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『隷属する血液(後編)PartA』 作者: イル・プリンチベ

隷属する血液(後編)PartA

作品集: 26 投稿日時: 2011/05/10 11:07:07 更新日時: 2011/05/10 20:09:11
CAUTION!



・東方Projectの二次創作ですが、原作と比較すると著しくキャラ設定の変更がありますので、それが耐えられない方はここではないどこかへ行った方が望ましいと思います。


・このSS単体でもそれなりに楽しめれると思いますが、隷属する血液(前編)と隷属する血液(中編)と隷属する血液(後編)Part@を読んでいただけたならよりいっそう楽しめるので、まずはそちらを先に読まれた方が望ましいと思います。


・すべてを受け入れることができる方や、このSSをネタとして笑ってすませるユーモアを持たれている方はここから先に進んでください。



―午後9時 紅魔館に戻った私―



 幻想郷全体を駆け廻るためあっちこっちに移動したり、疲れてしまったら適当に休憩したり、私がパーティの招待状を手渡した後に出席確認をしていたりしているうちに、なんだかんだいいながら24時間もかかってしまいました。


 招待状を手渡すのも大変な仕事なのに、今回は見事に全員に参加を断られてしまったので労力の割に合わないという事を痛感させられましたが、最低最悪な結果ですのでお嬢様にどう報告すればいいのかわかりませんでした。


 プライドの塊のお嬢様は自分の威光が通じないと必ず私に八つ当たりをしてくるので、今回は死を覚悟しておくべきだと思って方がいいでしょう。たぶん私の運命は紅魔館で馬車馬の如く働かされるだけ働かされて死ぬという事ですから、どうやってもそれから逃げれないことが解っていますので、やれる限りのことをやってから死んだほうがいいと思うのです。


 私が正門にたどり着くと美鈴が門番をちゃんとやってくれているようなので安心しましたが、とりあえず今回のパーティの招待客が全員参加しないという結果を伝えておく事を避けておきたいと思いましたが、


 「咲夜さん、いつもお仕事ご苦労様です。それでもって今日パーティにやってくるお客様はどれぐらい来られる予定ですか?」


 美鈴は私を見るなりねぎらいの言葉をかけてくれたのですが、やはりパーティにどれだけの来訪者がやってくるのかが気になっているので、ここは全員が来ないという悲惨な結果を教えなくてはならないようです。


 「美鈴も頑張っているもの、私だってそれ以上にやらないと話にならないでしょう?今日のパーティの件なんだけど、今日のパーティにやってくるお客様は誰一人といないわ。みんな揃いも揃ってあれこれ理由をつけて断ってくるんですから、私は譲歩する以外なかったわよ。」


 「それに今の紅魔館にパーティをやれる財力はないから、どっちにしても中止するしかないのよ。だから、誰も参加してもらわなくて逆に感謝しているわ。やったらやったで恥さらし以外の何物でもないし、かえって変な料理を提供したらしたらで私が一方的にお嬢様の怒りを買うだけよ。」


 私は幻想郷の住人達にパーティの参加を断られた経緯と、まともにパーティ料理を出せないという事を全て美鈴に伝えたら、


 「あー、もうダメだ…、それにしても見事な大惨敗っぷりですね。これは嘆くより笑うしかありませんね。あはははははっ、あはははははははっ!」


 美鈴は劣悪な現状に怒りと悲しみの壁を通り越してしまって呆れてしまったので、どうリアクションを取っていいのかわからなくなったみたいなのか乾いた笑いをひたすらするしかなかったようです。


 「あははははははっ、あははははははっ!みんなに断られたわ!ダブルブッキングの嵐でこれ以上どうしろと!やっぱりうちのお嬢様は相手の事を考えていないわ。人様にも用事があったりするのに、そんなことまともに気にも留めていない!」


 私もまさか誘った全員に断られることになるとは思ってもいませんでしたが、実際にこうなってしまうと虚しさとやるせなさの壁をはるかに通り越してしまったので、もう笑うしかありませんでした。


 「咲夜さん。みんなに断られたのはわかったんですが、どうやってお嬢様にこのことを報告するのですか?ありのまま言ってしまうと、間違いなく命がないですよ。」


 「それよりも咲夜さん。私達お昼から何も食べてないじゃないですか!いい加減お腹が空きましたよ。」


 美鈴のお腹から「ぐぅ〜」と音が鳴ると、私も美味しいご飯を作ってあげられない事でいたたまれなくなってしまいますが、


 「私だってお昼以降何も食べてないわ。仕事上お酒を飲まされたんだけど、美味しく感じないわ。」


 「それよりも今日で私達が食べる食糧が底を尽きたんだから、明日からみんな狩りをしないといけないわよ…。」


 「あー、そこらへんに生えているペンペン草でも食べるしかないのかしら…」


 ペンペン草を食料にしなくてはならないと思うと、私も明日以降生きていけるかどうかもの凄く不安になったのですが、


 「うひゃー。ここは前からヤバかったんですけど、こりゃもうダメだ…、咲夜さんが作ってくれるご飯が食べれない…、門番やってて唯一の楽しみがないなんて、やってらんないです。」


 「私達がお腹を空かせるのも、酷い待遇で働かされるのも、人権を剥奪される働きからをしなくてはならないのも、すべてお嬢様が後先考えないで無駄遣いばかりしているからですよ。」


 「今日のおゆはんはペンペン草ですか…、終わっていますね。咲夜さん、紅魔館で働いてきた中で最高にイケてるディナーだと思いますよ。」


 「お嬢様はどんなリアクションを取るかしら?」


 ペンペン草を使ったディナーをお嬢様に差し出して、お嬢様がどんなリアクションを取るか美鈴に問いかけてみると、


 「そうですね…。強いてあげるなら思い切り癇癪を起して咲夜さんを殺してるか、血の涙を流して喜んでいるかのいずれかだと思います。」


 「私がお嬢様だったら、間違いなく怒り狂ってメイドである私の事を殺していると思うわ。」


 美鈴は私がペンペン草料理をお嬢様に差し出すのを想像していたようです。間違いなくお嬢様は激しくお怒りになってから、私の事をここから追い出すどころか絶対に殺していると思います。


 それと働いて唯一保障される報酬である3度の食事が当たらないと知ると、美鈴はそれがショックだったので完全にやる気をなくしてしまいましたが、それは私や妖精メイド達だって同じなのです。


 どこの誰だっていくらなんでも食えた代物じゃないマズイ餌を食べさせられるより、何度もお代わりをしたくなる美味しいご飯を食べれる方がいいに決まってますよ。


 「今更なんだけど、お嬢様と妹様はおろかパチュリー様と小悪魔にも食べさせる食事がないから、今日のおゆはんはなし!あははははははっ、あはははははははっ!」


 私も今まで自分が必死になってやってきた事が何の意味もなく、貴重な時間を無駄にし続けてきたことが非常に馬鹿らしくなってしまったので、美鈴と同じく乾いた笑いをするしかなかったのですが、道化師みたいに振る舞っている自分がなんとも虚しくてたまりませんでした。


 劣悪極まりない現状を改めようと必死になって努力をしても、たとえそれが決して報われないという事が解っていながらやっているのに、紅魔館で働いているために嫌でもそうせざるを得ないと思うと本当に嫌になって仕方ないのです。



―午後9時15分 ヴアル魔符図書館に行ってパチュリー様に事態を説明する―



 私と美鈴は一緒にヴアル魔法図書館に行って、パチュリー様と小悪魔に紅魔館の食糧庫は底を尽きてしまったので、今日以降は一切おゆはんおろか食事が当たらない事を説明しなくてはならないのです。


 パチュリー様と小悪魔は魔力が生命を維持しているので食事を取るという習慣はなくてもいい筈ですが、美味しいものを食べることが好きな2人にとってちょっと辛いものがあると思いました。


 私と美鈴はパチュリー様に対策案を教えてもらう為にヴアル魔法図書館に入室しようとしたのですが、司書の小悪魔さんが入室を歓迎してくれていることが珍しかったのである意味面喰ってしまいました。


 「咲夜、おかえりなさい。またレミィの我儘につきあわされてパーティの招待状を手渡したんでしょう?本当にいつもご苦労なことね。それに召集させられる方もいつもこれじゃ、絶対ここには来たくないという筈だわ…。」


 「私もここの住人でなかったら、適当に理由をつけて断っているわね。ていうか、一度酷い目にあってそうだからもう2度と来ないようにしてる筈よ。」


 「元に咲夜がレミィの代行として紅魔館の顔として振る舞っていたから、あいつらに酷い事を言われ続けたんでしょう?本当につらかったよね…、咲夜の顔を見ればだれ一人たりともここには来ない。そう顔に書いてあるわ。」


 パチュリー様の予測通り誰一人たりとも招待客は来ないという最悪な結果になってしまいましたが、幻想郷中を駆け巡った私の事を労ってくださったので何故か感極まってしまい瞳から少し涙があふれてしまいました。


 「やっぱり招待客の皆様は参加を拒否されるんですね。パチュリー様がそう考えられているんでしたら、私だって納得できますよ。」


 「私もここの住人でなく、ここのパーティを一度でも体験したら間違いなくもう2度と来ませんがね。少なからずお嬢様が粗相をやらかしてくださいますので、アレをやられると一緒に一緒に飲み食いするどころか顔を合わせたくない心境になりますよ。」


 美鈴だって紅魔館に住人でなければパーティに参加したくないという事を露にしましたので、パチュリー様苦笑した後に呆れのため息をついてしまいました。


 「美鈴、お前の考えは正しい。実はというと俺っちも同じ考えだよ…。パーティで食う飯はいつもと違って、咲夜が作ってくれた上手いメシと酒がどういうわけかもの凄く不味く感じてしまうんだからな。」


 小悪魔さんは美鈴の肩を抱いてから2人は顔を見つめあうと、同じタイミングで俯いてからため息をしました。


 「私個人の推測だと思うんだけど、たぶんみんなレミィがやらかす粗相にウンザリしているから、何があっても絶対ここには来ないと思うの…。たとえスケジュール的にあいていたとしても、それもあれこれ理由をつけて意識的に来ないにしている筈だわ…。このままレミィに拉致監禁されるぐらいなら、死んだほうがマシじゃないかしらとも本気で思えるわ…。」


 「もう2度とここでパーティを開催しない方がいいわ…、というかいつもレミィがとんでもない粗相をやらかしてくれるから、それをフォローしなきゃいけない私達はたまったものじゃないわよ。もう2度とレミィと一緒にご飯を食べたくない…。だって食事中に平気でオシッコとウンコをしたり、調子こいて酒を浴びるほど飲んだ後に誰かにゲロをぶちまけたりしてるんじゃ、誰だってドン引きすること請け合いよ。」


 「私だって咲夜にはいつも申し訳ないと思うんだけど、あれに巻き込まれて派手に喀血しちゃったから今日の体調は最悪で悲惨だったの。」


 パチュリー様はもう2度とここでパーティをしないように私に提案しましたが、指摘された通り誰も来ないのでその必要はないでしょう。それにお嬢様がブチ撒いた汚物の処理をするのは私ですから、本当に勘弁してほしいと心の奥底から願っております。


 「おい咲夜。また今日も俺達は地獄を見ることになるのか?いい加減なんとかしてくれ…。あのバカたれはいつものようにハチャメチャぶりを存分に発揮してくれるんだろう?付き合わされる俺達は本当に嫌になるぜ…。」


 「お前さんがいつも汚物の処理をするしんどさはわかっているんだが、同じ館内の住人として恥ずかしいったらありゃしないんだぞ。」


 「あいつが粗相をしちまうおかげで、いつも尻拭いをするのは何故か俺達で、会場の清掃全般は咲夜、力仕事全般が美鈴、そんでもってパチュリー様と俺様がクレーム対応全般をやらされるんだよな…。」


 「咲夜、頼むから今日のパーティは中止にしてくれぇ…。俺様がそんな権利を言う資格はないと思うんだが、なんとしても招待客を追い返してほしいんだ…。それより俺様は咲夜が作ってくれるまともな晩飯を食いてぇんだよ!」


 小悪魔さんもお嬢様の尻拭いをしてきたので、もう2度と悪魔が恐れる悪夢のパーティをしないでほしいと私に言ってきましたが、誰も来ないのでその必要はないと思いました。


 「パチュリー様、小悪魔さん。誠に残念なことですがお金と食糧が今日付けで底をつきましたので、パーティを開くどころか今日の夕飯以降の食事をお出しすることができません。」


