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『おみやのアイスクリームと三月精』 作者: NutsIn先任曹長
「はぁ……、どうして外界って、こう、暑いのかしら……」
「えぇ、幻想郷の暑さと違って、何と言いますか、不快ですね……」
スーツをカッチリ着込んだ八雲紫と八雲藍は、炎天下の中、二人で都会の雑踏を歩いていた。
彼女達は、幻想郷では妖怪の賢者と彼女に仕える式神であるが、
ここ、幻想郷の外のセカイでは、国際的大企業、ボーダー商事のCEO(最高経営責任者)とその代理人兼秘書として、
仕事に文字通り、汗を流していた。
現在、紫達は仕事で駅前のリサーチを直々に行なっていた。
紫は暑いのは嫌いだが、空調でどんよりと凍えた空気の中、悶々とデスクワークをするのはもっと嫌だった。
なので突発的に紫は藍に命じてこの後の優先度の低い予定をキャンセルさせ、市中に繰り出すと、
人間達の思考と嗜好をお忍びで調査を始めた。
本来は若い部下の仕事であったが、トップに立つ者は現場の苦労を知ることも大事、
などと尤もらしい口実で譲ってもらった。
紫達は、老若男女に本音と建前の境界をいじってインタビューを行い、多数の満足の行く成果が得られた。
藍がスケジュールを確認すると、次の予定まで若干時間が空いた。
今回は最寄り駅まで歩いてきたので、普段はスキマや自動車、果ては自家用ジェットで移動する紫は少しくたびれていた。
「藍、少し休憩しましょう」
「よろしいですね、では、あそこの喫茶店などは……」
藍が指差した方向には、有名ちぇええええん……、失礼、チェーン店があった。
「ん〜、悪くは無いけれど、ゆかりん、あれ食べたい」
誰がゆかりんじゃ、などと毒づいた本心を表情に出す事無く藍は紫が指差したほうを向くと、
そこには学校帰りの女学生で賑わっているアイスクリーム店があった。
「あ゛〜〜〜〜〜、生き返るわ〜」
「紫様、ババくさいですよ」
アイスクリーム店の中、紫は嫌いなはずのエアコンの冷気を堪能していた。
藍はだらけたりしてはいないが、内心では同様の感想を抱いていた。
人心地が付いたタイミングで、店員が注文の品を持ってきた。
「ん゜〜〜〜〜〜、おいちぃ〜」
「紫様、お子ちゃまですか」
バケツと見間違えるような紙カップに詰め込まれたアイスクリームの玉。
紫は、それはそれは嬉しそうに、色とりどりの氷菓をパクついていた。
藍は微笑ましさ半分、呆れ半分の表情で主を見つめながら、
薄焼きワッフルのコーンに二段重ねに乗せられたアイスクリームをペロリ。
「ねぇ、藍」
「何ですか?」
紫は親友の西行寺幽々子が乗り移ったのではないかと思うぐらいの勢いで大量のアイスを美味しく平らげた後、
お冷を一口飲んで、携帯端末でメールを確認していた藍に話しかけた。
「これ、お土産に買ってかない?」
紫は空の紙バケツを人差し指でつついていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ん〜〜〜〜〜っ!! おいっしぃ〜〜〜〜〜!!」
「うんめ〜〜〜〜〜っ!! こりゃ、美味いわ!!」
「喜んでいただけて、光栄ですわ」
外界の氷菓子に感激する博麗霊夢と霧雨魔理沙。
そんな二人を見て微笑む紫。
夜。
幻想郷。
博麗神社。
コンクリートジャングルの外界と比べれば快適ではあったが、
幻想郷は熱帯夜であった。
夕食を終え、風通しの良い縁側で駄弁っていた霊夢と魔理沙の元に、
