鏡を拭いた。
ここは、香霖堂。外の世界の様々な道具がおいてある店だ。珍しいものから、珍しくないものまでがそろっている。
魔理沙の言葉は霖之助の心の琴線にはふれなかったようで、さもめんどくさそうに、「それで?」と聞き返した。
「だから、私は、人間じゃなくなったんだ」
「ふぅん、それで?」
「・・・」
「別に君が何であろうと、魔理沙は魔理沙だ。それでいいじゃないか?」
霖之助の興味はすでに別の所にうつったようで、棚に置いてあった古いツボを手に取ると、そのざらついた表面を布でこすっていた。
息を吹きかける。
「それに」
霖之助は、言葉を続けた。
「それを言うなら、僕だって妖怪と人間のハーフだ。もとが人間だった魔理沙が妖怪になったのなら、立場は同じようなものかもしれないね」
「・・・誰が妖怪だって言った?」
魔理沙は泣きそうな目をしながら、じっと霖之助を見つめてきた。
「私は、人間じゃなくなった、って言ったんだ。別に妖怪になったなんて言っていない」
「ほぅ」
ようやく興味がわいてきたのか、霖之助は手にしていたツボを大事そうに元の場所に戻すと、ゆっくりと自分の机に戻った。
腰かけて、眼鏡をくいとあげて、しっかりと魔理沙を見つめる。
「では改めて聞こうか。魔理沙、君が人間じゃなくなったというなら、ならば、一体、何になったというんだい?」
「・・・見てもらった方が早い」
そういうと、魔理沙は八卦炉を自らの頭に向け・・・躊躇することなく、魔法を唱えた。
「マスタースパーク」
「店の中で魔法を使うなぁ!」
珍しく霖之助が声を荒げたのだが、時すでに遅し。
放たれた火力は魔理沙の頭を吹き飛ばし、店の壁に大きな穴をあけた。
ひどい埃が舞い起こり、霖之助はごほんごほんと咳をした後、首のない魔理沙の死体を・・・みなかった。
「なに?」
魔理沙の死体はなく、それどころか魔理沙の服も何もかも残っていなかった。
まるで、魔理沙が最初からこの店の中にいなかったかのように。
「これは・・・?」
「こっちだぜ」
声は、下からした。
霖之助は、下を見た。
そこには、一匹のなめくじが地をはっていた。
「私、なめくじになってしまったんだ」
「そうか・・・」
霖之助は大きなため息をつくと、ふらふらとよろめいて、樫の木で作られた自分の椅子に腰かけた。
そして机の片隅に置いてあった塩の瓶に目をやったままで、「別に、それを証明するために部屋の中で魔法を使う必要はなかったな」とつぶやいた。
■転1(ウナル)■
まぶたを開ける気軽さで瞳を伸ばせば、魔理沙の視界はたちまちに天に昇る。
右手にはピラミッドの巨大さを持つ古い壺。
左手には重厚な紙が何百と積み重なった巨塔。
香霖堂の机は木製半畳の宇宙と同じで、世界の果てが霞んで見えるような高揚感はなめくじになって唯一良かったと思える点だった。
とはいえ
「暇だぜ」
なめくじになっても心は魔理沙。
いくら広い世界が見えるからと言ってもそこは香霖堂の古びた机に過ぎなくて、物の配置さえ覚えているなじみの場所に変わらない。
霖之助はなめくじ魔理沙を残して、一人どこかへ出かけてしまった。
出歩くなと釘を刺された手前、無闇に動くわけにもいかず、魔理沙は暇を持て余して自らの尻を追いかけ回していた。
「おっと」
遠くから聞こえてきた地響きに、壺の裏へ身を隠す魔理沙。
発明好きの河童、不要な家具を売り払う神、暇を持て余した巫女、主人の宝を探す賢将。
客かどうかは別として香霖堂を訪れるものは意外に多い。
万が一にでも誰かに見つかっては目も当てられない。食物連鎖の底辺部に位置する哀れな軟体動物と断定され、塩をぶっかけられて死ぬなんてまっぴら御免だ。
「ただいま。魔理沙。どこだい」
「ああ、香霖。待ちくたびれたぜ」
店に入って来たメガネ顔に、ほっと無い胸を撫で下ろす。
