Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『産廃黄昏酒場』 作者: sako
「らっしゃい」
立て付けの悪い引き戸を開けると飲食店特有の油臭い匂いが漂ってきた。店の中は僅かに靄がかった様に見える。客のタバコや厨房で炒めている料理の煙だろう。こんな場末の居酒屋ではまともな空気清浄機や換気扇なんて置いているはずがない。だが、思いの外店は繁盛している様でカウンター席は全て埋まっており、テーブル席にも空席はあまり見当たらなかった。
「そこでいいか?」「何処でもいいよ」
店に入ってきた二人組の客は店の中央付近に空いていたテーブル席に腰を下ろした。手荷物を適当に開いている椅子の上に下ろし、一息ついたところで片言の日本語を話す女性店員がやって来た。
「イラッシャイマセ。ゴ注文ハ?」
「あー、そうだな」
店員が差し出したおしぼりを広げ、それで手やら顔やらを拭きつつ客の一人がメニューを手にとった。四角が剥げかかったラミネート加工されたA4サイズの簡単なメニュー。オモテ面にもウラ面にも文字が印刷されていたが、裏返して見てみたがどうやらどちらも同じ内容が書かれているだけだった。メニューには写真やイラストなんて気のきいたものは印刷されておらず、文字と値段の羅列が並んでいるだけだった。暫く客は相方に裏面を見せつつメニューを眺めていたが、女性店員がテーブルの前で棒立ちしていることを思い出し、取り敢えず、と視線を上げた。
「『アリスのあたたかいビール』二つで」
カシコマリマシタ、と店員。
温かいビールとは麦芽を発酵させて作った所謂あの麦酒ではない。店の奥、調理担当が作った料理を受け取り配膳する場所、デシャップのすぐ隣の棚の上。普通はビールサーバーが置かれている場所にアリスがスカートを持ち上げ大股開きで座っていた。そこにアルバイト店員が一人、空のジョッキをもって近づいてくる。アリスの両足の間にジョッキを構え、そして「出して」と命令した。
「んっ…」
頷き、恥ずかしそうにうつむきつつ唇を一文字に、力を込めるアリス。ぶるり、と体を震えさせると両足の間、金色の茂みに隠された突起の下から放物線を描く液体が流れだしてきた。ジョロジョロと音を立てジョッキの中へ溜まっていく黄金の液体。湯気がたつほど暖かく泡立つそれは成程たしかに“麦酒”であった。
「出が悪いネ。はい、補給」
ジョッキをアリスのおしっこで一杯にした店員は代わりに水が入ったペットボトルをアリスに差し出した。受け取ったアリスはごくごくと喉を鳴らしてそれを飲み干す。見れば近くのゴミ箱には同じ飲料水の空きボトルが沢山捨てられていた。
ここは『産廃黄昏酒場』
同好の士が集まるゲテモノ居酒屋だ。
「んじゃま、乙カレー」
「カレー」
かーん、と店員が持ってきた『アリスのあたたかいビール』が注がれたジョッキの淵を打ち鳴らす客二人。どうやら二人ともイベント帰りのようで戦利品が入れられた大きな鞄が脇に置いてある。
「本は後で分けるとして、今日の戦果はどうだった?」
「んー、ぼちぼち。てか、ハラ減ったよ。兎に角、胃に何か入れようぜ」
「ああ、そうだな」
客の一人は今日手に入れたレアな薄い本を自慢したがっていたようだったが、相方はそんなことよりも食い気だった。仕舞ったばかりのメニューをもう一度取り出してきてテーブルの上に置く。
「これとか美味そうじゃねぇ」
「こっちも食べてみたいな」
額を付きあわせながらああだこうだと言い合う客。二人ともイベントで相当額を浪費したはずだったが、値段は特に見ていなかった。呑屋で商品の値段を細かく見るのはあまりかっこ好い行いではないからだ。二人は意見を出しあい適当に四、五品ほどを見繕ったところで、手を上げ「すいません」と大声を上げて店員を呼んだ。店内の繁盛ぶりと妖精や妖怪たちの悲鳴怨嗟嬌声にかき消され、大声をあげないと何時まで経っても店員はやってこないからだ。程なくして、先ほどとは別の女性店員が伝票片手にやって来た。こちらの店員のイントネーションはネイティブのそれだった。
「えーっとですね、この『さとりさまのもんじゃ』二人前お願いします」
「はいっ! 『さとりさまのもんじゃ』ですね」
