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『Eternal Full moon 第六話』 作者: イル・プリンチベ
―29― 蓬莱拷問と廃位の宣旨
バシッ!
「輝夜、お前は“蓬莱の薬”を飲んだが、誰に作らせた?答えろ!」
今日もお父様とムカつく重臣のオヤジどもが、私に蓬莱の薬を誰に作らせたか聞いてくる。しかも私は全身をフェムトファイバーの縄で絞められて身動きが出来ない上に、宙づりになりながら棘がいっぱいついた電気が走る鞭で私を叩きつけられるという拷問がおまけで付いてくる。
確かに私は2年前に蓬莱の薬を飲んでから身長が伸びていないから、たぶんお父様は私の体が大きくなっていないのが気になったのだろう。私は“蓬莱の薬”を飲んでいないと誤魔化してきたけど、精滅検査を受けさせられてあっけなくバレてしまったのだ。
連中ときたら私が死なない事をいいことに、これでもかというぐらい私の体を痛めつけてくる。全身が凄く痛いから今すぐ死にそうで仕方ないんだけど、またリザレクションするからこれぐらいどうってことないか。
バシッ!
「確かに“蓬莱の薬”は飲んだけど、あれは私が独学で調べて作ったわ」
本当は永琳に作らせたのだが、私は永琳の弱みを握ったことで無理やり蓬莱の薬を作らせたのだ。責任の全ては私にあり永琳にはないから、一応永琳の事は庇っておく。
バシッ!
「嘘をつくな、この罪人が!お前はアレを誰かに作らせたんだろう!?“蓬莱の薬”を作れるのは月の都でも八意永琳しかないから、お前は八意永琳を脅迫して作らせた筈だとしか言いようがないだろう。なぜ素直に真実を言わん!?」
重臣の一人が、私が永琳に“蓬莱の薬”を作らせたと決め付けてくる。あんたときたら事ある度に私から次期王位継承権をはく奪しようとしてくるのに、自分だって不正をさんざんやらかしてくれるんだから自分の事を棚に上げて善人ぶるなんてありえないでしょうに。
バシッ!
「罪人、真実を答えろ!“蓬莱の薬”を作ったのは八意永琳だろう!?真実を答えるならお前を地上送りにしなくても済むのだ。だから、素直に八意永琳が作ったことを認めたらどうなんだ!?」
永琳の政敵のこのクソ爺が“蓬莱の薬”を作ったのは八意永琳だと勝手に決め付けてくる。このクソ爺はお爺さまの代から政治面において月の都の発展に多大な貢献をしたので、今となっては一等功臣として絶大な発言権を持っているんだけど、こいつも民から莫大な財産を奪ってきている守銭奴だ。
「永琳はあんたが考えているような悪い事はしてないわ。それよりあんたこそ脱税したり、民や玉兎から莫大な財産を奪ってきたり、役職を自分の派閥で固めたりしてるんでしょ」
確かに永琳は玉兎や豊姫や依姫相手にとんでもない事をしてるんだけど、私を姫の座から廃位させようとしてくる敵対勢力から守ってくれていることぐらい私なりに解っているつもりだ。だから、永琳に私の罪を背負わせるわけにはいかない。
「罪人の癖に言わせておけば!者ども、やれっ!」
あ〜あ、私が白状しないからすっかり腹を立てちゃったよこの爺さん。ちょっとでも気に食わないことがあれば、すぐに過去の例を取り反論して自分の思い通りに事を進ませようとしてくるんだよね。私の事を我儘過ぎるというけど、自分の我儘なんじゃないのかしら。
「はっ!」
バシッ!
バシッ!バシッ!
バシッ!バシッ!バシッ!
あの爺さんの命令を受けた罪人に拷問を賭ける武官達は、さっきより激しく私を鞭で叩きつけてきた。私を殺すつもりでやってくるのだけど、蓬莱人の私にそれは何の意味もなさない。
「この罪人が、いい加減真実を吐けっ!」
バシッ!
バシッ!バシッ!
バシッ!バシッ!バシッ!
