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『瞳の中の・・・(後編)』 作者: IMAMI

瞳の中の・・・(後編)

作品集: 26 投稿日時: 2011/06/12 12:03:45 更新日時: 2011/06/12 22:33:48
グチュッ──ズチュッ──

「ごっ……かはっ………!」

地霊殿の一室にて、星熊勇儀は亡霊から凌辱を受けていた。

亡霊の凶棒が勇儀の充血した秘所に捩じ込まれ、後ろからも尻穴を凶棒で責められながら、豊満な乳房を揉みしだかれる。

(もう……やめ……て……)

秘所を責めてた凶棒が絶頂し、精液を勇儀の子宮に放つ。尻穴の方も絶頂し、直腸の奥にまで精液を注ぎ込まれる。

「あ……ぁぐっ──」

亡霊が離れると精液や愛液、血を吸いすえた臭いを放つ絨毯に勇儀は倒れ込む。

(ちくしょう……こんなっ、亡霊なんかに──)

何回精液を放たれただろうか。喉の奥に、燃えるような金髪に、豊満な乳房に、秘所に、直腸に、顔に───
亡霊は何日もかけて勇儀を凌辱した。

マダダ……

マダ、モラウ……

「うぐっ……もう、やめて……!」

こんな声を出したのはいつぶりだろうか。かつて四天王だったこの自分が、こんなことに……

うつぶせになった勇儀の精液がまだ溢れだす尻穴に別の亡霊が凶棒をねじ込もうとした瞬間──

ギィエエエェェ!!

亡霊の絶叫が響いた。

「………?」

首だけを動かして亡霊の方を見る。だが亡霊はもうその場には居なかった。

ナニ……

グググ……

別の亡霊を見ると、薄暗くてよくわからないが残った亡霊全ての身体に何かが巻き付いているようだ。

ガアアアァァァァァ!!

ゴオオオオォォッ!!

その亡霊達も絶叫し、かき消えていった。

「大丈夫?」

目の前に突然人影が現れる。小さな少女が自分を見下ろしている。

「………誰だ?」

「こいし。古明地こいし」

「えっ……!?」

こうなってしまった場所でその名前を聞くとは思わなかったため、驚愕する勇儀。

「灯り、つけるね」

こいしと名乗る少女が壁についている電気を点ける。電気の供給はまだあったらしく、部屋が一息に明るくなった。

「………!」

「やっぱり勇儀さんだ」

黒い帽子と青いサードアイ。勇儀の記憶の中の古明地こいしと一致した。

「あっ……!」

そういえば自分は何も着ていない。慌てて胸と秘所を手で隠す。

「ごめんね。何も用意してないの。タオルケットそこにあるから……」

勇儀はこいしに示されたベッドの上のタオルケットを取り、身体を隠した。

「じゃあね」

「お、おいっ……!」

こいしがそのまま出ていこうとするのを勇儀が止めた。

「どうやってここに…?」

「歩いてきたわ」

「違う。亡霊に襲われなかったのか?」

「襲われたよ。でも全部倒しちゃった。直接妖力を思いっきり流し込んだらかき消えちゃうよみんな。地の利もこっちがあるし」

「……さすがめざめの子だな」

としか勇儀は言えなかった。

「うん。生きてる人はみんな助けたから。自分で戻れる?」

「ああ。なんとか立つことぐらいは出来そうだ。こんな恰好だけど仕方がない」

「じゃあもう行くね。かなり倒したから襲われたりすることはないと思う」

こいしが去ろうとする。

「待てって!どこに行くつもりなんだ!?」

「灼熱地獄」

「灼熱地獄……?なんでそんな所に」

こいしは勇儀に背を向けたまま応えた。

「教えない」
















「いたたた…」

灼熱地獄にたどり着く頃にはこいしの身体も無傷ではなくなっていた。服はあちらこちらが焼け焦げ、柔肌にはいくつもの火傷の跡が出来ており、切傷も脚や肩にかけて数ヶ所ある。