元気よく復唱し、サラサラと伝票に品名を記入する店員。客二人はソレ以外にも三つ、四つほど注文する。少々お待ち下さい、とお馴染みの挨拶をして店員は足早に厨房へ伝票を持っていった。
「それでさ…」
料理が届くまでの間、二人は今日のイベントについて話し合った。
「お待たせしました…ほら、キリキリ歩け」
程なくして今度は男性の店員がさとりを連れてやって来た。後ろのさとりはなにやら苦しそうな顔をしており、頬をリスのようにふくらませている。すぐにでも手で口を抑えたいのだろう。けれど、両手は一抱えほどある大きなステンのボールで塞がっていた。
「腹パンはどうなさいますか? お客様がされる場合は別料金ですが」
「あ、いえ。ここはプロに任せます」
店員の質問に客は一瞬、顔を付き合わせたが片方がブルブルと顔を振るった。そういう趣味はないらしい。すぐにそう応えた。
「では。ほら、しっかりボール持ってろよ」
男性店員は威圧感たっぷりに仁王立ちすると首を鳴らし、次いで指をコキコキと鳴らした。柔道着でも着ていれば格闘家にも見えそうなガタイの良さをしている。一度だけ、ぎゅっと力を込めてから軽く拳を握り店員は構えると深くゆっくりと息を吸い込み、そうして、
「奮ッ!」
裂帛と共に鋭い一撃をさとりのお腹めがけて放った。インパクトの瞬間、巌のように強固に握り固められる拳。重く鋭い一撃を受けたさとりの体はほんの少しだけ地面から浮き上がり、そしてくの字に折れ曲がる。可愛らしい顔が苦痛に歪み、次いで破裂しそうなほど頬をふくらませる。先ほど、無理矢理飲み込んだ二人分のもんじゃの材料が腹部への打撃によって逆流してきたのだ。堪えようと顎に力を入れるが無理だ。うっ、と顔を青ざめさせると耐え切れず口を開いた。
「オエッ、エッ…うぉぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…」
さとりは殴打を受けてもそれでも離そうとしなかったボールの中へ胃からせり上がってきたものを全部、ぶちまけた。食材の一部はさとりの鼻の穴からも出てきて、痛みと酷い嘔吐感に溢れでてきた涙もボールの中へ流れ落ちる。
しばらくの間、胃の中のものを全部吐き出してもえづいていたさとりであったが男性店員に背中を叩かれ、「お客さんにお出ししろ」と促され顔を上げた。
「ど、どうぞ」
にこり、と鼻水と吐瀉物、涙で汚れた顔に満面の笑みを浮かべながらさとりは今しがた自分が吐き出したすえた臭いのする『さとりさまのもんじゃ』を差し出した。ありがと、と受け取る客。
それ以外にもテーブルにはいくつか料理が運ばれてきた。
『フランちゃんこいしちゃんぬえちゃんのあんよでふんでくずしたおぼろ豆腐』『芳香ちゃんの耳の中で熟成させたチーズ』『大ちゃんに自分で揚げさせたうんちの天ぷら』などなど。どれも列強の古兵(フルツワモノ)が唸るような一品が届けられた。
が、
「思ったより少ないな…」「だな」
一戦交えてきた現役の兵には量が足りないようで、客二人はテーブルに並べられた料理を見回した後、そう言い合った。料理を届け持ち場に戻ろうとした店員を呼び止める。最初にテーブルに来たあの出稼ぎの異国人アルバイターだった。
「これもください」
「ハイ。ショウショ、オマチクダサイ」
メニューを指さし注文する。このお店は性質上、メニュー名が長いものが多く、故にこうして注文した方が早いのだ。マイペースに歩いて注文したメニューを厨房へと伝えに行く異国アルバイター。今度の料理は調理にそれほど時間がかからないようで、メニューを元の位置に戻し水を飲んだところで「お待たせしました」とやって来た。二人が顔を上げるとトレイに丼鉢と大鋏を乗せた店員、それと悔しそうに顔を歪めながらエプロンドレスの裾を握りしめている魔理沙がそこに立っていた。
「『霧雨魔理沙のもふもふ金髪麺〜その場で散髪〜』でございます」
そう品名を告げ丼鉢を置く店員。続いて大鋏を差し出してくる。鋏はスキ鋏で静刃は櫛のようになっていた。散髪用の鋏だ。注文しておきながらぽかん、と客は鋏の切っ先と店員の顔を見比べた。
「これでお好きなだけこの金髪の雑魚の髪を切ってください」
成程、と頷く客二人。そういう趣向だ。
