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『さとり草とすごす日々』 作者: 石動一
7時38分、ベルが鳴るより2時間前に目が覚める。部屋を見えなくするだけしか役に立たず、昇った陽の光を容赦なく浴びせる薄い安物のカーテンが原因か、それとも毎日ここを通ってどこかへ行く大型トラックが地面を揺らしたのが原因か、上階に住む先輩がアルバイトに向うために階段を駆け下りてギシギシと板を痛めつける音が原因か。どれか、と今誰かに問われたら、僕は全部と答えるだろう――実家を離れ、一人暮らしをはじめる若人が平穏なキャンパスライフを送るための――そんなキャッチコピーになんら疑いを持たず、大学から徒歩五分、駅から一時間と遠いのか近いのかよくわからない条件をロクに考えないで、このボロアパートに引っ越してきてからというものの、目覚まし時計より遅く起きれた試しがない。
五十歩、いや百歩ほどポジティブに考えれば、どんなに授業が早く始まろうと決して遅刻しないというメリットがあるが、先人に留年した者がいるのを見る限り、考え直した方がいいかもしれないと常々思う。
確か今日、僕が受ける予定の授業は昼だけだ。つまり、強制的な早起きは惰眠を貪りたい大学生にとってマイナスにしかならない。夜更かし大好き人間にとって日光は敵だ、煎餅布団は母だ、目を覚ます度、僕はあと五分という定番の呟きを残して夢の世界に再び飛び込めないこの環境に、呪いと後悔の言葉を吐きつつ、灰になる心地で頭が動くのを待つ1匹のブルコラカスとなる。
「……よし」
と、いうのも引っ越してから数ヶ月の間だけだ。慣れるより慣れろ、騒音だらけのこの建物で、惰眠を貪る先輩同居人に習い、気がつけば早起きをさせられる以外のダメージを受けない体質になっていた。体を起こせば糸で操られるように立ち上がれる。『一人暮らしをするなら習慣を身に付けろ』というのは、実家を出る前、父に耳にタコができた程に言い聞かせられた言葉だ。
タコになった父の言葉はまさしくその通りで、体はあらかじめ準備していた炊飯器のスイッチを入れ、コンロに火を付けて味噌汁を温める。起きたら必ずこうすれば、ぼんやりとした思考のまま呆けて過ごし、気がつけば出かける時間になり、慌てて準備をしているうちに食事を抜くという体たらくを避けられる。さすが一人暮らしの先人である父の言葉は偉大だ。偉大すぎる。おかげで大学の授業ではまだ後悔の航海に出たことがない。
後はご飯が炊けるまでにシャワーを浴びて頭をすっきりさせ、授業の時間まで日光浴を楽しむまでが僕の今までの習慣だったが、その前に一つやらなくちゃいけないことがある。
冷蔵庫から紙コップを取り出す、水がよく冷えてて、挿しっぱなしのストローから水滴が垂れていた。まず自分で一口、乾いた喉を潤す。後の分は、同居人へ。
「さとり、起きてる?」
窓際の下、カーテンから漏れる日光を浴びている同居人に声をかける。植木鉢から出ている赤い目玉がギョロリと僕を睨み、管で繋がっている植物よりも植物然とした、沈黙と静寂の雰囲気を感じさせる端正な顔立ちの少女が、優しいピンク色の髪をふわりと揺らしてにっこりと微笑んだ。目玉はともかく、植物の少女――さとり草に反応されると思わなかったので、僕はちょっと驚いた。
頬に手を添え、ストローで水を飲ませる。『彼女』も喉が渇いていたのか、勢いよく中身が減っていく。口の端から零れた水が、さとり草の脇から押しのけるようにして生えている草を伝い土に染みていった。これも立派な栄養になるらしい。
口元を拭ってやり、僕の膝に植木鉢を乗せる。髪を撫でるとピンと寝癖が跳ねた。後で梳いてあげないと。
炊飯器がシュンシュンと頑張りはじめる音にしばし耳を傾けながら、僕はさとり草の髪を撫でる。新しい習慣の一つ。
「さとり」
植木鉢の向きを変えて僕はさとり草と向き合った。閉じられた目がじっ、と僕を見つめ返しているような気がする。
(おはよう、さとり)
僕はもう一つの習慣。朝の挨拶をするため、心に浮かべた言葉を唇から唇に伝わせてさとり草に語りかけた。
真っ白な肌がうっすらと赤くなる。
