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『親友』 作者: 名前がありません号
「おーい、だいようせーい!」
「あ、チルノちゃん」
大妖精が自らの住処で眠っていると、チルノの快活な声が響いてくる。
いつもの光景。チルノを待たせては悪いと大妖精は早速住処から飛び出す。
「大妖精! あそぼ!」
「うん、わかった。何して遊ぼうか?」
「んー。弾幕ごっこ!」
「えー、またぁ?」
「弾幕ごっこする! 魔理沙倒したいし!」
最近魔理沙に負けたらしく、思い出して悔しそうな顔をしている。
正直、大妖精ではチルノの相手は務まらないのだが、
大妖精は仕方ないなぁといった感じで承諾する。
断ってもいいのだが、凄く悲しそうな顔をするのでつい承諾してしまうのだ。
「それじゃ湖いこー!」
「はいはい」
うれしそうに湖に飛んでいくチルノ。
それを追いかける大妖精。これもいつもの光景。
この光景が続いていくのが、大妖精とチルノの変わらない関係だ。
それが崩れる事を彼女らはまだ知らない。
「あ、人間だ」
釣り人が湖にたむろしていた。
そういえばこのぐらいの時間になると、人間達が湖に釣りに来るのだ。
チルノはそれでも関係なく、弾幕ごっこをする気満々だったが、
大妖精とその仲間達は以前、悪戯に失敗して手酷いお仕置きを食らっていたので、
もう一度は勘弁してほしいところだった。
「え、えとね。チルノちゃん。湖ではやめよう?」
「えー? 別にいいじゃん。あいつら居たって関係ないよ」
「た、たまには他の場所でするのも悪くないかな?」
「でも……」
「ここでどうしてもしたいなら、弾幕ごっこはやめようかな……」
少しずるい言い方をチルノにする。
すると、チルノは「わ、わかったよ。大妖精がそういうなら……」と弱気になる。
悪い気がしないでもないが、チルノは前しか見えないので制してあげなければならない。
だから、多少ずるくてもこうしてあげるのがチルノのためだと、大妖精は思っていた。
「それじゃ、森の方に行こう。あの辺りなら人もいないから大丈夫だよ」
「わかった!」
すぐに笑顔に戻るチルノに罪悪感を少し感じながらも、森の方へと向かっていった。
森の中に入ると、早速弾幕ごっこを開始した。
結界をしっかり張っていないけど、この辺りには人はまず来ないだろうからと、
大妖精もさほど気にも留めなかった。
チルノの氷の矢を避けながら、テレポートを駆使してあちらこちらへと逃げ回る大妖精。
放つクナイや魔力弾を撒き散らして、チルノをかく乱していく。
とはいえ、チルノ自体の魔力は相当なものであり、結界を張っていても、
掠めるだけでも、大妖精は微かに痛みを覚えるほどである。
大妖精とチルノの能力の差は歴然としていた。
大妖精も妖精の中では強い方ではあるが、チルノは半ば妖怪と並ぶほどの能力がある。
そのため、大妖精はいつも適当なところで敗北する事にしている。
チルノの全力の攻撃を受ければ、ただでは済まないからだ。
チルノに加減などという言葉は存在しないのである。
そしていつも通りに、ある程度時間が経った後、チルノの氷の矢を適当に受ける。
予定だった。
矢を受けるために、横へと移動しようとした時に、
木の枝に足を取られて、体勢を崩してしまう。
氷の矢は大妖精を通り過ぎて、木の根元を抉る。
ミシリという音を立てて、木が大妖精目掛けて倒れてくる。
チルノが咄嗟に氷のハンマーを作り出して、木を殴り飛ばす。
折れた木は完全に粉砕できずに、森の奥の方へと吹っ飛んでいった。
「大妖精! 大丈夫?」
「ち、チルノちゃん。あ、ありがとう……」
チルノに駆け寄られて、そう返事をする。
わずかな身体の震えは、倒れてくる木の恐怖と、
その木を平然と殴り飛ばすチルノの力の強さに対するものだった。
