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『てんこだいすき!』 作者: 和愛変態

てんこだいすき!

作品集: 27 投稿日時: 2011/07/08 07:33:12 更新日時: 2011/07/08 16:33:12
 痛い、痛い、痛い。
 殴られる度、蹴られる度身体に激痛が走る。
 刀やナイフでも傷をつくることができなかった私の身体には赤い腫れや青い痣が無数に出来ていた。
 天界の生活に飽きてしまったからだろうか……いや、今はそんなこと関係ない。何故私が地上の者共に殴られて、蹴られているのだろうか?
 
「わからない……」

 無意識のうちに口に出てしまった。

「てめぇの所為で家族が!!」
「お前のが起こした地震で!!」
「お前さえいなければ……」
「死んでしまえ!!」
「死んでしまえ」
「死んでしまえ」
「死ね」
「死ね」
「死ね」

 暴行は激しさを増した。

 ああ、そうか。彼等は私の所為だと思っているのか。
 数時間殴られて、蹴られてようやく理解できた。
 ああ、そうか。私が悪かったわけでは無かったのか。
 あの地震は私の所為ではないから。

 
 
 もう、疲れてしまった。振り上げられる拳に目を瞑ること、力強く蹴られた横腹を心配することも、泣いて痛がることも、全てに疲れてしまった。
 

 





 








 大きな揺れ、世界がくしゃみをした様だ。上からでもわかった。妖精がよく遊んでいた木が、人里の物見櫓が、神社が、全てがこれから終わってしまう世界に手を振っている。そう思った。

 地震を扱うからわかる、これから、まだ大きな揺れが来る。
 これは初期微動なんだ。
 主要動がきてしまう。
 

 手を振った全てがサヨナラを言う前に、行ってしまう前に

 私は急いで神社に降り立った。

 よかった、神社は潰れていない。



「霊夢ーーーーー!!」

 私が大声を上げると、神社の中から

「何よ!!またあんたの仕業?」

 声が聞けた。よかった。よかった。
 安心したら不意に頬を涙が

「うわ!?何泣いてるのよ?」

 霊夢は目の前にいた。
 精一杯に強がってみようとも、おかしいな、上手く喋れない。

「ない゛でない゛!!ゴミなの゛!!」

 ああ、わかる。霊夢が笑っているのが。

「はいはい、これはあんたの所為じゃなさそうね」

 そうだよ、私じゃないよ。ああ、言わなきゃ。まだ大きい地震が来ることを

「ごれ゛ぇ!!しょきびどう゛!!」

 上手く喋れない、言葉が言葉にならない。

「はぁ?何言ってんの?ちょっと、わからないわ」

 笑顔の霊夢に伝えたい、伝えなくては。

「まだお゛お゛ぎいのがっ」


 
 ドン

 
  
 世界がサヨナラを言った。
 ああ、言ってしまった。
 


 まっすぐ立っているのに。立てない。
 世界が騒がしい。
 私は尻餅つく。

 霊夢も、動けないでいる。
 

 神社が手を振っている。
 手を振りながらこっちにくる。
 神社が、サヨナラを言いにきた。
 
 
 私の目の前に。






 サヨナラを言い終わった世界はとても静かだ。



 

 足元に神社が横たわっている。
 
 神社の「サヨナラ」が目の前数十センチを掠めたんだ。

 目の前数メートルにいた霊夢は。



 神社が血を流している。

 隙間から見えてしまった。 

「い゛やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 霊夢は手も振らずに、「サヨナラ」も言わずに行ってしまうわけがない。

 神社の亡骸を拾い上げ、投げ捨てる。
 
 数十分も繰り返すと。
 
 確かに触った。
 
 私が神社を壊した時、本気で殴ってくれた腕。
 そのあと私の頭を撫でてくれた腕。
 遊びに来た私にお茶を出してくれた腕。

 力強く、優しい腕を、引っ張った。
 ああ、霊夢。


 姿は無かった。
 確かに腕を握った筈だった。
 ああ、今も握っている。
 優しい腕を。









 私は、優しい腕を。神社の亡骸の様に放り投げてしまった。
 霊夢だと認めたくなかったから。
 でも、未だに感触が残っている。力強く優しい感触が、怖い。
 あの優しい腕が、私を殴りそうで、撫でてくれそうで、お茶を出しそうで怖い。
 その怖さから、私は逃げた。
 霊夢が生きているという微かな可能性から逃げ出した。
 心の奥で霊夢は行ってしまったと決めつけてしまった。
 もし、霊夢が生きていたら。
 霊夢が生きている事さえ怖くなってきた。
 


