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『万罪万死塞翁が馬』 作者: ただの屍

万罪万死塞翁が馬

作品集: 27 投稿日時: 2011/06/17 14:42:14 更新日時: 2012/01/30 19:16:24
 今から語られるこの話は、ずっと昔から続いている話。
 時節は春。永遠亭の一室。永琳は一人の少女を解剖台に乗せる。一糸も纏わぬ姿の少女。彼女はかつて霧雨魔理沙と呼ばれていた筈なのでこれから彼女を魔理沙と呼ぶ。
 永琳は厚手のゴム手袋を付けた手でメスを取り、魔理沙の腹部を真一文字に裂く。麻酔は使用していない。何故なら魔理沙は既に生命活動を行っていないからである。
 更に、メスが鳩尾から臍まで赤い足跡を残して素早く走る。その途中で、横に裂いた傷口と垂直に交わって綺麗な赤十字を作り上げる。
 永琳はメスを置き、魔理沙の腹部を開き左手を突っ込み腸を引っ張り出した。永琳は腸を鋏で適当に切り取り、腸を解剖台のそばにあるポリバケツに投げ入れた。腸はポリバケツに二重に被せられた黒色のビニールに触れて濡れた音を立て、湿った場を演出する。
 永琳は淡々と腹部から臓器を取り出していく。肝臓や腎臓、膵臓に脾臓は勿論、肺や心臓まで抜き取る。一瞬迷った結果、膀胱や子宮は残しておく事にした。数十分後、ポリバケツと解剖室は臓器と血に支配された。永琳はゴム手袋を脱いでポリバケツの中に捨てる。そしてビニールの口を固く結んでダンボールに詰めた後、足で部屋の隅に寄せた。
 永琳は魔理沙の開いていた腹部を丁寧に戻す。臓器を失った腹部は飢えた者のように大きくへこんでいる。永琳は塗り薬の入った瓶を開け、ひと匙取って、左手の甲に乗せた。薬瓶を元通りにした後、右人差し指に薬を付けて魔理沙の腹部の傷口に沿って薬を塗る。
 薬を塗り終わった後、永琳はダンボールを両手で抱え解剖室から出た。ダンボールには黒のマジックで「兎のエサ」と書かれている。永琳はダンボールを運び終わると、手洗い場で両手を丹念に洗い、遅めの朝食を食べた。その頃には、魔理沙に塗った薬は皮膚と同化して、腹部に刻まれた十字架は綺麗さっぱり消え去っていた。朝食は兎鍋だった。その鍋は昨日の残りものだった。同じものを食べ続けると飽きが来るのが事実だが、仕事が減って助かるので妖夢はむしろ歓迎している。
 妖夢は朝食を済ませた後、白玉楼の庭に降り立ち空を見上げた。雲一つなく太陽一つだけの空が、本日も晴天であろうと予感させる。
 春風が妖夢の髪を撫でた。妖夢は伸びをした。関節から生み出される軽快なリズムが一日の始まりを認識させる。「よし、今日も頑張ろう」妖夢は庭の端にだらしなく座っている魔理沙の元へと向かい、青白い屍体を起こした。あらかじめ血と臓器を抜いていた為、魔理沙は非常に軽かった。魔理沙を、そばに立っている木に立て掛ける。
 妖夢は腰に刺さっている鞘から刀を抜く。その刃は竹で出来ていたが、日本刀の如く刃は薄く、刃先は切れ味鋭そうに尖っている。
 両手で柄を握り竹光を己の正面に構える。刀を振り上げ、息を吐きながら、魔理沙の左肩に向かって勢いよく刀を振り下ろした。
 刃は骨にぶつかる事なく通り抜ける。そのまま勢いを失う事なく左腿の付け根を、そして手首を返しながら、刃を右腿の付け根を通り抜けさせる。最期に刃は右肩を通り抜け、妖夢は残心を示す。全てが一呼吸内の出来事であった。
 妖夢が刀を鞘に納めた後も、魔理沙は人の形を保っている。妖夢はその出来栄えに笑みを浮かべたがそれに気付くと慌ててかぶりを振った。
