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『招待状をお持ちの方は、どうぞこちらへ』 作者: あまぎ
「グロテスクとは、言わば、人類が文化を営みはじめた草創期より続く娯楽の一種でありましょう」
例えば、拷問。
例えば、虐殺。
例えば、陵辱。
「――これらは兼ねてより、選ばれた一部の強者、すなわち高貴な身分の者のみが味わえる至極の愉楽、悦楽でありました」
例えば、処刑。
例えば、蹂躙。
例えば、解剖。
「祖国のため、正義のため、医学のため、私怨を晴らすため、本能の赴くままに……理由は様々ありましょう。しかし理由は理由。真に迫るのは、決してそこではありません。その行為を背徳と真摯に受け止めた上で、"愉しい"、そう思うことが出来るか否か。そこが重要なのです」
例えば、妖怪が喰い散らかした少女の血と臓器と糞尿の溜まりに欲情し、その残骸を秘かに持ち帰ったそこの貴方。
例えば、小さな妖精をさらって頭蓋を叩き割り、その中身に煮え湯を注ぎ、白目をむいて奇声を上げる様子に絶頂を迎えたそこの貴方。
例えば、隣家の子のあまりの愛らしさに、迷いの森まで誘い込み、妖怪の仕業を装って食べてしまったそこの貴女。
「貴方がたは本物です。この穢れた地上の民の中でも、最も私達に近い存在であると言えましょう。しかしここ幻想郷には、貴方がたがどれほど巨額の資産を持ち、如何なる上流の地位を築いたところで蚊ほども敵わぬ、絶対の『秩序』が存在します」
私達に博麗霊夢が居るのと同じように。
貴方がたには――八雲紫が、居る。
「そこで私達は、今宵のような場を用意させて頂く事にしました。ここでならば、貴方がたはリスクを冒すことなく、そして存分に愉しむことが出来ます。例えば、鬼畜の所行を。慈愛に満ちた殺戮を。醜悪愚劣な強姦を。狂気の沙汰の精髄を、絶叫の芳香に満ちた猟奇の晩餐を、待ち焦がれた脳漿との逢瀬を、阿鼻叫喚の境地に佇む安寧を。そして――」
それでは皆様、大変お待たせ致しました。
これより、狂乱の宴を始めましょう。
「選ばれし強者の皆様よ。良き拷問を。良き虐殺を。良き陵辱を。良き処刑を。良き蹂躙を。良き解剖を。――良き、グロテスクを」
◆
八意永琳の、妖艶な赤い唇から発せられたその禍々しき言葉の羅列が聴衆の心を『何が始まるのか』と高鳴らせたその時、仄暗い場内――永遠亭の有する広大な地下室――の一区画が、無機質なライトで眩く照らし出された。そこには真白な手術台と、それに寄り添うように立つ一人の少女の姿があった。
「先ずは私から、ひとつ余興を致しましょう」
八意永琳が少女の傍らまで歩み寄り、言う。
「紹介致します。私の助手であり一番弟子でもある、鈴仙・優曇華院・イナバです。ほら、優曇華、ご挨拶なさい」
「……皆様、初に御目にかかります。以後、お見知り置きの程を……」
鮮やかなルージュのブレザーと、その胸元に咲いた蒲公英(タンポポ)色のリボン。短めのスカートは朱鷺色を思わせる高尚なピンクであり、全体をして華奢な、そして可憐な印象をその場の全員に与えた。少女の眼は大きく見開かれているものの、そこには言いようのない虚無が広がっており、彼女の感情を窺い知ることは誰にも出来ないようであった。
「それじゃ、優曇華」
「……はい、師匠」
少女は静かに応え、腰まで届きそうな長く美しい髪を丁寧に流しつつ、手術台の上に横たわる。そして、永琳が少女の服に手をかけ、リボンをほどき、ブレザーのボタンをひとつ、ふたつと外していく。ブレザーをはだけさせると次は、その下に着ていた月白色のドレスシャツに手を伸ばす。そしてまた、ボタンをひとつ、ふたつ……と焦らすように外していった。
少女は何も言わない。
ただ――その赤い瞳は違った。それは明らかに何かを訴え始めていた。そこにはただの虚無などではない、何か別の感情が宿りはじめているようであった。
そしてこの余興が終わりを迎える頃には、彼らは観客はみな、その意味を余す所なく知ることになる。
