Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『乙女の餌付法』 作者: 奈利
「ねぇ、アリス、お腹すいた」
ねだるように甘えた口調で霊夢が言う。
「えっと、もう? さっき食べたわよね?」
「それはお昼ご飯でしょ。私が欲しいのは、晩ご飯だよ」
「えっ、でも、まだ早い」
「私のお腹を満たしてくれるのがアリスの役目でしょ」
照れが未だに消えず、戸惑いを隠せない私を流し目で見ると、霊夢は『よっこらせ』と机に手をついて起き上がる。
「お食事持ってくるから、アリス、ちゃんと食べてね」
いそいそと言う言葉がぴったりな態度で、霊夢は足早に座敷から出ていく。
「はぁー、何度しても慣れないわ」
私は霊夢の背中を見ながら、思わず嘆息した。
霊夢にはお腹一杯ご飯を食べてもらいたいし、自分がいるからこそご飯が美味しく食べられると、霊夢に言ってもらえることも正直うれしい。
でも、いつもの”アレ”が始まるまでの時間が、いつも気恥ずかしくてたまらない。
一旦始まってしまえば、もうのめりこんで、無茶苦茶になってしまって、酔って、乱れて、羞恥も常識も、何もかもが吹き飛んでしまって、狂ってしまえるのだけれども……。
「おまたせっ、アリス待った?」
「ううん、霊夢早いわね」
「ふふっ、だってアリスのご飯を食べたいんだもん」
霊夢はにこやかなまま、私の前に食事を並べていく。
お茶碗によそったご飯に、豆腐と油揚げのみそ汁。鯵の干物に、きゅうりの浅漬け。
霊夢がおかしくなってしまう前から、霊夢の食卓に普通にならんでいた、なんでもない食事。
「いつの間に?」
「うん? えへへ、実はさっき、ちょっと部屋出て行った時あったでしょ? あの間に準備してたのよ。そうしたら作る間、待ってなくっていいでしょ?」
もの思いにひたっていたとは言っても、たいして時間は経っていないはずなのに、ぬくぬくのご飯が出てきたことの疑問に、霊夢はそう答えた。
「ね、それより早く。ね、食べて」
「うん」
霊夢に促され、目の前に置かれた朱塗りの箸を取り上げると、両手を揃えていただきますをする。
椀から汁を啜り、魚の身を解して口に放り込み、一緒に白飯を咀嚼する。
和食はあまり食べたことはなかったが、霊夢の家で毎回ご飯を食べるようになって、自然とそういう食べ方が身についてしまった。
「おいしい?」
「うん、霊夢の作ってくれるご飯はいつだっておいしいわ」
「ありがと」
きゅうりの漬物は味がしっかりとついて濃かった。
「ちょっと漬けすぎかな?」
「そうね」
「アリスは、味は薄めでしょうゆをかけて食べるの好きだものね。今度はもっと早めに上げるわね」
「うん」
霊夢は目を輝かせて、私の口元を見ている。
私のすぐ横、崩した足の甲が霊夢の腿に触れてしまうほどの密着した距離で、霊夢は両手で顎を支えた格好で、机の上に肘をついている。
霊夢は、くちゃくちゃと食べ物を歯の間ですり潰す音にうれしげに聞き入っている。
咀嚼する私の口を、霊夢が見ている。
「アリス。ねぇ、アリス、早く、早く、私もう我慢の限界、早く欲しいよ」
霊夢の頬は上気して真っ赤で、目だけが異様なほどギラついている。
ささやき声はねとつき、吐息は湿っていて、私の首をくすぐる。
「アリスのご飯食べたいの。はやくちょうだい、お腹すいたの、ご飯ちょうだい」
霊夢は我慢できなくなったのか、私の腿の上に乗っかり、身を捩りながらねだってくる。
他人の食べる姿を見て興奮するなんておかしい。
狂っている。
霊夢のまるでオナニーでもして感じているような陶然とした顔付きに、声の調子に、私も狂い、興奮していく。
私達は二人とも狂っているのだ。
「ごちそうさま」
「アリス」
食べ終わり、手をあわせた後、私が箸を置くと、霊夢は待ちかねたように、目を閉じて顔を差し出すようにする。
まるでキスをせがむ風だったが、霊夢の口は開いている。
「んっ、こほっ」
何度か咳払いして覚悟を決めると、霊夢の口に重ねるように顔を近づけていく。
ただし私達はキスをするわけではないので、ぎりぎりのところで動きを止める。
霊夢は片目だけ薄く開いて様子を見、まだなのかと言いたげに眉を寄せる。
「はー、ふー、はー、ふー」
胸に手を当てて深呼吸し、はやりそうになる気を沈め、覚悟を決めると自分の口の中に指を入れていく。
人差し指と中指を揃え、舌を押し付ける。
「うっ、おごっ」
口が異物を認識して、舌が指を押し出そうと丸まり、口蓋に押し付けてくるのを無理に先に進めると、喉が収縮して、嫌な味が口内に広がる。
舌の付け根の辺りに触れると、喉がごろごろ鳴って嫌な音が出る。
「ごえっ、うっ、ぐ、ぐげぇ」
喉が指を吐き出そうと、体が嘔吐反射を起こすが、まだ浅い部分にしか到達していないので、肝心の中身が出てこない。