「無礼者!私は姫なのに、なんでこんな酷い拷問を受け続けなきゃいけないのよっ!早く私を解放なさい!お父様、私を助けてよ!私はただ蓬莱の薬を飲んだだけじゃないの!」
月の都の歴史上において王族連中が悪さをしても拷問を受けたという前例はないので、私はこの身を自由にしてもらうために縄をほどくように言ったのだが、あいつらときたら私の命令を全く聞こうとしない。
「輝夜、私は貴様を姫の座から廃位させた。それにお前の身分は奴婢でしかないから、いくら拷問にかけても問題ないのだよ」
「それにお前は“蓬莱の薬”を飲むという禁忌を犯した罪人でしかなく、罪人には人権を剥奪しても構わないという方をある事を忘れたわけじゃなかろうな」
なんと月の都の王であるお父様は、姫である私を廃位させて奴婢の身分にしてしまうという信じられない行為をやってのけた!実の娘で王位継承権を持つこの私を廃位させるなんて、私にはお父様の考えている事が理解できない。
私は蓬莱人になってこれまで何度死んだだろうか?私は“蓬莱の薬”を飲むという禁忌を犯したために、姫の座を廃位されこうやって拷問受けて1日に1度や2度で済むレベルじゃないほど死んでいる。それでも身体の一部を潰されてもすぐに再生するから、“蓬莱の薬”の効果は確かなものだ。
「輝夜、お前は月の都に置くわけにはいかない!お前に相応しい刑は、地上に流刑してやる!それも、永遠にな!輝夜、お前はもう2度と月の都の土を踏ませんからなッ!」
お父様は私を穢れきった地上に流刑することを決めると、
「いいなお前ら。明日はこの罪人を地上に送りつけるぞ!」
お父様は明日私を地上送りすることを決めつけてしまった。地上の民どもは卑しく穢れた連中なので、そんな奴らと同じ空気を吸うことなんて絶対に耐えられないじゃないの。
「明日の朝一番からこの罪人を都の民に公開してから、罪人収容所にある砲台でこの愚か者を地上送りにするぞ!者ども、わかったな!」
お父様は“蓬莱の薬”を飲んだ罪人である私を都の民に公開し、その後罪人収容所にある砲台で私を地上に送りつけることを重臣たちと武官達にいつけたのだった。
普通であれば、姫の身分の者はこういった拷問を受けることはまずないんだけど、私は“蓬莱の薬”を飲んでしまうという禁忌を犯してしまったから、姫の称号を取り上げられて廃位されちゃった事で奴婢同然の扱いを受けている。
まぁ、こうなったのも自分のせいだから仕方ないと思うけど、普通に王として平穏に暮らしていくよりはこういった破天荒な生き方をしたかったのかもしれない。
「この罪人を牢屋にぶちこんでおけっ!」
お父様は拷問を終えるように武官に命令すると、私をうすぎたない牢屋に閉じ込めるように命令してきた。
「はっ!」
衛兵どもは立てなくなってしまった私を無理やり引きずるように、すぐそばにある牢屋に連れて行きやがったのだ。
「罪人、牢屋に入れっ!」
私が自分から牢屋に入れる状態じゃないから、衛兵どもは私を牢屋に投げ飛ばすかのような感じで入れやがった。どう考えてもこの扱いは姫でなく奴婢以下なので、やっぱり私は姫の座から廃位された事を嫌でも理解させられた。
考えていることはすべてマチガイで精神状態はキチガイな姫と言われてきたのだから、姫という身分が私にとって足枷みたいなものに感じる時があっても、姫という身分を最大限に使って自分の思い通りに事を進める快感を知ると、誰かに我慢を強いられることがどうしても耐えられないのだ。
私は私のやりたい事を純粋にやりたいという願望があったのだけど、月の都の姫という称号がそれを許さないのだと思うと、先祖代々から引き継ぐ莫大な遺産を継承するも跡取りの義務という足枷を課せられた長男より、それなりの地位に甘んじるも自由を謳歌する二男以降の子供の立場がある意味羨ましくてならない。
でも私は長男と二男の立場のいいとこを同時に味わいたい。だって、自分の思い通りに物事がいかないと物凄く腹が立って仕方ないんだもんね。だから、拷問を受け続けなおかつ私と話せる身分でない奴らみたいな扱いを受けている事がどうしても納得いかない。
―30― 地上への流刑
あれから私は蓬莱の薬を自作して飲んだという事でしらを通しきったために、あえなく地上に流刑されることが決まったのだ。もちろん私の流刑される期間はエンドレスというのはわかりきったことで、それが何を意味するかというと私はもう二度と月の都の大地を踏むことが出来ないことを意味するのだ。
「この卑しい罪人めっ!そらっ!!!!!」
「蓬莱の薬を飲むなんて、本当に信じられない奴だな!」
「こんなのが次の王様じゃ、月の都は崩壊するだろうよ」
「死ね!」
「ここから出ていけ!」
「お前には穢れた地上がお似合いさ!」
私は全身をフェムトファイバーの縄で拘束された上で檻付きの車の中に閉じ込められながら流刑地の地上に向かっているのだが、重罪人は都の市中に引き回されることが月の都では当たり前の習慣となっている。
私は“蓬莱の薬”を飲むという禁忌を犯したけど、いくらなんでも姫の座を剥奪する父上の裁量が理解できないし、その上奴婢にするなんて信じられないとつくづく思う。せいぜい王位継承権の剥奪ぐらいで丁度いいと思う。だって私は王族で、何よりも月の都の姫なのだから。
平民達は私が廃位されて奴婢になったことをいいことに、地面に落ちている石ころなんかを私に投げつけてくるのだ。平民達はみんな揃ってストレスが物凄く溜まっているのがわかるんだけど、お父様やあのいけ好かない重臣たちは本当に何をやっているんだろう?
