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『産廃百物語A『古き蛇のドラスキロ』』 作者: 小鎬 三斎
ドラスキロとは、俗に死体の上を動物が飛び越える現象を指す言葉である。
某国の古い言い伝えによれば、死体の上を動物や人が通りすぎると、その死体はその後吸血鬼になるという。
こうした言い伝えはそれこそスラヴ地方を中心にして世界各国に存在し、中国にも同様の言い伝えがある。
これは死者の霊は生ける者の生命力を吸い、墓の中で死後の生命に火を灯す事が出来るという観念に基づいている。
ドラスキロはギリシャ語で『横切る』という意味があり、その地方ではもっぱら猫が恐れられたという。
「また…ですか……」
別に購読してないというのにほぼ定期的に届くその日の新聞の一面に大きく載った記事に、私は大きく溜息をついた。
溜息の理由は一つだけじゃない。一面の記事もそうだが、その記事をざっと読んで改めて思った事。
たった一つの真実を深々と追求するというジャーナリズムの根本。この世界の新聞にはどうして、それがまるで虫食いの如く欠如しているのだろう。
誰が読んでも、何度読んでもそれはあまりに陳腐で、あまりに俗っぽく、そしてあまりにも誇張と欺瞞に満ち溢れた記事。
“吸血鬼、またしても人間を襲う”…。
一月前はとある商家が奉公人を含めて全員死んだ。二週間前は農村の家畜が全滅した。そして五日前は里から若い娘が大量に攫われ、その全てが血を抜かれた遺体で見つかった。昨今この幻想郷を騒がす一大事件の記事が、無駄に大きな見出しと共に踊っている。
また、誰かが何人か死んだらしい。ここ最近は里も山もこの話で持ちきりだ。
正直、うんざりするくらいに。まともに読む者など数えるほどしかいない、どこぞの宗教団体の機関紙並みの薄っぺらな新聞の薄っぺらな記事程度で、何故ここまで大騒ぎが出来るものかと思う。しかも吸血鬼などという外の世界のエイプリルフールでも絶対書かない、あまりに荒唐無稽な記事に。
まぁそれも無理からぬ事だなと、私は軽く同情する。連日一面を飾る事件の内容が内容だけに。それに実際、この世界には確かに、彼等彼女等吸血鬼は“いる”のだから。
私が新聞というものを読まなくなったのはいつからだろうか。私が嘗て居た世界では、それなり以上の方法で何かしら彼方此方探れば、
真新しい情報など容易く手に入った。一日二回、しかもほぼ定時にしか来ないそれと比較するのも全く馬鹿らしい。
とはいえ、この幻想郷という世界では外の世界ほど通信技術が発展していない所為もあり、必然的にこうした紙媒体がこの世界で起きている出来事を知る為の手段である。
尤もこの世界の住人達は自分達に直接関係しない事柄には然程興味が無いのか、この手の新聞はあまり人気が無い。
よっぽどの物好きで無い限り真剣にこうしたものを読む者はいないと言い切ってしまってもいいくらいだ。昨日の夕飯とか、気になる異性とか、どこぞの誰かの恥ずかしい失敗談とか、里の人間や山の妖怪の話題はそんなものばかり。
論点も方向性もない井戸端会議の延長のような話で、この世界の人妖達は盛り上がる事が出来る。ある意味幸せな者達だ。
取敢えず件の新聞がどがっしゃ〜ん、という効果音つきで雨戸をぶち破って届くなんて事がないのは幸いだ。何処までが虚偽で何処までが真実か、その線引きが全く為されてない、早さだけが取得のスカタンな天狗どもの作る新聞の為に寿命を百日も使うなんて御免被る。
とはいえ今回、そこの…今日の一面に躍ったひとつの事件。そこに私は彼等彼女等を疑う事すら忘れ思わず釘付けになっていた。記事に使われていた写真のインパクトがあまりに大きすぎた所為か。
とある少女が道端に仰向けに倒れ、母親と思わしき女性が少女に縋りついて噎び泣いている。それを多くの人や妖が遠巻きに見つめている写真。
これを一面にデカデカと載せた新聞が、最近山や里に沢山出回っている。写真をまじまじと見つめるたびに、私の中に言い知れぬ何かが込み上げる。
大きな事件は往々にして何も起こりそうにない平穏な日に始まると、ものの本にもあった。私が今いる地味な繰り返しの日常。
それがあの写真から滲み出て来る暗い色の何かにより、無残に打ち砕かれ、そして私の世界を揺るがす大事件が幕を開ける……。
そんな気がしてならなかった。
とある昼下がり。私は山で採れた篭一杯の野菜や果物その他を手に、幻想郷の外れに広がる魔法の森を訪れていた。
神奈子様も言っていた。常に自分から歩み寄っていかなければ、人との距離は縮まらないと。その一貫というのもあれだが、博麗の巫女や森の魔法使いの影響で、妖怪退治も始めた私。
その仕事を、そして私達を私達たらしめる信仰を得るために、まず人に近づく事が肝要だと、私も二柱の神も判断した。
だが最近、信仰を得るための手段であった筈のそれが、段々と自分の中で大きな娯楽となっていた。あぁ、これは危ないなぁと思いつつも、なかなかどうして止められない自分がそこにいる。
あの豊穣の神の機嫌が良かったのか、今年の山は豊作だった。いい手土産を、そして大いなる信仰の道具を手にした私はそれでここぞとばかりに、この世界に来てからすっかり気心知れた仲となった一人の少女の元へ行くところである。
森の周囲に広がる畦道に入って十分も経たずに、私は彼女の姿を認める。
「魔理沙さん!」
「……あぁ、早苗か。お前の方からこんなトコまで来るなんて珍しいな」
魔法の森に居を構える黒衣の魔法使い、霧雨魔理沙さんは、普段と何ら変わらない明け透けした顔で、私をまじまじと見つめてきた。
外の世界では思いきり変人扱いされていた私から見ても、魔理沙さんはどこかおかしな人だ。私と同じ年頃の少女にしてはあまりにガサツで、少女らしさの一欠けらも感じられない。
だけどどうした事か、何やら妙に惹かれてしまう魅力めいたものを、彼女はその身体から醸し出している。いや、彼女だから、魔力と言ってしまっても決して間違いではないと思う。
妙なところはそれだけじゃない。ただの人間の筈なのに、この魔法の森に立ち込める有害な瘴気を絶えず吸っているのに、それを感じていないのか見た感じは健康そのもの。いやはや全く驚かされる。
実際私自身は今この時、あの瘴気が呼吸器やら皮膚やらからじわりじわりと浸透してきている所為で、先程から軽い眩暈や息切れを憶えている。そんな私を怪訝な表情で覗き込む魔理沙さん。
…いけない。余計な心配をかけさせるのもアレだ。頭を振って精一杯平然を装い、彼女に篭を差し出す。
「山で野菜が沢山取れましたからお裾分けに来たんですよ。宜しければどうです?」
「おぉ、こいつぁいいな。有難く貰っとくぜ」
「もう。年頃の少女だったらそういう時はちょっとくらい遠慮をするものですよ?」
さっと篭に手を伸ばした魔理沙さんは間違いなく私の知る魔理沙さんだ。気心知れた仲間は勿論、たとえ異性相手でもこの人は一切格好をつけない。
魔理沙さんのそう言うところは素直に尊敬せざるを得ないだろう。外の世界にいた頃の私は何時でも何処でも、誰が相手でも、守矢の巫女という仮面をつけなければ人と向き合えないような、そんな人間だった。
そして私は、今も……。
「ん…?どうかしたか、早苗」
「いや、その…何でも、ないです」
…いけない。昔の自分を思い出して思わずぼんやりしてしまったようだ。大袈裟に頭を振って魔理沙さんと向き合うが……。
(…!?何か、いつもの魔理沙さんと……違う?)