「吉牛で好きなだけ紅ショウガ取っていいのと一緒だな」「もっと高級なイメージにしろよ…」
そんな冗談を交わしあい客の一人が鋏に手を伸ばした。どうぞ、と鋏を受け取ると魔理沙は恨めしそうに客を睨み付けながらも渋々、丼鉢の上に自分の頭を持っていった。客は椅子から立ち上がると利手に鋏を持ち、逆手で魔理沙の金髪を掴み適当な長さでジョキリジョキリと切った。はらはらと少し太めの金髪が丼鉢の中に落ちていく。こりゃ、面白い、と客は適当に魔理沙の頭に鋏を入れ始めた。ざくり、ざくり、ざくり。丼鉢の中に髪の毛が溜まっていく。その上に水の雫のような物が落ちてきて髪の毛を濡らした。
「痛っ!?」
「ああ、ごめんごめん」
鋏は思ったより切れ味が悪いようで時々、魔理沙の髪の毛を噛んだ。その度に魔理沙は涙ぐんだ目で客を睨み付けてきたが後ろにいる店員が「お客様になんて顔をするの!」と怒り頬をひっぱたいた。
「お前もやるか?」
魔理沙の頭から鋏を放し、手の上でくるりと回転させ刃を握り相方の方へ握りを向ける客。相方は鋏の柄を一瞥、それから魔理沙の頭を見てうーん、と顎に手を当て呻った。魔理沙の頭はとても髪型とは言えないほど適当に切られていた。左のもみあげは殆ど無いかと思えば右側は手つかず。てんで出鱈目に切った為、その頭は何処かジャングルに生えているツタ植物のようになっていた。
「あの店員さん…」
暫く考え込んでいた相方は鋏を受け取らず、代わりに店員に話しかけた。ハイ、なんでしょうと店員。
「この店にバリカンってあります?」
「!?」
質問を聞いて顔を強張らせたのは魔理沙の方だった。
「そ、そのバリカンは止めて欲しいん…だぜ」
「黙りなさい。すいません、お客さん。バリカンならありますよ。すぐにお持ちしますね」
訴えでようとした魔理沙を制し、店員はそう営業スマイルを浮かべて足早に厨房の方へと走っていった。その間も客はジョキリジョキリと魔理沙の髪の毛を切って遊んでいた。
「ワシの分も残しておけよ」「合点」
すぐに店員はバリカンを手に戻ってきた。受け取ったバリカンはコードレスの電動式でずしりと重かった。モーター以外にバッテリーか乾電池が入っているのだろう。スイッチを入れるとプラスチック製の鋤の向こうにある乱切り刃が左右に高速運動し始めた。速度を調節するセレクターを最大に切り替えると、立ち上がり相方は魔理沙の後ろへと回った。
「おおお、早えぇ!」
髪をかき上げうなじの辺りからバリカンを差し込む。ががが、と振動音を立てバリカンは魔理沙の髪の毛の中へと苦もなく入っていった。根本からカットされ一掴みほどある房が下へ落ちる。丼鉢には入りきらずテーブルや床の上に落ちていったが誰もそれを気にするものはいなかった。血が滲むほど唇を噛みしめる魔理沙以外は。
「そう言えば魔女狩りで捕まった女は火炙りにする前に髪の毛を全部切ったらしいな」
「ああ、成程。そう言う意味で『霧雨魔理沙のもふもふ金髪麺』なのか」
「はい。そうなんですよ。この雑魚の髪の毛がなくなったら次はパチュリーを使う予定なんです」
客同士の会話に巧みに滑り込む店員。なかなか商売上手なようで「パチュリーの番になったらまた来て頼もうか」と客は話していた。
「よし、完成」
ふぅ、と一仕事終えた顔をして相方はやっと魔理沙からバリカンを離した。どれどれ、と出来具合を確認しようとして客はブッ、と冗談のように吹き出した。
「おっ、おま、これモヒカンじゃねぇか!!!」
魔理沙の頭を指さして椅子から転げ落ちそうに成程ゲラゲラと笑う客。魔理沙の頭は後ろから前まで両側面はバリカンによって短く刈り取られていたが、センターラインのように丁度中央部分だけが惨めにも髪の毛が残されていた。けれど側面も丁寧に切ったとは言い難く、所詮は素人仕事か。何本か刈り忘れられた髪の毛がぴょこんと飛び出していた。
作品名:お前はもう死んでいる(ビジュアル的に)などと冗談を更に続ける相方。客はそれだけでもうノックアウトされたのか椅子から転げ落ちてしまった。店員も口元を隠しながらクスクスと笑っている。他の客も魔理沙の惨めな頭を見て笑ったり憐れみの目を向けたりしていた。
「あー、笑った。今世紀で一番笑った」「次の世紀末まであと九十年ぐらいあるけどな」