車の前進が止まったので、おそらく地上行きのロケット場についたと思われる。お城からロケット場までまっすぐ行けば1時間もかからない筈なのに、ほぼ半日をかけてやって来たのはあの連中どもは私の醜態を徹底的に晒したい願望があるのだろう。
「降りろ、罪人!」
2人の衛兵は私に軽蔑のまなざしを向けながら牢屋の鍵を開けると、姫である私を無理やりロケット台に連行しようとした。猿轡も外されたのだが、配慮のひとつも感じられない酷いやり方なのが腹ただしい。
「無礼者!私は姫であるぞ!衛兵ごときが私を罪人呼ばわりするとは何事かっ!」
私はこの衛兵たちに対し無礼を働かないように言いつけたのだが、
「王様の宣旨により、お前は罪を犯した事で姫の座を剥奪されてるんだよ。今のお前は奴婢以下の扱いにしてもいいんだよっ!」
「それにお前はもう姫じゃない。ただの罪人ってことさ!」
こいつらは私を姫として丁重にもてなすどころか、罪人としてぞんざいな扱いをしてきたのだった。
「罪人、入れっ!」
「こら、大人しくせんか!」
衛兵たちは私を地上送りの砲弾に押し込むように入れてから蓋をしやがった。私はこの砲弾から出ようと必死になって暴れまわるなどの抵抗をしたが、案の定結界が施されているので自由になれずに終わってしまった。
「これより罪人、王命により蓬莱山輝夜を地上に流刑する!者ども、罪人が入った砲弾を打ち上げろっ!」
衛兵の隊長が部下に私を地上に送りつけるように命令すると、
「「「「「「はっ!」」」」」」
衛兵どもは弾丸と化した私を大砲の中にぶちこみ終えると、
「隊長、罪人が入った弾丸が砲台に入りました。」
一人の衛兵が隊長に私が入った弾丸が砲台の中に入ったことを報告し終えてしまえば、
「よし、わかった!罪人、蓬莱山輝夜をこれから地上に流刑するぞ!者ども、放てっ!」
衛兵の隊長は私を地上に送りつけることを宣言すれば、衛兵どもは私を地上に送りつけるために大砲を放ってしまったのだった。
「はっ!」
連中は大砲を地上に狙いを定めて、いつでも私を月の都から追い出せる体制を整えてからまもなく大砲を放ってしまった!
ズドーン!!!!!!!!!!