うねうねと粘液を引きながら、壺の裏から這って出る。
その姿を見て小さく息を飲むのを魔理沙は見逃さなかった。
「香霖?」
「魔理沙。これからする話は君にとって、とても辛いことかもしれない。正直、話していいものか僕自身にもわからない」
視線を部屋の端に向かわせ、自問するように吐露する霖之助。
それは魔理沙が今まで見てきたどの霖之助の顔とも違っていた。
霖之助は魔理沙の目の前にそっと手を置いた。
なめくじになった魔理沙にはその手は少し熱かった。
「魔理沙。もしも君が――」
「いいぜ」
二本の触角をピンと立て、にやりと小さな口を歪めてみせる。
小突くように指の上を這い、シワの一本一本をなぞるようにしてその手の真ん中まで。
「私を誰だと思ってるんだぜ。異変解決のエキスパート。霧雨魔理沙だぜ」
「そうか、そうだったね」
その様に霖之助も苦笑した。
人差し指でメガネの位置を直し、樫の木の椅子へと腰かける。
魔理沙と視線を合わせ、彼は語り出す。
それはとある恋の物語だった。
昔、あるところに一匹のなめくじがいた。
彼はある人間の娘に恋をした。
塩をかけられ、息絶えようとしていた彼をその娘は助けたのだ。
慈悲深いその心に彼は見惚れてしまった。
だが所詮はなめくじ。種族の壁を越えて人間と共になろうなど叶うはずのない夢だった。
それでも彼は諦めなかった。
ときには窓に愛の言葉を綴り、ときには彼女に紫陽花の花を贈った。
周囲の人間に害虫と罵られ仲間のなめくじに裏切りものと蔑まれても、彼は彼女への愛を伝え続けた。
そんな一途な思いを神も見ていたのか、彼は人間になる術を知った。
晴れて人間となった彼は道具屋を始めて財を成し、遂に娘と共になった。
彼らの愛は形となり、娘は美しい女の子が生んだ。
「魔理沙。それがその子の名前だ」
「――そうだったのか」
自分で思っていた十分の一も驚かなかった。
感情はどこかでそれを知っていたのかもしれない。
「あれ? じゃあ、私はもう戻れないのか?」
ふと思う。
正体がそもそもなめくじだとしたら、人間に戻れる道理はなくなる。
それはそれでいいか、と魔理沙は思い始めていたが霖之助は慌てて首を横に振った。
「いやいや、戻れなくても人間になる方法はある。かつて君の父がやったことと同じことをすればいい」
「それはどんな方法なんだぜ?」
霖之助はすぐには答えなかった。
何かを躊躇うようにあるいは真実を認めたくないように、目を閉じまぶたを押さえている。
時計の秒針が五度身動ぎした。
■転2(灰々)■
「ここか……」
魔理沙は森の中にいた。
霖之助の言葉を思い出す。
「毎月、満月の夜にだけ生える、ヒトの木というのがある」
「ほうほう、それで?」
「その木のてっぺんに生るヒトの実を一番初めに齧ることができれば君は人になることができる」
「へぇ、その実を齧ればいいんだな。結構簡単そうだ」
「さあ、どうだろうね……僕は詳しいことは知らないが、やはりそれなりのリスクがあると覚悟しておいたほうがよさそうだよ」
目の前の地面を月の光が指し示している。霖之助の話ではヒトの木は月明かりが差し込む場所に現れるという。
「間違いないよな……ここでないわけがない」
ここで、違いないと魔理沙が確信する理由。
月明かりに照らし出された、幾千、幾万ものナメクジの大群が、魔理沙と同じように月明かりが一筋の線となって降り注ぐ、地面をぐるりと取り囲んでいるのだ。
「多すぎるだろ……こいつら全員を蹴落として私が一番にヒトの実を齧らないと……」
魔理沙は月の光が映し出した周りを取り囲む最前列より1メートルほど後ろにいた。
少しでも前にいて、有利なスタートを切りたいと思っていた魔理沙だが、目の前はナメクジの大群が隙間無く敷き詰められたカラメル色の絨毯だった。
