Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『血肉の底に』 作者: pnp

血肉の底に

作品集: 26 投稿日時: 2011/05/31 12:52:43 更新日時: 2011/06/07 21:19:57
「私は水蜜のこと大好きだけどな」
 騒々しかった宴会場の一部が、ある妖怪の放ったこの一言でしんと静まり返り、凍りついた。
だが、静まり返ったこの場は、前述した通り宴会場の一部でしかない。
この氷の世界の後ろでは、河童が鬼と勝ち目の無い酒の飲み比べを強要されて、茹でダコのように顔を赤くしながら杯の中の酒を無理矢理胃袋へ流し込んでいる。
その横では騒霊の三姉妹が即興で作ったただひたすらに賑やかな音楽を奏で、観衆を盛り上げている。
他にも、吸血鬼やら、亡霊やら、月の民やらが、各々の方法で宴会を楽しんでいる。
 そういった者達が発する熱のお陰で、凍りついた世界はあっと言う間に氷解した。再び、騒々しさが舞い戻って来た。
一瞬だけの氷の世界に居合わせた多くの者は、氷塊早々げらげらと笑った。
笑われている対象は二人。まさに場を凍りつかせた張本人である妖怪の宮古芳香。そして、名指しで「大好き」と言われてしまった舟幽霊、村紗水蜜。
 芳香はこの笑いが、所謂冷やかしであることに気付いているのか、いないのか、ともかく本人もにこにこと笑って、照れ臭そうに頭を掻いている。
一方水蜜は、ひどく慌てた様子でグラスの中の酒を飲み干した。顔が赤いのは、何も酒に酔った所為だけではないだろう。
突然赤の他人から、知り合いも多く含まれている人ごみの中で「大好き」だなんて言われては、その真意がどんなものであれ、恥ずかしいに決まっている。
「ちょっと、急に何を言ってるの!」
 羞恥を発散させようと、諸悪の根源である芳香に口を尖らせてこう言ったのだが、
「思ってることを言っただけだよ」
 火に油を注ぐ結果となってしまった。
 この芳香の一言を起爆剤に、彼女らを取り囲んでいた集団が更にわっと湧き上がった。指笛などを吹いて囃し立てる者まで現れる始末だ。
芳香は満更でもない様子で手を振ってその歓声に応えているが、水蜜は一層顔を赤くして俯いてしまった。

 問題の発言の前まで話されていた話題を加味すれば、間違いなく芳香のあの一言は愛の告白と受け止めることができる。だから周囲の者どもはこんな具合に二人を囃し立てているのだから。
しかし、本当に二人がそんな関係になるだなんて思っている者は、囃し立てている者達の中には一人としていない。
 芳香は死者が蘇って生を得た存在――キョンシー ――である。その体は純粋な生者と同一のものとは到底言い難い。
死後硬直の影響で関節が異常に固く、腕を曲げることは愚か、膝さえもろくに曲がらず、歩き方は誰の目から見ても不自然だ。
その上、アタマの中まで少し異常をきたしているようで、物忘れが激しい上に、容姿の割に言動が若干幼い印象を受ける。四六時笑んでいるその表情が、言動の幼さに拍車を掛けていると言えるだろう。
しかし、その笑顔は彼女のチャームポイントとも言える。情を表すで表情と書く通り、彼女は暴飲暴食で有名なキョンシーであるにも関わらずとても大らかで優しい。
初めて芳香と接した者は口ぐちに「予想以上に大人しかった」と舌を巻く。
初対面の者がそう言うと芳香本人はいつも「私は誇り高きキョンシーだからな!」と返答する。キョンシーは誇り高いから、何でもかんでも取って食うような下賤な輩じゃない、と言うことだ。
ただ、正しいのは言い伝えか、芳香の言い分か。それは分からない。

 芳香が少しおかしいことは水蜜も分かってはいるが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。軽く酔っているから尚のことだ。冷静な対処ができていない。
周囲からの祝福の声に対して律義にお辞儀したりしている芳香の肩をばしと叩いた。
「もう! 芳香の所為よ、こんなことになったのは! どうするのよ!」
「うーん。こうなったらもう仕方がない。結婚しようか、水蜜」
 突拍子もないことを言い出した芳香に、水蜜はいよいよ言葉を失い、それを見守る幻想郷の住民たちは増々ヒートアップする。
「やったね! おめでとう二人とも!」
「舟幽霊とキョンシー。死を経験した者同士、お似合いじゃないか」
「結婚式はどうする? 守矢神社? それとも博麗神社? 洋式が好みなら紅魔館もいいんじゃない?」
「ハネムーンは……法界とかどうかしら」
「住まいのことなら地底の鬼に任せれば安心だよ」
「おーい、夜雀に騒霊達! 新婚さんに祝福のメロディを!」
 こんな感じで、この場はすっかり二人をからかう流れになってしまった。
芳香はここぞと言わんばかりに水蜜の手を取ってみたりした。が、水蜜は極度の羞恥で混乱状態に陥ってしまい、ただ手を取られただけなのにまるで暴漢にでも襲われたみたいにきゃーきゃーと金切り声を上げ始めた。
喜ぶ芳香と恥じる水蜜。あまりに対照的すぎる二人を見て、更に大きな笑い声に包まれた宴会場の一角。
しかし。

「誰だ!? 水蜜を虐めてるのは誰!?」
 あまりにも突然に、氷河期は再来した。またしても宴会場の一角は凍結し、氷の世界と化してしまった。
場を凍らせた冷気を呼び寄せたのは、命蓮寺にて毘沙門天の代理を務めている妖怪、寅丸星。命蓮寺で水蜜と一緒に生活している妖怪である。
泥酔して訳が分からなくなっているのかと誰もが思った。その顔色は、確かに普段通りとは言い難いが、そこまで悪酔いしているようには見えない。
つまり、ほとんど素面でこの一言、と言う訳だ。
 水蜜の手を取っていた芳香は、思わずそっと水蜜から手を離した。水蜜も目をパチクリさせて、突然現れた少し頼りない正義の味方に目をやる。
その場にいた誰もが星に目をやる。同行していた彼女の部下である鼠の妖怪が、苦笑いを浮かべながら星の服をちょいちょいと引っ張って、
「ご主人様。大丈夫、ムラサは何ともありませんから。ね? こ、ここは退きましょう」
 周囲の視線を気にしながら、なるべく星だけに聞こえるようにこう告げた。が、星は全く退く様子がない。
急に場が静まり返ったのも、責任逃れの為かと勘違いしている。
 誰も予想だにしなかったこの乱入は、この一角を永久凍土と化す可能性を秘めていたかもしれない。
だがしかし、さすがは年中宴会を開いてはドンチャン騒ぎをやっている幻想郷の住民。そう簡単にはこの白銀の侵攻を許さない。
「う、浮気相手が登場した!?」
 誰かが放ったこの一言で、またも凍てつきかけていた世界に春が到来した。
氷は溶け、気温は急上昇。新婚早々現れた『浮気相手』を仲間に加え、更に場は盛り上がる。
 星は本気で水蜜のことを心配し、この場に飛び込んできた。それなのに何故か緊迫した雰囲気も何もなく、寧ろみんな笑っている。この状況を理解するのに少々時間を要した。と言うより、まだ理解し切れていない様子だ。

 恋敵が登場するも、芳香は怯まない。
「水蜜は渡さないからな!」
 そう言って芳香は水蜜の手を握り直し、ぐいと自分の方へ引き寄せる。同時に「おーっ!」と湧き上がる観衆。
 状況理解に追われていた星は、状況を理解するより先に水蜜を助けねばと言う気持ちが先行したようで、
「そ、そうはさせない!」
 負けじと水蜜のもう片方の手を握り、芳香と同じように引っ張り寄せた。ただ自分の方へ寄せただけの芳香と異なり、しっかりと抱擁までしてしまう有様だ。
星の腕に抱かれた水蜜はただただ目を見開いている。思いがけない星の行動に言葉も出ないようだ。芳香も同じように言葉を失い、しかし何か悔しげに手をぶんぶんと振ったりしている。
この場を借りての行動なのか、それとも素でこんなことをしているのか――恐らく後者だろうとほとんどの者が思っているが――、とにかく星が見せたこの大胆な行動に、観衆の興奮は最高潮に達した。
新聞記者の鴉天狗がどさくさに紛れてその様子をカメラに収めた。一部の者もどさくさに紛れてカメラに向かってピースサインを送る。
「さあムラサ! どっちを選ぶの!?」
 この場に居合わせた者の誰もが問いたいであろうこの質問を、鵺の少女が代表して問い質す。
 星の抱擁から脱した水蜜は、相変わらず笑いっ放しの芳香と、無意味に真剣な面持ちの星と、恋の行方を固唾を呑んで見守る観衆を順々に見やる。
「き、決められないよ」
 判定の瞬間、またも観衆は騒ぎ立てた。
 星は、まだこの周りの者達が一体何をしているのかがまだ理解できていないようで、目を丸くして、掲げられた自分の手を見つめていた。芳香はケラケラ笑っていた。



*



 問題の騒動があった宴会の翌日、芳香が命蓮寺を訪れた。
狭い狭い幻想郷と言えども、わざわざ墓場へ遊びに来る物好きなどそうそういない。その為、墓場を居住地としている芳香が暇を潰そうと思ったら、どうしても墓地から出る必要がある。
彼女が居住地としている墓地は命蓮寺の裏にある為、歩行が苦手な彼女でもこの寺へは簡単に辿り着ける。