 「一歩、されど遠き一歩」妖夢は魔理沙の頭を鞘で叩く。魔理沙のバランスが崩れ、手足が体から剥がれ落ちる。両足は百八十度に開いたまま倒れ、両手もそれに倣った。魔理沙の体が地面に着く前に、妖夢は魔理沙の髪の毛を掴む。ぶちぶちぶちと髪の毛が数十本頭皮から抜けた。妖夢は魔理沙の髪を掴んだままで空中を移動させ性器を、地面から天に向けて生えている細めの杭の先に宛がった。魔理沙の両肩は失われていたので、首を絞めるようにして魔理沙の体を杭に押し込んだ。子宮が一瞬逆らったが、杭の先が子宮を突き破ると、一気にすとんと落ちて魔理沙は尻餅をつく。杭の先は胸骨の手前まで来ており、腑抜けとなった魔理沙は風が吹く度に体を揺らして肋骨に杭をぶつけて間抜けな音を立てた。剪定を終えた妖夢はその様子を見て、肺と子宮は逆にすべきだったな、と思った。それから地に落ちている魔理沙の両腕と両足を拾った。妹紅は魔理沙の手足で四角形を作り、周りの落ち葉をかき集めてその中に入れた。そして先程拾った古新聞を落ち葉にまぜて妖術を用いて火を点けた。明け方の薄暗い闇の中に火の灯りが浮かび上がる。妹紅は火の中に皮を剥いだ野兎を放り込んだ。
 雪が降り始めた。まだ日の出ていない時刻に冬雪の寒さは身に応える。妹紅は火元に体を寄せ、手をかざす。
 迷いの竹林の中である為、妹紅は水が入ったバケツを用意していた。火が移らないように周りの落ち葉はきっちり排除したが、備えておくに越したことはない。
 妹紅は火の様子を確認して、安全だろうと勝手に判断すると、手元に残しておいた数枚の古新聞に注意を移す。その新聞は今年の夏に発行されたもので、当時やって来た大きな台風について書かれていた。あれは本当に恐ろしかった。妹紅は記憶を手繰り寄せる。確か山の一部や家が崩れたし、湖は溢れ、死者も出た筈だ。妹紅自信も不死の身である事を忘れ、恐怖に震えた。我が身や親しき者達の無事を必死に願った。そうか、もうあれから半年近くも経ったのか。
 あの時ほど他人の無事を願った時はなかった。私もようやくまともな人付き合いができるようになったんだなと思う。そして、それは幻想郷でなければ築けなかった関係であろう事は確かだ。ここには私よりも長く生きたやつがごろごろいて、私よりも死にそうにないやつがわんさかいる。不老不死である事をあまり意識せず、似たような者達に埋もれて生きていけるこの楽園を失いたくない、とあの台風の時に初めて思ったのだと思う。八雲紫が幻想郷を愛する気持ちが分かったような気がしたのもあの時だと思う。「あいつにも慈愛の精神があればなあ」妹紅が焚き火の暖かさと葉の爆ぜる小気味いい音と優しい妄想に身を委ねて静かに目を閉じた時、肉の焦げた匂いが妹紅の目を覚まさせた。
 「兎の事忘れてた!」妹紅が火中に一瞬手を突っ込み兎を取り出し新聞の上に乗せる。妹紅は手に息を吹きかけながら兎を見た。兎は炭化してしまっており、焦げた匂いを周囲に撒き散らしてした。
 妹紅が兎をどう処理するかを考えている時、頭上には雷雲が迫っていた。妹紅は雷雲の存在にまるで気付いていなかった。だから妹紅は雷が自分に落ちた事に気が付かなかった。凄まじい爆音が耳に届いた時、目の前が真っ白になり体が痙攣している事しか分からなかった。妹紅は焚き火の中に倒れ、痙攣した体がバケツを跳ね飛ばした。不死の肉体は痙攣の最中にも関わらず本能的に魔理沙の手足を自身から遠ざけた。炭化した魔理沙の手足は炎を纏いながら四方に散らばっていく。あっと言う間に迷いの竹林に火が広がった。