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『幻想侵略記12』 作者: IMAMI
霧雨店。魔理沙の父親が人里にて営する大手道具屋である。甲冑や槍等の武具から日用品まで何でも揃っている。
「霧雨さーん」
そんな霧雨店に一人の来客が訪れた。
「いらっしゃい」
帳簿を眺めていた店主の霧雨はその小さな来客に応じた。
「どうしたんだ?エレン」
商人の笑顔を向ける霧雨。エレンはまっすぐに霧雨の座るカウンターへと向かった。商人同士の世間話だろうか。
「魅魔ちゃんが殺されちゃった」
「ええっ!?」
霧雨は帳簿を閉じて思わずエレンに聞き返した。
「……そうか。たしか魔理沙の師だったな。お悔やみを魔理沙に伝えておいてくれないか」
「魔理沙ちゃん、まだ知らないんだよ」
エレンが答える。
「そうか。魅魔の死を知ってる人は君意外でいるのか?」
帳簿を片付ける霧雨。
「あなた。霧雨さん」
「あのなぁ、こっちは頓知をしているんじゃないんだ」
「うん」
エレンは平然と応える。霧雨は暫く何も言わず、エレンを見つめる。エレンも黙って見つめ返す。
やがて口を開いた。
「いつからだ?」
「あなたが魅魔を手に入れた頃からかな。その時確信したわ」
「……見られてたのか」
「うん。魔法のお店の本店は神社にあるからね。ちょくちょく品出しに行くんだ。こっそりと、魔法で気配を殺してね」
二人の間に緊張が走る。
「魅魔ちゃんを狙ったのは、夢美ちゃんと戦った記憶がある人で一番強いから?」
「……彼女に会ったんだな?」
霧雨はこちらの首領の名が割れてることに驚いた。
「冥土の土産に魅魔ちゃんに話したんでしょ?魅魔はまだほんの少し自我があったから、明羅ちゃんに伝えたんだよ」
「……あの剣士は俺達の仲間が始末した筈だ」
「うん。舌を使って血文字で石畳に書いてたのを、背の高いお兄さんがピストルで頭を撃ち抜いてた」
「だったら……!」
「仕事が甘いよ。魅魔ちゃんのブラフだよそれは」
エレンが服の下から血まみれの布を取り出した。
「魅魔ちゃんのマント。裏に書いてある」
『おかざきゆめみがてき きづいて だれか』
かなり読みにくいが、血文字でそう書いてあった。
「ずいぶん前になるかな。神社の境内に遺跡が出来たんだよ。覚えている?」
「……」
黙って霧雨は話を聞いている。
「先着一名で遺跡をクリアしたらなんでも願いを叶える遺跡でね、神社の回りにいたみんなで遺跡を争ったの。魅魔ちゃん達とね。勝ったのは誰だったか覚えてないけど」
「………彼女から聞いた。この世界が大きく変動して、一部の事象がなかったことになれたり、改変させられた。と。だから、普通なら、覚えているのは、誰もいない。なんでお前は覚えている?」
「───なかったことにされた出来事でも、知ってる人はいるんだよ。ほとんどの人は知らないけど」
少女のそれではない笑みを浮かべたエレンが答える。霧雨もゾッとするほどの笑顔だった。
「……それで、俺をどうするつもりだ」
「魔理沙ちゃんはショック受けるだろうからね。自分のお師匠様を自分のお父さんが間接的に殺したなんて。
こっそり死んでもらうから」
「!!」
霧雨はそう言われた時、気付いた。
「ちっ…何をした」
「良く見ればわかるけど、凄いほっそい魔力の針が何本か刺さってるわ。暫く動けないけど、あなたを倒すのは十分。霊夢ちゃんよりも針の魔法は上手いわよ。
何の能力を人間のあなたが夢美ちゃんから貰ったのか気になるけど、好奇心はソクラテスも殺すって言うからね」
エレンがゆっくり魔力を込める。気づけなかった。
霧雨が笑っていたことを。
「スプラッシュス───!!」