自分の推理が正しければ、この先、灼熱地獄の制御場に彼がいる。

既に脱水症状気味だか、こいしは速度を落とさずに飛ぶ。そして、とうとうその場所についた。

溶岩の上の巨大な足場。そこいっぱいに組まれた巨大な魔方陣───そしてその中心に横たわる人影とそれを見下ろす小さな人影。

「!」

魔方陣の上にこいしが降り立つと、その人影がこちらに気付いた。

「こいし様……」

「波岩おじさん……」

上半身だけのてけてけの妖怪がこいしの姿をみて驚愕する。
まだめざめが地霊殿を治めていた頃に怨霊を管理していたネクロマンサーだ。

この男、ネクロマンサーという陰惨な印象のある仕事をしていた割には、人当たりもよい好好爺で、めざめの信頼も厚かった妖怪である。

「なるほど。地霊殿で暴れていたのはあなたでしたか」

「おじさん……なんで……?」

こいしもまたその男を見て、驚愕する。

「なんでそんなに若いの!?」

"好好爺"であった筈の彼は、見違える程、容姿が変わっていた。若くなっているのだ。死んだめざめと同程度。年齢であろうか。

「ええ。500年程若返りましたよ。怨霊にとり殺され、蘇りました」

上半身だけのてけてけの妖怪、波岩は、ふわりと浮き上がる。

「私の怨念が私をこのような姿にしたのでしょう。私が信奉するめざめ様への想いと、彼を殺した、この汚い雌猿への怨みです」

波岩が、もう一つの人影を示した。

「………!!」

それは、一糸纏わぬ姿で魔方陣の中で横たわっていた姉、さとりだった。
さとりの目は何も映っていないかのように虚ろで、こいしが視界に入ってもなんの反応を示さなかった。さとりの身体からは怨念のような物がわき出ているのが、専門家ではないこいしにもはっきりわかった。つまり、それほど強い怨念なのだ。

「いかがですか?あなたの姉でございます。あなたの最愛の父であり、私の最愛の主の暗殺を下した、古明地さとりでございます」

波岩の瞳が鈍い光を湛える。

「ふふふ…彼女はもう、生きることも死ぬこともございません。怨霊の苗床となりました。怨霊に永遠に蹂躙されながら存在し続けるのですよ」

「………」

こいしは息を呑む。この女が、私のお父さんを──!

「あなたも分かっているでしょう?いえ、おそらく地底にいる連中も白痴でなきゃ分かっているはずです。残念ながら証拠はありませんが。
この雌猿があの汚い河童を護衛につけたことがありましたね?覚えていますか?河童は路地裏で殺害され、雌猿が単独行動しています。そのときに殺し屋と接触したのでしょう」

「……うん」

「こいし様。地底を支配しませんか?」

「えっ?」

「地底の最強格のと謳われためざめ様は亡くなり、星熊勇儀は私の亡霊によって下りました。おそらく実力が地底で一番あるのは、私とこいし様です」

灼熱地獄の物とは違う異様な熱気が二人を取り巻く。だが、その熱気からのものとは違う汗をこいしは背中にかいた。

「もちろん、私はあなたを主とします。どうですか?こいし様」

ゆっくりと近づく波岩。

「めざめ様の意思を継ぐのです……!」

こいしの頬に触れようと波岩が手を伸ばした瞬間──

ザシャッ!