「うげっ、おげ、うううっ、おええっ」
苦しくて、涙目になってえずくが、口から出てくるのは通常よりも粘度の高い唾液だけだった。
指が喉の粘膜を擦るごとに、喉が収縮し、嘔吐反射を繰り返す。
この吐きそうで出ない時間が、一番苦しく、堪えきれずに私は身をくねらせる。
「はぁはぁ、おううっ、おううううっ」
指の付け根まで強引に口に入れ、指先を曲げて、食道に触れるところにまで、苦痛を堪えて挿入すると、一瞬の身体反応の空白が出来、次の瞬間に胃がぎゅうと縮まるのが分かった。
「おっ、おっ、おげっ、おげええええええっ」
胃がまるで殴られでもしたように捩れ、胸の底に熱を感じると、私は霊夢の顔に向けて胃の中身を吐き出した。
「ああああっ、アリスの、アリスの」
「おえっ、おえっ、げえええええっ」
霊夢の歓喜の声と、私のえげつない汚物を吐く声が交じり合う。
食道を駆け上がった熱い塊は、口から溢れて、霊夢を汚していく。
「ごぷっ、ご、ごぷっ」
吐瀉物が霊夢の開いた口に目掛けてぼとぼとと落ちていくと、霊夢は私の出したものを、喉を鳴らして食べていく。
「うん、アリスのご飯、アリスのご飯おいしいよ」
ほとんど無邪気と言っていいほどの笑顔で、霊夢は私の吐いたものを食べていく。
すぐさっき食べたばかりで、まだ十分に溶け切っていない半固形の晩御飯を、霊夢は口に含んで咀嚼し、胃に収めていった。
私の歯ですり潰されて、胃の中で、米も、味噌汁も、焼き魚も、漬物も交じり合ったものを霊夢は食べている。
それらは原型が分からないほどぐちゃぐちゃに潰れ、無理矢理体の中を逆流されられたために泡立っている。
私の胃液が混じり、吐き出した私自身が胃液の酸っぱさで顔をしかめてしまうほどなのに、霊夢は喜々として、貪っている。
「アリス、もっと、もっとちょうだいよ」
霊夢が潤んだ目で、私にしがみつき、甘えた声で次を求めてくる。
私は霊夢の要求を断ることなど考えもせず、ただ求められるまま、指を再び口に入れる。
「おっ、おぅ、げっ、ご、げええええええっ」
一度吐き出したことで、楽になったのか二度目はそう苦しまずに出すことが出来た。
「ああん、もったいないよ。ちゃんとお口にちょうだいよ」
楽に出せた分加減が効かず、二度目の嘔吐は霊夢の髪にかかる。
初めのよりも水気の多い吐瀉物は、毛が液体部分を吸い込んで、霊夢の前髪が崩れて額に張り付いていた。
霊夢の濡れた黒髪の表面には、流れ落ちずにへばりついた食べ物の滓が浮いている。
一回目の吐瀉物は全体的に粥状で、白っぽいペーストにしか見えなかったが、水っぽい二回目のものは、噛んで細かくなった米粒や、きゅうりの緑のヘタのようなものが、髪で漉かれてはっきりとした形のまま残っていた。
それはとても汚らしく、目の前のいる霊夢が気持ち悪く感じた。
「ごぷっ、お、ごぷっ」
一度出始めた汚物は、留まることなく喉奥から溢れてくる。
「はぶっ、じゅるるっ、あうっ、アリス、アリス」
「ごふっ、おぶぶっ、あぶっ、おぶっ、ごぷっ、ごぷぅっ」
自分で吐いたもので溺れる私は、ごぽごぽと黄色っぽい泡を吹き、吐瀉物を垂れ流しにする。
霊夢は、喉を鳴らして胃液混じりの私の吐いたものを、飲んでいる。
「んぐっ、んぐっ、ごくんっ、んっ、んっ、んっ」
「ごえっ、うっ、おぅっ、うっ、うぐっ、ご、ごふっ」
「じゅるるるっ、はうっ、アリスおいしいよ、アリス」
「ごほっ、ごほっ、おええっ、おげっ」
「んあっ、またいっぱいでてきた。ごはんうれしいなっ、アリスのごはんっ」
一瞬汚れた霊夢に嫌悪を感じたものの、胃の内容物を逆流させる苦しさに、無邪気に嘔吐したものを食べる霊夢の姿を見るうれしさに、何もかもが消し飛び、夢中になって霊夢の口に目掛けて食べたものを吐いてしまう。
「げえええっ、げえええっ、おえっ、げええええっ」
お腹の底に溜った残留物を夢中になって霊夢に吐き出す。
胃が引っくり返るような苦しみも、えずいた時の喉の痛みも、口の中の胃液の酸味も、全てが気持ち悪いのに、気持ちいい。
霊夢に私の汚いものを食べてもらうことは気持ちいい。
吐くのはとても苦しいけれど、夢中で吐瀉物を頬張る霊夢を見ると、保護者にでもなったような幻想を抱き、それが快楽となるのだ。
「はぶっ、ううっ、あぅ」
「ごぇ、おおおおっ、ごげっ」
どちらが吐いているのかまるでわからなくなってしまうような音を立てながら、霊夢は飲み、私は吐く。
これが今の霊夢の家での普通の食事の風景だった。
私と霊夢がこんな風におかしな関係になっているのは、偶然と私自身の愚かさが原因だった。
博麗神社には霊夢に会いたい一心で、日を置かず、それこそ二、三日に一度は顔を出していたが、ある時から霊夢の顔色が悪くなっていくように感じた。
