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『どうか私を救って下さい』 作者: ただの屍
お願いがあります。どうか私の話を聞いてください。
……私の名は稗田 阿求。
えっ、私が誰だか分からない?
だったら帰ってください。私の事も分からないようなモグリと話していても仕方がありませんから。
では、気を取り直して。
早速本題に入りたいのですけど、まずは私について知ってもらわなければならない事があります。
私は虐待、残虐といった行為が大好きなのです。
大好きといった言葉では足りないかもしれません。愛してすらいる。……いや違う。本気で愛しているのです。
風が吹き荒ぶ、いかにも妖怪が喜びそうな夜が来た時などには。
朝早くから起きて出かけては、昂った妖怪に殺された者はいないかと、目を皿にして物陰なんかを一つ一つ探しまわったりするのです。
そうしてやっと見つけた人間がただの酔っ払いであったときは、生きていた事に落胆したのです。
頭を食い破られて脳がこぼれ落ちてはいないか、玩具のように手足が引きちぎられてはいないか、血や糞尿を撒き散らしてはいないか。
私は惨たらしい死者が存在する事を期待していたのです。
でも、いつまでもそうやって待っていては、都合よく私の目に前にポンと現れる事は無かったんです。
それで、私は知り合いの妖怪に頼んで人間を襲ってもらおうかなと考えたんですけど。
私の期待していたものとは違っていた、なんて事もあるかもしれませんよね。
細かく要求すればいいんだろうけれど、なんかそういうのは口だけといった印象で感じが悪いですよね。
ですから結局は自分でやろう、と思い立ったのです。
いざ思いつくとそれは最高の提案のように思えてきて、それからは夜になると身寄りの無い、突然いなくなっても構わないような人間を探しました。
ある意味、幻想郷はそういった連中の集まりですから。簡単に見つかりました。
力で有利に立てるように、少女を選びました。
その娘は親を失っていました。親は皆から嫌われていて、娘もその巻き添えを受けていました。
親の死後は自分の力だけで生きるしかなかったんでしょう。何度も盗みを働いていたそうです。その内に、親と娘は関係ない、なんて言っていた人たちからも嫌われるようになって。こうなってはもうどうしようもありません。助けてくれる者は誰もいなくなりました。
その娘に、私が養ってあげましょう、といった態度で近付きました。最初は物凄く警戒されました。当たり前の事ですが他人を信じられなかったんでしょう。私の家の物を盗んだりしました。でも、私の気持ちが伝わると、日にちが少女の警戒を緩めていって、数か月後には一緒に暮らす程に私を信頼してくれました。
その時の私の気持ちは嘘ではありませんでした。でも、本物でもなかったのです。
ある日、私はとうとう嗜虐欲を抑えきれなくなり、少女への虐待行為を始めました。
まずは少女の挨拶を無視する事から始めました。
……軽すぎますか? そうお思いなのですか?
…………確かに軽いです。でも、初めから四肢切断なんかしてしまっては楽しめなくなる事もあるでしょう。
私はこの少女で全ての喜びを味わい尽くそう、そう思ったのです。
でも、あなたの言うとおり挨拶を無視した程度では、少女に変化は表れませんでした。少女は私を慕っていたのでしょう。
私は喜びに打ち震えました。私を心の底から信頼している少女の全てを思うがままにすり潰せる事に。
それから虐待行為はエスカレートしました。
私は少女の全ての言葉を無視しました。少女は何を思ったでしょうか。……私は少女の気持ちを考えては自慰に耽りました。
私は少女に腐ったごはんを出しました。少女はごはんを食べ切るとおいしいよ、と言いました。確かに腐っていました。それでも少女はおいしい、と言ってくれたのです。私は思わず少女の頭を撫でてやっていました。少女は涙を払って、嬉しそうな表情を私に向けました。私も、とてもとても嬉しくなって次の日からよりまずいごはんを出してあげました。
少女は口数が少なくなって、目に生気が感じられなくなっていました。ある日、私はどうしたの、と聞きました。原因はどう考えても私に違いないのですが、少女はなんでもないの、とだけ言いました。その言葉に私の残忍な優しさが蘇って、その日だけは一切の虐待を取りやめ、腕によりをかけて美味しいごはんを作ったり、少女と一緒に朝まで寝てあげたりしました。
少女が一切喋らなくなるようになってからは、肉体的な虐待を始めました。肉体と精神を同時に虐めてはどんな人間でも駄目になってしまいます。殴ったり、絞めたりした後には傷を舐めてやったり、抱いて眠ってあげたりしました。