正に魔法を動けない霧雨に向かって放とうとしたエレンは、店の売り物として展示されていた甲冑の剣に隙だらけの背中を突き刺された。
「けふっ……」
薄い胸が長剣により貫かれる。小さな口腔内から血が落ちる。
「もう少し思慮があれば、俺を倒せてたかもな。魔法使い」
「あなた…魔法使いだったの……?」
「ああ。彼女に会うまではもう魔法に二度と関わらないと思ってたけどな………
お前を含めた人外が俺は大嫌いなんだ。今の幻想郷は吐き気がする」
瞳孔が開き始めたエレンに言い放つ霧雨。そして服の下から無線を取り出し、告げた。
「そろそろいいだろう。人里を攻撃してくれ───」
「よう。かえったぜ」
命蓮寺の周辺で見回りをしていたにとりとアリスを発見し、魔理沙急降下する。
「魔理沙!よかった…無事で…!」
「そっちもまだ襲撃はされていないようだな」
「うん。じゃあ、戻ろう」
「ああ…」
魔理沙は迷った。幽香のことを、そしてミスティアにリグルのことを告げるべきか否か──
まだ魔理沙の帽子の中で幽香は霊体となり、存在している。だが、リグルは魔理沙のマジックアイテムにより粉々になって吹き飛んだ。
(許せない──絶対に!)
心を燃やす魔理沙。霖之助を、幽香を、リグルを無惨に殺したやつらは許せない。絶対に敵を取ってやる。
命蓮寺の敷地内にはムラサと一輪がいた。
「お疲れさま」
「ええ。敵はこの辺りには居なかったわ」
アリスがそう答えたとき、一発の銃声が轟いた。
「!?」
一同が辺りを見回す。いや、正確には一輪以外の者が辺りを見回した。
「くっ…危なかった」
一輪の背後にいた雲山の手があるものを落とす。ライフルの銃弾だ。
「一輪!」
「気をつけて!狙われてるわ!」
身構える一同。
「ちっ……精度いいスタンドだな」
背の高い茂みの中から背の高い一人の男が現れた。手にはライフル銃、M24A3がある。
「……外界の人間だな」
「ああ」
それだけで、お互いのやることは決まった。
「一人で来るとはなかなかの度胸…ね!」
一輪の号令で雲山が拳をつくり、長身の男を殴りつけた。
ビキッ!
だが、拳は硬いなにがに阻まれて、長身の男を粉砕することはかなわなかった。
「……結界?
……雲山!」
一輪が雲山を引っ込めようとした瞬間、雲山は強い衝撃波に襲われて掻き消された。
「霊撃だと!?」
その衝撃波に魔理沙は見覚えがあった。とうとう霊夢が来るのか───
だが、衝撃波が止んだあと一瞬だけ中空に亜空穴が開き、現れたのは魔理沙の知っている人間ではなかった。
「……?」
銅杖を構え、神官服に身を包んだ男。そいつが使う霊撃───
「まさかっ!?」
霊符『夢想封印』
何度も目にしてきた博麗の神技、七色の光球が踊り、こちらへと迫る。
操符『マリオネットパラル』
アリスが咄嗟に人形を展開し、夢想封印を防いだ。
「お前なんだな…!」
八卦炉を握りしめる魔理沙。
「………博麗靈司。博麗の宮司をやっている」
それが魔理沙への問いかけの答えになった。
「わかった。絶対に殺してやる。博麗靈司!」
「………あなたは命蓮寺に戻りなさい。ここに奴等が来た以上、命蓮寺に避難した人にも危害が及ぶわ」
一輪がムラサに告げる。
「………任せたわ」
船を出せるのは自分だけだ。ムラサは命蓮寺へと引き返していった。
「早く退いてもらうぞ」
「ああ」
長身の男はM24を放り出し、イングラム両手に持って抜き撃った。
「ぐっ!」
にとりのリュックから伸びるのびーるアームで銃撃を受け止め、その後ろから剣を持ったアリスの人形が躍り出る。
戦符『リトルレギオン』
六体の人形が剣で長身の男に切りかかった。
靈司が再び夢想封印を展開する。
「雲山っ!」
一輪が再構築した雲山で防御する。すると、夢想封印が弾の形から細い帯のような形態に変わった!