波岩の手首が針のようなものに貫かれた。

「ギィッ!?」

波岩はたまらず魔方陣の上に転がった。

「これは…」

以前、自分の手首を貫いたものと同じものだ。慌てて針が飛んできた方を振り向いた。

「探したわよ」

「靈奈……!」

自分を庇ってくれた妖怪退治を生業とする博麗の巫女、博麗靈奈が宙に浮かび、札を構えていた。
傍らには、二刀を構えた総髪の和装の剣士を伴っていた。

「全く。勇儀みたいにならなかったからいいものを。
妖忌。さとりを頼むわ」

「御意」

靈奈と共に妖忌と呼ばれた剣士がさとりの元に降り立つ。

「ぐっ…この、地上の巫女めが!地底に干渉してきおって……!」

波岩が上半身だけで起き上がる。

「ええ。なるべく干渉はしないわ。肌が溶けちゃうから」

靈奈は札に霊力を込める。

「ルール違反だ!このことはスキマ妖怪に報告させてもらおう!」
「じゃあ口封じしなくちゃね」

靈奈が霊力を解放しようと札を振りかぶり───その札をただ下ろした。

「あ…?」

「早いわよ妖忌」

「五月蝿かったものでしてな」

妖忌はさとりを観察しながら応える。

「あ、もう動かない方がいいわよ」

「貴様っ!何を───」

波岩のセリフは、波岩の首だけがごろりと彼の身体から転がり落ちることにより、絶たれた。
血が切断面から吹き出ることがない、あり得ないほど見事な斬首だった。

「ふむ。術者を殺したのに怨霊は消えぬか…。靈奈どの。彼女を抱き起こして頂きたい」

刀に付いた血を払って妖忌が言う。

「わかったわ」

「待って!」

それを遮ったのはこいしだった。

「そいつを、助けるの?」

「ええ。助かるわ」

「やめて……そいつはお父さんを!」

こいしが泣きながら訴える。

「こんな奴生きてちゃいけないの!どうして助けようとするの!?」

靈奈は答えた。

「あなたの、お姉ちゃんだからだよ」

「いや!こんな奴お姉ちゃんじゃない!」

こいしの袖口から荊が伸び、靈奈の首に絡み付く。

「助けるなら絞め殺してやる!」

ゆっくりと荊を絞めていくこいし。だが靈奈はこいしの目を見て応えた。

「助けるわ」

「本気だ!本気で殺してやるぞ!」

「それでも助けるわ」

「このっ───!」

ガッ!