チルノは大妖精を心配して、大妖精の住処へと大妖精を連れて行った。
自分達を睨み付ける視線に気づかずに。
翌日。
大妖精が、湖にやってくるとなにやら妖精達が噂をしていた。
大妖精に気づくと、散り散りに飛んでいった。
しばらくするとチルノがやってきて、「どうしたの?」と言ったので、
「なんでもないよ」と答えた。
大妖精は自分ではなく、チルノがやってきたから散り散りになったんだなと思い、
さほど気にも留めなかった。
適当に湖で遊んでいると、釣り人達が怪訝な目で自分達を見ている気がした。
その夜。
大妖精が自分の住処で休んでいると、外がうるさいことに気づく。
ひょっこりと顔を出して外を見ると、
血走ったような目で里の人間らしき者達が、何かを探し回っているようだった。
その日は怖くて、住処から出られずに居た。
翌日。
人里の人間がやってきた事について知りたくて、
こっそりと人里の周りから近づいていく。
どこか苛立った様子の人たちが広場の方にたむろしている。
するといきなり後ろから肩を叩かれる。
「ひっ」と後ろを振り向くと、上白沢慧音が後ろにはいた。
「ついてこい」といわれ、逃げるわけにもいかず、慧音の庵までついていくことになった。
「今、人里には近づかない方がいい」
「そ、それは昨日の森の人達と関係あるんですか……」
「それを知っているなら話は早いな。今、人里ではある男女を襲った妖精を探している」
「よ、妖精、ですか」
心当たりがあった。
おとといの弾幕ごっこの、チルノが木を吹き飛ばしたとき。
その一部が男女を襲ったとしても、おかしくはなかった。
「ああ。普通であれば、軽く懲らしめるところだが……今回が事情が違う。
最悪、犯人が捕まれば懲らしめるどころでは済まないだろうな」
「え?」
「襲われた男女の女性の方はな。死んだんだ。お腹の子供と一緒にな。
吹き飛んできた木の下敷きになってな。男がそのとき妖精の姿を見た」
一番聞きたくない話を聞いてしまった。
「夫となる男と妻の親は激怒している。妖精に対して彼らは明確に敵視している。
とてもではないが私に彼らを止めることは出来ない。
彼らを刺激したくないなら、当分の間は自分の住処に隠れておいた方がいいだろう」
「そんな……」
「……まさかとは思うが犯人を知っているんじゃないだろうな」
「そ、そんなことありません!」
慧音の追求に身体を震わせる。直接的な原因はチルノ自身だ。
しかしそれを言ってどうなるのか。
なぜ知っているのか、そう聞かれはしないかと恐れている。
「……まぁ深くは聞かないよ。だが、犯人に心当たりがあるならすぐに謝罪する事だ。
それで事態が好転することはないが、決して悪くはならないからな」
そういうと、慧音は奥の部屋へと向かった。
大妖精は一目散に慧音の庵を出て、チルノを探しにいった。
チルノは程なくして見つかった。
湖以外ならばここにいるだろうと思っていた。
森の奥にある小さな泉に一人ぽつんと座っていた。
「チルノちゃん、ここにいたんだね」
「大妖精? 大変だよ! 人間達がなんか怖い顔して襲ってくるんだ!」
「そうなの? それで、その人達……どうしたの?」
「うん、おっぱらったよ。一人だけ動かなくなっちゃったけど」
「え……」
チルノが指差す方を見ると、倒れて動かない人間の男がいた。
額には血がべっとりとついていて、近くの石に頭をぶつけたらしい。
凍った地面を見るに、チルノが地面を凍らせて、それで滑って頭を石にぶつけたのだろう。
「ち、チルノちゃん……この人、死んでるよ……」
「え……」
「ま、まずいよ! チルノちゃん、早く人里の人たちに謝らないと!」
「あ、謝るってなんで! 第一あたい何もしてないよ!」
「この人殺しちゃったんだよチルノちゃん!」
「なにさ、大妖精! あの人間達と同じ事言って! 大妖精も人間達の肩を持つの!?」