 正門へ向かうと、門前を掃き清めている妖怪――山彦――に出くわした。
山彦は芳香を見るや否や、昨日の出来事を思い出してくすりと笑い、
「おはようございます!」
 と、大きな声で挨拶をした。
芳香は少しばかり驚いた後、その声に負けないくらいの声で挨拶を返す。
山彦はその声量に満足したようにうんうんと頷いた後、再びふっと少し悪戯っぽい笑みを零し、
「お嫁さんは中ですよ」
 こう言って門を開けてやった。
芳香は簡素な礼を言い、中へと入って行く。
昨夜の宴会場での大騒ぎをからかってみたのに、目立った反応を示さなかった芳香に、少しだけ山彦は拍子抜けした。
だが、物覚えの悪さで有名だったから、きっと昨夜のことをもう忘れているのだろうと結論付け、それ以上の詮索はせずに掃き掃除を再開した。


 中へ通して貰った芳香はすぐに水蜜を探し始めた。
もう何度もこの寺へ来て水蜜と会っているから、外出でもしていない限り彼女と会うのは簡単だ。
思い当たる場所を一つ一つ回ろうと決め、一先ずその最有力候補である彼女の私室に当てられている母屋の一室を訪れた。
 戸をノックすると、中から「どうぞ」と返事が返って来た。
芳香はお邪魔しますと一言添え、水蜜の私室へ踏み込んだ。

 中には二人の人物がいた。
一人は言わずもがな、この部屋の主である村紗水蜜。木製の椅子に座っている。
もう一人は、昨晩の騒動を余計に大きくさせた寅丸星。ベッドに座って、水蜜と何やら話をしていたようだが、叩かれた戸に反応して入口を見やっていた。
水蜜にとってこの来客は茶飯事であり、自然なものであるが、星は水蜜の全てを知っている訳ではないから、芳香の登場に少し驚いた様子だった。
 互いに挨拶を取り交わした後、星は水蜜を気遣いって部屋を後にすることに決めた。
折角外から客人が来たのに、自分がこの部屋に居座る訳にはいくまいと判断したようだ。
 擦れ違い様、
「昨日は申し訳なかった。何と言うか、おかしな誤解をしてしまっていて」
 星が芳香にこう詫びると、芳香は笑顔で首を横に振って見せた。
「気にしなくていいよ」


 星が退室と同時に戸を閉めた。外から聞こえてくる葉擦れや誰かの話声なんかがぱたりと止んで、部屋はひどく静かになった。
 芳香は入口の前で突っ立ったまま、水蜜をじーっと眺めているばかりで、何か喋り掛けようともしない。
用件を問う前に水蜜は、昨夜の痴態を思い出し、ほんの少しだけ頬を赤く染めた。
そんな彼女の心模様を察してか否かは不明だが、ともかく芳香は急に頭を垂れ、
「昨日の夜は、ごめんね。変なこと口走っちゃってさ」
 こう切り出した。その謝罪の姿勢は、親しい仲で行われる謝罪としてはあまりにも恭しい印象を与える。
曲げられた腰が成す角度に耐え切れず、帽子が地面へ落ちてしまうほどだ。芳香はそんなこと意に介さずに頭を下げていた。
 妙に丁寧な謝罪に、水蜜の方が反応に困ってしまう有様だ。
「いいよ、大丈夫だから。そんなに深々と謝られても……」
 こう言われてようやく芳香は頭を上げた。その表情は、笑っていた。
「そうか、よかった。嫌な思いしてたんじゃないかって心配で」
 彼女の笑顔を見、水蜜も安心したようにそっと息を漏らす。
この行き過ぎた謝罪も、考える能力が少々乏しいが故のものだろうと解釈した。重大に受け止める必要はないだろう、と。

 して、用件とはこれだけであったのかと水蜜が問おうとすると、
「ねえ水蜜。ちょっとお願いがあるんだけど」
 またも芳香がそれを妨害した。
「帽子、取って欲しいんだ。脚が曲がらなくてさー。あはは」
 地面に落ちてしまった帽子を指差して芳香は言う。
水蜜は苦笑いしながら椅子から降りて、帽子を拾い、そっと頭に乗せてやる。今まで無かったくらい、両者間の物理的な距離が縮まった。
「水蜜はいいにおいがする」
 突拍子も無くこんなことを口走った芳香。水蜜の顔は、昨夜の『大好き』と言われた時と比べ物にならないくらい赤くなった。
『大好き』には二つのニュアンスがある。それは恋愛感情かもしれないが、もしかしたら友人関係としてのことを言っているのかもしれない。
だが、会話の中の「いいにおい」なんて言葉に複数のニュアンスを見つけるのは、普通に考えれば難しい。
 何か言ってこの照れ臭さを紛らわそうとしたが上手い言葉が出ず、一歩退いて、もごもごと口の中で言葉を転がしていると、
「ああ、ごめん。また変なことを口走った」
 またも深々と頭を下げた。同じように帽子も落ちた。
今度は水蜜に言われずに頭を上げた。やはり彼女は笑っている。
「全く、急におかしなこと言うものじゃないわ」
 顔を紅潮させたまま、もう一度帽子を頭に乗せてやった。
「それで、芳香。何をしにここへ?」
「特に何でもない。暇つぶし。迷惑なら帰るけど」
「迷惑だなんてとんでもない。こっちへどうぞ」
 水蜜はベッドのさっきまで星が座っていた場所をとんと叩いて見せた。
芳香は礼を言ってベッドへ歩み寄り、星が座っていた所から少し横にずれた所にどすんと腰かけた。水蜜がそっと、その隣に座る。

 暫く二人は他愛も無い雑談に花を咲かせていた。
その雑談からいくらかの経過し、話の種が尽きかけてきた所で、芳香がこう切り出した。
「そう言えば、星とは何を話していたんだ?」
 直前と話題と何ら関連性の無い質問を急に投げ掛けられ水蜜はいくらか面食らったが、すぐに立ち直り、先ほどまでの星との会話を思い返してみた。
「別に変わった話はしてなかったかな。今みたいなことを話してただけだよ」
「そっか」
 話の腰を折ってまで問うてきた割に、その返答はかなり質素なものであった。
「それがどうかしたの?」
「仲がいいんだなと思って。昨日の夜も、水蜜の悲鳴を聞いて慌てて駆け付けてきてたし。何と言うか、只ならぬモノを感じるじゃないか」
 芳香が一息にこう言った。末尾に、ふふっと小さな笑い声を添えて。
 こんなことを言われた水蜜は、やはり照れるしかない。
顔を赤らめ、ばたばたと手を振り乱し、回らない呂律で、とにかく芳香の言ったことを否定しようと努めている。
水蜜はそんな調子だったので、何を言っているのか芳香は全く聞き取れなかったようで、とにかく芳香はげらげらと笑うばかり。
そうしてようやく水蜜も自分の痴態に気付き、幾らか頬の赤を強めた後、大きく深呼吸をして気を落ち着かせた。そして改めて言葉を紡ぎ出した。
「確かに星とは仲がいいよ。けど、それは一緒に住んでいるからであって、別におかしなことなんて一つも無いのよ。そう、家族みたいなものね」
 手の指をもじもじと組んだり絡めたりしながら、水蜜は一言一言、慎重に言葉を選んで言う。
「只ならぬモノなんて無いと?」
 それを受けて芳香は、悪戯っぽい口調でこんなことを聞く。
水蜜はうんと首を縦に振り、
「ありません」
 と、努めてはっきりとした口調で言い切る。
 しかし、
「本当に?」
 芳香の質問は止まらない。
――やけに突っかかってくるのは、昨夜、こういう色恋沙汰をネタにして散々からかわれたことを面白がっているから? 芳香も学習したものだわ。
 少しだけ水蜜は感心した。しかし、いい加減にこういう話題から離れたかったから、
「本当だってば」
 少し強い口調でこう言い、俯くのをやめて芳香の方を向き直した。
 芳香の笑顔と水蜜が面と向かい合った。芳香は目を離そうとせず、ただただ微笑んで、水蜜の目の黒い部分をじぃっと見据えている。
 人と話す時は人の目を見ろと言うのはよく聞く話ではあるが、この視線の衝突は少しばかり不自然だ。
不自然さの一因は、物言わぬ芳香にある。それまで饒舌であった者が突如無言になると言う圧迫感。水蜜は少しだけ焦った。
――見当違いだった? 芳香は面白がっているんじゃなかったの?
 ふざけていると思いこんでいた相手から、ふざけている様子が見られない。笑ってはいるが、何処か真剣な雰囲気を感じてしまう。
水蜜は目を離そうにも離せない、愛想笑いすら浮かばせられなくなってしまった。この出所不明の緊迫感を損ねることはしてはいけないことだと、本能的に察したのだ。
「誓いますか?」
 芳香が不意にこう囁いた。
水蜜はおかしな緊張感を覚えながら、
「誓います」
 おもむろに首を縦に振り、言う。何故か口調まで畏まってしまった。