 私が紅魔館の食糧が底を尽きた事をパチュリー様と小悪魔さんに告げた後に、


 「食べれそうなものはありませんが、いいところでペンペン草か福寿草ぐらいですね。明日から本当に狩りをしないとご飯にありつけませんよ。」


 美鈴がペンペン草を食べないといけない事を、パチュリー様と小悪魔さんに宣告すると流石にあの2人といえども目を丸くするほど驚かれてしまうのですが、


 「美鈴、それ食べ物じゃないわ!ここにいる限りこれから私達は雑草のおひたしをずっと食べ続けなきゃいけないうえに、おやつはいつも雑草ケーキと雑草ゼリーか雑草饅頭のいずれかで、紅茶の代わりに雑草ティーを飲んで喉を潤すのね…。」


「ああ、もうダメだ…。この調子じゃ、私達全員が逆立ちしても、今年じゅうに3兆円を作る事は絶対に出来ない…、もう、ここから、逃げ出すわ。レミィ、こうなってしまったのはあんたのせいだからちゃんと責任取りなさいよね。」


 パチュリー様がペンペン草をまともな食べ物じゃないという事を美鈴に突っ込みを入れた後に、頭を抱えながら椅子に座ったあとにテーブルに乗りかかるような形で倒れこんでしまったら、


 「おいおい、冗談じゃないだろう!?ペンペン草なんて食える代物じゃないだろ、アホタレがっ!!!ここにいる俺達はもう2度と、健康で文化的な最低限度の生活を送れる権利がないのかよっ!」


 「確かに俺は大メシ喰らいの役立たずかもしれんが、そこまで無駄金を使っちゃいないぞ。やっぱりあの馬鹿お嬢がすべての責任を取ってもらわんと割が合わん!あー、もう、ここから出てくぞ!やってられるかバカヤロー!」


 小悪魔さんもこの状況に絶望したのか、パチュリー様と同じく頭を抱えてしまうと椅子に座った後にテーブルに乗りかかるような形で倒れこんでしまいました。


 「小悪魔。やっぱりあなたのいった通りここにある魔道書をすべて売り払って正解だったわね。二束三文程度にしかならなかったけど、売らないでこのままゴミクズに奪い取られるよりははるかにマシだと思うの。」


 こうなることを見通してかパチュリー様と小悪魔は紅魔館から脱走するために準備を進めていたようで、生きるための手段と割り切って仕方なく貴重な魔道書を売り払うことで当面の生活費となるお金を手にしていたみたいです。その証拠として本棚にぎっしり収納されていた魔道書はひとつもなく、本棚はすっかり空っぽとなってしまったのですからもうここはヴアル魔法図書館ではなくただの黴臭い地下室でしかないのです。

 
 「心配しないで下さい。喜ばしいのか嘆かわしいのか何とも言えないのですが、先程パチュリー様が予測された通り今日のパーティに招待した方々は誰も来ることがありません。」


 私は遠慮がちにパチュリー様と小悪魔に招待客は誰も来ないという残酷である事実を伝えると、


 「さ、咲夜。それ、本当だよね?後で全員来るっていうオチはないよね?その言葉を信じてもいいんだよねっ!?」


 「おい、マジかよっ!俺たちゃ悪夢を見なくていいんだよなっ!?咲夜。てめぇ、嘘をついてるわけじゃねえだろうな!?」


 2人とも流石に誰も来ないという事が信じがたいので、今私は招待客が誰ひとりともこないと言った事を疑っているようですが、つい目を背けたくなったりにわかに疑いたくなったりすることだとしてもそれは紛れもない事実です。


 「御二方が疑いたくなるのは尤もでございますが、先程も申しあげた通り今日もパーティに招待した方々は誰一人たりとも来ないということです。それに食料も底を尽きたので、パーティを開ける状況ではないので中止せざるを得ません。」


 今なおこの事実を疑っているパチュリー様と小悪魔さんに信じてもらうために、私はパーティには誰も来ないという事を言いましたが、私ですら最初はこの現実を受け入れることができなかったのですから、みんなが最初から私の言ってることの全てを疑わずにはいられないことでしょうね。


 「そう…、やっぱり誰も来ないのね。紅魔館の威光も地に落ちたものね…、ある意味嬉しくもあるけどある意味悲しくもあるわ。だけど、地獄を見ないで済むのがせめてもの救いかもしれない。だけど私達はいつもいつもレミィの我儘に振り回されるから、もう付き合いきれなくてウンザリしてるのよ。」


 パチュリー様は一瞬笑顔を見せた後にここではないどこか遠くを見つめ始めると、


 「私が咲夜に奇妙なものを集めてくるように命令するのは、レミィを退屈させないためにヘンテコな行事をしなきゃいけなかったのよ。それが元で咲夜と美鈴には理不尽なことを言ってきたと思うと、私もレミィと同じ罪を背負っている気がしてならないわ。咲夜、美鈴、今まで何もしてあげられなくてごめんね。」


 「あなた達やメイド妖精が理不尽な働き方をしているのは知っていたけど、レミィがあの性格だから私が忠告してもまともに聞くとは思えないし、言ってしまったらあなた達の待遇がより酷くなってしまうから今まで何も出来なかったの。」


 「紅魔館を何とかまともな状況にしたかったから今日のお昼に必死になって説得したのに、レミィときたら全く私の事を完全に馬鹿にしきっているからまともに話を聞いてなかったじゃない。たぶんレミィは自分が吸血鬼であることが誇らしくて、吸血鬼以外の種族を見下しているからあんな歪んだ人格を持ってしまったと思うの。」


 パチュリー様は珍妙な行事をする理由はお嬢様の機嫌を取るために仕方なくやっていることを私と美鈴に教えて下さったのですが、そのために私の用な使用人たちが紅魔館で理不尽な働き方を強いられていた事を知っていながら何も出来なかったことを悔やんでいるようです。


 「パチュリー様がそんなこと気にしなくてもいいですよ!私の仕事は侵入者をシャットアウトすることと、花畑を管理することですから…。確かにポカをやらかして、泥棒を侵入させてしまった事が度々ありますから、私の方こそパチュリー様に顔向けできないですよ。」


 美鈴はパチュリー様の魔道書の盗難被害を出してしまった事に罪悪感があるので、頭を下げてしまいましたが、


 「いいのよ。あんな程度の魔道書なんかより、私は欲しい物を手にできそうだから気にしてないわ。それに盗人はあの魔道書を使いこなす事が出来ないから、今頃ゴミ屋敷の一部に成り下がっていて山積み状態になっている筈よ。」


 パチュリー様は今まで失態を繰り返してきた美鈴を許し、魔道書を取られた事を全くもって気にしてないと言ったので、美鈴の心の奥深くにある贖罪を晴らすという心遣いをされました。


 「私がやるべきことはただ魔道書やエロ漫画やエロ小説を読んだり書いたりするだけでなく、ここみたいなブラック企業をこの世に蔓延らせない様に私塾を開いてこれからの魔界を担う人材を育成することよ!わかりきっていることだけど、間違いなく私の先は長くないから後100年生きれればいい方だわ…。」


 「咲夜や美鈴や妖精メイドみたいな理不尽な働き方をさせない世の中をつくるために、罪滅ぼしとして余命幾許もない私の生涯をささげなくてはならないの!私が持っているこの知識は絶対的な権力を握っているレミィのような強者の為に使うんじゃなく、迫害をされ続けている弱者のために正しく使わなければならないのよ。」
 

 「本当の強者は弱者を慈しむべきなのに、とんでもなく強欲でなけなしの財産を絞りとれる限り絞り取って富を得ようとしているわ。まさに今のレミィがそう…。私はそんなレミィのような奴からあなたたちみたいな立場の相手を守らなくてはならないの。」


 自分のやるべきことを悟ったパチュリー様は、魔界に帰ってから私塾を開いて自らの後進となる人材を育成することを決意なされたようです。
 

 「今日は悪夢を見ないで済むんだな。あいつが怒り狂う姿が目に見えるぜっ!ざまあみろ、ざまあみろっ!お前の日頃の行いが元で、その身を滅ぼす前兆を生み出してしまうのだ!人の不幸があれば俺様はメシが5杯いけるぜ!でも、メシがないのが残念なんだがな…。」


 「悪いことをする奴が作った組織は上手くいってるうちはものすごい勢いで成長するんだが、衰退する時はやけにアッサリ潰れちまうもんだ。」


 小悪魔さんはお嬢様の身に迫りくるであろう破滅の瞬間を今か今かと待ち望んでいるので、恐々とした笑顔を私達に振りまいているのですが、


 「そうですよね?そうじゃないといけないですよね?悪いことをしたら必ずバレないといけないじゃないですか!酷いことを相手にしたら、いつかは自分の身に帰って来る筈ですよね?」


 美鈴もいつも悪い事をし続けているお嬢様が、取り返しのつかないことになるのではないかと思っているようです。


 「俺様は悪魔で人の不幸が好物なんだが、パチュリー様のやることが魔界と幻想郷の為になりそうだから協力してやるぜ!それに、虚弱体質のパチュリー様を一人にはさせられんから、誰かが付きっきりになって面倒を見てやんないといかんだろう?」


 「それが出来るのは誰なんだ!?誰がどう考えてもそれをやるのは俺様以外いないだろう!?俺様の仕事はパチュリー様のそばにいて雑用をこなすという事だ。やっぱり俺様とパチュリー様は運命共同体でお互いがお互いを必要としているんだからな。」


 やっぱりこの人は生粋の悪魔なんだなといつもながら思い知らされましたが、自分のマスターであるパチュリー様の事が好きで誰よりも慕っているのでしょうね。


 「咲夜、美鈴。あれから私と小悪魔はこれからどうするかずっと相談してきたんだけど、やっぱり故郷の魔界に帰ることにするわ。残っている魔道書を未熟者の魔理沙にくれてやるよりは、魔界行きのゲートを作るためのコストとして使った方がよっぽどマシじゃない。私達にはやらなくてはならない事がいっぱいあるんだから、ここで時間を無駄に使い続けるよりもっと有効的に使わないといけないよね。」


 「んじゃあ、俺様もひと頑張りするかいな。いい加減こっちにいるのも飽きたし、そろそろ故郷に戻るとするかな。俺様の協力もないと、パチュリー様の夢はたぶん実現できそうにないからな!」


 パチュリー様と小悪魔さんは手のひらを天井に向かって突き出すと、本棚に入っていた魔道書とマジックアイテムの類が紫色の塵になって紫色の光を放つ魔方陣が出来上がると、2人はそこの中心部に移動してから私と美鈴に別れの挨拶をしたのです。


 「咲夜、美鈴。結構長いようで短い付き合いだったけど、今までありがとう。たぶん、これが今生の別れになるかもしれないけど、またいつかどこかで会えるといいわね。レミィの顔はもう見たくないからお別れの挨拶をしなくてもいいんだけど、まさかあなた達とはこういう別れ方をするとは思ってもみなかったわ…。」


 パチュリー様は私と美鈴に涙を見せないのですが、やっぱり夜の種族といっても人並みの感情がありますので別れが辛いのでしょう。


 「咲夜。最後に頼みごとがあるんだけど、これはやってもやらなくてもどっちでもいいわ。」


 「どのような要件でございますか?」


 パチュリー様が胸ポケットから何かを取りだすと、それは2通の手紙を私に差し出してこう言われました。


 「レミィとフランにこの手紙を渡してほしいのよ。どうせあなたもここから去るのだから、私が依頼する権利なんて何一つもないんだけど、その時が来たらなるべく渡してほしいわ。」


 「なるべくならレミィには渡さなくてもいいんだけど、出来ればフランには渡してくれるとありがたいわ。それに手紙に封をしていないから、美鈴と一緒に読んでもいいわよ。」


 本来であれば自分で渡す方が手っ取り早いと考えられる筈ですが、手紙の内容を考えると直接渡しづらいものなので、間接的に私を通じてやった方が何かと都合がいいと思ったのでしょう。現に私と美鈴にも読むように言われたのですから、それぐらいは容易に想像つきます。


