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『罪の価格 4』 作者: 名前がありません号
招き入れられた山田太郎は、特に遠慮するでもなく、椅子に掛けた。
魔理沙はその態度に苛立ちながらも、話を切り出した。
「……なんで教えなかったんだよ」
「何のことでしょう?」
「とぼけるな!」
テーブルに手を叩きつけながら、怒声をぶつける。
山田太郎はいたって涼しい顔でそれを受け流す。それが余計に腹立たしい。
「あの紙のことだ!」
「あぁ、あの紙の事ですか。説明した通りの筈ですが?」
「じゃあ何でアリスがあの紙を持ってたんだよ!」
やれやれと言った様子で、怒りをぶちまける魔理沙に話し始める。
「あの紙を私がどうしようと私の勝手でしょう。
そもそも貴女にとってはメリットしかなかったでしょう。
図書館に出入りできて、おまけにライバルも地に堕ちた。
貴女にとっては最高じゃないですか」
「あれの何処が最高だっていうんだよ……!」
血が滲むほど、拳を握りながらアリスのあの姿を思い出す。
魔理沙が忌み嫌う束縛をそのまま形にした姿。
魔理沙の頭の中にずっと焼きついて離れない映像だった。
「大体、あの紙を誰かに渡したら、罪が移動するなんて聞いてないぞ!」
「そりゃあそうですよ。一度だって聞かなかったではないですか」
「それぐらい説明してくれたっていいだろ!」
「説明する義務はありませんので。第一、あの時は気にもしていなかったではないですか。
今になって、やっぱ無しは効きませんよ。それじゃこっちが仕事にならない」
「じゃあ、文の件は。どうしてにとりを巻き込んだんだ!」
魔理沙にとって怒るべき点は他にもあった。
文の一件だ。新聞を書けない身体になったが、その原因となったのがにとりの発明だった。
そしてにとりはその責任を取る形で、自殺してしまった。
そのように誘導したのは間違いなく山田太郎だと、確信していた。
「それはあれが一番、貴女に疑いの目が行かない形だったからですよ。
私には戦闘能力の類はありませんので、私が手を下すというわけにも参りません。
となれば、もっとも効果的なのは事故で処理されるような形で、
貴女の願いを叶えるのが最適と判断したまでです。
河城にとりが選ばれたのは偶然です。事故にする条件が揃ってましたので」
「余計な事しやがって……!」
「理解できませんねぇ」
「何……?」
山田太郎は嘆息しながら、魔理沙を見る。
「形はどうあれ、貴女の願いはおおよそ叶ったではないですか。
自分の思うままに書き換えたではないですか。
私は感謝こそされても、恨まれる覚えは一切ないのですがねぇ」
「お前……!」
魔理沙は八卦炉に手をかけ、山田太郎に向ける。
山田太郎はうろたえるでもなく、椅子に腰掛けたまま、続ける。
「ここで私を撃ったところで元には戻りませんよ」
「………くそっ」
「ただまぁ、貴女に罪の意識があるのでしたら、一応方法はありますよ」
「……何をすればいいんだ?」
「簡単ですよ」
山田太郎は言う。
「貴女がこれまで書いてきた罪の全てを貴女が買い取ればいいのです」
「か、買い取る……?」
「えぇ。買い取るのです。もうお分かりの通り、
罪が全部貴女に向かう事になりますので……その覚悟はしておくとよろしいかと」
他人に擦り付けた罪が全部そのまま自分に帰ってくる。
自分の書いたくだらない罪から何から何まで全部。
怒りに満ちていた魔理沙の顔が徐々に青ざめる。
「そ、それは……」
「おや、さっきまでの威勢はどうしました?
罪の意識があるならそれくらいできるでしょう。
それともお逃げになりますか? どうぞご自由に」
山田太郎が笑っている。
顔は袋に覆われて見えないが、少なくともこいつが私を笑っていることは直感的に理解できた。
山田太郎にとって、霧雨魔理沙が逃げようが、罪を受け入れようがどちらでも構わないのだ。
霧雨魔理沙が罪を受け入れれば、その時点で彼女の絶望する様が見れるだろうし、
逃げるというのであれば、それこそ彼女がこの狭い幻想郷の中を人目を避けて、生き続ける様を見られる。
山田太郎からしてみれば、その程度の違いしかない。
そしてどちらの結果も概ね面白いという事だ。
山田太郎は、無言の催促を続ける。
霧雨魔理沙は苦悩の表情を浮かべながら、頭を抱え始める。
山田太郎が霧雨魔理沙に会ったのは偶然ではない。
最初から霧雨魔理沙をこういう状況に追い込む事を前提に動いていたのだ。
最も今の彼女にはそこまで思考する余裕はない。自分の事で頭がいっぱいなのだ。
霧雨魔理沙という人物は、自由を謳歌する一方で、その責任を負いきれない人物だ。
それなりに裕福な生まれであろう彼女がわざわざ茨の道を進んだ経緯など知らないが、
少なくとも、彼女は孤独を受け入れられるほど強い人間ではない。
やがて悩みぬいた霧雨魔理沙が答えを出した。
「買い取れば……いいんだろ。私の罪、全部さ」
「わかりました。ではこれにサインを」
馬鹿な女だ、と山田太郎は思う。
ペンですらすらと名前を書き、血判を押す。
これで全ての罪は霧雨魔理沙に戻ってくる。
そして山田太郎は告げる。
「ああ、言い忘れておりましたが」
「なんだよ…」
「貴女の罪を肩代わりしていた方々の分の罪も利子という形で上乗せされますので」
「はぁ!?」
「分かりやすく言えば、貴女が巻き込んだ方々の罪もセットになる、という事です」
