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『Eternal Full moon 第三話』 作者: イル・プリンチベ
―14― もう一度八雲紫に会いに行くあたし
「ちょっと、てゐ!あんたどこへ行くっていうの!?待ちなさいっ!これから“兎狩り狩り”をしなきゃいけないっていうのに、何を考えているの!?」
「ごめんれーせん。あたしは大事な用事があるんだから、今日は勘弁してほしいウサ」
永遠亭を出て行こうとするあたしを捕まえようと躍起になっているれーせんは、あたしの用事なんかどうでもいいようで、これから“兎狩り狩り”をやろうとしているからなんだ。
「そっちの都合なんてどうでもいいわ!てゐ、私達は兎角同盟を結んでいるじゃないのっ!兎角同盟の活動よりも優先順位が高いっていうのね!?信じられないわ!」
あたしの用事は“ボーダー商事”に新鮮な魚介類を注文するという事が目的さ。なんでかって言うと、昨日の夕飯に姫様が“寿司パーティ”をしたいという無理難題な要望に答えるためさ。
「れーせん。今は“兎狩り狩り”なんかよりも優先順位の高い仕事を先に片付けた方がいいと思うよ。あたしはそれをやろうとしてるだけだよ」
やっぱりれーせんって馬鹿だと思うんだよね。あたし達は姫様の無理難題に極力答えなきゃいけないっていうのに、それを出来ないと決め付けまともにやろうとしてないもん。
「何よ!今日も幻想郷のどこかで人間が兎狩りをしているのに、てゐはそれを見過ごすっていうつもりなの!?」
「私達は“兎角同盟”を結んでいるのは、幻想郷の食卓から兎が根絶されるその日が来るまで戦わなくてはならない!」
この調子だとれーせんは姫様の要望を少しでも何とかしようという考えはないようで、今の状況で最も優先順位の低い“兎角同盟”の活動を最優先にしようと考えているようだね。
「れーせん。今のあたし達は“兎角同盟”の“兎狩り狩り活動”より、もっと先にやらないといけない事があるんじゃないの?」
今のあたしたちが最優先でやらなくてはならないのは、姫様の“寿司パーティ”を実現させることだと思うよ。だからあたしは余計なプライドって奴を捨てて、あの八雲紫に頭を下げて交渉しなきゃならないのに、ここにいる月出身のアホタレどもはそれを全くもってわかっていない!
―15― “ゆかりん”と取引をするあたし
なんとかれーせんの追跡を振り切ったあたしは、今朝早くに作り直した“稲荷寿司”と“金一封”と“新作のカラー兎”を用意しておくのは八雲紫さんの式神の八雲藍さんにあう為さね。
八雲紫さんはまさに神出鬼没という言葉がしっくりくるお方で、会いたくない時に会えば会いたい時に会えないし、会話をしてもどういうわけか圧倒されちゃうし、如何ともしがたい胡散臭い雰囲気を全身から醸し出しているんだ。
「藍さん。可愛い兎さんがあなたの助けを待っておりますので、どうかお慈悲を下さいませ。稲荷寿司もいっぱい用意しておりますので、是非とも私に救済の手を施してくださいな」
あたしは目一杯可愛らしい声を出して藍さんを呼んでみると、
「私を呼ぶのは誰かしら?」
背後から胡散臭い年増の女性らしき声がしたので、振り向いても誰もいないからあたしは凄く気持ち悪い気分になったから、
「だ、誰!?あたしは探し人がいるけど、別にあんたを読んじゃいないよ」
あたしが探しているのは八雲藍さんであって、正体不明で気味が悪く胡散臭いクリーチャーなんかじゃないね。
「ふふふ、可愛いこと言っちゃって。でも、あなたの心の奥底は私に大切な用事があるんでしょう?」
でもそいつはあたしが会いたがっていると言ってから、
「はろ〜、みんなのアイドルゆかりんよ」
