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『幻想侵略記13』 作者: IMAMI
「お前は……」
「幽々子様の仇……!」
二刀を構えた冥界の庭師、魂魄妖夢がゆらり。と巨躯の男へ向かう。
「バカが。殺されに来やがって」
デザートイーグルを構える巨躯の男。
「お前、あのアマの仇っつったな?なら覚えてるだろ?お前が剣を振り立ててどうなった?」
妖夢の剣は巨躯の男の皮膚すら切り裂くことが出来なかった。どんなに霊力を込めても、力を込めても―――
「………」
「それでもやるのか。おらよ」
Bang!!
デザートイーグルの弾丸が妖夢に殺到する。
チィッ――
弾丸は妖夢の頭部を掠め、髪を数本むしり取った。だが、妖夢は歩を緩めない。一歩一歩巨躯の男へと近づき、腰の楼観剣に手をかける。
「……次は外さねえ」
再びデザートイーグルが吠え、弾丸が発射される。
キン――
「あ――?」
次に巨躯の男が見た光景は妖夢が楼観剣を振り抜いている姿だった。
「……斬ったのか。弾を」
前とは違うらしい。と巨躯の男は銃口を向けたまま動かずにいた。
(引きつけて、ぶち抜いてやるか)
どうせ妖夢の攻撃がこちらに通ることは無いのだ。弾の一つや二つ斬ろうが状況は変わらない。
タッ――
妖夢が地を蹴った。
「うぉっ!?」
メリッ――
ほぼ同時に妖夢の横薙ぎに振られた刀が巨躯の男の胴体を、巨躯の男の靴の爪先が妖夢の腹部を捉える。
「っ……」
お互いに有効打だろう。それが、この男でなかったら。
「ははっ。蹴られ損だな――」
と、巨躯の男が言い終わるのと同時に斬られた箇所に違和感を感じた。斬られた箇所に手を触れる。
「血か……?」
斬られた。このデザートイーグルの銃弾ですら跳ね返す皮膚が、目の前の年端もいかない少女に切られたのだ。
「幽々子様の仇ならば……斬れぬものなど、何一つない――」
(やべぇ。殺されるかもしれねぇ……!!)
巨躯の男は構え直す。幽鬼と化した妖夢に圧倒されていた。だが、こちらも打撃がもろに入った筈だ。何処かが折れていてもおかしくない。
再び妖夢が楼観剣を振り立てる。
ザシュッ――
袈裟懸けに振り下ろされた楼観剣は巨躯の男の肩口で止まった。
「どうやらちゃんと効いたみたいだな――」
巨躯の男は楼観剣の刀身を左手で握り締める。そして――
バキッ!
硬質化させた右手の拳を楼観剣の腹に打ち込み、根元から折り砕いた。
「オラァッ!」
そしてそのまま右の張り手を妖夢の矮躯に叩きつけた。
妖夢はその岩をも砕く一撃に地面に叩きつけられながら転がった。
「ははっ!ざまぁないなガキめが!」
巨躯の男が握ったままの楼観剣を放り出す。
「ほら!一瞬でも希望持った結果がこれだぞお前らぁ!」
人質となっていた集団の中にいた少女の髪の毛を引っ張って自分への方向へと引き寄せた。
「ひっ………いや…いやぁぁっ!」
「ゆっくり頭を握り潰してやる。人質はいくらでも───ぎぃっ!?」
少女の頭を握り潰そうと力を込めたとき、斬られた巨躯の男の肩口に白楼剣が突き刺さった。
「ぐっ………ガキめが……」
白楼剣が飛んできた方向には折れた楼観剣を構えた妖夢がいた。
「刀を投げるような剣士には見えなかったが……」
妖夢は折れた楼観剣に霊力を纏わせる。霊力が刀の形を象っていく。さらに半霊がとぐろを巻くように剣にまとわりつき、折れた楼観剣は巨大な刀となった。
(ちっ、あれはまずいかもな………)
「アアアアアアアアァッ」
妖夢が獣のような咆哮を上げて刀を振りかぶり、巨躯の男へと突進する。
「おっと、そうはさせねーな」
「きゃあっ!」
巨躯の男が人質の少女を妖夢の前へと突き飛ばした。そしてその少女ごと妖夢を撃ち抜かんと銃を二人へ向ける。
「──邪魔だ!」
ザシャッ!