流刑所一面に轟音が唸るという事が何を意味するかというと、重罪人を地上に流刑するという事を示す以外のものでないのだ。
地上にたどり着くまでに私は何度死ぬことになるだろうか?流刑のやり方は酷すぎるから、地上にたどり着けるだけでもまだいいと譲歩しよう。それともブラックホールに吸収されて異世界に行くことになるのか?それとも銀河の果てまで永遠にさまよい続けることになるのだろうか?あ〜あ、永琳の言う事を聞いていればこんな事にはならなかったと後悔しても仕方ない。今の私が出来る事は、流刑生活を少しでも楽しめるように考えることだね。
―31― “妹紅狩り”
「はぁー、気持ち良く昼寝をしていたのに、こんな酷い夢を見るなんてどうかしてるわ」
今日の晩御飯は待望の“寿司パーティ”で、思う存分海の幸を食べられると思ったのに、こういう時に限ってあの爺どもに拷問されてから月の都から地上送りされるという嫌な夢を見るのだ。
ここ一カ月以上にわたって酷い夢を見続けるのだから、永琳が胡蝶夢丸ナイトメアを私の知らないうちに仕込んで無理やり飲ましているから、こんな悪夢を強制的に見させられ続けたのかもしれない。まぁ、後で永琳を詰問するか。うん、そうしよう。
「今日は何かむしゃくしゃして仕方ないから、いつものように“妹紅狩り”でもやってうかな?」
私は夕飯を美味しく食べたいという思いがあったので、腹ごなしと暇つぶしとちょっとした運動とストレス解消を兼ねた“妹紅狩り”をやることにした。
ちなみに“妹紅狩り”は、私と永琳と同じ蓬莱人で犬猿の中である藤原妹紅を徹底的に殺すという私のストレス解消手段の一つだ。あいつをフルボッコにしてから身体を無理やり叩き潰したり、首を無理やり引きちぎったり、心臓を強引に引き抜いたりすることだ。
だけど妹紅は下手な妖怪なんかよりはるかに強いので、逆にこの私が返り討ちにあう危険性が極めて高く、逆に“輝夜狩り”されてしまうリスクを背負っているのだが、生と死の境界をめぐる殺し合いに面白さを感じてしまう。だが、それが何よりも刺激的で楽しくて仕方ない。
「さて、竹林に行こうとするか」
“妹紅狩り”の結末は、殺るか殺られるかのどちらかしかない。勝者は敗者を完膚なきまで痛めつけるという凄惨極まりないものであるが、事あるたびに私に因縁をつけてくる妹紅には格の違いというものを見せつけなくてはならない。
妹紅は地上の民の癖に、私のペットである玉兎の鈴仙・優曇華院・イナバなんかが歯が立たない位に強い。私個人の推測からしたら、結果はどうであれ綿月姉妹といい勝負をするかもしれない。
たとえ相手が強敵だったとしても、私は負けるわけにはいかない。なぜなら私は高貴な月の都の姫で、妹紅は穢れた地上の民でしかないのだ。
「姫様、これからどこに出かけられるのですか?」
私は玄関に行こうとすると、ペットである玉兎の鈴仙・優曇華院・イナバは、私の姿を見るなり外出先を聞いてきた。私が何をしようと私の勝手だし、これ以上余計な詮索をしてほしくないから私はありのまま答えることにした。
「私が外出するのは、“妹紅狩り”する以外ないでしょう?」
私は鈴仙に“妹紅狩り”することを伝えた。
「ひ、姫様!またあの地上の穢れた人間と殺し合いをなさるおつもりですか!?おやめ下さいっ!この間、全身やけどをする物凄い重傷を負われたのに、また性懲りずに挑まれるというのですね」
鈴仙は半ばあきれ顔を見せながら答えてきた。それもその筈、私と妹紅の“殺し合い”は、“スペルカードルール”なんていう手緩い戦い方をしないどちらかが完全に戦闘不能になるまで続くデスマッチだからだ。
「鈴仙、私を止めるつもりかしら。私を邪魔する奴は、たとえ永琳だったとしても容赦なく殺すわよ」
妹紅との殺し合いは、私が地上にいて何よりの娯楽だ。たぶん、妹紅もそう感じているに違いないと思う。完全な実力主義を否定している“スペルカードルール”より、こちらの方が負けるリスクはあっても勝った時の快感は忘れられるものではない。
「そこまでおっしゃるならば、私は姫様を止めようと思いません。どうか無事に帰ってきてくださいね」