「……くそ、まさか木が現れた瞬間すでに勝負が決していたなんてことないよな」
魔理沙もそのカラメル色の絨毯に加わろうかと身をくねらせた瞬間。
メキメキという音とともに、地面から木が生え出てきた。
月の魔力を吸いに吸ったようにヒトの木は見る見る生長し、あっという間に周りの木々よりも大きくなってしまった。
人間からしてもそれは大木と呼ぶに相応しいものだろう。ナメクジの魔理沙からすればそれは月まで続いているのではないかと錯覚する程の途方も無い高さを感じさせた。
「こ、これを登るってのか……」
ヒトの木の大きさに唖然と出来たのもつかの間。ナメクジたちが一斉に木に群がり、登って行く。
魔理沙も遅れてなるものかと木の幹へと這い進む。
と、そのとき、
パキパキ…ジュウー
後ろのほうで何かが溶けるような音が聞こえる。
「何だ……!?」
振り返った魔理沙は、すぐにまた前を向き直り、これまで以上に這うスピードを速めた。
その音が後方にいたナメクジたちの溶ける音だと瞬時に理解できた。
「やばい!迫ってきてる!」
ヒトの木の周りをいつの間にか白い粉のようなものが取り囲んでいた。塩か砂糖か重曹か、そんなことはどうでもよかった。
それに触れれば水分が殆どを構成している自分の身はあっという間に浸透圧の関係で水分を奪われてしまうであろうということだけわかった。
白い粉は月光をキラキラと反射しながら迫ってくる。
「うおお、どけぇぇぇ!」
魔理沙は他のナメクジたちを次々と抜き去り、遂に木にその身を這わせることができた。
「うおっ」
今までは自分の体を地面に縫い付けているだけだった重力が、垂直に伸びる木の幹の上では自分を木からひっぺがして白い粉に引き込もうとする。
それはさながら地獄の亡者の手が自分の身を引っ張り続けているような感覚だった。
「これを……一番上まで!?」
それは、自分の全霊をかけた地獄のレースの開幕だった。
「くそ、負けるかよ……私は幻想郷最速なんだぜ!」
魔理沙は自分に渇を入れると、どんどん木を這い上がって行く。
白い粉が追いかけてくるよりもずっと早いペースで魔理沙は木の幹を進む。
粉よりもおそいナメクジたちはその身を溶かされ次々と脱落していく。
「はぁ、はぁ……」
どんなに苦しくとも魔理沙は歩みを止めるわけにはいかなかった。自分が生き残る為にはヒトの実を齧り、人間に生まれ変わる道いが無いのだ。
魔理沙と並走していたナメクジが僅かに彼女をリードして、前へ踊りでた。それのおかげだ、
「うわっ!」
突如目の前の木の皮がベロンと捲れ、目の前を走っていたナメクジを巻き取ってしまった。
巻き厨子のようになったナメクジは身動きが取れず、木の幹に貼り付けにされてしまう。
「なんなんだぜ!?いったい」
上を見ればいたるところにナメクジがカールした木の皮に絡めとられているではないか。
「あれに捕まれば最後……白い粉に溶かされてしまうぜ」
まるで、免疫細胞のように自分の体内に侵入した病原菌どもである魔理沙たちを捕らえ殺そうとしているようだった。
「なるほど、こいつは、大した試練だな……」
軽口を叩き無理やりにでも心に余裕を繕う。その急ごしらえの余裕のおかげか魔理沙は妙案を見つけた。
「そうか」
それは正しく一筋の光。ナメクジの這った跡にのこる粘液に月明かりが反射して輝いている。
「こいつを辿れば!」
すでにだれかが通り、安全が保障されている道、魔理沙はその道を選んで進んだ。
無残にも木の皮にとらわれてしまったナメクジたちの間をズイズイと進んで行く。
おかげで魔理沙は木の皮のトラップにかかることなく先頭集団を眼前に捕らえることに成功した。
が、
「おいおい……どういうことだよ!?」
なんと、道が目の前で左右二つに分かれている。
右か左か……はたまたどちらも成功なのか?