「なっ───」
信じられない。という風に巨躯の男は眼を見開いた。妖夢はあろうことか少女の身体をその楼観剣で一刀の元に斬り捨てたのだ。
「はあぁぁぁっ!」
返しの刃を妖夢は巨躯の男へ叩きつけた。
「がはぁっ!」
今度は身体を深々と斬られ、たまらず膝をつく。
「ぐぅっ………!てめぇ、自分の同胞の人間を……!」
「言っただろう。斬れぬものなど、何一つない───」
人間の返り血にまみれた妖夢はそう応える。その姿はまるで───
「ははっ!お前も岡崎夢美やマエリベリと同じだ!」
巨躯の男は立ち上がり、さも愉快そうに笑った。
「ひゃはははは!鏡があったら見せてやりたいな!この世界を滅ぼすっつった岡崎夢美の面とお前の今の面、何が違うのかってぐれぇそっくりだ!きっとあの黒い小娘を殺ったときの俺の顔とも同じだろうよ!」
ズドン!
巨躯の男はまだ何人かいた人間の集団に向けて銃弾を放った。一人の中年男性の胸板を銃弾は貫いた。
「どこにでも消えろ!人質の価値がないてめぇらに用はねぇ!遅かれ早かれ死ぬけどな!」
人質は悲鳴を上げて散り散りに逃げていく。
「けっ、バカが──っ!」
巨躯の男の首筋に冷たいものが当たった。妖夢の楼観剣だ。少女の返り血と憎悪にまみれた妖夢はまっすぐに楼観剣を巨躯の男に突きつけていた。
「………のか」
「あぁ…?」
妖夢が小さな声で何かを言った。
「来ないのか?」
「なんだと……?」
「さっさと来い。名無し」
ドッ。
巨躯の男の背中になにかがぶつかった。命蓮寺の門柱だ。知らぬ間に巨躯の男は自分の体格の半分もない少女に気圧されていた。
「………舐めやがってぇ!」
巨躯の男が硬質化さすた裏拳て突き付けられた剣を払い飛ばす。そしてデザートイーグルの銃口を妖夢の頭部のすぐ近くで突きつけ、引き金に力を込める。
(近づいたのが仇になったな……!)
長い刀でここまで近づいて払い飛ばされれば、断然銃の方が早い。
ズダァァン──!
銃弾は妖夢の頭部を僅かに外れ、荒れた地面に突き刺さる。
「なっ──」
妖夢は右に払い飛ばされた刀を左側へ振り抜いていた。この至近距離での刃は巨躯の男の胴体を真っ二つに切り裂くには十分過ぎたのだ。
「かはっ……!!」
巨躯の男の上半身が鮮血を撒き散らして地面に落ちて転がる。
「ぐっ………やったじゃ…ねぇかよ……」
もう身体を硬化させるどころか出血で目も見えなくなってきている。妖夢の姿がぼんやりとみえる。もう彼女の表情はわからない。今はどんな顔をしているのだろうか。
「はぁっ………はぁっ………幽々子…さまぁっ……!!」
妖夢の声が聞こえる。
「私、やりました……仇を討ちました……!」
妖夢は気付いていなかった。まだ息のある巨躯の男がジャケットの下の手榴弾のピンを抜いたことを。
「あはっ……!幽々子様…幽々子様…」
爆発音────
「ああ、遅かった……」
早苗はプリズムリバーを連れて彼岸を飛んでいた。
『浄瑠璃の鏡を閻魔の死体から回収して──』
霊夢からそう指示を出され、彼岸の地理に今いる中で一番詳しい者が早苗に同行した。
幸いにも彼岸は別世界の境のため、地獄側が映姫の死体を回収するのはどうしても遅れるはずだ。そう踏んでいたのだが、既に傷み始めた映姫の死体の近くに閻魔の服を着た男がいた。
「む……」
閻魔の男がこちらに気付いた。早苗達は男の前へと着地する。
「何用ですか?」
「幻想郷の者です」
早苗は答える。
「何用かを訊いているわけですが……ああ、私は久万菩督です。四季映姫の後釜で閻魔、ヤマザナドゥの位をいただきました」
閻魔の男が張り付いたような笑みをこちらに向ける。
「東風谷早苗です。浄瑠璃の鏡を回収しに来たのですが」
「はぁ?」
閻魔は小馬鹿にしたような声を上げた。
「何を言っているのですかいきなり」
「お願いします!」
「お願いされましてもねぇ」
閻魔は態度を崩さない。
「………どうしても、浄瑠璃の鏡は渡せませんか?」
「渡せませんね」
閻魔は映姫の死体を乱暴にまさぐって映機の浄瑠璃の鏡を取った。きちんと手入れされていたらしく、傷や埃が殆どついていない。
「……彼女ね、あまり好かれてなかったのですよ」
閻魔が話し始める。
