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『産廃百物語A「ようせいかくし」』 作者: NutsIn先任曹長
「ねえ、『ようせいかくし』って、知ってる?」
博麗神社側に聳える、外界より取り込まれた大木の『中』。
そこに住まう光の三妖精――通称『三月精』。
夕食の席で、晩酌でほろ酔い加減になったサニーミルクは他の二人にそう話しかけた。
「何よ、それ?」
怪訝そうに尋ね返すルナチャイルド。
「まあ、何かしら?」
サニーをいじるネタになりそうだと、明るい顔で両手を合わせるスターサファイア。
「怪談話には、ちょっと時期が早すぎるんじゃない?」
ルナの言うとおり、今は命の芽吹きがあちこちで見られる春だ。
「いいじゃない、私は時代の最先端を行く妖精なのよ」
「さすが流行に敏感なサニーね」
「そうかなぁ……?」
調子に乗るサニーは、
スターのヨイショに気を良くし、
何か釈然としないルナを平然と無視した。
「巷で噂になってるんだけれど……」
少し溜めを入れ、猪口をぐいと呷ってから、サニーは話を続けた。
「最近、妖精が姿を消しているんだって」
「ひ……」
ルナは、小さく悲鳴未満の声を上げた。
「まあ、怖い」
スターは両手のひらを両頬に当て、オーバーなリアクションで怯えて見せた。
それはまるで、天○茂が名探偵、明智○五郎を演じたドラマに登場する女主人のようだった。
「それには前兆があってね……」
「何……?」
「……(わくわく)」
「弾幕が目撃された後に、その側にいた妖精が消えたんだって」
夕食を終え、食後のお茶をスターが何らかの方法で調達してきた饅頭と共に頂く三月精。
「それって、『一回休み』になっただけじゃない?」
「……あれ?」
「『ようせいかくし』の正体見たり、弾幕ごっこ……といったところかしら」
以外でも何でも無い事実に落胆するサニー。
ホッとしてお茶を啜るルナ。
ニコニコしながら二人の湯飲みにお茶を継ぎ足すスター。
「ちぇ〜っ、人間が話しているのを聞いたから、『異変』かもって思ったのに……」
「『異変』!? 起こすのはいいけれど、巻き込まれるのは御免よ!!」
「ねえ、サニー。この話、誰から聞いたの?」
「え? え〜と、いつも野菜を(勝手に)貰っている畑のお百姓さん達だけれど……?」
サニーの答えに、スターの頭上に幻想入りした白熱電球が点灯した。
「ねえ、だったら……」
「「?」」
次の日。
午前。
農作業をする人達が小休止を取っている僅かな時間。
三月精は間隙を縫って手に入れた大量の戦果を、
手に、担いだ籠に、背負った風呂敷包みに担い、
ホクホク顔で凱旋していた。
「いや〜大量大量!!」
「凄いわね、スターの予想がドンピシャ!!」
「でしょ〜」
大量の、それでいて注意して作物の数をチェックしなければ分からないぎりぎりの量。
キャベツ、アスパラガス、青々とした豆。
新鮮な春野菜の数々。
サニーの話を聞いたスターは、
妖精の数が減っていると人間が認識しているということは、
人間の妖精に対する警戒心が緩んでいるのではないか?
スターは、妖精の被害に悩まされている農作業従事者の発言であることに注目し、
朝食後、皆で行きつけの畑に様子を見に行ってみた。
十時頃だろうか、農作業をしていた人間達がぱらぱらと畑から出て、一服し始めた。
通常であれば、交代で休憩を取るはずが、皆一斉に寛ぎだした。
三月精がそれを把握すると、直ちに野菜の収穫を勝手に行い、極秘裏のうちに大荷物を抱えて撤収した。
途中でルナがこけたが、人間が鍬を持って追いかけてくることは無かった。
三人はご機嫌だった。
これでしばらくは危険を冒して野菜盗りに行く必要が無くなった。
もう、三人の頭の中は、野菜をふんだんに使ったご馳走のことでいっぱいだった。
春野菜は豊作だった。
三月精にいくらか盗まれたことに気付かないほどに。
何と言っても今年の春は、
春告精の弾幕の暴風雨が畑に降り注がなかったことが、一番の理由だろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「は、春……、はる、ですよ……」
白い衣装を泥まみれにして這っている少女。
春告精のリリーホワイトであるが、それはとても正視に耐えない酷い有様だった。
背中の羽はボロボロ。
帽子はどこかに無くしてしまった。
花のかんばせを思わせた笑顔は消え、ただ疲労と苦痛と絶望しかなかった。
当然、自慢の春告げ弾幕など撃つ気力などとうに尽きた。
リリーはただ、春をもたらそうと、漆黒の大地を這った。
「は、る、で、す……、げほぅっ!!」
びちゃっ!!