霊夢に想いを寄せるものの単純な思い込みにと片付けるには、目に見えて霊夢のふくよかだった頬はこけ、顔も青っぽく見えた。
初めは恋煩いではないかと思い込み、元気がなく視線も虚ろな霊夢に、私のほうも影響されて、同じように憂鬱だったが、どう考えても霊夢に対して恋を患う私に比べて、その姿はやつれて見えた。
次に考えたのは、霊夢はあまり食事を取っていないのではないか、と言うことだった。
私はとても馬鹿だったから、霊夢の言った
「もし私が青い顔してたりしたら、確実にお腹が減ってるってことよ。何しろここは博麗神社だし」と言う冗談を間に受けてしまったのだ。
私は霊夢の言うことなら、それこそ一言一句を覚えているので、青い顔をして、頬をこけさせた霊夢に、そのことを思い出したのだ。
実際のところはどうだか不明だが、博麗神社の賽銭の少なさから、霊夢は貧乏という冗談は普段からみんながお約束にしているネダだった。
お約束なネタだったが、本気にして、しかも霊夢にご飯を食べさそうと実行に走ってしまう愚かものは、幻想郷中を探しても私しかいないと思う。
…………現に、私しかいなかったから、霊夢とこんなことになっているのだ。
十分に食事を取っていないから霊夢は元気がないのだ、という結論に達した私は、腕によりをかけて毎日霊夢に食事を届けることにした。
霊夢は喜んでくれたようだった。
にも係わらず、体調は一向に良くならない。
でも、思い込んでいる私は、食べものの量を日ごとに増やし、栄養を付けさそうとどんどんと脂っこいものに変えていった。
霊夢の体は悪くなる一方だったが、病気になっているのではなどと全く思いつくこともなく、霊夢に自分の作った食事を食べさせることが目的となってしまっていた。
目的と手段の倒錯だった。
そして止めとばかりに、どう考えても一人の人間では食べきれないような、ホールの三段重ねのケーキが登場するに至って、ついに霊夢は泣きを入れた。
その日は特に暑い日で、外の木陰に居てすら、流れた汗で服がドロドロになってしまいそうな、真夏の熱暑が地上を襲っていた。
霊夢は境内にいることもなく、靴下を履かない裸足の足を畳に投げ出し、柱に背中を預けた姿勢で、うなだれたような格好で頭を垂れ、うとうとと寝ていた。
「霊夢起きて。お待ちかねのご飯よ」
「うん。ご飯……、ありがと」
私の抱えた箱は大きすぎて、前が見えないぐらいだった。
霊夢の声の調子は元気がなく、きっとこの時しっかり見ていれば、私の持ってきたものに疲れ切った表情を見せていたに違いない。
「ほら、ケーキよ。全部霊夢のよ。好きなだけ食べていいのよ」
「うん、ありがとう」
「すっごく大きいでしょ? ふふっ、特別製の三段重ねなの」
霊夢の好みは元々さっぱりしたものなのに、私の持ってきたものは大抵が胃にもたれるような脂の塊で、あげくは眩暈のするような熱い日に、生クリームの塊を山と持ってきたのだから、本当に私は馬鹿だった。
「頑張って食べるわね」
この『頑張って』というのが、霊夢の本音だったのだろう。
勘違いとは言え霊夢のことを心配して、毎日食事を持ってくる私に、感謝をしていたし、うれしく思っていたのだろう。
だから、食べても苦しいだけなのに、私を喜ばせるためだけに、霊夢は無理に食べて見せてくれていたのだ。
「おいしいでしょ?」
「うん」
「ふふっ、よかった。ケーキを丸々1個独り占めって、女の子なら一度はやってみたい夢よね〜。ふふっ、それがしかも三段っ」
「うん」
霊夢はホールのケーキをナイフで切ることもせずに、フォークだけで削るようにして食べていった。
上機嫌に話す私には生返事で、顔を埋めるようにして食べていた。
初めはすごい勢いだった霊夢だが、一段目を食べ終え、二段目にかかるころには目に見えて動きが止まり出す。
「もうお腹一杯なの? 遠慮せずに食べて、霊夢。めったにこんなに一杯食べられないんだからね」
「うん」
私が促すと、うなずいた後、しばらくの間食べ、また動きが止まる。
「ほら、まだ一杯あるから」
「うん」
何度か同じようなやり取りが繰り返された後、ついに霊夢は完全に動きを止めた。
「霊夢」
「…………」
「霊夢?」
霊夢はピクリとも反応せず、皿の一点を見詰めたまま固まっている。
「はぁはぁ」
顔にふつふつと玉のような汗が浮き出て、口を開いて霊夢は大きく息をしている。
元々の悪かった顔色は、完全に真っ白になっていた
無表情になった顔が時折歪み、霊夢は泣きそうになるのを堪えている風にも見えた。
「霊夢、どうしたの? 顔が、顔が真っ白よ」
恐くなって思わず霊夢に触れると、霊夢は体をこわばらせたまま、ゆっくりと私のほうを振り向いた。
「アリス、私もうダメ。ごめん、もうダメなの」
くしゃりと顔が崩れて、霊夢の目から涙が零れた。
「アリス、助けて。苦しい、お腹が…………、はぁはぁ、苦しいの、助けて…………」