 「パチュリー様がそうおっしゃられるのでしたら、その件に関しては前向きに善処いたします。ああ、もちろん手紙をじっくり読ませていただきますよ。折角パチュリー様が読んでもいいとおっしゃったのですから、私と美鈴は穴があくまでじっくり読ませていただきます。」


 私は前向きに善処するとパチュリー様に行ったのですが、たぶんお嬢様と妹様にこのお手紙を渡さなくてはならないと思いました。たぶんそれが私の運命なのですから。


 「私もぜひとも読みますよ。ていうか読ませて下さい、咲夜さん。」


 美鈴も私にその手紙を見せるように催促してくるのですが、


 「お前ら読むんかいな。」


 小悪魔さんが私と美鈴に突っ込んでくれましたので、今日も紅魔館は平常運転で極めて危険な状態だと改めて思わされました。この悪魔的ジョークをまともに切りかえすことができなければ、とても紅魔館で生活していくことなんてできないのですから。


 「そういってくれると嬉しいわ。咲夜と美鈴の事だから、手紙に書かれているだいたいの内容は想像つくと思うんだけど。」


 私はパチュリー様から手紙を受け取ると、それらをエプロンのポケットに入れておきました。私としてもお嬢様にこのお手紙を渡したくないのですが、パチュリー様も普段は言いにくい内容が書かれているからどうしても自分では渡しにくいと思ったので、第三者である誰かである私を通じておきたいというところでしょうか。


 「お前らの顔を見ないで済むと思うと、どういうわけか嬉しくて仕方ないから目から塩水が流れてくるんだ。咲夜の作るクソ不味い飯を食わないで済むと思うと、本当に清々するんだ。」


 小悪魔さんは言ってる事は私の顔を見ないで清々すると言ってますが、実際は私と美鈴との別れることが悲しくて仕方ない筈ですし、私も同じ心境で仕方ないのですから。


 「あなたの悪魔的ジョークは今日で聞き納めだけど、無理しなくてもいいわ。」


 「こんな時にふざけなくたっていいんですよ。素直に泣いたって誰も笑いませんし、誰も辱めるという事はしません。」


 私と美鈴は言ってることが矛盾している小悪魔さんに素直になってもいいと言ったのですが、


 「馬鹿野郎、俺様は小悪魔でもれっきとした悪魔なんだ!人の幸せって奴と人に正直になりたいってことを願っちまったら、天使なんかに成り下がっちまうだろう!?誇り高き悪魔である俺様が、そんなこと出来るわけ、ないだろう!くそったれが、さっきからずっと目から塩水が止まりやがらないぜ…、」


 「なんてこった。魔界に帰るのは問題ないんだが、メイドと門番を見捨てるだけじゃなく、一人地下牢に閉じ込められている妹様をも一人にしてしまうんだ。ああ、神に許されるならば、妹様をここからつれ出せないだろうか…。俺の命に代えて連れ出せるなら、かまわないのだがな…。」


 小悪魔さんは悪魔でいることにこだわりを持っているので、このような態度を取ってしまうんですよね。本人は天使みたいに生きていたいのに、悪魔として生まれたからどうしてもそれができないもどかしさが物凄く伝わってきます。


 「あなたもあいかわらず天の邪鬼なのね。でも、それがあなたの個性なんだから、無理に変える必要はないわ。むしろそれを貫き通さないと、私のパートナーなんて務まらないじゃない。」


 「妹様も一緒に連れて行きたいのはやまやまなんだけど、あんなろくでなしの姉だったとしても妹様にとって唯一無二の肉親を見捨てることは、私達と別れるよりはるかに辛いことでしょう…。」


 パチュリー様が小悪魔の事を天の邪鬼だと指摘した共に、無理に変えなくてもいいと言ったので私と美鈴はつい苦笑せざるを得ませんでした。


 呪文の詠唱が完了したのか紫色の魔法陣が一層強く光ると、パチュリー様と小悪魔の身体もそれと同調するかのように輝き始めると、


 「咲夜、美鈴、さよなら…。今まで、ありがとう…、感謝しているわ。妹様、ごめんね。何も言わずここから去ってしまう私達を許してほしいとは言わないけど、妹様を見るとここから去ることを躊躇してしまうから、いつか迎えに行くから、その時を待ってほしいわ。」


 「メイド長、門番、あばよ…、お前らなんかのたれ死んでしまえばいいんだよ…、ざまあみろ、ざまあみろ…、畜生め。ああ、妹様。置き去りにして去ってしまった俺達を憎んでもいいぜ。殺されたって文句は言えないが、俺達は妹様みたいな不幸の星に生まれた存在を救わなくてはならないんだ!許してくれっ!」


 二人の身体は図書館から消えてなくなると、私と美鈴はパチュリー様と小悪魔が紅魔館から本当にいなくなってしまったという現実を改めて知らされてしまいました。


 パチュリー様がやるべきこと見つけたと言ったのですから、私にもやらなくてはならない事があると気がつかされましたので、私はそれを実践する時が来たんだなと思いました。


 私はこの劣悪な状況の責任を取らなくてはならないので、部下の尊敬を集める為の手段としてやるわけではないのですが、上司は部下を守る立場にありますから今まで門番という過酷な職務を全うしてくれた美鈴の身の安全を確保しなくてはなりません。


 今まで私は部下に解雇通告をしたことがありませんが、この先の紅魔館は間違いなく滅んでしまうからそんな所に大切な部下の美鈴を置くわけにはいかないので、解雇という名目を使って美鈴には生き延びて欲しいと思いました。


 「美鈴。あなたには言いたくなかったんだけど、今すぐ紅魔館から出ていってここの門番を辞めてもらうわ。わかっていると思うけど、財政状況は極めて壊滅的で、ここの従業員であるあなたに対してまともに報酬を支払えないのだから、ここを取り仕切るものとしての権限を行使してあなたを解雇するわ…。」


 私は美鈴の肩を叩いて解雇通告をしたのですが、私の口からクビを告げられた美鈴は凄く辛いと思うのですが、これを言わなくてはならない私だって同じぐらい耐えがたいほどの苦痛を味合わされるのです。


 「いえ、私は気にしてませんよ。妖精メイド達はみんな退職を願い出て、パチュリー様と小悪魔さんがここを去ってしまったのですから、なんとなくクビにされるんじゃないかなと思っていたんですけど、実際に言われるとすっごくキツイものがありますね。」


 「いつも昼寝をしてましたから咲夜さんにそれが見つかって怒られるのですけど、こう見えても私はいつクビにされるか内心戦々恐々としていたんですよ?」


 「クビにするならさっさとクビにすると言ってもらった方が有難いんですけど、どっちにしても私の口からこの職場を辞めるようにいうつもりだったんですが、残念なことに咲夜さんに先を越されてしまいましたね。」


 美鈴は私に向かってあからさまに怒るどころか、そうなるであろうと解っていたようなのである程度の覚悟はできていたみたいです。やはりショックを受けている事は変わりませんが、もう再起不能になるぐらい致命的でなかったようでしたので私としては安心していいみたいです。


 「美鈴、落ち着いて聞いてほしいの。あなたには解雇という形でここから出て行ってもらうんだけど、このままここにいてもお嬢様が暴走してあなたの命を奪いかねないから、今の私が出来る事といったらせいぜいあなたの命の保証することだけよ。紅魔館がこうなってしまったのも私にも責任があるから、やるべきことをやってからここを立ち去るつもりよ。」


 私は何の罪のない美鈴の事を助けたい一心で紅魔館から出ていくように指示したのですが、


 「咲夜さんが責任を取ろうとするのはわかりますが、何でもかんでも一人で背負いこまないで下さいよ。今まで役に立たない部下でしかなかったですけど、少しは咲夜さんの役に立ちたいですから、私ももう少しここにいます。たぶん咲夜さんはお嬢様に殺されに行くんでしょ?」


 「私だってここを出たら帰るところはありませんしこれからどこに行けばいいのかわからないのですから、ここまできたら私も咲夜さんについていくだけです。こう見えても私は咲夜さんよりお嬢様との付き合いは長いですしね。」


 美鈴は私と一緒に最後の仕事をすると言ってきたのですが、部下に命の保証が出来ない仕事をさせたくない思いがあったので、


 「絶対にダメよ!」


 私は上司として部下の協力の要請を断り、これ以上のかかわり合いを持たせないためにきつく言ったつもりでしたが、


 「ダメだって言われても足手惑いだって言われたって、私のやることは変わりませんよ。どうせなら咲夜さんと一緒にお嬢様にクビを言い渡された方が、まだ示しがつくじゃないですか。これは咲夜さんの命令でなく自分の意思で決めたことですから、これ以上何も云わないで下さいね。」


 私にクビを言いつけられたことによって、何かが吹っ切れてしまった美鈴はまだ紅魔館に残って自らの仕事をするという事を選択しました。そんな義理はないはずなのに、なぜこうも必死になって仕事をする理由がわからないのですが、


 「馬鹿……、本当に死んでも知らないわよ。相変わらずとんでもないお人好しで、妖怪なのにここまで人間臭いんだから本当に救いようがないわね…。だけど、あなたがいてくれるおかげで少しは気が楽になったわ。」
 

 自分から死にに行く愚行を犯すというお人好しな門番の事を、私は今の今まで理解しきっていなかったのですが、やはり美鈴は今までやらかしてきた失態を恥じる気持ちがあるので、せめてもの償いとして私に同行することを選択したようです。


 「ですが私として心残りなのは、妹様が正気を取り戻す日に立ち会えないということですね。パチュリー様は妹様に何も言わずここを去ってしまったのも、妹様が私達の事を家族として見ていて下さったのですから、妹様を連れて魔界に行くという事をしてしまうと、大切な家族を無理やり引き裂くことになってしまいますので、それがどれだけ辛いかを十二分に承知していたことでしょう…。」


 やはり美鈴も私と同じく一人取り残されてしまう妹様の事を気遣っているようで、それがいつになるかはわからないのですが、妹様の精神が正常な状態になる日までお傍に居れないという事を嘆いていました。


 「そうだった。私も妹様をお一人にしてしまうのはつらいのだけど、たぶん私の解雇は避けて通れないと思うから、どうあがいても私はここから去らないといけないのよね。あんな滅茶苦茶な姉でも妹様の家族であることには変わりはないし、私には家族の絆を引き裂く権利なんかない…。」


「下品道の至宝から正真正銘のお嬢様に生まれ変わる妹様のお姿をこの目で見たかったのだけど、それもかなわぬ願いというものでしょうか。」


 できることならお嬢様でなく妹様にお仕えして、正気を取り戻す時にお傍にいて下品道の至宝から貴婦人に生まれ変わる妹様をこの目で見たかったのですが、残念ながら私と美鈴にはそれが許されていないようです。


 「咲夜さん!妹様をここからお連れしたいのに、それが出来ないことがなんと煩わしいことでしょうか!私達の手で妹様を貴族の令嬢としての教育を施すことが出来るなら、あんな品性の欠く言動やさせずに済むのに、お嬢様が妹様を地下に幽閉してしまうからあんなことになってしまうんです!」


 吸血鬼の寿命は非常に長いのですが、精神的に大人になるまでには2000年以上かかるというので、500年そこそこしか生きていないお嬢様と妹様はまだまだ精神的に幼く、本来ならばまだ両親のそばにいるべき状態なのに、どういうわけかお嬢様は自分の事が誰よりも一番偉く尊大な存在だと思い込んでいるので、自分の我儘が絶対通ると考えているのです。


 「それよりも私はパーティの料理を全く作っていないし、そのうえ招待客をだれ一人たりとも連れて来れないのだから、絶対にお嬢様の怒りを買ってしまう筈だわ。あ〜あ、私も今まで悪あがきをやってきたけど今日で人生終わりなのね。」


「どっちにしても私はお嬢様のお叱りを受けて処刑されているかもしれないと思うと、悔いが残って死んでも死にきれないわ。せめて人間らしく精いっぱい生きて私がやりたい事をやれるだけやってから死にたいと思うわ。」


 確かに美鈴のいうとおり一人取り残される妹様が不憫でならないのですが、間違いなくお嬢様は招待客をだれ一人たりとも呼び出すことが出来なかった私の事を激しく糾弾して、懲戒免職をされるどころか罰として処刑されると思うと、もっと人間らしく生きていたい願望が頭をもたげてしまいました。