「生真面目すぎる性格でしてね。下からも横からも疎まれていましたよ。どんな罪人でも地獄に落とす時は苦しんでいましたが、与えるべきでない恩情を与えることはありませんでした。
まぁ、そんなことはどうだっていいんですよ。私達はあなたに鏡を渡す理由がありません」
「……鏡がないと幻想郷が、滅ぼされてしまうのです。どうか……!」
「知ったことではありませんよ。逆に私はその幻想郷を侵略した連中に感謝していますよ」
そして閻魔はニタァっと笑った。
「私を出世させてくれてありがとう。とね」
「───あなたという人は!それでも法の番人ですか!?」
「ええ。だからあなたに鏡は渡せません」
「………凡夫ね」
そうボソッと言ったのはルナサだった。
「なに?」
「あなたは閻魔の器じゃないっていってるのよっ」
「映姫様の後釜なんて無理ねこいつじゃ」
メルランとリリカもそれに続く。
「………法廷侮辱罪ととらせていただきますよ」
「メルラン、リリカ。………いいわね?」
「もちろんよ!」
「うん!」
プリズムリバーがそれぞれの楽器を取る。
「え……皆さん何を……」
「早苗。あとはお願いね」
そして三姉妹は奏で始めた。彼岸を透き通ったアンサンブルが駆け抜ける。
「………何をいきなり。不愉快な雑音を鳴らすな」
閻魔の男は悔悟の棒を振り立てる。だが、ポロリと悔悟の棒は閻魔の男の指から滑り落ちる。
「………?なんだこれは」
強烈な目眩を感じ、閻魔は膝をつき、地面に手をついた。
「えっ…?ちょっとプリズムリバーさん……」
三姉妹は閻魔を三方向から取り囲むように楽器を奏でる。いつの間にか彼女達の姿は半透明になっていた。
「………やめなさい。やめなさい………やめろ……やめろ……!」
演奏が進むにつれて目眩だんだんと酷くなっていく。
「かっ……貴様ら……無間地獄行きだ………未来永劫後悔させて───」
「悪いけど」
「そんなの」
「覚悟の上だから」
笑って三姉妹は閻魔に応える。
「! 皆さんダメです!そんなことをしては……」
プリズムリバーの意図に気付いた早苗がルナサに近寄って止めようとするが、すでにルナサには触れることが出来なかった。
「早苗。私達はこんなことしか、出来ないから……」
「止めないでよ。これぐらいやらせて!」
「それにこいつ、いけ好かないからさ。司法の腐敗は防がなきゃ」
バイオリンが、トランペットが、キーボードが、それぞれ複雑に絡み合い、ひとつの音の怪物を作り出す。
鬱の感情と躁の感情が幻想に導かれ、力を生み出す。
ルナサとメルランとリリカが肉体のない自分の精神力を使い、アンサンブルを奏でる。
「………」
閻魔の男はもうすでに動かない。身体はみるみると炭のように黒ずみ、灰のように空気にかき消えてゆく。
「じゃあ、あとは…頼んだ…」
演奏が止まると同時に三人の姿もかき消えた。静寂が再び彼岸を覆う。
「………ルナサさん、メルランさん、リリカさん──」
ほんの少しだけ早苗は泣いた。自分のために、自分を庇うために何人も死んでしまった。でも自分がやることは泣くことではない。
早苗はゆっくり顔を上げ、閻魔の男の灰の前へと歩く。灰になったのは身体だけらしく服や装飾品は残っていた。その中には───
「ありました。浄瑠璃の鏡………」
浄瑠璃の鏡を覗き込むと、鏡面は静かに早苗を映している。早苗はそれを確認したあと懐に仕舞い込み、彼岸から飛び立った。
「おう、まだやりあってたのかあのオッサン」
寅丸星を下し、博霊靈司の加勢に向かっていた長身の男は戦いが見える位置まで来て木に寄りかかって煙草を取り出した。
「めんどくせ。一服してから行くか」
長身の男は幻想郷ではたまに見る100円ライターで煙草に火をつけて、ゆっくりと薫りと味を楽しむ。あの男、靈司は夢美が言うには夢美が開発した魔法科学の粋を集めて作った怪物だと聞く。なら、わざわざ自分が急いで加勢に行くことはないだろう。それに、あんな化け物拳銃を撃ってまだ手が痛い。
───と、煙草の灰をそろそろ落とそうとしたとき、強い殺気が長身の男を貫いた。背後から、つまり木をはさんだ位置に何者かがいる。
「……もし、あなたは──」
「ああ、そうだ」
長身の男はゆっくりと振り向く。うす茶色から毛先に行くにつれて紫色のグラデーションの髪の女性がそこにいた。
「聖白蓮と申します。
