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『ジャム』 作者: 遊
「咲夜、私スコーンが食べたいわ。」
妹様は言いました。
「スコーン、ですか…。」
確かに、ここ最近お出ししていなかった。
でも、お出ししていなかったのにもちゃんと理由がある。
「しかし妹様。」
「なぁに?」
「スコーン自体は作れますが、スコーンにお付けするジャムがなかなか手に入らないのです。」
ジャムの値段が少しばかり上がったのだ。
手作りという手もあるにはあるのだが、お嬢様には人里の特定の店のものを買うように言われている。
そういった事情をオブラートに包みに包んでお伝えした。
「お姉様の言う店のものじゃなくったって構わないわ。むしろ私、咲夜の手作りのジャム、食べてみたい。」
「わかりました妹様。しかし、苺が…。」
「苺?」
今は苺の季節ではない。
マーマレードが好みでないのは、ずいぶん前に癇癪を起こされたのでよく憶えている。
「…マーマレードはいやよ。」
「承知しております。」
「じゃあもういいわ。」
「すみません、妹様…。」
私は不甲斐無さを抱えながら、妹様の前を後にした。
咲夜にスコーンをねだってみた。
けども、付けるジャムが無いという理由で断られてしまった。
手作りで構わないと言っても、苺の季節じゃないみたい。
私は、我が儘言うのはお姉様だけでいいと思うから大人しく諦めた。
咲夜が去った後、私は口の中にあの、さくさくほろほろと崩れる味を想像した。
「妹様。」
想像の中で、スコーンを味わっていたら急に咲夜が現れた。
別に驚きはしない。
いつものことだし。
「なにかしら?」
「スコーンの件ですが…。」
「もう、別にいいよ。」
「少し、少し遅くなっていいならお出し出来るかもしれません。」
「ほんと?!」
「はい。苺ではありませんが。」
「ピンクグレープフルーツでマーマレードとかだったら怒るわよ。」
「そんなものじゃありませんよ。」
「そう。なら楽しみにしてるわ。」
咲夜は礼をして、消えていった。
それにしても、どうしたんだろう。
さっきはあれほど、お出し出来ないって言ってたのに。
数日後、咲夜がお茶のセットの乗った盆を持って現れた。
そこには、約束のスコーンが。
「お待たせしました。」
「本当に遅かったわね…。」
遅くなる、が予想外に遅かったから私は忘れかけていた。
「申し訳ございません。」
「いいわ。約束は守ってくれたんだし。」
スコーンの乗った皿の横の小さめの瓶。
そこには、赤いジャムが入っていた。
スプーンですくって、一口大に割ったスコーンにのせて口に運ぶ。
「!!」
「いかがでしょうか。」
美味しい。
確かに、大好きな苺のジャムじゃない。
でも、美味しい。
口の中で崩れて、水分を根こそぎ奪うスコーンにねっとり後押しのように絡みついてくる。
「咲夜、とっても美味しいわ!」
「ありがとうございます。傷みが非常に早いジャムですので、今日の内に食べきって下さいませ。」
「明日は楽しめないの?」
「はい。」
「じゃあ、また手に入り次第ね。お姉様にはいいの?」
「お嬢様はクッキーの方がお好きなようですから。」
「そっかー。ジャムクッキーでも美味しそうなものなのになー…。」
そうして、私はとびきり美味しいジャムで咲夜の焼くスコーンを味わった。
その後も一ヶ月に一度、咲夜はジャムを持ってきてくれた。
あるときはジャムクッキー。
またあるときはロシアンティー。
でも、心配事が一つだけ。
咲夜が私のために無理をしていないか、ということ。
なんせ、届けてくれる時、咲夜の顔色が悪いのだ。
暗い部屋にずっといる私だから気づいてしまったのだけれど。
「咲夜、無理しちゃやぁよ?」
「ご心配ありがとうございます。」
咲夜の笑顔は、顔色が悪くても綺麗だった。
妹様の部屋に届けに行った帰り、お嬢様に呼び止められた。
「咲夜。最近、貴女フランに何を届けに行っているのかしら。」
「ジャムを使ったお菓子を。」
「それ以上馬鹿やったら怒るわよ。」
私は腹を殴られた。
いや、うん、色的に。
久しぶりに書いたよ、フランちゃん。
遊
- 作品情報
- 作品集:
- 26
- 投稿日時:
- 2011/05/15 08:19:08
- 更新日時:
- 2011/05/15 17:19:08
- 分類
- フランドール・スカーレット
- 十六夜咲夜
咲夜さん、自前の『希少品』で代用したのかな?
流石、曲がりなりにも主であるレミリアは咲夜さんに止めるように、拳で命令しましたか。
頑張ったねさくやさん
>先任曹長さん
希少品を活用させていただきました。カリスマあふれるおぜう様はきっと拳で語るのだと思います。
>2さん
頑張ったんですよ、きっと。
>3さん
出せるんですよねー。一応月一という単語は入れてあります。
>4さん
頑張りすぎて他の仕事に支障をきたしそうですね…。たまの楽しみってのもいいんじゃないかと思います。
>5さん
これがブラックでハートフルというものだったのですか…!定義がよくわかっていません。お言葉ありがとうございます。
>幻想保佐長さん
そういうわけでございます。
>AKAISIKAIHIさん
いぬさくな咲夜さんだったら作りそうですね。命令されないなら月一なイメージです。