収穫

人数分は持ってきてる？　そう、折角なのだから一杯持って帰りましょう。

この間は何だかんだで邪魔が入ってしまったしね。今回はそんな事を気にせず、思いっきり採りましょうか。それじゃ、始めましょう。

え？　ええ、構わないわ。好きにしないさい。でも乱暴にもぎ採ったりしては駄目よ？　形は綺麗なままで。

そりゃ少し欠けたりしても問題はないけれど……折角食べられる所を捨てるのは勿体ないでしょう。

そう、どうしても採れない時だけよ。ええ、いってらっしゃい。

さて、私も少しは働きましょうか。え？　いいのよ。私だって成長した実を採る楽しみぐらい味わいたいのだから。

……にしてもしばらく放っておいたお陰か、しっかり熟れているのが多いわ。

そう、そうね。その実もよく熟れていそうだわ。

一つと言わず二つ三つ、十ほど採っても文句は言われないわよ。

いいのよ。こんなに鈴生りになっていて、むしろ採るなと言う方が酷な話だわ。

ああ……でも手当たり次第は駄目よ。中にはまだ熟れていなかったり、逆に熟れすぎている物もあ
るのだから。

……まぁ食べられないこともないけれど、ねぇ？　どうせだったら美味しい物でお腹を満たしたいじゃない。

うんそう、そっちの大きいのが良い。果汁も果実もたっぷり詰まっていそう。

あ、それも良いわね。ちょっと未熟だけど歯ごたえはありそう。そうね、それも採っていきましょう。

……あら、お帰り。なに？　いっぱい取ってきたって？　ちょっと見せて頂戴……あら、駄目ね。

どうしてかって？　全部腐ってるじゃない。幾ら楽だからって廃棄場所から持ってくるのは駄目よ。

外見は大丈夫でも中はどうなってるか判らないわ。かぶりついた瞬間に蛆虫とこんにちは、なんて貴女も嫌でしょ？

そう、判ったらそれらはさっさと捨ててきなさい。新鮮なのは他に幾らでもあるわ。しっかり採って帰りましょう。

あ、こら、勿体ないからって摘み食いするんじゃないの。ああもう、こんなに前を汚して……。

我慢しなさい、放っておいたら固まってカピカピになっちゃうわ。わざわざ洗い物を増やしてあげることもないでしょう？

そう、良い子ね。……さぁ、綺麗になった。行ってらっしゃい。

まったく……え？　そうね、あの子があんなに楽しそうな顔をするのはどれくらいぶりかしら。

今までは何処か影があったらからね。仕方がなかった、で片づける事も出来るけど……それはやっぱり駄目よ。

私が蒔いた種だもん、しっかり刈り取らないと。

……誰も上手いこと言った訳じゃないわよ。そんなことより、お土産分は採れた……あら、愚問だったわね。

何時の間に、とは聞かないわ。貴女にとっては私達の１時間が１日にも相当するものね。

まったく、ただでさえ短命なのにさらに縮めてどうするのやら……何でもないわ、こっちの話よ。

さて、月も傾いてきたわ。そろそろお暇しましょうか。

人ずうぶんはしっかりとれたわね。この間みたいにたりないなんてことはいやよ？　なにせそれらはとっても美味しいのだから。