「なっ……!?」
帯、いや、紐のような細さになった夢想封印が雲山に絡み付いた。霊力で出来た紐は雲山の巨体を完全に封じ込めた。
(博麗にこんな技が……?)
靈司がいきなり使ったその術に魔理沙は違和感を覚えた。直感だが、博麗らしくない技だと感じる。
その間に長身の男は人形の攻撃を全て掻い潜り、アリスの正面までたどり着いた。
「!!」
咄嗟に人形SPを展開し、後ろに跳躍を試みる。だが───
パララララララララッ!
「ああア゛アッ!」
長身の男が撃ったのはアリスではなく、今、この瞬間一番無防備であった一輪だった。
1秒程度でイングラムに装填された9mmをフルオートで全弾一輪の身体に打ち込み、身体に30個程の穴を開けた。
「一輪っ!」
雲山を絡め取っていた紐は再び夢想封印の弾の形態に戻り、雲山を悲惨させた。
「かはっ……!」
一輪が倒れた今、雲山は元に戻ることはないだろう。
「まずは一匹目だな」
「ああ」
長身の男が靈司の傍らへと戻り、イングラムをリロードする。
「イングラムをあんなに正確に撃てるなんて……」
にとりが一輪を見て呟く。腎臓や肝臓などの急所も銃で撃たれていた。
「魔法使いや、何かを使役して戦う妖怪は決まって本体が脆いからな。銃撃で十分だ」
と、靈司。その態度から妖怪と戦ってきた経験の多さを伺わせた。
「さて、お次は───」
「そこまでだぁっ!」
長身の男の声は獣の咆哮のような声によって遮られた。
「む、毘沙門天か……?」
「寅丸っ!」
声がした方向を見ると格式高い法衣に身を包み、戟を構えた少女がそこにいた。
「……おい。一輪を殺したのは、どちらだ?」
寺の僧兵としてではない、妖獣としての殺気を込めて尋ねた。
「俺だよ」
長身の男が答える。
「………魔理沙たちは手を出さないでください。私が奴を殺します!」
そう寅丸が言ったときに長身の男に向かって駆け出し、戟を突き出していた。
「っ!」
紙一重でかわす長身の男。しかし、寅丸は攻撃の手を緩めない。
「私の相手はお前達か……いいだろう。不足はない」
「なめるなぁっ!」
恋符『マスタースパーク』
八卦炉から特大のレーザーを放つ魔理沙。
夢符『多重博麗結界』
靈司は結界を展開し、マスタースパークを受け止める。
人形『レミングスパレード』
マスターが止んだ所にアリスが爆薬仕込みの人形を大量に操り、靈司へと殺到させる。
「人形使いの人形は近づけさせないのがセオリーだ」
靈司は空へと飛び上がり、術を放つ。
霊符『夢想封印 絶』
多量に練られた霊力で精製された光球が人形もろとも三人を襲う。轟音と共に地面が抉れ。木が薙ぎ倒される。
「なんだ。終わりか……
やはり平和ボケした妖怪は手応えがないな」
靈司が不敵に笑う。瞬間、レーザーが土煙の中から飛んできた。
「ぐっ!」
防御が遅れ、少しばかりレーザーを受ける靈司。レーザーにより土煙が晴れると、三人とも立ってそこにいた。
「ほう、あれをいなしたか」
「河童の科学力をなめんじゃないよ!古代人間!」
威勢よく言い放つにとり。彼女のオプティカルバリアで身を守ったのだ。
「………少し見くびっていたな。本気を出させてもらおうか」
霊符『博麗大幻影』
札を叩きつけた箇所に結界が展開され、その中から博麗靈司の分身が四体現れた。
「幻影が、こんなに……!」
「死ねっ!妖怪共が!」
幻影が一斉に三人に向かって札と針を放った。
「っ──」
「ああ。大分離れたな」
寅丸はあることに気づいて正に猛虎の如く攻めていた手を止めた。
(こいつ………信じられない!)