不毛の大地に鮮血が飛び散った。
リリーが迸らせた生命の紅い雫も、草木一本生えない土の肥料にはならなかった。
「ホワイト!!」
リリーと色違いの黒い衣装を纏った妖精の少女が、リリーの側に駆けつけると、
その場にしゃがみこみ、いや、崩れ落ちた。
「お、お姉ちゃん……」
リリーは黒衣の少女を見て、久しぶりに笑顔を見せた。
黒衣の少女は、リリーホワイトと同じ春告精である。
黒い服を身に纏っているところから、彼女はリリーブラックと呼ばれている。
彼女達は姉妹の契りを結ぶほど親しく、人間のそれと同じかそれ以上の絆の強さを見せた。
ブラックは何とか身を起こすと、ホワイトの半身を起こし、膝枕した。
「ホワイト!! しっかり!! 春が来ないわよ!!」
陽気なホワイトに対し、冷たいところのあるブラックではあるが、
今、彼女は涙を流し、息絶えようとしている妹を懸命に励ましていた。
「は……、る……」
「ホワイト……? ホワイト? ねぇ、寝ちゃったの?」
ブラックは目を見開いたまま呼吸も鼓動もしていないホワイトに、ただ呆けたように呼びかけ続けた。
「ホワイトッ!! ねえ、起きてよ!! こんなところに私を独りぼっちにしないでぇ!!」
ついには号泣しながら叫び始めるブラック。
「嫌、嫌、嫌あああああっ!! っ!? ぐ、げぼぉっ!?」
ぶぼぅ!!
ブラックもホワイトと同様に血を吐いた。
ブラックもホワイトと同様に体力の限界だったが、
ホワイトを思う一心でここまで頑張ったのだった。
遂にブラックの命も終わろうとしていた。
もう吐き出すほどの血は無い。
だが、まだ流す涙は残っていた。
無念の表情を浮かべたままのホワイトを見ながら、
恐らく自分も同じ顔してるんだろうなあ、とぼんやり思い浮かべながら、
最後の一言、
「春……、です、よ……」
を言い切って、
ブラックも、死んだ。
二人の妖精の死体は、光の粒子となって消えていった。
この、
死の大地に、
春は、来ない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ひ〜〜〜〜〜っ!!」
「きゃ〜〜〜〜〜っ!!」
「わ〜〜〜〜〜っ!!」
初夏の草いきれの中、
三月精は紅魔館から走って逃げ出した。
ナイフをぶん投げてきたおっかない人間のメイド長は、門からは出てこないようだ。
三人が振り返った紅魔館の門前では、
瀟洒に怒りをたたえたメイド長が仁王立ちし、
頭にナイフの刺さった門番が横たわっていた。
「はぁはぁはぁ、怖かった……」
八重歯むき出しで大口を開けて、荒い呼吸をするサニー。
「『私にいい考えがある』って言ったのはだれだったかしら……」
転んだときに擦りむいた膝小僧を気にしているルナ。
「言い出したのはサニーで、反対しなかったのはルナよ」
自分がそそのかした事はおくびにも出さないスター。
セレブの生活をしたい、などとサニーが抜かした事が、事の発端であった。
三人が思い浮かんだのが、湖の側に聳え立つ洋館、紅魔館であった。
警備はザルだから潜り込むのは簡単だ。
後は以前の紅魔館別荘化計画のようにメイド妖精に変装して潜伏し、
豪華な食事やお菓子を盗み食いして、
あわよくば、館を乗っ取ろう。
早速、紅魔館に易々と潜入した三月精であったが、
使用人用の更衣室で速くも計画が頓挫した。
以前、三月精がメイド妖精に変装して館内に潜り込んだ事をメイド長の十六夜咲夜は憂慮し、
メイド妖精達のロッカーや制服の保管庫に鍵をかけたのだ。
三人は開かないロッカーでもたついているうちに咲夜に見つかり、
無数のナイフに追い立てられ、紅魔館から追い出されたのだった。
とぼとぼと博麗神社の方に向け歩き出す三月精。
「これからどうする?」
「チルノと弾幕ごっこでもする?」
「でも、最近、見かけないじゃない」
人間のような『文明的』な生活を送っている三月精は、他の妖精と一線を画する存在であり、
それゆえ一般的な妖精間の付き合いが希薄であった。
そんな中で彼女達に突っかかってきた氷精がチルノである。
彼女は分不相応な氷結能力を持っていた。
これは蛙から弾幕まで、何でも行動停止(フリーズ)に追い込めた。
以前の『妖精大戦争』では、サニー、ルナ、スターを相手にして、
一対一どころか三対一でも見事に斃し、
何でもあの異変解決人の霧雨魔理沙をも下したとか。
――スペルカード・ルールのレギュレーションによるハンディキャップ付きではあったが。
チルノは愚直――悪く言えば『バカ』――なところがあり、
遊びにはいつも全力投球だった。
例えそれが弾幕ごっこだろうと。
例え対戦相手が紅白巫女だろうと。
だから、チルノがいないのは、
大方実力者に挑んで『一回休み』になったのだろう、
というのが三月精の見解であった。
湖のほとり。
氷の塊があった。
これは、チルノの住居であるイグルー(氷のブロックで作ったかまくら)の成れの果てである。
日の当たらないところに建てられたイグルーは、溶けて崩れていた。
いくら日中が汗ばむほどの陽気だといっても、
冷気の源である住人が長期間留守にしなければ、こうも崩壊しないだろう。
湖上で戯れる氷精と大柄な妖精が見られなくなって、
もうどれくらいになっただろうか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「チルノちゃん……、チルノちゃ〜〜〜〜〜ん!!」
氷の中に閉じ込められた大妖精は叫んだ。
「ぐっ、ぐぐぐ……っ」
チルノは大妖精を外に出さないように、全力で氷の厚みを増そうとした。
闇に包まれた不毛の荒野。
自然の恵みの無い、死の大地。
ありとあらゆる生命は、倒れ伏すしかない。
「ごはっ!!」
べちゃっばちゃっ!!