「ちくしょうが!人間迷ったら右に行けっていうぜ」
魔理沙は右に進む。この分岐点にくるまでにすでに九割は脱落していただろう、それがここでさらに半分に分離される。
「頼むぜ……」
魔理沙は先頭に立とうとはせずに他のナメクジたちの後ろについて進んだ。このことが安全面でも体力面でも吉とでた。その身をすり減らしながら進んで行くようなナメクジ。ナメクジの粘液の上を進むことでその身が消耗することをふせげる。さらに誰かに引いてもらうというのは精神的にも負担の少ないものだ。
「人間になれるというのは、人間に相応しい知力を持った者だけなのぜ!」
魔理沙が木を登りはじめて、一時間とうとう、生い茂る葉の天井を突き抜け、月明かりが差し込む域まで到達した。
「実は?ヒトの実!」
周囲を見回す。だが、見当たらない。一番てっぺんまで上り、あたりを見渡す。
森が一望できる。自分が登ってきた道のりを考えるとよく頑張ったとほめてやりたくなった。
そして、絶望する
「そんな……」
魔理沙が選ばなかった、反対側のてっぺんに幾重にも葉が巻かれている球状のものが見える。
その周りにナメクジたちが吸い付き、その葉を剥がそうと身をよじっているところだった。
「ああ、そうか……」
これは何かに似ていると思っていた。それがようやくわかったのだ。
「これって、受精だ。私たちは精子……ヒトの実は卵子なんだ。右と左の卵管……排卵の無いほうに進んだ私はティッシュに出された同じだ……」
魔理沙はがっくりとうな垂れる。自分は運が無かった……それを受け入れようと、必死に試みる。
後は、白い粉に呑まれ朽ち果てるだけ、そう思っていたら、
ヒュー
魔理沙の横を冷たいの風が通り過ぎえた。
「……そうだ……!!」
魔理沙の中にある閃きが起こる。
「私の背には大きな山がある。夜冷やされた空気は山を下る。山風が吹く!」
それは、ナメクジになるまで毎日空を飛び続けた魔理沙の勘だった。風を読む。大きな波がくる。魔理沙は背に迫る大きな風を予見し、反対側へ飛んだ。
「いけぇぇぇええええ!!」
魔理沙は風に背を押され、宙を舞った。
今まさにヒトの実を覆う最後の葉を剥がし終えたナメクジがその実に齧りつこうとしていた時だった。
「それは、私のだぁぁぁぁあああああ!!!!」
魔理沙は顔面からヒトの実に激突した。
それは想像していたよりずっとやわらかく、暖かいものだった。魔理沙はその実にのめりこんだ。
その瞬間、魔理沙以外のナメクジは全て弾かれ、地面に落ちていく。
「ああ、なんだろう……すごく気持ちいい」
魔理沙の視界を光が覆った。
・
・
・
■結(変態牧師)■
「ん……」
薄暗い部屋の中で、魔理沙は目を覚ます。
寝起きにいつも見ていたベッドからの光景はまるで違いはない。
手を動かすと、視界には健康そのものの肢体が映る。
「いやったぁぁぁあああああああ!!!」
蘇った幸福感に魔理沙は勝利の雄叫びを上げた。
ベッドの上をのた打ち回り、床に転げ落ちて頭を床に打ち付けたかと思えば再びベッドにダイブしてブリッジを始める。
けれども、その行為の理由は、人間でなくなったときのものとはまるで逆であり、幸福に満ち溢れていた。
ひとしきり幸福に暴れまわったあと、喉が渇いた魔理沙は水瓶の水を柄杓で汲み、ぐいっと飲み干そうとする。
するすると喉を通り過ぎる水の美味しさに人間と生きることの幸福感が湧き上がってくる。
「……?」
そのとき、魔理沙の口腔内ににゅるりとした感触が生じた。
まるで、グミの実を歯で噛んだときのような、ほんの僅かに弾力のある歯ごたえのある物体が、口の中に幾つも残っている。
けれども、木の実と違うのは、それには全く味は無いことだ。
怪訝な表情を浮かべた魔理沙は、掌に魔力を集中させ、空中に明かりを灯した。
「……ひぃッ!?」
次の瞬間、魔理沙の手に握られていた柄杓が床に落下する。
水を汲んでいた柄杓……いや、水瓶やその周辺には、数多のなめくじがびっしりとへばり付いていた。
床に転がる柄杓の上で、今もなおうぞうぞと蠢いている。
「ひぃっ……、ぐ、ぇぇ……!!」
全身が怖気立つような生理的嫌悪感に耐え切れず、魔理沙は口腔内に残る粘液の塊――――数匹のなめくじを吐き戻す。
同時に、胃液を吐き戻しながらその場から逃げようとするが、その瞬間に足を縺れさせた。
ドガッ!!