あたしの頭上から亀裂ができると、“ゆかりん”と名乗った一人の妖怪はそこから出てきたんだ。
“ゆかりん”の見た目は、長く伸ばした金髪にリボンをつけ、フリルとレースをあしらった紫と白を基調とした派手な導師服っぽいドレスを着て、リボンを付けた奇妙な形をした独特の帽子をかぶり、これまた少女趣味あふれるレースとフリルをあしらった日傘をもっていたんだ。
あたしを一目見た“ゆかりん”は、
「あなた、因幡てゐさんね。わかっているわよ。私のボーダー商事と取引をしたいんでしょう?」
気持ち悪いとしかいい表わせない気持ち悪い笑みを浮かべてから、“ボーダー商事”と取引をしようとあたしに言ったんだ。ああ、なんていうか、“ゆかりん”って奴は、とにかく胡散臭い奴だね。
「確かにあたしはボーダー商事と取引がしたいんだけど、あたしはあんたじゃなく八雲藍さんを探しているんだ」
あたしは“ゆかりん”に八雲藍さんを探していると言ったら、
「藍を探して何をするつもりなの?」
“ゆかりん”は藍さんに何をさせるのか聞いてくると、
「あたしは藍さんを通じて八雲紫さんに会いたいんだ。そんでもって外界の品物を手にして姫様に渡さないといけないウサ」
あたしが八雲藍さんに会いたい理由は、藍さんを通じて八雲紫さんに紹介してもらいボーダー商事と取引をしたいだけなんだ。全ては姫様の無理難題に答えるためにね。
「ふ〜ん、そうなんだ。でもよかったじゃないの、余計な手間が省けて。私はさっきからあなたがずっと探し求めている八雲紫張本人よ」
なんと“ゆかりん”は、八雲紫張本人であると言いだしたんだ!あたしは“ゆかりん”が言ってることが胡散臭く感じてしまいどうしても信じられなったので、
「冗談でしょ?胡散臭いあんたが、幻想郷最高権力者でありあのボーダー商事のCEOである八雲紫なわけないじゃないの」
あたしはどうしても“ゆかりん”が言ってることが胡散臭すぎるから、こいつの言ってることは全部嘘なんだと思っていたのよ。
「あなた、私の事が胡散臭い上に言ってることが信じられないって思っているのね?酷いわ!ゆかりん悲しすぎちゃって泣いちゃうわ。だって、女の子だもん」
あ〜あ、なんてこった!“ゆかりん”はポケットからハンカチを取り出し、よよよと泣き崩れちゃったんだ。あたしはこいつがマジで泣いているのか嘘泣きしてるのかわからないし、なんか独特のオーラで圧倒されちゃったから何も言えずしまいさ。それにしてもこの“ゆかりん”ときたら本当に“胡散臭い”奴だなぁ…。
「ああ、もう!しょうがないなぁ…。あたしが悪かったから本当に許しておくれよ。あんたが八雲紫だってことを認めるから、これ以上泣くのはやめておくれ」
あたしはこれ以上険悪な空気に耐えれなかったので、“ゆかりん”に泣きやんでもらうために素直に八雲紫だと認めておくことにしたんだ。
「紫様にはこれを献上いたしますから、どうか機嫌を直してくださいな」
あたしは“稲荷寿司”と“金一封”と“新作のカラー兎”を“ゆかりん”こと紫さんに差し出すと、
「えっ!?これをゆかりんにくれるの!?嬉しいわぁ〜!」
さっきまで顔を皺くちゃにしてメソメソ泣いてたのはどこ吹く風。すっかり機嫌を直しちゃったんだよね。“ゆかりん”は“稲荷寿司”を食べ終わった後に、“金一封”の中身を確認すると胡散臭い笑顔をあたしに振りまいたんだ。
「これが最新作である金と銀と銅のカラー兎でございます。どうか可愛がってくださいませ」
「もちろんこのカラー兎を手にされるのは、幻想郷で八雲紫様以外誰一人たりともいませんよ。」
あたしはボーダー商事とコネクションを確保しておきたいので、あたかじめ用意した“新作のカラー兎”を紫さんに差し出した!