鈴仙は一応私の無事を祈ったようだ。私の頭の中は完全に“殺し合い”モード突入で、今日の妹紅をどうやって料理してやろうか考えている始末だ。
「鈴仙、行ってくるわ。今日は妹紅の首を持ってくるから、期待して待っていてね」
妹紅と“殺し合い”をやり始めた時は、実践の恐さに不慣れであったために自分の身を守るために必死になって戦っていただけなのだが、通産5247勝4891敗3962引き分けと僅かに勝ち越してきた経験を培ってきたために、今の私は相手を殺す事が何よりも気持ち良くなっている。
ちなみに引き分けっていうのは、お互いが同時に戦闘不能になったり、永琳と慧音が私達を引き留めたりする回数で、そういった事もあってかそれなりの確率で勝負がつかないことがある。
「私が“妹紅狩り”するのは永琳に言わないで頂戴、わかったわねっ!?」
楽しい楽しい“殺し合い”を余計な奴等に邪魔されたくないし、妹紅が私の手によって地べたに這いつくばって苦悶の表情を見せるという屈辱を味あわせたいものだ。穢れた地上の民は月の民にひれ伏す事が運命であるということを、私の手によって再教育してやらなければならないのだから。
―32― 返り討ち
「妹紅、死ねえい!!!!!」
私は竹林で妹紅の姿を見ると、“永遠と須臾を操る程度の能力”を使って急接近して、あのマヌケ面に“強烈な一発”を叩きこんでやろうと試みていた。
「輝夜、お前はこんな不毛なことして楽しいのかよっ!」
妹紅は私の気配を悟っていたのか、私が全力で繰り出した真空飛びひざ蹴りを回避してしまった。普通の人間や並大抵の妖怪だったら、私の蹴りを直撃でくらうと絶命しかねない威力を持っているのだが、最近狡猾さを増した妹紅に回避されるケースが多くなっている。
マズい、これは非常にマズい!完全に隙だらけの姿を晒した私に致命的なダメージを与えないという手はないし、妹紅はそういったチャンスを逃す戦い方を絶対しないのだ。こうなってしまったら最後、私は確実に致命的な一撃をもらう事は避けられそうにない。
頭と体は妹紅のカウンターを回避しようと、“永遠と須臾を操る程度の能力”を使って回避行動をしようと試みた時には既に妹紅の間合いだった。こいつの戦闘能力及び身体能力は人間規格でないのだから、幻想郷でも最高水準のパワーとスピードと技術を兼ね備えているのは言うまでもない。
「輝夜、お前はいい加減大人になれっ!」
BAGOOOOOOOOOOON!!!!!
「ガハッ!!!!!」
妹紅の炎をまとった拳が私のみぞおちに直撃したので、情けないことに私は激しく血を吐いてしまった。みぞおちの辺りは死ぬほど痛いが、全身が焼けてしまったのか呼吸が出来なくなってしまった事がもっときついものがある。死ぬ、本当に死んじゃうっ!
妹紅の右ストレートはスペルカード戦で放つ弾幕以上に威力があり、死を避けられないほどの致命的なダメージを被って地べたに這いつくばってしまったために、私は次の動作をおこなう事が出来なかった。
妹紅に徹底的に殺される!今日は私の負けだから、最悪の事態を想定しておく必要があると思った。
「輝夜、お前みたいな奴を相手にしても意味はないんだよ。いつまでも不毛な殺し合いなんかするより、もっと建設的なことに時間を使うべきではないか?」
「私達にはいくらでも時間はあるが、今という時に自分が何をすべきなのか考えて行動しないと、今までのように時間を無駄にするだけだ」
「それに世の中は自分を中心に動いているわけじゃないし、自分の我儘が必ず通るわけがないのに、お前は未だにそれが解っていないのか?」
妹紅は地べたにひれ伏している私に目線を合わせると、永琳みたいに説教臭いことを抜かしやがった。なんていう奴だ!
「なによ、私のやってることが愚かだっていうの!?妹紅の癖に、私に説教するなんて生意気だわっ!そもそもの話だけど、なんで私があんたに余計な事を言われなきゃなんないのよっ!」
妹紅は何故か私を憐れむかのような目線で見てきた。最近の妹紅の考えている事は本当によくわからなくて困る。以前の妹紅だったら、私との“殺し合い”を積極的に望んでくるのに、この変わりようはなんだろう?