迷いの竹林で火事が起きた。原因は雷らしい。今後の事を話しあうので集まってもらいたい。部屋の外からそう告げられて、命蓮寺の一室で眠っていたナズーリンは目を覚ました。起きるにはまだ早い時間だと思う。午前四時頃だろうか。冬の寒さに布団から手も足も出せないし、出す気も起きない。足音がどこかへ去った後、急いては事をし損じるという言葉を言い訳にしてナズーリンは布団の中で考え事を始める。我々が考えるべき問題は迷いの竹林の火事への対応、原因は雷らしい。そう言えば夏には台風があったな。おお、そして春には地震があったじゃないか。あまりに被害が少なかったので忘れていた。たしか外にいた子供が転んで怪我をしたぐらいだったとか。地震、雷、火事、山嵐。ふふ、完璧じゃないか。今年の出来の良さにナズーリンは妖怪らしいサディスティックな快感を覚えた。できればもうしばらく余韻を楽しみたかったが、部屋の外から大きな足音が近づいてきたので、まだ布団の中にいるのはまずかろうと布団を蹴りあげ一気に飛び起きた。「うー、寒い」ナズーリンは両腕を組んだまま、何度か素早く足踏みする。ナズーリンは襖を見つめながら待ったが、足音はナズーリンの部屋を通り過ぎていった。まだ本調子でないと自分に言い聞かせ、ナズーリンはもう少し部屋にいることにする。
 ナズーリンは猫のように丸まった背を伸ばして、大きなあくびをしながら部屋の隅に移動した。部屋の隅には魔理沙が正座している。魔理沙の両目からは棒状の細い物体が5cm程飛び出していてその先端から更に床に向かって折れ曲がって伸びている。ナズーリンは折れた先の部分を一つずつ片手で掴み、正に折れ曲がっている部分を親指で押さえ、一気に二つとも引き抜いた。ダウジングロッドが抜けるとともに魔理沙の両目が引き抜かれる。視神経は強引に引き千切られた。ダウジングロッドに魔理沙の目玉が団子のように突き刺さっていて、ダウジングロッドに満遍なく塗りたくられた血がその先端と目玉にくっついている視神経や血管の先から垂れている。ナズーリンはダウジングロッドに突き刺さっている目玉を唇で優しく包み込み舌の上に移動させた。ナズーリンは舌の上で目玉を二つ舐め転がしながらダウジングロッドを舌先で器用に舐める。血を全て舐めとった後、取っておいた好物の目玉を舌と上口蓋ですり潰し恍惚とした表情で少しづつ飲み込んでいった。
 部屋の外のどたどたという足音でナズーリンは我に返った。ああ、そうだった。急がねばならないんだった。そう思って戸を思い切り開け急いで部屋を飛び出した。急げ。急げ。逃げ出せ。止まると捕まるかもしれないと思うと足を止める事などできなかった。魔理沙は命蓮寺の廊下をがむしゃらに走った。ナズーリンに両目を潰された怒りをも上回る、死という原始的な恐怖によってのみ今の魔理沙は動かされていた。魔理沙はとにかく走った。飛んだ。ぶつかってもすぐに起き上がり逃走を再開した。ナズーリンが自分を追っていない事に気付いた時には魔理沙は虫の息だった。魔理沙には知る由もないがそこは墓地だった。「あほくほれずみめ」舌をあちこち切っていたので上手く喋れない。それだけでなく肉体の様々な機能を失い、体力も失っている今、妖精にだって間違いなく負ける状況である。一刻も早く知り合いが自分を見つけて助け出してくれる事を魔理沙は祈る。
 魔理沙は動かずに大人しくしていようかと思ったが、自分を取り囲む様々な恐怖に一分も耐えきれなかった。風の音さえ発狂を促す悪魔の囁きのように聞こえ、もう居ても立ってもいられなくなり、とにかく前に進んで弱々しくも精一杯に、全身が訴える痛みをごまかし始めた。
