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『楽園の崩壊は飴色の夢へ』 作者: ゼムクリップ
※以前創想話に七鍵浮海と言う名で上げたSSの改訂版です。
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瞳。
ぽつりと瞳が。
何の瞳だろうか?
目を凝らして見る迄もなく。
其れは人形の瞳。
その瞳に仄めく光の波が結んだ形は私だった。
今私が視ているのは人形の瞳。
……いや、そうなのだろうか?
戦慄の様に惚けた空虚が私の朧気な意識を崩す。
――ああ。わからないのだ。……何故だ。暗いからか?
とにかく昏い……昏くて仕方無い。
その瞳は黒くも無いのに酷く鬱屈に暗然としている。故に私を見つめていない。
その瞳に焦点は在るのだろうか?
……見えない。或いは私が視ないだけか……。
吸い込まれそうになる程に純粋な闇。
黒は様々な色が混ざり合って出来る色。故に正しく混沌。純粋から浮かんだ泡沫の混沌にて終には虚空へ昇る。
黒。それは見えない物。絶光の盲目。それは存在していないことの象徴であり、知らないことの象徴でもある……。
故に黒色に染まった夜の海は夥しい色彩が混じってうみだされた混沌だ。
私達は非存在に対して夥しい程の想いを馳せる。
今に無い未来に対しての願望、今に亡き過去に対する哀愁、喪失物に対する執着、現にナき存在に対する空想、認
識外の何かに対する想像。
混然と其等は闇の中に存在している。闇に対する想像の中に。其は盲目の瞳が光を求めたからだ。
餓えた様に、貪欲に、平然と想像は晏然を求め、空虚な其れが実在だと信じて闇を視る。
見得ないモノに対する想像とは……。
――闇だろうか?
例えば、何か恐ろしいモノに対する想像の畏怖、畏敬、恐慌……。
そしてそれが生み出す結果は……。
果たして何故私たちは想像に踊らされるのか?操り糸の動きも知らぬ人形の様に。
或いは想像こそが本質で、実在など空虚なものでしか無いかも知れない。
普段気にも留めないような事が、月明かりも無い妖怪でさえ忌避する「夜」では、膨らみぼやけて海の様に茫洋
と世界を覆う。……。
私の視ていた人形の瞳がその「夜」に沈むのを見た。あの瞳は、何時か私が創るのだろうか。
創って忘れ無意識に落ちたのかも、瞳に対する無意識の願望かも、私には見得ない。
世界は何時しか飴色に溶けていた。
空も海も飴色のスープだった。
足元の海の飴色で、或いはスープに浮かんだ空の飴色で、私の知らない異形の無形が無数に空を浮き、飛び交い、侵
し、侵され、地に蠢き、走り、奔り、海を沈み、泳ぎ、望まれ、壊され、棄てられ、貪られ、生き、蔓延り、拉げ狂い
結局飴色になって崩れるのを傍観する。
未来も、過去も、ここでは何もかもが、在る。
失ったものさえ、形は忘れれば忘れるほど。色は褪せれば褪せるほど。ここでは鮮明な飴色となって存在する。
ここは何処だと言うのか、……。ここは……。
その答えを求めると、今でも私が未練を残すあの頃の風景が呼び声を上げる。
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目が覚めた。
夏の蒸し暑い大気が、あまり陽の射さない魔法の森にも染み込んでいる。
覚醒した思考は微睡に対する心残りを急激に冷まして日常への復帰に勤しんだ。私達は己の中だけでは生きられない。
考えに溺れる前に、必要なのは行動なのだ。
聴覚が清涼な朝風にざわめく木々の薄い音を捉えながら、螺旋の階段を上る様に覚醒を始めた。
今日も1日が始まる。
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着替えに食事を済ませ、深い夢の世界から投げ出された後のぼんやり混濁した意識はもう明瞭としている。
確か今日は人形劇をする予定の日だったか。
自律人形の研究も当初の目標は愈完成間近と言う事もあり、殆ど森から出る事も無く形影相伴う生活を送るよう
になっている私にとって僅かばかりの外界との接触だ。
家事労働については予め式を組み込んでおり人形を操る必要もなく、自ら操る機会は無い。
しかし、人形は定期的に自分の手で遣わないと、幾ら持ち前の器用さや知識があろうと技術が劣化しまうものだ。
勿論独りで操るのもいいが、より完璧な操作技術を望むのならば、人の目が在る方が気が引き締まる。
そもそも自分は観せるという事に人形を操る事に対する意義の一つを感じている。
それにあまりにも籠りきっているのはデメリットが多すぎる。
人形しか居ない、人形だらけの人形尽くめの生活は、そもそも人形が自分にとって何であるのかという人形遣い
の本質に対するアイデンティティが失われてしまう。
……アイデンティティとは、つまり本質。
私は何故人形を創り、遣うのか?