泣きながら霊夢は、フォークを握り締めた手をテーブルに着いた状態で、ケーキを前にはっきりと傍目から分かるぐらいに苦しげに身を捩った。
「アリスのケーキ食べれなくて、ごめんねぇ。私、もう――――――――っ、ぷっ」
霊夢が立ち上がろうと前かがみになった瞬間、ついに”それ”が零れた。
「うぷっ、うううっ」
霊夢はあわてて口を押さえようとするが間にあわず、ケーキがまだ半分以上残った皿へ、口から溢れたものが落ちていった。
「うぷっ、ぷっ、おうううっ、あう、ごぼっ、ごぇ、ううううっ、おぷっ」
霊夢が口元を覆った指の隙間から、ドロリとした液体がケーキに落ちていった。
咀嚼された、卵と砂糖と小麦粉で作られたケーキの黄色い生地と、乳脂肪がたっぷりと入った生クリームの混合物が、綺麗に飾られたケーキを上塗っていった。
霊夢が体を波打たせるごとに、体が折れ曲がるごとに、泡噴くように口からごぷっと灰色ががったペーストが溢れた。
霊夢のお腹の中で暖められて、体温に近くなった液体がケーキに触れると、吐いたものとクリームが溶けて混じり合った。
私の作ったとてもかわいらしく出来たケーキは、あっと言う間に元の姿を失くしてしまって、吐瀉物に埋もれて、汚物の塊に変わってしまった。
「おぷっ、うっ、うううぅ、うくっ、ごめん、アリス、ごめんねぇ」
霊夢は泣きながら、謝りながら、苦痛に顔を捩じらせながら、吐いていた。
「霊夢っ、大丈夫、苦しい? ねぇ、霊夢」
「ごめん、おぅ、ご、おおぅ、ごぇっ」
「ほら、いいから、全部吐いちゃっていいから。霊夢、ゆっくり息して」
「うう、おっ、おえっ、ご、おおおおおぅ」
霊夢を抱えるようにして背中を擦ると、霊夢は濡れた瞳を私に向けたが、何かを話そうと口を開くが、堪えきれずに吐くだけだった。
霊夢の口元は吐瀉物塗れで、顎の辺りまでがドロドロとしたもので汚れていた。
口を押さえていたせいで手の平はもちろん、腕までが手首を伝って落ちた汚れで、袖口に染みが出来ていた。
胸のかわいらしい飾りリボンも、お腹の辺りも汚れ、スカートの腿の間に出来た生地のたるんだ部分には、霊夢の吐いたものがたぷたぷと波打っていた。
「はぁはぁ、ああ、はぁはぁ、ううぅ、うっ、うううっ」
霊夢の胃液の酸っぱい匂いを感じながら、私は黙ったまま背中を撫でていた。
苦痛のせいか霊夢が私の腕を握り、その部分からは濡れた感触が伝わってきていた。
「ああ、私、ああ、こういう、風に、したくなかって、我慢、してた、のに」
「無理しなくていいから、霊夢気にしないで」
「うううっ、私、私」
「いいから。ごめんなさい、霊夢。霊夢、体の調子がおかしかったのね。それなのに私」
「わざとじゃないの。わかって、わざとじゃないから」
「私、何も気がつかなくって。霊夢が喜んでくれるって、ただそれだけで」
私は霊夢が全てを出し切って、ようやく言葉を発することが出来るようになった時、自分がしてしまったことに気がついた。
自分では親切にしていたつもりのことが、霊夢を苦しめているだけだったことに。
お腹が空いているから食べさせてあげているんだと、傲慢な意識のまま、私を傷つけまいと苦痛をこらえる霊夢の優しさに寄りかかって、霊夢がどういう思いでいたなんて考えもしなかったのだ。
「私なんて汚いんだ。ゲロ吐き女だもの、こんなに汚いもの」
嘔吐が終わり、涙が途切れたはずの霊夢の目からは、新しい涙が流れて落ちていた。
霊夢は泣きながら、笑った。
「見てよ、私の服ゲロ塗れでぐちゃぐちゃ、酸っぱい匂いしてる」
むしろ吹っ切れたように、目尻から次々涙を溢れさせながら、霊夢は清々しいと言った感じで笑う。
「ははっ、どうせ汚いんだもの。こんなのに汚れたって、気にしない。ねぇ、アリス私汚いわよね?」
「霊夢?」
「私のこと嫌いになったでしょ? 汚くって、こんなに汚れて笑う、頭のおかしい女だもんね。あははっ」
「そんなことっ」
「そんなことない? そんなこと無い訳じゃないじゃないの、だって私だって汚いって思ってるんだから。自分でも臭いんだから」
「…………」
「ほら、黙った。汚いんだ、臭いんだ。もういいよ………、アリス帰って……。もう来てもらわなくってもいいから。どうせ食べたって吐くだけだもん。無理に食べなくって良い分、気が楽」
見て見てとばかりに霊夢がスカート裾を持ち上げて見せると、波打つほどに満ちていた汚物が、重そうにゆっくりと糸を引きながら崩れていった。
それでも手で塗りたくったようなぬめりはこびり付いたままで、霊夢の服は咀嚼され、胃液で捏ね上げられた食べ物の滓で、テラテラと光っていた。
「うふっ」
涙に濡れた顔のまま、まるで素敵な洋服を着ているみたいに、霊夢は自慢げに小首を傾げてみせた。
「臭いでしょ?――――――――――アリス?」
