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『良識ある運転を心がけよう』 作者: ただの屍
「こーりんが面白そうな物を見つけたらしいな」
「へぇ」
というわけで、霊夢と魔理沙は無縁塚にある自動車を眺めていた。魔理沙は拳でコンコンと車体を叩く。
「金属で出来ているんだな」
「四つも車輪が付いているけど本当にこれが動くのかしら」
二人は車の周りをぐるぐる回る。
「これが“ジドウシャ”か」
つまり自動車の事である。さらに限定的にいうなら、「NISSANのNOTE、車両型式DBA-E11」であった。その車は普通乗用車であり、色はシルバーであった。
霊夢は白色のナンバープレートを読みあげた。「長野 530 し ・1‐80。なにこれ」
「ドア開かないな」 魔理沙は運転席のドアノブを何度も引いていた。
「やっぱアレ使うんじゃない?」
「アレか……」霊夢の言葉を聞いて魔理沙はポケットから“インテリジェントキー”を取り出した。
「しかし、これをどうすりゃいいんだろうな」
「やっぱドアでしょ。これで開けられなきゃどうしようもないし」
「キーっていうからには鍵だと思うが、どこを差し込めばいいんだ?」
魔理沙はキーを眺めた。そのキーは楕円型のリモコン式のキーであり、直接鍵穴に差し込んで使用する事はできない。実際、鍵穴に差し込んで使用するにはキーの裏側のロックを外しながらメカニカルキーを引き抜かなければならなかった。しかしそのシステムは初見殺しであった。魔理沙はキーに描かれた二つの絵に気付いた。南京錠が掛かっている絵と南京錠が解けている絵。魔理沙は直感的に南京錠が解けている方の絵を押した。
ピピッ
キーロックが解除された事を示す電子音が鳴り、魔理沙は運転席のドアを開いた。「おおっ、開いたぜ……って熱っ!!!」
車に籠っていた熱気が二人を襲い、あまりの熱さに二人は車から飛び退いた。
「これじゃ、無理ね」
「でも、外の奴らだってこれを使っているわけだろ? きっとどうにかなると思うが」
魔理沙は右後部のドアを開く。左側へと周り、後部のドア、助手席のドアを開いた。換気が速やかに行われ車内温度は外部気温に近くなる。
その場でじっとしていた霊夢は運転席から車内に入り、助手席に座った。「これなら大丈夫そう」
一周回った魔理沙は右後部のドアを閉め、運転席に座った。あちこち見まわす。「何か面白そうな物がいっぱい付いているな」
目の前にはハンドル。その奥に速度計に燃料計にタコメーター。左側にはセレクトレバー。上部にはルームミラー。足元にはアクセルペダルとブレーキペダル、足踏み式のパーキングブレーキ。いわゆるオートマ(笑)である。
「これは壊れているのかしら」霊夢はカーオーディオの画面を見た。運転席と助手席の間に位置するカーオーディオは画面に無数のひびを横たわらせていた。
魔理沙は適当に弄り始める。足元のペダルを右から順に踏んでみる。反応無し、反応無し。三度目にパーキングブレーキを踏んだ。魔理沙が踏むとパーキングブレーキはあっさりと解除された。「これは他の二つと違って手応えがあるな。いや、足応えか?」しかしそれ以外の目立った反応は無かった。仕方なく魔理沙はハンドルをぺたぺたと叩いてみる。突然耳をつんざくような大きな音がした。
「何だ!?」魔理沙は驚いてハンドルから手を離し、耳を塞いだ。ホーンスイッチを触ってしまったのだ。魔理沙は霊夢を見る。
霊夢は顔をしかめ耳を塞ぎ非難の目で魔理沙を見ていた。「何やってんのよ」
魔理沙はバツの悪そうな顔をする。「すまん、……触っちゃいけない所だったのか?」魔理沙は別の装備へ興味を移し、ライトスイッチを弄ると、ヘッドランプが光った。
「おっ、光ったぞ。ははあ、夜でも使えるんだなジドウシャは」魔理沙は感心した様子。次はワイパースイッチを動かしてみたが、反応は無かった「ここは何もないのか?」