返事はないけど、『おはよう』と。
聞きたくないけど聞きたい声の代わりに、さとり草は合わせた唇を微笑ませた。
授業を終え昼食を済ませたら午後の3時を過ぎていた。今日はバイトをいれてないので、友人達と別れて大学を出る。向う先は家ではなく駅の方面。目的地はその少し手前にある。用事があっても無くても必ず立ち寄る毎日の楽しみに急ぐ僕の足取りは、大学に向かう五分間の歩行よりずっと軽い。
人通りが多い大通り、スクランブル交差点が見えはじめると、都心によくある細々とした分かれ道に行きあたる。その一つを進んでいくと、盛況しているチェーン店の影が見えなくなり、少し錆のあるシャッターが下りっぱなしの店がちらほらとある寂れた路地に出る。商店街の名残という奴だ。個人経営は地域に密着しているもの以外、時代の流れについていけず、誰とも知れずひっそりと幕を閉じる。ここだけではなく、この国のどこにでも見られる光景だ。
ただ、その中で綺麗に掃除された看板を掲げる店がある。「植木屋ゆうかりんランド」と達筆な字なのにファンシーな名前が異様に目立つ看板の下に立つと、ガラスドアの向こうで早くも『商品』達が僕に気が付いて口を開いたのがわかった。
背の高い商品棚が四つ、店の外から見えるように横向きに並べられている。
その中に納まっている色々な『植物少女』達に手を振り、僕はドアを押してガランガランと鳴るカウベルの音に顔をしかめながら中に入った。
「今日も来たの? 暇ねーあんた」
カウベルが収まると、今度は店員とは思えない言葉が飛んでくる。僕はにっこり作り笑いを浮かべて、レジ台に置かれている植物少女に言い返してやった。
「忙しいけど会いたかったのさ」
「あら、別に無理しなくてもいいのに」
威圧感のある凛としている大人びた声。鋭い目に睨まれる。ウェーブのかかった緑髪をドアの風圧でなびかせ――ゆうか草は害虫でも見かけたような表情で。
「どうせコンビニで立ち読みしかしない連中と同レベルなんだから」
「いやいや、君のと話をするのは雑誌を読み耽るよりとっても有意義だと思うよ、こんな美人とお話できるなんて滅多にないからね、僕は毎日話せて幸せ者だよ」
歯が浮きそうだ。初っ端からこうだと言ってるこっちが恥ずかしくなるが、ゆうか草とのやりとりは今日が初めてじゃない。軽口の叩きあいが僕と『彼女』のスキンシップなんだ。
「きもちわりー台詞!」
「うるさいな!」
「あっはは、言われてんの」
ゲラゲラと笑ってる青いリボンをつけた子供の植物、チルノ草につい怒鳴ってしまった。ゆうか草にも笑われる。言わなきゃ思ったと矢先。
「幽香ーっ! 美人のあんたに会いにいつもの奴が来たよ! お話して幸せになりたいんだってさ!」
ゆうか草が追撃を仕掛けた。止めるすきも無い。店の奥にある小部屋、作業室からガタンと何かを倒す音が響く。僕は心の中で謝った。
「い、き、な、な……」
わき腹を押さえながらよろめいて出てきた幽香さんは、ゆうか草に怒鳴ろうとして僕に気が付き、慌ててにっこり笑顔を作った。けど額には脂汗が浮かんでる。
「ごめんなさい、気が付かなかったわ」
「いえ、こい……ゆうか草と話してましたから」
赤いチェック柄のエプロンで汗を拭く幽香さんに軽く頭を下げる。エプロンは所々が土で汚れていたらしく、額には汗に代わって土がついていた。
「ふふ、それなら安心ね。でもちょっと待ってて、今から『この娘』達に水を上げないと」
「あ、手伝います」
「ううん、すぐ済むから。どうせ暇だしご飯に付き合って」
言うなり作業室に戻ってしまう。レジ台に腰掛けると、ゆうか草が魔女みたいな含み笑いをしながら僕を見上げた。盛大にため息を返す。幽香さんと同じ顔のくせに、性格は本当に真逆だ。
先ほど僕を笑ったチルノ草は、隣にある仲良しの大妖精草、大ちゃんに怒られていた。
「しばらく来なくなると思ってたのよ。あんたあの娘に熱を上げてんじゃないかって幽香と話してたの」
「さとりとここは別だよ。僕と『あの娘』は僕と『あの娘』のすごし方がある」
「ふうん……ま、問題なさそうね」