 逃げる際に、散々体をぶつけたせいなのだろうか、それともそれ以外の何かか。頭は割れ鼻は潰れ口は両耳まで裂けその両耳は既にどこかに落としていて肩口からは骨が飛び出し裂けた腹から腸が飛び出し、足を貫通している木片がいくつか。不揃いの両手、だらりと垂れ下がった両腕と全身の皮膚、息を荒げ、眼窩からは血が垂れ、切れた頬から見える歯、吹き飛ばされた下顎、だらしなく突き出た舌、力なく擦り足で歩み、今は血痕血だらけ穴だらけ、かつての美貌は失われ、見るも無残に死にさらせ。そのあまりの健気さに見る者から笑いを奪ってしまう惨めな化け物がうろついていた。
 魔理沙は自身の腸を踏みつけて転んだ。その際墓石に顔面を強打し上唇といくつかの前歯を失った。痙攣したように頬を引きつらせ虚ろな眼窩から血を流し尽くし、最期の意思でこの世を恨んだ。とても儚く、今すぐにでも消えてしまいそうな声だった。「恨めしや」魔理沙は無我夢中で逃げていたので当然そんな声は耳に入らなかった。魔理沙は何者かから逃げ続けていた。何で逃げているのか、もう思いだせなかったが、そいつに捕まったら死より恐ろしい恐怖を味わわされるという事だけは誰よりも分かっていた。だから舌を出して立ちふさがった小傘と正面衝突した時、魔理沙は心臓が縮みあがった。追跡者にぶつかったに違いないと思った。
 魔理沙は足の震えを抑え慌てて立ち上がり、辺りを見回す。そこで初めて、小傘がいた事、そしてぶつかった事、小傘は追跡者ではない事を知る。小傘は墓石に頭をぶつけたらしく血を流していた。魔理沙は追われる恐怖がどこかに去った事を知る。
 「おーい、……返事無し。よし、大丈夫だな」魔理沙がその場を去ろうとすると、小傘が素早く這いずりよって魔理沙の足を掴んだ。
 「待て」小傘の割れた頭から脳が見えていた。魔理沙は驚きのあまり言葉を失う。
 「本当なら、お前がこうなる筈だった。驚いて腰を抜かしたお前がこうなる筈だった」小傘は顔を上げ魔理沙と目を合わせた。脳の一部が外界に飛び出している。
 「お前は私を馬鹿にしている。私をなめている。あべこべになった私を笑っている」
 喋らなきゃ殺される、魔理沙は大きく息を吸ってこの不利を覆そうとする。
 「恨み晴らさでおくべきか」魔理沙が行動するよりも早く、傘が魔理沙の腹を背後から貫通した。魔理沙は何やらぶつぶつ唱えながら顔面から地面に倒れる。
 魔理沙は地面に広がっていく己の血液を見る。丑三つ時の墓地を鮮やかに彩る血のソース。赤ワインの香り。それはすぐに血の匂いと区別がつかなくなる。魔理沙は紅魔館に相応しいディナーになっている。達磨となって大皿に乗せられた魔理沙の周りには、血液のスープに腕から作った刺身と腿のステーキ、脛の煮込み、骨ごと食える指の唐揚げ、魔理沙の掌と足の漬物、魔理沙の皮膚で巻いた生春巻き、魔理沙の腕や脚の骨は圧力鍋によって可食加工され魔理沙の血液が掛かってている。この食事は二人前であり、その食卓を囲むのはスカーレット姉妹だけである。
 魔理沙本人は生かされてもいないし死んでもいないといった状況。ただそこにいるだけの存在となっている。パチュリーの魔術によるものなのか。パチュリーがこの場に居ないので分からない。
 「早く食べよう」
 フランの一言で晩餐は始まりを告げる。二人は魔理沙の血液で乾杯した。フランは空腹を我慢した反動で、とにかく料理を自分の腹に詰め込む作業を開始する。フランは幸福の表情を浮かべている。レミリアはフランを見て幸福に浸る。ひたすら美味しいといって食べてくれる者が料理人にとって最高の客なのだろうか。そんな事、レミリアには分からなかったが、そのような妹は最高の妹だと思う。妹と一緒の晩餐が上等な夜を作り出す。