魔理沙はエアコンの様々なダイヤルをがちゃがちゃと回す。「これも反応無し」ドアのロックノブを動かす。ノブに合わせてガチャガチャと音が鳴った。「これはドアの鍵っぽいな」魔理沙は鍵が掛かっているかどうか確かめてみたくなったので試しに運転席のドアを開いてみるとドアは抵抗なく開いた。「あれ、これは鍵だと思ったんだがな」
「ねえ」興味が尽きないわくわく魔理沙に対して霊夢は明らかに暇と不満を持て余していた。「動かさないの?」
魔理沙は当初の目的を思い出す。「そうだな、弄るのは後でもできるからな。まずは動かしてみるか」とは言ったものの動かし方が分からない。「霊夢もご自慢の勘で考えてみてくれよ」魔理沙はまたあちこち触りだした。
霊夢は重要そうなものは全て運転席にあると思っていたが、仕方なく傍にあったセレクトレバーを見てみることにした。「ん?」霊夢はセレクトレバーの英文字に気がついた。
「P、R、N、D、L。何かの頭文字?」
霊夢の発見に魔理沙は惹きつけられた。「今はPだな。もしかしてこれでモードが変わるんじゃないか?」
「P……Pは何だろう。プラクティスかな。あっ、ファンタズムもあるか」霊夢は勘で答える。
「おお! 何かそれっぽいぜ。さっ、この調子で頼みますぜ先生」
煽てだと分かっても少しは嬉しくなる。霊夢は気をよくして答えを考えた。「RはリプレイでNはノーマル。Dは弾幕かな、自信ないけど。L……これは多分ラストスペル」そう言って霊夢は苦笑した。「まぁ外には弾幕ごっこが無いから単なるこじつけだけど」
「いいじゃないか、こういうのは気分の問題だぜ」魔理沙はセレクトレバーを握った。「それじゃあ、弾幕勝負といきますか」
セレクトレバーをDに入れようとしたが全く動かない。何度やっても同じであった。横に付いてるボタンに気がつき、今度こそはと再挑戦してもやはり駄目であった。Pに入ったセレクトレバーはブレーキペダルを踏んでいないと動かせないという事実に二人は気付けなかった。
「う〜ん。これがめちゃくちゃ怪しいんだけどな」魔理沙はセレクトレバーから手を離そうとしない。
「動かすためにはまだやらなくちゃいけない事があるんじゃない? ドアに対するキーみたいな」
「どれだろうな」魔理沙は頭の位置を動かし視点を変えてみる。ハンドルの右横に付いているイグニッションノブを見つけた。「これはまだ触ってないな」魔理沙はイグニッションノブを思い切り奥に捻った。
キキキキキキーーーーッ。
それからエンジンが掛かる。エンジンの音。気持ちの良い振動が開始する。「一つレベルアップしたぜ」
今まで黙っていた装備が息を吹き返す。ウィンカーとワイパーが作動する。速度計とタコメーターとの間に光る右向きの緑色の矢印。オドメーターは十万台の数値を叩きだした。カッチッカッチッカッチ。ワイパーはフロントガラスを乾拭きしている、不服の音を立てながら。「何だこれ。目障りだな」魔理沙はライトスイッチを触る。ハイビームが正面の木を強く照らした。「これじゃないな」魔理沙ははワイパースイッチを下に動かした。ワイパーの動きが一段と素早くなり怒りの声を上げた。「逆にもっていけばいいのかな」魔理沙が一番上にスイッチを持っていく。ワイパーは乾拭きを最後に一回、不愉快な音を立てて終わらせた。
「これは涼しい」霊夢が助手席側のエアコンの窓側の上半身吹き出し口に手を当てていた。「へえ、結構便利」
魔理沙が無茶苦茶に回したダイヤル達は奇跡的に冷風を送りだす配置をとっていた。
「確かに」魔理沙も窓側の上半身吹き出し口に手をかざす。「あー、こりゃいいなー。チルノいらねーな」
魔理沙は運転席のドアを閉めてから霊夢に言った。「霊夢、そっちのドア二つとも閉めてくれ。冷たい空気が外へ逃げるから」
霊夢は言われた通り、助手席と左後部のドアを閉めてから、エアコンへの依存を再開した。
魔理沙はウィンカーの指示を再度見た。「はいはい、右に行きたいんだろ?」魔理沙はハンドルを右に切った。
ずざりずざりずざりずざり。
ハンドルは重く、タイヤと地面とが擦れ嫌な音を出した。
「車輪が動いてる」窓に顔をくっつけていた霊夢が言った。「多分、それは方向調節だけの装置」