「ぅっ……」

一気に靈奈の首をねじ切らんばかりに絞めようとしたこいしは、後頭部に妖忌の当て身を食らってうつぶせに倒れた。

「靈奈殿。大丈夫ですかな?」

「……きっと絞め殺すことは彼女はしなかったわよ」

靈奈は力を失った荊を外して呼吸を整えた。

「妖怪をよく素手で気絶させられるわね」

「人間ではありませんから」

「でも……これじゃあさとりを助けても拗れるだけね」

靈奈はさとりとこいしを交互に見つめた。

「ふむ……」

「おい……」

第三者の声。怨霊だろうか。靈奈はお祓い棒を、妖忌は楼観剣に手をかける。

「ここだ」

「む…まだ生きておったか」

声の主は先ほど妖忌が首を跳ねたてけてけのネクロマンサーだった。首から上だけでネクロマンサーは喋っていた。

「少々綺麗に斬りすぎたな」

「待て。もう抵抗する気は無いし魔力も逃げちまったよ」

そういうネクロマンサーの顔は元々の老人の顔へと老けていた。

「だが、こいし様を助ける程度にはまだ魔力はある」

ネクロマンサーの男が首から下だけで手をつかってこいしの元へと這っていく。

「めざめ様から賜った精神術でこいし様の記憶の一部を塗り替える。めざめ様を殺したのはさとりではない、地底の過激派だとな」

「あんた……なんで……」

「勘違いするな。私は地霊殿や地底を憂いているわけではない。めざめ様とこいし様の為だ」

印を結んだネクロマンサーがこいしの額にふれる。そしてまた印を結び、今度は魔力をこめて触れた。

「ふむ。これで大丈夫だろう」

そのとき、ボロリ。とネクロマンサーの指先が浮き島の魔方陣の上に落ちた。

「おい、あんた……」

「ああ。魔力を思ったよりも使ってしまったよ」

ネクロマンサーの首も胴体も急激にミイラのように干からびていく。

「ふふふ。これもまた善し──」

そう言い残し、ネクロマンサーは塵芥と混ざり、灼熱の熱気の中に消えていった。

「……あんなのがいるから、妖怪にもつい甘くしちゃうのよね。私」

誰に言うでもなく、靈奈がそう呟いてさとりを起こした。

「じゃあ、お願い」

「うむ」

妖忌が楼観剣と白楼剣を構える。

「霊界剣『幽幻万還』──!」
























「くっ、参った――」

「強すぎですぅ」

枯れ木混じりの老木が闇を創り出す博麗の霊山にて、3人の人影が動く。

「通っていいかしら?」

疲労困憊の2人、剣士明羅と戦車技師里香と違い、全く息を切らした様子のない、花束を抱えた少女が訊いた。

「待て…まだ、お前の素姓を訊いていない…」

と、明羅がなんとか枯れ木に寄りかかりながら姿勢を保ち言った。

「ええ。ここでいきなり襲ってきたぐらいなんだから勝ったらすんなり通してくれるんじゃなかったの」

「そんなこと言ってないです。全く。動力部が壊れちゃったです」

「まずは名前を聞こうか」

と、明羅。

「こいし。古明地こいしよ。負けたのに偉そうね」

「武士は食わねど高楊枝。と言うだろう」

憮然とするこいしに明羅がそう答えた。

「でも、あなたってなんなんです?殆ど姿が見えなかったです。催眠術とか超スピードとかチャチなものでは断じてないです」

と、里香。2人ともこいしとの戦闘中、こいしを視認することが殆ど出来なかった。

「催眠術が正解に近いかもしれないかな。大昔の短い間だけこの能力が使えるようになったんだけどね」

「と、いうことはやはり妖怪か……妖怪にはほぼ負けないつもりでいたんだが」

「ううん。人間なのによく頑張ったよ。ギリギリ殺さないぐらいのつもりでやったのに」

服に埃一つついてないこいしがそう言って微笑む。

「と、いうことはここがどういう場所かもわかっているのだな?ただの気まぐれな妖怪と言うわけではあるまいな」

「んーん。私は普段は気まぐれだよ。でもここに着たのはちゃんと理由があるけどね」

こいしがそう答える。

「その花束もそのためですか?」

「うん。地底の熱の中でしか育たない薔薇なんだ。ここに薔薇ってのもアレだけど」

「ふーん。でもびっくりです。博麗の墓に花を持って来る妖怪がいるなんて」

「……地底と言ったな。最近神社の近くに地底への穴が開いたと聞いたが」

明羅が鋭く訊いた。

「あー、ごめん。私のペットのせい」

「そうか。お前は地底の妖怪だったのか」

「うん。……気持ち悪い?」

「そんなことはない」

明羅は微笑んで答える。

「戦っていてわかったよ。お前は真っ直ぐな心を持っているとな」

「……真っ直ぐじゃないから、私はこんななんだもん」

「いや、私にはわかる。さぁ、花束を届けに行け。
里香。彼女を送っていけ」

「ん。フラワー戦車ならまだ動きそうです」

里香に連れられてこいしは戦車の中へと入った。

「結構快適な筈ですよ。普通戦車っていったら狭くて臭いイメージしかないみたいですけど」

「乗るの初めて。でもなんか圧迫感がすごいんだね戦車の中って」

「そこも、まぁ、改善するつもりです。
誰のとこに行きたいんです?」

里香が戦車を動かしながら訊く。なぜか振動もあまりしない。クルマとかいう外の世界にたくさんある無機質なアレをつくればいいのではないかとこいしは振動を感じながら答えた。