「えっ!?凄いじゃないのっ!金と銀と銅のカラー兎とは何て素晴らしいものなのでしょう!本当によくやってくれたわね、私はこれが欲しかったのよっ!」
紫さんは今まで見たことのない“カラー兎”に感動したのか、あたしの手を握ってきたんだよね。
「そして私は今後一切紫様に歯向かう事を致しませんので、どうか因幡兎園をボーダー商事傘下に加入させていただけないでしょうか?」
永遠亭とボーダー商事の最悪な関係を改善するために、あたしが経営している“因幡兎園”をボーダー商事傘下で加入することを条件にしたんだ。これはあたしにとって最後の切り札みたいなもんさね。
「紫様、よろしいでしょうか。あたしは姫様が寿司を食べたいという願いをかなえたいので、外界にいる寿司ネタで使われる魚を購入させて欲しいのです」
あたしは自分の目的を果たすために、紫さんに外界の肴を調達したいと交渉してみたんだ。
「ふ〜ん、そうなのね。あなたは私に歯向かう輝夜と永琳に外界の魚を食べさせたいんだ」
紫さんは姫様と永琳師匠の名前を聞いたとたんに不機嫌になってしまった。確かにうちの姫様と永琳師匠は、紫さんの事を必要以上に嫌っているってことをすっかり忘れてしまった!
「あのムカつく輝夜と永琳が絡んでくるんだったら、法外な値段を吹っ掛けるつもりだったのですが、ボーダー商事傘下になりたいというあなたの心意義を買って多少は安くしてあげるわ」
でも紫さんは新作のカラー兎を手に出来た事と、あたしがボーダー商事傘下で経済活動をするという事を条件で、姫様が望む寿司ネタとなる魚を購入させてくれるようだ。
「ですが最近の外界は何かと以前と比べると環境が変わってしまったために、以前だったら手軽に食べれた魚が手に入りにくくなってしまったのです。あなたが永遠亭に所属していなくても、外界の品物は非常に高い値段で売る必要があるという事を覚えておいてくださいな」
紫さんは外界の環境が著しく変わってしまったために、以前であれば割と手軽に手に入れれた物がそうでなくなってしまったので、今となってはそれらが非常に高い値段で取引をせざるを得なくなった事をあたしに説明してくれたんだ。
なんてこった!こりゃ、マズイ。非常にマズイ!姫様の要望に答えるために、あたしは予測していた以上にとんでもない出費を強いられそうだ!最悪の事態を頭に入れた上であたしは紫さんに姫様が欲しがっている魚のリストを見せることにしたね。
「はぁ…。あなたの所の姫様も、本当に無理難題をけしかけてくるわね。本当に参っちゃうわ。しかも、そろいもそろって高級かつ希少種でなおかつ天然物ときているんだから、性質が悪いこと極まりないわ」
紫さんはリストを見るなり急に眉間にしわを寄せてしまうと、
「ミナミマグロ、マダイ、伊勢海老、クエ、ウニ、ホタテ、ウナギ、アナゴ、地鶏の卵、どれひとつをとっても今じゃ天然物は入手が難しいのよ。養殖物だったら比較的手に入りやすいし、安い値段に出来るわよ」
「あなたたちの経済状況を真剣に考慮しておくと、ここは無理に天然物にこだわらず養殖物にでもしておいた方がいいんじゃないかしらね」
紫さんは妖怪特有の鋭いまなざしであたしを見ると、どうしてもその圧倒的なオーラに押されちゃって何を言っていいのかわからなくなるんだけど、あたしに無理なことはするなという警告をしてくれてるようだね。
「紫様。天然物が非常に高価であるという事がわかりましたが、だいたいの総額はいくらになるか見積もっていただけないでしょうか?今のあたしが支払えるかどうか知っておきたいのです」
あたしは紫さんに深々と頭を下げて、取引に必要な総額を聞いてみることにしたんだ。もちろん姫様がする命令的な口調でなく、懇願する口調だっていう事は言うまでもないのさ。
「そうね、ミナミマグロだけでも1億円は堅いわよ。あなたが見せてくれたリストに載っている奴を全部含めると、だいたい4億円ぐらいってとこかしらね」
え〜!!!1億円ですと!?たった魚一匹を買う為に、こんな莫大な金額を要求されるなんて思ってもみなかった!全部まとめて購入すれば4億円を支払うなんて馬鹿馬鹿しいもいいところだよ。
「ゆ、紫様。も、もう少し安くしていただけないでしょうか?せ、せめて全部合わせて5千万円ぐらいに…」
もちろんあたしはこんな法外な金額を要求されるとは思ってなかったし、とてもじゃないけど今すぐ払える代物じゃないから、紫さんにもう少し安くできないかと交渉してみたんだけど、
「これでも十分すぎるぐらい安すぎるし、私が出来る限り目一杯割引しているのよ。」