 その後しばし二人を包んだ静寂を、芳香の大きな笑い声がぶち壊した。
「誓った! 水蜜が誓った!」
「は? え、え?」
「なんだか『誓います』って、結婚式みたいだな」
 声を出すのを堪えながら笑った所為で上ずった声で芳香にそう言われても、しばらく水蜜は目をぱちくりとさせるしかなかった。
そして、再び響いた芳香の笑い声で、水蜜はやっぱりからかわれていたのかと、少しだけでも怪異を感じていた自分を恥じた。
顔は見る見る赤く染まっていき、への字に曲がった口からは言葉一つも出すことさえ叶わない。
「い、いい加減にしてよ! もう!」
 しばらく芳香に笑う時間を与えてやった上でようやく放てた一言だったが、制止の効果はなく、笑い声は響き続ける。
言っても無駄ならば力ずくでと、水蜜は芳香の頭や腕をばしばしと叩いてみたりしたが、痛覚の無い芳香には大した効果がない。
制止できないだけならまだいい方で、そんな態度が余計に芳香の心を刺激してしまったようだ。
「照れてる! やっぱり星が好きなんだー!」
「だから、そんなのじゃないんだってば!」
 悪ふざけも度が過ぎてしまえば悪意の塊となり果てる。
これ以上、この話題で辱めを受けては堪らないと、笑う芳香の肩をどんと突き飛ばした。
ベッドの上へ仰向けに倒した芳香に馬乗りになって、水蜜は尚も懸命に芳香を黙らせようと、意味の無い殴打を繰り返していた。
芳香は自然と笑うのを止めていた。そんなことにも気付かないくらい、水蜜は必死だったようだ。
「もう笑うの止めたよ?」
 芳香にこう言われて、ようやく水蜜も芳香が笑い終えていることに気付く有様だ。
 ひょいと芳香の状態から飛び降りて、
「もう笑わないでね」
 念には念をとこんな誓約を取り交わした。
有効性はさておき、とりあえず芳香は笑わないと誓った後、仰向けに倒れたままぴんと腕を天井へ向けて伸ばした。
「起き上がれない。引っ張って貰える?」
 全く世話の焼けるやつだと水蜜は苦笑いし、芳香の両手を握って引っ張り、体を起してやった。
起き上がった芳香の手を水蜜がそっと離すと、手は伸びきったままぱたんと脚の付け根の横へと落ちて行った。
 尚も二人は向かい合った状態であった。
芳香はまたもにっこりと笑って、「ありがとう」と一言。水蜜も「どういたしまして」と返答した。
 言い終えた所で突然、芳香の体がぐらりと前のめりに倒れた。
水蜜はぎょっとしたが、しかし避けては芳香が地面へ倒れ込んでしまうから避ける訳にも行かず、倒れ行くその体を受け止めた。
丁度、芳香の顔は受け止めてくれた水蜜の肩の上へ乗る様な状態となった。
少し癖のある髪から香る洗髪剤の香りが、芳香の鼻孔をくすぐる。先ほど感じていた羞恥の影響であろうか、首筋には微量の汗が見られた。
「どうしたの、芳香!?」
 急に倒れ込んできたことを心配しているらしく、水蜜はこう問うのだが、芳香は返事をしない。
 芳香は投げ出されている腕を伸ばしてみた。自分を抱き留めてくれている少女の脇の下を通り、真っ直ぐ伸びる自分の腕。それに、芳香は突如、どうしようもない失望感を覚えた。
ちゃんと曲がる腕ならば。ちゃんと相手の体を抱ける腕なら、今頃――。
 その大いなる失望感は、とある欲望をせき止めていた堤防をぶち壊した。ほんの一瞬、何もかもがどうでもよくなったのだ。
 自然と唇が動いた。
「ねえ。みなみ……」


 しかし、その欲望任せの一言は、突然叩かれた戸が発したどんどんと言う音に混じり込んでしまった。
「水蜜、ちょっといいかな」
 戸の向こうから聞こえてきたのは、先ほど気を使って席をはずしてくれた寅丸星の声。
水蜜はこんな場面を誰かに見せてなるものかと、慌てて芳香の体を押し戻した。その時になった頃には、芳香の方も我を取り戻していて、大人しくベッドに座った状態になり、戸を見やっていた。
「どうしたの?」
 平静を装って水蜜が返答すると、戸の向こうからまた声が響いてきた。
「昼食何がいいかなって。芳香も食べていく?」
 水蜜は無言のまま芳香を見やり、どうするかと確認をする。彼女は首を横に振って「私はそろそろ帰るよ」と返事をした。
昼食の内容について、水蜜はこれと言った要望は出さなかった。




 芳香の帰宅に際し、水蜜は門前まで彼女を見送った。
「わざわざありがとうね」
 礼に対して水蜜は「いいのよ」と頭を振った。
 帽子が落ちない程度にお辞儀をしてから踵を返し、数歩歩いた所で、急に水蜜が芳香を呼び止めた。
芳香が立ち止り、振り返る。
「どうしたの?」
「さっき倒れ込んできた時、私に何か言おうとしてなかった?」
 星が戸を叩く直前、芳香が何か言おうとしていたことに、彼女は気付いていたらしい。
まさか聞かれているとは思っていなかったようで、芳香はしばらくぼうっと突っ立っていたが、やがて、
「ああ、うん。えっとな」
 と、おもむろに口を開いた。しかし、なかなか要件を言おうとしない。かなり言葉を選んでいるように見えた。
 結局、どう考えたって上手く煙に巻くことなどできないと悟ったのか、芳香は一人、あははと笑い声を漏らし、水蜜と正面から向き合った。
「どうしてもかっこよく言えないから、もうそのまま言ってしまうぞ」
「うん」
「私はやっぱり、水蜜のことが大好きなんだ」

 頭のてっぺんくらいまで昇り切っている太陽の放つ光。それを芳香の被る帽子が遮ることで作り出された影が、いい具合に芳香の顔を影の中へ隠している。
この期に及んでまだ私をからかうのか、と一瞬水蜜は呆れもしたが、芳香の表情がいまいちよく見えず、簡単に笑い飛ばすことができない。
密かに周囲を窺った。近くに誰もいないことを確認しておきたかった。幸い、門付近の掃除はとっくに終わっているようで、山彦の姿は見えない。
「それは……どういうこと?」
 言葉の真意を探ろうと水蜜がこう問うと、
「そのままの意味だよ」
 芳香はこう返した。
返す言葉を見失ってしまった水蜜に、更に言葉を重ねる。
「私はな、もっと水蜜と一緒にいたい。みんなと一緒にここに暮らすとか、そんなんじゃない。ふたりだけでいたいんだ」
 もう疑いようもないし、紛うこともできない。
これは芳香の愛の告白として以外、水蜜には捉えることができなかった。
言葉を失い、狼狽えて、しかし何か返事をしなくては失礼だろうと、混乱のただ中に置かれた頭を駆使して返す言葉を探してみるのだが、適切な言葉が浮かんでこない。
そんな具合に水蜜が狼狽している間も、芳香はにこにこと微笑んで、水蜜をじっと見据えていた。
返答の言葉を探していた数十秒が、水蜜には何十分にも感じられた。
そして、混乱による迷走の挙句、捻り出した答えは、
「考えさせてもらえるかな?」


 

*



 昼食の後、さっさと部屋に籠ってしまった水蜜に、居住を共にしている者は誰もが彼女の挙動を不審がった。
食事の最中にもどことなく陰りのようなものも見て取れたし、あまりにも素っ気無かったからだ。
先ほどまで芳香と一緒にいたことを知っている星は、何か気に障るようなことでもあったのだろうかと考え、彼女の部屋を訪れてみた。
 戸を叩くと、すぐに返事が返って来た。だが、あんな素振りを見せられたからであろうか、その声にはどことなく力が無い。少なくとも、星にはそう感じられた。
「水蜜、入っていいかな」
「どうぞ」
 許可を得て、星が水蜜の部屋へ足を踏み入れた。
自然と彼女は、ベッドへ向かって歩んでいた。この部屋へ招かれた時は、決まってベッドの一角に腰を下ろすからだ。
座る寸前、ベッドの乱れが目に入った。先ほどまで芳香はここにいたのだなと思った。
その乱れている部分へそっと腰を下ろし、椅子に腰かけている水蜜の方を見やる。
特に言うことなんて決めていなかったから、自然と無言のまま見つめ合うこととなってしまった。
水蜜はと言うと、星が自らこの部屋へやって来たのだから、相手から何か会話を始めるのだろうとばかり思っていた。
だから、無言で自分をじっと眺めるばかりの星に、些かおかしさを感じたのは無理もない。
「星? どうしたの?」
 こう尋ねられるまで、星は水蜜の変化を探ろうと苦心していた。
やはりどこか陰りを感じるようなとか、口数が少ない気がするとか、そんなことを考えながら彼女を観察していた。
 だから、声を掛けられた時は心底驚いてしまった。
単刀直入に何かあったのかと問うのは少々デリカシーが無いのではないか。しかし聞かねば力になることもできない。
そんな苦悩に板挟みになった挙句、
「いや、なんだか、元気がないような気がしたから」
 単刀直入ではないにしろほとんど核心に触れているし、しかも力になろうと言う意志表示も無い、酷く中途半端な切り口となってしまった。
言ってからひどく後悔したが、一度放った言葉は、もうどうやったって胸中には戻せない。
情けなさと恥ずかしさで、全身から冷や汗が噴き出してきて、それ以外何も言えなくなってしまった。
 水蜜はしばらくきょとんと星を見つめていたが、次第にふっと微笑んだ。
「そんな風に見えちゃってた? それは悪いことをしたわ」
 この返答を受け、星は自らの勘があながち見当違いでなかったことを知る。
伏し目がちだった視線を上げて、もう一度、今度はしっかりと問い直す。
「何かあったの?」
「少しね。でも安心して。嫌なことじゃないの」
「嫌なことじゃない? 一体何が」
「それは……言わないでおきたいな」
 こんな風に水蜜が意味深なことを言うものだから、星の不安は加速する一方なのだが、彼女がそう望んでいるんだから、自分はそれに従うべきだと、それ以上の詮索を止めた。
「けれど水蜜。何かあったら、ちゃんとみんなに相談してよ」
「うん。ありがとう。頼りにしてるからね」