一つ目の言葉は決め付けるように投げやりで、霊夢が次に出した言葉は戸惑いだった。
「ちょ、ちょっと、アリス、だめよ、こんなの、ダメよ」
私は霊夢が腕の中でもがくのも構わずに強く抱きしめた。
「ダメ、汚れるから、やめてっ、お願いっ、離れてっ、汚いのが移るっ」
胸元同士が触れ合うように、ぎゅっと霊夢を抱くと、霊夢の吐いたものが身動きするごとに私の身体に擦られて、あっという間に服は汚くなってしまう。
頬を添わせると、霊夢の口元の汚れは私の頬に移り、私の顔も霊夢と同じようになる。
「待って、待ってよ。どうして? どうして? 私、汚いゲロ女なのに」
「…………」
これが答えだとばかりに、霊夢の体をもっともっと強く抱いた。
「どうしてなのよぉ」
再びべそを描く霊夢に、先ほどまでの吹っ切れた態度はポーズに過ぎなかったことを確信した。
「どうして?」
「私にもよくわからないの。なんとなく霊夢が弱っていると放っておけないの」
「馬鹿みたい」
「うん、私って馬鹿。霊夢がご飯食べれないぐらいなのに、こんなに大きなケーキ持ってきて」
「馬鹿」
私はかっこいい霊夢に惚れていたはずだった。
だからこんなに最低な霊夢を見たら嫌いになるはずだった。
なのに、私の知らない私は、弱った霊夢がすごくかわいいと言っていた。
「おまけに吐かせちゃった」
「私…………、隠しときたかったのに」
「ごめん、でも気にしないから、霊夢は霊夢だから」
むしろ弱った霊夢を守っている気がして、抱きしめていると前よりもずっと胸の奥が疼いた。
おそらく私はどうしようもないほど馬鹿で、どうしようもないほど独占欲が強いのだろう。
だから、他の誰も見たことのないような、好きだったはずの霊夢とは全く違う姿を見せられて、心地良く感じてしまうのだろう。
「ゲロ塗れでも?」
「汚いとは思ってるんだけど、案外平気なものね。我慢は出来るかな?」
「これでも?」
唐突に霊夢がキスしてくる。
生臭さと言えばさすがに強烈過ぎるが、独特の酸い味が私の口内に広まる。
「ん」
「んんんんっ?」
返事の代わりに無言で、私は霊夢の口に舌を入れた。
「ふぅ、もうお腹一杯」
満足げに霊夢はお腹を擦りながら、仰向けに寝転がると私の手を引いた。
霊夢の手に導かれるまま、私も同じ格好で畳みの上に転がった。
「ごちそうさま」
「うん…………」
霊夢が私のほうを向いて、にこにこと笑う。
私の胸に腕を置き、肩口に顎を乗っけるように霊夢が覗き込んでくると、あまりに近すぎる位置で、霊夢と目が合ってしまい、どうにも気まずくて仕方が無い。
「ふふふっ」
そんな私の様子が面白いのか、霊夢は益々顔を寄せて、じっと私を見詰めてくる。
霊夢の大きな瞳に見つめられると、先ほどの自分の恥ずかしい行いを思い出し、頬が熱くなった気がした。
「くすっ、おいしかったっ」
霊夢は完全に私の上に乗っかり、腿を跨いでぎゅうと締め付けている。
霊夢は私の胸に顔を置いて、私の反応を一つも見逃さないように、私の目の内側を覗き込んでいた。
「おいしくご飯が食べれるのって最高よ。アリスのおかげよ」
「そんなの。ごめんなさい」
「どうしてあやまるの?」
「だって、私あのとき、霊夢のことすごく苦しめていたわ」
「アリスが原因じゃないから、気にしない。ここまでおかしくなっちゃった、ドドメはアリスが刺したけど」
「もうっ」
霊夢の”食事”が終わるごとに、同じような話を繰り返し、私達はじゃれあっていた。
この会話までが一つの儀式で、こんなことをしているけど、私は貴方を受け入れます、とお互いに保証しあって、ようやく安心する。
そうしないと変態的とも言える行為をしている後ろめたさから、相手が本当に受け入れてくれているのか不安で仕方がなかった。
行為と、後戯とも言えるじゃれあいを続けていく内に、ようやくあの時の霊夢の不安が自分のものとして受け入れられた気がした。
食事を取らないと人は生きていけない。
でも何かを食べれば、霊夢は気持ち悪くて吐いてしまった。
吐いてしまえば、幾ら上手く吐いても、体は汚れ、吐瀉物の匂いが纏わりつく気がする。
後の残るのは自己嫌悪。
自己嫌悪が繰り返され、降り積もる内に、自分を卑下し、まるで自分自身がゴミのような存在に思えてしまう。
所詮想像でしかないが、霊夢の内の起こっていたことを省みてみれば、こういう感じだと思う。
私も霊夢のためと思っていても、吐いてしまえば心の内のどこかに、自分自身が穢れてしまったような気分が残った。
ただ過去の霊夢と違うのは、霊夢が甘えるように体を遠慮なくくっつけ、私を安心させてくれること。
そのおかげで私は吐いても、自分を卑下する必要がなかった。
「アリスがトドメだったって実際本当のことじゃない? 汚れた私を受け入れてくれて、あの後私だけ吐くのはつらいだろうって、一緒に吐いてくれたじゃない?」
