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『チルノと夏と』 作者: 縁取り
ここは幻想郷、時は夕刻
幻想郷は今、夏真っ盛りであった
夕方だというのにうだるようなこの暑さ
今日も人間たちは暑さに倒れ
なんだかんだで昼も活動する吸血鬼は引きこもり
月の姫は元から引きこもっていた
しかし
幽霊も、妖怪も、人間も妖精もダラダラと過ごしている中
この妖精だけは 常に元気だった
*湖*
狭い狭い幻想郷唯一の湖
水辺に来たからといって、暑さは里と殆どかわりない
暑さで沸騰しているんじゃないかと勘違いしてしまうような暑さの湖の真ん中に
その妖精はいた
「くらえーっ!!」
「きゃっ…!?ちっ…チルノちゃん!いきなりやめてよぉー!」
緑髪の妖精に 湖の水を思い切りかける
全身が青の、透き通る氷の羽をもつ妖精
「いいじゃない!ほらっ、濡れて涼しくなったでしょっ?」
「…あ、本当だ…ありがとう!」
チルノと呼ばれた妖精は
ニカッ、と 無邪気な笑みを向けた
そう、彼女こそが
この暑い幻想郷を涼しく過ごす妖精
彼女は氷精だ
そのせいか、彼女の周りは常に冷気が充満し
ちょうどいい気温を作り上げている
そのおかげで、周りにいる生き物はもちろん
チルノ本人も暑さを感じずに過ごすことができている
「はぁーっ…疲れたぁ…ちょっと遊びすぎちゃったよ…」
「今日は遊ぶのはここまでにして、また明日遊ぼうよ、チルノちゃん」
「そうだね、さすがに最強のあたいでも疲れには勝てないわ」
チルノは近くに生えていた大木の根元に座り
高く高く空を見上げる
夕日色に染まる空は、すでに半分 闇に浸食されていた
夜になって強い妖怪が現れたら食われてしまう危険もある
そのことを考えてか考えずか、チルノは帰宅する。と緑髪の妖精に告げた
「じゃあね!大ちゃん!また明日ここで!」
「うん!また明日ね!」
こうして、大ちゃん…もとい大妖精とチルノは
自らの住処へと帰っていった
*チルノの住処*
とある木にあけられた大きな穴
チルノの住処はそこだった
「うぅ〜ん…、霊夢のばか…」
住処の中で、ぼそぼそと寝言を言いながら寝返りを打つチルノ
すやすやと気持ちよさそうに眠っている
しかし、チルノの体にはある変化が起きていた
それにチルノは気付かない
気づくはずがない
*湖*
翌日、大妖精はいつもの場所で待っていた
「遅いなぁチルノちゃん…なにかあったのかな…」
花を摘んでみたり、手遊びをしながらチルノを待ち続けていたが
さすがに心配になってきた大妖精は
チルノの住処を訪ねてみることに決めた
「…もしかして」
*チルノの住処*
「ううう…うううう…」
チルノの住処である穴の中
その中では、苦しそうなうめき声が反響していた
「いたいよぉ…うぅ…」
ただでさえ小さな体を更に小さく丸めて
住処の隅っこで震えているチルノ
その背中には、羽がなかった
そして、チルノの丸まっているあたりの床が湿っている
溶けてしまったのだ
「大ちゃん…」
チルノは、無意識のうちに親友の名前を呼んでいた
と、同時に
「チルノちゃん!!」
穴に顔をのぞかせる大妖精
その額には 大粒の汗が浮かび
サラサラの緑髪は顔にはりついている
その顔には驚愕の色が見えている
「大…ちゃん…」
痛む体を捻り、大妖精のほうを向くチルノ
血は出ていないものの
その顔は苦痛に歪んでいる
「大丈夫っ!?チルノちゃん!永遠亭のお医者さんのとこに行こう!ねっ?」
「…ん、大丈夫、だよ、すぐよくなるから…
ごめんね?心配かけちゃって…」
体の一部を欠損した激痛が全身を襲っているというのに
チルノは無理矢理笑顔を作ってみせた
親友に心配はかけたくない
その一心で
「…ごめんね大ちゃん…でももう大丈夫だよ…」
少し痛みに慣れたのか
先ほどよりかは喋りやすそうな様子でチルノは言った
「…お医者さん呼んでこようか?」
「ううん、大丈夫…大丈夫だから、今日一日一緒にいて…?」