件のアイスクリームを携えて、仕事を終えた紫がやって来た。
藍は紫とは別行動である。
紫と同じ物を持って、彼女の式神である橙の元に向かったのだ。
「うん、美味しいわね、これ」
霊夢はしきりに感心している。
「おう、紅魔館のヤツより気取ってないし、パーラーの『あいすくりん』とも違った美味さだぜ」
魔理沙が言うように、このアイスは貴族のお嬢様が召し上がるような肩肘張った高級品ではないが、
人里の店で供されるミルクセーキのカキ氷とも異なる、庶民的な所のある美味さがあった。
「でしょ、外界の庶民の味も、なかなか侮れないわね」
お持たせのアイスを賞味しながら、紫は魔理沙の意見に同意した。
三人でいくつか食べたが、詰め合わせのアイスクリームはまだ残っていた。
あまり食べ過ぎてもいけないので、残りはまた明日頂くことにした。
お暇しようとスキマを開いた紫の背に、霊夢はボソボソと礼を言った。
「紫……、その……、ありがと」
霊夢の頬が赤らんでいた。
「霊夢ぅ、貴方のそんなところも可愛いわね〜」
紫は霊夢に後ろから抱きついた。
紫の表情は、バケツに盛られたアイスをパクついていた時のそれに酷似していた。
霊夢はより一層顔を赤くして、紫の好きにさせていた。
立てかけておいた箒を手にしながら、魔理沙は二人の様子に苦笑していた。
紫が来る少し前に、魔理沙がふざけて霊夢に紫と同様のことをしたら、
暑苦しい、の一言と共にお払い棒の一撃を脳天に頂戴したことを思い出した。
霊夢と紫のこういった態度は、しばしば二人に近しい者達に目撃されていた。
紫は霊夢に惚れている。
霊夢も紫のことを好いている。
もう、結婚しちゃえよ。
そう口にする代わりに、魔理沙はまた明日アイスを食いに来る旨をぞんざいに言って、
綺羅星を身に纏わせながら夜空に飛び立っていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
紫が帰り、霊夢が寝室に蚊帳を準備し始めた頃になって、
神社側の茂みで今まで息を潜めていた者達が、その姿を現した。
「ねえ、見た?」
「見た見た!!」
「暑い夏には、やっぱりアイスよね〜」
透き通った羽を持ち、いたずらっ子のような笑みを浮かべる三人の小柄な少女。
光の三妖精。
サニーミルク。
ルナチャイルド。
スターサファイア。
ルナのお楽しみである夜の散歩に、涼み目的と退屈しのぎに同行したサニーとスター。
暇さえあれば行なっている博麗神社の偵察を能力を駆使して行なった時、彼女達は見た。
霊夢と魔理沙と紫が、冷たくて美味そうな物を食べているのを。
「ルナ、貴方に任務を与えるわ」
「何よ、それ……」
「慎重な貴方にしかできないわ」
薄い胸を張って、無意味に威張るサニー。
怪訝な、嫌そうな表情を浮かべるルナ。
サニーの尻馬に乗っかり、ルナをそそのかすスター。
「ちょっと神社にお邪魔して、外界の珍味を拝借してきてよ」
「やっぱり……、何で私が……」
「まぁ!! この危険なミッションに志願してくれるのね、ルナ!!」
「いや、してないし!!」
「そうか、チミには期待しておるよ、頑張れ!!」
「頑張って、何らかの方法で調達してきてね!!」
「ちょ、待ってよ!!」
「巫女は今、あの部屋にはいないわ。音を消せる貴方なら気取られずに潜入できるわ」
「そう、かなあ……」
「大丈夫!! いざとなったら私達が何とかするから!!」
「失敗したら、『一回休み』になってもらうわね」
「何言ってんのよ!!」
「いや、巫女がするという意味で」