どういう意味? と聞く前に、両手にトレイを持った幽香さんが出てきた。トレイには僕が今朝、さとり草に与えたものと同じ、水の入った紙コップが大量に乗っている。
「あまりお兄さんを苛めちゃ駄目よ、チルノ」
「えー、面白いもん!」
「あまり大ちゃんに怒られないようにしなさいな。はいお水」
「んー♪」
「大ちゃんも、いつもありがとね」
「は、はい、お母さん」
「ふふ、いい『娘』。夜に絵本を読んであげるから、皆と何が読みたいか相談してね、できる?」
「お母さんが読んでくれるなら、何でもいい」
「嬉しいわね、でもちゃんと聞かないと駄目よ、大ちゃんは皆のお姉ちゃんなんだから」
「はい!」
と、一鉢ずつ声をかけ、ストローを咥えさせてあげている。十数鉢の植物少女は大きくても十五歳程度の外見年齢だから、お母さん、と呼ばれる植木屋の店主が保母さんで、商品である『彼女』達が児童施設の子供にしか見えない。
最後にゆうか草に水を与えた幽香さんが、さて、と一区切りつける声を出し、手をパンと叩く。
「留守番お願いね、ゆうか」
「あいよ、幽香」
そして僕にもう一度にっこり笑うと、そのままドアを開けて店を出る。
言おうかどうか迷ったが、僕もゆうか草に行ってきますと告げて、閉じようとしているドアを開けて店を出る
土で汚れたエプロンと、そのエプロンで額に土をつけたままの幽香さんを追って。
喧騒の中にカチャカチャとナイフとフォークが擦れる音がやけにはっきり聞こえて、ぴたりと止まる。おずおずと横を見て恥ずかしそうに、チラチラとエプロンに目を落とす幽香さんを眺め、僕は珈琲を味わっていた。着替えるのを忘れたまま、人で賑わうファミレスに来てしまって恥ずかしげにしているが、食欲には勝てないらしく、注文したホットケーキを黙々と食べている。邪魔するものもなんなんだから、僕も喋らずに黙っていた。わざわざ自分の店を離れるのだから、植物少女達に聞かれたくない話なのだろう。
どちらにしろ、二人きりで話せるのはゆうか草に囃し立てられた通り、すでに幸せな気分になる。
幽香さんは見た目は大人びているが、年齢は僕より二つか三つ上なだけで、成人してから間もない女性なのだ。悲しいかな、男は美人と銃器とメカに弱い。
そんな年齢なのに、幽香さんは店主として立派に仕事をこなしている。巷に溢れている植物少女専門店に比べ、個人経営であるがために客足は少ないが、その少ない客から絶大な信頼と人気を得ている。
植物少女は植物であるが植物にあらず、人間であるが人間にあらず。されど言葉と意志がある。
例え人工栽培され、ある種は工場で生産され、物として店頭に並んでも、幽香さんにとって『彼女』達はコミュニケーションが成立する立派な生き物だから、対等に接しないといけないと考えている。だから幽香さんは植物少女のことを、カタログで見かける観葉植物、観葉人間、つまり物として扱わず。『娘』『あの娘』と呼んで、どの鉢にも愛情を注いで育てる。その姿勢と自論が、彼女の店が寂れた商店街にあっても変わらず輝いている理由だ。
植物少女に興味を持って、金も無いのに店に毎日のように通う僕を煙たがらないのも、『あの娘』達が喜ぶからだ、と幽香さんは言ってくれた。僕は彼女を尊敬して、植物少女を幽香さんと同じ目線で見て、『あの娘』『彼女』と呼ぶ。
「いやあ、君がこの前くれたアレ、凄いよ。もう毎晩使ってる」
「でしょう、高いけど奮発したかいがありましたよ、仕立て上げるのには時間がかかりますから」
ふと、二人組みの男の会話が聞こえてきた。植物少女のことを考えてたから耳に入ったのだろう。だけど、耳に入れたくない会話だ。すぐに内容が想像できる。
「首だけってのもいいねぇ、金を使い続けるより、ドッと出して道具を買って終わらせるのが一番だ。下は出し続けてるけどね、ウハハハ!」
「でしょうでしょう、それで今度の件ですが」
「うんうん。任せてくれよ、君の頼みなら何でも聞くよ」
よほど上等な――特別飼育された植物少女を商談に使ったのだろう。そのまま難しい話をはじめたので、僕は意識を幽香さんに集中させた。目の周りが無意識に険しくなっているのに気が付く。
「生身の女より植物の方がいいなんて、変態さんね」