弱弱しく大妖精の手を握るチルノ
「…うん、わかった、一緒にいるよ」
大妖精がそう言うと、チルノは安心しきった顔で
寝息を立て始めた
「…チルノちゃん…」
…翌日
「うう…」
「…ん…ち、るのちゃん?」
大妖精は、チルノの呻き声で目が覚めた
「んん…」
「大丈夫!?チルノちゃん!痛むの!?…っ!」
昨日と同じように丸まって震えるチルノの肩に手を置いて気付いた
右腕がない
「チルノちゃん!!」
昨日と同じように血は出ていない
しかし、チルノの苦しみようは昨日以上にひどいものだった
「うううう…っふぅう…」
痛みを逃そう逃そうと必死なチルノ
その目には、涙がたまっていた
「お医者さん呼んでくる!きっと診てもらえばすぐ良くなるよ!」
チルノを苦しみから逃す最良の手段を言うが
チルノは弱弱しく首を横に振るだけ
「ね、今日も一緒にいて…?」
「いるよ!チルノちゃんが治るまでずっと一緒にいる!」
ギュッ、そう音が聞こえるほど強く大妖精はチルノの手を握る
「えへ…ありがと…」
その次の日からも、チルノの体は欠け続けた
一日目は羽
二日目は右腕
三日目は左足
四日目は左腕
五日目は右足…
いつしかチルノは「達磨」と化していた
やつれ、痩せてしまったチルノは
乾いた唇を薄く開き、声を出した
久し振りに出した呻き声以外の声は
老婆のそれのようにしゃがれていた
「…大ちゃん」
「ん…?」
チルノの体が欠けていく様を
励ますことしかできずに見続けていた大妖精も、酷く疲れた顔をしていた
「あのね…」
小さな小さな声で紡ぐ言葉を、大妖精は一言一句も逃すまいと
真剣なまなざしで聞く
「氷…食べたいなぁ…」
「氷?…氷だね!わかった!紅魔館からたくさんもらってくるからね!待っててね!」
チルノの言葉を聞くや否や
住処を飛び出す大妖精
その後ろ姿を チルノは眺めていた
「ありがとう…大ちゃん」
………
……
…
大妖精が紅魔館から氷を大量に袋に詰めてもらい帰ってくると
そこにはチルノの服とリボン、そしてひときわ大きな水たまりだけが残されていた
「……っ!!」
抱えていた袋を落とす
床に散らばる氷
チルノのいないチルノの住処に落ちた氷は
その暑さで すでに溶け初めていた
「ぃやあああああああああああっ!!」
響く悲鳴
「チルノちゃん…、チルノちゃん…!」
床に座り込み、チルノの服を強く握りしめる大妖精
「……めんどくさいなぁ」
ボソリ 呟く
他の誰でもない、大妖精の声
「毎年毎年この時期になると、一週間に一回は溶けて消えちゃうんだから…」
サイドテールにした長い緑髪をかき上げた大妖精の顔には
苛立ちの色が見えていた
「しかも消えるたびに記憶なくすもんだから厄介なのよあのバカ」
大妖精はチルノの末路を知っていたのだ
羽が溶け、腕が溶け、足が溶け、最後は全て溶けてしまうことを
そして繰り返していたのだ
妖精に「死」という概念はない
死ねばまた生き返る
暑さで溶け、生き返り、また暑さで溶け、生き返る
その繰り返しを見てきた大妖精
「さて…私も帰ろうかな…」
彼女は明日になればまたチルノが生き返って
いつも通り湖に来ることを知っていたから
…翌日
「大ちゃんおそーい!!」
いつもの時間、いつもの場所にチルノはいた
大妖精を大声で呼び、無邪気に手を振る
「ごめんねチルノちゃん」
「今日はここで遊ぼうよ!きっと涼しいよ!」
「…うん」
そんな幻想郷の夏の日常
初めまして、縁取り と申します
初投稿のため、至らない点も多いと思いますが
今後も宜しくお願いします
チルノはかき氷にしてしまうべきだと思っております
縁取り
- 作品情報
- 作品集:
- 28
- 投稿日時:
- 2011/08/11 06:09:01
- 更新日時:
- 2011/08/11 15:09:01
- 分類
- チルノ
- 大妖精
- 溶けチルノ
- 日常
幻想郷の住人達は、大ちゃんが血相を変えて紅魔館に氷を求めるのを見て、
ああ、今年も暑いなぁ、としみじみするのかな。
面白かったです