この長身の男は自分の戟による攻撃を全てかわしているのだ。
武器で払ったり、受け止めることなく、最低限の動きのみで。
「ほら、隙が出来た」
長身の男がイングラムをフルオートのまま放つ。両手にある合わせて34発の銃弾が1秒程度の間に寅丸を襲った。
「ぐっ!」
寅丸は咄嗟に両腕で体をかばった。銃弾が寅丸をうち据える。だが──
「……お互い有効打はないようですね」
銃弾は寅丸の服に穴を開けるだけで皮膚を貫くことすら出来なかった。
「ちっ、頑丈な虎だな…」
(しかし、こちらの攻撃も当たらない…)
まるでこちらの次の行動がわかるかのようにかわすのだ。武術の類いでも、反射神経でもない。もっと奇怪な何かがこの男にはあるのだ。
寅丸は立てた戟の鋒を相手に向けた──その時。
「……槍をこっちに向ける」
「なっ!?」
こちらの行動を長身の男に先読みされた。
「「バカな。たまたまだ。そうでなくても推測で──」」
(!? なんだこの男は──)
今度はこちらの台詞を先読みしてきた。寅丸は言い知れぬ恐怖を感じ、口をつぐんだ。
(魔法なら…しかし、宝塔はナズに渡したままです…)
「なかなかいいリアクションするじゃあないか。地味だがいい能力だろう?」
(こいつの能力……?なんでしょうか?)
近い未来がわかるか、あるいは読心術か。
「剣術三倍段って言葉があるの知ってるか?
ククク。射撃は十倍段ぐらいかな」
長身の男のはイングラムを放り出し、それよりも何倍かの大きさの鉄の塊を取り出した。
ドギャアン!
それが爆発した。そう寅丸の目に見えたと思ったら、寅丸の脇腹の肉と肋骨が何かによって抉り取られていた。
「あがっ……!?」
たまらず膝をつく寅丸。
「おお。効いたな。これがダメだったらどうしようかと思ったぜ。っと、手が痺れやがる」
S&W M500 8インチモデル。言わずと知れたダブルアクションの超大型ハンドキャノンだ。
「わり、頭ぶっ飛ばしてやるつもりがちょっとばかしズレちまった。勘弁してくれや」
「ぐうううっ………!!」
まるで大砲を撃ち込まれたかのような衝撃だ。寅丸は撃たれた箇所を押さえたままである。
「あんまり撃ちたくないんだがな。こっちも痛いし」
「このっ……!」
余裕な態度に寅丸は発奮し、痛みを堪えて立ち上がる。
「ははっ、来いよ」
「アアアアアッ───!」
寅丸が吠え、戟を長身の男に向かって繰り出す。長身の男は先ほどまでと全く同じように姿勢を低くしてそれを交わす。だが、この先は先ほどまでと違った。
「おらよっ!」
「ヒギャァァアアッ!!」
隙が出来た寅丸のわき腹、ハンドキャノンによって穿たれたわき腹に手を差し込んだのだ。たまらず寅丸が身を乱暴によじると、長身の男はバックステップで寅丸から離れた。
「あああああ……」
「痛いか?ええ?」
そう言いながら長身の男は寅丸に何かを見せつけてきた。石だろうか?二つあるらしい。よくわからない。すると長身の男はその中の一つを口の中に放り込み、かみ砕く。
ベキン。という音がしたと思ったら、長身の男はもう一つの塊を寅丸に投げつけてきた。額に当たる。足元に落ちるそれを手に取って見る。
「ひっ……!」
乳白色の白い塊、それが自分の肋骨の欠片だと寅丸はすぐ気付いた。
「い、いや……やめて……!」
もはや寅丸は敬虔な毘沙門天の部下でも、猛虎でもなかった。敗北し、心を折られた獣でしかなかった。
「さて、諦めた所で、と」
長身の男は寅丸に近寄り、持っていた戟を蹴り飛ばした。力が緩んだ寅丸の手から戟は簡単に離れた。
「はい。10数えたらぶち抜きますよっと」
ハンドキャノンを寅丸の口内にねじ込む長身の男。寅丸は逃げようともせず、涙を流し、怯えきった表情でどこかを見ている。
「10──9──8──7──」
カウントダウンが始まっても寅丸は動かない。興ざめだと長身の男は顔をしかめたが、やがて"良いこと"を思いつく。
「6──5──4──3──ばぁん!」
ギャァァン!