チルノが吐き出した血が氷にかかった。
大妖精はそれを絶望的な面持ちで見ていることしかできなかった。
「チルノちゃん!! もう、止めてっ!!」
穢れた空気から大妖精を守るべく、チルノが生成した氷のシェルター。
もう大きくするどころか、維持することも覚束なくなってきた。
「だ……、だいじょうぶ……。あ、だい、さい、ぎょ……う……、だから……」
氷の羽がすっかり朽ち果て、ボロを身に纏ったチルノは、
血塗れの口を拭うこともせずに、ただ、氷に触れた両手に念を込め続けた。
友達を守るため、誰か!! あたいに力を!!
氷の溶ける速さが、ほんの僅か、遅くなった。
大妖精は今すぐ親友であるチルノの元に駆け寄りたかった。
だが、氷の中は棺桶の如く身じろぎすることもできない狭さで、
自然力の無いこの土地では、大妖精の特技である瞬間移動が発現できなかった。
しかし、大妖精の願いは、大した時間がかかる事無く、叶うこととなる。
ぴしぃ!!
大妖精を封じ込めた氷にひびが入り始めた。
つまり、氷を維持していたチルノの命が尽きようとしているのだ。
「ち……、チルノ……、ちゃん……?」
ずる、ずる……。
血に彩られた氷に触れていたチルノの両手。
それが、十本の線を描きながら、下方に移動し始めた。
チルノの小さな身体が完全に地面に伏した時、
ぴし……、ぴし、ぴしぃ……。
ぱーーーーーん!!
ついに、氷が崩壊した。
穢れた大気にその身を晒した瞬間、苦痛が大妖精を襲った。
「ぐあっ!? ごふ」
大妖精は両目を見開き、両手で口を塞ぎ、
何とかぶちまける吐血を少量で済ませた。
チルノちゃんは、こんなところで、こんなに頑張って……。
そのチルノは、汚らわしい大地にうつ伏せになって、痙攣していた。
大妖精はチルノの元に駆け寄ろうとして、そのまま倒れた。
チルノほど生命力の無い大妖精に、早くも限界が来たのだ。
幸い、倒れた大妖精が顔を横に向けると、
白目を剥き、涙と吐血を垂れ流しているチルノの顔を拝むことができた。
「チルノ……、ちゃ……ん……」
「だ……い……ちゃん……、あたい……さい……きょ……う……」
「う、ん……、しっ……、てる……」
「そ……、……」
チルノと大妖精。
二人は苦悶に満ちながらも、
どこか幸せそうな表情を浮かべ、
ほぼ同時に、消滅した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ピ〜クニックッ、ピクニック、ランランラ〜ン!!」
「花に囲まれて良い場所ね、ここ」
「夏はやっぱり、バカンスよね〜」
三月精は、夏の日差しを浴びた無数の向日葵の咲き誇る、太陽の畑に遊びに来ていた。
「早速お弁当にしましょう!!」
お天道様は、丁度真上に来ていた。
向日葵畑の開けた場所にレジャーシートを広げ、
バスケットから三人で拵えたご馳走を取り出す。
「でも、ここって夏場は……」
『あの』、風見幽香の縄張りじゃない?