彼女のそれを認めた刹那にはっきりと感じた。そして、そこから滲み出る感情が、私を一抹の不安に陥れる。
私の知っている魔理沙さんだったら絶対に持っていない…いや持つ事が出来ないそれを、今の彼女は手にしている。いや…もっと言ってしまえば、彼女が手にしているのは人であればまず持ち得ないそれ。
だが、それを本人の前で口にするべきか?したらしたではぐらかされるのは目に見えているし、ストレートに聞こうものなら間違いなく、
私は彼女から強い疑いの目を向けられてしまうだろう。…この場でどうすべきか必死に考え、意を決して問うてみる。
「魔理沙さん…どうしたんですか。その、瞳(め)……」
先程から彼女に感じていた大きな違和感の一つが、まるで紅玉の如く純粋な赤に染まった両の瞳だ。
魔法の研究で夜更かしが過ぎて充血したにしては、あまりにもその紅は濃すぎる。永遠亭に住まう月の兎のそれとはまた違う、
溢れ出さんばかりの魔性というものを湛えたその瞳が今、他ならぬ私を見つめている…。
「あぁ、ちょっと…な」
彼女の答えはあまりに曖昧で、あまりに素っ気無い、ただそれだけの言葉だった。
「ちょっとって……」
納得できるわけが無い。まさか答えられない事があるのだろうか?或いは答えても私が信用するのだろうかなんて思っているのか?
全く心外極まる。まぁ人間、容易く何かを信じるのは難しいものではあるが。だけども違和感は、あの赤い瞳だけではない。
今の彼女が持つ抜けるような白い肌も、鋭利な刃物のようになった指先の爪も、そして薄い唇から覗く八重歯も……。あの時以前に見た魔理沙さんには、なかったもの。
(本当に…どうしちゃったんでしょうか……?)
若しかしてどこぞの妖怪が魔理沙さんに化けているのか、それとも日々溜まった疲れが私に幻覚を見せているのか。
一体何が真実なのか、いや真実はどこにあるのか、もう訳が分からない。
「そういや早苗。いつかの天狗の新聞、見たよな…」
突然に魔理沙さんが話題を振ってくる。天狗の新聞?あぁ、確かに見た。人間やら妖怪やらが次々とある少女に襲われて、
体内の血を全て抜かれて殺されるとかいうあれだ。そのニュースはいつも天狗達が発行する数多の新聞の一面を大きく飾り、
しかもその事件はかれこれ三日か四日置きに起きている。多い時はたった一夜で人妖達が十七人も殺された、なんて記事もあった。
まぁあの天狗の新聞ゆえ、一体全体何処までが真実か私には判断しかねるが。
「はい…確かに見ましたけど。それが何か?」
「ちょっと噂で聞いたぐらいだがな。最近新たな吸血鬼が魔法の森に棲みついちまったらしいんだ。私もアリスもいつ狙われないかってビクビクしてんだよ。しかもあいつ節操ないから、人だろうが妖だろうが、男だろうが女だろうが、兎に角無秩序に襲って一滴残らず血抜いて殺して楽しんでるって言うぜ」
何て事だ…あの記事はどうやら真実のようだ。しかもその吸血鬼は魔法の森という、里からも山からも程近い場所にいる。
あの剛毅な魔理沙さんが怯えるのも無理はない。件の吸血鬼にとって彼女は一番手近な獲物なのだから。
「私もあの新聞で知ったくらいですけど。本当、節操ないですよね」
「あぁ。だけど、そいつは早苗みたいな若い娘が特に大好物って話だ。気をつけたほうがいい。間違っても信仰の為とか言って、退治しようなんて考えは起こすんじゃないぜ」
また違和感を憶える。こんな風に過剰な警告をしてくるなんて魔理沙さんのキャラじゃない。
こんな事をするのは何か理由が在るのか?取敢えずこの場では納得した振りをして私は話を切上げ、神社に戻る事にした。
それにしても、森の吸血鬼とは。思わず私は武者震いを憶える。吸血鬼という強大な妖怪ならば霊夢さんに任せればいいかもしれないけど、これは私にとって千載一遇のチャンスでもある。
どれだけ止められたところで聞くものか。姿の見えない吸血鬼に怯えてすごすご尻尾を巻いて退散なんて事になったら神社の、そして信仰する二柱の存続に関わる。
それを避ける為に私は外の世界から神社ごとこの幻想郷に移り住んだのだから。
誰に何を言われようが、私はその吸血鬼は退治する…。それだけは絶対、揺るがないだろう。
そんな私の背に、幽かにクスリという少女の含み笑いが聞こえた気がする…それは私の杞憂だろうか。
妖怪の山にも夜は来る。そしてその山の中腹にある守矢神社にも夜は来る。ホゥ、ホゥという梟の鳴き声が辺りに木霊する。
もうお休みの時間だよ、とでも言っているかのごとく。無論私も普段ならそうしている。まぁ妖怪退治の依頼があれば話は別だが。
まあ幸い、今日はそれはない。いつも通り少し遅めの夕食を摂ったら眠るだけ。少しだけ時間があれば夜風に当たって心を鎮め、明日の平穏を空に願う……。
「よ、早苗」
と、あの黒い少女が、神社の境内にいた。少々驚いたが私は努めて平静を装い声をかける。
「魔理沙さん」
境内に現れた魔法使いの魔理沙さんは心成しか、先日の日中に会ったときよりも元気そうに見える。
全く珍しい事もあるものだ。普段なら彼女はもう一方の神社に…霊夢さんのところへ行っている筈なのに、何故か今夜はここに来た。
境内が宴会場として使われるのはここも同じだが今夜は既にお開きとなって、参加していた妖怪達も皆家路に就いているのに。
「その…こないだはありがとな」
「いや、いいんですよ。採れすぎて余ってたものですし。あ、ちょっと待ってて下さいね。お茶なら直ぐに用意しますから……」
そういって私は台所へ立つ。彼女とも長く付き合った甲斐があり、魔理沙さんの好みの味ならば既に把握済みだ。
茶葉の量やお湯加減に一片の狂いも生じる事はなく、いい感じのお茶を淹れる事が出来た。
全く、我ながら冴えている。一口啜って確かめるまでも無い。よし、後はこれを彼女のところまで……。
「…早苗」
「え、あ、魔理沙…さん?どうしてここに……」
行こうとしたところで、その彼女と出くわした。その時まで私は気付かなかったけど。
「待ちきれないからここまで来ちまったよ」
「……随分せっかちになったんですね」
「そうか?私はいつも通りなんだが」
「…ふふ。まぁいいですよ。お茶も丁度用意できたところですし……」
淹れたばかりのお茶を拝殿の方へ持って行く為にお盆を探す私。その途端、私はいきなり右腕を掴まれる。
「あぁ、助かるよ…でも、それじゃダメなんだ……」
「へ?そ、それ、どういう……」
突然に自由を失った右腕。暫らくするとその先の掌に、何かが千切れたような痛みが疾走(はし)る。
次に襲ってきた感覚は、掌にある神経系統を針でなぞっていくような、ぞわり、ぞわりとしたそれ。感覚の正体を確かめようと、一度痛みで固く閉じた瞳を開き……。
「…………っ!!」
一瞬、呼吸が、止まる。覚醒したての私の両の目がはっきりと認めたもの。
掴まれている右腕。その先の掌。そこに出来た噛み傷。溢れ出す真紅の生の証。
「あぁ…っ。美味しいぜ……美味しいぜぇ……」
そして、それを、恍惚とした表情を浮かべながら、少しずつ、少しずつ啜っている、魔理沙さん。
まさか、私の血が美味しいのだろうか。彼女がそれを止める様子は先程から全く見受けられない。
吐息が傷口に触れるたびに…いや、彼女の舌がそこを這う度に、全身に痺れるような感覚を憶える。
(吸血鬼……っ!!)