 「咲夜さんがお嬢様の怒りを買ってしまうんでしたら、私だって職務放棄の罪で殺されてしまいますよ。私が持ち場を離れているだけで物凄い癇癪を起されるんですから、ここまできたら死ぬことを前提に考えた方がいいですね。」


 「私だって好きな人のお嫁さんになって、何人か子供を産んで幸せに暮らしたいというささやかな夢がありますから、こんなところで死にたくないですよ。はい。」
 

 今初めて聞きましたが、美鈴は好きな人のお嫁さんになるというささやかな夢を持っているようです。私は今まで将来の事を考えたことがありませんが、普通の人間として好きな人と出会ってお互いが結ばれるのもいいかなと思いました。平凡な暮らしの中にそれなりの幸せをつかみ取れればいいという美鈴の考えが、今の私にとって凄く羨ましく感じてしまうのです。


 「私だって死にたくないわ…。」


 そんな事を聞かされたら、私だってどこかの白馬の王子さまの玉の輿にならなくてもいいから、普通に人間らしく生きてそれなりの幸せを掴んでみたい願望が芽生えてきました。


 「そうですよね?やっぱり生きていたいですよね?藁にでもしがみついてみるのはもちろんですし、最後まで悪あがきをしてダメだったら仕方ないなって割切れるんですけどね。」


 美鈴も妖怪らしく生きていたいと思っているので、徹底抗戦してわずかな希望をつかみ取ろうと考えているようです。


 「待って美鈴。もしかしたら私達はお嬢様に殺されることなく生き延びれる可能性があるかもしれない…。この状況だから確率は絶望的に低いかもしれないけど、ひょっとしたら上手くいくかもしれないわ。」


 対策なしに相手に勝負を挑む愚行はしたくないので、綿密に対策を練っておいた方が望ましいでしょう。武力勝負を挑んだ所で何せ相手は吸血鬼だから、美鈴のような妖怪はおろか私のような人間では始めから勝負になりません。


 「と、言いますと?」


 美鈴は不思議そうに私の顔をまじまじと見つめると、


 「お嬢様のあの困った性格よ。」


 私と美鈴が唯一対抗できる手段といえば、小賢しい頭を使って相手の思うつぼにさせないということぐらいです。


 わかっている事といえば、お嬢様は凄まじく我儘で無駄にプライドが高い厄介な性格をしているのですが、相手に舐められた態度を取られると逆に怒るだけ怒って何も出来なくなるその特徴を使ってうまい具合に挑発すれば、適当に言いくるめるだけ言いくるめればなんとかなるという事でしょうか。


 「お嬢様の性格ですか。ひょっとして、まさか、無抵抗の素振りを見せ逆に殺せと挑発すればいいってことですよね?」


 美鈴もお嬢様の困った性格を思い出すと急ににやついてしまいましたが、あの気性を逆手にとってしまえばこちらの思う壷になると思ったのかもしれません。


 「美鈴、それよ!大正解よ!あの傲慢で我儘で気性が激しくプライドだけは滅茶苦茶高くて人の話を聞かないあの性格だから、あえて私達が無抵抗の素振りをすれば逆に怒り狂うだけで何もしなくなるじゃない。」


 お嬢様がお怒りになって殺してやろうかと言った時に、普通に命乞いをすると天の邪鬼な気質を持っているのですぐに手をかけてしまうのですが、逆にさあ殺せと言ったら逆に何故命乞いをしないのかと怒鳴りつけるだけで手をかけることはしません。そこにつけこんでいろいろ挑発してみると、全身を無意味にふるわせた後に我を忘れて暴れまわってしまうのです。


 「確かにお嬢様は命乞いをしろと言って、逆に殺せといったら逆上し我を忘れてあちこち暴れまわることなくその場で地団駄を踏んでいるだけですね。それこそ、気が狂ったかのように…。」


 いつも自分が世界の中心にいて相手が誰であれ自分のいう事を聞くものだと考えているお嬢様のことですから、逆に相手に行動を指示されると物凄く機嫌が悪くなるどころか襲いかかりかねないのですが、吸血鬼という種族であることに誇りを感じているために相手にあれこれ言われると逆の行動をとってしまうのです。


 「無駄に態度が大きくてそのうえ吸血鬼であることを何かと自慢しているから、私のような人間や美鈴のような妖怪やパチュリー様のような魔女を何かと見下していて、プライドだって尋常じゃないほど高いから相手が誰であれ自分のいう事を聞かないと癇癪を起してしまうのよ。」


 「それに吸血鬼としてプライドが無駄に高いうえに天の邪鬼だから、どんなことがあろうとも相手の命令に従いたくないという気質があるじゃないの。だから殺せと言われたら逆に殺せなくなってしまう筈だし、武装を解除されると殺したくても殺せないで焼きもぎしていると思うの。」


 お嬢様は自分が絶対優位な立場にいたいと考えているお人なので、命乞いをした相手を見ると拷問をかけた後に殺したくなる気質があるのですから、その逆を突けば何とかなるのではないかと思ったのです。


 「ああ、納得です。以前鴉天狗のパパラッチ2人が紅魔館に潜入してきた時に、パチュリー様の仕掛けたトラップに引っかかって、お嬢様が詰問してきた時に惨めに命乞いをしたから逆に死なないように殺されたんですよね〜。」


 美鈴が言った鴉天狗とは妖怪の山に住んでいる射命丸文と姫海棠はたてで、白昼堂々と紅魔館に侵入したのですが、パチュリー様が仕掛けておいたトラップに見事に引っかかってしまい身動きが取れなくなったところを捕獲しておいて、お嬢様自らが2人に尋問を行ったところ、紅魔館の住人達のプライベートを暴くために盗撮をしてそれを新聞に載せようとするためだったと言ってしまいお嬢様に怒りを買ってしまったのです。


 己の身が可愛い烏天狗2人はあえなくお嬢様に命乞いをしたのですが、命乞いをしたところでお嬢様の機嫌が直るどころかかえってより一層機嫌を悪くしてしまい、あれから1カ月以上死なないように殺されるという暴力という名の拷問を受け続けたことにより、無残な姿をさらしながら妖怪の山に帰っていくことになりました。


 「そうね。あの時の鴉天狗達はお嬢様に醜態を晒しながら命乞いをしてしまったから、逆にお嬢様をその気にさせてしまい一方的にいたぶられる羽目になったのよ。」

 
 お嬢様が鴉天狗2人にやった拷問はそれこそ残酷極まりないもので、それを見ていた私と美鈴とパチュリー様と小悪魔さんがドン引きするぐらい苛烈なものだったと記憶しております。


 「だから逆を突けば何とかなるかもしれないですが、今までそれをやったことのある相手がいないからもの凄くリスキーなやり方ですね。逆にあっけなく殺されてしまう可能性の無いわけではありませんが、この際何でもやってみるしかないようですね。」


 美鈴はお嬢様の性格をついて挑発をしても何とかなるのではないかと思っているのでしょうが、前例がない事を自分がやるという事に怖さを感じていてもやらなくてはいけないと思っているようです。


 「そんな事は鼻から解りきっているじゃないの。だけど相手は身体能力が圧倒的に高い吸血鬼で、真っ向勝負じゃ私とあなたとパチュリー様と小悪魔の4人の力を合わせても到底歯が立たないから、私達が生き残るためにはそれ相応のリスクを支払わなければならないわよ…。」


 弱点はいっぱいあっても相手は圧倒的な身体能力を持っている吸血鬼ですので、凡庸な妖怪と人間ごときでは始めから勝ち目がない勝負だと解っていても、私だってここで無様に死んでしまうよりは醜態を晒しながらでも生き延びたいと思うので、体の一部を失う事になっても何とかしてこの現状を脱したいと考えています。


 「はぁ…。真っ向勝負では勝ち目はないから小賢しいやり方をしないと生き延びれないという事は解っているんですが、どうやったらお嬢様を丸めこむことができるのでしょうかね。」


 確かにお嬢様を丸めこむのは非常に難しいのですが、今日の夜10時にパーティを開く事と招待客が誰一人たりとも来ないという事とパチュリー様と小悪魔が魔界に去って私に手紙を渡した事を上手く生かせば、この劣悪極まりない状況を脱せるかもしれないと思い“ある計略”を思い付きました。


 「美鈴、ちょっと耳を貸してほしいの。すごく案があるんだけど、私の事を信じてくれるならこれに乗ってくれないかしら。もちろんあなたの協力なしでは不可能なのよ。」


 私は美鈴に“ある計略”を伝えるために耳を貸すように促すと、


 「いいですよ。苦肉の計を使う必要があるのなら、今ここで使わないでいつ使うんでしょうか。」


 美鈴も生き残るためには“苦肉の刑”を使う事を覚悟しているので、藁につかむ思いで私の案を聞こうとしました。


 「苦肉の計といえばそうかもしれないし、苦肉の計でなかったならそうではないかもしれない。私もあなたもちょっとばかり痛い目に遭うんだけど、死ぬよりははるかにマシだと思える痛みだわ。」


 “苦肉の刑”ほど痛みを患うものでないとしても、私と美鈴は失業という痛みを味あわなくてならないという事ですので、明日からどうすればいいのかわからなくなってしまうのですが、私達は生き残るためにそれを大前提としてやらなくてはならないのです。


 「うんうん。それ、素晴らしいですね!さすが咲夜さんですね。私の頭じゃこんな妙案思いつきませんよ。あっ、パチュリー様のお手紙読ませて下さいな。」


 私は“ある計略”を事細かに美鈴に説明すると、困惑しきっていた美鈴の顔から笑みが甦ってきました。私だってこの作戦が必ず上手くいくとは思っていないのですが、ここまで来たらそれに賭けるしかないのです。


 「美鈴って、妙なところでちゃっかりしてるんだから。パチュリー様が何を考えているのか理解するために読んでおきなさい。」


 美鈴に“ある計略”を説明し終えた後に私に向かってパチュリー様の手紙を見せるように要求してきましたので、私はため息をついた後にお嬢様宛ての手紙を美鈴に渡すと、案の定美鈴はパチュリー様の手紙を読んだのですが、必死になって笑いをこらえているようでした。


 「美鈴、何ニヤニヤしながら手紙を読んでいるのよ。気持ち悪いわね。」


 私は手紙を笑いながら読んでいる美鈴に向かって、普通に読むように促したのですが、


 「それ無理です。こんな表現をされたら咲夜さんだって絶対笑わずにはいられないですよ。こう見えても必死になって笑うのを堪えているんですし、お嬢様や妹様だったら絶対に笑えないのは確かなことですよ。」


 私は美鈴からパチュリー様の手紙を受け取ってから読んでみると、何というべきか笑いを通り越してあきれてしまうどころか、物凄くいたたまれない気持ちになってしまいました。こんな表現をされたら、確かに美鈴がニヤニヤしながら読むのも納得がいくものだと思いますし、現に私も可笑しさと怒りを通り越して呆れの領域までたどり着いたのですから。


 「私は可笑しさと怒りを通り越して呆れてしまったわよ。まぁ…、なんというか…、その…、あなたのやったリアクションも正解の一つかもしれないわね。」


 あえて私と美鈴はお嬢様あての手紙を読んでおくも、妹様あての手紙は全く読もうとしなかったのですが、書いている内容は同じだと思ったので無理に知る必要はないと思ったのです。それにしてもこんなイカれた表現で書かれたものをお嬢様が読んだら、間違いなくこの手紙をビリビリに破いた後に踏みつけてしまう事は確かでしょう。



―午後9時50分 お嬢様に招待客について報告する―



 私は“ある計画”を実行するのと、パーティに関することを報告するために意を決してお嬢様の部屋の扉をノックしましたが、お嬢様の機嫌が悪かったら無碍に追い返されるどころかその場で殺されてしまうので、いつも細心の注意を払うことを前提にして死を覚悟してやらなくてはならないのです。


 コンコン。


 「私の部屋を図々しくノックをするのは誰だ。」


 お嬢様は怒りを露にして私に問いかけるのですが、これもいつものことなのでいちいち気にしていたらやっていけません。お嬢様の気難しい性格を知っている人であればこれも日常茶飯事だという事を認識しておく必要がありますので、もしお嬢様の伴侶としてそばにいる殿方は常に機嫌を取らなくてはならないという仕事に追われてしまうでしょう。独占欲が非常に強いので、浮気をしたらとんでもない事になるのは間違いありません。