それで会話のスイッチが入ったのか二人はべちゃくちゃとおしゃべりし始めた。その空気を読んだ店員は小さな声で失礼しますと言ってモヒカンヘアーになってしまった魔理沙をつれ戻っていった。
「それでさ、今度のイベントのことだけと」「あ、悪ぃ、俺その日仕事だわ」「マジかよ」
それから小一時間ほど、二人は話し込んだ。今日のイベントのこと、今度のイベントのこと。話は飛んで今期のアニメや最近プレイ中のゲーム。新作などについて。如何にもオタクらしい呑み会での会話だった。
「っと、こんな時間か」
会話の流れが途切れたところで客の一人が携帯で今の時刻を確認した。終電まで、とはいかないものの余裕を持って帰るには丁度いい時間帯だった。あれだけ繁盛していた店内も客の数がまばらになり、店員も店の端で暇そうに立っているだけだった。
「そろそろ〆に入るべ」「あー、俺はいいや」
相方が断ったので客は自分一人、メニューを眺め始めた。ごはんモノの欄を探し、いくつかある中からさっと食べれらそうなものを選ぶ。
「すいませーん、この『はたてちゃん産みたてのTKG、YDL風』ください」
はーい、と厨房から声が返ってきた。
ダラダラと待つこと数分。店員ではなくはたてが一人でお盆を持ってテーブルにやって来た。
「私の卵、私の卵…私の卵、私の卵、私の卵………私の、私の…」
俯き加減にぶつぶつと何事かをくり返しているはたて。何日も洗ってないようなキューティクルが死んだ髪を輪ゴムで無理矢理縛ってツインテールにし、目の下に黒黴のような隈を浮かべ、ふらふらとアルコール中毒患者のような足取りで歩いている。とん、と無造作にテーブルの上に置いたお盆を持っていた手首には幾重にも傷が走り、血が滲みまだ乾いていないものさえあった。
お盆の上には暖かそうな白米と小皿に盛られた香の物、専用の出汁醤油。それと何も入っていない空っぽの平鉢が置いてあった。卵は、と客がはたてに視線を向ける。はたては客の質問には答えず箸でごはんの中央に卵を流し込む為のくぼみを作っていた。
「あの…」
「い、今からっ、産みます…」
嗚咽混じりに大きな声で応えるはたて。自分のスカートの中に手を伸ばすと、んっ、と気張り始めた。
「ん、あっ…」
ふるふると震えながら重心を落とすよう下半身に力を込めるはたて。顔を引き攣らせ、短く息を二度吸っては吐き出すという独特の呼吸をしだす。産みたて、と言うのだからやはりこの場で産むのは当然、なのだろう。いかがわしいお店ではないので局部を見せるような真似は当然しない。ここは飲食店なのだ。
「ひぅ、あ、でて…きたぁ…」
程なくしてそんな言葉を口にするはたて。もう一踏ん張りと一際、強く力を込める。ずるり、と粘液で滑るような音が聞こえ、はたてがスカートの中から手を出すとその上には真っ白な卵が一つ、乗せられていた。その卵を片手に平鉢を持ち上げるはたて。成程、あの平鉢は卵を割って、その殻を入れる為のものだったのだ。
「ん?」
その様子を興味なさげではあるが見ていた客が何かに気がついた。はたてがまた何かをぶつくさと言っているのだ。なんだろうと耳を傾ける客。
「あの人との子供なのに。また、また、暖める前に割っちゃう。割っちゃわないといけない。あの人、子供いらないって言ってた。でも、でも、胎内に射精してくる。愛してるって、言って、言いながら。毎日。毎日。あ、あの人との子供、きちんと育ててあげたいのに。割らないと。あの人はいらないからって言ってた。割ってごはんにかけろって。あは、あははは…いらないって。私との愛の結晶なのに、あはは、あははははは」
自嘲か哄笑か、それとも狂笑か。乾いた笑い声を上げるはたて。手もカタカタと麻薬中毒患者のように震え、何度か卵を割ろうと鉢の縁に打ち付けるが失敗ばかりしている。
「ああっ、もう! なんで、なんで割れてくれないのよ! お前なんか! お前なんか!! いらない子なのに!!」
発狂したよう声を荒げるはたて。手にも過剰な力が加わり、ぐしゃりと卵は潰れてしまった。殻混じりで卵黄が破れてしまった卵の中身が平鉢の中に入る。
「あ」
「あっ」