この事実が教える、一つの答え。彼女は既に人ではなく、真紅の鮮血を何より欲する黒い悪魔だという事。
そして今、実際に私の生の証が、彼女の体内に少しずつ、流れこんでいるという事。
…はっきりと、彼女に、恐怖した。
「止めてください!!」
掴まれた腕を勢い良く振り払う。未だに噛みつかれた掌からの出血は止まる気配がない。
「はぁ、はぁ、はぁ…全く、何をするんですか!?」
止血剤をあてがいながら私は魔理沙さんをキッ、と見据え、彼女の出方を窺う。
「ちぇっ。やっぱり掌からじゃやり辛いな……」
その言葉と共に彼女が眼前からフッと消えた。何事かと思って首を左右に振ると、また彼女の声が聞こえた。
「……やっぱり“ここ”に限るよな?」
何時の間にやら後ろに回った魔理沙さん。気がつくとまたしても私は彼女に両腕をがっちりとホールドされていた。
いつもだったら容易く振り払える筈なのに、二の腕を包み込む様に捕えている魔理沙さんの掌は、いくら足掻いても外れない…。
「…あぁ!!」
「あ…はは…あはははは……!いいぞぉ…どんどん出てきやがる…………!!」
…そのまま、私の細い首筋に、黒い少女の牙が突き立てられる。そこから滲み出る私の血が、彼女の口腔へ絶え間なく流れこむ。反撃する術などある筈もなく、夥しい量の出血で意識が紅と黒に混濁してくる。
ちゃぴっ、ちゃぴっ、という嫌な音が数秒ほど耳元で絶え間なく響く。
一生懸命全身で抵抗し、ようやく彼女を引き離した…それが、この場で私に出来る精一杯だったが。
その場にあった布で傷口を押さえたまま、ただ私は放心していた。真白の布がたちまち紅に染まっていく。
「あぁ…美味かった。ありがとな、早苗」
呆気に取られたままの私に、澄ました笑みで魔理沙さんは答える。首のあたりにじんじんと残る痛み、
危うく出血多量で死にかけたという恐るべき現実と対峙した私は、すっかり我を失っていた。霞む意識の中で疑問符が渦巻く。
何故魔理沙さんが吸血鬼なのか?どうして今夜この神社に現れたのか?何故私を狙ったのか?
まさか…彼女が昨今幻想郷を脅かす、あの殺戮の犯人なのか?混乱する私の耳元に魔理沙さんの声が響く。
「そう言えば…白狼天狗達はどうしたかなぁ?最近姿が見えないけどなぁ……」
混濁する意識の中で聞いたそれが、私を現実へ引き戻す。よろめきながらどうにか立ち上がった頃には、魔理沙さんの姿は消えていた。
(まさか!!)
彼女の言葉が本当なら!大量出血でふらふらの頭を抱えながら石段を駆け下り、白狼天狗達の詰め所へ辿りつき、彼等の安否を確かめようと重い扉を開け放つ……。
(………!!)
思わず胃の内用物が逆流しそうになるのを堪えるのに必死だった。
全身の血を一滴残らず抜き取られて土気色に変色し、干物のように固く冷たくなった白狼天狗達の亡骸が、そこに累々と横たわっている。
難攻不落の妖怪の山の警備を受け持ち、並みの人間や妖怪程度には決して引けを取らない彼等彼女等が、
たった一人の黒い少女の手で全滅させられたのだ。信じる事など出来ないが、これは確かな“現実”だ。
詰め所の周囲から山を一通り捜索して行く私。鴉天狗も、河童も、その他諸々の妖怪も皆須らく血を全て抜かれていた。
「こんな…事って……!!」
信じられる筈などある訳が無い。今の彼女は強大な吸血鬼とはいえ、たった一人で此れしきの大量虐殺が出来るものなのか。
辛うじて生き延びた僅かばかりの妖怪達の手を借りて一先ず周辺の遺体を全て運び、守矢神社の境内を臨時の安置所として使用する事となった。他に生存者がいる可能性もあるだろうし、犠牲者の中にその者の家族がいるかもしれない。
このあたりを根城としている妖怪達の集会所としても使われるここならばいい目印になる。
今夜は盆のような満月のお陰で、今の時間でも昼のように明るい。当然月は境内にも、そこに眠る妖怪達にも光を投げている。
血を抜かれ、無残に倒れた彼等彼女等が、この美しい月を眺める事は二度とないが。思わず、切なさが込み上げる。
そして、私も危うく彼等と同じような末路を辿るところだったのだ。そんな現実と対峙して背筋が一気に寒くなった。
(……ん?)
と、私ははっきりと“感じた”。
不意に、境内に安置されている妖怪の亡骸の一つ。それがぴくりと動いたような気がした。誰か息を吹き返したのか?
まさか、そんな…絶対そんな事は有り得ない。生命の源である血を全部抜かれても生きてるなんて、出鱈目もいいところだ。
だが、ここは常識から大幅にどっぱずれた世界である幻想郷だ。有り得ない事なんていくらでも起きる。死んだ人間が霊となって里を闊歩し、獣が二足歩行をし、人は皆何らかの形で魔法が使える。
ならばその可能性は零と言い切ってしまうのは時期尚早といえるだろう。それに縦しんば生存者がいたなら、きっと彼の者はこの惨劇の大事な証人になってくれる。
逸る気持ちを抑えながら境内へ飛び出し、そろり、そろりと歩を進め、気配の正体の亡骸をじっと見つめる。
…私もよく知る白狼天狗の椛さんだ。彼女もまた周囲の妖怪達と同じように、全身の血を全て抜き取られて殺されている。にもかかわらず、その死顔はあまりに血色が良すぎて、ただ眠っているだけのようにも見えた。まさか、一命を取り留めたのか?
いや……笑顔で人や妖怪をさくっと殺せるあの魔理沙さんの事だ、それこそ有り得ないだろう。ならばどうして私にはそう見えるのか?