ホットケーキを食べ終えていた幽香さんは、僕と同じように二人の男の話に聞き耳を立てていたらしい。年上の同姓に対する、同属嫌悪的な感情を抱いた僕に対して、幽香さんの態度はどうでもいい、といった感じの涼しげなものだった。ストイックと言い切ってもいい感覚がある。自分が愛を注いでいる植物少女と同じ顔をした別の植物少女が、毎晩、口淫を強いられている現実を事も無げに受け流しているのだ。
「ごめんなさい」
僕に見られているのに気が付き、幽香さんが頭を下げる。一瞬、あの男達に呟いた言葉のことだと思ったが。
「さとり草。押し付けるようにしちゃって」
「あ、いえ、そんな謝られても」
つられて僕も頭を下げた。
さとり草は、数日前に幽香さんの店で「初めて買った」植物少女だ。飼育が難しく、しかも色々と原因のわからない難を抱えているため、さきほどの男達みたいな連中か、沈黙を好む人種くらいしか欲しがらない。もしかしたらあの男に贈られたのはさとり草かもしれない。
なんて考えが浮かんで、僕は首を振って頭に浮かびそうになった想像を振り払った。
「手違いだなんて初めてだから私慌てちゃって。業者にも返せなかったから、こういう言い方嫌だけど、助かったわ」
嫌だけどちゃんと言う幽香さんは、正直で優しい人だ。
「でも、そのおかげで僕は『彼女』と出会えました」
「……うん、ありがとう」
礼を言うのはこちらなのだが、思わず頬をかく。
さとり草が抱えている難は、他の植物少女と比べ物にならないくらい、はっきり言ってしまうと酷い。
まず耳が聞こえない。続けて目が見えない。『彼女』には赤いもう一つの目玉があるけど、あれは意味を成さないことが研究でわかっている。そして、喋らない。喋れるのだが、それは枯れる直前、寿命が尽きる前に、育てた相手に対し、一言だけ声を発すると言われている。だから僕が『彼女』の声を聞く日は、同時に『彼女』との別れになる。
嫌だけれど、その日は来るだろう。
「私があの娘を店に置かなかったのは、他の『娘』のためだったわ。チルノみたいに騒がしい『娘』や、大ちゃんみたいに世話を焼きたがる『娘』に静かすぎる娘はストレスの原因になる。さとり草も……相性ね。ゆうかも、たぶん。気をかけるから」
「みんなのこと、考えてるんですもんね」
「会わなければ気にする必要は無かったの。でも会ってしまったから、どうにかしないとて焦っちゃって」
そこに、うってつけの僕が来たというわけだ。
僕は喜んで彼女を家に迎え入れ、何事もなく生活している。これから何事かあるかもしれないけど、僕は『彼女』の飼い主として向き合って行きたい。
「もう、大丈夫ですから、僕達」
「うん、うん」
少し俯いて、幽香さんが繰り返す。これじゃ別れ話だ。
「さとり草は可愛くて、今では『彼女』がいない生活を考えたくないくらいですよ、チルノみたいにうるさくないしね」
「ちょっと、チルノの悪口は許さないわよ」
元気付けようとしたら怒られてしまった。横を通ったウェイトレスが面倒はごめんだとばかりにこっちを見る。
「朝起きたら、彼女と日光浴をするんです、それから教えてもらった挨拶をしてます」
「ちゃんと触れ合ってあげてるのね、偉いわ」
「心で言葉を浮かべながらその、キスするのは恥ずかしいですけど」
さとり草は、多くの難を持つ代わりに、人の心を読む力を持つ。他の植物少女もなんらかの力を持っているが、それは研究でもわかっていない。
さとり草が心を読むためには、体液、つまり唾液や血を飲ませることが不可欠だ。幽香さんは植物少女と親しくなるためのスキンシップとして、僕にキスするように指導した。
感覚と感情しかないさとり草にとって、それが一番、大事にされていると実感できるのだそうだ。
最初はもちろん、戸惑った、なんせファーストキスが植物少女だ。これじゃあまるで。
「恋人みたいだなって思ったでしょ」
「うっ」
「顔、赤いわよ」
しまった。無意識に数日の挨拶を思い出していたらしい。自分だけのことを他人に話すとなると。これは恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
「ふふ、いいのよそれで」
「いい……のかなぁ」