少女の言動がおかしくなりました。私のコロコロと変わる態度に耐えきれなくなったのでしょう。そうなる前に逃げれば良かったのに。信頼なんてとっくに消え失せているはずなのに。
………少女が私を愛していたから? あなたは本気でそう仰っているのですか? ……へぇ、本気なんですか。随分と変わった感性をお持ちなんですね。
虐待者と被虐待者との間にに愛が生まれると思っているのですか。馬鹿馬鹿しいですね。そんな話ある訳がないでしょう。あなた、相当歪んでいますよ。
あなたの言っている事は、自分の生活を豊かにするためには汗水流して働くよりも盗みを働いたほうがいい、そう言う人と何ら変わりありませんよ。分かりますか。犯罪者の考えですよ。本気で言っているならあなたはもう立派な罪人ですよ。
愛なんて、読み仮名みたいなものだから、犯罪行為を愛だと言い切ってもあなたの勝手だけど、付き合わされた相手は本当に可哀そう。相手は絶対にあなたの事を愛さないから。愛が欲しければ素直に交際でも申し込めばいいんです。
盗みを働くよりも地道に働く方が幸せの近道であるように、地道にコツコツと関係を築くのが一番効率の良い方法なのだから。
………え? 幻想郷に法律はないから犯罪者という例えは間違っている? 矛盾だ? ……あなた、馬鹿ですね。
そんな事、自分で辻褄を合わせればいいじゃないですか。外から来た本を読んで知識を得たとか。……そうやってすぐに他人の脳を頼るのは良くありませんよ。
人間なんて、何もしなければどんどん退化していくんだから。自分の脳はガンガン使った方がいい。奴隷のように扱き使って、丁度良いくらいです。
……あなたのおかげで話が逸れてしまった。話を戻しますよ。
私は日常レベルの虐待ではもう反応してくれないだろう、と思って徹底的に少女をいたぶる事にしました。
でも道具なんて、縄と包丁ぐらいしか無いし、少女は確実に抵抗するだろうし、生き永らさせる自信も無かったので、殺すつもりで一気にいきました。
少女が寝ている間に、絶対に抵抗できないよう縄で固く縛りました。少女が途中で起きましたが、抵抗する度に顔面を殴りつけるとやがて大人しくなりました。
腫れあがった顔。出来上がった溝を涙が流れていく。少女は完全に私を敵視しているだろう。私は昂ぶりを抑えられなくなりました。
少女を刻む包丁を振るう手に熱がこもる。汗で手が滑って包丁を落とす。私は包丁を見捨て、一度少女から離れる。
日本刀を持って戻って来た私の顔を見た少女の歪んだ顔が、さらに醜く歪んでいく。
まだ楽しめる、と思うと私は嬉しくなって。まだ楽しもうと、両手で握った刀の柄で少女を殴打する。痣ができていない場所を優先して。
私は発情しきった身体に任せて、少女に接吻した。抵抗は力無い。舌をねじ込んで口内を蹂躙する。唾液を少女の喉の奥へと、たっぷりと流し込む。
その時、少女が私から口を離して、私の顔に唾を吐いたのです。……その精一杯の抵抗に私は歓喜の雄叫びを上げて少女の左腕を斬りつけました。
綺麗にスパッと斬りたかったのですが、素人ですから。刀は骨にぶつかってしまいました。少女は狂ったように叫びました。
私は焦りました。唾を吐くぐらいなのだから、まだまだ大丈夫だと思っていたのです。でも少女の、風前の灯であるかのような、命を振り絞っているかのような叫び。私は不安を隠せなくなりました。このままでは、腕を斬り落とす前に少女が死んでしまう。私は何度も刀を振るう。でも、少女の腕を上手く斬れない。突き刺しても駄目でした。
とうとう、左腕は胴から離れる事無く少女は息絶えました。肩から肘までぼろぼろになっていました。
……上手くできなかった。失敗した。私はそう思いました。
少女の死体を始末しなければならないが、少女の左半身にある失敗の痕が見るに堪えなくなって、私は静かになった空間の中、独りで少女の腕を斬る事にしました。
十分後、やっと左腕を切り離す事に成功しました。
……上腕は完全に骨の見せ場と成り果てていました。骨には刀傷が幾つもついていました。
……こんなはずではなかった。私は悲しみの涙を止める事ができなかった。
……今までずうっと上手くやってきたのに。最後の最後で大変な失敗をしでかしてしまった。私はその失敗を取り戻すかのように刀を首に当てる。筋力だけでなく体重をも利用して押し込みました。
……しかし、刀が骨に当たる音が聞こえました。私は錯乱し、大声を上げて泣き出し、暴れまわりました。
……………終わりです。これが私の大失敗です。思い出すたびに情けなくなる話です。
……どうですか? 私の話を聞いて、どう思いましたか?