そう続くルナの言葉をスターは遮った。
「大丈夫。生命反応が一つあるけれど、それはほら、あんなに離れているから」
スターは生体感知能力で、自分達以外で脅威となりうる反応のある方向を特定した。
スターが背伸びして指差した方角。
そこにはこじんまりとした家の屋根が、向日葵畑の中から覗いていた。
「なら大丈夫ね。噂に寄れば風見幽香って、あまり足は速くないそうだから」
「ここなら私達の足でも逃げ切れるわ。ルナがこけなければね」
「そうかなぁ……?」
確かに風見幽香の機動性は低いが、
彼女達は幽香の十八番である、
長射程で脅威の破壊力を誇る二連ビーム砲の存在を失念しているようであった。
でも、まぁ、
結局何も起きないまま、三月精の楽しいピクニックは恙無く終了し、
三人はご機嫌で帰路に着いた。
向日葵畑にぽつんと建っている、
夏場、風見幽香が過ごす庵。
その玄関前。
巨大な鎌を壁に立てかけ、帽子を顔に被せて昼寝をしている少女がいた。
よく昼寝をしている死神のような鎌の持ち主である少女。
その気配は、どことなく、
よく昼寝をしている紅いお屋敷の門番と同じく、
主が留守にしている住居を守る、誇り高き番人のそれに似ていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
にょき。
にょきにょき。
にょきにょきにょき……。
しおしおしお……。
「ちっ」
四季のフラワーマスター、風見幽香はイラついた。
彼女の『花を操る程度の能力』を以ってしても、
幻想郷最強の一人である彼女の妖力を以ってしても、
このクソッタレな大地に色とりどりの花々を咲かせる事ができない。
つぅ。
幽香の額から汗が一滴、流れ落ちた。
だが、幽香は拭わない。
気にしている暇は無い。
どの道、拭うことはできない。
「くそっ」
幽香の顔には、
博麗の巫女や幻想郷の管理人といった強者と弾幕ごっこを嗜む時の不敵な笑みも、
丹精込めて育てた花が開花した時の慈愛に満ちた微笑も無く、
ただ、
無力を認めようとしない、
無駄な努力に挑み続ける、
無茶をしまくった女の、
目だけをギラギラさせたやつれ顔が張り付いていた。
「おらっ!!」
幽香は腕を振るった。
愛用の日傘は持っていないので、
直接、純粋な『力』を腕に込め、
力任せに、振るった。
にょき。
にょきにょき。
にょきにょきにょき……。
どうせ直ぐ枯れるであろう芽吹きを、
何十、何百、何千回行なっただろうか。
でも、幽香は続けた。
荒野を花畑にするために。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
実りの秋。
三月精も美味い物を頂く秋。
三月精の自宅。
サニー達は、人里から何らかの方法で入手した秋の恵みを前に腕組していた。
「マツタケご飯、決まりね」
サニーは、たった一本、光波偏向能力で姿を隠して入手したマツタケを捧げ、宣言した。
「え〜、せっかく栗、取ってきたのに……」
ルナは、イガを外された栗が詰まった籠を前に、憮然としたような、困ったような顔をした。
「栗ご飯は明日以降にしましょう。とりあえず、今日は味見に焼いていただきましょう、ね」
スターは、消沈したルナを慰めつつ、甘柿の皮を剥いていた。
「でも、がっかりよ」
「うん……」
「秋祭りが中止、なんてね……」
秋のお楽しみ、秋祭りが今年は中止になったのだ。
何でも、お祭りの主賓である実りの神様と紅葉の神様が出席できないとの事で、
秋の姉妹神がいない祭りなど意味が無いので中止となったそうだ。
「お祭りが無いなんて……、神様のバカ〜!!」
「サニー、バチが当たるわよ」
「今、留守だからいいんじゃない?」
お祭りの屋台から食べ物をくすねる事を楽しみにしていたサニーの叫びは、
秋の神がいなくても赤く色づいた博麗神社の杜に轟いたのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「駄目?」
「駄目ね、姉さん」
はぁ……。
秋の神、秋静葉と穣子の姉妹。
神の力を以ってしても、
不浄の大地に恵みを宿らせることは能わなかった。
静葉が分厚い手袋越しに地面に触れても、
かろうじて生えた植物は次代の糧となる終焉ではなく、無為な滅びを迎えた。
穣子がごついブーツ越しに大地を踏みしめても、
かろうじて生えた植物は豊かな実りを生み出す事無く、力尽き枯れ果てた。
「幽香さんからは聞いていたけれど……」
「ええ、こんな環境では『この子達』は育たないわ」
「でも……」
「やる、しかないわね……」
闇に包まれた土地。
毒に満ちた大地。
穢れきった空間。
神は舞う。
舞い続ける。
死に満ちた場所を清めんと、
ただ、頑張り続ける。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「う〜〜〜〜〜っ、さむぅ〜〜〜〜〜!!」
「おこた、おこた」
「お帰りなさい。お汁粉、できてるわよ」
雪に包まれた、冬の幻想郷。
食料や燃料といった生活物資を何らかの方法で手に入れたサニーとルナは、
家事をしていたスターに迎えられ、温かな住居に帰ってきた。
物資を所定の場所にしまい、家事を終え、
三月精は皆で炬燵に入り、お汁粉を賞味していた。
「うん、おいし〜」
「ふ〜〜〜〜〜っ、ふ〜〜〜〜〜っ、ずずっ、おいし」
「はふっ、はふっ、お代わりあるからね」
甘味を摂って人心地が付き、寛ぎだす三人。
「こう寒いと、人間達は誰も出歩かないわね」