それは死というものの魅惑に対する――そして同時に湧き起こる途方もない快楽に対する、信じられぬまでの不安であり、また期待であり、絶望であり、安らぎであり、行き着く所、終点まで至ってしまった結果ゆえに産まれ出る感情であるということに。
「……ん、ぁ……」
切なさを訴えるような甘い声とともに、少女の身体を包む最後の布地がはだける。
「科学とは、大変面白いものです。やろうと思えば、大抵のことは出来ます。例えば――」
そこには、
「――例えばそう、こんな風に――」
そこには。
内臓が、あった。
ドク、ドクッとまるで喘ぐように大きく、しかし規則正しく動き続ける赤黒い心臓があった。
少女の呼吸に合わせて膨張と収縮を繰り返す、弾力のありそうな二つの肺があった。
横隔膜の下には鉤型の胃があり、その左側には肝臓があり、膵臓が、小腸が、大腸が、子宮が、膀胱があった。
そのどれもが無傷で、正常に動作し、少女を照らす光を反射し生々しく蠢いていた。徹底的な体調管理から成せる技か、器官には一切の無駄な脂肪が無く、血液を基にした臓器そのものの色、その余りの鮮やかさと美しさに、観客のうちの半数ほどが唾を飲み、『美味そう』と思った――それも、仕方の無いことであろう。
「筋肉を構成する蛋白質を透過させ、皮一枚剥げば、こうして人体構造が分かる訳ですね。私も、この娘も、貴方がたも、皆さんの愛する人も、中身は誰もがグロテスク……ふふ、やはり、科学というものは面白いものです。物事の本質を、これ以上ないくらいに示してくれる。もっとも、私自身はこれを特にグロテスクだとは思いませんが」
艶やかに笑い、永琳は少女の透明な胸、もし見えたならば丁度乳房があるであろうその箇所に、優しく手を置いた。
途端。
「ひっ、ぁ、ふッ……! っく、んぁッ、あぁああああああ――っ」
少女から嬌声が上がる。一瞬堪えようとしたが、意志の力だけでは抑えきれなかったのだろう。びくりと反り返ったその細い身体、その白い喉から、女の音色が溢れて迸り、地下室内に反響する。
何が起こったのか――という観客達の疑問は次の瞬間には氷解し、代わりに、みな驚愕の表情を形成する。永琳のアラバスタのように滑らかで白い手が、少女の内部へ『沈み込んで』いくのだ。ゆっくりと、しかし確かに。少女に狂ったような歓喜の声を上げさせながら。
「しかしですね。困ったことに、単純に蛋白質を透過させただけでは、細胞がバラバラに崩れてしまうのです」
手首まで彼女の内部へ埋没したその手を、永琳は微塵のためらいもせず、握りこむように大きく動かした。ぐちゅり、という軟らかいものをかき回したような音と、
「ひぃッあ"アアはァあへぇおおおおおあお"ぅひぉおお"ぉん――」
それをかき消す咆哮にも似た少女の喘ぎ声。限界まで呼気を吐き出した少女の肺は酸素を求めて膨張と収縮を激しく不規則に繰り返し、それと同期するかのように心臓の鼓動がみるみるうちに加速していった。少女の胸の内にのたうち回っているそれを、少女の生命の要であるそれを、周囲の太い血管ごと思い切り握り締めたなら、少女はどんな顔をするのだろう。少女はどんな声で啼くのだろう。そうした妄想で、観客達も次第に昂ぶっていく。
「それに邪魔な骨――胸骨や肋骨ですけれど――を取り除いてしまったものですから、内臓を保護する筋肉を補填してあげる必要がありました。あとはそう、血流の問題もありましたね。そうした問題を解決したのが、この、優曇華の体内を満たしている透過性擬似脂肪です」
そのまま肺へ達するかと思われた永琳の手は、観客の予想を外れ、胸の中ほどへ達した状態のまま少女の腹部へと移動していく。
「――ぎ、っっはッぁ、あぁ、ん……っく、はぁッ……ぁッあッ、あんっ――」
先の衝撃に白目をむき、だらしなく舌を出し、放心したように涎を垂らしながら何度も身体を痙攣させていた少女は、それでもなお、体内を蠢く異物から生じる悦楽に再び喘ぎはじめる。既に彼女のお洒落なスカート――股間は、大量の小水と愛液で濡れそぼっている。だが、その臭気が観客の鼻をつくことは無かった。そこまで徹底管理されているのであろう。
「保温特性、靭性ともに優秀で、またニューロンを模した構造を形成するナノサイズの機械的機能附帯バイオマテリアルの集合体……具体的に言うならばこんな感じでしょうか。まあ、こうした技術は私の専門ではないので、製作にはそれなりの期間を費やしてしまいましたけれど」