「ぐぁ!?」
転んだ拍子に背中を強打し、魔理沙は苦痛の呻き声を上げる。
打ちつけたのは背骨であったことがまずかったのか、手足さえもまともに動かせない。
そして、なめくじは逃げることの出来ない魔理沙の足元に這い寄り始める。
「うぁ、ぁぁぁああああああああぁッ!!」
天井に貼り付いていたなめくじは、まるでアメのようにボタボタと落下してくる。
魔理沙の皮膚の感覚はまだ生きており、全身をウゾウゾと這い回るなめくじの感触に嫌悪の悲鳴が響く。
けれども、魔理沙は指一本さえもまともに動かせないため、逃げることが出来ない。
「やめろッ! やめろぉぉ!! 来るなッ! 来ないでぇ!! イヤだぁぁぁぁぁ!!」
下等生物に、まるで咀嚼されるように全身を這い回られ、魔理沙は嫌悪感に泣き叫ぶが、多勢に無勢。
なめくじは、魔理沙の脚の付け根へと殺到してゆく。 おそらくは、再び“人間”になるために、魔理沙の胎内を目指しているのだろう。
そして――――
・
・
・
「――――ッ!」
数日後、心配になって、魔理沙の館を訪れた霖之助が見た光景は、常軌を逸していた。
「あはぁぁ……もっひょ、ひへぇぇ……」
全身になめくじに貼りつかせたまま、みっともないアヘ顔を晒し、全身を痙攣させる魔理沙の表情は尋常ではない。
腹部はでっぷりと膨れ上がっており、その表面はモコモコと蠢いている。 腹の内側にはなめくじの子供達が蠢いているのだろう。
周囲には一際大きななめくじもいるが、それらは周囲には魔理沙自身が出産した子供達なのだろうか。
「わらひ、の……あかひゃ……ひひ、ひゃふふふふ……」
彼女の既に精神は崩壊していることは誰の目にも明らかだった。
なめくじたちは人間に生まれ変わることを夢見て、それでも魔理沙の“胎”では役不足だったため、何度も何度も生まれなおす行為を繰り返していた。
他のなめくじを蹴落とし人となった魔理沙は、人間になった瞬間になめくじたちに苗床として引き摺り下ろされた。
因果と業は巡る、永遠に。
おわり
無茶振りリレーSSのラスト。
人間に生まれ変わった魔理沙でしたが、やっぱ魔理沙は報われちゃならないと言う妙な使命感に従ってみました。
くかかか。
(変態牧師)
機玉→うらんふ→ウナル→灰々→変態牧師
作品情報
作品集:
25
投稿日時:
2011/04/01 22:58:57
更新日時:
2011/04/02 07:58:57
分類
リレー小説
予想がつかないからこそ、なんていうか、リレー小説楽しいです!!!
ヒトの木を人体に見立てた話を、このオチに持って行きましたか。
なめくじからサバイバルレースを勝ち抜き、人になったかと思いきや、
貧乏くじを引いた、と。
魔理沙を楽にするために、ショットガンにスラグ・ショット(一発弾)を装てんし、膣にバレルをねじ込み、ズドン!!
何を言っているかわからねえと思うが、私にもさっぱりだ!
超展開とか魔理沙ENDとかじゃねえ、もっと恐ろしい牧師さんの力を見たぜ……!
人間視点からみるとこれほどおぞましいものもそうはないですね。
ラストシーンのおぞましさは流石変態牧師さんという感じですw
しかし魔理沙の親父何してんだいw