長身の男はカウントが0になる前に引き金を引いた。狂暴な破壊力の銃弾は爆音と共に寅丸の頭部を吹き飛ばした。
金と黒の髪が血と脳奬に彩られ、頭蓋骨や頸骨と共に辺りに飛び散った。
命令系統を粉々に砕かれた寅丸の身体はそのまま後ろへと倒れ込む。
「銃は槍より強し。ンッン〜名言だなこれは。痛ぇ…」
ハンドキャノンをガンベルトに捩じ込む長身の男。
頬についた血を舐めとる。苦い。脳奬の味はこんなものなのか。
「さて、あのおっさんにあの三人は任せようかなっと──」
「おしまいだ…もうおしまいだ…」
「怖いよぉ…母ちゃん…」
「和尚さん……私達、助かるのでしょうか……!」
命蓮寺の講堂には信者達が詰めかけていた。戦う力がない人間達はこのように庇護を受けるしかなかった。
「聖。本当に魔界に行くの……?」
船の舵を取るムラサが皆の前に立つ白蓮に不安げに訊いた。
「ええ。今はそれが最良でしょう」
白蓮は答える。
「魔界を治めている私の友人を頼ります。多少好戦的な性格をしていますが、きっと受け入れてくれるでしょう」
「うん…」
「では、ムラサ。よろしくお願いします」
白蓮はそう告げて講堂を出て行こうとする。ムラサはそんな白蓮の肩を掴み、制止する。
「聖!?どこへ───」
「こちらへ来る敵の迎撃へ。すぐに追い付きます」
「そんな……!聖が居なければ───」
「………そうですね。では」
白蓮は自分の特徴的なグラデーションの髪の毛を一本引き抜いてムラサに渡した。
「これを見せれば彼女は私の使者だとわかるでしょう」
そうではない。ムラサは不安だったのだ。この状況で白蓮が居ないことが不安なのだ。
「………わかります。ムラサ。でも、一番不安なのは、彼らですよ」
白蓮は行動の人間達を示した。皆一様に怯えきった目で二人を見つめていた。だが──
「船長さん。どうか、お願いします……!!」
「私らをお救いください……!!」
「どうか……どうか……!!」
一人がムラサにそう言ったのを皮切りに皆が口々にムラサに救いを求めた。
「私からも、お願いします。ムラサ。彼らを救って」
「……うん!」
「いい返事です。あなたがまだ"船幽霊"だった頃とは違いますね。ムラサ。
それでは頼みました───」
白蓮は今度こそ講堂から出ていく。それを皆で見届けていると入れ違いでナズーリンが入ってきた。
「お待たせ。船に宝塔の魔力を注入した」
「わかった。ナズーリンはここにいて」
「ああ」
ムラサはそうナズーリンに言い残して操縦室へと向かおうとした。瞬間───
ゴォォォン!
「!?」
講堂の壁が爆発したように吹き飛び、瓦礫があたりに散らばる。
「ひぃぃぃーっ!」
「ひゃああああっ!」
途端に再びパニックになる講堂内。
「まずいぞムラサ!」
「───!!」
間違いなく敵襲だ。こんなときに──
ドギャッ!