……嘘くさい、描写が弱い、興奮できない、作り話に違いない、ですか…………
……実は、あなたの言うとおり、さっきの話は作り話なのです。しかし、虐待や、残虐な行為が好きだというのは本当の事です。
ようやく本題に入れますが、私がこうなってしまったのは、外から流れ着いたある書を読んだからなのです。あれが私を百八十度ひっくり返してしまった。
その書……名前は分かりませんが、残虐で猟奇的で見るも無残な話が集められていたのです。
その時の私はそんな文章に免疫は無い、と思っていたのですが、そうでもありませんでした。私は偏った人間だったのです。少なくとも一般的な人間はこんな話は好みません。
その本と出会ってから、私は人間としては終わっている、そう思うようになりました。なぜなら、妖怪の三大欲求は性欲、嗜虐欲、被虐欲だと言われています。そして、私はその作品を読みながら、登場人物に身近な人や妖怪に置き換えて読んでいたのです。まともな人間のする事ではありません。
私はどんな妖怪よりも強く、思うがままに残酷非道を行いました。逆に、何度も死を体験し、訴えを全て無視された哀れな被害者でもありました。
その作品集を読んでいる間は良かった。読み終わった後も素晴らしかった。ですが、頭の中に収まってしまうと物足りなさを感じ始めました。
………どうにかまた、あの心地よき空想に浸りたい。そのような思いが頭の中の全てを占めようとする。
私は似たような毛色を持った本を探し、読み耽った。読み終わるとまた物足りなくなる。とうとう知る限りの書物を読みつくてしまう。
私は完全に中毒になっていました。残酷非道、悪逆無道、暴虐、無残、残虐、虐殺、殺戮、極悪による惨禍を、猟奇的で凶悪的で倒錯的で変態的で異常な話を求める中毒者になっていました。
中毒症状が酷い時には、何か虫のような変な生き物が私の耳元をずるずると這いずり回るのです。そいつはもっともっと、とひたすら呟くのです。
……私は自分で自分を癒すために話を作ってみました。それが、さっきの話です。
あなたも思った通り、あんな粗末な話では私は気持良くなれませんでした。
しかし、欲求は限り無く強くなっていく。このままではどうにかなってしまう。遂には日頃の妄想を現実世界で実行してしまいかねません。私が自由な人間であればそれでも良かったのですが、阿礼乙女としての使命が私を縛るのです。私はこの時ほど自分の運命を呪った事はありませんでした。あの時あんな物に出会わなければ。あの忌むべき産業廃棄物が私を狂わせて、困らせている。
以前の自分にはもう戻る事はできないでしょう。私の記憶を消す事などできない。転生してこの記憶を捨て去る事に成功したとしても、前世の業から抜け出す事は、果たして人間に可能なのでしょうか? もし否定を試みたとしても、私は一度堕ちた身。決して抗い切る事はできない、結局は過去の自分に囚われるでしょう。
……ですから、私は受け入れる事にしました。飛び込む先は、ドロやヘドロのような悪臭を放つけれども、いざ麻痺してしまえばもう怖くない。
唯一恐れる事はヘドロが消えてなくなる事です。完全に消え失せて悪臭を放つ私だけが残る。それは、この世の最悪だと言い切れます。
しかし、私にも阿礼としての建前があります。公然と残酷が大好きだと言いふらしたりなどできないし、いくら友と言えども私の心を暴露する事はできません。
……私のお願いが何だか分かりましたか?
……あなた、自己表現が大好きでしょう? こんな話をここまで聞いて嫌だとは言わせませんから。もしそんな事言ったらいくら建前があるとはいえ、殺しますよ。私がどんな気持ちでこの話をしたのか考えなさい。
でも、そんな事ありませんよね。ある訳が無い。だから、あなたに頼みたいのです。
文章を書くのが大好きなあなた。
絵を描くのが大好きなあなた。
他人を喜ばせるのが大好きなあなた。
私の願いはただ一つ。
……お願いします。
どうか私を楽しませ続けてください。
あきゅうちゃん頭がかわいそう;;
誰か楽にしてあげて;;
ただの屍
作品情報
作品集:
26
投稿日時:
2011/05/03 15:37:11
更新日時:
2011/05/04 00:37:11
分類
チラシの裏
久しぶりにいいSSを読みました。本当にとても面白かったです。ありがとうございました。
あきゅうちゃんのこと誰か楽にしてあげて;;
頑張って、作品を作ろう。
何とかやり抜いて悔いを残そう……、あ、間違えた、悔いを残さないように……。
いい作品ってどうしたら……。
まるっきり過去の自分を見せつけられましたね。
うん、頑張ろう
これは稀にみる良作
ですが、そこは断じて産業廃棄物の集積場ではありません。
排水溝の詰まりのような心の澱を清める浄水場のような場所です。
綺羅星の如く集まった作品が、貴方の心を癒すでしょう。
そして、貴方も、貴方の作り話もまた、光り輝く星の一つである事をお忘れなきよう。
ただこれだけで良いのに、なんと難しいことか。