手は下腹部に到達すると、再び少女の奥へと侵入を始めた。
「……し…しょ、う……ふ、ぁッ、はぁ……んっ、ひ……っ」
悦びに髪を振り乱し、身を震わせながら、少女は『師匠、師匠』と愛おしそうな声を上げる。
「――も、もっと……ひぅ、ぁがっ、はッ……ぉ、――おく、へ……ッ!」
嬌声とも悲鳴ともとれる喘ぎ声の中で、息も絶え絶えに、少女は自らの欲求をこぼす。
額には玉の汗。眼は虚ろ。この行為は果たして、少女にとっての褒美であるのか苦悶であるのか。
「皆様は、その手、いえ、全身の皮膚から皮膚電位と呼ばれるエネルギーをたえず放出していることをご存知でしょうか? この素材は、この娘自身の体温と、そして外部からの皮膚電位に反応して動作します。栄養源の自己確保と自己修復、間質液の代役、各種電気信号の伝達、分子間の微細移動を主として、種々の……ああ、その前に脳が情報を電気信号として処理していることからご説明しなければなりませんね」
先程放尿したからであろう、少女の膀胱はやや縮み、白味がかった赤の表皮がそれだけ分厚くなっていた。か細い血管の多くはしるその袋を軽く撫で、
「んっあぁッ、く、ひっ……ッ!」
その奥、大腸との隙間から顔を覗かせる女性の生殖器官――子宮へと、魔性の手が向かう。その愛撫は子宮体部から始まり、静かに卵管を伝っていき、やがてその先端に位置する卵巣を弄び始めた。女性というものを象徴する器官、その成熟した卵巣の形が、手から加えられた圧力に応じてぐにりと変形するたび、少女はまた、堪えがたい慕情の吐息を漏らす。
「ぁ……ゃ、……っちゃ、う……ぁ、あ…………!」
「人間の身体にはニューロン、つまり神経細胞が張り巡らされており、五感から得られた『綺麗』だとか『暑い』とかいった情報は、その神経細胞を通って脳へと伝達されます。逆もまた然りで、身体を動かす命令も、脳から発せられた電気信号で行われている訳ですね。『足を曲げろ』といった自律的なものから、『心臓を動かせ』などといった無意識下の命令も存在します。そしてここからが大事なのですが――」
「ぃ、イ……っちゃう、ま……た……あ、あァ、あっ……あっ……ッ!」
「――快感。これもまた、電気信号で処理されているのです」
その言葉と同時、永琳は弄んでいた卵管、卵巣、子宮体部をまとめてたぐり寄せて鷲掴むと、強引かつ一気に、それを少女の膣孔へと押し込んだ。
「ぁ――くひッ、ぎぃイィッくるぅうゥぅあぉおおあ"ぁ――ッ、――――――――っッ!」
少女の身体が跳ね上がる。汗で艶めかしく光る四肢が限界までピンと伸び、呼吸もままならぬ様子で、小刻みに痙攣を繰り返すその姿――それに、永琳は初めて満足気な表情を浮かべて見せた。少女の腹腔に沈んでいる手はそのままに、もう片方の空いた手で、永琳は少女のスカートを、次にその下着を器用に剥ぎ取り、そこに覗くぬらりとした少女の子壷を観客に示した。『――これが子宮口。そしてこの状態を、子宮脱と呼びます――』と。
「さて。皆様もうお分かりでしょう。この透過性擬似脂肪は、皮膚電位に反応して"快感を司る神経を刺激する電気信号"を"やや過剰に"発するのです。快感を司る神経、これをA10神経と呼ぶのですけれど、これを扱った実験を行っているうちに、中々に興味深い結果が得られましてね。ひとつ、ご紹介致しましょう」
「あ、あひっ、あっ……」
次に永琳は少女のはらわたに手をかけ、ある意味少女の身体の中で最もグロテスクな、その長い器官の一部を静かに引き抜いた。
「あ、そこの貴方、これをお持ち頂けますか……ええ、後は適当に、周りのかたと一緒に引っ張っていって下さいな。小腸、大腸を合わせた腸全体の長さは大体9m前後だそうですが、この娘の場合はどうなのか――皆様でぜひ、測定してみて下さい。ああいえ、興味深い結果というのはこの余興とは無関係です。いえね、以前、私の所へ薬を求めてある人間の男がやって来たのですが……」
『なぁ先生、冷たいのをくれないか』
『冷たいもの? ああ、なるほど』