……投降する気は、ありませんか?」
「あ?」
長身の男はそんな白蓮の態度に拍子抜けする。
「仏に仕える尼であるゆえ、殺生はしたくありません。どうか投降していただけませんか?」
「……坊さんの言うことじゃあねぇなぁ」
ほふ。と長身の男は煙を吐き出す。
「俺の世界じゃ坊さんってのは念仏唱えて金貰って、ヤクザとつるんで女抱いてる連中だぜ」
「……あなたはまだ若い。やり直せる。罪を償える。だから──」
「おお。やっと坊さんらしい台詞が出てきた」
ケラケラ笑う長身の男。
「アンタ、憎くないの?雲を操る奴と虎みたいな奴、俺が殺したんだよ?」
「………憎いです。でもそれは私が憎いのです」
「ふぅん。憎いならいいだろ?とにかく投降する気もないし、これ以上アンタの説教も聞きたくねぇな」
「……そうですか。残念でなりません」
白蓮はゆっくりと体術の構えを取った。古流武術の一種だろうか。
「いいねぇ。やる気が出たかよ坊さん」
ビッ!
長身の男が言い終わるや否や白蓮は掌打を長身の男に放つ。
「あぶねっ」
ビュッ!
拳を長身の男の腹部に打ち込む。
「おおっと」
白蓮は手刀や拳、膝を叩き込むが長身の男はそれをすべて見て捌ききった。
「へっ、あの虎と大差ねぇな」
ラッシュが終わると長身の男は後退し、ニヤニヤと笑う。
「………残念ですが、あなたの能力は見切りました。
それでも投降しませんか?」
それに対して白蓮は静かに長身の男に告げる。
「あぁ?何を───」
「次からは当てますよ」
白蓮は再び同じ構えを取った。
「なんだ。またそれかよ」
白蓮が掌打を繰り出す。
「……!」
長身の男はそれを捌く。だが───
(なんだ、こりゃあ……!)
(やはりそうでしたか)
白蓮は確信する。彼の能力の正体を。
再びラッシュを入れる白蓮。長身の男は先ほどと同じように捌いてはいるものの、明らかに反応が送れている。
びしゅッ!
「ぐっ…!」
顎の辺りに浅く白蓮の裏拳が当たった。
よろけて長身の男は再び後退する。
「完璧にあなたの能力は見切りました。魔法の肉体強化をかけた私の古武術の前では通用しませんよ」
「この、アマ……!」
S&Wを抜き撃つ長身の男。爆音とともに吐き出された銃弾が白蓮へ殺到する───だが、
パシィッ!
白蓮はその凶弾を片手で包み込むように受け止めた。
「なっ………!」
まるでピッチャー返しを捌くように止めやがった。と長身の男は少年の頃にやっていた球技を思い出しながらそう感じた。
「それがあなたの攻撃ですか。私には届きません」
タッ──と白蓮が長身の男に突進する。この動きなら、頭部への正拳突きだと長身の男は上体をそらす。
ドカッ───
「あがっ………」
次の瞬間長身の男は白蓮の前蹴りを食らって吹っ飛ばされた。無様に地面を転がる長身の男。
「あなたの能力、それはおそらく相手の身体の筋肉や腱の動きから次の行動を瞬間的に予測することでしょう」
白蓮はつかつかと長身の男に歩み寄る。
「相手の次の動きを知っていれば、相手の攻撃を食らうことはないし、自分の攻撃を外すこともありません。そして並の妖怪程度の身体能力。かなり恐ろしい」
「ぐっ……なぜ、俺に攻撃を当てれたんだ………!」
「古武術の崩しですよ。全く同じ体勢や構えからそれぞれ別の攻撃に分岐するのです。本当は武器を使うのですが、必要ありませんね」
と、肉体強化をかけた手のひらを突き出す白蓮。
「これでも、まだやるのですか?」
「………当たり前だ」
長身の男は立ち上がり、銃をこちらに向ける。
「そんなに忠誠心をあなたの親玉に持っているのですか?」
「違う!」
「だったらなぜ、こんなことを!あなたはまだ若い。いくらでも可能性があります!」
すると、長身の男の顔が一瞬だけ変わった。だがすぐに元に戻る。
「誰もが未来があると思うな」
「………」
何が彼をかき立てているのだろう。親玉に支配されているわけではない。なぜ人間の若者が、幻想郷を滅ぼさんとする悪党に自らの手を汚してまで荷担するのだろうか。
白蓮は考える。人間というのは本来こんなものではない筈だ──
「説教は終わりか?」
「はい。致し方ありません。仏の元で私はあなたを裁きます」
そう白蓮がいい終えたときには長身の男の眼前まで彼女は肉薄していた。
バゴッッ!!