 「失礼致しますお嬢様、咲夜でございます。きょうの夜10時に開催されるパーティの件に関して報告したい事がありますので、入室の許可を戴けないでしょうか。」


 私はお嬢様に向かってパーティに関することを報告するために入室の許可を得ようとした所、


 「なんだ咲夜か。霊夢か魔理沙あたりが私と一緒に過ごしたいからここに来たかと思って期待したんだが、また不細工な顔をしたお前を見ないといけないと思うとだんだん腹が立ってくるぞ。私はあれから昼寝をしていたんだけど、さっき起きたばかりで非常に気分が悪いんだ。」


 お嬢様は案の定機嫌が悪くやってきたのが私だと知るとさらに機嫌が悪くなってしまったようで、もちろん私に向かって罵詈雑言をしてきますがこれも日常茶飯事ですので不用意に相手にしない方が得策だというものです。やってきた来客が私でなく霊夢か魔理沙あたりが望ましいようでしたが、残念なことにお嬢様は彼女達全員に嫌われていることを知らないようです。


 「咲夜、パーティの準備は順調にいってるだろうな?今日は霊夢に魔理沙にアリスに紫を始め幻想郷じゅうから招待客を呼んだから、みんないつもの通り楽しんでくれるだろう。」


 「お嬢様。パーティの件についてと他にご報告したいことがあるのですが…。」


 私はお嬢様にきょう開催されるパーティに関して業務連絡をしようとしても、残念なことにお嬢様は私の話を聞こうとしませんが、これも紅魔館であればいつものことなので気にしていたらやっていけません。


 「さぁ、きょうも楽しいパーティの時間だっ!咲夜、私について来い!今頃会場は招待客でいっぱいだろう!」


 あいにくお嬢様は私の話を聞こうとせずパーティを開催するものだと決め込んで、紅魔館のメインホールに向かって歩みを進めようとされました。


 「誠に申し訳ありませんが、お嬢様が招待された皆様はだれ一人たりとも紅魔館には来ないことを私に申しつけられました。」


 お嬢様がメインホールに向かおうとしたその時に私は、今日のパーティに招待した面々はだれ一人たりとも来ないという事を告げたのですが、


 「相変わらず嘘の上手い奴だな。そんな事を言って私を騙そうとしたって無駄だぞこのダメイド!」


 ただパーティの招待客は誰一人たりとも来ないという事実を伝えただけなのに、私は理不尽な形でお嬢様に一喝されてしまいました。


 「それに妖精メイドも私が留守の間全員脱走してしまったのと、金庫と食料は底を尽きてしまいましたので、とてもではありませんがパーティを開ける状態ではありません。」


 私はお嬢様に改めて紅魔館が置かれている最悪な現状をわかってもらうために、もう当面の間はいつもの様に豪勢なパーティを開ける状態でないという事を伝えたのですが、


 「お前は本当に私に対し性懲りもなく嘘をつく奴だな!パーティがやれないなんてありえないし、何とかしないと紅魔館の威光に差しさわりがあるからパチェを呼んで対策案を私に教えるようにけしかけろ!今すぐだぞ!わかったな!」


 やっぱりお嬢様は私の事を信頼していないのか、あえなく私は嘘つきのレッテルを張られてしまいました。それにパーティが開催できないことと招待客が誰一人たりとも来ない現実をお嬢様は受け入れたくないために、紅魔館が誇る参謀であるパチュリー様を呼び出すように私に言いました。


 「誠に申しにくい話ですが、パチュリー様と小悪魔さんは先程魔界に帰られてしまいました。」


 先ほどパチュリー様と小悪魔さんと別れを告げたのですが、その場にお嬢様がいなかったのでこの話も確実に疑われること間違いなしです。


 「ハッハッハッ、お前は相変わらず私に向かって嘘をつくんだな。パチェは私の親友だから、私を裏切ることは絶対にないだろう。私の許可なく帰郷することは絶対あり得ないし、ましてや私に愛想を尽かすなんて考えられないな。魔法使いという劣等種族風情が偉大な吸血鬼である私のカリスマに魅かれるのは必然的なのだよ。」


 「咲夜、お前は今すぐパチュリーを連れて来い!」


 もちろんお嬢様はパチュリー様が自分の事を慕っている上に絶対裏切らないと確信しており、帰省するにあたっても自分の許可なくすることはないと思われているようです。その上どんなことがあっても自分に愛想を尽かすという事はあり得ないと考えているようで、吸血鬼である自分のカリスマに魔法使いは魅かれて同然だと思われているので、これ以上お嬢様につける薬はありません。


 「もしパチュリー様がお嬢様に会われるのを拒絶されましたならば、私は一体どのようにすればよろしいのでしょうか?」


 パチュリー様がお嬢様に面会されるのを拒絶されたら私はどうすればいいのかをお嬢様に聞いたところ、


 「わかりきったことを聞くな。その時は達磨にしてもいいから、無理矢理しょっ引いて来い!」


 もちろん強制的に招集するという事は当たり前として、嫌がる相手であれば四肢を切断してから連れてくるようにする様に言われたのです。誰がどう見てもお嬢様が極めて自己中心的である考えであることは確かなので、パチュリー様は流石に嫌気がさしてとうとう愛想を尽かしてしまったと思うのも無理はありません。私だってとっくの昔にそうなのですが、衣食住の拠点を失う事がもっと辛いので嫌々紅魔館にいるだけです。


 「お嬢様、大変です!今日の10時からパーティを開く予定なのに、この時間になりましても一人たりとも招待客の皆様はやってきません!」


 色を失った顔をした美鈴がお嬢様の部屋に飛び込んできましたが、これも私と美鈴が綿密に打ち合わせた演出であってもお嬢様にとって驚きを隠せないものであることに間違いないです。何せ部下が持ち場を離れることを極端に嫌うので、門番である美鈴が勝手に動き回っていることに必要以上に動揺してしまうからです。


 「なんだ門番か。なんで貴様は私の指示がないのになんで勝手に持ち場を離れるんだ!お前は門番なんだから、紅魔館の正門に立って外敵をシャットアウトするべきなのに、なんでいつもいつも泥棒の侵入を許しやがって…、次にポカをしたらクビにするからな、わかったな!?」


 お嬢様は持ち場を離れた美鈴に向かって案の定怒鳴りつけましたが、美鈴はそれを聞いていない素振りをして私に業務連絡をし始めました。


 「お嬢様。いつもなら招待客の皆様が来られるのですが、今日に限ってはだれ一人たりとも来ないので、どうすればいいものか咲夜さんに聞こうと思い館内を探したのですがどこにもいませんでしたので、すっと探し回ってみたところお嬢様のお部屋にいらっしゃられましたので…。」


 これも私と美鈴が打ち合わせたとおりやったことで、事が深刻であるにも拘らずお嬢様にワザと何も知らないように白々しい演技を見せたのです。実際パーティを開くのに招待客が誰一人たりとも来ないという事はお嬢様の顔を汚すことを意味し、紅魔館の威光を物凄く傷つけてしまうのですから恥をかかされる行為なのです。


 「いいからお前は正門にさっさと戻るんだっ!中国のどこの馬の骨だかわからない出来損ないの下等な妖怪の分際で、世界にその名を轟かせる偉大な吸血鬼の名門貴族のスカーレット家の当主たる私に歯向かうつもりなら死なない程度に殺してやる。」


 やっぱりお嬢様は美鈴乃事を下等な妖怪と馬鹿にしきっているので、方針に逆らう門番を殺してやると言われましたが、美鈴はそんなお嬢様を全く相手にしていません。


 「それに私はいつも人間に苛められているダメ妖怪だった頃のお前を拾ってやって、そのままのたれ死ぬ運命を変えて偉大なる紅魔館で働かせてやっただけでなく、お前という奴は今まで私から受けてきた恩を忘れて仇で返そうとするわけではないだろう。」


 「なんで私の部下はそろいもそろって無能な奴しかいないんだ!?もっと優秀な部下が私に相応しい筈なのに、実際のところは無能で役立たずのクズしかいない!ああ、こんな使えないメイドと門番は今すぐクビにしてやるっ!」


 「ああもうムカつくっ!パーティは中止だ!どうせならお前ら二人を血祭りにしてやるから、10秒以内に出ていかなかったらひと思いに殺してやるぞ!さぁ、生き延びたかったなら命乞いをしろよ。私に土下座をして謝れる分だけ謝っておくんだな。」


 「今更私に命乞いをしたって、もう手遅れなんだからな。まぁ、所詮劣等種族の中国妖怪と人間のお前ら程度じゃ、私にひれ伏して死ぬ思いで謝罪するしかないだろう!さぁ、大人しく私に命乞いをするんだ!いい加減私に謝らないかこのクズどもめ!」


 お嬢様は癇癪を起されたために、勢い余って私と美鈴に向かってクビにすることを告げられたのですが、その際に急にパーティを中止にしたり私と美鈴の事を思い切り罵倒されたりしたのです。


 「お嬢様、申し訳ございません。不忠の限りを尽くした私でありますれば、ためらうとことなくひと思いに殺して下さい。抵抗する意思が無いことを証明するために銀のナイフをすべて捨てさせていただきますので、後はお嬢様がお好きなように煮るなり焼くなり食べるなりしてかまいません。」


 私は戦意がないことをアピールするために、あらかじめ持っていた銀のナイフをすべて床に放り投げてしまい、お嬢様に向かって命令口調で殺すように促してみました。


 「くっ、お、おのれ〜、命が惜しくないというのか!?私は偉大な吸血鬼なんだぞっ!お前のような人間風情とは格が違うんだから、これ以上私を愚弄する真似をするな!」


 さらに怒り狂ったお嬢様は私に命乞いをするように言ってきましたが、やはり自分が吸血鬼という優勢種族であるという事を主張してきますけど、さすがの私も滑稽極まりないので笑いを抑えるので精いっぱいでした。


 「私の用な下等な妖怪がお嬢様に敵うわけがありませんので、ここは遠慮なく殺して下さいな。抵抗する意思がない証しとして飛刀や青龍刀やパワーナックルを捨てますから、私の五体を再生不可能にするまで完膚なきまでにバラバラにした後に塵にしてもかまいません。さあ、殺せ。今、殺せ。すぐ、殺せ。」


 美鈴もこの場においてあえて開き直ったのか、自分の事を下等な中国妖怪であることを認めた上で武装解除をしただけでなく、自分の事を殺すようにお嬢様に向かっていったのです。


 「こ、この〜!下等な中国妖怪の分際で、偉大な吸血鬼である私を愚弄するとは生意気な〜!ひと思いに殺してやるから、今すぐこっちに来い!」


 お嬢様は美鈴の事を殺すと言いながら、命乞いをせず殺せと主張している美鈴を殺せないでいるのは、お嬢様の性格上相手の命令を受け付けれないために、素直にやれないでいるということです。


 「お嬢様。ここは迷うことなく私の命を奪ってください。何をためらっているのですか?愚かな私を思ってくださるなら、今すぐここでひと思いにとどめを刺してください。その銀のナイフで私の心臓をえぐりとってくださいな。」


 私の目論見はここまで上手くいったようで、お嬢様の感情を理想的に逆撫でることに成功し、その証として目が血走っていてなおかつ頭の血管が浮き出ているのです。私も美鈴に負けず劣らずお嬢様に向かって銀のナイフを手渡しておきました。


 「私もこれ以上生きていける望みを持っていませんので、どうせ死ぬのであればお嬢様に介錯をして頂きたいと思います。青龍刀で八つ裂きにした後に地獄の炎で私の身体を消し炭にしてくださいよ。」


 美鈴も私に続けと言わんばかりに、青龍刀をお嬢様に差し出して『さあ殺せ。やれるならやってみろよ。』と挑発してみたのです。


 「く、くぅ〜。こ、このっ、無能で生意気なメイドと門番の癖に〜!お望み通りにとどめを刺してやる〜!」


 お嬢様は完全に怒りで我を忘れてしまったために私と美鈴に襲いかかろうとしたので、いよいよ年貢の納め時が来たかと思ったその時、


 バン!