永琳は地上の人間が使う隠語には慣れておらず、僅かに逡巡したが、男の顔を見てすぐに理解した。男が永琳に求めたもの、それは所謂麻薬であった。
『あるんだろ? 別にトベさえすりゃ何でもいいんだけどさ、先生は何でも作れる天才だって評判じゃんよ。出来りゃ、よぉーくキいて、副作用の無いやつがいいんだけどよ』
男は馬鹿であった。薬物を用いている限り、副作用は必ず存在することすら知らないようであった。
『……貴方の要求は理解しました。そうですね、ではこういうのは如何でしょう?』
だが、永琳はこうした人間が嫌いでは無いのだ。故に永琳は月でも人気の高かった、最も効率が良く、そして完全に副作用の無い究極の方法を男に提示してみせた。それに用いる道具は、ごく微小の電極対であった。
『この電極対を貴方の脳の快感神経に差し込み、ボタン一つでいつでも快楽を得られるようにしてあげましょう。なに、生活に不便はありませんよ。ただ、月では歯止めが利かず、気が違ったようにボタンを押し続ける者が後を絶ちませんでしたが……それは、貴方の意志次第というものです。どうです? これが貴方の求める理想の快楽でしょう? 善は急げです、今ここで埋め込んでいきますか?』
非の打ち所の無い、善意の笑顔で永琳はそう語った。
だがその答えを聞いた男は、本物の狂人を目の当たりにしたような怯えた眼で永琳を睨み、慌てて逃げ出してしまったという。
「……どうでしょう、興味深くはありませんか? 皆様、ご自分の身に置き換えて、よく考えてみて下さい」
ずりずりと、観客によって引き摺り出されていく少女のはらわたを慈しむように撫でながら、永琳が続ける。
その背後からは身悶えし、悦に入った少女の甘い声がこだまする。
「大抵の人間というものは、自らの快感神経を刺激するためだけに生き、ただひたすら動き回っているのではありませんか?」
時折、ぶつりぶつりと腸間膜や血管が引きちぎれる音がして――それがまた、観客達を沸き上がらせた。
心臓の鼓動に合わせて静かに溢れ出る赤褐色の液体は、少女の腹腔内を満たし、自身の内臓を艶やかに彩っていく。
「食事も、睡眠も、性交も、そうして種が存続していくことも、全て快感の一種であるから行うのでしょう? ならばその行為は、ボタンを押すという単純な行為と一体どれだけの差があると言うのでしょうね? まさか、複雑な過程を経ているから単純な行為よりも高尚である、などと下らない屁理屈は抜かさぬでしょう? 皆様、そうは思いませんか?」
片時も乱れることのない華麗な仕草、かつ美しく滑らかなその声色で永琳が問いを発する。既に少女の薄紅色、そして鮮血に濡れた消化器官は全て腹部から抜き取られ、幾人もの観客達の手にぶら下がってだらしなく伸びていた。
丁度、観客の一人が少女の腸の長さを測り終えたようであった。彼がその全長を永琳に伝える。
「9.6m? 素晴らしい。平均を大きく上回っていますね。華奢な身体の中にこんな生臭い内臓をたっぷりと詰め込んでいたことを思うと、この娘を褒めてやらずにはいられませんね。では――ご褒美です、優曇華」
腸を全て引き摺り出され、その下に隠れていた二つの腎臓や真っ直ぐに伸びた脊柱をさらけ出しながらも、少女は優曇華、と名前を呼ばれたことに心の底から喜び、笑みを浮かべた。
そして永琳は、観客が引き出した腸の上端に位置する臓器――胃に手をかけ、今度はそれを躊躇無く両手で握り潰して見せた。少女の身体が一瞬ビクリと跳ね、その後、背筋を大きく震わせたと思うと――
「お"オ"ごォ、グ、ゲォオ"オ"オォォァ"――」
胃の内容物を血に染め、盛大に吐瀉した。吐瀉中、余りの苦しさに息を吸い込もうとしたのだろう、液状の異物が喉に詰まるごぼごぼという、少女の身体には怖ろしく不釣り合いな低音がその凄惨さを物語っていた。少女の口は血にまみれ、泡を吐き、酸素を求めて尚も口を開くが、嘔吐けど嘔吐けど、血が溢れてきて喉につかえるのであった。
胃には、食物を消化する際に血液が集中するため太い静脈が通っている。永琳がその静脈ごと握り潰したため大量に出血し、胃液と共に逆流しているのであろう。
「ゲ、ゴッ……ガ、ぁ、ボッ、グ、ハバッ……」