「ああ、可哀相に。お前は初めてあった時から何一つ変わっていないなぁ。事あるたびお前の事を逆恨みばかりしていた以前の私みたいで、本当に見ていられないぐらい酷いな」
「お前の事を徹底的に殴り殺してやろうかと思ったが、ここにいる蓬莱山輝夜は殴る価値のないどうしようもない奴だ」
妹紅は私の事を殴る値もない人間だと言って立ち上がると、
「今の人間のクズでしかないお前を相手にしても時間の無駄だ。私にはやるべきことがあるから、そっちを優先させて貰うよ」
私の事をクズ呼ばわりして私が始めからこの場にいなかったかのような振る舞いを見せながらその場から消えるように去ってしまった。
「も、妹紅!待ちなさいっ!再戦を申し込むわっ!」
妹紅に“殺し合い”を申し込むもそれを聞き入れられることなく、迷いの竹林に私の叫び声が虚しく響き渡るだけだった。凄く腹が立ってくるので、次に妹紅を見かけたら思いきり殴りつけてやろうと思わずにはいられなかった。
―33― 苛立ち
「ただいま〜、今戻ったわよ」
私は永遠亭の玄関に戻ると、住人達に帰ってきたことを示すために大声をあげる。イナバ達が私のなりを見ると物凄く驚いてしまい、因幡のリーダーを務める鈴仙を呼ぶ始末だった。当然といえば当然か。
「姫様、どうなされたですか!?今すぐ治療する準備をしますので、少しお待ちください」
地上の因幡達に呼ばれた鈴仙は私のなりを見るなり驚いてしまったが、それも無理はない。お気に入りの着物はボロに成り下がった上に、私自身全身傷だらけの血まみれなのだから。
「大丈夫、問題ないわ」
治療ポットを用意すると言った鈴仙だったが、私は彼女に必要以上の心配をしないように言った。
「姫様、藤原の奴にやられたんですよね!?下賤な地上の民の分際で、姫様に無礼を働くなんて許せないです!」
私の全身が火傷をしているのを見たので、鈴仙は私が妹紅とひと暴れしたと思ったようだ。
「それにしても姫様、こんなに傷だらけで本当に大丈夫なのですか!?」
鈴仙は私の負傷ぶりを見て心配そうにしているが、死ねない蓬莱人に治療をする必要はないから、これ以上余計な心配をしなくてもいい。
「大丈夫よ」
私はそのまま部屋に戻ろうとした時に永琳が玄関にやってきて、私の無様な醜態をまじまじと見に来たようだ。英凛までやってくるんじゃ、なんか馬鹿にされてムカついてくるなぁ。
バシッ!
永琳が手負いの私にいきなりビンタをしてきた!わたしは今までだったら、私の傷の手当てをしてくれたのにどうしてこんな事をしたのだろう?
「輝夜。今日は“寿司パーティ”をすると我々に言ったのに、どうして藤原と殺しあいなんて愚かな事をされるのですか!?」
廃位されたと言っても私は姫で、永琳は私の従者であることは変わらない。従者が主に殴りつけることは月の都では絶対にやってはいけない決まりがあるのに、永琳はこの決まり事をすっかり忘れてしまったのだろうか?
しかも永琳は私の事を姫様と呼ばないで、生意気にも“輝夜”と下の名前で呼びやがった!主の私に手を上げるなんて、“月の頭脳”と呼ばれた永琳もいよいよ本当に惚けたしまったのか!?
バシッ!
私はまだ生きてる左腕で永琳の顔を引っぱたいた!永遠亭の当主はこの私で、ここにいる連中全員は私の言う事を素直に聞いていればいいのだ。ましてや永琳は私の楽しみである“殺し合い”を、愚かなで無駄な行為と罵りやがるのだから、ここは自分の立場がなんたるかを解らせなくてはならない。
「無礼者っ!!永琳、あんた一体何考えてるのよっ!あんたは私の従者なんだから、私に従っていればいいだけの話じゃない!!それに私に手を上げてただで済むと思っているの!?」
「ねぇ、永琳。私も聞きたい事があるんだけど、ここ最近凄く嫌な夢を見つづけるから、胡蝶夢丸ナイトメアの新作を私の知らないところで飲ませたんでしょう!?正直に言いなさいっ!」
ここ最近ずっと地上送りされる忌まわしい夢を見続けるのは、永琳は私が気付かないように仕組んでいたに違いないと思う。いや、絶対そうだと言いきれるだろう。なぜなら、こんな悪質なことをやれるのは永遠亭の住人の中で永琳にいないからだ。
「輝夜、私はそんな事をした覚えはないわ!ウドンゲならいくら実験台扱いしても問題ないけど、輝夜にそんな酷いことをするわけがないでしょう!?」
永琳は私に薬を飲ませてないとしらを切りやがった。しかも自分の弟子を実験台扱いしても構わないという問題発言をやらかしてしまった。この事実を知ってしまった以上、私が鈴仙だったらこんな師匠の下で修業なんてやってられないだろう。
バチッ!