「博麗靈奈」

「あー…あの人ですか。
どれほど前の方でしたっけ」

戦車を走らせる里香。

「差し支えなければ、教えてほしいのですが彼女と何があったのです?」

「私の目を開けてくれたの」

こいしは答える。

「この第三の目を開けてくれた。見たことがないものを見せてくれたの。
それと、お姉ちゃんを助けてくれた」

「はぁー。噂には聞いてますが彼女は博麗の巫女にしては妖怪にも人間にも霊夢と違っていい意味で平等に接しますからね」

「うん。でも、よく思わない人もいたみたいなんだよね…」

「それはそうですよ。巫女は人間側で妖怪を退治します。いえ、時には人間も始末しなくてはならないです」

「………」

「ごめんなさい。気を悪くしたですか?」

「ううん。そうだよね……」

「それは違うです」

里香ははっきりと言った。

「妖怪によるです。人間によす思われている妖怪もいるです。八ツ目鰻の屋台をやってる夜雀や、人間の子供に学問を教えて里をずっと守っている半獣人もいるです」

「でも、その妖怪達みたいにお料理出来ないし、頭もよくないし……」

「でもあなたは優しいです。それはわかるです。明羅は女で剣士です。剣士の勘は女の勘以上です。
その明羅があなたを真っ直ぐと言ったです」

「………」

「明羅は、バカですけど嘘はつかないです。バカだからお世辞も言えないです。だからあなたは真っ直ぐな優しい妖怪です」

「………」

「さぁ、つきましたよ。博麗靈奈の墓です」

里香が戦車の動力を操作し、ハッチを開ける。ここの周りだけは日が差し込むらしく、日光がフラワー戦車の内部に注ぎ込まれた。

こいしが外に出ると、苔むした石の塊が目についた。

『第――代目―麗の巫―
博―靈奈』

もう表面に刻まれた名前も殆ど読みとれない。

「では、私はこれで」

「うん。ありがと」

戦車が去っていく音を聞きながらこいしは墓石を撫でた。

「靈奈。久しぶり」

墓石は何も答えずそこにあった。

「私は少し背が伸びて…お姉ちゃんは立派に地霊殿治めてるよ。でも、私はちょっと寂しいかな」

第三の目に触れるこいし。

「地霊殿の動物の心が読めないの。目を閉じたから。怖いの。他人の心が読めるのが」

墓石はただ、そこにある。

「だから、誰にも意識されないように生きていきたい。でもそれも怖いの。私がいないのどこにも」

墓石はただ朽ち果てた姿でそこにある。

「ねぇ、なんで何も言ってくれないの?」

墓石はただ苔むし、朽ち果てた姿でそこにある。

「ねぇ。靈奈が何か言ってくれないと私は独りぼっちだよ。ねぇ……」

墓石はただ何も言わず、苔むし、朽ち果てた姿でそこにある。

「……そうだよね。靈奈は死んじゃったんだもんね。喋れないよね。何言ってんだろ私」

こいしは墓石の前に地底の薔薇を備える。

「じゃあね。靈奈。また来るから」

「誰かいるのか?」

突然後ろから声をかけられた。こいしは振り向かずに能力を展開する。

「……妙な小細工をするんじゃない。今の子供は誤魔化すことばかりする」

どうやら能力を展開しても相手に自分の姿を補足されているらしい。

「名前は?悪いようにはしない」

すぐ後ろまで何者かが来た。だがこいしは答えない。

「名前ぐらいいいだろう。
ははーん?涙を隠したいんだな?安心しろ。私は茶化したりはしない」

「………人に名乗らすときは自分から名乗るものじゃないのかしら?」

こいしは背中を向けたまま何者かに答えた。

「む、これは一本取られたねぇ。魅魔だ。魅惑的な魔法使いで魅魔だ」

「古明地こいし。
………あなた魔法使いじゃなくて悪霊じゃない」

そこでこいしは初めて振り向いた。青を貴重にしたローブと帽子に身を包んだ女がそこにいた。

「ほう、私の種族がすぐわかるとはね」

「悪霊は見慣れてるから。何かようかしら?」

「ああ。なんでこんな所にいるのかな。と思ったんだよ。それも妖怪がだ」

「妖怪が巫女の墓参りしちゃまずいのかしら?」

「大いに結構なことだ」

と、魅魔は墓石を覗き込み、合点した。

「なるほど。靈奈か。彼女は妖怪にも人間にも、強さ弱さ分け隔てなく付き合っていたからな。霊夢のやつと違って」

「うん」

「だが、博麗の中では弱いほうだったねぇ。早々と引退してさ。理想は立派だが、非常になりきれない。力無き正義って奴だった」

魅魔がしみじみと言う。

「力……そうだ力。力がほしい」

無意識に、こいしは云った。

「こいし。お前さんには十分力があるよ。殺さずに墓守を退けたようだからな。二人ともなかなかの手練れだぞ」

「あいつら墓守だったの?」

「いや。この辺りに住み着いているだけだ。まるで妖怪のようにね。墓荒らしを追い払うこともしているからそう呼んでるだけだ」

「ふぅん。
あ、もう行くね」

こいしがふわりと宙に浮く。

「何か用事でもあるのかい?もう少しゆっくりしていけばいいものを」

「今出来たの―――!」
















霊夢の放った弾幕がこいしの身体を貫いた。

「うくっ――」

こいしは残機もスペルも失って守矢神社の石畳へと墜落した。

(強い……私が負けるなんて……!)