境内に降り注ぐ月の光が椛さんの亡骸を優しく包み込んでいる。その姿は白い光に吸いこまれ、今にも融け消えそうだ。
灰は灰に、塵は塵に……。それが外の世界の人間の当たり前だった。この幻想郷に生きる人間は、そして妖怪は、死んだら何処へ還るのだろう。現人神として第二の生が約束された私でも、その存在を維持する為の信仰を失えば、素晴らしき第二の生も消え逝くが道理だ。
その時が訪れたら、私は一体どこへ向かうのであろうか……まじまじと椛さんを認めてそんな事を考えていた時。
(また、気配が……)
新たな気配。それを認めた私は椛さんに背を向けて歩み出そうとする。まだ生き残りがいたのか?
気配のした方へ近づき、かの妖怪の顔を覗きこむ。その妖怪もやはり血を全て抜かれている。青いツインテールの小さな河童。
確か…にとりさんだったか。技師として日々研究に明け暮れていた彼女の亡骸も心成しか、椛さんと同じように生前と変わらない瑞々しいままのそれに見える。
死した者に須らく現れる硬直その他の現象も一切見受けられない。ひょっとしたらこのまま彼女が息を吹き返しそうな気もする。
(まさか、ね……ん!?)
不意に後ろに何かの気配。私とにとりさんに重なる影。何事かと後ろを振り向いた私の呼吸が急停止する。
先程まで斃れていた椛さんが、仁王立ちで私を見下ろしている。
真紅の瞳を爛々と輝かせながら。鋭い爪と牙をちらつかせながら。その口元から荒い息を漏らしながら……!!
「ウァァァアアア!!」
瞬間、生前椛さんだったものがその爪を高々と上げ、勢いよく振り下ろす。咄嗟に飛び退いてそれを回避する私。
彼女の爪はまさに私の鼻先すれすれを掠めて空を切った。回避があと一歩遅れていたら私の身体は短冊切りになっていたに違いない。
なんて事だ……。一度無残に殺された者が更なる力を得て甦る、そんな事態が目の前で起きてしまった。
「いやあぁぁぁぁっ!!」
咄嗟に何十発も弾幕をぶつけて一時的に沈静化しても、何度も何度も立ち上がって、私にその狂牙を振う嘗ての白狼天狗。
その紅蓮の瞳に理性の光はなく、振り下ろされる爪にもただ狂気だけが込められている…もっと厳密に言えば、飢餓感か。この場で溢れんばかりの生の匂いを漂わす私に、ただ食らい付かんという勢いだけで、元白狼天狗たるこの屍鬼は、動いている。
「い…いや……っ。なに、何…なんなのよぉ……!!」
このままでは、やられる!私はようやくそう判断し、直ぐそこにあった丸太をよろよろしながら抱え上げ、渾身の力を込めた大回転と共に屍鬼の土手っ腹に叩きつける。
派手に吹っ飛んだ屍鬼に歩み寄ってもう一度丸太を振って頭を叩き割り、ようやく彼女はその活動を止めた。
脈が、脳波が、未だ不規則に波打っている。呼吸機能も迷走状態に陥っている。無理矢理重い丸太を持ち上げた腕や腰が悲鳴を上げている。徐々にそれらが収まり、クリアになっていく頭の中に、ひとつの言葉が思い浮かぶ。
(妖怪退治ばっかりしていると、自分が妖怪に近づくんだぜ……)
彼女が…魔理沙さんが云ったいつかの科白は本当だった。
あの真っ黒な服の所為で全く分からなかったけど、魔理沙さんの身体には確実に、今まで退治してきた妖怪達の夥しいほどの返り血が付着し、沈着していた。少なくとも私には見えていた。
あのままでいれば魔理沙さんの血は遅かれ早かれ、危険な妖怪達のそれに摩り替わっていただろう。いや実際にそうなったのだ。それも何より紅い生き血を欲する、何より危険な悪鬼のそれに……!!
目の前で起きた現実が信じられなかった。慟哭を抑えるのに必死だった。どれだけ歪んでいても彼女は決して、あんな事をするような人じゃなかった筈なのに……。“それ”に気付いていたならどうして彼女は妖怪を屠り続けたのか。
後戻りなど出来ないと分かっていたのか。それとも自ら人の自分に見切りをつけ、その身を血に染めていったのか。ならば、信仰する二柱の神の御心のまま、霊夢さんや魔理沙さんを真似て妖怪退治を始めた私も、いずれは……。
途端に、恐ろしくなる。もしも堕ちる時が来たら私は何処まで堕ちていくのか、と。
そんな風にあれこれ考えているうちに気配は次々と数を増やしていく。椛さんの襲撃でその意味を知った私は、咄嗟に拝殿に飛びこんで身を潜め、そっと開いた障子の隙間から境内の様子を覗う。先程まで血を抜き取られて一人残らず倒れていた人間や妖怪達。
そんな者達はみなむくりと起き上がり、虚ろな紅き眼をもって、何より濃い生の香を求めて境内を彷徨い歩いている。一人、また一人と起きあがる死者達。俄かにはとても信じ難い光景に、私は歯をカチカチさせる。そして自分がいつか訪れる“その時”を恐れているのがはっきりと分かる。
外の状況を見るためにほんの数cmだが障子を開けてしまっていたためか。私の生の香がその隙間から漏れ、風に乗って境内に注ぐ。それを合図に嘗ての山の人妖達…いや屍鬼達は拝殿の方に視線を向け、一斉に此方へ向かってくる……!!
私と彼等彼女等を隔てるのは薄い障子だけだ。突破されるのに然したる時間は掛からず、拝殿は屍鬼の群れに埋め尽される。
「いっ、いや!嫌ぁぁあぁああああ………!!」
最早反撃する術もない。大挙して押し掛けた屍鬼達に抗しきれず、私は首に、腕に、胴体に……。
体の彼方此方に幾度も、万遍無く襲い来る痛みに、とうとうその意識を手放す。
眼前に滑り落ちた深き闇の所為で己に起きている事態を把握できない。恐らく今頃屍鬼達は私の血を啜り、肉を食らい、爪を何度も突き立てているに違いない。
だが、それを自覚する機会も私にはなく。いつ訪れるとも知れない魂の安らぐ場所の使いの到来をただ待つ事だけが、今の私に出来る唯一だった……。
チュン…チュン……。
「んっ、あぁ……」
鳥の鳴き声が私に朝を告げる。混濁する意識で一面印象派状態の視界が徐々に色彩、そして輪郭を取り戻していく。
住処である守矢神社の拝殿、そこに私は倒れていた。徐々に力が戻ってくる身体をどうにか起こして周囲を確かめる。
あの屍鬼達が…神社の境内に安置していた妖怪達が突入した痕跡。それが生々しく残っていた。あぁ、何て事だ。
これだけ拝殿を滅茶苦茶にしてしまったのだ。私は神奈子様と諏訪子様に何て言い訳すればいいだろう。ありのまま真実を言っても恐らく信じてはもらえないだろうし。
溜息をつきながら屍鬼達の猛攻を浴びた身体に目をやって……思わず、呼吸が止まる。
まだ“そこ”に幽かな痛みはあるが、確かにまだ残る筈の外傷は、綺麗さっぱり消え失せている。何がどうなっているかはわからないが、取敢えず命は取り留めたようだ。大袈裟に一息ついて、人妖達の亡骸を安置していた境内に目をやる。
(…………!!)