暫くはたては砕けてしまった卵をじっと見つめていたが、手にしていたままの殻を落とすよう投げ捨て、自らが産んだ卵をごはんの中へと流し込んだ。次いで醤油をドボドボと過剰にごはんへかけると、幼児がするように卵液で汚れた手で箸を握りしめ、ぐちゃぐちゃとそれらを混ぜ始めた。
「あはっ、そうか。これってお墓ね。お仏壇にごはん供えることもあるし、これはあの子のお墓ね。あははあはは。望まれずして生れちゃった子は間引かないといけないし、あの人はいらないって言ってたし、私を愛してるって言ってくれてたし、そうよね、余計な餓鬼なんかが生れちゃあの人の愛情がそっちに流れちゃうもんね。ああ、だから、死んで良かったんだコイツは。死ね、死ね、死んじまえ。腐って、茹でられて、割られて、死んじゃえ。死んじゃえ。死ね。死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死」
呪詛のように死ね死ねと繰り返し卵かけごはん( Tamago Kake Gohan)を混ぜるはたて。余りに勢いづけて混ぜている為、お椀から飛び出したごはん粒がはたての服を汚すがお構いなしだ。ケタケタと奇っ怪な笑い声をあげ乱雑に箸を動かし続ける。
「ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…死ね、死んでしまえ…私、なんて…あっ、ああ…」
やがて自分自身にしか分らないようなタイミングで混ぜ終わったと判断したのか、はたては脱力するようにことん、とごはんが半分ほどに減ってしまったお椀を盆の上に戻した。そして最後に混ぜていた箸をごはんの上に垂直に突き立てると「どうぞ」と掠れた声色で一応、声をかけて踵を返し戻っていった。
「……結局、このYDL風ってのはなんだったんだ?」「ヤンデレ(YangDelL)だろ」
成程、と半ば呆れ顔で客二人はふらふらと戻っていくはたての後ろ姿を見送った。
「お会計3840円になります」
それから二人は暫くして、満足げな顔つきで席を立った。宴は終わり帰路につく時間だ。
伝票をレジ打ちの女性に渡したところでおおっ、と一人が声を上げた。
「一人頭1900円か」「1920円だ」「思ったより安いな」
五千円を店員に渡し、相方から1920円ちょっきりを戴く。相方はきっちりした性格のようだった。ありがとうございました、という店員のお決まりの言葉を背に立て付けの悪い引き戸を開け、風吹く夜の街へと出て行く。
「まぁ、でも一口も食べてないし、そんなものか」「ちょっとぐらいは食べても良かったかな」
「えっ、お前、うんこ喰うの!?」「喰わねぇよ!!」「だよなー せいぜいあたたかいビールぐらいが限界だわ」「えっ、お前、アレいけるの!? このスカトロ野郎」「いや、ギリだってギリ! 深夜にウォッカ一気した後のテンションぐらいじゃないと無理に決まっとろうが!」「俺は…豆腐ならいけるかな。衛生的にも、まぁ、問題無いだろうし」「ロリコン乙」「ちげーよ! ぴゅわな愛情だよ! 俺のは! やましくないよ! 多分!」「多分かよ! でもまぁ…」
と、一人が足を止め夜空を見上げた。
「腹減ったな。天一でも食いに行くか」
「そうだな」
打ち上げはどうやらラーメン屋で済まされるようだった。
END
- 作品情報
- 作品集:
- 26
- 投稿日時:
- 2011/05/29 15:06:13
- 更新日時:
- 2011/05/30 00:06:13
- 分類
- ビール(ジョッキ):240円
- もんじゃ(一人前):630円
- 天ぷら:320円
- TKG:100円
- 等々
実際に平らげる豪傑もいそうですが。
それにしても、店の酒と料理のストックはかなり少ないと思いますが、『材料』の供給はどうなってるんでしょうね。
『養殖物』を使っているのかな?
私も話の種に一度行ってみたいですね、この店。
バリカンの所望で噴出しました。
モフモフ麺はどうでもいいや
はたての卵こっそり持って帰って産まれた幼女を調教して初潮が来たら孕ませたい
これなら毎日通わざるを得ない
これからは帽子を深々と被って、こそこそと生きていくんでしょうねぇ・・・
いやいや、本当に火あぶりにはしないでね?
ここの皆も本当はそんな事望んでないはずだもん!!(希望w)
産廃ェ・・・恐ろしい場所。
次は是非厨房とバックヤードの風景を