 そんな約束を取り交わした水蜜だったが、胸に芽生えた一物はそう簡単に取り去れはしない。
何故なら、彼女が思い悩んでいることは彼女自身の問題であるし、相談して解決するようなことではないからだ。
 宮古芳香からの告白。それへの返答。
長く現世で暮らしてきた彼女も初めてのことで、一体どうすればいいのか、よく分からなかった。
 芳香に何と返事をすればいいのか――語彙の問題とかそういうのではなくて、これが分からなかった。
 言ってしまえば、彼女は芳香と友好以上の関係を持つことに、あまりよく思っていない。
芳香が嫌いな訳ではない。寧ろ、少々世話の焼けるあの少女と一緒にいると、可愛い後輩ができたみたいで楽しいのが実際の所だ。
しかし、友人と言う枠を超えるのは如何なものなのか?
そんな関係を自分が望んでいるとは、到底思えなかった。
 ならば断りを入れるのが当然なのだが、所謂『良心』みたいなものがそれを妨害する。
 芳香は少し、アタマが弱い。はっきりと異常だとは言えないが、正常とも言い難い。
自分が断りを入れたその瞬間、あの笑顔が崩れてしまうのではないか――水蜜はそれだけがとても心配だった。
 どうにか芳香を傷付けず、断りを入れる方法を考えてみたのだが、いい案は一向に浮かんでこない。
 別れのことばかり真剣に考えている自分に何だか自己嫌悪まで感じ始めていた。




 翌日、芳香がいつも通り、水蜜に会いに命蓮寺へやってきた。訪ねてきたが通してもいいかと言うのを山彦が聞きにきたのだ。
告白の翌日でも何事もなかったみたいに会いに来る所がいかにも芳香らしいと、水蜜は一人そっと笑い、入室を許可した。
しかし、笑っていられるのも今の内。きっと芳香は昨日の告白の返事を期待しているから、自分は然るべき返事をせねばならない。
慣れ親しんだ仲、それ故の緊張が水蜜を襲った。心拍は自然と加速していく。落ち着いていられなくなって、私室の中をうろうろと歩き回ったりして、芳香を待った。
 そうこうしている内に、
「おはよう、水蜜。開けていい?」
 戸の向こうから芳香の声が聞こえてきた。心の準備はしていた筈だが、いざ相手を迎えるとなった時、水蜜の心臓が一層大きく鼓動した。
「おはよう。入っていいよ」
 なるべく落ち着いた風を装ってこう返事すると、戸が開かれ、芳香が部屋へ入って来た。
芳香もきっと、多かれ少なかれ、期待と不安を混ぜ合わせた、もやもやとしたものを胸に秘めて今日と言う日を迎えているのだろう。
……などと考えていた水蜜だったが、芳香の相変わらずの満面の笑顔を見た途端、拍子抜けしてしまった。まるで緊張している様子が感じられない。
 改めて簡素な礼を取り交わした後、二人を静寂が包みこんだ。
水蜜は芳香を直視することさえできなかった。だが、芳香はいつもと変わらぬ様子でいる。
しかし口数が少ない所から察するに、少しだけいつもとは違う気持ちでこの部屋にいることが分かる。
「返事、考えてくれた?」
 静寂の中へぽつんと放たれた芳香のこの一言は、圧倒的な存在感を持って部屋の中に響いて、消えて行った。
その余韻はあまりにも大きい。相変わらず無言のままで、水蜜は視線をあちこちに泳がせた。
 ちらりと芳香の表情を見てみれば、そこにあるのは笑顔ばかり。
返事の内容によっては、この笑顔を壊してしまうことになると思うと、水蜜の心はきりきりと痛んだ。
 相手を傷つけたくない。そして、自分が傷つくのも怖い。
こんな考えが心を蝕んでいった挙句、水蜜は、ゆっくりと首を縦に振った。
 その瞬間、芳香の笑顔もより一層深く、眩いものとなった。
「いいの? 本当にいいの?」
 興奮を抑えきれぬと言った具合に芳香が捲し立てる。
こんな時くらいもう少し落ち着いて物を喋るべきだろうと、水蜜は苦笑いしながら、
「よろしくお願いします」
 こう言い、そっと頭を下げた。
芳香も同じことを言い、ものすごい勢いでお辞儀をした。また、帽子が落ちた。




 かくして、友人と言う関係を超えて付き合いを始めることとなった二人であったが、その日の夜、水蜜はこの選択を僅かに後悔した。
いくらなんでも軽率であったかもしれない、と言う思いがどうしても払拭できなかった。
芳香を嫌っている訳ではないが、こんな関係を築くことに関しては、やはりいささか疑問があったからだ。
こんな自分の気持ちは知らぬであろう芳香が見せた、あの笑顔。瞼に焼き付いて離れない彼女の笑顔が、意気揚々よ帰って行った後ろ姿が、水蜜の心をちくちくとつつく。
 だが、こうなってしまったのは紛れも無く自分の所為だ。だから、これからはそれ相応の振る舞いをしなくてはと心に決めた。
罪滅ぼしみたいなものかしら――交際を罪滅ぼしと例えている自分を、どうすれば嫌悪せずにいられようか。



*


 翌日、当然のように芳香は水蜜に会いに、命蓮寺へやって来た。
この交際のことは仲間の誰にも知らせていないので、最初に芳香を迎えた山彦は何の配慮も無く、彼女を水蜜の部屋へ通した。
芳香が戸を叩く。彼女の声が聞こえ、入室を許可する。すっかり慣れた筈の何の変哲もないこの一連の流れが、全く別のもののように感じられた。
 部屋に入って来た芳香は相変わらず微笑んでいた。
「いらっしゃい」
 水蜜が歓迎の辞を述べると、より一層笑みを深くした。
 芳香はいつも通り、ベッドに座り、忙しなく首や目を動かし、部屋中を見回していた。緊張しているのは水蜜の目にも明らかだ。
 お互いに言葉が出せず、部屋は静まり返ってしまった。
無音の重圧を打ち消そうと水蜜が椅子を引いて音を出してみたが、返ってその音が居心地悪い空間の形成を手助けしてしまった。
 今まではこんな緊張感、無かった筈じゃない――自分にそう言い聞かてみるが、まるで場の雰囲気に凍てつかされてしまったかのように、唇は動いてくれない。
「今日はあんまり喋らないんだな?」
 芳香が首を傾げて言った。さらりと放たれた一言ではあったが、心に一物抱えている水蜜には刺激の強すぎる一言だ。
狼狽したが、そのまま黙り通す訳にはどうしてもいかず、
「緊張してるのよ」
 どうにかこう答えた。即席の笑顔も作ってみたが、その出来栄えがとても心配だった。
 しかし、芳香はちっとも表情を変えず「そうか」と一言。
どうにかその場をやり過ごせた安堵感から、思わずため息なんて付きそうになってしまった。勿論、吐き出す寸での所で塞き止めた。

 その後は、芳香が主軸となって、いつも通りに会話をしていた。
一度この状態になってしまうと、水蜜も今まで通りに、すんなりと、自然な会話ができた。
その理由を後々になって考えてみたら、一風変わった二人の関係を意識しなくなると言うのが大きいのではないかと思えた。
結局水蜜からすれば「恋人同士らしさ」なんて、無い方が過ごしやすいことは明らかだった。
それでもこんなに早期にこの関係の解消を申し立てることはどうしてもできなかった。
 昼食の時間が近づくと、命蓮寺の誰かが水蜜に昼食のリクエストを聞きにやって来た。
「芳香も一緒にどう?」と言う誘いを、芳香はきっぱりと断った。
きっと『恋人同士』と言う関係を重んじているから、他者と共に食事をするのが気に入らないのだろうと水蜜は解釈した。
 芳香が命蓮寺を去ると、少しだけ罪悪感が増して、心がずんと重くなるのを感じた。
――彼女の喜ぶ恋人像とは、一体どういったものなんだろうか?
 こんなことを考えることそのものが馬鹿げているのだが、今の水蜜はそれを考えずにはいられなかった。
あの芳香の笑顔を守り抜くのが今の自分の義務であり、それをやり通すにはこの方法しか思い浮かばなかった。

 不自然で、ぎすぎすした、居心地の悪い日々が続いた。
本当に恋人らしく振る舞えているのか、いつまで経っても水蜜は疑問に感じていたが、芳香は連日のように命蓮寺に通い詰めて来た。
その度、彼女は楽しそうに、嬉しそうに笑っていた。取り留めのない話で盛り上がり、いつも通りの笑顔を覗かせていた。
 芳香は本当にこの関係を楽しんでいるのだと思うと、水蜜は心を痛めずにはいられない。
自分の本心を告げたら、このどす黒い心のほんの一端でも、彼女に見せてしまったら――。
そこから先は考えるだけでつらくなった。だから、水蜜はこの気持ちを見せないように、彼女と過ごすしかなかった。



 二人の交際が始まって二週間ほどが経過した。
毎日、朝に命蓮寺を訪ねてきていた芳香が、その日の朝は姿を現さなかった。
いつも通り芳香を待っていた水蜜であったが、結局昼前になっても彼女は来なかった。
待ち惚けを喰らってしまったことになるが、いくらか心に安堵を覚えたのも事実であった。
 その日、芳香は夕刻になってからやって来た。いつもと違うのは時間だけで、芳香の様子は何一つ変わりない。
突然私室へやってきた芳香に、水蜜はひどく驚いた。いつもは掃除をしている山彦が来訪を通達してくれるものだが、今日はそれがなかったからだ。
 こんばんは、と、明るく挨拶してきた芳香に、二つの返事が返って来た。
一つは水蜜の、もう一つは星の返事だ。星も、急にやって来た芳香に驚いているようである。
 芳香はしばらく無言のまま、部屋の入口に突っ立っていたが、何の脈絡もなく口を開いた。
「水蜜、話がある」
「話?」
「そう。大事な話だ」
 もしや、交際に関係する話かもしれないと、水蜜はちらりと星に目配せした。
席を外しては貰えないか、と言う合図だ。
それをすぐに察した星が部屋を出ようと立ち上がったが、芳香がそれを制止した。
「悪いけど、外で話がしたい」
「外で? どうして」
 星は訝しんだ。二人の関係をまだ知らないから、そんなに聞かれたくない話とは一体何なのか、さっぱり分からなかったからだ。
水蜜はこの関係が他人に知られるのを良しとしていなかった。確かに恋人同士ではあるものの、自分自身は望み切れてない節があるからだ。
星にこれ以上の詮索をされるのを回避する為、芳香の言い分に従うことにした。
 そそくさと出ていく二人。取り残された星は、しばらくボーっとと、二人が出て行った出入り口を眺めていた。