「はぁっ、なんとか勝ったわね」

「(ええ。お見事です)」

残り一個となった陰陽玉からブン屋の声が聴こえる。

「しかし何だったのかしらこいつ。ちょっと!起きてる?」

霊夢が倒れてるこいしの側まで寄った。

「うー…まぁ、立てないことはないわね」

こいしは服の埃を払って立ち上がる。

「(なぜ守矢神社に招かれていたいのに妖怪の山へ来たのでしょう。妖怪の進入を認めてはいませんが)」

文が陰陽玉を介してこいしに訪く。

「うん。おくうに力を与えた神様ってのが気になったの。私や私のペットにも力をくれないかなって」

「おくう?あの地獄烏のこと?」

「そうそう」

「どうされました?」

二人(三人?)で話していた所に先ほど霊夢が倒した早苗が追い付いてきた。

「あっ、早苗。お客さん」

「ここの神様に用があるんだけど……」

「私も一応神様ですが、神奈子様と諏訪子様は買い出しに出ています」

何を買いに行ったのだろうか。

「そうなの残念。でもいいわ。いい土産話が出来たわ」

と、満足そうにこいし。

「(いやぁ、仲がおよろしい姉妹ですね。あんなことがあったのに)」

「あんなこと?」

陰陽玉から聞こえる文の声に反応するこいし。

「(ほら、お父様のめざめさんが貴女のお姉様に暗殺されたという)」

「えっ?」

「えっ?」

「(え?いや、私がまだ新米の頃の話なんですけど………)」

三人(四人?)の間に不気味な緊張が走る。

「………うん。そうだったね」

こいしがその緊張の中で誰にともなく言った。

「こいし…?あなた……」

「あっ、神奈子様も諏訪子様もすぐにこちらにお戻りになります!本殿でお待ちを!」

早苗がこいしを中心に放たれる緊張を断ち切ろうと声をかける。

「いいよ。大事な用事ができたから」

そう言うとこいしは能力を使って二人(三人?)の前から消えた。

「なんなのよアレ……」

「(なんか取り返しのつかないことをした気がします)」

「……なんかそんな気がしますね」

文に早苗が同調する。
雪は静かに守矢神社の境内を舞っていた───
















『地霊殿壊滅』

そんな見出しが踊る文々。新聞を友人が眠る永遠亭の一室で空は眺める。

「入ります」

鈴仙が伊吹萃香をつれて病室へと入ってきた。

「こんにちは」

「こんにちは。かえ───お燐は起きてますか?」

「はい」

その返答に鈴仙はよし。とお燐のベッドの横の椅子に座った。

「お燐さん。私の声が聞こえますか?yesなら右手を。noなら左手を動かして」

ピクッ。と向かって左側、つまりお燐の右側の布団が盛り上がる。お燐が右手を動かしたのだ。

地霊殿が壊滅したときの様子を知るたった一人の生存者、それがここで重症の身体で横たわる火焔猫燐なのだ。とはいっても、数週間たった今でも、顔に至るまで全身に包帯が巻かれ、身動きもほとんど取れない状態であるが。

空は偶然山の神に呼ばれて核融合炉で作業をしてたため難を逃れたが心に負った傷は大きい。

「この様子はすべてカメラと音声マイクによって記録されます。よろしいですか?」

右。

「ご協力感謝します。
あの日、あなたは地霊殿にいましたか?」

右。

「そこはあなたの仕事場?」

左。

「大広間?」

右。

地底の自治体によるとお燐は大広間で発見された。お燐は錯乱せずにちゃんと状況を覚えている確率が高い。

「地霊殿が壊滅したのは事故?」

左。

「誰かがやったのね」

右。

「やったのは古明地こいし?」

バサッ、バサッ、バサッ―――!