「だって、霊夢本当につらそうだったもの」
「まぁ、吐いたすぐ後でキスするのがアリスよね。あのときのキス、ゲロの匂いすごいし、舌と一緒に吐いたのが入って来ちゃってたよ」
「だってしょうがないじゃないの。だって霊夢が泣くんだもの。泣いた霊夢がかわいくって、思わずしちゃったの。しょうがないじゃないの」
「でも、そこを躊躇わないのが、アリスなのね〜」
「だって」
自分では何事にも冷静で、感情的に判断を下すような存在ではないと思っていたが、いざと言う場面では頭を使わずに感情のままに突き進んでしまう。
「まぁ、いいわよ。頭のおかしくなった私は、そういうのもうれしく感じちゃうし。私がキチガイになっちゃったことに感謝しなさいよ」
「たしかにおかしくなっちゃってるものね。私達」
「アリスには助けられちゃってるわね。私が吐いたときにキスしてくれたおかげで、私は汚いけどそれを卑下せずにすむようになった。アリスが吐いてキスしてくれたおかげで、私はアリスが食べたものなら、嫌悪せずに受け入れられるようになった」
んー、と甘えた声を出して、喉を鳴らしながら霊夢は私の胸に頬を擦り付ける。
元々の霊夢は、孤高の肉食の獣のような雰囲気をふんわりとした中に持っていたものだったが、なんだか今では子犬のようになってしまい、子犬のままに戯れてくる。
「そういえば聞いてなかったんだけど、どうしてそんな急に食べれなくなったの? 霊夢ってそういう何かに捉われるような性格じゃないのに……」
拒食症で苦しむ真っ只中では、疑問に思っていても口に出せなかった問いを、私はもう大丈夫だろうと聞いてみる。
「私、血を飲んだのよ。人の血」
霊夢が私の胸の柔らかい部分に頬を当て、その柔らかさを確かめるように目を閉じる。
「もちろん自分で求めたものじゃないわ。たぶんちょっとした悪戯で、嫌がらせ。紅茶の中に入ってた」
「そんな酷い」
「ま、私もそういうことされることしてたしね。それでいながら能天気だし、隙だらけだし。勘だけでピンチをしのいで来てたけど、相手の”好意”が根っこにあるだけにわからなかった」
「許せない」
「怒ってもしょうがないわよ。嫌がらせだけど、好意なんだもの。どうして怒ってるかすらわかってもらえないわよ、だぶん」
言いながら霊夢は私の胸をふにふにと揉んだ。
性的なものは全く無く、柔らかな感触を手で確かめ、ただ安心を求めるように。
「別にそれ自体は嫌って感じなかったの、不思議なことにね。ただ、それ以後、普通のご飯を食べるだけで、これって妖怪が血を飲むのと一緒って思ったの。人だって何かを食べてるじゃないのって」
ある意味霊夢らしい話かも知れない。
妖怪とか人間とか関係の無い霊夢だから、妖怪と人を同一視して悩む。
「でも、やっぱり私は人間だから、悪戯でも人の血を飲んでしまったら、汚いと思っちゃう。頭では人も妖怪も一緒だって考えてたら、食べ物は皆汚いんだって、何かを奪ってそれで生きてるから汚いって思っちゃった。そしたら食べるだけで胸がむかついてしょうがなくなっちゃったの」
「今は大丈夫なんでしょ?」
「うん、汚くっても大丈夫って、教えてくれた人がいたから」
霊夢の言葉に胸が熱くなる。
霊夢が私の表情を見て、二ッと笑った。
「そういう難しいことわからなくって、霊夢をものにするチャンスって思っただけだから」
「ぷっ、照れ隠しはいいから。ま、それがアリスのキャラクターだから許してあげる」
「私のしたことは全て打算なのっ」
「あー、はいはい。打算でも一緒に吐いて、汚れてくれてるんだからそれでもいいよ。アリスが汚くっても大丈夫って、ご飯食べさせてくれるから、私は生きてられるんだしね」
「やっぱり、ご飯はあれじゃないとダメなの? 普通に戻れないの?」
「もどる気はまったくなし。ふふ、それどころか……」
霊夢は起き上がると、私の胴体の上に跨るようにする。
霊夢の太腿が私の脇腹を締め付けている。
「ねぇ、もっと先に進みたいの」
唇と突き出して、霊夢はご飯をせがむ時の、キスを求めるのに似た表情を見せる。
「いいわよ」
「じゃするね。行くね、アリス」
霊夢となら何処まででも堕ちたい。
私は心の奥底をさらけ出さず、ただ目を閉じて待ち受ける。
「おぐっ、おおっ、ごっ、おげっ、おげげっ」
霊夢のえずき声と一緒に熱い液体が顔を覆う。
霊夢の内臓と同じ温度の液体は首筋を伝い、仰向けの私の襟足を濡らす。
「おげっ、げぇっ、げええええっ」
目を閉じた私の顔に、半固形の塊が降ってくる。
酸味の強い、私が出したものと同じ匂いをしている。
塊だけが顔に残り、一緒に吐き出された液体は流れ落ち、髪の毛に染みこむ。
「私、吐くの慣れてるから簡単に出せるの」
少し自慢げに聞こえるのは気のせいだろうか?