少女が涙に濡れる赤き双眸を、さらに大きく見開いた。呼吸困難による反射だけがその理由ではない、と観客達にもすぐに知れた。
辺りに響き渡る水気を帯びた鈍い排泄音――そして、少女の股間から漏れ出るその液状のモノは、濃い茶色であった。長時間大気にさらされ、限界まで冷えた腸がその機能を失ってしまったのだろう。しかしその程度で、会場内の人間が怯むことは無かった――全く。皆無であった。むしろ、歓喜に喜び噎ぶ者が殆どではなかろうか、と誰もが思う程。
そう、それはまさしく、紛うことなき狂気の集団であったのだ。
そんな狂人達を余所に、少女の儚き生命は終焉に向かいつつあった。心の臓は未だ苦痛に――あるいは快楽に――猛っていたが、しかし、それが停止するのももう時間の問題であった。そして少女の灯火が途絶えようとするその様を、永琳が敏感に感じ取っていたのも至極当然のことであろう。
「余興のつもりが、少し長引いて仕舞いました。では、そろそろ幕引きを行いましょう」
言いつつ、永琳が一層深く両の手を少女の腹に沈めたと思うと、そのまま背まで貫通させ、そこに敷かれていた白のシャツを手慣れた様子で破き捨てた。シャツの下には、ルージュの色彩。赤のブレザー。その鮮やかさが、未だ血に濡れていない部分まで瞬時に透けて広がった。そうして少女の内部は血溜まりの様相と化した。
「ね、優曇華?」
「ご、がっ……、げ、……は……」
既にあらゆる代謝機能も損なわれてしまったのか、少女の身体からは震えが溢れて止まらなくなっていた。
それでも少女は、永琳の眼を見つめて頷いた。生気のない、か細い声で、精一杯に。
「は、……い、ししょ……う……。……げっ……」
それが、約束。この少女は、既に定められていたのだ。
どこまでも辱めを受け、どこまでも悲惨に死を迎えることを。
この、最愛の師によって。
「――皆様は、肺がどのようにして膨張、収縮運動を行うかご存じでしょうか? 肺は筋肉を持たないため、本来、自発的に動くことが出来ない臓器なのです」
少女の体内より一度手が引き抜かれる。そこで初めて、永琳が手術台の脇に備え付けられた器具箱に向かう。
「肺の表面は胸膜に覆われており、また、その下部には横隔膜が存在する……ここまでは皆様ご周知の通りです。改めて説明するまでもありませんね」
だがそれも一瞬。死の天使が再び少女に向き直ったとき、その手中には銀に煌めく鋭利な尖刃刀が収まっていた。
「では、胸膜と横隔膜は互いに重なり合い、一分の隙間も無く連続していることは如何でしたか? そうして出来た密閉空間――これを胸膜腔と呼びますが――さて、この空間は、周囲の筋肉によって拡張させることが可能です。密閉空間の拡張、これは胸膜腔内の圧力低下を意味します。この圧力差を利用し、肺胞という袋を膨張させて大気を吸引する仕組みなのですね。そこで、このように――」
銀の刃を己の手で優しく包み込み、さも大切そうに、その切開器具を永琳は少女の体内へと沈めていく。やがて、その手の進行が見えない何かに遮られた。透過性の擬似脂肪を応用して形成された胸膜と、それを支える補強筋肉であろう。そこに到り、銀の刃が再び姿を現した――無論、刃先は進行方向に向けられている。
「――胸膜腔に穴をあけたなら。さて、どうなるでしょうか?」
「……ごほ、……あ、はっ、し……しょう、そん、なの……ぎっ、……かんたん、すぎます……よ……」
「ええ、優曇華、貴女の言う通りかも知れません。しかしまあ、正解を述べるだけでは面白みが無い気もしますし、折角だから皆様にも少し体験して貰いましょう。では皆様、一度息をすべて、限界まで吐き切ってみて下さい。……吐き切りましたか? では、その状態で息を吸おうとして、肺が広がらなかったら――息が吸えなかったら? 想像してみて下さい。……ふふ、如何でしょう? 息を吐くことは出来ても、吸うことは出来ない。その苦しさをご理解頂けましたか?」
「…………」
一瞬の間。
少女は気が付く。自らの師が、今までになく穏やかな笑みを浮かべていることに。それは自らの行いに何の疑問も持たず、『自分は善いことをしている』と確信している者独特の表情であった。自分の身体が、師の心の渇きを癒している――本能的に少女はそう直感した。そしてそれは、少女にとって途轍も無い幸福であった。