瞬間、時が止まった。
境内に安置していた、甘く見て百以上はあった亡骸は一つ残らず、跡形もなく消え失せている。
私はあの夜、月明りの下、血を欲する屍鬼となって甦った妖怪達を見た。それどころかこの拝殿で彼等に周り囲まれ、襲われた。
あの者達は何処へ行ってしまったのだろう?往々にして彼の者達は日の光に弱いと聞いていた。この陽光で灰となって消え失せたか、それとも洞穴や大木のうろあたりに身を隠しているのか。万が一にも人里に下りていたら…。あぁ、ここから先はあまり想像したくはない。
「お〜い、早苗。大丈夫か?」
後ろから声が聞こえた。あぁ、この声は神奈子様のそれだ。無論諏訪子様もいるだろう。はからずも二柱には心配をかけてしまった私だ。ここはきっちり詫びを入れるのが筋だろう…そう思って後ろを振りかえる。
(―――――っ!!)
そこに、二柱の姿はなく…というより、そこにいたのは私の信ずる二柱ではなく。
「ぃ…ゃ……」
「おい、どうしたんだよ早苗。いつにもまして顔色が悪いぞ?」
「いっ、嫌ぁ!化け物ぉ!!!」
身の丈四メートルは遥かに越す手足の生えた大蛇。身体の表面に無数の疣が浮かんだ毒々しい色の大きな蛙。
誰から見てもあまりに恐ろしい化け物が、私を見つめていた。直ぐにでも食らい付かんという刺すような眼差しをもって!!
「お、おい!いきなりどうしたんだ早苗!」
「や、やめて!来ないで…来ないでよぉ……!!」
「本当にどうしたんだよ早苗!しっかりしないか!!」
巨大な蛇と蛙の化け物。二匹が少しずつ距離を詰めてくる。いけない…このままじゃ、殺される!!
「嫌ぁぁぁ、嫌ぁぁぁあああっ!!!」
わき目も振らずに、振り返る事もせず、全力で石段を駆け下りる。当然行き先など定めてはいない。
あの化け物が追って来ない場所なら、何処でもよかった。あの化け物が私の背に何か叫んだ気がするが構わず走り続けた。
助かりたい、死にたくない、そんな思いだけが私を支配していた。
そうして辿りついた先は人間の里。昼下がりの人里はいつでも活気に満ちている。
だが、何かが違う…通りを行き交うぽつぽつとした人々の形が、何処か違う。誰も彼も肌は病的に白く、目は紅い。
そう…あの時の、魔理沙さんのように。
…絶対可笑しい。彼女だけならまだしも、何故里の不特定多数の人間までがあんな風になってしまったのか?考えながら歩いていくうちに出た裏通り。だが、そこは明らかに、いつもの里と違っていた。
「な、何…これ……!!」
それは、人と呼べるかどうかすら疑わしい、あまりにおどろおどろしい者達の群れ。
一糸纏わぬその身体は彼方此方がぶよぶよに膿み、眼球や内臓が飛びだし、その足取りは覚束ない。それは人かもしれないが、その人としての形を為さない肉の塊が、口元から重低音を漏らしながら里を闊歩している。例えるなら、嘗て学校の理科室に置かれていた人体模型。それが長く夏の烈日に絶え間なく照らされて、ドロドロに溶けたような姿の肉塊…それが通りに溢れている。
「いっ、嫌ぁ!!誰かぁああ!!」
気が付くと私はまたしても悲鳴を上げながら里を直走っていた。一体全体里に何が起きているんだ?
とうとう息を切らしてへたり込んでしまった私に、一つの影が重なる。力を振り絞って顔を上げ、影の正体を確かめる。
「大丈夫ですか。早苗さん……」
「あ、阿求、さん……」
里に棲む御阿礼の子。確か…阿求さんだったか。幻想郷の歴史、人間や妖怪のデータを幻想郷縁起という形で纏め人間達に伝えていく使命を負う、この世界の頭脳の一人である。
「…お疲れみたいですね。顔色が悪いですよ?宜しければ私のところへ行きませんか」
「は、はい、有り難う、御座います……」
里がこんな状況でも、何故か阿求さんはその形を留めている。どうやら彼女は無事のようだ。
どんな形であれあの化け物達から逃れられる事を知った私は躊躇いなく、彼女について行く事を決める。
案内された稗田邸は里の中心部にあった。この辺りでは割と大きな屋敷で、無論使用人も沢山いる。あぁ、何だか羨ましい。
だが、その使用人だろうか…。邸内を歩いているうちに目に付くのは、白目を剥いてバタバタと倒れている沢山の人間達。眠っているだけか、それとも死んでいるのか?誰が見ても可笑しな場所にいるというのに、仮にもこの屋敷の住人である阿求さんは全く動じていないようだ。見た目によらず随分肝の据わったお人である。
静かな奥の間に辿りついて、私は今までに起きた事を事細かに御阿礼の子である阿求さんに話す。
「一体、里に何が起きているんですか?こんな事初めてですよ」
「落ちついてください、早苗さん。今日は何にも起きていません。…少なくとも、博麗の巫女が出動するような事態は」
「そんな!森に新しく吸血鬼が現れて、殺された人間や妖怪が生き返って、山はもう大パニックですよ!?
私も危うく殺されるところだったんです。それに今も、里には恐ろしい化け物が溢れかえっていて……」
「…早苗さん。お疲れみたいですね……。まぁ、信仰のためにと幻想郷中を毎日駆けずり回っていれば無理からぬ事です。寝床を用意しましょうか?暫らく休めば元通りになるでしょう。貴女の悪夢も消える筈ですから」
段々、確信が持てなくなる。私と阿求さん、どちらが正しいのかも徐々に曖昧になる。
こうして言われてみると阿求さんの言葉を全て否定するわけにもいかなくなる。少なくとも“お疲れみたいですね”という言葉には、私自身も首を縦に振らざるを得ないだろう。言われてみれば私は今日まで休む間も無く、信仰を得るための布教活動や妖怪退治に精を出してきた。
だが、私だってやはり人間だ。疲れの一つや二つは感じるもの。忙しさに感けてそれを口にする余裕もなかったし、泣き言をいっている暇など無い事も重々承知していた。そして恐らくこれからも。だけど、今この時だけは……。
あれこれ考えているうちに、そのまま私は泥のように眠ってしまった。
…一体どれくらい眠っただろうか。目を醒ました頃にはすっかり夜が更けていた。行灯の優しい光が部屋を満たしている。
長い事眠った甲斐があったか、頭の方はもうすっきりしている。身体の疲れも既に消え去っていた。
あぁ、これで一先ずは大丈夫だろう。阿求さんにお礼をしたら神社へ戻ろう。そう決めた私は布団から這い出して、阿求さんに会いに行こうと考える。
…ところがだ。広い稗田邸内をどれだけ歩いても、どうしたわけか家主である阿求さんの姿が見当たらない。
「阿求さん?」
返事なし。一体何処に行ってしまったのだろう。彼女を見つけようにもこの広い稗田邸は、当然部屋も多い。結局沢山あるそれらの部屋を虱潰しに探すしかないようだ。何も告げずに邸を去ってしまうのは私の良心が咎めた。
そして、大体二十五番目の部屋だろうか。その扉を開けた私は、目の前に飛びこんできた光景に……。
「あ…あぁ……っ」
思わず、戦慄する。探し求めた阿求さんはそこにいた。だが、その阿求さんの行いに、私は完全に動を失う。
彼女の細い腕に抱かれているのは、あの通りを闊歩していたぶよぶよの肉塊。白目を剥いた必死の形相で天を仰ぎ、大袈裟に開かれた口からは、か細い悲鳴のようなものが聞こえる。阿求さんはそんな肉塊の首筋に食らいついて恍惚とした表情を浮かべている。
時折聞こえるちゃぴっ、ちゃぴっ…という音が、余りに生々しい。背中に液体窒素でも流し込まれたような強烈な寒気を憶える。
「あ、あきゅ、う、さ…ん……っ」
「あら…早苗さん。おはよう御座います。よく眠れましたか?」
「い、一体、何をやっ、や、やってるんで、すか……っ!?」
「何って…お食事ですわ。丁度お腹が空きましたから。宜しかったら早苗さんもどうです?…美味しいですよ?」
そっと振りかえった阿求さんの目はやはり赤色に、肌は抜けるような白色に。使用人と思しき肉塊の血で汚れた口元にはやはり鋭い牙が。更にじっと見てみると、首筋には何者かに噛まれたかのような、丸い二つの傷痕が……!!