やっぱりあたし程度の交渉力じゃ、紫さん相手じゃ到底太刀打ちできる代物じゃなかったよ。
「幻想郷に海がないってことぐらい、あなただったらわかっている筈でしょう?それにあなたが欲しがっている物は、外界を経由しないと手に入れれない代物なんだから、それぐらいの出費は覚悟しないといけないんじゃなくて?」
「それに天然物の魚介類は今の時代じゃ入手困難だし、そして何よりもこの私に境界を操る力を使わせてるのだから、それぐらいの金額を要求したって問題ないでしょう?」
そうだった。あたしもカラー兎をそれ相応の金額で売りつけている理由は、品物を市場に出せるぐらいまで育て上げるのだから、投資した分の元を取り戻すだけでなく利潤を生みだすためにあの値段設定をしているのさ。
ちなみにカラー兎は一匹200万円で売り出しているのは、利益を生み出すためにあの値段設定をしているってことよ。あいつらの餌代は決して馬鹿にならないから、絶対に損を出さないためにこうしているんだったのをすっかり忘れていたよ。
紫さんも同じ。そもそもボーダー商事はボランティア活動でなく、あくまでも利潤を得ることを目的とした企業団体ってことさね。
「そ、そうですよね…。紫様の手を煩わせてしまうのですから、それぐらい当然ですよね…。わかりましたよ。4億円を支払いますから、あたしの口座から引き落としてくださいな。もちろん、一括払いで。」
最悪だ…。いつもだったらあたしが優位につける交渉が出来るのに、今日は相手が悪いからあたしが一方的な損をさせられる事を覚悟しておかないといけないようだわ。今のあたしの手持ちの現金じゃ到底支払いきれない額なので、あたしは姫様と師匠とウドンゲにも教えていない秘密の口座を紫さんに教えてそこから引き落とすように言ったよ。
「そう言ってくれるとありがたいわ。それじゃ、交渉成立ね。早速聞きたいんだけど、商品はいつ届くようにすればいいかしら?」
商談をまとめたところで紫さんはあたしに商品がいつ届けばいいのか聞いてきたので、
「六日後のお昼にしてほしいウサ。その日に“寿司パーティ”を開く予定なんだウサ」
あたしは品物が届く指定日を紫さんに告げると、
「わかったわ。その日の正午にうちの藍がそちらに来るようにするから、歓迎して待ってほしいのよ。出来れば稲荷寿司を用意しておいた方がいいわ」
指定日に藍さんが永遠亭に来るから、稲荷寿司を用意しておくようにあたしに言ってから、
「これから最終確認をするわ。この条件であなたは我々ボーダー商事と取引をするのだけど、これでいいわよね?問題がなかったらサインをして頂戴な」
紫さんは胡散臭い笑みを浮かべるとスキマから契約書を取り出し、あたしに不具合がないか確かめさせたんだ。事細かい部分に目を通しておかないと痛い目に遭うのが幻想郷じゃお約束だからさ。
「わかったウサ」
紫さんは胡散臭い笑みをあたしに見せつけると、契約書をスキマから取り出しあたしにサインを書かせた。とりあえず問題ある部分はないので、あたしはサインしておくことにしたね。
「問題ないウサ」
あたしは契約書にサインをすると、紫さんに原本を手渡した後にコピーを受け取ったんだ。
「それではボーダー商事との取引をして頂いて誠にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。」
紫さんは胡散臭い笑みを浮かべてから足元にスキマに展開すると、物音一つ立てることなく姿を消しさってしまったんだ。いきなり姿を現すあの神出鬼没さは誰だって真似できないし、したくはないだろうよ。胡散臭くみられること請け合いなんだからさ。
「はぁ…。何とか紫さんと取引できたけど、この出費は痛すぎるウサ」
秘密の口座に30億円入れてるけれど、4億円という大金を一気に使ったのはあたしもここまで長生きして一度のなかったよ。確かにこの出費は痛すぎるけど、ボーダー商事をつながりを持てたと思えば安すぎるもんだと割り切るしかないね。
姫様。世間知らずで我儘なあんたじゃ到底分らないと思うけど、4億円というお金を作るのがどれだけ大変かをその身をもって味わってほしいよ。もちろん、あたしに最大限の敬意を支払っておくっていうのが礼儀ってもんさ。
言うまでもなくボーダー商事との取引で使われる契約書は、もちろん悪魔の契約書を採用しているので契約違反をしたらその場で絶命するどころか、存在そのものを抹消される代物なのさ。
―16― 悩める不死鳥と迷いない高貴な姫君
ドカン!!!!!