 自分の分を食べ終えたフランが魔理沙の胴体から肉を切り取ろうとして右手を伸ばした。レミリアは慌ててそれを止めた。フランは怒られたと思ったのか手を引っ込め体を縮こませ下を向いた。
 「ああ、ごめん。別に怒ってるわけじゃないから。ただ、美味しい食べ方を教えてあげようと思ったのよ」
 フランは顔を上げて目一杯輝かせる。レミリアは微笑み返し、ナイフを手に取る。ナイフの腹を魔理沙の腹に当て、さっと薄く切り取った。フォークで肉を魔理沙の口に運び、喉の奥に落とす。
 呼吸ができなくなった魔理沙は、目を白黒させ、顔を青くし、無い手足を振るように体を動かし、自分の肉を飲み込まないよう、あるのか分からない理性で以って死に物狂いで抵抗し、どうにか肉を吐きだした。魔理沙の顔は恐怖に引き攣っていてそれが解ける気配はない。レミリアは魔理沙の吐きだした肉をフランの皿に移した。
 「美味しいから食べてみなさい」
 初めて見るその光景はフランに疑問を抱かせた。フランは両手を動かさずに肉切れを見つめている。魔理沙から搾り取られた唾液と血液が、肉に降り注ぐ照明の光を妖しげに反射させた。フランはごくりと唾を飲み込んだ。
 「フラン、食べないの?」レミリアは目を細める。フランはレミリアの微笑みをきっかけにして、ナイフを手に取り、ゆっくりと口に運んだ。その肉は格別に美味かった。フランは肉を飲み込んだ後、その美味しさを表現しようとしたが結局しどろもどろを演じただけだった。
 「美味しいでしょう」
 レミリアの言葉にフランは何度も頷いた。
 「まだあるのよ」
 フランの目の輝きが燭台さえ霞ませる。レミリアは魔理沙の脇腹をブロック状に切り取り、魔理沙の口に放り込んだ。魔理沙の反抗をレミリアは口を塞ぐ事で抑えこむ。レミリアはフランに言った。「こうやって口を押さえると、外に吐き出せないから飲み込むしかない。でも、丸ごと飲むと喉に詰まって窒息死するから噛み砕いて飲み込むしかない。飲み込んだら、私たちが腹を裂いて胃を裂いて肉を食らう」
 フランはその味を想像する。確実に訪れるであろうその喜びを待ち切れず、フランは涎を垂らし、ナイフとフォークを両手で握りしめる。
 「その後は、残った部位を目の前で捌いてもらうから、もっと期待していいわよ。……脳はやっぱ生よね。目玉は定番のゼリーで、腹は挽肉にして腸詰にしてもらおう」
 レミリアの提案にフランは手を緩めて物申す。「お姉様って舌がお子様だよねえ。それってベッタベタのお子様ランチだよお。私は腸のスープがいいなあ。腹はスライスして焼いて欲しいし。脳だっていっつも生で食べるんだから、たまにはパイにして食べようよお。目玉はすっごい綺麗だから水晶玉に閉じ込めてあげたいなあ。そして残った血でさあ、部屋に絵を描こうよ。私とお姉様のさ。形に残る物も欲しいし」
 レミリアは妹の要求を全て受け入れる事を決めていた。何故なら今宵がフランドール・スカーレットにまつわる記念の時だからである。レミリアは微笑みを魔理沙に向ける。「だから、それを吐き出しちゃ駄目」魔理沙は口に置かれた手を噛み、口に入れられた物を吐きだした。そして目の前の人物を睨みつけてやった。リグルは困った顔を作って、魔理沙に見せた。永遠亭でも白玉楼でも迷いの竹林でも命蓮寺でも墓地でも紅魔館でもない場所に秋虫の鳴き声が響き渡っている。