 夜を目前に控えた世界はもうすっかり暗く、空に掛かった黒い雨雲が、今や希少な光源である月光を遮り、その暗闇に拍車を掛けている。
こんな時間になれば、種族を問わず人気を博している命蓮寺に訪れる者の姿は無い。
広い空に烏の姿さえ見ることができない。仮にいたとしても、この暗闇ではその姿を捉えることは難しいだろう。
聖輦船が降り立つ為に均された広大な土地、更に真上に広がる空を加えてみても、この近辺にいる者は、芳香と水蜜、たった二人。
まるで破滅した世界にこの二人だけが生き残ったかのような印象さえ受ける程、誰もいない。
少し肌寒いくらいの冷えすぎた風がすっと吹き抜け、思わず水蜜は身震いした。
用件を済まし、早く屋内へ戻ろうと、
「それで、芳香。話って何?」
 水蜜から話を切り出した。
 それを受け芳香は、しばらく、言葉を探すように、伏し目がちであれこれ独り言をぶつぶつと呟いていた。
そうしている内に、ぽつぽつと雨が降り出した。
雨を知らせる切っ掛けとなった最初の雨滴が水蜜の鼻をちょんと突いた時、反射的に水蜜は空を見上げた。
それからうーうー唸ってる芳香と、しとしとと雨を降らせる空を数度見比べた。急いで欲しかったが、真剣に何かを考えている芳香に水を差すような真似はできまいと、辛抱強く彼女の言葉を待った。
それからしばらくして芳香がようやくふっと顔を上げた。そして、
「ごめんね」
 小さくこう呟いた。
 意味が分からず、水蜜がその真意を問い質そうとしたが、首に掛けられた芳香の手がそれを妨害した。
 細く白い芳香の腕。その見た目からは想像できぬ程の力が、水蜜の首に掛けられている。
その手は、その力は、水蜜の呼吸を妨害する。だから彼女は声が出せないし、意識を保つことさえままならない。
手を退かそうとするのだが、水蜜の力では、芳香の――もといキョンシーの持つ怪力を撥ね退けるなど不可能だ。
どうしてこんなことを、と問うことさえ許されぬまま、水蜜は意識を失った。
視界が真っ暗になる直前見えた芳香は、いつも通り、笑っていた。





 水蜜の部屋で二人――若しくは水蜜一人の帰還を待っていた星であったが、さすがに時間が掛かり過ぎているのではと不審がった。
外は少し寒い。長話をするには適さないだろうに、二人が帰ってくる様子はない。
それに、一人で待っているのはひどく退屈だったから、二人の秘密の会話の内容が如何なるものか、いささか気になった。
あくまで「外は寒いだろうから、そんな長い話になるならやはり中で話すといい」と提案しに行くだけだ、と自分に言い聞かせ、星はいそいそと門前へ赴いた。いつの間にか雨まで降ってきていた。
 そこに二人の姿はなかった。
二人どころか、星の視界には生き物など愚か、雑草も、木も、遠くに見える人里の灯りも、何一つ入り込んで来ない。
それもその筈、彼女は地面に落ちていた、ある物に目を奪われていたからだ。それ以外、彼女の目には何も映り込んでいなかった。
 地面にあったのは、見慣れた白と青の帽子。紛れも無く、水蜜のものだ。
 二人がいないのは、例えばどこかへ出掛けたとか、実は既に命蓮寺の中へ他者が招いたとか、そう言う解釈ができる。
しかし、帽子が地面に、こんな無造作に放置されているのは、どう解釈しても異常だ。
急に被りたくなくなったのであっても、こんな所へ置くことはないだろう。
 特に考えもなく、星はその帽子を拾い上げた。
その時、ぬかるんだ地面に付いている足跡を見つけた。暗闇の中、そんなものを見つけられたのは、この異様な光景に、心のどこかで犯罪性を見出していたからかもしれない。
 二人でどこかへ出掛けたのなら、足跡は二人分残る筈なのに、見るからに足跡は一つしかない。
それを辿って行くと、しばらくは真っ直ぐ進んでいるのだが、ある所から横道に逸れている。
その先は、命蓮寺の裏の墓場。芳香の居住地だ。
闇に呑まれてどんどんその姿を黒く薄くしていく足跡を見て、星はいても立ってもいられなくなり、墓場へ向かって駈け出した。






 目が覚めた水蜜は先ず、手首と足首に何かが巻かれているのを感じた。
いちいち意識して思い出さずとも勝手に想起される、意識を失う前の出来事。芳香が、自分に手を掛けたこと。
その真意なんかを考察することに意味など微塵にも感じず、先ずは自分の置かれている環境、状況を探ってみた。
 手首と足首に巻かれているのは、平凡な縄であろうと考えた。
手首は手が後ろに回されている所為で、足首は辺りがあまりにも暗い所為で見えはしなかったのだが、質感から縄で間違いないだろうと感じた。
少しもがいてみたが、その結び目はびくともしない。この体勢から自力でこの縄をほどくことは、恐らく無理だと判断した。
 次に、この暗い場所はどこなのか、と言うことを調べてみようと思ったが、読んで字の如く暗過ぎる所為で、何の情報も入手できない。
ただ、手触りから、床は木質であることが分かった。鼻で呼吸をしてみると、湿った土の香りを僅かに感じられた。
意識を失う前、雨が降っていたのが分かっている。さっきからずっと聞こえているこつこつという音は、きっと雨滴が天井を叩いている音だろうと思った。音質から、雨滴は木を叩いているのだろうと察せた。
更に、音源はかなり近い。それこそ、鼻先から天井まで十数センチの隙間があればよいと感じられるほどに。
 総合すると、今水蜜は、横になった自身の体がすっぽり収まる程度の木箱の中にいると言う結論に至った。
では、土の香りがするのはどうしてか。地面に放置されていた木材で即席で作ったのか。それとも、この箱は、土でも被っていたのか――。

 この問いへの正答は、導きださずとも教えられることとなった。
 急にがぱっと、天井が開いた。先ほどより強まった雨滴が、仰向けの水蜜の顔を容赦なく叩く。
目に飛び込んでくる雨滴もあったが、それで目を閉じるのを止めてしまう程、水蜜は目の前の光景を見据えたがった。
「芳香……」
 謎の狭い空間の天井を開け放った宮古芳香を、じっと水蜜は見据えた。
言葉は不要だった。目は口ほどに物を言う。この視線は、水蜜の言わんとすることを的確に相手に知らせてくれた。
「ずっと待ってたんだ」
 だから芳香は、
「こうなるのをね、待ってたんだよ」
 聞かれずとも自ずと語り出した。
「いつか言ったよな。いいにおいがするって」
 水蜜がどうしても聞きたいようで、
「私はね、水蜜。お前を食べたいんだ」
 あまり聞きたくないと思うこと、すべてを。
「この日が訪れるのを思うと、笑わずにはいられなくって」
 水蜜の頬を、雨滴とは違う雫が、すっと滑り落ちて行った。
「退屈な恋人ごっこに付き合わせて、本当にごめんね。水蜜」




*



 強まった雨脚は、さしたる時も経たない間に、地面に過剰な潤いを与えた。
そんなぬかるんだ地面を星は走っていた。降り頻る雨も、撥ねる泥も意に介さず。裾は水と泥で汚れ切ってしまっている。
二人を呼び戻す為に外へ出たようなものであったが故に、履物は粗末なサンダルであった。それが走行を阻害する。足は濡れて冷えて、軋むような痛みさえ感じられた。
それでも懸命に、なるべく速く、彼女は墓場へ向かう。
まだよくないことが起こったと決まった訳ではない。決まった訳ではないが、とてつもない不安と焦燥感に駆られていた。
途中、仲間を呼んだ方がいいかと思いついたが、何せ焦燥していたし、完全に混乱していたしで、結局単身で疑わしき場所へ向かった。