何回もお燐の右側が動く。

「お燐!大丈夫!大丈夫だから!ね?」

その様子をみた空がお燐のほほに触れた。お燐は安心したかのように猫がするように空の手に頬擦りする。

「続けて大丈夫か……?」

萃香が言う。

「お燐。頑張って!お燐しか知ってる人がいないから………」

右。どうやらパニックから脱したらしい。

「続けるわ。
こいしの目的はわかった?」

右。四人は顔を見合わせた。

「………さとりの死体だけ見つからなかったと勇儀が言っていた。多分さとりが目的だったのだろうよ」

と、萃香。

「………そうなのですか?」

右。

「………地霊殿の動物は皆殺しにされていたわ。なぜ彼らも皆殺しにしたのかわかりますか?」

左。

こいしの手がかりは一向に見つからない。
地底では星熊勇儀が、地上では守矢と天魔が指揮を取る捜索隊という名の討伐隊が結成されたが見つかる気配すらない。もっとも、完全に不可視化するこいしを探すことなど出来ないことは皆承知の上であるが。

「ねぇ。お医者さん。そろそろ切り上げてくれませんか?お燐、何かに怯えてるみたい」

お空が言う。

「………もう少し我慢してくれ。こいしの手がかりがあるかもしれな───!!」

そのとき、萃香はある可能性に気付いた。もう皆が忘れかけたそれが今萃香の頭を駆け巡る。

「いや、そんなまさか───あるはずがない、そんなこと………!!」

「萃香?」

「伊吹様?どうされたのですか?」

明らかに様子が変わった萃香を二人が気を使う。

「なんでもない………なんでもないから続けろ……」

「萃香?気分悪いなら…」

「続けろと言っている!」

やはり様子がおかしい。しかしどうすることも出来ないため鈴仙は質問を再開する。

「お燐さん。質問を再開しますよ。こいしはどこに言ったかわかります?」

この答えもnoだろう。そう考えていた鈴仙の予想に反してお燐の右手が動いた。

「!!
本当ですか!?どこに───」

しまった。yesかnoでは答えられない質問をしてしまった。と鈴仙は途中でつぐんだが、お燐の手はゆっくりと布団から出てきて、病室の出入口を指差した。

「えっ?」

一同がそちらに目線を向けた瞬間、ドアがゆっくりと開く音が響いた。

















そこで映像も音声も途切れた───
三部作完結。投下タイミングがわからなかった。

凌辱シーン下手すぎワロス。
らぶらぶえっちもの書きてぇけどならやっぱ夜伽かな………
ほぼ出来ていたものにホラー色をつけてこの有り様。
とりあえず文の舌は映姫様に引っこ抜いて貰おうか。

こう…口調が全く違うキャラが集まったり、誰が喋ってるのかわかったりすると地の文をほとんど書かなくなってKAGER○U状態になってしまう癖がいつまでたっても抜けません。
お空の口調は原作では目上の人に敬語使えるしそれなりに賢いこと言ってるよね。

※霊界剣『幽幻万還』は れいかいけん『ゆうげんまがん』と読みます。……読みます。………読むんです。
IMAMI
作品情報
作品集:
26
投稿日時:
2011/06/12 12:03:45
更新日時:
2011/06/12 22:33:48
分類
こいし
さとり
1. NutsIn先任曹長 ■2011/06/12 22:14:22
無意識の復讐者か……。
ただ、忘れさせていただけだったか……。
思い出しちまったか……。
殺っちまったか……。
過去の優しい決断が現在の惨劇を引き起こしたか……。

久方振りのシリーズ完結編、読ませていただきました。
現在の古明地姉妹になる過程が明らかになりましたね。
……ただ、臭い物に蓋をしていただけだった、と。
で、ゴミ漁りが好きなカラスがパンドラの箱と化したゴミ箱をひっくり返しちまった、と。

こいしは、現在の非常に非情で平等な博麗の巫女に『退治』されるな、こりゃ……。
2. 名無し ■2011/06/14 20:40:16
あやややや…
3. 名無し ■2011/06/15 23:47:41
カラスが開いた箱はパンドラって話だな
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