「ええ、だから民家よりもお店にお邪魔するほうが仕事しやすかったわ」
「巫女も神社にお篭りだし」
サニーはみかんを頬張り、
ルナは伊達眼鏡を掛けて読書を始め、
スターは人数分のお茶と茶受けの煎餅を炬燵に乗せた。
典型的な、冬場の安息がここにあった。
人も妖怪も妖精も、
みんな、お家に引きこもり、
団欒とささやかな平穏を享受していた。
それらを推察することができる、人家から漏れるほのかな明かり。
寒気と静謐に満ちた雪原で、それを見て笑みを浮かべる女性。
冬と共に生きる妖怪。
そんな彼女の姿は、今年は何処にも無かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
冬の忘れ物、レティ・ホワイトロックは、涙を流していた。
死の大地を嘆いた。
命が安らげぬこの地を悲しんだ。
ひとしきり悲しんだレティは、両手を組み、祈った。
与えられた衣装は、彼女にとっては少々窮屈だったため、
たったそれだけの動作でも、レティは身体を締め付けられる思いを味わった。
ひや。
空気が冷えてきた。
冷えてきた。
もう、凍えるようだ。
何の準備も無ければ、氷漬けになること請け合いである。
はら。
はらり。
はら、はらり。
ちら、ちらと、漆黒に舞う、白い粉。
粉の降る面積は広がり、
空間を埋め尽くし、
やがて、黒は白に侵略され尽くした。
圧倒的な白の前に、
黒の持つ、毒も穢れも、死さえも、
その膝を折ることになった。
白は大地を埋め尽くした。
黒の聖地は、空のみとなった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
春の麗らかな陽気に照らされた、博麗神社の境内。
そこでは、幻想郷の二大重鎮が邂逅していた。
「じゃあ、よろしくね、霊夢」
「ん、あんたも頑張ってね、紫」
二人はほんの刹那、柔らかな視線を交わし、
幻想郷の管理人である八雲紫は、その豊満な体を優雅にスキマに滑り込ませた。
楽園の素敵な巫女、博麗霊夢は、己の責務を果たすべく、
握ったままだった竹箒を側に立てかけると、まずは周囲を見渡した。
「ちょっと、あんた達」
霊夢に声を掛けられ、
「え?」
「ひっ!!」
「きゃっ」
神社側の茂みの中で思わず声を上げる三月精。
博麗の巫女の前では、
姿を隠そうとも、
音を消そうとも、
生命を感知して警戒しようとも、
全くの無力である。
ずんずんずんっ。
霊夢は何の迷いも無く、三人の前に歩を進めていた。
完全にばれている。
サニーとルナは能力を解除して、
三月精は霊夢と対峙した。
「な、何の御用でしょうか、霊夢……さん?」
サニーが恐る恐る、口を開いた。
霊夢は微笑み、三人に尋ねた。
否、答えは期待していないので、ただ、言った。
「ねぇ、『ようせいかくし』って、知ってる?」
三月精は、互いの顔を見た。
「ええ……」
ルナが小声で返事した。
「それが、何か……」
スターは顔を引きつらせながら、霊夢に尋ねた。
「ちょっとあんた達も『かくされて』よ」
霊夢は準備動作無しに、いきなり退魔針を投擲した。
最初から逃げ腰だったこともあり、
霊夢の抜き打ちにもかかわらず、
三月精は直ちに逃走を開始した。
こけっ!!
ルナがこの異常事態でも転んでしまった。
だが、これが幸いした。
二、三本の針は、たった今までルナのいた空間を貫いていった。
第一目標を仕損じた針は、第二目標に向かった。
霊夢とルナを結ぶ直線を延長した先にいた、
三人の中で最も霊夢から離れていた、
スターだった。
ドスドス、ドスゥッ!!
「え!?」
スターの視界から、光が消えた。
もうっ、またサニーったら……。
「ちょっと、サニー、悪戯しないでよ、もう」
サニーから返事は無かった。
「ルナからも言ってやってよ。いい加減、私から光を盗るの止めてって」
ルナからも返事は無かった。
しょうがない。
スターは能力を使って、この場にいる生命体の位置を特定した。
自分以外に、三人いる。
二人はこの場を猛スピードで離れ、
残り一人は、大して速くない歩みでスターに近づいてきた。
「ええっと、貴方は、どなた?」
針の刺さった両目から血を流しながら、
近づいてきた人物に社交的に尋ねるスター。
ドスッ!!
潰された両目の痛みからも、
絶望的な現実からも逃避したスターの額に、
霊夢は退魔針を深々と突き立てた。
この場を逃れたサニーとルナは、離れ離れになってしまった。
「ひっ、ひぃぃぃぃっ!!」
ルナは必死の形相で、カールした髪をなびかせて空を飛んでいた。
恐慌状態のルナは、サニーとはぐれたことに気付いていなかった。
周囲に目を配る暇も惜しみ、ただ飛び続けるルナは、
彼女を追いかけ飛翔する無数の護符にも気付いていなかった。
「い゛!? ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
雲霞の如く襲来した追尾護符は、全弾、ルナに命中した。
彼女の矮躯は、幻想郷の空に四散した。
サニーは、それほど神社から離れていなかった。
常人には認識できない自宅に戻って、しばらく潜伏しようというのだ。
「はぁ……、はぁ……、スター……、ルナ……、何故、こんなことに……」
スターに針が直撃したのは見た。もう助からないだろう。
ルナの断末魔の悲鳴は、ここまで聞こえてきた。
「なんなのよ……、『ようせいかくし』って……」
去年の自分から出たこの言葉。
皆を怖がらせようと思った与太だった。
少し前に霊夢から出たこの言葉。
自分達に対する死刑宣告?