自分の本質……。
人形の要素や関係するもの等を並べれば、キリなど無いと言える。
余りにも複雑な要素を持っているものだから、時間が許すなら様々な性質の人形を創れる。
人形とは人間を模して造られる。
わざわざ人間を模して作られたのだから人間に関係した目的を持って生まれてくるのは大凡道理だろう。
一般的に人形の精巧さが増すほど、労力をかけるのだから、人形を創った目的に対する人間の願望は強い物とな
っていく。
人形が人間に近付くほど願望は人間に関連した物になる。
しかし、人形は人間ではなく人形なのだ。そこには境界がある。
願望に対する、人形と人間の境界。
その境界が人形の本質……とも言えるかもしれない。
しかし、目的に反した使用や目的の忘却、目的の達成失敗による新たな目的などもある。創られた目的だけが人
形の本質を表すわけでは無いのだろう。
過去未来現在、人形の目的とは様々な変化を起こす可能性を持ち、人形自身にさえその目的など解りきらないだ
ろう。
人形とは人と比べ遜色無い程、或いは人以上に複雑な性質を持ったモノにも創られ得る。そこに本質を見出すこ
となど不可能だ。
そして、寿命の無い魔法使いならば、幾らでも時間がある。
だからこそ、人形に対する本質を自分で定めなければ、人形に対する願望は、強大な筈の恒星の輝きが無数に存
在していようと数百分の一も照らしきれない、あの暗黒の夜空のように、地平水平さへ飲み干す茫の海と迄なって
……。
……その中に、自らの本質の具現を視出してしまうだろう。
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人里で人形劇を済ませ、特に用事も無く散策していると、近頃では一番よく見る顔を見かけた。
人形劇の常連だ。
話しかけてようとして近付くと向うもこちらに気付いたようだ。
駆け寄って来るのはよく人形劇に顔を見せてくれる少女だ。
億劫を捩じ伏せ、重い首を傾ければ私にも見える、あの眩い熱球からの肌を焦がす日射も気にすることなく駆け
寄って来る彼女の表情は溌溂としていて曇りも陰りも欠片程さえ無い。
屈んで迎えると、そのまま私へ抱きついてくる。
「人形遣いさん。今日はお願いが在るの」
私はにこやかに微笑み少女を促す。私は此処にいるのだ。少女も此処に居る。私は人形遣いとして、少女は観客
として。その確かな事実が私の持つ希望と安心だ。変わっていく劇の場面の流動の中でも一貫して変わらない何か
を私は欲す。
「私を弟子にしてください」
しかし少女は願う。人自体は変わらない何かに為れないのだ。随分と前からそんな気配は在ったので私は些細な
準備をしてきた。
「できないわ。弟子は取らないと決めているの」
そしてポケットから飴玉を出す。
「ごめんね。この飴玉で我慢して」
飴の色は深紅に咲いて、深く濃い爛れそうに魅力的な色合で出来ている。ああ、この飴玉の甘さは子供の夢を優
しく溶かすのにはには十分なのだ。
少女は夕闇の空を映す飴玉を手に仕方なしに微笑み手を振ってあの赤い地平に消えて往く。
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暮色蒼然を過ぎ去り辺りは既に暗くなっていた。
今日の夜は月が雲に隠れているらしい。
照明の魔法を使い、人里を出て空を飛び始める。宙に浮き、地面から離れると、静けさの中を波の様に風が伝う
のを良く感じる。
随分と深い夜だ。体を照らす照明の灯しが弱弱しく揺らめき、今直ぐに闇へ溶けて消えてしまいそうに思うくら
いだ。
薄明かりのもと闇の帳を浮かび往けば、ふと、その中に懐かしみを感じる。