鈴仙が永琳を引っぱたいてしまった。永琳は鈴仙に引っぱたかれたことに驚いて目を丸くしていたのだが、鈴仙は自分が今まで強いられた実験の真実を知ったことに対する苛立ちがあるのだろう。永琳式教育法は体罰で出来ているのは、昔から変わっていない。
「お師匠様、酷いです!お師匠様は私をこういう扱いしてきたのは、そのようにお考えだったってことなんですよね!いつもいつも私に妙な薬を飲ませたり、何度も何度も解剖実験をされてきたり、お尻の穴を必要以上にいじくってたりしたのは、そういうわけだったんですね!」
鈴仙はいつも以上に瞳を赤く染めてしまうと、永琳の事を睨みつけながら罵倒し始めた。
あの様子だと、永琳は鈴仙に対しとんでもなく酷い実験を強いてきたに違いない。
「そうよ!私の実験に耐えれるのは、姫様以外にあなたしかいないのよっ!でも姫様にそれをやるわけにはいかないから、そこは尊い犠牲が必要でしょう!ウドンゲ、何でそれが解らないのよっ!」
バシッ!
永琳は弟子の鈴仙に反抗されたことで逆ギレをしてしまい、鈴仙の頬を平手打ちで叩きつけてしまった。師匠に反抗するのも問題あるが、逆に弟子に手を上げてしまうものアレだというものだ。
「だったら地上の人間や妖怪にそれをさせれば良かったじゃないですかっ!」
鈴仙も今まで自分がされてきた扱いに納得できてないので、どうせやるなら地上の連中を拉致・監禁して、そいつらを実験台にした方がいいのではないかと永琳に指摘した。
バチッ!
永琳は弟子に自分の方針にケチをつけられた事に腹を立ててしまい、顔を赤く染めあげた上に鬼のような形相に変えてから、もう一発鈴仙を殴りつけるも今度は拳を握り締めてやった。
「あんなのに触ったら私の手が穢れてしまうでしょう!ウドンゲ、何年私のところで修業をしているの!?」
確かに必要以上に地上の連中に触れると、私たちのような穢れない月人は地上の民と同様に穢れてしまい、もう二度と月に戻れなくなってしまうのだ。私達月人と玉兎は地上の民と交わりを持つと、穢れてしまうだけでなく誇りを失うという教育を受けているのだ。
永琳は月の都に関心がないと言ってるのだが、私と同じように地上の民と関わり合いを持たない言動があるので、心の奥底では月の都に帰還して、権力を振るいたいという願望があるだろう。
「もう我慢できないっ!こんなところ、出てってやるっ!これ以上実験台扱いされるなんて、ごめんよっ!」
鈴仙は今まで蓄積した不満を爆発させると、永遠亭から飛び出して二度と帰って来ない素振りを見せつけてくる。
「弟子の分際で師匠に逆らうっていうの!?師匠に歯向かう弟子なんて、今日限りで破門してやるっ!」
永琳はお前の居場所はここしかなく、私の実験台として生きていくしかないという軽蔑の眼差しを送りつけてから、鈴仙を破門すると宣言したのだった。
「破門?上等ですっ!私もあんたのような師匠に弟子入りして、時間を無駄にしたんですからねっ!」
鈴仙は師匠から破門を言いつけられても全く気にする様子を見せず、逆に永琳を軽蔑の眼差しを送り返したのだった。
「永琳。あんた、人のペットを勝手に追い出すなんて余計な真似をしないで頂戴!」
地上の連中との戦の最中に逃げ出した奴とはいえ、今の鈴仙は私のペットであることは間違いない。永琳が私に許可を取らずに鈴仙を追い出す仕打ちをするなんて、許せないったらありゃしない。
「永琳、鈴仙は私のペットよ!なんで勝手に追い出すのよっ!鈴仙、永琳はあんなこと言ってるけど、出て行かなくていいわ。あなたの飼い主はこのわたしなんだからねっ!」
私は永遠亭から飛び出そうとした鈴仙の手をつかみ、私の許可を取らずに勝手に出て行く事は許さないぞと目線で訴えた。
「ちっ、仕方ないわね。輝夜に免じてここから出て行かなくてもいいから、感謝なさい!でも、私はあなたの破門を解除しないし、あなたと会話をするつもりはないわ」
永琳は苦々しい顔をしながら、鈴仙に永遠亭に残ってもいいといった後に唾を床に吐き捨てた。鈴仙を破門にしたままで、なおかつ会話をしないという裁量を取ったのだが、あの顔を見ると絶対に納得していない筈だね。