 「だからさあ、そうやって反抗を続けられると、こっちは強行するしか無くなるわけ。何度も言ったよね。ほんと何なの、もっと酷い事して欲しいの? ねえ、あんたマゾなの」リグルと魔理沙の間では、懇願と反抗、それに対する報復と更なる反抗が繰り返されていた。魔理沙は手足の自由を虫の毒によって奪われているが、それでもまだ反抗している。リグルは手間を惜しんで最初に判断力を鈍らせたのがいけなかったと反省する。それは魔理沙を意固地に反抗させ続ける結果となってしまった。リグルは憐みの目を作り上げる。「もう、脳に寄生虫を埋め込むしかないね」
 魔理沙は顔を横に何度も震わせた。唾を辺りに撒き散らす。どうやら否定の意を表しているようだ。
 「また、反抗か。もう聞く耳持たない」リグルは寄生虫を呼ぼうとした。すると、魔理沙が両手を地に付け頭を上下に振り始める。涙を辺りに撒き散らす。どうやら懇願の意を表しているようだ。リグルは魔理沙の行動に理性めいたものを感じ取った。
 「脳に寄生虫は入れられたくない。まあ、自我の崩壊、つまり死ぬわけだからね」リグルは魔理沙に言い聞かせる。魔理沙は頭を上下に振り続けている。魔理沙は地面に頭をぶつけた。
 「じゃあ、協力してくれるね」
 魔理沙は動かない。頭を強くぶつけ気絶しているようであったしリグルの言葉の解読に努めているようでもあった。
 「なあに、脳に虫を埋め込むよりはずっとましさ。虫の産卵場となって冬を越してもらうだけだ。こっちで冬眠させてあげるから、何も気にしなくていいよ」リグルは顔を綻ばせ、拍手する。「いやあ、見つかって良かったよ。今年の夏に台風が来たせいで虫が大分死んじゃってねえ。それで皆気が立っちゃってさあ」
 リグルは魔理沙の皮膚に触れる。皮膚が筋肉から離れ空洞を生みだした。「大丈夫、大丈夫。皮膚の上から産んだら色々危険だから皮膚の内に隠すだけ。こいつらは肉を食べたりしないし、皮膚もちゃんと元通りになるから。虫を皮膚の内に入れるための穴だけど、顔とか胸は傷が残ったらまずいよねえ。え、ああ、大丈夫だから心配しないで。百パーセント大丈夫だから。でも万が一って事もあるし、一応人目につきにくい腋の下にしとこう」
 リグルは魔理沙の腋の皮膚を摘み小さな穴を開けた。虫が列を成し一匹づつ皮膚の内部に潜り込んでいった。虫が魔理沙の筋肉を覆い卵を産み始める。魔理沙の皮膚に亀裂が生じ、やがて全身に広がると皮膚が滑り落ちた。無名の丘でも地底でも妖怪の山でもない場所に風が吹いた。爽やかな風さえ、人体模型の如く筋繊維を剥き出しにした魔理沙にとっては全身を針千本で刺されたような激痛に等しい。ヤマメとメディスンは大笑いした。ヤマメはメディスンに言った。「痛風、痛風。これで一本返したよ」
 メディスンは笑いつつ悩んでみせた。「う〜ん。全身の皮膚病に対して皮膚を腐敗させて取り去った事で私が優位に立つ筈だったんだけどなあ」
 ヤマメは笑っている。沈む太陽に笑いかけているようにも見える。「痛風、痛風」
 メディスンは悩んでいる。「う〜ん」
 魔理沙は苦痛に耐えかね発狂してしまったのか、思い切り飛び上がった。感覚剥き出しの両足で着地する。若い草が足の裏を刺激する。魔理沙は痛みのあまり失神した。ヤマメはげらげら笑う。「痛地、痛草」
 ヤマメの言葉でメディスンは閃きを得る。「ヤマメ、よ〜く見てなさいよ」メディスンは魔理沙の肉体に変化を与える。
 魔理沙が白目を向いて身体を強張らせ一定のリズムに従い痙攣する。ヤマメは真面目な表情でメディスンに聞く。「何したの」