何時も目を閉じる時、毎日夢を見る直前、夕暮れ時の空の蒼さが地平にて赤く揺蕩いながら微睡み終えた時など
は、この夜闇が記憶や心理の中で其等の時間と繋がっているのだろうか。
静けさは緩やかに無音へと降りて行く、心理の下層へと続く螺旋階段を下る様に。
浮遊は感覚を浮かせる。――そして、意識を下降させる。
こんなに心地よい夜を、何時から私は知っていたのだろうか?
……深層へ蕩ける意識の最中、ふと意味も無く闇の一点を見つめ、そして意味を求めて幻視した。
「夜」の意味を。
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朧影がぼんやり石畳の道に染みて、響く足音が囁きだした。
視界が辺りの様相を把握していく。
薄暗い石畳の道が茫然と、光が霞み果てる常闇の淵へと続き、道の両側には懐古を誘う香りの漂う、枯れ木に見
た事も無いのに視界に馴染む外観の高木が木の葉を散らし立ち並ぶ。
疎らに置かれた木製と石製の長椅子の上には、所々部分の欠けた人形が雑然と置かれている。
良く見渡せば中には欠けのない人形もあり、道の上には疎に欠けた部分が落ちている。
その道を魅入る様に突き進むと、人形の様相が次第に変化していく。
選び抜かれた様に数を減らし、精緻さを増して人間の死体の様な、けれど死体とは違った生気の無さを帯び始め、
私はより一層魅入られる様にして、瞳を開き、常闇の終焉を腑分けする様に、この景色を堪能し、その弥果まで
を視容れんと、ゆるりと歩む。
人形の顔が次第に脳裏に揺らめく無意識のイメージの海に浮かぶ、 に噛み合う様な何かに変わっていく。
その先、その先へと、全身がそれを求めて止まらない。
そしてその衝動が――
――終を幻出させた。
突き進めば収束するように疎らになっていった人形はもう数えるまでも無くなっていた。
その道の終わり、石畳は「神社」の鏡台となっていた。
その先に、私の求めた「モノ」が在った。
懐かしかった。
どうしても、過ぎた過去と割りきれていなかった。
何しろ、あの頃はそれが当たり前で、それが消えてしまう事に興味なんて懐かなかった。
いや、懐けなかった。その想像をしなかったのだから。それが良いと思い、選択を誤った。意識的には蟠りなど
なかった。しかし、無意識に浮かぶ自分の気持ちは、その決断を消えない罅の様に記憶していたのだろう。その罅
は積み重なった日々に隠されること無く、逆にその重みが致命的なまでに、罅を成長させた。
石畳の上に立つ紅白の衣装を着た彼女は何時もの様に箒で掃除中なのだろう、此方に気付いて。
「あら、アリス。久しぶりね」と話しかけて来る。
近付いて話しかけようと言うのに、その境内に揺らめく闇が、肝心の彼女の貌を昏迷のベールのように覆い隠して
いて、私は焦った。
手を突き伸ばす。
顔を見たい。
その顔を。
答えを。
手を、
伸――
――道を照らす照明の魔法が、ざわめいた風に薙ぎ払われ、かき消えた。暗転。
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……、
……。
道を歩いていた筈が、あまりの暗さに何も見えなくなってしまった。
無明。ただ、暗暗と奥行きの掴めぬ漆黒の闇が広がっていた。
寒々しさを感じた。風が、肌を梳く様に通り抜けたのだった。
後ろも前にも何も無い。
……帰らなければ。
方角を確かめ歩みを速める。早くこの暗幕から抜け出してしまいたかった。
淡々と、歩み続けて居たアリスだが、何時までも何も見えないと、何処からか不安が忍び寄って来る。
忍び這って来る其の盲目な恐怖から目を逸らす様に、アリスは掌をキュッと丸く握り、更に歩みを速めた。
早く帰ろう。
この夜は何だか異様だ。何が異様なのだろう。