「上等です。あんな効き目のない薬を地上の人間どもに売りに行かなくていいと思うと、清々して仕方ないですね」
鈴仙も負けていない。永琳に対し自分を破門にしたんだから、薬売りの仕事は永琳がやるようにけしかけてきたのだから。
そのまま5分間お互いがお互いを睨みつけながら過ごしていたのだけど、永琳が最初に脱落したが私の事を睨みつけながら研究室に戻ってしまった。この険悪なムードに耐えきれなかったに違いない。私と鈴仙の関係をこじらせてしまったんだから、当然といえば当然か。
その後鈴仙は私がその場にいなかったかのような素振りを見せると、永遠亭から出て行き迷いの竹林へと足を向けてしまったのだ。
取り残された私は鈴仙が去ってからまもなく自室に帰還した。傷の手当ては部屋にある布切れを適当に包帯にすればなんとかなるだろう。一応この身体はすぐに傷がいえるのだから、“寿司パーティ”を中止することはない筈だと思われる。
私がその気になれば永琳と鈴仙をすぐ永遠亭から追い出せるのだが、寿司ネタを確保する仕事を言いつけたのでそれが出来ないとなれば、責任を追及して徹底的に永琳と鈴仙を糾弾してから追い出せばいいのだ。
―あとがき―
以前から仲間割れしてお互いが罵倒し合うという内容をやってみたかったのですが、高貴で穢れがなく誇り高い月人と玉兎の彼女達にそうさせて見たいという考えでこのパートを執筆したつもりですが、読者様に上手く伝わったかどうかは定かではありません。
このお話の永遠亭の住人達を、過去の栄光を忘れられない自分勝手でスター気取りな上にエゴ剥き出しの最低な奴にしましたよ。ブラック企業のコンセプトとして、エゴのぶつかり合いがあります。それが元で取り返しのつかない事態になってしまうんですが。
実際に東方キャラを一纏めにしてチームを組ませて、戦術と規律を与えるのは非常に困難だと私は感じてしまうのですから。
少なからず私は、先日女子サッカーワールドカップで優勝した日本代表チームの選手たちのように、チームのために最善を尽くすというメンタリティーとディシプリンを東方キャラが持ち合わせるわけがない思わざるを得ないのです。
この考えが正しいと言い切れないのですが、私だけでなく他の読者の皆様が東方キャラの誰かを控えにすると言ったら、間違いなくそいつは控え扱いを受け入れず、不満を爆発させてチームを崩壊させると行為をすると思います。なぜなら、東方キャラの彼女達全員に共通するのは、そろいもそろって強烈極まりない個性をもっていることですから。
イル・プリンチベ
作品情報
作品集:
27
投稿日時:
2011/07/30 02:37:36
更新日時:
2011/07/30 11:37:36
分類
蓬莱山輝夜
永遠亭
ブラック企業
人間砲台
不満爆発
そろいもそろって自分勝手の上怠惰、そのくせ皮肉屋で人のすることに口出しだけはやたらするって連中ですから。
このお話のすばらしいところはその辺をしっかり書いてるだけでなく、このお話でも序盤で輝夜が永琳を申し訳程度に
かばってたりと「良心のカケラ」めいたものがどのキャラからも感じられることです。議論の余地なくクズである彼女たちが
時折そういうものを見せることで、グッと深みというか切なさというか、そういうものが増す。
もはや末期状態、確実に崩壊するしかない彼女らですが、最後まで見届けたいと思うので、がんばってください!!
上下関係抜きで相手の言葉に耳を傾けたり、譲歩したりとかがまるでない。
馬鹿は死ななきゃ直らないと申しますが、
蓬莱人は、つまり、永遠に学習する事は無い、と。
いや、妹紅は環境のおかげか、全うな精神を持つようになったし、
やはり、月人特有の高慢ちきな性格の影響ですかね。
このまま行ったら、輝夜と永琳と鈴仙、幻想郷から追放されるんじゃないか?
いよいよ山場の寿司パーティ、楽しみにしています。
そしてそれを受け入れてる幻想郷はますますクズ化していく一方と。
永遠亭を出て行ってどうやって生きていくのだ
寿司パーティーで首が繋がったな
逆に皆出て行ったら
幻想郷誕生以来の自分の縄張りが帰ってきて、てゐ様大勝利なんだな