あたしが紫さんとの交渉を終えて永遠亭に向かう道中で、鼓膜が破けそうな爆音が迷いの竹林に響き渡った。怖くなったからあたしはしゃがみ込むことにしたよ。
なにがあったのかあたしはわからなかったのだけど、周りにある竹はほとんどきれいさっぱり吹き飛ばされちゃったようだね。あともう少しで巻き添えを食うところだった…、幻想郷って、本当に怖い環境だなぁ。
「ぐわあああああ!!!!!」
誰かの叫び声が聞こえた。この声からしてたぶん妹紅の身に何かがあったと思われる。たぶん“アレ”だから、そんな心配はしなくていいのかもしれないね。
「妹紅!!!馬鹿のあんたの癖に、なんで余計な事を考えるのよ!!!!!」
バギッ!!!!!
今、姫様が叫んだみたいだ。この調子からして二人は“殺し合い”をやっているようだけど、いつもだったら必ず妹紅が姫様に襲いかかるのに今日に限っていつもと様子が違う。
「私の事が憎いんでしょう!?私の存在が嫌いなんでしょう!?私の痕跡すらも許せないんでしょう!?」
ドガッ!
ドガッ!バギッ!
ドガッ!バキッ!ドガッ!バキッ!
ドガッ!ドガッ!ドガッ!ドガッ!
ドガッ!バキッ!ドガッ!バキッ!ドガッ!バキッ!
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
この様子だと、今日は姫様が妹紅を撲殺しているようだ。それも妹紅の抵抗を許さず一方的という感じで。
「妹紅!なんで私にやられっぱなしなのよ!?いつもみたいに激しく抵抗しなさいよっ!私の、美貌を、台無しにするぐらい、痛めつけたらどうなの!?」
ドガッ! ドガドガドガドガッ!
ドガッ! バギッ!! バキバキバキバキバキッ!!!
ドガッ!バキッ! ドガッ!!バキッ!! ドガッドガッドガッバキッバキッバキッ!!!
ドガドガッ! ドガドガッ!! ドガドガッ!!! ドガドガッ!!!!
ドガッ!バキッ! ドガッ!!バキッ!! ドガッ!!!バキッ!!!
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
バシッ!!バシッ!!バシッ!!バシッ!!バシッ!!バシッ!!バシッ!!バシッ!!