「或いは、口封じ、介錯という意味で」
「そこまでして、私を休みにしたいのね……」
「でも、私は三人でアイスを食べたいから」
「ルナが勇気を見せれば、私達は幸せになれるのよ」
「そうなのかなぁ……」
「「いってらっしゃ〜い」」
喧々諤々(けんけんがくがく)の議論の末、結局ルナが行くことになった。
押しの弱い自分を嫌悪しつつ、ルナは茂みを飛び出し、神社の縁側に辿り着いた。
「おじゃましま〜す……」
能力で音を消しているにもかかわらず、小声でそう言うと、ルナは居間に上がり込んだ。
「え〜と、目的のブツは、と……」
ルナはきょろきょろと室内を見渡した。
すると、ちゃぶ台の下に幻想郷では見かけない材質の箱を見つけた。
「これかな……?」
ルナは箱を手に取った。
見た目よりも軽い。
何だか手にしっくり馴染むような、暖かいような、不思議な手触りだった。
箱を開けてみた。
中から冷気があふれ出た。
「すごい……、温度を維持できるのね、この箱……」
ルナは感心すると蓋を閉め、この発泡スチロール製の箱を抱えて神社を急いで脱出した。
ルナが茂みに飛び込むのと、霊夢が居間に戻ってきたのは、ほぼ同時であった。
僅差で、ルナはピチュらずに済んだ。
居間の片づけをしていた霊夢がアイスクリームの保温箱が紛失しているのに気付いた時、
三月精は、既に安全な自宅に帰り着いていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
朝。
博麗神社。
清清しい空気の中、霊夢が神社の雨戸を全て開け終えた頃、魔理沙がやって来た。
「おはよう、霊夢。朝食とデザートのアイスクリームをご馳走されにやってきたぜ」
「おはよう、魔理沙。人に朝食をたかる前に、何か言うことがあるでしょ」
魔理沙は一瞬頭上にハテナマークを浮かべ、回答した。
「素敵な賽銭箱の中には、相変わらず、私が入れたゴミしかなかったぜ」
「違うわよ……って、魔理沙!! あんただったのね!! 素敵な賽銭箱に悪戯してたのは!!」
「しまった!! 薮蛇だったぜ!!」
境内でのマラソン後、竹箒で頭を数回叩かれた魔理沙は霊夢と朝食を取っていた。
「何!? アイスの箱を無くした、だぁ!?」
「てっきり、あんたがくすねたんだと思ったのよ」
口から飯粒を飛ばしながら叫ぶ魔理沙と、
平然と味噌汁を啜る霊夢。
「とほほ……、食後のお楽しみが……」
涙を流しながらも朝食を残さず平らげた魔理沙に、
「はい」
ことん。
霊夢はアイスクリームの盛り付けられた皿を差し出した。
「え!?」
「アイス自体は冷蔵庫にしまっておいたのよ」
泣き笑いの魔理沙に、霊夢は台所を左手に持ったスプーンで指し示した。
魔理沙は思い出した。
博麗神社には、主に宴会用の酒や食材を保存するための業務用冷蔵庫があったことを。
「で、その空き箱が無くなると、何か困るのか」
「困るって程じゃないけどね。それにあの箱は空じゃないわよ」
アイスクリームに舌鼓を打つ二人は、何処かに無くした箱について話をしていた。
「箱の中にはね、保冷材として、ドライアイスが入っていたのよ」
「何だ? 『乾いた氷』って?」
「何でも、二酸化炭素、だっけ? それを凍らせたものだって」
「あれ? 二酸化炭素って凍ったか? 気体のままだと思ったが……」
「私も知らないわよ。外の世界の技術でしょ、どうせ」
すげ〜な、外の世界の脅威の技術力!!
魔理沙は感心したが、はっとなった。
「ちょっと待て、霊夢さん。そのドライアイスとやらが溶けたらどうなるんだ?