「いっぱいあげるからね」
霊夢は吐きながら、手で吐瀉物を私の上で塗り広げる。
口元を覆うようにぬちゃりとした感触が広がり、頬に、目元まで順に塗りたくられる。
私の顔は霊夢の嘔吐物で、あっと言う間に彩られてしまう。
「おおっ、げっ、げぇ、おえええっ」
顔が終わると次は髪だった。
私がしたみたいに濡らしてしまった程度の甘いものじゃなく、霊夢のゲロでの洗髪だった。
「げぇ、アリス、かわいい、かわいいっ、おぇう、ううぅっ、ごっ、げっ、ごっ、げっ、げえええええっ」
髪の毛に吐いては、手で零れないように受け止めて、髪に塗りこませる。
毛の一房ごとが、霊夢の吐いた味噌汁やら米やらが咀嚼された形のままのもので、固められる。
霊夢は吐いては、手でぐちゃぐちゃと私の髪を掻き回し、匂いと共に吐瀉物を塗りこめる。
「アリス、髪、とっても、げっ、おええぅ、きれい、かわいいぅ、おおぅ」
霊夢は吐いて、睦言を繰り返す。
ぐっちゃっ、ぐっちゃっ、にちゃにちゃっ――――、霊夢の手が動くごとに汚物が掻き回され、嫌な粘液の音が耳のすぐ横で鳴っている。
顔から頭まで全てを吐瀉物に塗り込められた私は、一呼吸ごとに吐いたもの独特の酸味と、えぐみの混じった匂いを吸い込んでしまう。
あまりに酷い匂いに、喉が萎縮して、ゴロゴロと鳴る。
酸度の強い胃液のせいで肌はピリピリとして痛いぐらいで、汚された髪の毛は重く、毛根にまで染み付いたもので頭がジクジクとする。
「アリス、アリス、アリス」
「ああっ、霊夢のがっ、霊夢の、私に、私っ」
私は異様な興奮に陥り始める。
「霊夢のに、髪、顔も、ぐちゃぐちゃにされてる。はぁはぁ、私、汚れてるっ、のにっ」
顔中汚物塗れで、息をするのも苦しいくらいで、霊夢のものとは言え生理的な嫌悪が湧き起こっているにも係わらず、体が恐ろしいほど震える。
恐怖ではなく興奮によって震え、身体は熱気に支配されていた。
私は欲望の赴くまま霊夢に手を伸ばすと、霊夢が私を引き起こし、顔を近づけてくる。
そのまま荒く呼吸して閉じることもままならない口に、霊夢は口を寄せた。
「げぇっ、げぇ、げええええっ」
霊夢は開いた私の口に吐く。
「ん、んんんぅ、んっ、んぅ」
私は霊夢を受け入れて、吐き出された熱い霊夢のものを飲み干した。
「アリス……」
「霊夢…………、もっと」
私は霊夢の次を求めていた。
決しておいしいとか思った訳では無かった。
吐き出されたものが口に零れ、舌の裏に流れ込んだ瞬間は、その味に堪えきれずに唇をぎゅっと閉じて、ようやくのことで飲み込んだぐらいだった。
塩辛さ以外は全く感じず、独特の匂いが鼻腔に流れ込むと、喉が自分が吐く時みたいに蠢いた。
「えっ、おぇっ、おおおっ、えっ」
「ん、霊夢、霊夢の、おいしい、んっ」
「げっ、おえぇっ、おおおっ、うれしい、げっ」
味はまずく、吐きそうなのに次々に求めてしまう。
肉体でも、口でも、粘膜でも全く性的な快楽は起らない。
なのに脳髄の奥底ではこれは性的なものだと認識している。
「たべさせて、今度はアリスが」
「うん、霊夢っ、今度は私が吐くね」
性的行為なら興奮はやがて体を撫でる手や、舌の快楽に飲まれて、昇華される。
肉体に訪れる快楽は思考を飲み干すほど強烈で、行為に対する興奮も、肉欲にやがては飲み干させる。
「おげっ、おっ、おごおおっ、おごっ、おおおおおおっ、おふぅ、おげええええっ」
「ん、アリス、んんっ、あんっ、おいしい、ん」
でも私達の行為に、肉の悦楽は微塵もない。
匂いも味もひたすら不快で、汚物が体に触れることは怖気が立つ。
「んん、霊夢」
「今度は私が吐くね。おおっ、おえっ、おおおっ、おげっ」
「んん、あっ、はぁ、ん、はぁはぁ」
肉体的には不快なおかげで、頭の内側で興奮だけがどこまでも留まることなく続いていく。
肉に訪れる嫌悪が冷静のまま事態を見詰めさせ、自分達を観察することで興奮する、無限のループ。
「げっ、ごっ、おごごごっ、おえっ、おごぉおおおっ」
行為がエスカレートするごとに興奮は高まり、ひたすら求め、ついには何もかもが弾け飛び、性行為以上にトリップする。
汚物だからこそ、気持ち悪いからこその、快楽。
「げっ、吐いて、霊夢っ、吐いてっ」
「アリスも、吐いてっ、もっとゲロ食べさせてっ」
「霊夢のゲロ臭くって、汚くって、吐いちゃいそう」
「私の汚いゲロで、アリスがまた吐いちゃうっ、おっ、おげぅ」
「んん、私のゲロの臭いの、霊夢食べて、食べて私のゲロまた食べさせてっ」