「そ、そうじゃないけど……」
「人間の肩持つ大妖精なんか知らない!」
そういってチルノは飛び立ってしまった。
追いかけようと飛び立とうとしたとき、何かに布を被せられた。
そのまま薬のようなモノを打たれて、気絶してしまった。
ばしゃっという音とともに、大妖精の顔に桶いっぱいの水をかけられた。
それに目を覚ました大妖精が見たものは、怒りに震える青年の瞳だった。
「お前、あの氷精を逃がす手伝いをしたな!?」
「えっ、ち、違いますっ。そんなことしてなぎゃぁぁぁぁぁ!?」
隣に居た呪術師とおぼしき男が言葉をつむぐと、
神経を焼く様な電流が、大妖精の身体を走る。
よく見れば、大妖精の身体には呪布があちこちに張られていて、
それらが大妖精の身体と精神に痛手を加えていた。
「このっ、あと少しだったのに! 平八まで殺しやがって!」
「だから、私は関係なぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」
「お絹と平八の分まで苦しめ、この鬼畜妖精!」
「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
呪術師がまた言葉をつむぐ。
痛覚が麻痺しかねないほどの苛烈な痛みを何度となく味わう感覚に、
大妖精が気をやりそうになっても、続けられる痛みが覚醒を強要する。
しばらくすると幾分冷静になった青年が、氷精を探しに出かけると呪術師に告げて、部屋を出た。
その後もしばらくの間、呪術師による責め苦は続けられた。
それからしばらくして。
大妖精は人里の郊外に打ち捨てられていた。
結局、大妖精が知っている事は自分達が知っている以上のことを知らなかったためだ。
大妖精がぴくりとも動かなくても、人里の人間達はあまり意に介していなかった。
妖精の扱いとは結局この程度のものである。
その変わり果てた大妖精に近づくものが居た。
チルノだ。
大妖精の姿を見て、その身体を揺すりながら話す。
「大妖精、大妖精! 誰にやられたの、ねぇ!」
必死に叫ぶチルノ。
大妖精はおぼろげな視界で、チルノを捉えるとこう言い放った。
「……ぃ加減にしてよ」
「え?」
「いい加減にしてよ。チルノちゃんの為になんで私こんな目にあわないといけないの。
私、チルノちゃんの為に色々我慢したよね? チルノちゃんの為にがんばったよね?
なのになんでチルノちゃんじゃなくて、私がこんな目にあわなきゃいけないの!?
チルノちゃんがいつも悪いのに、なんで私ばっかりなの!? ねぇ教えてよ!?」
「だ、だいようせい……」
「どっかいってよ、チルノちゃんなんか友達でもなんでもないよ。早く消えてよ!」
「う、うぁぁぁぁぁぁ!」
チルノはそれ以上大妖精の言葉を聞いていられずに、再びどこかへと飛び立っていった。
その後、チルノの姿を目撃したものはいなかったという。
しばらくして、一匹の青い妖精が湖にやってきた。
他の妖精達の中に緑髪の妖精を見つけ、声を掛けたが、
緑髪の妖精は「誰?」と、青い妖精に返事をした。
青い妖精の顔が青ざめた。
チルノにとって大妖精は親友。
大妖精にとってチルノは友達。
最後は少し弱かった気がする。
最終的に誰をいじめたかったんだろう。
名前がありません号
- 作品情報
- 作品集:
- 27
- 投稿日時:
- 2011/07/09 14:24:29
- 更新日時:
- 2011/07/10 00:00:18
- 分類
- チルノ
- 大妖精
彼女たちにとってほんの少しの時間が経っただけでリセットされる友情。
緑にとって、青は命を賭けてまで守る対象ではない、と。
青が底抜けのHでなければ、今度こそ緑に親友と思われるように振舞って欲しいと切に願います。
チルノは大妖精のことをそのまま大妖精と呼ぶのではなく、大ちゃんと呼びます