魔理沙が手にしていたミニ八卦炉が滑り落ちる。
呆然としている霧雨魔理沙を無視して、山田太郎は続ける。
「えぇと、現状で貴女が巻き込んだ方々は……あぁ、これはとても多いですねぇ
ですが、よかったじゃありませんか。貴女は英雄だ。
何しろ、多くの人間の罪を自らが率先して被るわけですからね」
魔理沙の耳に聞こえているかも怪しいが、それでも続ける。
「ただまぁ、これだけの罰となると、魔理沙さんが耐えられるかどうか……
でもまぁ一回で死ねるなら……」
と山田太郎が言い終わる前に、
魔理沙が床に落ちたミニ八卦炉を拾って、極太のレーザーを放つ。
山田太郎の上半身が消し飛び、下半身がゆっくりと地面に倒れる。
それを見る事もせず、霧雨魔理沙は自分の家から飛び立った。
出来るだけ早く。何処か人目に付かない場所へ逃げる為に。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
魔理沙は飛んだ。魔力のある限り飛んだ。
誰かの目についたその瞬間に、自分の命はないものと思った。
最初こそ覚悟を決めた。しかし山田太郎の言葉を聞いて、
それがいかに甘い事だったかを思い知らされた。
この狭い幻想郷で、名の知れた連中の大半の人妖を敵に回したようなものなのだ。
おまけにそういう奴らは軒並み、何処かネジが外れてる。
一発で殺されるならまだいいかもしれないが、
連中がどういう拷問を企てるか分かった物ではない。
しばらく森を飛んでいると、小さな洞窟を見つけた。
この辺りには、人も妖怪も近寄っていない。
しばらくはここに隠れ潜む事にしよう。
ほとぼりが冷めるまで。
でもそれはいつまで?
一ヶ月?
1年?
それとも永遠に?
想像したくないことばかり、頭に浮かぶ。
身体が、罰に対する恐怖に怯えていた。
とりあえず持ってきた荷物を確認しようと、持ってきた鞄を取ろうと背後を振り返ると。
触手まみれの怪物が目の前で。
魔理沙が八卦炉を出すよりも早く。
その身体を容易く絡め取ると。
針のついた管のような触手を首筋につきたてて。
体液を注ぎ込まれると魔理沙はしばし痙攣した後、動かなくなった。
人里の人間が血眼になって、魔理沙を探していると、
小さな洞窟の入り口に、全裸の魔理沙が転がされていた。
穴という穴は広げられ、全身に締め上げられたような痕が残り、
身体がねばついた体液に塗れていた。
その後、魔理沙は永遠亭に運ばれると、蓬莱の薬を服用させられた。
不死の身体となった彼女は、人里に晒し者にされ、
ある者には石を投げられ、殴られ、嬲られ、罵られ、潰され。
それでも死ぬことを許されず、人里の者達は彼女を野に捨てた。
今度は妖怪達が、魔理沙の肉を裂き、喰らい、千切り、潰していった。
声のでない痛みに魔理沙は苦悶の表情のまま、声にならない叫びを上げる。
やがて妖怪達にも飽きられ、今度は野犬達に嬲られていった。
十六夜咲夜が魔理沙を発見すると、紅魔館に連れ帰り、パチュリーの元に送られた。
パチュリーは、魔理沙の両手足を切断してしまうと、
特殊な魔術を掛けて、腕の再生を鈍らせる。
そしてアリスの隣に置いてやると、その腹に何度も何度も蹴りを入れ続けた。
魔理沙が吐けば、その頭を踏みつけ、嘔吐物に顔を押し付けさせた。
それが終わると、隣のアリスが魔理沙を口汚く罵り続けた。
肉体も精神もボロボロにされながらも、正気を保たせられた魔理沙は、
発狂する事も出来ないまま、幻想郷の慰み者として使われ続けるのだった。
それからしばらくして、魔理沙の目の前に何処かで見覚えのある白い袋を被った人がやってきた。
しかし誰かは思い出せない。
そしてそいつは魔理沙にこう呟いたのだ。
「こんなことをした人達に復讐したくはありませんか?」
その時の魔理沙はただ縦に頭を振った。
期間が空いてしまうと、やはり書けなくなる。
やっぱ区切るより一本で書いてしまった方がいいようだ。
納得のいくオチになったかはわからないが、これでこのお話は終わりです。
名前がありません号
作品情報
作品集:
25
投稿日時:
2011/04/10 06:23:56
更新日時:
2011/04/10 15:23:56
分類
魔理沙
罪袋
予想した範囲の行動かと思いきや、『罪』袋から逃れられませんでしたか。
贖罪できる段階だったら、罪と罰は相殺されるのですが、
魔理沙の罪には、最早彼女が償える容量をはるかに超えた罰がたんまりと溜まっていましたか。
こうなったら、一時楽になりたいがために、さらに罪を重ねるしかない、と。
生きているうちに償いきれない、いくつもの転生先まで持って行かなければならない大罪は、
もう『業』としか言えませんね。
罪袋は、代理人だから、単なる概念だから、彼を殺したところで何の解決にもならないのに、
魔理沙は性懲りもなく、また甘言に乗ってしまいましたね。
これで、
魔理沙は、
罪を重ねる事もなく、
罰に怯える事もなく、
業の深さゆえに滅ぼした幻想郷だった場所で、
一人ぼっちで永遠に生きていくのですね。
まさにこの罪袋みたいなキャラなんだよな。
最後まで彼の側には一片の否も無い、ただ道を示してやっただけ、でありながら
この上なく邪悪なる存在。素敵過ぎる。
そしてまったく正しい存在ではなく、外道ですらありきれない哀れな魔理沙の姿も
最高に萌えるものでした。
そのまま捨て置けばよかったのに