 何処か、誰かと話したい。
 今は一人が怖い。
 誰かが見えないところで「サヨナラ」を言ってそうで怖い。
 

「統領娘様!!」


 ほんの数刻前が懐かしい、とても懐かしい声。
 いつも傍にいてくれた。
 ああ、懐かしい。
 
「い゛ぐ?」

 やっぱり上手く言葉が出ない。

 優しく、抱きしめられた。暖かかった。
 ああ、そうか。
 全部夢だったのか。
 もうすぐ悪夢も終わるのか。
 
 衣玖が息を吸う。聞こえるよ。悪夢なんだって言ってくれるってわかるよ。






「どうして、こんな事を?」





 衣玖の胸が暖かいけど冷たくなった。
 ああ、そうか現実だったんだ。
 ああ、逃げられないんだ。

 でも、衣玖は優しい。
 怒りに震えた声じゃない。
 ただ、衣玖は知りたいだけなんだ。

 でも、怖かった。
 私の所為じゃ無いのに。
 私は悪くないのに。

 衣玖は最初から私を疑った。
 決め付けた。
 犯人は私なんだと。


 力強く、優しく抱きしめる衣玖の腕が怖かった。
 だから、振りほどいて逃げ出した。
 わかる、衣玖が追いかけてこない。
 そうか、衣玖は私に失望したんだ。
 衣玖は、私にサヨナラをしたんだ。
 だめだ、涙が止まらない。







 走って逃げる。
 行く当ても無いけど。
 走って逃げる。
 恐怖から。


 魔法の森の奥、ココなら恐怖に見つからない。優しさにも見つからない。でも怖いものがこなければそれでいい。
 一人が怖いけど誰かも怖い。一人でいたいけど誰かいて欲しい。

 森の小屋。とても小さい。サヨナラをしないで立っている。きっと何処かの誰かが狩の拠点にしてたんだな。この小屋は何処かの誰かにサヨナラされたんだな。私と一緒なのかな?


ギギィ


 ドアが開けづらい。けど開いた。
 中は汚い、けど誰もいない。
 住み心地は悪そうだけど。
 
「ここに居てもいい?」

 久しぶりに上手く喋れたけど、返事が無い。
 まぁいいか。誰も居ないなら。

 今日は疲れちゃったから。もう寝よう。起きていたくないからもう寝よう。
 小屋の隅に毛布があるじゃない、ラッキー。
 ああ、寝よう。




 








「おい霊夢!!私よ、お茶をだしなさい!!」

「はいはい、お茶飲んだら帰りなさいよ」

「やだ!弾幕勝負して」

「いやよ、面倒臭い。天界がそんなにつまらないの?」

「うん、天界飽きた。だから弾幕」

「それ、五衰が始まってるんじゃないの?」

「始まってない!まだ私は老いてないー」

「ふふふ」


 ああ、やっぱりこれが現実なんだ。
 そうだよね。

「霊夢」

「何?」

「怖い夢見た、悪夢!」

「そう、どんな?」

「みんながみんな、サヨナラしちゃう夢」

「私も?」

「うん」

「大丈夫よ、私はずっと神社に居るから」

「ほんと?」

「本当よ。はい、お茶のおかわり」

 白い腕が見えた。優しく、力強く、儚い腕。
 とても怖い。理由もなく怖い。怖かった。







 目が覚めた。もう少し、あの幸せな空間に居たかった。けど、白く儚い腕がとても怖かったから目覚められて良かった気もする。

 まだ暗い。夜なのかな。


 外に出る星が綺麗だった。

 暗闇のなか点々と光り輝く星が私を照らしてくれた。
 星が私に語りかけてくれる。
 あなたは一人じゃない、私達がいる。そう聞こえる。
 耳を澄ましていたい。
 風がの音と星の声が聞こえる。
 ずっと星を見ていたい。

 空を埋め尽くす白い粒。
 とても近くにありそうで、だけど届かない。
 その粒がやがて、少しずつ落ちて行き。
 私にサヨナラと言った。
 たしかに、聞こえた。
 聞こえてしまった。
 ああそうか、私はサヨナラから逃げられないのか。







 寝てしまっていたようだ。小屋の外で。夢を見なかっただけ良かった。
 寒い寒い、小屋に戻るかな。




 どのくらい小屋に居るのかな。
 何回星のサヨナラを聞いたのかな。

 ああ、世界はサヨナラをしちゃったのかな。
 それとも前と変わらずに動いているのかな。


 ドンドンドン


 小屋のドアが叩かれてる。
 そうか、サヨナラがきたのか。
 でも、私はもう動きたくない。



 バン


 ドアがサヨナラに開けられた。
 



「居たぞ天人だ!!」
「見つけた!!」
「人を呼んで来い!」
「ようやく見つけたぞ……」















 ああ、そうか。
 こんなのを走馬灯っていうのか。
 ああ、そうか。
 私が世界にサヨナラをいうのか。
 ああ、そうか。
 彼等が悪いわけではないのか。
 ああ、そうか。
 もうサヨナラをしていいのか。
 ああ、そうか。
 サヨナラ。
 
被災者の方々に心よりお見舞い申し上げます。


てんこちゃん大好きだよ。
でも許さないよ。
本当に死ぬかと思ったよ。
和愛変態
作品情報
作品集:
27
投稿日時:
2011/07/08 07:33:12
更新日時:
2011/07/08 16:33:12
分類
地震
天子
1. NutsIn先任曹長 ■2011/07/08 19:42:50
避けて通れぬ天変地異。
喜ぶマゾの天子の地震。

などと思われているから。

拉致られ、ボコられ、天人辞めた。
2. 名無し ■2011/07/09 02:07:33
神社じゃなくて人里で異変起こしてたら、確実に人死にはあっただろうから
初回異変でこのルートだったのかも。

核の力を使い出した現時点の方が、被害は深刻になりそうだけど。
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