拳を顔面に叩き込む。再び吹っ飛ばされた長身の男の銃を手を掴み、叩き落とすとその手を二周半捻り上げた。
「ぎゃああああああっ!」
破壊された右手を押さえながら屈み込む長身の男。白蓮はそれを見逃さず、膝を長身の男の鼻に打ち付けた。血を撒き散らしながら長身の男はスタズタになって地面を舐めた。
「………首の骨が折れる感覚がしました。もう立てないでしょう」
だが念のため白蓮は長身の男の傍まで寄った。血ヘドを吐き散らしながら白目を向いて倒れている。
「……南無三」
手を合わせて白蓮はその場から去ろうと歩く。敵とはいえ、彼も人間の若者だった。それを拳を使って倒してしまっては流石に気分が悪い。
「……魔理沙の援護もしなくてはなりませんね」
歩いてはいられない。速度強化をかけよう。
Baaaaang!!
「かっ………!?」
そのとき、爆音と共に白蓮の背中が大きく穿たれた。撃たれたのだ。あの巨大な短銃に。
(くぅっ………硬度強化が遅れてっ──)
一体なぜ………利き腕は潰した筈だ。
「ククク………カハハハハハハハハァァァァッ!
すげえぜこりゃあ!キャハハハハハハハハ!」
後ろから狂人のように笑う長身の男の声がする。白蓮は振り返った。
「なっ…そんなバカなことが………!」
白蓮の視線の先には無傷の長身の男が立っていた。砕けた右手も折れた首も、潰れた顔面も全て何事もなかったかのように存在している。
「なかなかイイ気分だぜ。死ぬってのはなぁ!ヒヒヒヒ」
ポン。と長身の男が白蓮の足元に何かを放り出した。ガラスの容器。注射器らしい。
「この世界にあった不老不死の薬だ!解析のために岡崎が手に入れたのを俺が盗んだんだ!
これで俺はもう死ぬことはねぇ。最強の生命体だぁぁぁっ!」
長身の男のS&Wから弾丸が放たれる。
「っ!」
硬化をかけて白蓮は腕でそれを弾き返す。だが魔力が弱まっている。術に集中出来ていない。
「ちっ、これじゃあ殺せねぇな」
長身の男は服の中にそれをねじこんで代わりに一本の短刀を取り出した。
「岡崎が言うには小さくても必殺の武器だそうだ。一本しかないから使い回しだけどな」
それは神奈子やてゐを斬り伏せた肥満体の男の無銘の短刀だった。
「これを持っていた男はこの世界の最強候補の一角と戦って破れたんだとよ。バカな奴だ。
ククク…でも俺はもう死ぬことはねぇ………!」
「…それでも、私はあなたを倒します」
「ぬかせっ!」
短刀が白蓮の喉元を掻ききらんと閃く。
「くっ…!」
白蓮はそれをなんとかかわし、長身の男の胸元に貫き手を放った。鋼のような白蓮の手が長身の男の心臓部を貫いた。だが──
「かはっ!!」
蓬莱の薬の力で不死となった長身の男は短刀を白蓮の腹部にねじ込んだ。出血量は心臓部を破壊された長身の男のものに比べれば微々たるものだったが、白蓮の意識を乱すのには十分な量だった。
「こいつはすげえや。服も直る。どうやら自分のものと認識している物は修復されるらしいな」
長身の男の胸元は早くも服ごと再生していた。
「う……あ……」
もはや白蓮には勝ち目がなかった。完全な不死となった彼を倒す方法など、存在しない。
「さぁ、殺し合おうぜ和尚さんよぉ───!」
「夢美様。取り逃がしがいるぜ」
アジトの一室で苺パフェを食べていた夢美にちゆりが声をかけた。
「んん?どういうことかしらん?」
フォークに刺さった苺を向けて夢美が応える。
「聖輦船をつかって魔界に逃げた連中がいるんだ」
「ふーん。魔界ね……ミミちゃん使うわよ。ミミちゃんと監視衛生を魔界にワープさせて」
「ほいきた」