(…阿求さんまで…!)
「あぁ、美味しい。ふふ…うふふふ…うふふふふ……!!」
「嫌ぁあああっ!!」
一目散に稗田邸を飛び出した私はろくに行き先も定めぬまま里を駆けずり回った。
辺りを見渡す余裕も私にはなかった。走り回っているうちに私はまた別の所に来てしまったようだ。どこかの世界遺産のような萱葺きの屋根の家が乱立するこの区域。恐らく里の外れの住宅地だろう。さすがに夜も更けた所為か、周囲に人の気配は感じられない。
あぁ、よかったと胸を撫で下ろす。あの化け物達も、今はここにはいない。安堵した所為か、全身に疲労感がどっと押し寄せ、私はその場にへたり込む。どうか夜明けまで、誰も来ないで欲しい……。
「うわぁあああ!で、出た!化け物だぁ!!」
だが、そんな私の切なる願いはホンの数秒で掻き消された。まだ出歩いている者がいて、その者が私を認めたようだ。
あっという間に私は鎌や斧、鉈や包丁といった凶器、そして明々と燃える松明を手にしたあの筋組織剥き出しの化け物達に取り囲まれてしまった。怒鳴り散らす化け物達は皆一様にギラギラした、明らかな殺意を持った眼差しで、この私を見ている。
「吸血鬼め!今度はここを襲ってきたか!」
「何でお前なんか生まれてきたんだ!殺してやるぞ!」
「返して!私の坊やを返してよ!!」
筆舌しがたい悪口雑言をもって化け物達は騒ぎ立てる。無論それらは全て私に向けられたもの。聞くに堪えない罵声のオーケストラ。
吸血鬼呼ばわりされる筋合いはない。生まれた事を否定されたくもない。罪もないどこぞの子供を殺した憶えもない!!
思わず止めてくれと叫び出しそうになる。だが化け物達はそんな暇すら与えずとばかりに、絶え間なく私を罵り続ける。
と、遂に一人の化け物が…恐らくは男だろうか、私の前に躍り出る。その手の得物は木材に穴を開ける為の細身の斧…。一般には目戸斧(めどよき)と呼ばれるそれ。
「これ以上好き勝手されちゃあ困るんだよ。くたばれ、吸血鬼」
男は大上段に目戸斧を構える。月の光を受けた斧が一筋の光を走らせた。何て事だ。このままでは、私は……!!
ブゥン!!
振り下ろされた斧を横に飛んで回避する。化け物はすっかり呆気にとられた顔をしていたが、私自身も驚いていた。まさかこれだけの事をする力がまだこの体に残っていたなんて……。
「しゃらくせぇっ!!」
「――――――――っ!!」
化け物の死に物狂いの横薙ぎを咄嗟に屈んで回避した私は一気に間合いを詰め、掌全体で眉間を挟んで包むように頭を握りこむ、所謂アイアンクローの形で化け物を捕えた。
右の掌に思いきり力を込めると、ギリギリ、バキバキという嫌な音があたりに響く。化け物の骨が砕ける感覚が掌を伝う。
「がっあ、がぁぁぁあぁあぁ!がががががぁ!!」
力を込めつづけるうちに肉が潰れ、皮が裂け、飛び出した血が私の掌を紅く染めていく。それでも私は締め上げる力を緩めない。
「うう、うぁぁ、うあぁああッ!!」
「あ、あいいぎぁがぁあぁ、あががががががぁぁぁぁ!!」
私と化け物の叫びが辺りに木霊する。周囲の化け物達はそれを見て、その手の凶器を振るう事すら忘れただ呆然と立ち尽している。
「ひっ!!!!」
そうして数分程握り締めているうちに、化け物の顔は熟れすぎたトマトの様に潰れ、あたりに鮮血と肉片を撒き散らす。
私の掌にも生暖かいその一部がこびりついた……首無しとなった化け物がもう息をしていない事は明らかだった。
(あれ…私、こんなに強かったっけ……?)
倒れた化け物を前に私は呆然と立ち尽くす。虚ろな瞳で周囲の化け物達に視線を向けると、皆その表情を一変させた。
「ひぃ…ひぃぃいぃいい!!」
「い、いや…!化け物……!!」
「やめてくれ…殺さないでくれぇ!!」
化け物達は蜘蛛の子を散らす様に、その場から逃げ出した。信じられない。その化け物に化け物呼ばわりされた。胸の奥底から怒りに似た何かが込み上げてくる。いや…殺意とでも言うべきか。
(化け物のくせに…化け物のくせにッ!!!!!!!)
気がつくと私は。
逃げ出した化け物達を追いかけ。
一人、また一人と。
首を折り、心臓を貫き、四肢を千切り、頭を潰し。
次々と、屠っていった。
一頻り暴れた後にはそこにはただ、私に凶器を向けていた無数の肉塊の化け物が無残に転がっているだけ。全身で荒い息をしながら私はそれを見つめている。
危ないところだった。このままいれば私は間違いなく、奴等に滅多刺しにされていた。少々やりすぎた感も否めないが、罪悪感はなかった。彼の者達は化け物で、私は人間。何一つ問題はない。正当防衛だ。
…さて、これからどうしようか?神社へ戻ろうか、別の場所に身を隠そうか、それともこの異変について何か知っていそうな魔理沙さんに会いに行こうか…。
「化け物はこっちだ!捕まえろ!事と次第によっては殺しても構わん!!」
あれこれ考えていると…背後から無数の足音が、そして男達の叫び声が聞こえてくる。じっと目を凝らして、また、戦慄する。
私を襲った者達を上回るほどの勢力をもったあの肉塊の化け物達が、此方へ押し寄せてくる。しかもその手には刀だの、槍だの、村田銃だの、人を殺すための道具。
…まさか、あの者達も、私を化け物などと?そして私を殺そうと……!?