「じゃあこれだ」魔理沙はアクセルペダルを思い切り踏みつけた。
ブオオオオオオオオオオオン。
空ぶかしによる騒音が車内に鳴り響く。タコメーターが待ってましたと己を躍動させる。その喧しさに魔理沙はアクセルペダルに嫌気がさしてブレーキペダルに踏み変えた。
「これを動かすんじゃないの」霊夢がセレクトレバーに手を掛け、ボタンを押しながらセレクトレバーをDに入れた。
「あれ、そのレバー動くようになったのか」魔理沙はセレクトレバーに気をとられブレーキペダルからそっと足を離した。
クリープ現象により車がゆっくりと前に進み始めた。
「おいおい」魔理沙は慌ててブレーキペダルを踏みなおす。「足離したらコイツ勝手に動いたぞ」
「動かすのが目的なんだからそれでいいじゃない」霊夢が言った。
確かにその通りであったので魔理沙はブレーキペダルから足を離した。「でも勝手に動かれるのは何か気分悪いな」魔理沙はアクセルペダルをゆっくりと弱く踏んでみた。僅かに車の速度が上がった。「よし、やっぱ速くなった。これからは私の思い通りに動かさせてもらうぜ」ハンドルを右に切る。「まずは右だ」
車が右に曲がる。無縁塚を出て再思の道に入る。魔理沙は上手に車の進行方向と道とを平行にしていく。「操作は随分と簡単なんだな」ハンドルを元の状態に戻すとウィンカーが止まった。「矢印がやっと黙った」車はスムーズに道の上を走っている。「速さの限界に挑戦だ」魔理沙はアクセルペダルをぐん、と踏みつけた。速度は60km/hから100km/hへ。道は下り坂に入っていく。「これならもっと速くなるかもな。このままじゃ眠たくなるぜ」アクセルペダルを踏む力を更に強めようとしたが既に限界まで踏まれていた。
下り坂と加速が合わさり、速度計の針は160km/hを示していたのだが。
「何か空を飛ぶよりも遅い気がするな。地べたに這いつくばっちゃあ所詮こんなものか」自動車の精一杯の悲鳴のような暴音を聞いた魔理沙は憐みを覚えた。「これだけ頑張ってもこの様か」魔理沙は明らかに落胆した。
「確かにこれが限界なら空を飛んだ方がずっと楽だわ」霊夢が言った。その声に落胆の色は見られなかった。まるで始めから期待していなかったのようであった。
「もう止めよう」霊夢が言った。
魔理沙も同感であったので、すぐさまブレーキペダルを踏もうとしたが、その足を止めた。
「そういえばコイツは勝手に走りたがる奴だったな」魔理沙はセレクトレバーに手を掛けた。「これで完全に止めなきゃな」魔理沙はボタンを押す。「短い付き合いだったな」
魔理沙がセレクトレバーをPに入れた。
その瞬間。
車全体に急なブレーキが掛かった。シートベルトを着用していなかった二人は慣性の法則に従って前方に投げ出される。魔理沙はハンドルに体を強くぶつけて口と胸から血と内臓を吐きだした。霊夢はフロントガラスを突き破り車外に飛び出し、その際割れたガラスで全身を乱暴に裂かれた。霊夢は力なく血まみれの顔を上げた。砂埃を舞い上げ坂道を滑り落ちるジドウシャ。霊夢には為す術なく轢き殺される道しかなかった。
最初に一言。初めはMT車でぶっ殺すつもりだったけど、クラッチとギアがエンスト引き起こしまくるので諦めました。
最後に一言。ガソリンの匂いって最高だよな!
ただの屍
作品情報
作品集:
26
投稿日時:
2011/05/27 04:19:02
更新日時:
2012/01/30 19:13:32
分類
安全運転の呼びかけ
確かにATの方が初見の人殺しやすいかも
ってか制動のこと全然考えないで速度出し過ぎる魔理沙が魔理沙らしくて面白いです
でないと私みたいに試験会場に時間的に急いで速度出したら、自損事故フラグになっちゃうからね!
だってぇ、車ってサイドブレーキ引きっぱなしでも動くんだもの。
何この車、エアバッグ無いの? 事故車が幻想入りしたか。
空を飛ぶよりも遅いスピードでも、人は殺せる。
良い勉強になりました。
ナパームの匂いって最高だよな! 勝利の匂いだ!
車乗るのとバイク乗るのに違う快感があるようにな。