 ドアが勢いよく開いた音がしたので私と美鈴はそちらの方を見たのですが、七色の宝石があしらわれている不思議な羽を生やした妹様がいました。


 「まってお姉さま。咲夜と美鈴を殺さないでっ!」


 妹様はお嬢様に向かって私と美鈴を殺さないでほしいと懇願されましたが、


 「フランか。なぜお前は私の許可なく地下から出てきた?いいからさっさと地下に帰れっ!」


 お嬢様はけなげな妹様の願いを聞こうとするどころか、逆に地下室に戻れと邪険にされてしまいました。


 「お姉さま。いつもだったらお夕食が出るのに、いつまでたっても咲夜が私の部屋に来ないから気になって地下をうろついてみて、図書館に行ったらどういうわけかパチェと小悪魔がいなかったの。館内をうろついてみても妖精メイドたちはみんないないし、いるのはお姉さまと咲夜と美鈴と私だけ。」


 ここに住み慣れているものであれが、流石にこの状態で異変に気づかないわけがありませんし、繊細なお心を持たれている妹様だったらなおさら気づかないわけがないのです。妹様がここに来られていなかったら私と美鈴は今頃塵を化しているので、妹様が私達にとって命の恩人である事に間違いありません。


 「お姉さま、パチュリーと小悪魔と妖精メイドたちがどこに行ったのか教えて。」


 妹様はお嬢様に私と美鈴以外の住人の居場所を教えてもらおうとしたのですが、


 「知らんな。知っていたとしてもお前に教えるつもりはないし、実際に知ろうとは思わんな。お前に知る権利はないんだが、そこの使えないメイドと役に立たない門番なら何か知っている筈だから聞いてみるんだな。」


 お嬢様は妹様の事を煙たく感じているのかぞんざいな態度を取って私と美鈴に聞くようにけしかけて来ました。


 「おいメイドと門番。お前らはつくづく運のいい奴だなぁ。私に処刑される寸前に丁度いい所に妹がやってきたから、ギリギリのところで首がつながったというものだ。素直に感謝することだな。」


 やっぱりお嬢様はこの通りですので、誰に対しても傲慢極まりない態度で接してくる上に、妹様によって死なずに済んだから慈悲深い私に感謝しろと言ってきました。


 「フランが聞いているんだから、パチェと小悪魔がどこに行ったか答えろ。返答次第ではお前らを殺してやろう。もちろん答えなかったら殺すのはいうまでもないだろう。」


 その上お嬢様は、妹様がパチュリー様と小悪魔と妖精メイド達がどこに行ったかを事細かく説明するように言われましたが、場合によっては何を言っても死ぬしかないことは確かです。


 「パチュリー様と小悪魔さんは魔界に戻って私塾を開かれるとおっしゃっていました。何やらヴアル魔法図書館に引き篭って本を読んでいるよりは、次世代の若者を育てるために教育をした方が貴重な時間を有効的に使えると言われていました。」


 私に代わって美鈴がパチュリー様と小悪魔さんの所在をお嬢様と妹様に説明したのですが、ヴアル魔法図書館に引き篭ってただ本を読んで時間を無駄に潰すよりは私塾を開いて人材を育成した方が有意義だという事をありのまま言ったのですが、


 「おい門番。パチェと私は親友なんだから、私を見限るというアホなことが絶対にあり得ると思うのかね?あの慢性的な虚弱体質をもつ紫もやしが私のもとを離れるなんて絶対にありえんのだよ。」


 お嬢様は美鈴に対しパチュリー様が自分の事を裏切ることはあり得ないと言ったのですが、パチュリー様と小悪魔さんが魔界に帰られたのを目の当たりにした私達にとって、お嬢様が取られた態度はただ虚勢を張っているだけにしか見えなかったのです。


 「門番ごときの私がお嬢様に大変失礼なことを申し上げる事になると思うのですが、絶対必ず自分の都合のいいように物事が動くというのはというのはあり得ません。現にパチュリー様がここから去っていなければ、妹様はおろか私ごときがわざわざお嬢様のお部屋に来ている筈がないですよ。」


 美鈴は日頃の鬱憤を晴らさんばかりにお嬢様に礼節を欠いた態度で接するのですが、私個人の見解でしかないのですがこれもお嬢様の日頃の行いが積もりに積もったことにより全身から出てしまった錆だと感じざるを得ませんでした。


 「お前はご主人様に向かってなんていう口の聞き方をするんだ!謝れ!謝れ!謝れ!」


 それでもやっぱりお嬢様は自分の事が誰よりも偉いと考えているので、自分に対しふてぶてしい態度で接した門番である美鈴が許せなかったから、ただひたすら謝るように言ってきました。


 「以前の私でしたら大人しく平伏していましたけど、先程あなたは私の事をクビにされたのですから、今の私はあなたと主従関係で結ばれていませんし、いまさら謝罪をする必要があるんでしょうかね。」


 お嬢様に向かって尊大極まりない態度を取った美鈴は、お嬢様が愛用しているソファーに腰掛けると足をがに股に開き背もたれに体を預けたのです。


 「この門番!殺してやるっ!」


 美鈴を殺すと言ったお嬢様は全身を震わているだけでしたが、吸血鬼のプライドが邪魔しているために下級妖怪に殺せと命令口調で言われた事に我慢がならなくても、天の邪鬼で歪んだ人格を兼ね備えているために言われた通りにすることがかえって屈辱的なのです。


 「殺せるならどうぞ遠慮することなくひと思いにやってくださいな。さっさと殺して下さいな。殺さないと逆に私が殺しに行きますよ。紅魔館がこうなったのもすべてあなたの責任ですから、ちゃんと取らないといけないですよ?レミリアちゃん。」


 さらに美鈴はお嬢様が愛用している葉巻を一本取り出すと、お嬢様の目の前で一服吸った後に煙をお嬢様めがけて吐き出しました。この葉巻は1本10万円する最高級品ですが、今まで門番という過酷な仕事をずっとやってきてくれた美鈴を労う為に一本ぐらい吸わせても問題ないのですが、


 「くっ…、こ、こ、この〜!ご主人様の愛用の葉巻を勝手に吸いやがるなんて、信じられないわっ!」


 お嬢様は一本でも吸われた事に納得ができないのか、さらに不機嫌になってしまわれたのですが、吸われてしまった葉巻は元通りに戻ってくる事はありません。


 「それより先にお嬢様と妹様にこのお手紙を渡すようにパチュリー様に言われたのですが、お嬢様がパーティを開かれることしか考えられておりませんでしたのでこのお手紙を出せずじまいでした。折角ですからどうかパチュリー様のお考えを知られるためにこのお手紙をお読みになってはいかかでしょうか?」


 私お嬢様の怒りをさらに増長するために、妹様には恭しくパチュリー様直筆の手紙を渡した後にお嬢様に向かって手紙を投げつけるように手渡したのです。


「このクソメイドめっ!全くお前という奴は本当に信じられない奴だな。まぁ、いいや。とりあえずパチェの手紙を読ませて貰うぞ。」


 「お嬢様。これがパチュリー様直筆のお手紙ですので、どうぞお読みになってください。」


 私はお嬢様に向かって、あえて敬語を使うも嫌みたらしい口調でパチュリー様の手紙を読むように促しました。


 「こういう重要なものはさっさとよこせ!だからお前は無能で使えないダメイドなんだ!もうお前なんていらないから、さっさとここから出ていけ!クビだ、リストラだ、懲戒免職だ!」


 お嬢様は私に向かって何度も紅魔館のメイド長の任を解かれたのですが、今となってはクビを告げられたことにこれ以上ない幸福感を味わえたのです。

 
 「咲夜と美鈴はパチェが書いた手紙の内容を大体は知っているんだよね?」


 妹様は私と美鈴に手紙に書かれている内容を知っているのではないかと聞いてきたのですが、


 「いえ、そのようなことは決してありません。」


 私は妹様に対し優しい嘘で誤魔化そうとしたのですが、


 「無理に私に気を使ったり変に誤魔化したりしなくてもいいよ。最近の館内がどこかギクシャクしているのはわかってたけど、まさかこんな事になろうとは思いもつかなかったわ。」


 妹様は私に嘘をつく必要はないとおっしゃったうえに、紅魔館の異変に気づかれてしまった事に私は何も言い返せませんでした。


 「妹様、申し訳ございません。」


 私は妹様に謝罪をしましたが、決して許されることではないので妹様の手にかかっても文句を言える立場ではありません。


 「御免なさい妹様、無力な私に罰を与えてください。」


 美鈴も妹様に謝罪をした後に罰して貰うように言いだしたのは、私と同じ立場でもあるからです。


 「咲夜と美鈴に罪はないわ。本当に罪があるのは私とお姉さまじゃないの。この手紙はパチェの魂が籠められているのよね…。」


 お嬢様と妹様はパチュリー様直筆の手紙を読まれていたのですが、時間が経つにつれお嬢様は怒りで全身を震わせていくのに対し、妹様は過酷な現実を尽きる蹴られた悲しみによって涙が溢れ出してしまったのです。


 ちなみにパチュリー様がお嬢様あてに書いた手紙の内容は以下のものとなり、ひたすらお嬢様を誹謗中傷罵詈雑言されている内容で極めて過激な内容となっておりますが、妹様宛てに書かれている内容はお嬢様あての手紙と異なり自らの贖罪を懺悔する内容であると思いました。


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レミリア・スカーレット様へ


 レミィ。貴方が今まで我儘をしたい放題やってきたために、紅魔館の財政問題が深刻な状況に陥ってしまったのに不良債権と増やしていって600兆円の借金を作って、そのうえ今年じゅうに3兆円という大金を支払わないと紅魔館が差し押さえられちゃうっていうのに、贅沢三昧の生活をしていけるというあんたの考えが信じられないわ。


 私が紅魔館の財政問題がここまで深刻化していることに気づかなかったから、咲夜が度々尻拭いをしていて財政問題を何とかしようとしているのに、私と小悪魔はここにいて何の役にも立っていないから、とりあえず魔界に戻って新しい世代の人材を育成することにするわ。少なからずあんたみたいなどうしようもない人材は育成しないから安心しなさい。


 それにお昼に私があんたを必死になって説得したのに、あんたときたら私の事を馬鹿にして人の話を何一つ聞いていなかったから、これ以上あんたとは付き合いきれないし、本当に愛想が尽きたわ。


 咲夜や美鈴、それに妖精メイド達にもいつも無理難題をけしかけて人道に反する労働をやらせ続けてきたのに、あんたときたら悠々自適な生活を送ってきたんだから本当にいい身分ね。相手に酷いことをさせてしまったら、それはいつか自分の身に帰ってくることになってもあんたの場合は自業自得ね。まぁ、あなたのことですから死んでもその傲慢で我儘な性格は治らないでしょう。


 それにあんたはいつも私の事を紫もやしって言って馬鹿にしていたから、私はあんた事が大嫌いで顔を合わせるどころか一緒にご飯を食べたくなかったのよ。あんたは誰に対しても敬意を払えと言ってるけど、相手に対してもそれなりの敬意って奴を支払わないとダメなんじゃないの?まぁ、無駄にプライドだけは一兆前に高いあんただったら、相手を尊重するのは一生出来っこないでしょうけど。


 あんたとは縁を切ったからもう二度と不細工で気持ち悪い顔は見たくないし、折角してあげてもいいと思ったんだけどあえて別れの挨拶をしないでおいたわ。だって相手のことを認めない奴に何を言っても時間の無駄でしかないもの。あんたの我儘に今まで応えてきたんだけど、正直言っていつもクタクタになってしまうんだからウンザリしちゃうの。


 最後に忠告しておくんだけど、私と小悪魔だけじゃなく咲夜や美鈴それに妖精メイドたちにも愛想を尽かされてもおかしくないけど、あんたの唯一の肉親であるフランにまで愛想を尽かされたんじゃ本当に救いようないんだから、どんなことがあってもフランには愛想を尽かされないように必死になって努力しなさい。まぁ、あんたには出来っこない筈だけど。 


 一人だと何も出来ないあんたに誰も従わないでしょうけど、せいぜい幻想郷のどこかでのたれ死なない事を祈るだけね。まぁ、レミィちゃんのことだから太陽の光を浴びて灰になって消えてなくなってしまえばいいんだわ。


パチュリー・ノーレッジ


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 「こっ…、このっ…、むっ…、紫もやしめ〜!お前は私にこんな手紙を読ますために去ったっていうのか!もう許せん!絶対許せん!こ、殺してやる〜!」 