「ん、アリスのくれたゲロご飯吐いちゃうっ、臭くって、汚いアリスの吐いちゃう」
「吐いてっ、霊夢は吐いて、もっともっと、汚して」
「うん、吐く、吐く、アリスのこと体の内側から汚して私と同じ匂いにする」
「してしてっ、霊夢」
興奮に導かれるまま、吐いて、飲んで、また吐く。
私が咀嚼し霊夢に与えたものが、再び私の胃に納まり、吐いて霊夢に食べさせる。
ゲロが霊夢と私の間を往復する。
「あおおおっ、げおっ、おお、げろっ、げろおおおおっ」
「ぶぐっ、ぶ、ぶぐっ、ああっ、おごおおっ」
ゲロに溺れ、喉元から泡を溢れさせながら、私達は眩暈に飲まれて混濁した意識のまま行為を続ける。
脳髄は痺れ、視界は歪み、口を開いたまま、私も霊夢も体を痙攣させる。
体験したことはなかったから同じものと言えるかは分からないが、体が溶け、意識が真っ白に染まっていく過程は、おそらく性的絶頂に近いものだろう。
私達は、ゲロの飲ませあいで絶頂に達したのだった。
「あふうっ、ううっ」
「はぁ、ふああぁ、アリス」
「うううんっ、んっ」
吐くものが完全に胃の中から消え去り、ようやく私達は行為を終わらせた。
「すごかったね」
「うん、酷い匂い」
「酸っぱい」
見詰め合う二人の顔は、同じように吐瀉物に塗れ、髪の毛も吐いたもので濯いだように汚れていた。
「吐きそうな匂いよ、アリス」
「じゃ、霊夢、吐いてみてよ」
「ごめん、吐きそうな匂いだけど、もう吐くものない」
ゲロの飲ませあいの最後は、何もかもを吐き出し、胃液も、えずき汁も出なくなり、指を突っ込んでも喉を痙攣させるだけで、汁の一滴すら出なくなっていた。
「くすっ、私、お腹空いちゃったかも」
「あ〜、じゃご飯用意してあげる。だから、アリスのご飯、また頂戴」
「ダメ、また今度も、こんなことしちゃうから」
「え〜、アリスのご飯食べたい」
二人で口移し合ううち零れたもので、私たちの上半身は茶色く染まっていた。
口に吐くことを繰り返ししていると、勢いのまましていたせいで飲みきれないものが溢れて、服に落ちていったのだ。
霊夢の巫女服に似せた紅白の服は染みが点々と飛び散った跡が付き、首元の周りは元の色がわからないぐらいに変色している。
私の服はもっと酷く、上半身全体が胃の内容物で埋め尽くされていた。
「ダメ、今度は霊夢のご飯を食べたいわ」
汚物塗れの、胃液の匂いの漂う中、愛の告白代わりに霊夢に求める。
私達にとってお互いの穢さを受け入れることが、愛だから。
霊夢もそれがわかったのか、私の言葉に霊夢が目を丸くし、次の瞬間破顔した。
「アリス、私と同じところまで来てくれたのね」
私は自分自身の汚物で汚れ、霊夢と同じ、人目には見せられないような姿になっている。
霊夢はもう、一人で自分の穢れを泣くことはない。
穢いと思うことに変わりはないが、少なくとも同じくらい汚いもの隣にいる。
「ありがと」
「うん」
私達は狂っている。
でも少なくとも、たった一人で正気を保つよりは、二人で狂っているほうがずっと幸せだ。
霊夢が私を捕らえ、私が霊夢を捕まえた。
霊夢が私に与え、私も霊夢に与えて、それが繰り返されていく。
ある意味不毛な関係。
でも、他の正常な二人の関係なんて、私達は知らないのだから、これが霊夢と私にとっては正解なのだと思う。
私達はキチガイで、幸せ。
それでいいのだと思う。
ー了ー
霊夢は汚れているほどかわいい。
アリスは汚れてもかわいい。
そんな気がしてこの二人です。
やっぱり個人的にはレイアリ(アリレイ?)が至高です。
奈利
- 作品情報
- 作品集:
- 27
- 投稿日時:
- 2011/07/08 15:25:16
- 更新日時:
- 2011/07/09 00:25:16
- 分類
- 霊夢
- アリス
- 百合ゲロ
この愛のある綺麗なスカプレイ、たまりません!
洒落にならんぞ、この愛の形。
ぶっ飛んだ愛情表現と作者様こだわりの食の描写。
強い感情、弱い理性。二人が幸せならそれで良い……のか?
まれに見る傑作でした。
見ていて、こっちまで吐いちまいそうになりましたよ……。
恋愛の究極形態、しかと堪能させていただきました!!
素晴らしい作品でした。
久々に読んでてズルズルと引きこまれる魔性のSSに逢えましたよ…
この甘味と酸味、最高です。
始終興奮させられるとともに、お話自体もとても面白くて読み応えたっぷりでした。
心打たれました。霊夢の持つ今生の課題なのかもしれない。