荒い息をつきながら、サニーは杜の中を見渡した。
もう家の側のはずである。
「あれ?」
お家が、見つからない。
もう、根元に玄関がある大木が見えてもおかしくない筈なのに……。
「このあたりに結界を張らせて貰ったわ」
「ひぃっ!!」
そばの木の陰から、霊夢が現れた。
「以前、魔理沙が神社の側にあんた達が棲みついたんじゃないかって言ってたから、
この周囲に網を張ったら……、ドンピシャね」
「やだぁ……、死にたくないぃ……」
死んでもしばらくすればよみがえる妖精が、
死を恐怖した。
サニーは四つんばいになりながら、霊夢から這って逃げようとした。
『本気』の霊夢に威圧され、腰が抜けてしまったのだ。
サニーのスカートから覗くドロワースに包まれた小ぶりな尻目掛け、
霊夢は容赦の無い蹴りをお見舞いした。
どがぁっ!!
「ぎゃっ!! あ……? いやぁ……」
ちょろろろろ……。
地べたに這いつくばったサニーの霊夢が蹴った場所。
女性にとって大事な器官のある場所。
そこから水分が放出された。
恐怖と衝撃で、サニーは失禁してしまったのだ。
「あら、あんたでも結構色っぽい表情できるのね」
涙を流し、歯を食いしばって赤面しているサニーを、
霊夢は少し瞳をを潤ませて揶揄した。
「ゆ……」
「ん?」
「ゆるじで……ぐだざいぃ……」
「んん?」
「ごろざないで、ぐだざい……、おでがい、じばずぅ……」
「ん〜?」
恥辱に満ちた表情で命乞いをするサニーを見て、
首をかしげ思案する霊夢。
答えは決まっているので、単なるポーズであるが。
「駄目よ」
「あ……」
圧倒的絶望に、
見開いた目からは涙を、
八重歯の覗く開きっぱなしの口からは涎を、
股間からは未だに尿を、
サニーは延々と垂れ流す事しかできなかった。
サニーは、色とりどりの光球に囲まれた。
妖精一匹をぶち殺すのに、
夢想封印は大げさだったか。
サニーは、
きれい……、
と思いながら、
苦痛を感じる間もなく、霊夢の無慈悲な技に八つ裂きにされた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
闇に満ちた空間。
光の三妖精。
サニーミルク。
ルナチャイルド。
スターサファイア。
彼女達三人は、理解した。
この死の大地で、
己が成すべきことを。
三月精は、祈った。
たった一つのことを、祈った。
「「「光、あれ」」」
闇が、光に駆逐された。
ほんの、一瞬。
再び、闇に満ちた空間。
三人の光の妖精が息絶えたことで、
再び、大地に死が満ちた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
漆黒の空間。
完全気密の防護服に身を包んだ一団が、
やはり機密性に優れた施設に戻ってきた。
これで無重力だったら、宇宙空間と見間違えてしまいそうな光景。
だが、これくらいの厳重、重武装で無いと、
たとえ高位の妖怪や神だろうと死に至る不毛の地が、
施設外に広がっているのである。
施設に入ってから小一時間かけて大仰な装備を脱ぎ、
己の体液で汚れた身体を洗った一団が、施設の休憩所に入ってきた。
「お帰りなさい、皆様。さあ、寛いでくださいな」
八雲紫が両手を広げると、休憩所の壁を埋め尽くした自動販売機の購入ボタンが一斉に点灯した。
これで金を投入しなくても、自販機の商品を得られるようになった。
各々、適当な飲み物や食べ物を手に、紫が上座に座ったテーブル席に着いた。
「皆様のご尽力のおかげで、ようやく回復の目処が立ちました。まずはお礼を申し上げますわ」
紫は立ち上がると、皆に一礼した。
「そりゃそうでしょう。一体どれだけの草花や妖精達を犠牲にしたと思っているのかしら?」
がりりっ。
そういうと、風見幽香は紙コップからアイスミルクティーを氷ごと口に流し込み、氷を噛み砕いた。
「でも、ようやく土壌から有害物質が抜け始め、空気も澄み始めました」
「幽香さんのなさった事は、決して無駄ではありませんよ」
秋静葉と穣子は、二人で分け合ったたい焼きを齧りながら、幽香の苛立ちを沈めようとした。
「雪が全てを覆い、吸い取り、浄化します。これを後、何百回行なえば良いかは、正直、分かりかねますが……」
控えめな口調で発言したレティ・ホワイトロックの前には、
カップラーメン、ホットドック、たこ焼き、焼きおにぎり、ジャンボサイズのコーラが陣取っていた。
「あと、少しですわ。あと少し、皆様がこの作業を行なってくだされば、この土地に、また生命に満ち溢れるのです」
「具体的に、後何回か、言っていただけませんこと? 賢者様」
「あら、ご挨拶ね、フラワーマスター。あと少しといったら、少しよ」
噛み付いてきた幽香を軽くいなした紫は、強化ガラス越しに外の景色を見た。
闇の中に、弾幕のスコールが見えた。
春告精の姉妹があそこまで行動できるほど、環境は改善されてきた。
本当にスコールの如く、弾幕は直ぐに見えなくなった。
紫は双眼鏡を覗いた。
巨大な氷山が見えた。
チルノが作ったのだ。