「――、――」
少女は己が師の期待に応えるため、恍惚にも似た熱い吐息を静かにゆっくりと、限界まで吐き出した。
そして微かに聞こえてきた、永琳の『じゃあね、優曇華』という別れのささやきと、
「――ぁ――、――」
胸に奔った、ぶつりという感触。
同時、少女は呼吸を行うすべを失った。
「ヵ……――、っ――――、ッぁ、――――っ、」
みるみるうちに少女の顔が青白くなっていく。少女の身体が、細胞が、酸素を求めて少女の口を大きく開けさせる。が、そこから取り入れられる酸素はもはや皆無に等しく、悲鳴代わりの微かな呻きと、ひゅうひゅうという風切り音が洩れるだけであった。
生命の危機を敏感に感じ取った少女の心臓は、どれだけ些細な酸素であろうが身体に巡らせようとし、狂ったように早鐘を打ち始める――けれどそれも、時が経つにつれ、拍動の回数を落としていく。赤い大きな目から涙を流し、身体を大きく動かしてもがき苦しむ少女の身体は莫大な酸素を消費するのだ。心臓自身に供給される酸素も、すぐに底を突いた。やがてそれは不規則に、時折まるで苦しむかのように大きく、今にも停止してしまいそうになりながらも辛うじてどす黒い無酸素の血液を送り出すだけの、壊れかけで役立たずの器官に成り下がった。
「――、――……、――、ァ…、……」
少女を眺める観客達がゆっくりと五度呼吸を繰り返す間に少女はそれを百度も試み、そしてその全てを失敗した。意識も既に朦朧としてきており、後はただ、静かに死の安らぎを待つのみ――少女がそう思った時であった。
「……――ふ、ぁ――はッ――」
少女の身体に再び酸素が供給される。にわかに身体が熱くなり、今まさに生命を放棄しようとしていた心臓が活力を取り戻す。脳に血液が巡り意識が覚醒する。
何が起きたのか。何が起きたのか。
答えは、すぐに知れた。少女の涙で霞む視界の中に、師の姿があった。そして師は、その美しい紅唇を、血と反吐で穢れた少女自らの口に押し当てていた。
師の顔が一度離れ、再度、少女に口付けする。直接流入する呼気が、少女の肺を強引に膨張させる。
「…っ……、…し、しょう……?」
そしてまた新たな疑問が浮上する。
師は、既に少女に別れを告げていたのだ。
では、何故? 少女は思考し、そして、すぐに理解する。
――これは、見せ物なのだ。余興なのだ。
余興には余興らしい、派手な幕引きが必要なのだろう。
「――――」
少女が頷く。
そこから先は、早かった。
もはや焦らすことすらせず、永琳が少女の胸に腕を差し込み、息を吹き返したその心臓を体外へと引き抜かんばかりに掴み上げる。
刹那。少女は、自らの心臓が師の手の内で苦しげに鼓動する姿を見た。
永琳は幾重にも血管のはしったその分厚い心筋の収縮・拡張の間に存在する僅かな隙間を見計らい、全身への血液循環の大元となる、直径2.5cmもの動脈――上行大動脈を、尖刃刀で一息に断ち切った。
その反動で、
上部が体外に露出した、
少女の心臓が、
ドクン、と、
一際大きく脈打った。
血液が噴出する。
少女の顔に紅い華が咲く。
永琳の手が心臓の動きに合わせ、血液を搾り取るように握りしめられる。
その顔にも紅い華が咲く。
一拍動ごとに、100ml余りの真っ赤な血液が、弾力溢れる血管から勢いよく噴き出していく。
その時、今まで眺めているだけであった観客達が、動いた。
少女の血潮のぬくもりを味わおうと、彼らはこぞって、その飛沫を浴び始めたのだ。
歓喜の声が周囲に満ちる。狂気の幸福が彼らを満たす。無邪気な、満面の笑みが彼らの顔に色濃く塗り固められていく。
今この時、この場において、彼らを異常だと忌避する者は誰一人とて居ない。
彼らは、この世界においては、至って正常な人間なのであった。
やがて、儚き少女の心臓は。
無垢な多数の笑顔に見届けられて。
その活動を、停止した。
「――さて。今宵の宴はまだまだ始まったばかり。皆様、どうぞ心ゆくまで、ご享楽下さい――」
特別出演:産廃住民の皆様
でした!