 お嬢様宛ての手紙は事実上檄文そのものなので、私に裁量を下す事が出来ることなら絶対に読ませたくなかったのですが、こうなるのも運命づけられていると思うと皮肉でなりませんでした。


 「ああ…………、パチェ…、小悪魔…、咲夜…、美鈴…、ごめんね。妖精メイドのみんな…ごめんね。お姉さまが我儘でいつもまともに話を聞かなかったり、酷い働かせ方をさせてきたりしたんだよね。」


 妹様宛ての手紙は現在の紅魔館が抱えている深刻な問題を簡潔にまとめたもので、支払いきれないほど膨れ上がった莫大な借金と使用人の劣悪な労働環境と待遇について書かれていると共に、パチュリー様が問題を知ることなく時間を潰してきた申し訳なさが妹様越しで伝わってきました。


 「美鈴。雨の日も風の日も雪の日も朝から晩までずっと門を守ってくれるから、凄く大変だったよね?私、雨が苦手だから酷い天気の日でも頑張ってくれる美鈴が凄いと思うわ。」


 「咲夜。紅魔館をいつも綺麗にお掃除してくれたり、私とお姉さまの汚した服を選択したり、美味しいご飯を食べさせてくれたり、私のお母さんの代わりをしてくれたけど、時と止めないとやっていけないよね?実際館内を取り仕切ってくれる咲夜を尊敬できるわ。」


 「パチェ。お姉さまを退屈させないためにいつもあれこれ考えて、いつも問題が起こったら解決しようと必死になって、莫大な知識を使って素晴らしい提案をしてくれたもんね。」


 「小悪魔。喘息で苦しんでいるパチェをいつも陰ながらサポートして、ヴアル魔法図書館の司書としていつも本の整理整頓をしてくれたもの。私にも楽しいお話を聞かせてくれたり、面白い本を貸してくれたり…、やっている事は地味でも私達にとって欠かせない存在だわ。」


 「メイドのみんなもいつもお姉さまの我儘に応えてくれたんだよね。交代制で働いているから、体の調子がおかしくなってしまっても必死になって咲夜と美鈴をサポートしてくれたもの。お姉さまと私がこうも恵まれた生活ができるものあなた達がいて始めてできるものなのよね。」


 妹様はパチュリー様が書かれた手紙を読んだことにより紅魔館の劣悪な現状を把握してしまったと共に、私や美鈴の用な使用人に対し労いのお言葉をかけてくださいました。確かに報酬が一切支払われないという事に関してはどうしても納得がいかないものなのですが、社交辞令であっても労いの言葉が一言でもあれば精神的に少しは報われるというものがあると思います。


 妹様が私と美鈴を始めとした使用人に労いの言葉をかけてくださった事が、私や美鈴にとって何よりも嬉しく光栄なものでありここで働いている誇りがあるのです。実際その言葉を言うべきなのはお嬢様であり、妖精メイドたち一人一人にその言葉ひとつをかけなくてはならないと感じてしまうものがあります。


 「みんな紅魔館の為に必死になって働いているのに、私はいつも地下室に引き篭っていて何もしていない…。そしてお姉さまは贅沢の限りを尽くしてしまい、お父様とお母様やご先祖様が蓄えてくださった財産をすべて使い果たしてしまった!」


 「私はいつも頑張っているみんなに報いたいのに、それが出来ない私とお姉さまが今の紅魔館で一番いらない子じゃない。」


 妹様は自分が何もしていないことを恥じてしまい、その上自分とお嬢様が紅魔館最大の不良債権であると自覚してしまったのです。


 「お姉さまの馬鹿!いつも自分の我儘を通そうとしてる癖に、相手の事を全く考えていないじゃないの!こんなんじゃみんなに愛想を尽かされるわ。あなたの事をお姉さまというなんてもう我慢できない!お前扱いで十分よ!」


 妹様はお嬢様に愛想を尽かしてしまったのか、姉であることを全否定されてしまいお前呼ばわりしてしまったのです。


 「なんだとこの愚妹!欠陥品のお前の分際で偉大な姉を馬鹿呼ばわりするのかっ!お前はキチガイで生きていてはいけない存在なのに、肉親である私が処分をしないで生かしてやっているんだぞ。その私に有り難味を感じることがないのか!」


 お嬢様は妹様にお前呼ばわりされた事に怒りをあらわにしてしまい、妹様の精神が異常で養っている自分に有り難味を感じないのかと言われましたが、


 「私達は一人では何も出来ないのに、いつも頑張ってくれている咲夜と美鈴と妖精メイド達を酷い条件で縛りつけてるんだから、みんなに愛想をつかれたっておかしくないじゃないの。こうなったのも全部お前のせいなんだよっ!」


 それでも妹様は紅魔館が崩壊寸前の状態になった事と、紅魔館で働いていたすべての使用人が愛想を尽かしいなくなってしまった事が、すべてお嬢様に責任があると言われたのです。


 「黙れ愚妹。紅魔館の当主は私だから、私のいう事がすべて正しく私の考えていることがすべて正しく私のなすべきことがすべて正しいのだから、皆が私に従えばいい話だろう。嫌だったら、出ていくだけで問題なかろう!?お前ももっとあいつらを好き放題に酷使しても構わんのが理解出来んな。それに紅魔館は健全運営でやっているから、お前が私に謝れば今まで通り贅沢し放題だぞ。」


 それでもお嬢様は自分のやることがすべて正しいと考えているので、現状のままで問題なく健全運営をしていると口にされましたが、今更何を言われても説得力を全く感じれません。


 「パチェと小悪魔だってお姉さまが悪い事をしているから、友人としてよくなって欲しいと忠告しているのに、何でそれが解らないの!?パチェと小悪魔が魔界に帰ってしまったのは、いつまでたっても成長しないお前に失望したからよ!」


 「それにお前は咲夜と美鈴をお払い箱扱いしたけど、私達にそんな資格があると思うの!?どんなに酷い天気でも美鈴は身体を張って正門を守ってくれてるわ。それに実際に館内を取り仕切っているのはお前でなく咲夜で、責任という名の足枷をすべて擦り付け自分はいつも楽をしようとしているじゃない。」


 妹様はパチュリー様と小悪魔さんが魔界に帰ったのはお嬢様に失望された事と、私と美鈴に解雇通告をする資格がなく私達がやってきた日々の仕事を称賛してくださった事と、すべての責任を私に丸投げして楽をしているお嬢様の事を激しく非難されました。


 「無能な奴のクビを切って何が悪い?私に必要なのは、私の事を絶対に裏切らないうえに、職務に忠実で怠慢に走ることのない有能な部下だ。使えない奴らは、切り捨てたって構わんだろう。それに私は紅魔館の当主だから、部下を使って楽をしようとする考えは当たり前のことではないかね?」


 お嬢様は相変わらず絶好調なので私と美鈴をクビにしても問題がなく、私達よりより優秀で応順な部下が自分にふさわしいと言われたのですが、


 「当主こそが一番労を惜しまず働かなければ誰がついていくと思うの?人のありがたみをロクに知らないお前如きが、咲夜や美鈴みたいな素晴らしく有能な人材をあっさりと見限るなんてありえない。」


 妹様は当主が一番働かないと使用人を納得させることができないと言われた上に、私と美鈴の事を有能な人材で解雇をする資格がないと言い返してくださいました。もし私が妹様の使用人だったら身命をかける一心で職務を全うし、たとえ深刻な問題を抱えていても決して見限ることはないでしょう。


 「才色兼備で偉大な姉が無知で素養のない愚妹に私が説法を施してやろうと思ったが、そもそもキチガイの貴様には何を言っても無駄なようだな。」


 お嬢様は妹様の事を気が触れて救いようのない奴という認識もしているのですが、実際気が触れているのは自分であるという事に気づいていないようです。いまさらですが紅魔館の住人達全員気が触れていてどこかおかしいのですが、当主が誰よりもおかしいので周りの面々が常軌を逸脱した言動と思考をしても別におかしくありません。


 「お嬢様が私と美鈴のことを本当にクビにされるのでしたら、これで私のメイド長としての仕事を終わりにさせていただきます。短い間でしたが、今までありがとうございました。」


 お嬢様は私にクビを告げられたのですが、どうしてもこいつには頭を下げたくなかったので、そのかわりに妹様に会釈をしてお嬢様の部屋から退出しようとすると、


 「私もお嬢様にクビを申しつけられましたから、これ以上紅魔館に籍を置くことが許されないので出て行かせてもらいますよ。次の仕事が決まっていないから、今後の生活が非常に厳しいと思うんですが、私は私なりにやっていきますのでよろしくお願いいたします。」


 美鈴も私と同じくお嬢様にクビを言い渡されたのですが、今まで散々劣悪な待遇で働かされた事に恨みがあるので、お嬢様に会釈をすることなく私と同じく妹様にお辞儀をしてからお嬢様の部屋から退出しようとしました。


 「咲夜、美鈴、待って。あいつは気が触れているからあなた達をクビにしたんだけど、私はあなた達を必要としているから紅魔館に残ってほしいの。」


 妹様は私と美鈴を引き留めようとされたのですが、


 「申し訳ございませんが、いくら妹様の頼みでもそれだけはお答えすることができません。私と美鈴はお嬢様の従者ですので、お嬢様にクビを告げられると紅魔館に籍を置くことが許されなくなってしまいます。」


 「妹様。私も使える主が妹様ならぜひともお残りしたいのですが、残念ながら私と咲夜さんはお嬢様の従者としての契約をしていまして、お嬢様に契約を解除されたら私達はどんなにここにいたくてもいることが許されないのです。」


 私と美鈴は後ろ髪を引かれる思いでしたが、残念なことにお嬢様の使用人としての契約を結んでいるので、妹様が何を言われようともこれ以上紅魔館に籍を置くことが出来ない事がこの場において嘆かわしいものがあります。


 「咲夜、美鈴。出て行くなんて酷いこと言わないでよ!咲夜も美鈴も私のそばにこれからもずっと一緒にいて欲しいの。私達は本当の家族として一緒に過ごしてきたじゃないの…。」


 私も許されるなら妹様のお傍月のメイドとして紅魔館で働き続けたいですし、美鈴も妹様付けの護衛官として働き続けたい事でしょう。ですが悪魔の契約で妹様は紅魔館から他の場所に住めない契約を結んでいるので、残念なことに連れて行きたくてもつれていけない悲しい現実があります。


 「そうだ。お前たちは私が生かしてやって来たんだから、私なしではこれから生きていけないのだから、クビを告げられるという事はすなわち死を意味することなのだ。あっはっはっは!弱い奴は粛清されてしかるべきなのだよ、あ〜はっはっは!」


 「あっはっはっは、私にはわかるぞ。お前たちの運命は私から見限られた時点でのたれ死んでしまうのだ。悪あがきするのも無駄なだけなのだよ。」


 お嬢様の部屋を退出しようとした私と美鈴に向かって、お嬢様は私のもとを離れたら非業の死を遂げるだけだと言われたのですが、


 「妹様。短い間でしたが今までお世話になりました。お身体を壊さぬようお元気でいてください。それでは私は本日付でメイド長の職を降りさせていただきます。それでは失礼しました。」


 私はあえてお嬢様を見ようとせず妹様だけを見て別れの言葉を口にした後に、部屋から出てすぐに時を止めワザとお嬢様の足元めがけて銀のナイフを投げつけると、


 「妹様には感謝しても感謝しきれない位の大恩を頂いたのですが、恩を仇で返すような形でここを去る私の事をお許しくださいませ。もう二度と会えないと思うのですが、これにて失礼させていただきます。」


 美鈴もお嬢様の存在をあえてなかった事にして部屋を出た後に回し蹴りでドアを閉めるという荒業をやってのけました。


 これで私と美鈴は紅魔館の使用人を解雇させられたのですが、どういうわけか辛いといより辞めることができてよかったという心境になりました。こんなところだいぶ前に逃げ出したかったのですが、悪魔の契約のせいでなかなか逃げ出せなかったのでお嬢様の口からクビを告げられた事にある意味有り難味を感じざるを得ませんでした。



―午後11時 紅魔館から出て行く私と美鈴、そして紅魔館との別れ―

 