「もう…もう、嫌……っ!!!」
溜まらず私は彼等に背を向け、全速力でその場を走り去った。何も考えずに只管、逃げつづけた。
…その後一体どれくらい歩いたかは憶えていない。当然、ここが何処なのかも分からない。周囲はただ鬱蒼とした木々の群れ。
妖怪の類の気配はないが、当然人の気配も無い。あれほどの大量虐殺を仕出かしてしまったのだ。皆私を恐れて何処かに身を潜めているに違いない。もう私を守矢の風祝として見てくれる者はいないだろうし、当然信仰をしてくれる者などいないだろう。何て事だ…文字通り、何もかも失ってしまったらしい。
「ふぇ…っ。ふぇぇえぇ……!!」
恥も外聞も最早なく、とぼとぼと歩きながら私は泣きじゃくっている。あの化け物を握り潰し、周りにいた他の化け物を八つ裂きにした時の大量の返り血が服や髪に飛び散り、皮膚に沈着し、どれだけ洗い清めても決して落ちない穢れとなっている。出会った者達の姿、そして叫びが何度もフラッシュバックし、もともと脆弱な人のそれである私の精神を容赦なく侵す。
「嫌…もう…嫌……こんな世界は嫌ぁ……!!」
どうしてこんな事になったのだろう。突然にこんな滅茶苦茶な世界に放り込まれるなんて、私は一体何をしたのだろう。
魔理沙さんは恐るべき吸血鬼と化して私の血を欲し、信じていた神奈子様も諏訪子様もただの恐るべき化け物に摩り替り、里は吸血鬼と血塗れの肉片のような異形達が踏ん反り返り歩いている。外の世界に溢れ返るどれほど悪趣味なSF映画でもここまでではない。
確実にこの幻想郷に大きな異変が起きている、それだけははっきりと言い切れる。でもそれならどうして霊夢さんは動かないんだろう。神社で日和見を決めこんでいるのか、それとも彼女も私のように怯えているのか…。どちらにしても、私には全く手の打ちようがない。
私に出来ることはただひとつ、ただ、一心に、誰かに救いを求めるだけ。無力感に打ちのめされる余裕も今はなかった。
もう誰でもいい。私をこの狂った世界から助け出してくれるなら、この際誰でもいい……。力なく私はその場に蹲る。
「東風谷早苗さん…ですね」
その時だった。私の目の前…夜の闇の下の畦道、その真ん中に、空色のエプロンドレスの女性が立っている。
はっきりと彼女は私の名を呼んだ。筋組織が剥き出しの異形に満ち溢れた幻想郷の中で、彼女は阿求さんと同じように人の姿を留めている。
軽く波打ったブロンドのショートカット。爛々と輝く赤い瞳。抜けるような白い肌。彼女は間違いなく、魔理沙さんと同じ魔法の森に居を構える魔法使いのアリスさんだ。
「魔理沙様が、貴女をお待ち致しております」
…そう彼女は続けた。その言葉に思わず私は首を傾げる。
魔理沙様?一体いつの間にアリスさんと魔理沙さんは主従の関係になったのか?そしてそれは今幻想郷に起きている異変と何か関係があるのか?
だが、こんな世界でも正常なアリスさんの言う事だ。…ここは彼女を信じよう。
彼女に連れられ辿りついたのは、森の中のそれとはとても思えない白い壁の館。魔理沙さんの家とは雲泥万里だ。恐らくアリスさんの家だろう。だが、どうしてここで魔理沙さんが待っているのだろうか?
「只今戻りました、魔理沙様」
アリスさんに続く形で奥の間に辿りつく。そっとその扉を開けた先に、彼女はいた。腰に紅いリボンをあしらった黒いワンピースに白いベレー帽。抜けるような白磁の肌に紅い瞳、口元には牙。服装こそ違っていたが彼女は間違いなくあの日に見た魔理沙さんだ。その姿は、余りにも私の知る“人”からは遠くかけ離れたそれだったが。
「魔…理沙、さん……っ」
「おぉ、帰ってきたか。お疲れさん、アリス」
深く礼をして部屋を去るアリスさん。理由は分からないが、今の彼女は魔理沙さんのメイドとして傍に仕えているらしい。
奥の間にいるのは私と魔理沙さん、二人だけ。改めてまじまじと目の前の魔理沙さんを直視して、息を呑んだ。
窓から差し込む冷たくも優しい月の灯りに照らされた彼女は…余りに、美しかった。同性の私でさえ思わず見惚れそうになる。
「ふふ…早苗。お前あの時から今まで随分な目にあって来たって話じゃないか。…同情するぜ」
「魔理沙…さん……」
「どうした?…ははぁ、お前何か聞きたそうな顔してるな。言ってみなよ」
「一体…どうなってるんですか。なんで魔理沙さんが吸血鬼なんですか……」
「……フランの、お陰だよ」
段々、見えてきた。私の世界に起きていた出来事が。
誰よりも力に執着し、今以上の力を欲した魔理沙さんは紅魔館の吸血鬼・フランドールに己の血を与え、自らの意思で彼女と同じ存在となった事。
そうして吸血鬼の身体と力を得た魔理沙さんは交換条件として、その牙でもってフランドールの仲間を増やしていく宿命を負った事。
私が見た阿求さんもアリスさんも、魔理沙さんの牙を受けた事で彼女と同じ悪鬼となった事。そして魔理沙さんは私も仲間にするためにあの夜神社を訪れた事。
だがあの夜、吸血中に私が彼女の牙に抗った事で人間の血が抜けきらず、私は吸血鬼と人間の血が混在した状態になった事。拝殿に押し寄せたあの嘗ての妖怪達でも私の中の人間の血を全て抜く事は出来なかった事。
そうして私は吸血鬼化が中途半端な形で食い止められ、人と吸血鬼の間の、アンバランスな状態にある事。私が見たあの世界は、その状態が見せる幻覚のようなものであったという事……。
「じゃあ、私は…あの時……」
「そういう事。しっかし一村皆殺しなんて随分とまぁ大それた事仕出かしてくれたなぁ。里は今頃大騒ぎだぜ?」
何て事だ…あの異変は幻想郷ではなく、他ならぬ私の中で起こっていたのだ。吸血鬼化の兆候が食いとめられていた所為で、私の目には同じ吸血鬼がまともな人間に見え、他の妖怪や人間があのぶよぶよの化け物のように映っていた。
それに気付かずに私はただ彼等彼女等に怯え、逃げ回り、そして……!!
…取り返しのつかないことをしてしまった。このまま神社に戻れば私は間違いなく人間達に捕まり、最悪人間の敵として処刑されてしまうだろう。若しくは霊夢さんに妖怪と見なされて退治されるだろう。
最早、逃げ場は何処にもないのだ。気がつくと私は、魔理沙さんのその胸に縋りついて、傷ついたレコードのように一つの同じ旋律(ことば)を繰り返していた。
「た…す、…け、……て……私、を、たす…け、て……」
一体どういう思いで助けてと言ったのかは分からない。彼女は私を殺そうとしたのに。自分の住まう常闇の世界に私を縛ろうとしたのに。
ただ、何故か私には、魔理沙さんならきっと、今の私がいる地獄のような世界から引き上げてくれるという確信があった。そこは吸血鬼の…生ける屍の胸なのに……やけに暖かい。春の暖かな日差しと柔らかな風の中にいるような感覚だった。
「…あぁ。助けてやるよ」
その言葉は、私の直ぐ耳元から聞こえた。それが止んで暫らく後。
(………んっ!!)