氷の中に、大妖精を初めとした、幻想郷から強制的に連れて来た妖精達が多数見えた。
彼女達には感謝している。
外界の科学技術の粋を集めて建造した、夢のエネルギーを生み出す施設があった場所。
厄災で施設が壊滅、人どころかバクテリアに至るまで生命が滅びる地獄と化した地。
八雲紫が経営するボーダー商事は、この地の復興事業を国から請け負った。
誰もやりたがらない難事業を紫が引き受けたのには訳がある。
紫や藍によって、このまま看過すると、この穢れた大地が幻想入りするという予測がなされたのだ。
こんな悪夢の土地、いくら全てを受け入れるという触れ込みの幻想郷でも御免被る。
紫は、この土地を外側はバリケードで、内側は結界で封印すると、
直ちに復興プロジェクトを二つ立ち上げた。
一つは、自然を司る能力を持った幻想郷の住人に協力を要請して、この土地の改良と浄化をしてもらうこと。
そしてもう一つは、自然エネルギーの化身である妖精達を『肥料』とすることで、
この不毛の土地に再び生命を宿らせることである。
妖精は死ぬとその実体を失い霧散するが、
自然からエネルギーをチャージして、満タンになると再実体化する。
それを応用して、紫は幻想郷の理を『管理者』権限で操作して、
妖精の再実体化先をこの土地に設定した。
幻想郷の自然エネルギーをたらふく溜め込んだ妖精はこの地に実体化した途端、
自然エネルギーを吐き出し、死滅する。
そして、またこの地に蘇る。
わざわざ死ぬために。
恵みの力を持つ妖怪達によって土地の改良を行ないつつ、
この一見不毛な生死のループを繰り返すことで、
やがて、この土地は生気に満ちて蘇るであろう。
繰り返した回数を数えるのをとっくに止め、
嫌気が差す段階も過ぎ、
皆、意地と惰性で能力を行使し続け、
その目処がようやく付いた。
闇を切り裂く光明。
あまりに明るすぎる光の対策のため、窓に自動的に遮光フィルターがかけられた。
刹那の明るさに、皆、飲食する手を止め、この土地が復活することを祈った。
どこかで何かが崩壊する音が聞こえてきた。
紫は再び双眼鏡を覗いた。
巨大な氷山が崩れ落ち、チルノや中に避難していた妖精達が押しつぶされたようだ。
彼女達の死は無駄ではない。
これでまた、この地の自然の回復が早まった。
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八雲紫は、幻想郷がかつて無い数多の自然災害に見舞われることを予測した。
博麗の巫女である霊夢と連名で出された声明に従い、
幻想郷各地の有力者達は万全の備えを行い、
住人達にも注意を喚起した。
日照り、洪水、疫病、竜巻、エトセトラ、エトセトラ。
竜宮の使い、永江衣玖は、幻想郷の住人に警告を行うのに大忙しであった。
だが、衣玖は驚いた。
皆、粛々と避難や対策を行なうではないか。
いつもなら気味悪がられたり、石を投げられたりするのに。
後日、衣玖は紫と霊夢の声明のことを知り、少しがっかりした。
程なくして襲い掛かった天変地異による被害は、おかげで最小限に留まった。
この日、博麗神社は賑わっていた。
妖怪だけでなく、人間の姿も多数見られた。
境内にうずたかく積まれた、
段ボール箱に入った救援物資を受け取るためだ。
中には非常食の缶詰をつまみつつ、酒盛りを始める輩までいた。
大勢の人妖が物資を受け取っていた。
ひっきりなしに幻想郷各地に向かう荷馬車や大八車。
ひっきりなしに外界から幻想郷に進入するコンボイ。
空から爆音が聞こえる。
無数の双発輸送ヘリコプターが物資を臨時に作られたヘリポートに下ろしたり、
逆に物資を積み込み僻地に向けて飛び立ったりしていた。
言うまでもなく、これら膨大な量の外界の品々は八雲紫がボーダー商事名義で手配した物である。
鉄の乗り物も然り。
当然、外界の人員は皆、紫の息のかかった者達だ。
どさくさにまぎれて三人の妖精少女が段ボール箱をくすねたが、
それを目撃した霊夢は何も言わなかった。
干ばつで作物が全滅した農村。
救援物資の米や野菜を料理して炊き出しを行なう秋姉妹の姿が見られた。
またお祭りをしましょうと、声援を食事と共に、困窮する人々に送る二柱の神。
人々を救済する神の姿に、手を合わせ拝みだす老人達が少なからず見受けられた。
洪水被害の傷跡も生々しい湖のほとり。
ようやく冠水していた湖の水位も元に戻り、
チルノは大妖精と、何処に家を建てようか相談していた。
紅魔館の泥まみれの門を修繕する手を止め、美鈴はその光景を微笑みながら見物していた。
手がお留守になっていたので、咲夜は差し入れの前に、ナイフを美鈴にご馳走することにした。
枯れ野原と化した太陽の畑。
憮然とした表情で枯野を往く風見幽香。
庵の前で幽香は歩みを止めた。
幽香が本宅から呼び寄せ、留守番を命じた門番の少女が一礼をして、植木鉢を差し出した。
たった一つ、彼女が守り通した物。
たった一つの夏の名残。
たった一輪の向日葵。
土砂崩れで甚大な被害を受けた妖怪の山の、辛うじて被害を免れた一角。