姫様の攻撃がさらに激しさを増していく。あんまり戦闘が得意じゃないあたしだって、もう妹紅に状況を覆すだけの力は残されていない事がわかるよ。
「ねぇ!なんか言ってみなさいよっ!いつもみたいに、私を地面にひれ伏してみなさいってばっ!なんで、私を殺そうとしないのっ!いつも通りに殺しなさいよ!」
姫様はものすごく怒っている。ここまで反撃の一つすら見せないで、一方的にやられっぱなしの妹紅の態度に腹を立てているんだろうね。
「か、輝夜…。お前はこんな愚かなことを繰り返して、虚しく思わないのか?私達に与えられた時間はいっぱいあっても、こんな風に使ってたんじゃ、ただの時間の無駄だとは思わないのか?」
「幸いにも私達は永遠を生き続けるのだから、私たちじゃないと出来ない事をするべきだと思うんだ。子供じみた“殺し合い”なんかするより、もっと幻想郷がより良い社会にするために尽力するべきではないかと思うんだ」
妹紅は姫様に自分たちが今までやってきた事は、非常に愚かで無駄な行為だという事を言ったんだ。そしたら、
「あんたは何も考えなくてもいいから、私を殺しにくればいいのよっ!私と違って頭が悪いんでしょ!?だったら迷うことなく私を襲いに来なさいっ!」
ドガッ!
「ぐあっ!!!!!」
妹紅はこんな終わりない“殺し合い”を止めにして、もっと幻想郷で暮らす人間として社会貢献するべきではないかと言ったのに、姫様は妙に大人じみた態度を取った妹紅が気に食わなかったので頭上にかかと落としをブチかましたね。
「か、輝夜…。わ…、わ、わ、私達の間にある遺恨は決して消えることはないが、これからはお互いが手を取り合うべきではないだろうか?」
地面にひれ伏し息絶え絶えの妹紅は、なんと姫様に自分たちの関係を良くしようと言ったんだ。あたしもそんな妹紅を見てると、なんか精神的に大人になったと思えて羨ましくて仕方なく思えたよ。
「黙れ!穢れた地上の民の分際でっ!」
だけど姫様はそんな妹紅の態度が気に食わないのか、頭をグリグリ踏みつけてたよ。あぁ、やっぱり姫様は決して変わらない…。
「ぐわあああっ!た、確かに私はお前が羨ましかったから、事あるたびに突っかかってきたし、逆恨みをしてきた。お前を見るたびにいつも襲いかかったりもしてきた。だが…」
妹紅は姫様とのわだかまりを何とかしようと思っているようで、無二の親友になれなくても普通の間柄にしたいみたいだ。
「この無礼者っ!私は月の都の姫なのよっ!あんたみたいな穢れきった地上の民は、どうあがいてもお目通りできる身分じゃないってことぐらいわからないのっ!」
それでも姫様は自分が月の都の姫で、妹紅は穢れきった地上の民と軽蔑しきっているから全くもって話を聞こうとしないよ。
まぁ…、なんて言うか…、妹紅には大変申し訳ないと思っているんだけど、同じ永遠亭の住人であるあたしですらまともに相手にされてないんだから姫様の態度も当然と言っちゃ当然ってところさ。あたしは妖怪の癖にあんまり力がないから、この場にいて何にも出来ない自分が情けなく思うよ。
「だけど、そんな事をしてもいいことなんて何一つないだろう!?相手を憎んだり、嫉妬したり、殺そうと思う事が間違いじゃないか!?」
それでも妹紅は息絶え絶えになりながらも姫様に関係の改善を提案し続けた。
「黙れ!妹紅の分際で、私に口答えする気っ!?私自らの手で妹紅を処刑してやるから有り難いと思いなさいっ!もちろん、死刑に決まってるでしょう!」
姫様はやっぱり姫様で、天地がひっくり返ろうが幻想郷が崩壊しようがアリスさんが爆発しようが絶対に変わることがない。
「まず手始めにあんたの左足を千切ってやるわよ。それっ!」
ブチッ!!!!!
「おわああああああっ!!!!!」
姫様は妹紅の左足を強引に引き千切ると、妹紅の断末魔が迷いの竹林一帯に響き渡ってしまった。あたしはこの場に居続けることに耐えきれなくなり“脱兎”の如くその場から立ち去ったんだ。
―17― 永琳師匠の懺悔
あたしが姫様と妹紅の殺し合いの現場から逃げるように永遠亭に戻ると、荒んだ気分を少しでも晴らすためにれーせんで遊ぶことにした。そんな自分が恥ずかしくもあるけど。
「おーい、れーせん。いないの〜?“兎狩り狩り”でもしようよ!」
あたしがれーせんに“兎狩り狩り”をしようと提案すれば、間違いなく声を明るくしてノリノリで来るのに珍しく絡んでこない。
ちなみに“兎狩り狩り”は、“兎角同盟”の活動の一つで、兎狩りをする人間に報復行為をすることさ。可愛い兎ちゃんを殺したら、そいつを殺すっていうのがあたし達のやることさ!目には目を、歯には歯をって言うだろう?