というわけで(たぶん)初めまして。あまぎと申します。
リョナだとかグロだとかエロだとかのSSは書き慣れていないので、どうにも不完全燃焼感がありますが、
その辺りは今回で少しコツを掴んだので、次回作以降に活かしたいと思います。
今作の欠点は、おそらく視点。(友人に意見を頂きました)
やっぱりいたぶられる女の子の視点で書かなきゃ萌えないですね^p^
あとは基本的に快楽ありきの痛みだったので、どうにもソフトなリョナプレイになってしまいました。
次はその辺りを注意して書いてみようと思います。
あー……きっと、最初の方も読みにくかったですよね。気を付けます。
ええと、次回作はこの話を引き継ぐ予定です。
今回は本当に余興だけで終わってしまったので、次は本番と、あとは多少の物語性も入れてみるかも知れません。
次回は……産廃住民の皆様、大活躍……!
になるといいな!
次のタイトルは、
『幻想郷を愛する皆様は、どうぞこちらへ』の予定です。
それでは皆様、またお会いしましょう。
最後までありがとうございました。
◇6月28日追加分◇
皆さんコメントありがとうございます。
物凄く励みになります……!
>>NutsIn先任曹長さん
僕はもともと風景描写に重きを置くタイプのSS書きなのですが、今回のような広大、かつ閉鎖された空間においてそれは余りに無茶だろうということで、代わりにシチュエーションを工夫することにしたのです。執行者がパフォーマンスを行う、それを大前提とし、腸の引き摺り出しのような『動きと広がりをイメージさせる作業』を周囲にも手伝わさせることで――
……って、違った! 僕がこういうシチュ好きなだけだった! ギギギ
そんなオチ。気合い入れて続きを書かせて頂きます。
>>2さん
頑張ります! 遅筆ですが!
今後とも宜しくお願い致しますー。
どうでもいいですけど全角の「!」って、素晴らしいフォルムしていますよね。
>>3さん
『……おいぃ……目にゴミ入っちゃったじゃねえか……こんな駄男に感謝とか頭おかしいんじゃねぇの……ばかやろー…… だけどそんな貴女が I Love you...』
と僕の頭の中の小人が申し上げております。大好き。
>>みそしるさん
あなたのコメントで僕の心が有頂天。
結婚して下さい!(訳:我が家の食卓を飾るお吸い物になっては頂けませんか)
ちなみに、我が家で味噌汁と言えば赤味噌であります。
>>天屋さん
母『○○ー? 明日も朝早いんでしょー? さっさと寝なさいよー』
聞き慣れた、何よりも落ち着くそんな母の声が聞こえてきた。愛する母の気遣いに、私は小声で『ありがとう、おかあさん』とつぶやき、「産廃創想話」と表示されたディスプレイの電源をそっと落として床に就いた。私の瞼の裏には、生々しく脈打つ優曇華の心臓がいつまでも、いつまでも残っていた……。
『今夜は良く眠れそうだ』
私は、自らの意識が快い眠りの中に沈んでいくのを感じていた。
>>木質さん
優曇華は、自身が『見せ物』として惨殺されることを充分に理解しておきながら、それでも尚、精一杯のお洒落をしてこの場に立ったのです。
そんな優曇華を「私の一番弟子です」って言ってあげる永琳の優しさ……って、本当は優しさでも何でもないんですけれどね。
あと"一番弟子"ってことは、他にも弟子はいるってことでして……ぐへへ……
弟子って言っても少女ですけどね!