「うん、植物少女だって心はある。感情があるの、だからあなたが恋心を抱いても、それは普通のことなの…………ねぇ知ってる?」
幽香さんはえへん、とわざとらしく咳払いをすると、テーブルに身を乗り出して僕を見上げた。ゆうか草が僕に見せた、魔女みたいな含み笑いを浮かべて。
「植物だって、恋をするのよ」
ゆうか草と幽香さん、顔は同じで性格は真逆だと思ってたけど。
「は、はい」
どうやら、ペットは飼い主に似る。というのは植物少女にもあてはめられるらしい。
ただいま、と声をかける前に、テーブルの上に移動させていたさとり草がにっこりと微笑んだ。
耳が聞こえないのにどうしてわかるんだろうか? 不思議でならない。
帰宅した僕を迎えてくれた『彼女』に髪を撫でて答え、腰を降ろす。頭にあるのは、幽香さんが最後に言っていた植物も恋をする、という言葉。
植物少女と人間が添い遂げた事例は知る限り聞いたことがない。
「恋をする、か」
僕と、さとり草が。
どうだろうか、僕は彼女に恋をするのだろうか。何度も唇を交わしているのもスキンシップ、コミュニケーションのためだけど、恋人として、キスをする日がくるのだろうか。
なにより、とり草は僕に恋をしてくれるのだろうか。
ぽつりと浮かんだ疑問は、狭い部屋よりも大きく膨らんでいき、僕はあぐらをかいたまま天井を見上げしばらくそのことを考えてみた。
「……」
考えてみたけど、わからない。なに出会ってから数日だ。種類としてのさとり草なら勉強したからわかる。でも僕は、このさとり草のことをまだよく知らない。
気が付けば僕は植木鉢を引き寄せていた。さとり草が、小さな唇を突き出している。日課だと思ったのか。ふと笑ってしまう。
「さとり」
僕は『彼女』の名前を呼んで、突き出された唇に唇を重ねてキスをする。
心に浮かべた言葉を、水が土に染み渡るように。
(前にも言ったけど、これからもよろしくね、さとり)
一瞬だけ、僕は恋心を抱いてくれるか聞こうと思ったけど、無粋だと思って止めた。
僕がこのさとり草のことをまだわからないように、さとり草も僕のことをよくわからないと思ったから。
どうして僕がさとり草に惹かれたのか、幽香さんに頼まれてじゃなくて、安く変えたからじゃなくて、本当は、『彼女』のことがわからないから好きになったのかもしれない。
なら、わかってきたら愛になるのだろうか。
「あ……」
唇を離したさとり草が、いつもよりずっと頬を赤くして、見てわかるくらいにはずかしそうに、はにかんでいた。
読了、ありがとうございました。
絵羽さんの東方植物園を見た瞬間に、私はこの少女達に心を惹かれ、ほづみさんのさとり草を見た瞬間に心を奪われました。
素敵すぎます、この娘達は。
植物少女と彼女達をカテゴライズしたのは、SSの関係上、呼びやすくするためです、勝手な改変申し訳ございません。
さとり草漫画を見てからずっとこの二人のその後を考えて、気が付けば筆を取っていました。
楽しんでいただければ幸いです。
P.S
もうちょっとだけ続けたいんじゃよ
石動一
https://twitter.com/isurugi_hajime
- 作品情報
- 作品集:
- 26
- 投稿日時:
- 2011/06/09 12:31:43
- 更新日時:
- 2011/06/09 21:31:43
- 分類
- 僕
- さとり草
- ゆうか
- 幽香
- 独自設定
恋して候。
愛しさと理由無き感情。
さとりを愛して麗し感想。
首だけ彼女にゃ言葉は不要。
彼女に口付けココロが肥料。
お惚気話は始まったばかり。
続きが気になるバカ一人。
主人公と趣味が同じと喜ぶバカ一人。
動く石には苔むさず。
いの一番にきらりと光る。
駄文失礼これにて草々。
「いやいや、君のと話をするのは〜」 君と
安く変える 買える
とり草 さとり草
さまざまな感情が喉からあふれ出し、首をつたって僕の両手をキーボードへと誘おうとざわめいていますが、
それをこらえて一言。
さとり草ちゅっちゅ!
一応言っておくと、絵羽じゃなくて紅羽(べには)です…
大変失礼しました、申し訳ございません……
僕もさとり早、一鉢欲しいな。