首筋に、何かが突き刺さるような痛みが走る。甘い吐息が項を伝う。
「人と吸血鬼の血。それが混じった状態がそうさせるなら、人の血を全て流しきればいいんだ」
それをきっかけに襲ってきた、傷口から血が…私の中の人間が、抜け出ていくような感覚。心拍も体温も急激に下がっていき、視界がどんどんぼやけて眠気すら覚えるようになる。だが……。
(意識が…なくならない……)
不思議だ。血をこれほどまで大量に抜かれれば、普通だったら私はとっくに死んでいる筈なのに。意識はぼんやりとしたそれだけど、フッとなくなる事はなかった。
「さて。第一段階は完了ってトコだな……ほら、早苗。飲みなよ」
魔法使いが儀式のために使う黒塗りの短剣…アサメイと、魔理沙さんの白く細い腕が、私の前に差し出される。
それだけで直ぐに理解する。躊躇いなく短剣を手にとって、切先を腕に走らせ、そこから漏れ出る赤い蜜を啜る。
(美味しい………!!)
今まで傷を負う度に舐め啜って来た鉄錆びたそれではなく、甘美な果実に似たそれが、口腔の中に広がっていく。これほどまで美味なそれならば、いくらでも飲めそうな気がする。
あぁ、もっと、もっと欲しい……。舌の勢いが、どんどん増して、遂に止まらなくなる。蜜を啜る度に私の中の何かが激しくそれに呼応し、身体の奥底から力が込みあがってくる。
脳の靄が少しずつ晴れていき、爪が、牙が、硬く鋭く成長する感覚をその身に憶える。やわな背筋を打ち破って出現した蝙蝠の翼が、あたりに強烈な風を巻き起こす。
それは、ほんの数分程度で終わった。魔理沙さんは完全に人でなくなった私を見つめ、かすかな笑みを浮かべながら告げた。
「歓迎するよ……早苗。お前は今日から、私達の仲間だ」
「あぁ…嬉しゅう御座います。我が崇高なる魔理沙様……」
なんだ…初めからこうすればよかったのではないか。あの時に魔理沙様を拒んでいなければ、ここまで苦しむ事もなかったのに。もっと早くこうして吸血鬼の身体を手にしていれば、人である事の哀しみに震える事もなかったのに。
私は今までの自分を深く悔いた。そして心から魔理沙様に感謝した。生ける者の血を糧に生きる存在だからこそ味わえる、無常の慶びに思いを馳せた。
魔理沙様の、そしてフランドール様の望むもの。私も魔理沙様と同じように、吸血鬼を…仲間をこの世界に増やしていこう。そして、悲しき全ての生きる者達の孤独を、私のこの手で癒して差し上げよう…。
そう私は決意する。それはこの世界に、新たな吸血鬼が誕生した事を、高らかに告げていた。
…あれから数日。黒い悪魔、幻想郷屈指の魔法使いにして森の吸血鬼たる魔理沙様。
彼女のメイドとして、新米の吸血鬼として私は…東風谷早苗は生きている。日々己を高めるための魔法の研究と、
仲間を増やすための人間や妖怪の吸血に精を出す魔理沙様。私は日々そんな魔理沙様の髪をとかし、魔理沙様にお茶を淹れ、魔理沙様から吸血鬼としての能力を行使するための指導を受ける。
時には私達のメッカである紅魔館よりお出であそばされた我等が始祖、フランドール様のお相手もして差し上げるのだ。始祖たるフランドール様はそれはそれは美しく、魔理沙様には非常に懐いておられる。その御姿を見る度に私は幸せになる。
私達夜の世界の住人達。魔理沙様とフランドール様はきっと、その未来を照らす眩き光となられるだろう。
いつかは私も吸血鬼の仲間を増やす尖兵として、夜の闇の中へ繰り出す時が来るだろう。そして直ぐにその時は来た。
「どうした、早苗?まさか直前になって怖気づいたんじゃないだろうな」
「滅相も御座いませんわ、魔理沙様。ただの人間の子供など恐るるに足りません」
「あぁ、なるほど。初めて“人”の血を味わうからそんなに興奮してるのか。
……人の生の味、あれは本当いいもんだぜ。お前も絶対病みつきになるさ」
「はい。私もそれが楽しみで仕方ありませんわ……」
「ふ…っ。お前、すっかり吸血鬼が板についてるぜ。じゃ、夜が明けちまう前に行きますかね」
最早私は人などという矮小な存在ではない。人の生を啜り、それを糧にして、夜の闇を支配する権利を得た悪鬼である。
最大級の愉悦に私は心をときめかせる。この蒼き夜空の下はまさに私達夜の住人の天下である。この空の下ではあらゆる事が許される。
私の目には最早人間の姿は、あの見るもおぞましいぶよぶよの肉塊には映らない。闇に落ちた里を行く人間や妖怪達。
彼の者達は皆瑞々しく、歯応えがあり、そして甘い血の香を漂わせた、私達にとっては最高の食材である。
夜空に躍る白き月。それを紅く美しく染め上げるべく、私達は闇を飛び、その爪を、その牙を振るうのだ。
自慢の蝙蝠の翼をはためかせて夜を翔け、辿りついたのは人里の中心にある大店の商家。今宵の私の標的はここの一人娘だ。
邪魔な家主や使用人たちをその爪で残らず葬り去り、直ぐにそこへ辿りつき、かの少女に最高の笑みを…。
彼女が人間として見る最後の表情を向ける。
「う…う〜ん…んぇ……?」
―こんばんは、お嬢ちゃん。
「ふぇ…っ。お、お姉ちゃん、誰……!?」
―ふふ。そんな事はどうでもいいじゃない。
「え……?」
―お嬢ちゃん。私、今すっごく喉が渇いてるの。貴女って、とっても美味しそうね。だから……。
「貴女の血を、ちょうだい?」
産廃百物語Aなる素敵企画様の告知を拝見して、参加表明すらロクにせずに、ここぞとばかりに新作、投稿してみました。あぁ〜、間に合ってよかったなぁ。
今回の題材は本家の創想話やpixivとかで展開していた吸血鬼魔理沙。自分でやってすっかりハマってしまいました。魔法使いで吸血鬼とかって、自分で書いてアレだけど勝てる気しませんわ…。
ちなみに今回のテーマはズバリ「侵食」。早苗が魔理沙の牙で既に人でなくなっている事に気付かないまま、というかそれを認める事が出来ないまま、どんどんおかしくなって行くという恐怖を書いたつもり。
吸血鬼の血が入った早苗の眼には吸血鬼が正常な人に見え、他の人間や妖怪が化け物に見えるという描写の元ネタは『SIREN』のあの人です。
しっかし、吸血鬼の世界は研究すればするほど奥深いですなぁ。
小鎬 三斎
作品情報
作品集:
28
投稿日時:
2011/08/18 15:24:56
更新日時:
2014/04/20 06:01:42
分類
産廃百物語A
早苗
魔理沙
吸血鬼
侵食
微グロ
結局霊夢は気付いたのかな?
それとも生来の破壊衝動に身を委ねた結果なのか
これは、常識どころか、人としての理からまで逸脱した少女の物語。
閉じた生態系で、開放された少女の物語。
徐々にセカイが塗り替えられていく様が、ああいったビジョンを幻視させたのでしょうね。
ん? 博麗の巫女が動かない?
どうして、実験室のシャーレで起きている生存競争なんぞに介入せにゃならんのだ?
たとえ吸血鬼になることを拒否しても、もうまともには生きられない。