 ようやく到着した墓場にもやはり灯りはなく、夜の闇が我が物面で場を侵食している。
場所が場所とだけあって、その暗さがより一層強まっている印象を受けた。
威勢よく飛び出してきた星であったが、この墓場独特の薄気味悪さに圧倒され、到着早々、ぴたりと立ち止まってしまった。
目を凝らしてみても、葉が落ちて禿げ切った木と、雨に濡れる墓石が数個、辛うじて見える以外、何も見えてこない。
ここまで来たらもう引き返すことなどできないと、星は意を決し、墓場に足を踏み入れた。
 雨は増々強さを増して、その音が耳障りに感ずる程にまでなっていた。
すっかり雨滴を吸って重たくなった服の袖を捲くった、その瞬間、遥か空の彼方で、雷鳴が轟いた。
暗黒の世界に、ほんの一瞬だけ光が届いた。ひどく暴力的で、荒々しい光が。
 その閃光が、星の視界に、何者かを映し出した。
一瞬のことであったので、それが何なのか、本当に人であったのかさえ確信が持てなかったが、星は警戒し、その場に立ち止まる。
「誰か、いるのですか?」
 恐る恐る星は前方の暗闇に声を掛けてみるのだが、返事がない。
何もいないならいいが、見落としているだけならば警戒を怠る訳にはいかず、星はその場に立ち止まったまま動けなくなってしまった。
 そうしている内に、二度目の雷鳴が響いた。今度の雷は、地上へ閃光の刃を落としてきた。
傍に立っていた木に、雷が落ちたのだ。星は思わず身を竦め、咄嗟に頭部を腕で庇った。雷に打たれた木は炎を纏いながら折れて倒れた。
ちょっとやそっとの雨滴には負けない激しい炎が、墓場の暗闇に瑕を付ける。
その瑕から顔を覗かせた、見慣れた顔。それを見て、星は驚くべきであったのだが、驚き切ることができなかった。
何せ彼女は、この者が水蜜と一緒にここにいることを、心のどこかで予測していたからだ。
「芳香」
 宮古芳香――星にとっては見知った者だ。墓場の勝手も星より知っていることだろう。単身の自分にはこの上ない味方となる筈の人物だ。
それだと言うのに、星の心は少しも休まらない。休まるどころか、余計に荒み、鋭敏になる感覚がした。
不安と疑心に怯え、怒り、震える心。それを冷静に手懐け、おもむろに口を開く。
「あなたはここで何をしているのです」
「そう言う星こそ、ここで何をしている?」
 ぱちぱちぱち……横では雷に打たれた木が、音を立てながら灰へと帰している。
その炎が照らす芳香の顔は、やはり、笑っている。
「水蜜を探しているのです。心当たりは?」
「あるとも」
「では、案内してもらえますか?」
「案内なんて不要だよ」
 そう言うと芳香は、自身のすぐ後ろに置いてある棺桶に手を突っ込んだ。
よいしょ、と言う一声と共に、中に入っていた水蜜を横抱きして星に見せた。その無垢な笑顔が、大きな人形を抱く少女みたいな印象を与える。
ただ、抱かれている水蜜は恐怖に打ちひしがれており、人形なんて可愛らしい物とは程遠い表情をしている。
水蜜の表情から、やはり芳香は何か悪いことを企んでいる、と言うのが星にも分かった。
 一体何をする気なのかと問おうとしたのだが、水蜜はいわば「人質」の状態だろうと推測した。
人質が相手の手の内にあるのに、迂闊に相手を刺激してはいけないと、星は言葉をぐっと飲み込んだ。
 何も言ってこない星を余所に、芳香が口を開いた。
「これから夕食なんだ。私の」
「夕食?」
 芳香はこくりと頷くと、くいと顎を上げて見せた。すると、どうだろう。どこからともなく幽霊がふよふよと現れた。
すると芳香はぱっと水蜜を手放し、地面に落とした。空いた手でその幽霊を掴み取ると、りんごでも食うみたいに口へ運び、一口齧った。
食い千切られた幽霊の破片がぽとりと水蜜の頬へ落ちる。水蜜はそう遠くない自分の未来を嫌でも考えさせられ、思わず身を震わせた。
 幽霊を食い尽すこと無く、その破片を握り潰し、芳香は説明を続ける。
「私は魂とか、幽霊とか、そういうものが大好物でね」
「まさか……水蜜を食おうと?」
「その通り。この子程の力を持った亡霊なら、さぞかしいい味がするだろうから」
 握り潰した霊の付いている手を服に擦りつける。まるで素手で菓子を食い、汚れた手を清める子どもみたいに。
そんな悪びれた様子がない芳香を見て、徐々に星の怒りのボルテージが上がっていく。
「今まで水蜜を付け回していたのも、全部この為だったと?」
 星の問いに芳香は反応しなかった。ただ、にこにこと笑っているのみだ。
この瞬間、星の心に巣食っていた疑心は消え果て、不安は怒りに、そして悲しみに変わった。
――あんなに仲がよさそうな二人であったのに、芳香はただ食うことだけを考えていたと言うのか? 何時も絶やさなかった笑顔の裏には、残酷な下心だけが疼いていたと言うのか?

 裁きだとか、審判とか、そんな崇高なものじゃない。もっと身近で、分かりやすい想いが、星を突き動かした。
 ぬかるんだ地を蹴り、一気に芳香との距離を詰めて放った初めの攻撃は、頬への握り拳。
星に接近戦の心得など無い。だが、大切な仲間を貶めたこの者へ、この一撃を加えずにはいられなかった。
「どうして……! どうしてだ芳香ァ!」
 星はどうにもならない怒気を発散させるように叫び、渾身の力を込めて芳香へ殴打を繰り返した。
しかし、芳香は痛覚がない。いかに星が殴打しようとも、芳香を殺すなど勿論、足止めさえできない。
 お互いに近接戦の心得は無いとなれば、勝敗を決するのは力の差。
二人の力の差は歴然であった。キョンシーは幻想郷屈指の怪力の持ち主なのだから。
 腕が曲げられない芳香は、腕を伸ばし切ったまま強引に星の頭へ拳を振り下ろした。その攻撃方法からは想像もつかない重たい一撃が星を襲う。
よろめいた隙に、更に芳香は星の肩へ長い爪を食い込ませた。
爪を刺したまま、強引に腕を振り抜き、肉を裂く。
 ただ肉を裂かれただけとは異なる痛みが奔り、堪え切れず星は絶叫する。その傷を見た水蜜もヒステリックな声を上げた。
 肩を抑え、蹲る星に、芳香が言う。
「私の爪には毒が巡っていてね」
「毒……!?」
「早く治療しないと大変なことになってしまうかもしれないぞ」
 芳香はくつくつと笑い、蹲る星を見下ろす。爪に付いた血をぺろりと舐めてみて「不味い」と付け加えた。
 星はどうにか動こうとするのだが、毒の巡る速度は尋常でなく、早速星の意識は遠のき出し、体は言うことを聞かなくなり始めていた。
現に、傷付けられた肩は、既にびりびりと痺れて動かすことさえできない。
だが、水蜜を助けなくてはいけないと言う衝動から、蛙みたいに跳ねて芳香に飛び付き、しがみ付いた。
「水蜜、逃げて!」
 手足を縛られていてまともに動くことができない水蜜に自力での逃走を促すのは無謀ではあるのだが、今できることはこれしかなかった。
 水蜜は言われるがまま、懸命に体をくねらせ、這って逃げようと試みた。
勿論、それを芳香が見逃す筈がない。纏わり付く星を簡単にあしらうと、這う水蜜の目の前に立ち塞がった。
「逃げちゃダメだろ、水蜜」
 今まで懸命に崩してはならないと努めてきた笑顔が、今となっては恐ろしいものにしか見えない。
 全部、この笑顔の所為だ――水蜜は思った。
何もかもこの笑顔に隠されていた。この笑顔に騙されていたのだ。
「どいて! どきなさいよ!」
 手足が動かせないから、水蜜に出来る抵抗などこんな罵声くらいなものだ。
 そんな懸命な抵抗を一切無視し、芳香は前屈するみたいにして水蜜の襟首に手を伸ばし、親猫が子を運ぶみたいに水蜜を持ちあげた。
「逃げないようにしておくべきかな?」
 そう言い、芳香は人差し指を伸ばし、その爪を水蜜に近づける。水蜜にも毒を仕込もうというのだ。
 捕まりながら水蜜はじたばたともがいて抵抗した。芳香はそれを笑って眺めていたが、
「こんなに嫌がってくれるなんて、私も毒の入れがいがあると言うものだ。どれ、こんなのはどう?」
 それまで腕を狙っていたのを一変させ、右眼へその狙いを定めた。
ピントが合わず、ぼやける鋭い爪が、徐々に徐々に目へと近づいてくる恐怖に、今の水蜜が耐えられる筈がない。
言葉と思えぬ悲鳴を上げ続ける水蜜の後ろで、
「や、止めろ……!」
 星が蚊の鳴くような声を絞り出す。毒は巡りに巡って、声を出すのもままならない状態となっている。
だが、雨の音、そして水蜜の悲鳴に負け、その声は芳香に届かない。だから、凶行も止められない。


 星にはほんの少しの迷いがあった。
いくら悪党と言えど、芳香は水蜜と仲良くしていた者だ。
そんな彼女を、水蜜の目の前で成敗することは、果たしていいことなのだろうか、と。
 だが、もう手遅れだ。このままでは水蜜の命が危ない。
どんなに悲しくても、どんなに悔もうとも、命が終わればそれで全てがお終いだ。
まともに動かない体を動かし、“制裁”を開始した。