ちゆりはコントロールルームに戻り、ミサイルのロックを外し、監視衛生を起動させる。
「えーと、魔界の座標と」
ワープ装置に魔界の空間座標を打ち込んで、スイッチを押す。小さな振動がアジト全体を襲うと、目の前のモニターに魔界の様子が浮かび上がった。
ミミちゃんと監視衛生が魔界に転送されたのだ。
「うーん。見るのは初めてだな」
映像をレーダーに切り替えると巨大な飛行物体の反応が見つかった。どうやら魔力を帯びた船らしい。それのある場所まで監視衛生をワープさせ、映像に切り替える。間違いない。聖輦船だ。
「ふふん」
監視衛生で聖輦船をロックオンし、その情報をミミちゃんに送る。これでミミちゃんは聖輦船を追いかけるようになる。
「行けっミミちゃん!」
ミミちゃんを起動させるとミミちゃんは対象物を破壊せんと猛スピードで魔界の空を駆け始めた。
ちゆりは監視衛生を操り、聖輦船を一定の距離を保ちながら追いかける。
「終わったな」
やがてその時はすぐに来た。早すぎてはっきりとは見えなかったが、ミミちゃんが聖輦船の船体に突き刺さったのがわかった。
カッ──!
「うお…」
瞬間、まばゆい光でモニターが満たされ、さすがのちゆりも目を細めた。
ブツン───
衝撃波の影響か、監視衛生が壊れたらしくモニターがブラックアウトする。
「こいつはすごいぜ。あいつら自分が死んだこと気づいてるのかな」
おそらく船の連中は全員爆死──と、いうよりは蒸発しただろう。
「さってと、苺パフェ貰うか」
ちゆりはモニターの電源を切って夢美のとこへとパタパタと走っていった。
お待たせいたしました。幻想侵略記13でした。
例大祭が終わったと思ったらもう夏コミが近いです。今回は初のサークル参加になるかもしれません。売り子として。
早苗さんこのお話ではとてもいい子です。ゴミクズな魔理沙とアリスはもう二回も書いてるのでそろそろさなビッチも書いてみようかな。sako氏のさなビッチが大好物です。ちゅっちゅさせたい。
さてさて、とうとう蓬莱人化した敵方が出てきましたがどうなるのでしょうか?
と、いっても長身の男の末路の伏線はもう張ってあるので勘がいい方はわかってるかも。
魂魄妖夢 巨躯の男と交戦後、自爆攻撃により死亡。
ルナサ・プリズムリバー
メルラン・プリズムリバー
リリカ・プリズムリバー 久万菩督・ヤマザナドゥを倒し、早苗に浄瑠璃の鏡を託して死亡。
ナズーリン
村紗水蜜
ルーミア
ミスティア・ローレライ 搭乗していた聖輦船を撃墜され死亡。
巨躯の男 魂魄妖夢と交戦。敗北し自爆。
IMAMI
- 作品情報
- 作品集:
- 27
- 投稿日時:
- 2011/07/04 13:10:12
- 更新日時:
- 2011/07/04 22:10:12
今回もゆっくりと楽しませて頂きました。
伏線に気づけない私はどうしたら……。
人妖が面白おかしく弾幕ごっこに現を抜かしていた幻想郷が、
『リアル』に侵略されていくのを見るのは(読むのは)、つらい。
だが読む。面白いから。
蓬莱人化した敵、ねぇ……。
その短剣、誰を殺った獲物だったっけねぇ……。
でも、白蓮も相打ちか……。
聖輦船に核攻撃!?
そこまでして、幻想を滅したいのか、教授殿!?
幻想郷の残存勢力は後どれだけか!?
出てきたらきっと、一話か二話で全滅しそう。
でも、徐々に、幻想がリアルを巻き返している気が……。
だから、この話の続きが楽しみでしょうがない!!
がんばってください。
実は魔界神が…と思ったんだけどな〜
続きも楽しみにしています!
いつまでも