 メディスンは得意気に言った。「心臓を毒で侵した。だから鼓動する度に体が悲鳴を上げるよ」メディスンは、さあ笑えと言わんばかりに身をよじり笑ってみせた。「痛血、痛生、痛世」
 「負けたよ」そう言ってヤマメはメディスンとともに笑いの渦に身を委ねた。
 ただ一人、魔理沙だけが泣いていた。そこは月でも天界でも魔界でもない場所であったが、地獄でもない。しかし、地獄のような場所ではないとは言い切れない。獣の鳴き声が響き渡っている。狼の群れに違いない。狼が魔理沙の屍肉を食らう。獣は美味しい部分から食べていく。狼が去ると鳥が魔理沙の肋骨に止まり内臓を啄ばむ。鳥が巣に帰る。頭蓋骨に守られていた脳に蛆が湧く。蛆が蠅に成り替わる頃には骨までしゃぶり尽くされた死骸。横向きになった頭蓋骨の眼窩の厚みの上に奇跡的なバランスで目玉が二つだけ残っていた。二つの目玉は月の引力よりも地球の引力よりも太陽による真夏の正午のエネルギーよりも勝っていた。
 一羽の鴉が魔理沙の頭蓋骨に止まった。目玉は奇跡を保っている。鴉はしばらく迷ってから、自分に近いほうの目玉を嘴で丁寧に挟んで飛び去った。残された一つの目玉には、しばらくは慣性が働いていたが、奇跡的な関係性を失った為、やがて地に落ちた。魔法の森でも人里の近くでもない場所に、巨大台風の名残を惜しむような優しい風が吹き、頭蓋骨が回転運動を始めた。頭蓋骨はゆっくりと目玉を押し潰す。目玉は頭蓋骨にゆっくりと押し潰される。潰れた目玉は頭蓋骨の回転運動を止めた。頭蓋骨はいくつかの窪みを空に向けた。もう一つの目玉は嘴から全ての地を見下ろしている。目玉はやがて博麗神社を見下ろした。鴉は博麗神社の屋根の上で翼を休め、そこにある巣にたった今手に入れた宝物を加えた。時節は春。小さな地震が起こった日。鴉の巣から目玉がこぼれ落ちる。屋根を転がり落ち縁側に腰かけていた霊夢と魔理沙の間にある、湯呑みの中に音を立てて飛び込んだ。湯呑みに満たされた液体は目玉に脱水作用を働かせ同時に多量の熱を発生させた。二百九十度、沸騰した液体が湯呑みから飛び散る。液体はまるで濃硫酸のように振る舞っている。霊夢は湯呑みを手に取りそれがぬるいお茶であるかのように振る舞う。霊夢は湯呑みを魔理沙の口元へ持っていく。魔理沙はそれがぬるいお茶であるかのように振る舞う。時節は春。小さな地震が起こった日。霊夢の手から湯呑みが落ちる。魔理沙に向かって傾いた湯呑みから液体がこぼれ落ちる。液体は魔理沙の顔面、胸、腿に振りかかった。案の定、死ぬほどの激痛が魔理沙を襲っている。
グロは難しい。
ただの屍
作品情報
作品集:
27
投稿日時:
2011/06/17 14:42:14
更新日時:
2012/01/30 19:16:24
分類
ありがちな話
1. NutsIn先任曹長 ■2011/06/18 12:30:14
私が何をした。
私は何をされる。

私はただ、あるがままに振舞った。
私はただ、なすがままに嬲られた。

何故何故何故。
堕是。

彼女は皆に慕われた。
彼女は皆に恵みを与えた。

皆は彼女を慈しんだ。
皆は彼女を貪った。

彼女のおかげで皆は救われた。
皆のおかげで彼女は巣食われた。

皆の沈鬱な顔に笑顔が戻った。
それを見て、彼女は微笑んだ。
微笑んだ?
微笑んだに決まっている。
数多の善行を行ったのだから。

最早、弔う骸もないが。

彼女の有様を見て、皆微笑んだ。
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