ナズーリンの背後の壁に穴が空く。弾幕の部類ではない。と、いうことは。
「こりゃ殺り甲斐がありそうだなぁ!」
爆発した壁に出来た穴から現れた、怪物の如き巨矩の男が残忍な笑みを浮かべて現れた。両手には一丁ずつ、デザートイーグルなる巨大な銃を持っている。
「ムラサ!迎え討つぞ」
ナズーリンがロッドを構える。だが巨矩の男はそんなこと意に介した風もなく悠々と講堂内に入っていく。
「何を考えてるのか知らないが、たかが人間がネズミを舐めるなよ!」
ナズーリンの妖力で精製された巨大なペンデュラムが巨矩の男に遅いかかる。
ガッ──
ペンデュラムが巨矩の男の側頭部に命中する。だが、男は倒れることも吹き飛ばされることもなく立っていた。
「何かしたか?溝鼠」
「なっ──ムラサ!」
「たぁっ!」
ムラサの霊力を帯びた渾身の錨が巨矩の男に一直線に飛ぶ。
「おっと」
巨矩の男はそれを飛んできた鞠にするかのように錨を叩き落とした。錨が講堂の床に巨大なクレバスを作る。
「ほらどうした。まだ何かやりたい奴は居ないのか?
そこの羽根がついたガキとかどうなんだ?」
講堂の怯えきった人間の中にいたミスティアを顎で指す。
「妖怪なんだろ?そこで小便漏らしそうになってる人間のオヤジよりは強いんじゃないのか?」
「ぐっ……やぁっ!」
ミスティアは爪を振り立てて巨矩の男へ向かう。だが、鉄のように固いはずのミスティアの爪は巨矩の男の皮膚を傷つけることすら出来なかった。
「はい。終わり」
巨矩の男は岩石のような拳をミスティアの可愛らしい顔面へと叩き込んだ。肉と骨が砕ける音が講堂に響き、木っ端のようにミスティアは吹っ飛ばされる。
「みすちー!」
同じく群衆の中に居たルーミアがミスティアに駆け寄る。
「ひどい…」
ミスティアの顔面は潰れ。口内の歯は殆ど残って居なかった。
「まだ息はありそうだな、人間だったら死んでるぜ」
バァン!
巨矩の男がデザートイーグルの銃弾を群衆に向けて放った。銃弾は一人の若い男の額に突き刺さり、男の頭部は砕け散った。脳奬が近くにいた何人かに降りかかり、講堂はもはや恐慌状態と化した。
「やめろぉっ!」
ナズーリンが宝塔を取り出す。おそらくあの男は身体の皮膚を硬質化させる能力を持っているのだろう。物理的な攻撃は殆ど効かないだろう。
だが、この宝塔の神威ならば───
「っと、何か悪さをしそうだな」
巨矩の男はナズーリンの行動に気付き、左手のデザートイーグルをガンベルトに押し込んで手近な所にいた少年の頭を引き掴み、盾のようにナズーリンにつき出した。
「痛っ…」
「黙れガキ。
どうだ鼠。撃てるか?ああ?」
「くっ……お前ッ……!」
ナズーリンは巨矩の男を睨み付けて宝塔を下ろした。
「そうだ。それでいい。一番お前が厄介そうだな。最初に死んで貰おうか」
巨矩の男が引金に力を入れる。今まさに弾丸が放たれようとした瞬間───
ズシャッ!
「ぐわぁぁぁあっ!?」
巨矩の男の右の眼球が、盾にしていた少年の背中から伸びる鋭い触手のような物で切り裂かれた。
「ふふっ。堅いのは皮膚だけみたいね…」
巨矩の男の手から離れた少年のシルエットがぐにゃぐにゃに歪み、黒衣の少女の姿へと変わった。
「ぬえっ……!」
封獣ぬえが正体不明の力で擬態していたのだ。
「子供に化けて隙をついてやってやろうとしたけど、まさか人質にしてくれるなんてね。
子供の回りに親が居なかったことに気付くべきだったんじゃない?」
「このっ……!」
鮮血が流れ落ちる右目を押さえて体勢を立て直す巨矩の男。
「ムラサ。操縦室へ向かって。船を動かして」
ぬえがムラサに告げる。
「えっ……?」
「早く!」
何かあるらしい。とムラサは操縦室へと走り出す。
「バカか。俺が中に居たら──」
「居なきゃいいのよ」
と、ぬえは虹色に光る巨大なUFO を召喚し、それに乗って銛を構えて巨矩の男に突進する。
ガギッ!