対峙する、春告精姉妹と冬の忘れ物。
「……春、では、ないですよ〜……」
「春……は、過ぎたよね……」
「冬……には、まだ早いようね」
暦の上では、今は夏だ。
小雪がちらついたりもするが、今は夏だ。
ふ、あぁ〜〜〜〜〜あ。
大欠伸をする三人。
「疲れた……」
「くたびれた……」
「寝ましょう……」
疲労の原因を知らない二人と、知っている一人。
彼女達の出番はまだ先だ。
リリー姉妹とレティは別れ、
それぞれの家に帰り、
とりあえず、寝ることにした。
幻想郷に、妖精達が帰ってきた。
今はずいぶんと大人しいが、
やがては空を飛び、野を走り、弾幕ごっこをし、悪戯をするようになるだろう。
――大自然の息吹きと共に。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ねえ、『ようせいかくし』って、知ってる?」
博麗神社側に聳える、外界より取り込まれた大木の『中』。
そこに住まう光の三妖精――通称『三月精』。
窓から差し込む日の光を浴びて、サニーミルクは他の二人にそう話しかけた。
「何だろう……、聞いただけで寒気が……」
ぶるりと、震える身体を自身の両手で抱きしめるルナチャイルド。
「う〜ん……、何なのかしら……」
頭に指を押し当て、顔をしかめるスターサファイア。
「何? 誰も知らないの?」
「じゃ、サニーは知ってるの?」
「うんにゃ、知らない」
「……」
「でも、知ってはいるけれど思い出せないというか、何というか……」
「私もよ」
「え!? ルナも? 私も、そうなんだけれども」
「「「いったい、何なんだろうね。『ようせいかくし』って」」」
サニーは窓から外を見た。
手に花を持った妖精がちらほらと見える。
幻想郷じゃ珍しくも無い。
妖精達は、全然、隠れていない。
三人のうち、誰かが言い出した。
こういう、もやもやした時は――、
「うっし!! みんな!! 一杯飲ろう!!」
――幻想郷の主神である、酒の神様の力を借りるに限る。
三月精はサニー秘蔵の果実酒を、
最初はちびちび、やがてぐびぐび飲みまくった。
酒を愛する三人の妖精に、神の奇跡が起きた。
無数の酒樽を空にした三人は大いびきをかきながら眠ってしまい、
次の日、二日酔いに苦しみながら目覚めた三人の記憶からは、
『ようせいかくし』という言葉は綺麗さっぱり消えていたのだった。
難産の末、ようやく出来上がりました。
締め切りまでずいぶんと時間があったというのに……。
この話を考えていたら別の話を思いついてしまったり……。
しかし、全然怪談じゃないな、この話……。
皆様の百物語作品の感想は、
明日……、いや今日の夜、仕事から帰ってきてからということで。
2011年9月4日:一時閉鎖される前に、読者のコメントへ感謝の意を込め、返答を追加させていただきます。
>んh様
ぼかして書いたつもりでしたが、察しがよろしいようで。
秋姉妹は地味に重要な役どころの神様ですからね。
>ヨーグルト様
時事ネタだと分からなくても楽しめるように書きましたので。
百物語参加作品ですから、怖いと言っていただき光栄です。
>3様
そう言っていただき嬉しいです。
自販機で売っている冷凍物を暖めた代物ですが、なんか秋姉妹に似合いそうな気がして……。
>ギョウヘルインニ様
時事ネタがここまで好評とは……。
>零雨様
自然エネルギーの使いすぎで、当然幻想郷の自然のバランスが崩れてしまいましたが、
これも計画段階で織り込み済みだったため、事前、事後に手を打つことができました。
三月精は本編でも、人間以上に人間臭い生活を送っていますからね〜。
>ハッピー横町様
『外の世界』の人々は被災者以外忘れっぽいようで、直ぐに幻想入りしかねない状態でしたからね。
実力者達を極秘裏に招聘し、大勢の妖精達を投入し、自然エネルギー不足で天災に見舞われる予定の幻想郷への
支援体制を整え、幻想郷内外の各勢力への根回しを行い……。
皆が一丸とならなければ、自然の復興は成し遂げられなかったでしょう。
>ウナル様
最初はそう思わせておいて実は……、てな話を狙って書きました。
>エイエイ様
う〜ん……。
百物語作品で、それは拙いですね〜。
真相が明らかになる後半は変えたくないんで、
序盤、中盤にもう少しハッタリをかましておけば良かったかな……?
NutsIn先任曹長
作品情報
作品集:
28
投稿日時:
2011/08/18 15:22:21
更新日時:
2011/09/04 04:44:56
分類
産廃百物語A
サニーミルク
ルナチャイルド
スターサファイア
チルノ
大妖精
霊夢
紫
四季を代表する者達
自然回復の手段
妖精大変なんだなあ…秋姉妹が異様にかっこいい
怪奇的な現象が起きてると思ったら、裏では自然を再生させようとしてたんですね。
怪談でなくても充分に怖かったんですが……。
たいやき分け合う秋姉妹かわいい
それにしても三月精の生活がすごい人間ぽい
でも、癒し系?(←いや妖精死んどるがなw)
見たいな感じで怖くはなかったかな。