 「咲夜さん、私達本当に失業してしまいましたね。明日朝一番に人里にある職業安定所に行って、求人検索をしていい職場に応募できればいいですね。それにしても私達はホームレスになってしまいましたよ。明日の朝まで生きていればいいのですが…。」


 人里方面に向かっている私と美鈴は、無色でホームレスになったという過酷な現実を突きつけられたのですが、


 「そうね…。私達だけど、いままでずっと最低最悪なところで働き続けたから、不思議となんかこう、もういいやってなってくるのよね。いざとなれば命蓮寺に駆け込んで住み込みで修業をすれば、贅沢は出来ないけどそれなりに生きていけるかもしれないけど…。」


 イザとなれば昨年できたばかりの妖怪寺の命蓮寺に駆け込めば、しばらくは最低限度の生活をやっていけるだろうと思わざるを得ませんでした。それにあそこの住職の聖白蓮は妖怪と人間を対等に扱う考えを持っているうえに、ホームレスに炊き出しを行っているので食うには困らないでしょう。

 
 「どこか寝れる場所があればいいんですが、いつも睡眠時間をめいっぱい削られ続けたうえに、その上疲れてボロボロなのに咲夜さんに無理やり叩き起こされてきましたから、一度寝たらずっと寝続けてしまうんじゃないかと思ってしまい不安で仕方ないんですよ。」


 美鈴は寝れる場所があればそこで寝たいと言ったのですが、確かに衣食住の拠点を失った私達にとって雨風しのげて寝れる場所があって底で一度でも寝てしまえば、もう二度と目を覚ますことなくそこで永遠の眠りについてしまうんではないだろうかと思わざるを得ませんでした。


 「美鈴。私も時を止めて仕事をしてきたから、これからどうすればいいのか本当にわからないのよ。だけど、紅魔館みたいな地獄を見る職場で働くのはもうウンザリ。」


 「あの“汚嬢様”の世話をし続けてきたから、たいていの仕事には根を上げることはいないと思うんだけど、人里に住む人間としてやっていけるかどうか不安で仕方ないの。」


 確かに私と美鈴はあの“汚嬢様”の下で過酷な仕事をし続けてきたから、たいていの事では根を上げないと思うのですが、新しい環境に適応できるとかどうか不安があるのは確かです。


 「“汚嬢様”ね…、咲夜さん、それいい例えですよ。気のせいだと思うんですが、紅魔館のある方角から何やら音がしませんでしたか?なんか、“キュッとして、ドカーン!”としか例えようのない音がしたんですが…。」


 美鈴は私が繰り出した悪魔的ジョークに反応して笑ってくれたのですが、“キュッとして、ドカーン!”という体に染み付く悪魔的サウンドが聞こえたと言ったのですが、


 「そう言われればそうかもしれないけど、美鈴は凄く疲れているから幻聴でも聞こえたんじゃない?私も“キュッとして、ドカーン!”としか例えようのない音が聞こえたと思うんだけど、気のせいだと思うわ。私もあなたも物凄く疲れているから、たぶん常人には聞こえない音が聞こえてくるのでしょうね。」


 確かに私も身体に響く悪魔的サウンドが一瞬聞こえたのですが、たぶん心身ともに疲れているので幻聴だという事にしました。


 「ですよね。気にしすぎですよね〜。ここから先は人里ですから、妖怪の私は人里に住めませんからとりあえずここでお別れですね。これで咲夜さんと今生の別れだと思うとなんだか切なくて仕方ありませんね。」


 美鈴も悪魔的サウンドが空耳であったことを認め、私との別れを惜しんでいるようですが前を進むためには新しい生活に適応しなくてはならないのです。


 「幻想郷は狭いから、すぐ会えるわよ。確かに人里には妖怪は住めないけど、半獣の教師がいて妖怪用の居酒屋もあるんだから、特別酷い悪さをしないなら問題ないじゃない。」


 「ここでお別れですね…。咲夜さんと離れ離れになるのはつらいんですが、これからは紅魔館の顔触れと顔を合わさないってことを思い知らされるんでしょうね。」


 「そうね…。でも、そのうち新しい日常が当たり前の日常になっていくから、そのうち慣れていくわよ。」


 「紅魔館での生活が長かったですから、それになれるまでが大変だと思うんですよね。咲夜さん、今までお世話になりました。お身体を壊さないよう元気でいてください。」


 「美鈴、本当に今までよくやってくれたわね。酒場に行って二人だけの送別会と新たな門出を祝いたいところなんだけど、手持ちのお金がまともにないからそれも出来ないのが情けないのよね。」


 「咲夜さん、さようなら。」


 「さようなら美鈴。」


 私は美鈴と別れると一目散で人里に向かって走っていったのですが、そうでもしないといつまでも新しいサイクルに突入することができないからです。たぶん美鈴のことですからアッサリのその場を去っていると思いますが、私は振り向くことをしなかったのは忌々しい過去を払拭する意味を込めてただ前を見ることにしました。


 本当にこれからどうすればいいのか凄く不安で仕方ないのですが、私が出来る事といったら比較的美味しい料理が作れるので、人里に少ない洋食料理を出せるお店を構えてみたいということです。


 人里に住む人間達の味覚は洋食に馴染んでいないので、洋食料理が舌に合わないと考えてしまうのですが、ミスティアや妹紅が経営しているの屋台が非常にウケているのですから、ましてや味にうるさい霊夢や魔理沙にお褒めを受けた私の料理が通用しないと思えません。


 紅魔館にいた時も、お嬢様と妹様とパチュリー様に私の作った料理が美味しいと言ってもらった時がなりよりも嬉しいので、私の作る料理で人を喜ばせることができたならこれ以上の幸せはないと考えてしまうのです。


 私も人里に買い出しに行くことがあるのですが、人里の料理店を一通りチェックした時に気づかされたのは、和食中心で洋食思考が非常に少ないのでこれをやればいいのではないかと思いました。


 私がやろうしていることがうまくいくかどうかは神のみぞ知ることですし、もし私がのたれ死んでしまう運命が決められているならば、徹底してそれに贖ってみてもいいのではないでしょうか。


 私は仕事をする際に一番大切に思っているのは、支払われる給料の額より自分がやりたい事をやれてなおかつそれが誇りに思えることです。


 紅魔館の仕事はやりがいがあるのですが労働環境と待遇が最悪ですので、自分の生涯をかけてずっと務め続けるというのはそもそも無理な話です。


 時と止めれるという人間企画外レベルの特殊能力を持っている私でも、やはり一人の人間としてまともに扱ってもらいたいという気持ちがどうしても出てしまいますし、女の子としての幸せをつかみとってもいい権利を持っているのです。


 もちろん権利を主張する前に義務を怠ってしまうと、それは本末転倒になってしまいお話にならなくなってしまうのですが、生き物を扱うという事はこれまた非常に困難なわけでして、丁寧に支持をしてもそれがなかなか上手く伝わらなかったりするので必ず自分の思い通りに物事が動くことがないのです。


 なぜなら私達のような生き物は、主の命令をただ聞いているだけの操り人形とは決定的に違う特徴として、意思と感情をもっているのですから時によってはどんなに偉い人が相手であっても、感情を露にしてしまう過ちを誰だって犯してしまうのですから。それがお嬢様のように度を越してしまうと誰からも愛想を尽かされてしまい、最後は一人ぽっちになってしまう事になるでしょう。


 私は完全で瀟洒な従者という呼び名を持っているのですが、別に自分は欠陥がなく完璧な人間だと思った事は一度もありません。“パーフェクトメイド”としての誇りは持っていても、一人の人間として私自身はまだまだ未熟で至らないところが山ほどありますし、肝心なところで抜けているうえに新しい機械に弱いのですから。
―あとがき―


 イル・プリンチベです。こんな紅魔館絶対崩壊するだろうという考えで執筆した『隷属する血液』はこれで終わりとなります。


 読者の皆様にはこのお話が物凄く中途半端で納得のいかない終わり方をする印象をもたれると思うのですが、あくまでも語り手で主人公である咲夜さんの視点で進めていくお話ですので、咲夜さんと美鈴さんがお嬢様からクビを告げられて紅魔館から去っていくという形で終わらせました。


 エロとグロとスカを極力排除する方針でやった中でこの結末ほど凄惨なものはないと個人的に思うのですが、咲夜さんと美鈴さんとパチェさんと小悪魔さんと妹様が一緒に紅魔館を脱走してお嬢様が孤独死する産廃的ハッピーエンドな結末より、全員が離れ離れになった方がより一層杜撰でより劣悪なのではないかと思った次第でこうなりました。


 今更なんですがこのSSでやりたかった事は読者の皆様もおわかりだと思うのですが、咲夜さんが劣悪な環境で働いている上に最後にリストラされてしまう事と、お嬢様が贅沢の限りをしたことにより紅魔館の住人達全員に愛想を尽かされるという事をまとめた上でお話にしましたつもりです。


 改めて読み直してみると、このお嬢様はカリスマの欠片が全くもなってないうえに性格と言動は滅茶苦茶ですので、本当に救いようぐらい最低最悪な奴だと思わざるを得ませんでした。


 このSSを執筆していて作者として楽しくもあり辛くもありましたので、まともに執筆出来ない時期がありましたが充実感もそれと同様にありました。


 無駄に要領だけあって中身がない代物ですが、最後まで読んでくださってありがとうございました。
イル・プリンチベ
作品情報
作品集:
26
投稿日時:
2011/05/10 11:07:07
更新日時:
2011/05/10 20:09:11
分類
十六夜咲夜
紅魔館
ブラック企業
最終回
1. 名無し ■2011/05/10 20:45:06
後半は目から塩水が出すぎて画面が見えたかったorz

咲夜さんと美鈴を助けてやりたいと思いました
2. 名無し ■2011/05/10 21:20:51
面白くなかったよ
なんかごめん
3. NutsIn先任曹長 ■2011/05/10 21:23:01
誤字が多いですが、それだけワイルドさ、魂の叫びを感じさせる大作、ついに完結!!
悪魔の犬と蔑まれてきた咲夜さんと愚直な門番の美鈴が、最後に自分の意見をはっきりと言って、去っていく。
希望を持たせる、素晴らしいエンディングでした!!
以下に、今回の作品の感想をまとめさせていただきました。



紅魔館の皆、自分の仕事にプライドを持っている、労働者の鑑でしたね。
嘘でも良い。残っておぜうさまの為に尽くします。何て奴は一人もいないですね……。
もう、こうなることは分かっていましたよ……。

理由は、言わずもがな。雇用主の現状把握能力の無さ!!
無理難題ばかり言って、現実を見ないからこうなったのです!!
住む場所も職も失った咲夜と美鈴が幸せに見えます。

面倒を見てくれた家臣を失った裸の王様がどうなるか。首にした者達よりも劣悪な状況に置かれるのでしょうね。
信じる道を往く、紅魔館の元家臣達。初めて自我に目覚めたことは祝福すべきです。
寝ても醒めても、レミリア以外のメンツの行く末が幸多い事を祈るばかりです。
4. 名無し ■2011/05/10 21:24:07
キャラヘイトの見本だな
5. 名無し ■2011/05/10 22:40:19
待ってました。面白かったです

ぜひ永遠亭編も書いて下さい
6. 名無し ■2011/05/11 18:54:28
このレミリアは昔あった「妹紅ゲーム」の輝夜といい勝負だな
フランにボコられて少しは思い直せばいいんだが…
7. 名無し ■2011/05/12 12:13:48
今の自分の職場とダブってきて泣けてきたorz
8. 名無し ■2011/05/12 19:47:34
東方キャラをゴミクズとして書くことにかけては産廃一ですね。
原作への考慮もキャラへの愛情も一切交えない。
これはひとつの才能と思います。
9. 名無し ■2011/05/12 23:19:28
昨日と今日で前編からすべて読んできました。
いやあ、感無量ですね。

とりあえずごみくずれみぃはごみくずらしくそのへんで野垂れ死にするのがお似合いだ。
10. 名無し ■2011/05/14 01:58:15
長編かけて一切合財の容赦なし。
あなたは嫌キャラ作りの天才か。

あ、どうでもいいことですけど、「愚妹」は、第三者に対して『「駄目な自分」の妹』という意味で使う言葉ですよ。
「愚」という言葉自体が、自分のことを卑下した表現ですから。
まぁ、ある意味では、この用法は汚嬢様にはお似合いかもしれません。
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