巨矩の男はぬえの銛を受け止める。その衝撃で巨矩の男はUFOに乗り上げた。
「……!!」
巨矩の男が気付いたときには遅かった。UFOはそのまま全速力で男が入ってきた穴へ殺到する。
「くそっ……」
そのまま巨矩の男は穴から聖輦船の外へぬえと飛び出していった。瞬間、聖輦船が光り出し、ゆっくりと浮かび上がる。
宝塔の力で飛び立った船は、瞬く間に高度を上げ、幻想郷の空を泳ぎ出す。
「っと」
UFOから飛び降りる巨矩の男。忌々しげに空に浮かぶ聖輦船を睨み付ける。
「残念だったねデカブツ」
「………いいや、そうでもないさ」
くいっ。と巨矩の男は命蓮寺の境内の一角を指した。そこには──
「ああっ……!」
聖輦船に乗りはぐれた十人程度の人間の集団が固まって座っていた。
「さぁーて。お前ら動くなよ?」
巨矩の男が地面を踏み鳴らして集団に歩み寄る。
「ひっ、ひぃぃぃっ!」
一人の男が恐怖に耐えかねて逃げ出そうと走る。だが、無論彼が逃げ仰せられる筈がなかった。
バァン!
デザートイーグルの銃口から弾丸が吐き出され、男の胸板を貫いた。
「動くなっつったよな?」
「……あぁぁぁ…はいい…!」
残りの人間が震えながらガクガクと巨矩の男の前で頷く。
「人間に触るなっ!」
ぬえが銛を構えると、巨矩の男は集団の中にいた少年の襟首を掴み、再び盾にした。
「ほれ、人間には触ってない。服に触っている」
バン!
デザートイーグルの弾丸がぬえに向かって放たれる。だが、十分に離れた距離であったため、ぬえは上級妖怪としての反射神経でそれをなんとかかわした。
カチッ カチッ
さらに連射しようと試みたが、弾が切れているらしく、ただそれを告げる音が銃身から放たれる。
「ちっ……」
巨矩の男はガンベルトに挿しておいたデザートイーグルと弾切れのそれとを交換する。
「どうやら、お互い決定打が無いようね」
「いいや、そんなことはないな」
と、巨矩の男は人間達を銃で刺しながら言った。
「今から1分毎にこいつらを殺す。こういう風にな」
バン!
デザートイーグルの弾丸が子供を抱き締めて震えていた母親の頭を撃ち抜く。
「うわぁぁぁぁっ!母ちゃあん!がぁちゃあん──!」
「黙れガキ。次はお前をぶち殺すぞ」
「お前ッ……」
「そうだ。お前が助けに来なきゃこいつらは死ぬ」
「殺してやるっ!怪物めぇっ!」
ぬえが先ほどのUFOの上に乗り、巨矩の男へ向かって飛び立つ。遠距離ではダメだ。人間に当たってしまう。潰れた右目の死角から銛を突き立てようとそれを引いたとき、いきなり銛の重量が増した。
「───!!」
「………ぁ」
銛の切っ先部分には、ついさっきまで巨矩の男に捕まっていた少年が彼の心臓部を貫くように突き刺さっていた。
「ほら、隙が出来たぜ」
巨矩の男がぬえの後ろの襟首を前から頭を跨ぐように掴む、それをぬえが知覚した瞬間にはぬえの腹に巨矩の男の巨木の幹のような膝が撃ち込まれた。
「うごぇッ……!!」
内蔵と骨を砕かれる感触。視界が揺れる。
ぬえは血を吐き出しながら銛とそれに貫かれた少年と共に地面に転がった。
「よし、上がりだ」
デザートイーグルの引金を引き、ぬえの頭を粉砕する。
ぬえの絶命を確認したら巨矩の男は人間達に向き直った。
「さて、次はお前らだ。これで吹き飛ばしてやるか」
巨矩の男は腰につけてあった手榴弾を取り出した。
「死にきれないだろうが、まぁすぐ死ぬさ。俺はちょっと痒いぐらいだけどな──」
パシッ!