 突如放たれた黄色の光線が、芳香の右脚を貫いた。その径は脚の太さを大いに上回る。その結果、芳香の右脚は膝の少し上の所で千切れた。
ぐらりと右に傾き、地面へ倒れ込んだが、芳香は特別痛そうにする訳でもなく、毒を喰らって体の自由を奪われながらも攻撃をしてきた星に至極驚いているようだった。
無我夢中な星も、被害者である芳香でさえ痛覚が無い故に、この攻撃に特別何か思うことはなかったようだが、水蜜はそうはいかない。
目の前で、今となっては自身の生命を脅かす存在と言えども、つい数時間前まで友人を超えた関係を築いていた者の片脚が千切れたのだから。
芳香と共に地面へ投げ出された際、千切れた脚から流れる血の気色の悪い温かみを感じ、やはり絶叫した。
 星はその絶叫で、薄れかけていた意識を半ば強引に覚醒させられた。
ほとんど反射的に芳香へ追撃を加える。状況的にも精神的にも、もうあれこれと考えている余裕はなかった。
とにかく、仲間の、そして自身の命を脅かす存在を殲滅せんと、ありったけの光線を放つ。
なにぶん焦っていたし、体に巡っている毒の所為で体が思うように動かせないのもあり、命中精度はひどいものであった。近くにいた、助けるべき存在である筈の水蜜にまで当たりそうになる始末だ。
しかし、そんな出鱈目な光線の雨さえ、今の芳香には避けられなかった。片脚が千切れて只でさえ低い機動力は無に等しいと言っても過言でなくなった。霊を食って回復を狙う様子さえ見られない。
 降り注ぐ色取り取りの光線が、次々に芳香の体を貫いていく。
一発は肩へ落ち、体から腕を離してみせた。一発は目を穿ち、光を奪った。一発は腹へ落ち、一発は耳を掠め、一発は胸へ――。
光線が体を蜂の巣と化していく度芳香は「うえっ」とか「かはっ」とか小さく呻いていた。痛くはないが、体がおかしくなっていっていること、死に近づいていることは感じられるのだろう。
その声は、嫌でも水蜜の耳に届いてくる。耳を塞ごうにも手は縛られていてそれは叶わないから、水蜜は声を張り上げて泣き叫ぶことでその声を遠ざけようと努めた。
 美しい色彩を持つ光線の雨に、血の赤がぱっと飛沫を上げる。この場の主たる光源である燃え盛る炎は、三人をゆらゆらと、頼りなくオレンジ色に照らし続ける。
降り注ぐ雨の奏でる雨音。燃え盛る木が灰と化していく音。地を、肉体を貫く光線が鳴らす轟音。その光線を受けて発せられる少女の呻き声。見知った者が肉塊と化していくのを見せられる少女の絶叫。
断罪によるこの生々しい五重奏は、しばらくの間止むことがなかった。



 再び、墓場に響く音が雨音だけになった。
 もはや原形を留めていない芳香の亡骸の傍には、水蜜が横たわっている。泣き疲れたのか、助かって安心しているのか、その両方か、ひどく落ち着き払っている様子である。
 星はそこで、ようやく我に返った。無我夢中で放ち続けていた自身の攻撃で、踏み潰された熟柿みたいな状態になってしまった芳香を見て、思わず嘔吐した。
そして、体の痺れが取れ切れていないままだったが、這うようにして水蜜に近づき、彼女を拘束している縄を解いた。不器用な芳香らしい、出鱈目な結び目であった。
 拘束から解かれた水蜜を星が起き上がらせる。水蜜はしばらくぽかんと星の顔を見つめていた。
「水蜜? 何ともない? 水蜜っ!」
 まるで生気の無い水蜜の肩を揺さぶる星。それに呼応するように水蜜の表情がくしゃりと崩れ、またわんわんと泣きだし、星の胸へと飛び込んだ。
水蜜がどうして泣いているのか星は判断しかねた。だから、何も言わずにしばらくその場で水蜜の頭を撫で続けた。



*


 悲しい事件の翌日、星は竹林の奥にある薬屋の薬師から安静を命じられ、それに従い、私室の布団で横になっていた。
そんな状態の星から根掘り葉掘り聞き出した鵺の少女は、満足げに頷いた。
「つまり、芳香はずっと水蜜を食おうと」
「そういうことだったみたいね」
「誰もあいつの真意に気付けてなかったのかー。おお、怖い」
 実際は別に怖くないのであろうが、鵺の少女は大袈裟に怖がって見せた。
 その様子を後ろから見ていた水蜜が注意を促す。
「こら。星は安静にしてなきゃいけないんだから」
 注意を受けた鵺の少女は、にひひと悪戯っぽく笑った後、ぷくっと頬を膨らませた。
「はいはい、邪魔者は出ていきますよ。精々お二人だけの時間を楽しくお過ごしなさいな」
「何を言っているのよ!」
「それじゃーね。お疲れ、勇者様!」
 おかしなことを口走る鵺の少女に水蜜は照れ隠しの鉄拳制裁の一発でもお見舞いしてやろうとしたが、鵺とはそう簡単に捉えられる者ではない。
身の危険を感じるや否や、飄々と去って行ってしまった。
廊下をばたばたと走り抜けていく音が聞こえた。そして、その奥で廊下を走るなと入道を操る妖怪に注意されているのも、二人の耳に入っていた。鵺の少女の言葉もあって、二人のいる部屋は静寂を極めてしまっていたからだ。
この重苦しい静寂は、何も鵺の少女の冷やかしだけで作られたものではない。昨晩の出来事がまだ尾を引いていた。
 どことなく沈んだ表情のまま、水蜜が付近の椅子に腰かけ、項垂れた。
「水蜜。つらい……よな。やっぱり」
 星が問うと、
「うん」
 簡素な返事と共に水蜜が頷いた。
しかしそれ以上会話は続かず、またも静寂。堪った肺の中の空気を一気に吐き出すことさえ躊躇われる雰囲気である。
このため息を誘発する心のもやもやを取っておかなくてはと、星が更に言葉を紡いだ。
「芳香と仲がよかったみたいだけど……怒ってる? 水蜜を護る為とは言え、私は芳香を……」
 口にするのが恐ろしいのか、星はそこで言葉を濁した。
水蜜はあの凄惨たる亡骸を思い出し、少し口元を押さえた。しかし、すぐに取り直し、首を横に振った。
「そんなことないよ。助けてくれて本当にありがとう」
 水蜜は笑んでそう言ったのだが、星は素直に喜ぶことができず、ぎこちなく笑って見せた。
 親睦の深かった者の犯行故に、しばらくこの事件は心に付き纏うだろうと星は思った。
しかし、脅威は去った。いなくなった者のことを考え続けても仕方がない。水蜜が少しでも早く今まで通りに戻れるようにするのが、自分の役目だろうと決意を新たにした。
……しかし。
「それに、すぐに来てくれた星は、少しかっこよかった」
「えっ!?」
「星はやっぱり、やればできるんだね」
 思いがけない水蜜からの一言に、星は顔を赤くし、それを隠そうとばっと掛け布団を持ち上げて布団の中へ隠れてしまった。
水蜜が今まで通りに戻れるように云々などと考えた矢先、早速出鼻を挫かれ、自分の情けなさに涙が出そうになった。
 水蜜はそんな星を見て、くすくすと笑っていたのだが、

「おはようございます!! 二人ともこんな所で何をしているのです?」
 突然後ろから聞こえてきた山彦の大声に、ぱっと振り返ってみれば、僅かに空いた戸の隙間から、二つの目が室内を覗いているではないか。
一つはさっきまでここにいた鵺の少女のもの。もう一つはなんと入道を操る妖怪のものであった。
いちいち大きな声で挨拶をして来た山彦に、「黙れ」と身振り手振りで聞かせているのが分かる。
鵺の少女はともかく、まさか良識人と認識していた妖怪までこんな覗き紛いの行動をとっているとは思わず、水蜜の怒りと羞恥は一気に頂点へ達した。
「ふ、二人ともッ! 何をしているの!? いつからいたの!?」
 バレたと気付いた途端、覗き見ていた二人は要領よく一目散に逃げ出した。
鵺の少女はゲラゲラ笑いながら、息も絶え絶え、
「星は少しかっこよかった!!」
 見たままのシーンを再現する。悪乗りした入道を操る妖怪も、
「やればできるんだね!」
 なんて言っている始末だ。
 顔を限界まで紅潮させた水蜜は錨型の弾幕を取り出し、それを大きく振りかぶり出した。

 途端にやかましくなった場の中で星は、元の生活に戻れる日は、そう遠くないのでは――などと考えた。





*




 私は悩んでいた。
 この苦悩の、後悔の始まりは、安直に愛の告白なんてしてしまった、ある日の白昼。
その日以降、私はこのおかしな関係の始まりを後悔し、悩み、悩み、悩み、とにかく悩んでいた。
物忘れが激しい私でも、大切なこと、忘れちゃいけないことは忘れない。そしてこの悩みは、私にとって、とても大切なものの一つだった。
何せ、大好きな人の生活まで狂わせてしまう可能性を秘めていた事柄なのだから。

 そもそも、おかしいことにはすぐに気付いたのだ。
お互いが好きであると約束を取り交わす。お互いを好きであるように振る舞い合おうじゃないか――。
こんな約束は不自然だと、分かっていた。分かっていたが止められなかった。
 確かに、私は水蜜が好きだった。大好きだった。友達なんかじゃ止められない程の関係を求めていた。
できるだけ一緒にいたいと願っていた。永遠でも構わないと思っていた。
 しかし、水蜜にはその気がないことはすぐに分かった。いろんな話をしている中で、嫌でも気付かされた。
水蜜が想い慕っているのは寅丸星のみだと。
口頭では否定した。でも、私はお見通しだった。何故なら、彼女が星に対して抱いている感情とよく似た想いを、私が水蜜に対して抱いたから。
 このままでは私の最愛の人は、他の者の手に渡ってしまう。
だから私は、何かに急かされるみたいに、水蜜を自分のものにしようとした。それがあの軽率な告白へと繋がった。
 水蜜があの告白をどのように受け止めてくれていたかはよく分からない。
もしかしたら、今まで会ってきた者達みたいに、面白半分だと思われていたかもしれない。
 宴会の日、どさくさに紛れて言い放った一度目の告白も、結局は周囲に茶化されてしまった。
私は真剣だった。絶好の好機と捉えた。ここで言わなくてはいけないと思った。ただ、周りは私の真剣さには誰一人として気付いてくれてはいなかったようだったけど。
 私の体が恐ろしく固いのは周知の事実だ。だが、あまり知られていない身体的特徴がある。それは表情の変化が難しいということ。
筋肉の硬直によって、顔の筋肉まで固まってしまった私は、表情を変えるのも一苦労なのだ。
だから、日ごろから笑うように努めている。怒った顔や悲しんだ顔をすると、他人を不愉快にしてしまうから。
宴会の日もそうだった。
告白を茶化されても、水蜜にふざけていると思われた時も、星に水蜜を抱かれた時も。
本当は怒りたかった。とても悲しかった。叫んだり、泣いたりしたかった。
でもそれをすると、笑顔が崩れてしまう。だから私は懸命に笑った。懸命に。誰も不幸にするものかと。
 しかし、この笑いっ放しの状態が、後々あんなに役立ってくれるとは、この時思ってもいなかったけど。