「れ〜せん!どこに行ったの〜!?ねぇ、れ〜せんってば〜!」
いくられーせんを呼んでも音沙汰ひとつもない。たぶん薬売りに行ってるか、師匠の実験台がお仕置きされているかのいずれかだと思う。
「しゃーないや。いないならいないでもいいし。まぁ、師匠の部屋にでも言ってみていなかったらそれまでだ。」
あたしはれーせんを探しに師匠の部屋に行くと、妙なうめき声というか鳴き声がしたんで怪しい奴がいないか気になって、永琳師匠の部屋の扉の音を立てずに開けてみた。
「王様、申し訳ございません。私を死罪に処してください」
永琳師匠は机に突っ伏したまま泣きながら寝ていた。なんと永琳師匠は、寝言で自分の事を死罪にしてほしいと“王様”に言ってたんだ。
「王様、申し訳ございません!愚かな私を死罪に処してください!!」
おかしい!絶対おかしい!こんな素直で応順な永琳師匠なんてあたしは信じられない!あの自分の過ちを絶対に認めないあの永琳師匠が、どこの馬の骨だかわからない“王様”に自分の過ちを認め死罪にするように言いつけてきたんだ。
「王様、申し訳ございません!姫様を間違った方向に教育してしまったこの私を死罪に処してください!!」
永琳師匠は姫様の教育のやり方が間違ったと“王様”に言ってるよ。王様が望んでいる教育が施せなかった自分が情けなく思っているようだね。
「姫様が我儘で無理難題をけしかけるようになってしまったのは、単に私の教育のすべてが正しい方向でなかったことが原因なのです!!」
永琳師匠は姫様の人格形成に携わったのがすべて自分のせいであると認めてる。
「姫様があまりにも可愛いがために、厳しく教育出来なかったこの愚かな私が間違いでした!!」
永琳師匠は姫様に対し厳しく教育出来なかった自分が腹ただしいようだ。
「豊姫、依姫。師匠である私が不甲斐ないせいで、あなたたちの家に代々伝わる家宝を失わせてしまっただけでなく、いつも辛い立場にさせて本当にごめんね…」
永琳師匠は“豊姫”と“依姫”に対し、自分を信じてくれた弟子に申し訳なく思っているようだ。
「あいつらの狙いが解っていたらこんな事にならなかったのに、それを見抜けない愚かな私がすべて悪かったんだわ」
永琳師匠は八雲紫さんが考えている事を見抜けなかった自分に腹ただしさを感じているね。
「姫様、申し訳ありませんでした。私が無能なあまりに“寿司パーティ”を実現させてあげられなくて…」
永琳師匠はあの手この手を使っても、姫様が望む寿司ネタを手に入れられなかったから“寿司パーティ”を開けなさそうなので、自分のふがいなさをこれでもかというぐらいに痛感しているようだ。
「私が愚かなあまりに、本当に姫様が望んでいたものを何もしてあげられなくて。そして私達がひもじい生活を強いらせるあの憎きあのボーダー商事めっ!」
永琳師匠は姫様が望んでいた事を何一つたりともしてあげられなかった事とボーダー商事に逆らった事で生活苦に陥ってしまった事で、本当に申し訳なさでいっぱいなようだ。
「ウドンゲ、私はあなたに優しくしてあげられないダメな師匠ね…。いつも薬売りの仕事を頑張ってくれているあなたに、私は労ってあげられない…」
永琳師匠はれーせんにお仕置きばかりしている自分が情けないと思っているみたいだ。だったら、れーせんにそんな酷いことしなくてもいいのにね。れーせんが嫌な奴になるのは師匠にも原因があるとあたしは思うんだけど。
「私はてゐや因幡達を穢れたものとして差別してきたわ…。だけど、本当に穢れているのは私たち月の民じゃないの。私は何をやっても浄化しきれない位穢れているのよっ!」