ピンを抜いた手榴弾は、突然飛来した何かによって遥か遠くに弾き飛ばされた。
「誰だ──?」
ドガァァァン!
手榴弾の爆風が一同を撫でる。巨矩の男の目線の先にはそれがいた。
「やっと見つけた──!!」
それは巨矩の男の姿をみてそう声をあげた──
IMAMIです。侵略記12話です。
霧雨パパ魔法使い説をしたらばのスレでかなり昔(文花帖DSが出たあたり)に見たのですが…
捨て食みの辛さを知ってるから魔理沙が魔法使いになるのを許さなかった。みたいな。
荒唐無稽すぎる気もしますねw薄い本でもそんなに見ないし。
しかし、幻想郷で霊夢や咲夜や早苗と付き合っていける実力がある魔理沙はやっぱ特別な血を引いていてもおかしくないはずです。
あ、でも産廃的にはそんな週刊Jの連載作品のような魔理沙は多少違和感が。魔理沙はボロ雑巾のようになるのが一番です。
あと、ちなみに博麗先祖が帯状や紐状に技を変えたのは重要な複線だったりします。
なんで薄い本でもN2の手書き劇場でも外道魔理沙が出ないんだろう。こんなに愛らしいのに。
薄い本と言えば例大祭で衝動買いしたメディレイプ本が大当たりでした。
エレン 霧雨暗殺を企て返り討ちに。
雲居一輪 長身の男と交戦後討ち死に。
寅丸星 長身の男と交戦後討ち死に。
封獣ぬえ 巨矩の男と交戦後討ち死に。
IMAMI
- 作品情報
- 作品集:
- 26
- 投稿日時:
- 2011/05/26 16:15:43
- 更新日時:
- 2011/05/27 01:15:43
遂に人里や命蓮寺チームに犠牲が出始めましたか。
まさか、あの人が絡んでいるとは……。
ノッポさん、MAC10みたいなばら撒き鉄砲をよく集弾できますね。
こいつは『トリガー』!?
てか、にとり、外界の銃に詳しいとな!?
博麗靈司の技の違和感。
何だろう?
蘇らせた術。
イチゴ教授の化学力。
『NEVER』!?
『ルナ』!?
話が加速して来ましたね。
でも、『リセット』されて終わり、何てことになったりして……。
面白い作品になれば、構いませんが。
では、いよいよ終盤に近づいてきた、この作品の続きを楽しみにしています。
よくある話。
今の世界が嫌い。
だから壊す。
だが、
その世界に、
愛している人が生きている事を忘れるな。
まだまだ最終局面には程遠いのですかね?
幻想郷の皆が立ち向かう姿が脳裏に焼き付けられます。
ポコピー
でんでんでででででーんでん
でーんででーん
ででででーん
デデーン
来たのが誰でも、また一匹ムシケラが死にに来たか……、状態だな
メディレイプ本の詳細気になる。
続きも期待しています!
よし、あなたにわからないならみんなわからん。はずだ。
かなり分かりやすいはずなんだがなぁ。博麗の紐は。
>2
中盤は抜けました。シナリオはもう全部決めていたのですが…あの震災で使えないだろうってネタがあったのでこれから大幅にシナリオを変えました。
>3
デカブツにものっぽにも死相が浮かんでるように見えますけど…
>4
はい
>5
男優(!?)役の里の人間の下種具合がとても良かったのですが…和服が左前になってるのが気になりますた。別にそいつ死ぬわけでもないのに。
>6
あざす!!!!