――しかし、歩みを進める内に、アリスは脳裏に浮かんだその違和感を、始めから無かったかのように忘れた。
忘れるという過程さえ有ったかも怪しい程、完全に。
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……次第に、歩みは速くなってくる。自分でも気付かない、無意識の内に。
対応して、息が荒くなってくる。呼吸が途切れがちになる。
何時までも外界から刺激を受けず、ひたすらに同じ行動を繰り返すのは苦痛だ。
それは行動を制限されているも同然で、閉塞感が次第に意識へと溢れ出て繰る為だ。
しかし、アリスはなお集中して居た。
此の闇は酷く厭な予感がする。まるで外からでは無く内側から呑み込まれてしまいそうな闇。
此の闇は、無明は、捉え処の無い―正体不明―は、何処を見渡しても変わりなく一色だ。
自分の手も、足も見えない。
陽を反射し輝く金糸の髪も、衣服も、靴も、鼻先も。
いや、ただ闇に染まっているのだ、全てが、闇に。
覆い隠し、理解を断絶させる「闇」に。
そうして闇と交わり、否が応でも闇を注視せざるを得ない状況に追い込まれると、自らの内の闇が心を覆う茫洋
たる無名の海のように、正体不明の隣人として、常に己の背に凭れかかっていた事を、ふと初めから知っていたか
の様に、事実として心に刻まれているのを目の当たりにしてしまう。
内の闇、理解の外、意識の外、つまり無意識。
そして、■■へと繋がる■■を―
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――何時の間にやら、コツコツと、響いて居た筈の足音が聞こえなくなっていた。
アリスは肌に粟が立つ様な閉塞感を覚えた。気が付かなかった。
何時の間に聴こえなくなっていたのだろう。
肌に刺す寒気も消失している。
無。全てが認識できなくなっていく。
これでは世界に自分しか居ないのと変わりない。
息を吸う。
しかし、肺が空気を取り込む感覚も失っている。闇だ。
これでは本当に自分が息を吸っているのかさえ判然としない。
音も、香りも、感触も、確かめてみれば味覚まで、一つの色彩に覆い隠されている。闇。
しかし、其れは最早「黒」では無かった。
それ以外に何も無く相対性を失った其れは、色彩としての特徴、役割を果たせずに色としては成立していない。
ただ純粋な闇。概念そのものに限りなく等しい闇をアリスは視てしまった。
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闇の中、見覚えのある腕が出てきた。
懐かしかった。柔かく、快活そうで、在るのが当たり前の様によく見た事のある手だ。
古い、知り合いの魔法使いだった■■■の腕だ。
腕の先、
彼女は当たり前のように笑顔を浮かべる。
しかしその顔は良く分からない。表情は解るのに。
彼女は当たり前のように、
「喉が渇いたな。アリスの家でお茶でも飲みたいぜ」と言い、手を差し伸べてくる。
私がその手を取るとそこは魔法の森で、彼女は私の元から消えて、私の家のドアに手を掛けている所だった。
慌てて彼女に続く様に自宅へと入る。彼女は部屋の机の上に、持参した茶菓子を広げ、私に笑顔を向ける。
私は彼女に紅茶を入れようとした。
視線を手元に移し、そこで、彼女の手が球体間接を持っているのに気が付いた。
■■■は私が作った。■作目の自律人形だ。
■■■をモデルにしたもので、■■■が生きている日常を望んだ結果だった。
もう一度彼女の顔を視る。良く分からない。表情は解る。
けれど、そもそもまだ作ると決まっていない彼女の顔は知ってはいけないものだ。