>>7さん
僕はあなたのような方のためにこのSSを書きました。
次回は、二度と言わず三度抜いた後でも抜けるSSを書いて見せます……!
いやあの……すみません、言い過ぎました。
でもぶっちゃけ、こんなSSを「面白い」とか「興奮する」とかって思ってくれる人は誰もいないんじゃね?マジで。
って内心ガクブル状態だったので、皆さんのコメントは僕にとって本当にありがたいです。
これからも宜しくお願い致します。
>>8さん
うどんげの内心……つまりあなたはうどんげの心臓に欲情しているのだな! おスケベさん!
……でも……まじ、女の子の内臓って愛おしいですよね……ああん、僕も女の子の心臓握りしめたーい。
それから視点のこと、ありがとうございました。
このシーンを描くにはこの視点が一番、だと自分で考えた末に書いたものがこの作品ですので、
それを褒めて頂けるのは大変嬉しいです。ありがとうございます。
もちろん、僕の友人のように悪いと思った点を指摘をしてくれる……それもSS書きとしてすごく有り難いことです。感謝。
>>9さん
神は言っている……。『十六夜咲夜を無慈悲に犯せ』と……!
そういえば僕が生まれて初めて書いたねちょSSは、咲夜さんが主役でした。
結局そのSSが陽の目をみることはありませんでしたが、いつかまた、機会があればリベンジしたいものです。
>>狂いさん
おめでとうございますっ……! おめでとうございますっ……!
これで貴方様にも……宴に参加する権利が……!
え……? なに、見返り……?
……ククク……その話は……ええ……また今度に致しましょう……!
ささっ、パーっと……! 今夜はパーッと……!
……ああ、お礼コメントがやたらと長くなってしまいました。すみません。
でもそのくらい、皆様のコメントに励まされております。
今後とも宜しくお願い致します。
◇投稿日〜6月28日分 ここまで◇
◆7月04日追加分◆
>>ツナクマさん
僕自身もこんな世界をいつか1次小説で、今よりずっと上手に表現出来るようになりたいと思っています。
お互い精進致しましょう。
>>12さん
「素」が「晴れる」らしい……?
この二つの記号が意味するものとは……!
A.あまぎが喜ぶ。
……ということで、またまたコメントありがとうございました。
ようやっと資料集めと理論構築が終わって、昨日くらいからシコシコと続きを書きはじめました。
いやしかし、僕はこっから時間掛かるんですけれどね……!
というかSS書いていると時間があっという間に溶けちゃって困ります。でも楽しいからもっと困る。
では、またお会いしましょう。
ありがとうございました。
◆6月28日〜7月04日分 ここまで◆
あまぎ
作品情報
作品集:
27
投稿日時:
2011/06/26 12:12:55
更新日時:
2011/07/04 12:34:05
分類
内臓引き摺り出し
おもらし
流血
子宮脱
人体実験
永遠亭
永琳
優曇華
執行者が『標本』に若干のパフォーマンスを交えて処理をしていく話というのも、なかなかオツですね。
次回のお話が楽しみです。
あなたのような作家に出会えたことを全身全霊を持って感謝したい
こういう作品大好きです。
いやはや、素晴らしかったです。
物語が秘める魅力。情景が瞼の裏に浮かぶような描写。
どれをとっても文句のつけようがないですね。
生々しい描写にくらくらします。
興奮させていただきました。
素敵なまでにエログロです。
これからこの鬼畜たちに嬲られる少女たちのことを思うと息が荒くなります。
ついさっき別ので抜いてきたばかりだから抜けなかった…。
特にこういった異常な体験と繊細な描写は、想像力を膨らませる。
何が言いたいかというと、うどんげの内心を思うと興奮が止まりませんでした。
鼻血出そう。
ああ、なんということだ。私もこの猟奇に見せられた
狂気の集団の一員だったのか
ですのでこの光景をじっくりと目に焼き付けておきます。
うどんちゃんおいしいです^p^