永琳師匠はあたし達地上の兎の事を差別していたと認めてたうえで、一番穢れているのは月の民である自分たちだと言った。本当にそう思っているなら、あたし達地上の生き物を差別視する必要なんてない筈だよ。
「あああああっ!!!!!私は取り返しのつかない事をしてきた。姫様の為に月の兵士を大勢殺したり、何一つ罪のない地上の民も大勢巻き込んだりしてしまった…。私の手は血で汚れている!」
永琳師匠は自分が生きるために数多くの命を奪ってしまい、自分の手は血で染まっていると言った。それが取り返しのつかないことだと認めた上で。
「本当に罰せられてしかるべき罪人は、この八意永琳です!斬首刑の上に晒し首にされて当然ですし、私の亡骸は埋葬されることなくそのまま放置されて、二度と輪廻転生の輪から抹消され地獄の業火で焼かれ続けるです!」
永琳師匠は一番罪が重い罪人は自分であると認め、そのうえ二度と輪廻転生することなく自分は地獄の業火で焼かれ続けると思っているようだ。
「死んでしかるべき私は今もなお生き続けている!いくら罪を償っても償いきれない!私が命を救っても、奪った命を取り戻すことなんて出来はしないっ!」
永琳師匠は自分の罪が償いきれないと認めてる。しかも泣きながら寝言でこう言ってるんだから、あたしは師匠に何をしていいのかわからなくなってしまった。
あー、重症だ。本当に重症だ。寝言でもこの発言はヤバイよ…。あたしも永琳師匠との付き合いはそこそこ長いんだけど、こんな永琳師匠始めてみたよ。
あの大胆不敵で傲慢な性格は作り上げられたもので、実際は繊細な心を持っている自分の弱さを押し隠すためのものだと思うとこれほど悲しい事はないね。
あたしだって師匠が今の弱者の立場でいることが受け入れられなくて、歯がゆい思いをしている事は何となく理解できるよ。でも幻想郷を裏から牛耳っているのはあの八雲紫さんなんだから、今ここで生きていくにはここのルールに従わないといけないんだ。
師匠が寝ながら泣き逆ってるのは見てられないから、あたしは大人しく退出したよ。ここで師匠が起きたら何を言われるかわからないしね。
「あたしだって姫様と師匠とれーせんの考えはわかるよ…。だけどここは月とは違う地上で、幻想郷という結界で閉じ込められた狭い世界だから、ここで生きていくんだったらあえて譲歩した方がいい…。」
―あとがき―
姫様ともこたんに殺し合いをさせました。読み返してみるといろんな臭いが漂ってくるわけではありません。
公式のもこたんはどうであれ、ここではどうしようもないキャラにはしたくなかったので、あえて迷いもがき苦しんでいるようにしました。
イル・プリンチベ
作品情報
作品集:
27
投稿日時:
2011/06/22 08:12:34
更新日時:
2011/06/22 17:12:34
分類
因幡てゐ
永遠亭
ブラック企業
そこはかとなくかわいそうな奴が多い感じ。
個人的にはこっちのがいいなあ。
『ゆかりん』の胡散臭さと強かさは、てゐを以ってしても出し抜けなさそう。
妹紅の真人間っぷりに泣けました。
永琳師匠の独白、毒を吐かれるより効きましたよ。
まあ、なんですね、TOPを何とかすれば、まだ永遠亭は救われる余地が有りそうですね。
では、続きを楽しみにさせていただきます。
その光景を見てみたいですねw
大賢者様の胡散臭さはむせるレベルだな
それに引き換え鈴仙マジ小物だな
今のところガチでどうしようもないのが姫様だな。妹紅との殺し合いの
シーンとか見てると、内心は複雑そうな気もするんだが。
それに、独立できるだけの資金があるのに、身銭を切ってまでブラック企業に勤め続けるのもなぜだ?
その理由もこれから明かされていくのかな?