そう思った瞬間、■■■の良く分からない顔は全くの無明となっていた。周囲の闇と同質の闇。これは私が知ってはいけな
いモノだった。
ああ、その通り。未だ、知ってはいけないモノだ。
しかし、私は其れが何か次第に理解し始めていた。
その理解は、恐らく此の闇夜から離れれば消えてしまうモノだろうという事も。
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其れは何時も自分と共に在り、己の意識の外から己を包む無限に広大とも無限に矮小とも言える「何か」だった。
其れは自分にとっての正体不明そのもので、日常では無明長夜の無意識の内を無意味に浮かび此方を見据えている
だけだが、瞼を閉じた時、得体の知れないモノに触れた時、には意識の淵に這いずり上がり己の一側面を常に曝け
出していた。
真で在るが自分には真偽が判明して居ない命題として、定まっていない自分の未来として、無意識として、掛け
替えの無い過去として、「自分」以外の「全て」として「「矛盾」も「無矛盾」も」含み、闇の中、抉られた様に
、??と存在している――闇夜。だった。
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其れを理解した時、目覚める様に意識が切り替わり、アリスは駆け出した。闇から離れた。光を求め、想像した。
薄明るく。薄暗い、月明かりを。選択した。過去でも無く、理想の明日でもない、ただ漠然と何時も通りの明日へ
と続く、今を。
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そして、目が覚めた。
季節は冬であり、雪の飛沫を孕み白々と揺れる風の波に軋む窓の音が第一に其れを示唆した。
枕元には一体の人形が落ちている。
人形の手には――
――胡蝶夢丸の箱が掴まれていた。
ああ。
そう言えば寝る前には既に切れかけていた。もうこれで入って無いだろう。
そろそろ、紛わすのも限界だ。早く、完成させねばなるまい。
さもなければ私は、抑圧してきた無意識に呑み込まれて壊れてしまう。
人形遣いが、過去に刻まれた願望から人形を望み、人形を創る為にだけの存在になる。
まるで操り人形の様に。
私は其処に未だ意味を見出せない。もう過ぎ去ったものなのだ。けじめはつけた筈なのに。一体何だと言うのだ
ろうか。過去が闇になって未来を覆う。夜から夜への繰り返し。未来なんて其処には無い。過去から過去へ過去へ
過去へ。そして私は閉じ込められるのだ。劇を演じる人形の様に劇の中へと。その劇は何の意味が。
全ては日と日の交差する夜にて訪れる一瞬の夢にしか過ぎないのかもしれない。
ぱちりぱちり。暖炉が薄暗いこの部屋を、不均一に照らしている。
夢の内で少女へ渡した飴の色が、暖炉の中で灰への崩壊を導いていた。
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ゼムクリップ
作品情報
作品集:
28
投稿日時:
2011/08/15 12:25:24
更新日時:
2011/08/15 21:25:24
分類
アリス
本当に、貴方の楽園崩壊話はリアルに生きる私に色々と教訓を与えます。
文節の境界はインジケータになっているようですね。
ぺろり、ぺろぉり。
甘いかい?
美味しいかい?
兎穴に堕ちたお嬢ちゃん。
楽園のキャンディ。
たんと召し上がれ。
……そうかい、そうかい。
では、お帰りな。
ビールの苦さを。
ウィスキーの奥深さを。
日本酒の伝統を。
ワインの瑞々しさを。
大人の味を愛する女は、
疾く、お帰りな。
甘い、甘ぁい、淀んだ夢のセカイから。
酸いも甘いもたんとある、辛い現実へと。