液体の二酸化炭素になるのか?」
魔理沙はずい、と霊夢に迫った。
「知らないわよ。たまに紫から貰う生ものに一緒に入ってるけれど、気付くと無くなってるのよ」
霊夢は魔理沙の顔を押しのけ、そう答えた。
「じゃあ、気化したんだな……って!! やばいぞ、それ!!」
「な、何が!?」
再び霊夢に迫る魔理沙の顔。
「空気中の二酸化炭素の濃度が上がりすぎると、酸欠になるんだ!! 下手したら、死ぬ事だってあるんだぞ!!」
「へぇ……」
危険を訴える魔理沙に対し、反応が薄い霊夢であった。
「……霊夢、ドライアイスはいつも何処に置いてるんだ?」
「台所だけど……」
魔理沙は神社の台所を思い浮かべた。
風通しは良いし、居間よりも床が低くなっているため、空気より重い二酸化炭素が居住部に流れ込むことも無いだろう。
魔理沙は安堵した。
「ふう、なら安心だ」
魔理沙はとりあえず知る限りの二酸化炭素の危険性を霊夢に伝えた。
「――と、いう訳で、めまいや頭が痛くなったら、即、換気しろ、いいな」
「はいはい。でも、そんなに心配しなくてもいいんじゃない?」
「……まあ、な」
典型的な日本建築である博麗神社は、通気性は抜群で、
冬場は隙間風が吹き込むぐらいである。
換気の問題は皆無であった。
例えば、狭く密閉された場所でドライアイスが揮発したら、それはとても危険かもしれないが。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時は遡って、昨晩。
博麗神社側の大木。
その中にある、三月精の家。
博麗神社からくすねてきた保温箱にはアイスクリームは無く、
代わりに変な氷がいくつか入っていた。
「あ……アイス……」
「ごめん……、よく確認しなくて……」
「で、でも、この氷、変わってて面白そうよ!!」
「え、どれどれ、熱っ!?」
「そうなの!?」
「でも、この白いもや、冷たいわよ」
アイスクリームにはありつけなかったが、
触れないほど熱い氷を入手した三月精。
三人は知恵を絞って、この氷の利用法を思いついた。
「これで良し」
「これで氷が溶けるまで、涼を満喫できるわけね」
「幽霊を使った時みたいに、凍えることも無いわ」
三人は天井を見上げた。
そこには、変な氷が入った籠が吊るされていた。
冷気が籠の隙間から下りてきている。
三人は、その真下に寝床を準備した。
涼しい場所で快適な眠りを得るためである。
「では、明日も元気よく遊ぶために」
「明日も変わった物を見つけるために」
「明日も、二人が面白い目に遭うのを見るために」
「「「おやすみなさ〜〜〜〜〜い」」」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今年の夏も色々あった。
異変あり。
夏祭りあり。
宴会あり。
博麗神社はいつも賑やかであった。
霊夢は毎日忙しく働き、修行して、暇を持て余したりもした。
今年の夏、三月精が姿を見せる事は無かったが、誰も気付かなかった。
いや〜、毎日暑いですね〜。
暑いから、こんな話を突発的に思いついてしまいました。
……いい加減、百物語も書かないと……。
2011年8月30日(火):コメントの返答追加
>1様
産廃なのに甘っちょろい話を書くのは、私の仕様です。
>2様
スネェクッ!! スネェェェェェェェェェェクッ!!
>3様
おお、それはロマンチックですね。
でもなんか、種子や苗を冷凍保存しているみたいですね。
NutsIn先任曹長
作品情報
作品集:
28
投稿日時:
2011/08/13 22:12:05
更新日時:
2011/08/30 01:08:05
分類
紫
藍
霊夢
魔理沙
サニーミルク
ルナチャイルド
スターサファイア
アイスクリーム
被害者が妖精なあたり作者さんの優しさを感じます
もしなくて、永遠にそのままだったりするんだろうか。
ドライアイスといえば水に入れてボコボコしたりして遊んだものです。考えなしに顔を近づけたりもしてたけど、結構危なかったのかしら…