 あの告白にいい返事を返してくれたことに、私は心底驚いた。
 そして、関係が変化すれば、もしかしたら水蜜の気持ちも変わってくれるかもしれない――そんなことも考えた。
 しかし、そんな淡い期待もすぐに打ち消された。
水蜜は関係の変化による立ち振る舞いに困惑していた。なるべくそれを悟られぬように振る舞っていたが、想い慕う人の変化に気付けない程、私だって鈍感ではない。
やはり、水蜜の想いは星に向き続けていた。彼女が一緒にいたいのは、私ではなかったのだ。

 好きな人と、その人を苦しめている罪悪感を同時に手に入れて、これからどうすればいいのか迷った。
 物忘れが激しいことを理由に付き合いを続ける手もあった。忘却に何もかもを押し付けてしまおう、というものだ。
だから、数日の間はこの罪悪感を忘れようと努力してみた。いつものように、見たこと聞いたこと全部忘れて、毎日新しい気持ちで水蜜に会おうと。
水蜜を困らせていることも、水蜜の本当の気持ちも、全部忘れてしまおう、知らないふりをし続けようと試みた。
しかし、それも叶わない。都合よく記憶を消す器用さなど私にはない。忘れよう、忘れようと思えば思う程、その罪悪感は心に焼き付いて離れない。
 ならば、これ以上傷を増やす前に別れを切り出そう――それが一番だったと思ったのだが、私はそれでまた生じる関係の変化を恐れた。
恋人同士でなくなったら、友達同士に戻れるのか? 今までみたいな関係に戻れるのか?
そうとは到底思えなかった。お互いを騙し合っている今の関係が終わって、また何の変哲もなく会えるとは考えられない。
 進めども戻れども、もう水蜜との間に出来上がった関係の歪みは修復できない。私はそれに気付いてしまった。


 水蜜は優しい。私に負けないくらいの作り笑いで、根気よく私と『恋人ごっこ』に付き合ってくれた。
でも、もうその笑顔さえ、見るのがつらかった。
私はなんてバカなことをしてしまったのだろうか――今でも軽率だった自分が恥ずかしい。
 これ以上、水蜜を苦しめる訳にはいかなかった。
くどいようだが、水蜜は優しい。優しいから、私を傷つけまいと無理矢理笑って恋人として一緒にいてくれた。
そんな優しい水蜜を幸せにしながら、私が水蜜から身を引く方法を探し求めた。
ただ別れを告げたり、自然消滅するまで私が身を隠しただけでは、水蜜が気に病む可能性がある。
 そうして考え付いたのが、水蜜に見損なわれる、と言う手段。
水蜜がうんと私を嫌ってくれれば、きっと彼女は私がいなくなろうが何だろうが、その後気に病むことはないだろう。
どうせ、もう元の関係には戻ることなどできないのだ。今まで水蜜を苦しめてきた対価としては丁度いい。
私は誇り高きキョンシーなのだ。愛しい人を苦しめた罰を受けよう――。そう決めた。


 そう決めてから、ずっと機会を窺っていた。
 そして訪れたのが、私の命日。空は曇りで、一雨降りそうな雰囲気があった。実際に、本当に丁度いいタイミングで雨が降って来てくれた。

おまけに、水蜜がいなくなる前、私と彼女が一緒にいたことは星が見てくれていた。よりによって星だ。きっとこの世から私が退場した後、これは大きな意味を持ってくるだろうと思った。
生命を脅かされた水蜜が、大好きな星に助けられるなんて、これ程ロマンチックな展開はそう無いだろう。
門の掃除をしている山彦もいなかったから、外で水蜜を気絶させて墓場へ運ぶのも容易だった。
雨のお陰で足跡がくっきりと残るから、私が墓場に向かったことは一目瞭然だっただろう。足跡の始まりの地点に帽子を置いておけば、怪しさも増す。
何もかもが私の計画に追い風となってくれていた。
何もかもが私にこう言っていたような気分だった。『最愛の水蜜の為に死ね』と。


 水蜜も星も簡単に騙されてくれた。
いつも笑っていなくてはならなかったのがここで役に立ったのだ。
笑顔のままで、即ちいつものままで、ありもしないことを喋っているだけで、二人は私を悪者だと感じてくれたみたいだ。
 それはそれでよかったのだけれど、少しだけ、悲しかった。
ほんの少しでいいから、疑ってほしかった。
 水蜜には申し訳ない気持ちでいっぱいだったから、一回だけ心の底から謝っておいた。
『退屈な恋人ごっこに付き合わせて、本当にごめんね。水蜜』と。
 許してもらえたとは思っていない。許されようとも思っていなかった。
ただ、謝らないと気が済まなかった。






 浄玻璃の鏡が、真っ暗になって、ただの鏡に戻った。
そこには、ただの魂と化した私が映っている。
その鏡の向こうには閻魔様がいて、じっと私を見つめている。
気難しそうな顔だ。少しだけ、私の行き先を決めかねてくれているようにも見える。


 しばらくして判決が出た。地獄行きだ。
無理もない。いくら罪滅ぼしにこの身を滅したと言えど、私がやったことは私利私欲の為の行動であり、酌量の余地はない。
水蜜に怖い思いをさせた。星を傷付けた。
そんなことは分かっていた。けど、判決に不服はない。

 然るべき場所へ向かおうとした私に、閻魔様が問うてきた。
「悔いはないのですか」


 私は答える。
笑う肉体はもうないけど、もしも肉体がなかったら、私は心の底から笑えたことだろう。

「ないよ」


――私は、誇り高きキョンシーだからな。
 こんにちわ。pnpです。

 神霊廟の新キャラクターをお借りして一作書いてみました。
いろいろ考えられる便利な子ですね。
 しかし私は響子ちゃんの方が好きです。
 何かいいネタさえ降ってきてくれれば、響子ちゃんでもSSを書きたいなと思います。

 ご観覧、ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。
――――――――――
>>1
本編が霞む。

>>2
ありがとうございます。今後も是非御贔屓に。

>>3
しかし芳香はいいと思っているなら、それでいいとも思います。

>>4
本当ですね。

>>5
芳香と水蜜は絶対に流行っていいと思います。

>>6
いつになるか分かりませんけどアフターストーリー書くかもしれません。

>>7
感じ方は人それぞれですね。しかし、いい話だと感じて頂けたなら幸いです。

>>8
製品版で情報が増えてこの環境が崩れて欲しくないという´`
pnp
http://ameblo.jp/mochimochi-beibei/
作品情報
作品集:
26
投稿日時:
2011/05/31 12:52:43
更新日時:
2011/06/07 21:19:57
分類
新作ネタバレ注意
宮古芳香
村紗水蜜
虎丸星
1. NutsIn先任曹長 ■2011/05/31 23:01:43
愛の形は人それぞれ。
奪い、奪われ、奪わせる。

恋の航海、波高し。
乞いの公開、どんと晴れ。
故意の後悔、後に凪。

死人同士の恋愛ごっこ。
恋の弾幕雨あられ。

濃い火と濡らす雨の中、
囚われ捕まるショータイム。

王子は姫を助け出し、
動機は秘めて道化は退場。

ようやく仮面が外れたよ。
ようやく素顔を拝めるよ。

堅物捧げる鏡見て、
笑顔を浮かべる己あり。

――愛する人のために舞った、恋に殉じた道化の笑顔が、そこにあった。
2. 名無し ■2011/05/31 23:41:31
pnpさんの作品を毎回よんでいます。
いつも面白い作品をありがとうございます!
3. ハッピー横町 ■2011/06/01 21:50:06
己を殺す愛。報われないなぁ……。
4. 名無し ■2011/06/02 00:00:49
やっぱり三角関係はいいなあ。
以前のcollapseの時も思いましたが、命蓮寺は結束の固さそのものが罪ですよね
5. 名無し ■2011/06/02 02:14:14
芳香ちゃんほんと、水蜜の事が好きだったんだなぁ
マジ健気。そして策士
ありがとです
6. 名無し ■2011/06/02 17:39:18
三角関係なお話かと思ったらただただ芳香ちゃんが健気なお話でした。
一度きりの謝罪が水蜜に伝わっていることを願います。
残った二人が幸せになりますように。
7. 名無し ■2011/06/04 17:11:20
普通にいい話で少し驚いた。
この芳香がいい奴だったとは思わないなあ。悪ともおもわんけど。
結局自分の勝手な考えで勝手に動いただけだし。
8. Pa ■2011/06/05 10:04:55
ほのぼの系と見せ掛けたサスペンスかと思いきゃ、切ない系のいい話でした;;
身勝手かもしれないけど、不器用な芳香ちゃんが可愛いデス。

それにしても体験版の限定された条件から、ここまでストーリーを膨らませられるっていうのは凄いな〜@@
名前 メール
パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード