真夏の白玉楼。庭仕事でもすれば顔や背中が汗だくになる季節。
私は今日も剪定や掃除をこなしている。ああ、井戸水が美味しい。
こういう暑すぎる日は早めに仕事を切り上げたことにして寝転がるに限る。
汗をかきすぎて気分が悪くなると食欲がなくなるし、体調には気をつけたいものだ。
おや? 今日は客が来たらしい。誰かが誰かと喋りながら白玉楼の門を潜った模様。
汗を拭って出迎えに行ってみると、見知った顔ぶれが揃っていた。
「よう」
「こんにちは」
「あつーい」
やって来たのは博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜だった。避暑地を探してここまで来たそうだ。
「適当な幽霊借りてもいいか?」
「幽霊が怨霊に変質しちゃっても知らないわよ」
魔理沙がそこら辺を漂っている幽霊を腰にぶら下げていた瓶に詰めようとする始末。
さすがにそれは辞めて欲しいとお断りした。
「瓶の内側にはバター塗って出られないようにしてるから、いけるって」
「そういう問題じゃないの」
「ちょっと、お茶は出ないわけ? 冷たい水でもいいけど」
「わかったわよ、もう。いきなりやってきて、どうしたのよ」
「最初は神社が涼しそうだと思って」
咲夜がそう言いながら幽霊が集まる場所に立っていた。だからそういう涼み方は辞めて欲しいのに。
「そうそう。私もそう思ったんだが、どうも下界は蒸し暑くてな」
「あなた、その下界というか顕界の住民でしょう……どこから目線なのよ」
「気にするなって! ところで冷たい麦茶と水ようかんはまだなのか?」
「あのねー……」
使いの霊が水ようかんをこしらえたばかりらしいので、幽々子様の分は置いといて私と彼女達の分を用意してやった。
縁側で駄弁りながら待っている彼女達のところへ行ってお茶を配ると大変喜ばれた。
「やっぱこれだよ、これ! いただきます!」
「はい、はい」
魔理沙はすごい勢いでようかんにかぶり付いた。お腹でも空かしているのだろうか。
霊夢と咲夜もつまみ始め、四人でお茶しながら異変の武勇伝を語り合う。
この前はこんな妖怪が居ただの、結局黒幕が成し遂げたがったことは大したことがなかっただの。
話し飽きたら弾幕ごっこなんか始めちゃって、わいわいがやがや。魔理沙がはりきって私に挑んできた。
私が勝った。魔理沙が負けた。え? 次は私と霊夢で? 連戦なんて辛いわね。それに負けちゃったし。
休憩してから咲夜とも弾幕ごっこしてたっぷり体を動かした。
決闘が終わればまたお茶を飲みながら新しいスペルカードがどうとか、弾幕の仕組みについて語り合ったり。
あのときこうしていれば弾幕やり過ごせたのにとか、模様が綺麗で良かったとか。
そうこうしている内に陽は沈み始め、夜が近づく。
夏の間は陽がなかなか沈まないので、結構遅い時間になってしまったのかもしれない。
※ ※ ※
あれから彼女達は帰って行った。やれやれ、庭仕事の後片付けが途中だったというのに。
でも遊びに来てくれて素直に嬉しかった。
そうそう、最近おかしなことが起こるようになっているのだ。それは私の下着が無くなったりすることである。
折角だから彼女達に相談してみれば良かっただろうか。
幽々子様には当然相談したし見回りだってしっかりやっているが、毎日何かしらの盗難が起きているのだ。
幽々子様には被害が及んでいないので、私を狙っているに違いない。犯人に心当たりは全くない。
洗濯係の幽霊が私の下着をくすねているのだろうか、と疑ったことはあるが冥界にいる霊は基本的に悪くない霊。
そもそも霊の体で私の下着を欲するような奴がいるわけない。
今私が白玉楼ではなく人里近くの屋敷に住んでいる、となれば下劣な男の仕業かと思いつくのだがここは冥界。
普通の人間は基本的に居ないし、来れない。霊夢らは別である。
今のところ下着泥棒なだけだが、エスカレートされない内に何とかお縄にかけてやりたいところだ。
※ ※ ※
朝になって目が覚め、眠い目で瞬きしながら枕元を探す。おや?
いつも頭に被っているカチューシャが無くなっていることに気付いた。
落とした? そんなはずがない。だって寝る前に外していたのを覚えているのだから。
今度は装飾品をやられてしまったか。よりにもよって枕元の近くに置いてあるものを盗まれてしまうとは、不覚。
気持ちよくグッスリ眠っていたとはいえ、泥棒の気配を感じ取れなかったとは。
※ ※ ※
また盗まれた。今度は胸のリボン。それと今回変わったことに、この前盗まれたカチューシャが返ってきたのだ。
ただ、カチューシャは妙な液体まみれだった。その液体は無色なのだが、なんというか唾液の匂い。
まさかこれを口に含んだりしていたとでも言うのだろうか? 気色悪いのでこれはもう捨てよう。
カチューシャは新しいのを幽々子様に買っていただくしかない。
※ ※ ※
気がついた。今私は布団の中に居る。部屋は真っ暗。深夜に目覚めたのだ。
何者かが近づいてきているのがわかる。少しずつ頭が冴えてきた。私は布団を蹴り、すぐに刀を取った。
そのときだ、刀を取るのに抵抗を感じたのだ。誰かがこの刀を盗ろうとしたのだ。
咄嗟に手を出した。この変態の泥棒め。今日こそ捕まえてやる。
拳は犯人の体のどこかに当たったらしく、犯人は大きくよろめいたらしい。
すかさず追撃を、と思って刀を抜いたときには犯人の気配が近くになかった。
逃げ足の速い奴。おまけに幽々子様と私の命の次に大切な刀を盗もうとしていた。
絶対に許せない。今度来たときは切り捨ててやる。
※ ※ ※
その次の日。例の彼女達が遊びにきた。
別にそれは何とも思わないのだが、不思議なことに三人とも顔の一部を怪我したみたいだった。
怪我といっても何かに打ったのか、青くなっている程度の者ばかり。
しかし魔理沙は絆創膏を張っていた。なんでも森を歩いているとき枝が頬をひっかけたらしい。そのせいで少し切ったとか。
霊夢は酔った萃香に殴られた、とかでしきりに顎を擦っている。
手加減して殴られたとは言っている。鬼の拳なんて手加減してもらわないと死ぬ恐れもあるだろうに。
咲夜は咲夜で美鈴との弾幕ごっこの最中頬を殴られたらしい。
私は昨日泥棒を殴った。何も意識していなかったが、私は面積の小さいところを殴った気がした。
そう、人体で言うとお腹や胸ではなく顔のどこかを殴った気がする。
そして遊びに来た三人が皆顔を怪我している。怪しい。
とはいえ犯人は私の下着を盗むような変態。彼女達が女性の下着に手を出すなんて到底考えられない。
いつもの様に四人でお茶をし、話すネタがなくなったら弾幕ごっこでもしようかとなる。
私はスペルカードを取りにいきたいので一旦部屋に戻ることにしたが、そのとき例の犯人の仕業だと思わしき悪戯に気がついた。
胸のリボンが返ってきているのだ。妙な液体まみれで。
驚いたとき咄嗟に部屋から飛び出る。その際、かかとが襖に当たった。
大きな音を立てたからか、彼女達がどうしたものかと様子を見に来た。
「妖夢、どうしたんだ?」
「盗まれたものが返ってきてるの。何かに濡れた状態で」
「ええっ!?」
皆が濡れたリボンを発見。みるからに触らない方が良さそうな感じの物体と成り果てたリボン。
私は気分が悪くなってきて、立っていられなくなった。
「妖夢、大丈夫?」
咲夜が私の肩を持って心配してくれている。
「これ、どうすんだよ」
「捨てるわよ、こんな気持ち悪いのつけられて」
「冥界に警察とかないの?」
「あったら苦労してないわよ」
彼女達は少しばかりだが心配してくれた。だがこれでハッキリした。彼女達は犯人じゃない。
四人でいて、私だけが離れて部屋に入るとリボンがあったのだから。
あの三人にはそんなこと出来るはずがない。あのとき誰もあの場を離れていなかったから。
「幽々子には相談したのか?」
「したけど……何も言ってくれないのよ」
「なんじゃそりゃ!」
※ ※ ※
陽が落ちればまた三人は帰って行く。
だが魔理沙が振り返り、私にこう言ってきた。「一緒に寝てやろうか?」と。
「大丈夫なの?」
「一晩ぐらい家空けたって平気だ。一人暮らしだからな」
「本当に良いの?」
「心細いだろ? 何かの役に立てるかどうか知らんが、怖がってるお前を見ていて可哀想で仕方がなくてな」
「ありがとう、魔理沙!」
私はこのとき心底嬉しかった。誰か居ればそれだけで安心出来る。
お風呂、夕食を私と幽々子様、それに魔理沙も一緒に済ませて夜の睡眠時間がやって来た。
私の部屋に二つの布団。片方は私で、もう片方が魔理沙。
「例の変態泥棒は毎日来るのか?」
「ええ……」
「捕まえるのは難しそうか?」
「かなりね。逃げ足が相当速い」
「なるほどな。ま、お前の剣より私の魔法のが速いだろうし、私とお前で組めば大丈夫だろ」
「ええ、お願いね」
「実は言うとさ……私のところにも泥棒が入ったんだよ」
「ええ!?」
「お前と似たような被害さ。下着とか盗まれて、そのあと濡れた状態で帰ってきたりするんだ」
「魔理沙……」
「たぶん犯人は同じ人物だ。捕まえることが出来ればお前も私も安心出来ると思うんだ」
「それで協力するって言ってくれたのね」
「ま、まあな。共通の敵だ、お互いがんばろうぜ」
「ええ」
私と魔理沙は布団に潜り込み、部屋の明かりを消す。
刀は枕元に。魔理沙はミニ八卦炉を懐に入れてあるようだ。
当然、さっき白玉楼中を見回った。門のかんぬきだってしっかり下りている。
それでも奴は入って来るのだろう。霊夢が居れば何かしらの結界を張れただろうに。
魔理沙と私なら捕まえられるだろうとは思っているが、それでも無理だったら今度霊夢に頼もう。
どちらにせよ捕まえるのなら、犯人に来てもらわなければいけないが。
眠気が少しずつ沸いてきた。目蓋が重たくなっていく。
魔理沙の名前を呼んでみたが返事は無かった。
顔をこっちに向けてきたので反応はあるのだが、もうすぐ寝入るという感じに見える。
何か言わないと眠ってしまいそうなのだが、眠たくて何を喋ればいいのかわからない。何も思いつかない。
やがて私の意識は沈んだ。
※ ※ ※
咄嗟に布団を吹き飛ばした。すぐさま刀を手に取り、暗闇の部屋を見渡す。
何か気配を感じたから起きることが出来た。なるほど、犯人が忍び足でこちらに向かっている様子。
ふいに誰かが私の腕を掴んだ。驚いて声を出そうとして、腕を掴んだのが魔理沙だと気付いた。
「驚かせてすまん」
「もう!」
「来てるな」
「ええ」
犯人には気付かれないよう、小声で喋る。一撃で決めたい。出会い頭に刀をグッサリねじこんでやるのだ。
それで沈んだ犯人に魔理沙が追い討ちをかけてくれれば大丈夫。
いや、刀の振りより光線の方が速いか。それなら魔理沙から先に攻撃してもらった方が良いことになる。
何か聞こえてくる。呼吸。犯人の息遣い。
荒い。微かにしか聞こえてこないが、呼吸を乱しているのがわかった。
もうちょっとで部屋の襖。身構える。さあ来い、捕まえてやる!
襖は中々開けてくれない。襖の向こう側に犯人が居るとわかっているのに。
はぁ、はぁと呼吸しているのがわかるほどの距離まで接近されているが、向こうが突然動きを止めた。
まさか、私達が待ち構えていることに気付いている? いや、そんなことはないはず。
私も魔理沙も、さっきから身動きせずじっと待っているのだから。
襖が僅かに揺れた。犯人が襖の引手に手をかけたのだ。
魔理沙が唾を飲み込んだ。少しずつ開いていく襖。
部屋の外から月の明かりが差し込んでいるせいか、開いたところから犯人の影が部屋に入り込んできた。
頭に何かヒラヒラしたものをつけているらしい。そしてもみ上げを編みこんでいるみたいである。
犯人の足が見えた。踵が高くなっている、ハイヒール気味のストラップシューズを履いているらしい。
ということは、犯人は今まで土足で上がりこんでいたのか? 部屋には靴の跡なんてなかったのに。
わざわざ靴底を綺麗にしてきたとでもいうのだろうか。それはともかくとして、犯人の全容が明らかになった。
犯人はメイド服を着ており、黒か暗い青形の色のベストを着用。その下は白のブラウス。
下半身にはエプロンを巻いており、その下はベストと同じ色のスカート。
片手には懐中時計が握られていた。頭のヒラヒラはホワイトブリム。
間違いない、この犯人は私達がよく知っている人物、十六夜咲夜だ。
「あらあら、ウフフ。待ち伏せされていたのね」
「咲夜、あなたがどうして!?」
「大声出されるとあの亡霊嬢が来ちゃうじゃないの。さあ妖夢ちゃん、今夜のドロワを頂戴ね」
咲夜が大きく口を開け、さっきの乱した呼吸を響かせながらこちらに近づいてくる。
「ああ、魔理沙ちゃんも居たのね。今夜は二人のドロワでアヘ顔ダブルドロワーズが堪能できそうですわ」
「見損なったぜ、咲夜! お前がこんな変態だったなんてな!」
「変態? この私が? まさか」
「変態じゃなかったら、何なのよ!」
「メイド長ですわ」
「死ね!」
魔理沙がすかさずミニ八卦炉を取り出し、点火した。そのまま最大火力で焼いてしまえ。
白玉楼が少々壊れたって構わない。咲夜を捕まえるためなら何をしてくれてもいい。
だがミニ八卦炉は火を噴かなかった。魔砲を撃ち出す前に魔理沙は咲夜に絡め取られ、全身をまさぐられていた。
「うわあああああああ!」
「魔理沙ちゃんかわいいかわいいって妖夢ちゃんに見せ付けるような形で愛し合いたいですわ」
「やめろ、やめろ、やめろー!」
「このっ、魔理沙から離れなさいよ!」
魔理沙から咲夜を引き剥がそうとベストをひっぱると、今度はいつの間にか私が絡め取られる形になっていた。
「ちょっと!」
「妖夢ちゃんかわいいかわいいって亡霊嬢に見せ付ける形で慰み者にしたいですわ」
スカートの中に手をいれられ、ドロワの中にまで手が伸びてきた。
陵辱される。そう思って必死に暴れようとした瞬間、咲夜は光線を体に受けて部屋の外へ吹き飛んでいった。
「妖夢、大丈夫か!?」
「な、なんとか……」
下着の位置を調節している間に魔理沙が外へ飛び出した。私もすぐに後を追う。
魔理沙は足を止めて周囲を警戒している。まさか咲夜の居場所がわからなくなった?
「くそ! 逃げられたか!」
いや、奴は逃げていない。この白玉楼のどこかに潜んでいる。気配がするからだ。
それに微かに聞こえているものがある。呼吸。犯人の息遣い。はぁ、はぁと。
「近くに潜んでる」
「そうか……どうする? また待ち伏せするか?」
「それが良いと思う。相手が咲夜だとわかった以上、非常に厄介なんだもの」
相手は時間を操れる紅魔館のメイド長。ただの変質者などではない。
ナイフ投げや体術など、結構な戦闘力も秘めている。弾幕ごっこにおいても油断のできない好敵手。
そう考えればとりあえず二人で固まることが望ましい。
白玉楼の住民である私が居るのだから、地の利はこちらにある。
私達はとりあえず台所へ向かった。緊張と疲労で消耗した体に水分を与えてやりたい。
汲んでいた水を二人で飲み、念のためにと用も足しておく。台所からかわやへ移動。
咲夜に狙われているというのに、不思議と尿の催しはやってきたからだ。
下着をおろして用を足している間は無防備なので最も警戒すべき瞬間。
交代でかわやの前で見張った。私は魔理沙に譲り、次に用を足そうと思った。
暫くすると魔理沙が出てくる。異常、異変は感じなかったそうだ。
「気をつけろよ」
「わかってる」
中に入り、戸をしっかり閉める。ドロワを降ろし、スカートを捲って排尿。
深夜に目が覚めたせいか、目を瞑ってみると気持ちよく眠っているような、夢でも見ている感覚がした。
用を足し終えてドロワの位置を正し、戸を開けようと思って一瞬思いとどまる。
気のせいか、魔理沙の気配がしない。小声で話しかけてみたが返事は無かった。まさか?
戸を押し開けた。すぐさま抜刀し、臨戦態勢に移る。魔理沙は少し離れたところで八卦炉を構えていた。
「どうした? 何かあったか!?」
「それはこっちの台詞よ。戸の前に居なかったからどうしたのかと……」
「いや、向こうで物音がしたからさ。まさかな、と思って」
「ああ」
「心配してくれたのか? ありがとうな」
「魔理沙……」
そろそろここを離れよう。どこかの部屋に戻り、待ち伏せしよう。そう思ったとき、魔理沙のすぐ近くにある茂みが揺れた。
また聞こえてきた。呼吸。咲夜の息遣い。はぁ、はぁと。
身を隠し、こちらを監視している目つき。私達に欲情し、呼吸を乱している咲夜の姿を想像してしまった。
ああ、なんておぞましい。身の毛もよだつとはまさにこのこと。私は奴に対して抱いている印象を改める必要があるのかもしれない。
最早咲夜は人間ではない。妖怪の類だと思って闘わなければいけないだろう。
魔理沙がすぐさま飛び退いた。だが茂みから飛び出した影は魔理沙を捕まえてしまった。
「しまった!?」
「魔理沙ちゃんウフフ」
「魔理沙!」
あっ、と思った次の瞬間には魔理沙の姿が無かった。時間を止めて連れ去って行ったのか。
だが耳を澄ませてみるとどこかで魔理沙と咲夜が争っている音が聞こえてきた。
すぐ応援に行かないと。魔理沙だけで咲夜に負けるとは思えないが、万が一ということもありうる。
今夜の咲夜からは執念じみたものまで感じられるし、おそらく一筋縄ではいかない。だから急がないと。
喧騒は屋敷の反対側から聞こえてきた。屋敷内に入り、襖を次々に開けて行って反対側へ到着。
二人は縁側に居る。魔理沙が咲夜に押し倒されている形になっていた。
「あらあらウフフ」
「やめろ、やめろ! 私の下着を脱がそうとして、何をするつもりなんだ!」
「魔理沙ちゃんさっきおしっこしてたでしょう?」
「そ、それが何だよ!」
「おしっこの染みがわずかでも出来ていれば、そのドロワの価値は何十倍にも膨れあがるのよ」
「はぁ!? 意味わかんねえし!」
魔理沙には気の毒だがすぐには助けず、極力気配を消して咲夜の背後から近づいた。
「妖夢、妖夢! 助けてくれよ!」
「きっと気付いていないのよ。さあお月様の下で月のものが来なくなるよう、私と子作りしましょうね」
「だ、誰がお前なんかと!」
魔理沙も私には気付いていないらしい。
もうほんのちょっとだけ我慢して欲しい。もうすぐ咲夜の背中に楼観剣を突き刺してやれるから。
「もう来たの?」
咲夜のその言葉を聞いた私は息が出来なくなっていた。気付かれた?
気がつけば私がうつ伏せの状態で咲夜に組み伏せられていた。手には刀がない。落とされていたらしい。
背中越しに咲夜の顔が見える。大きく口を開け、涎を垂らしている。私の服にその汚い唾液を落とすな。
「妖夢ちゃんの背中かわいいかわいい」
「離れなさい!」
私の腕を押さえつけている咲夜の手を振りほどこうとしてみるが、全く動かない。鬼の怪力で押さえられているようなもの。
「妖夢から離れろ!」
魔理沙が私の刀を握って咲夜の首筋に刃を向けていた。形勢逆転、もう咲夜は捕まえたようなものだ。
かと思えば今度は咲夜が私から離れていて、魔理沙の背後に回っていた。
咲夜のナイフが魔理沙の顎に当てられており、魔理沙が人質に取られているみたいになってしまった。
「ちくしょう!」
「詰めが甘いですわ」
白楼剣に手を伸ばしたが、魔理沙が人質状態では手を出すことが出来ない。
「魔理沙ちゃんの処女おまんこに私のメイドおちんぽねじこんで目からハイライトが消えるまで犯したいですわ」
「ふ、ふざけるな!」
魔理沙が気を遣っていなかったら今頃魔理沙は命と貞操の危機に陥っていなかっただろうに。
私が何としてでも彼女を助けてやらねば、泊まってもらった意味がない。
かくなる上は死んでいる私にがんばってもらうしかない。
半霊で高速の体当たりを繰り出し、咲夜を吹き飛ばすことに成功した。
咲夜は縁側、屋敷の向かいにある広大な庭の方へ吹き飛んでいく形となった。
魔理沙の体の無事を確認し、屋敷に入ってこちらの体制を整えるべきだ。
だが魔理沙は決着をつけたいらしく、私に刀を渡したら庭の方へ入って行ってしまった。
私は仕事柄庭のことがわかるが、魔理沙と咲夜はわからない。
そして今咲夜はどこに居るのかわからない。いや、感覚的にはわかるのだが正確にはわからない。
とにかく今深追いするのは危険だ。しかし困ったことに魔理沙は咲夜の後を追っていた。
彼女の名前を叫んでみたが止まってくれない。
かといって魔理沙を一人には出来ないので、仕方なく私も庭へ入っていくことにした。
「魔理沙!」
「この先に入って行ったぜ!」
返事はしてくれるものの、背の高い木や草が一杯あるのせいで姿は見えない。声のした方から考えてすぐ近くにいることはわかった。
それに魔理沙がある方向を目指して走ってくれているので、その気配を追えば良いだけじゃないかと気付く。
だが私の不注意のせいで魔理沙がどこに居るのかわからなくなっていた。焦って魔理沙の名前を呼んでみるが、返事はない。
今さっきはぐれることはないと思った矢先にこれとは。
一度上に飛び上がってみようと空を飛んでみれば魔理沙らしき後姿が右手に見える屋敷の、幽々子様の部屋付近へ入って行くのが見えた。
まずい。咲夜の、幽々子様の部屋への侵入を許すわけにはいかない。すぐさま後を追った。
魔理沙は律儀にも履物を脱いで屋敷へ上がったらしい。縁側に靴が揃えられていた。
咲夜の靴はないので、たぶん土足で上がられた。
どこかの部屋が騒がしい。幽々子様の隣の部屋だ。
もしかすると幽々子様を起こしてしまうかもしれない。少しすると騒ぎは収まった。
慌てて部屋に入ってみれば激しく衣服を乱された魔理沙が端っこに座り込んでいた。
「魔理沙!」
「……」
「魔理沙、魔理沙!」
「うう……」
魔理沙の目から涙がポロポロと落ちている。咲夜の気配がしないのを確認し、可哀想な魔理沙を抱きしめた。
「ううっ……あいつ、私の下着を……」
「ごめん、見失って追いかけてくるのが遅くなって」
「頼む、仇を取ってくれ。貞操まで奪われて、もう私お嫁にいけない……」
「ええ、絶対捕まえる!」
魔理沙は安心しきったのか、それとも心身に溜まっていた疲労が限界だからか、意識を失うように眠ってしまった。
魔理沙の盾になるよう位置取り、咲夜の襲撃に備える。そろそろ決着をつけないと今度は私の貞操が危ない。
それに魔理沙の恩にも応えてやりたい。私の不注意で魔理沙が陵辱されて、申し訳ない気持ちで一杯。
右手に楼観剣、左手に白楼剣。頭の上には死んでいる私。さあどこからでもかかってくるがいい。
私の視界に入った瞬間白玉楼に侵入してきたことを後悔させてやる。
聞こえてきた。奴の呼吸。息遣い。はぁ、はぁって。
少女達に欲情している変態メイドめ。成敗してくれる。
もし私が奴に捕まったらどんな酷いことをされてしまうのだろうか。ふと考えてしまった。
魔理沙は咲夜に性的な暴行を受けて虚ろな目をして泣いていた。私もそうなるのだろうか。
途端に足が震えてきた。奴の呼吸が近づいてくるたび震えが酷くなっていく。
咲夜に肩を触られた気がしたので体を激しく揺すり、振り返った。そこには下を向いて動かない魔理沙しか居ない。
今度は耳に息を吹きつけられた様に感じた。慌てて横を向いても誰もいない。
胸を触られた気がして刀を振り回すが空振りになるだけ。
奴の息遣いは確実に近づいている。だがどこからかはわからない。
集中して耳を澄ましているつもりなのに、咲夜に何をされるのかという恐怖で頭の中が混乱してくる。
魔理沙は今まで私が知らないところでも異変に出向き、数々の敵に闘いを挑んできたはず。
当然咲夜とは何度も弾幕ごっこしてきただろうに、それでも今回咲夜には惨敗している。
その魔理沙がここまでやられたんだ。いくら相手が時間を操られるとはいえ相応の覚悟が必要だろうか。
「妖夢ちゃんウフフ」
どこからともなく奴のいやらしい声が聞こえてきた。部屋の外か? 中か? あるいは、天井か?
集中していたつもりなのに、声を聞いた瞬間パニックを起こしてしまって相手の気配を感じ取ることができなかった。
「妖夢ちゃんかわいいかわいいってうちのメイド服毎日着せて妖夢ちゃん着用済みのメイド服を量産したいですわ」
「さ、さっさと出てきたらどうなのよ!?」
こっちに来てるのはわかる。でもどれだけ近づいているのか、どこから近づいているのかわからない。
「妖夢ちゃんかわいいかわいいって妖夢ちゃんの汗吸ったブラウス千切りにしてお吸い物の具にしたいですわ」
「き、気持ちの悪いこと言わないで!」
「妖夢ちゃんかわいいかわいいっておしっこ採取しておしっこから作った黄金塩を妖夢ちゃんのドロワにふりかけて召し上がりたいですわ」
「いい加減にしなさい!」
「妖夢ちゃんウフフ」
咲夜の気配を覚ることができない。気色悪い言葉で私の思考をかき乱してくる。
「妖夢ちゃんかわいいかわいいって私の欲望が具現化して生えた瀟洒おちんぽで満月の下で芸術的に妖夢ちゃんを犯したいですわ」
「……」
「妖夢ちゃんかわいいかわいいって必死に私を探してる妖夢ちゃんのスカートの中から現れて妖夢ちゃんを驚かせてみたいですわ」
「な!?」
スカートの中に意識が向いた。その隙を突かれたか、と思ったときにはもう何も出来ない。
畳の上に押し倒されており、大きく口を開けて涎を垂らしている咲夜に捕まっていた。
「つかまえたぁ♪」
「あ」
「妖夢ちゃんウフフ」
「や」
「文ちゃん?」
「いや」
「妖夢ちゃんかわいいかわいい」
「いやああああああああああああああ!!」
「妖夢ちゃんかわいいかわいいって叫び声上げてる妖夢ちゃんのお口に怒張したものをぶちこみたいですわ」
なんということだ。あれだけ警戒していたのに、あっさりやられてしまった。
なんたる不覚。まさに苦境。我が生涯最高の苦境。
どうすればいいのか。どうすれば私の立場の挽回、形勢を盛り返せるというのか。
「妖夢ちゃんかわいいかわいいって必死に足掻こうとしてる妖夢ちゃんを絶望のどん底に突き落としたいですわ」
「……」
「魔理沙ちゃんみたいになるまで犯してあげるわね」
「……」
「魔理沙ちゃんはヤメローって叫んだのに、妖夢ちゃんは叫ばないの?」
「……」
「私、こういうの好きよ。叫ばないことで反逆の意思表示をするっていうの」
「……ね」
「妖夢ちゃん?」
「死ね!」
「突然死ねってどういうことなの? あなたには常識がないの?」
「あなたには死ぬ以外の選択肢はない」
「お断りしますわ」
「くうっ!」
体力の続く限り暴れ続けるしかない。いや、体力が無くなっても暴れないと私が咲夜に壊されてしまう。
気がつけば顔にまで奴の涎がかかっている。本当に嫌悪感しか湧かないことばかりやってくる。
楼観剣さえあればこんな奴に負けないのに。悔しい。
突然咲夜が痙攣しだした。奴のスカート内部からいかにも汚そうな液体が射出された。
「興奮のあまり射精してしまいましたわ」
「……」
「私の精液でデコレートされた妖夢ちゃんも素敵ですわ」
「……」
「妖夢ちゃんの生絶頂を拝見してもよろしいでしょうか?」
「ふざけないで!」
「妖夢ちゃんウフフ」
咲夜の腰を押し付けられた。何か硬い物がドロワ越しで股間に当てられている。
「なっ!?」
「あらあらウフフ。股間のナイフがまた飛び出しそうですわ」
「や、辞めて!」
「妖夢ちゃんウフフ。さあこれを妖夢ちゃんの処女おまんこにねじこんでさしあげますわ」
もう一度切り札を使うしかない。死んでいる方の私に頑張ってもらうのだ。
今半霊は咲夜の後ろにいる。位置を変えて咲夜の横から体当たりすれば奴を剥がすことが出来るだろう。
だがそう考えた次の瞬間、半霊に御札の様なものが張られていた。
「甘いわね」
死んでいる私が言うことを聞かない。半霊は浮力を失って畳に落ちた。
「何をしたの!?」
「毎度便利なパチュリー様のアイテムですわ。霊に関する者を動けなくすることが出来る優れものですわ」
「そんな……」
「打つ手無しになって絶望の淵に立たされた妖夢ちゃん可愛い可愛いって私の肉棒で処女を散らせたいですわ」
「いやあああああああああああああ!!」
ドロワをナイフで切り裂かれる。とうとう私の股間が露になった。
「妖夢ちゃんのおまんこツルツルで美しいですわ」
「さ、触らないで!」
「今からこの肉壷を弄ると考えただけで私が絶頂しそうですわ」
「絶対に殺してやる。いつか必ず殺してやる」
「やれるものならやってみて欲しいですわ」
咲夜が私のベストをはだけさせ、ブラウス越しに私の胸を舐めていた。
気持ちの悪いことをするな。そう思っても貞操を奪われるという恐怖で口が動かなくなっていた。
私の股間に熱い物体が宛がわれる。もう終わりだ。何も出来ない。
「妖夢ちゃん愛してる」
「……」
「妖夢ちゃん泣いてるの?」
「……」
「妖夢ちゃんの涙ぺろぺろ」
「っ……!」
「ウフフ」
あ。嫌な感触。当たってる。いや。挿れられる。誰か助けて。
もうこのまま覚めることのない眠りにつきたい。魔理沙同様、女として殺されるぐらいなら死んでしまいたい。
突然、目の前が明るくなった。かと思えば咲夜が極太の光線に飲み込まれて消えて行った。
幸いなことに私には光線に掠った程度で済んだ。いわゆる、グレイズ。
後ろを見れば眠っていたはずの魔理沙が八卦炉を構え、呼吸を乱して立っていた。
「へへへ……ざまぁみろ」
「魔理沙!」
「八卦炉に残っていた魔砲の燃料、全部使い切ってやったぜ」
魔理沙は力失くして倒れ、再び気を失った様に眠ってしまった。大きく開けられた穴の先を見に行く。
光線、魔理沙のマスタースパークは屋敷の壁を貫通し、庭の遥か先にまで到達していた。
二百由旬はあろう白玉楼の庭の端っこにまで到達しているようだった。その端に咲夜は倒れていた。
惜しくも息はあったが、ここで殺してしまうよりも咲夜の主人に謝罪でも求めた方が良いかもしれない。
咲夜を適当な縄で縛り付けて屋敷に戻ってくると、幽々子様が魔理沙を介抱していた。
「幽々子様!」
「私の出る幕はなかったみたいね」
「魔理沙が……」
「私にはこの子を守る義務なんてない」
「え?」
「妖夢が無事ならそれでいいの。魔理沙だってこれぐらいで落ち込むような人間だとは思えない」
「そんな!」
「明日になれば咲夜を引き取りにあの吸血鬼が来るでしょう」
「……」
「鍵のかけられる、使っていない蔵があったでしょ。そこに閉じ込めておきなさい」
「は、はい」
「それじゃあ私はもう布団に入るからね。後片付けはよろしく」
「お、お休みなさいませ……」
幽々子様は随分と魔理沙に対して冷たいことを仰った。
確かに魔理沙は白玉楼の住民でもないし、特別仲が良いというわけでもないが彼女には恩義を感じている。
私は魔理沙に布団をかけておき、動かなくなった咲夜を蔵に閉じ込めた。
部屋に戻る途中でお風呂場へ寄ってお湯を張る。それから魔理沙を無理やり起こしてお風呂場へ連れて行った。
「さ、体流して」
「……いらない」
「どこか痛むところ、ある?」
「痛いところ、一杯ある」
「……ごめん」
「お前のせいじゃねえよ。あいつが悪い」
「ええ、そうだったわね」
咲夜の陰茎を股間にねじこまれてしまったのだろうか。
愛しい人に捧げるものを変態の汚いもので散らされて、恥ずかしさや悔しさ、憎しみが入り混じっていっそ死にたいと思う人もいたりするのに。
魔理沙は思っていたよりも気丈に振舞っているように見える。
「もういいよ、一人で入ってるから」
「駄目よ、体痛いんでしょう? 手伝うから」
「ああ……」
お湯で濡らしたてぬぐいを軽く、まんべんなく擦りつけていく。そういえば私も服を汚されたりしたっけ。
「ありがとうな」
「え?」
「これだけ気遣ってもらって」
「だって……」
「おっとそれ以上は言わないでくれ。私もこれ以上は言わないからな」
「ええ、わかった」
無言で体を流す。流し終えれば浴槽で体を温める。
とはいえ今は暑い時期なので、長湯はできないしお湯もぬるい目。
「妖夢ちゃんウフフ」
「!? ちょ、ちょっとやめてよ!」
「さすがに悪い冗談だったか?」
「酷すぎるわ」
そんな咲夜みたいなこと言わないで欲しい。でもまさか魔理沙の口から冗談が出てくると思わなかった。
陵辱されたというのに、冗談が言えるぐらい心に余裕が出来ていたなんて。
そういえば魔理沙は家を飛び出し、一人でがんばって暮らしているって言ってたっけ。
それだけのことをして生きてきたからこそ、慰み者にされても挫けていないのだろうな。
いや、それとも挫けたのは挫けたがもう吹っ切れたとでもいうのか。
「股に変な感触がする」
「……いれられたせい?」
「たぶんな。今でも何かお腹に入れられた感じが残ってる」
「……」
「良いんだって。私はあのとき先走り、お前を振り切って一人で格好つけようとしたんだから」
適度に体が温まればお風呂から出て寝室へ。
私と魔理沙の服は洗濯しなければいけないだろう。
魔理沙と私は背丈が似ていると思うので、魔理沙には私の下着と服を貸しておくことにする。
各々自分の布団に入るわけだが、魔理沙が枕を抱えてこっちに歩み寄ってきた。
「なあ、今夜だけでも一緒に寝てくれないか」
「どうしたの」
「怖いんだよ」
魔理沙の足が震えていた。さっきはそんな素振りを見せなかったのに、突然どうしたのか。
「また寝ている最中に咲夜がはぁはぁ言いながら襲ってくるんじゃないかって想像しちゃって、怖くて一人じゃ寝られないんだよ!」
「お、落ち着いてよ!」
「ごめん……。とにかく一人で寝るのが怖いんだよ。見ての通りの子供なんだし、私のワガママ聞いてくれよぅ」
「いいわよ、おいで」
魔理沙と枕を並べて布団の中へ。魔理沙は私の方を向いて体を密着させていた。
「お前の体、やっぱりちょっと冷たいな」
「半分死んでるしね」
「でも今はそのちょっとの暖かさが丁度いい」
「魔理沙……」
「今夜だけは、今晩だけは一緒に寝てくれ……」
魔理沙はとうとう泣き出してしまった。咲夜に酷いことをされた、というのを思い出したのか。
可哀想な魔理沙の頭を抱えてやりった。魔理沙の泣き声は一層大きくなった。
堰を切ったようにわんわん泣いている。大丈夫、もう悪い奴は出てこないから。
気が済むまで泣いていて構わない。私の胸の中で泣いて気が済むというのなら、いくらでも泣いてもらって構わないから。
そのうち魔理沙は静かな寝息を立て始めた。私も眠たくなってきた。咲夜に襲われて溜まった疲労や緊張のせいだ。
幽々子様が明日になれば咲夜の主人、レミリアがやってくると言っていた。
おそらく来るだろう。従者の異変に気付かないはずがないからだ。というより、今からでも来てもおかしくはないかもしれない。
まあいい。私もそろそろ寝かせてもらおう。もう一度魔理沙の頭を撫でさせてもらい、私も目を瞑った。
※ ※ ※
音がした。気のせいか。否、確かに聞こえた。いや、聞こえている。
呼吸。奴の息遣い。はぁ、はぁと。それにすごく近い。
まさか。咲夜のはずがない。だって奴は縄で縛り、かつ頑丈な鍵のついた蔵に閉じ込めたのだから。
だからこれは夢に違いない。咲夜退治をしたばかりだから、夢でうなされているだけなのだ。
「うわあああああああああああああ!」
魔理沙の叫び声。目を開けた。目の前に咲夜が覆いかぶさっていた。
大きな口を開けて笑っている。私の顔には涎がいっぱいかかっていた。
「いやあああああああああああああ!」
「可愛い悲鳴をありがとう、ウフフ」
「なっ、なっ、なっ!」
「あの程度のセキュリティで私を閉じ込めよう等と。甘い。甘いですわ。秘封倶楽部のちゅっちゅよりも甘いですわ」
咲夜が私と魔理沙の上に乗っかっている。逃げようと思ってもなぜか体が動かなかった。
「私がその気になれば幻想郷の少女達の動きを封じるぐらい朝飯前ですわ。瀟洒結界というものを張らせて頂きました」
「やめろ、やめろ、やめろー!」
「魔理沙ちゃんから先に犯して欲しいの? 大丈夫、二人とも一緒に頂くから」
咲夜の股間にはぶっとい、男にはあって女にはないはずの陰茎が二本も生えていた。
「妖夢ちゃんと魔理沙ちゃんへの愛を具現化させておちんぽを生やすぐらい、霊夢ちゃんのリボンを盗むのと同じぐらい簡単ですわ」
いつの間にか魔理沙が私の上に覆いかぶさっていた。当然、私と魔理沙は身動きが取れない。
咲夜が魔理沙と私のスカートに手を伸ばし、ドロワの股間部分を破って怒張したものを押し付けてきた。
「やめて咲夜!」
「頼むからやめてくれ!」
「もっと嫌がってくれないと挿れますわよ。まあそれでも挿れるんですけどね」
奴の汚い陰茎で股間の大事なところの入り口をコツコツノックされている。やめて、そんなもの入れられたら本当にどうにかなってしまう。
「妖夢ちゃんと魔理沙ちゃん可愛い可愛いって私の子種を百年間ぐらい流し込み続けたいですわ」
魔理沙はとうとう気を失ってしまった。私は不幸にもまだ気を失っていない。
せめて意識が無くなれば、痛みを感じずに居られるだろうに。
「焦らしているのに、逆にこっちが焦らされているみたいでもう射精しちゃいそうですわ!」
「……こさま」
「妖夢ちゃん?」
「幽々子様助けてください!」
「ウフフ、無駄無駄無駄ぁっ! この瀟洒結界には何人も外から入って来ることができないのですわ!」
「そんな……」
「諦めて私のDNAを受け入れるのよ!」
もう無理だ。絶対に助からない。今度こそ助からない。
切り札である死んでいる方の私を動かすことも叶わない。ごめんなさい幽々子様、妖夢は汚されます。
ん? 咲夜の動くが止まった。それどころか咲夜の表情がみるみる変わっていく。
首を押さえ、私達から離れていった。眼球は裏返っており、泡を吹きながら畳に沈む。
体は痙攣しており、見るからに危篤な状態だとわかる。これはもしや、あの方の使う死に誘う術では。
そして咲夜はそのうち動かなくなり、背後に親しみのある気配を感じた。
「幽々子様!」
「結界、ねえ。私は最初からここに居たんだけどね」
「ゆ、幽々子、助かったぜ……ぐずっ!」
「妖夢、この人間は私が明日まで封印しておくわ。だからもう大丈夫」
「すみません、私の力が足らなくて幽々子様にご迷惑を……」
「咲夜の実力を見くびったからよ。どうせ、普段の弾幕決闘だけで考えていたんでしょうに」
「はい……」
「二人とももっとがんばらないとね」
幽々子様が咲夜を運んでいった。部屋に再び平穏と平和が戻る。
魔理沙は恐怖と安堵の繰り返しからくる疲労で参っている様子で、今にも寝そうだった。
とりあえず服だけでも正し、布団に寝かせた。私の隣に。
障子は明るみを帯びていた。どうやら朝になっていたらしい。
普通なら起きている時間だが、今夜の出来事が出来事なだけに、私はもう少し眠らせて頂きたい。
私の隣ですでに眠っている魔理沙の頭を撫でてやり、私も意識を沈めることにした。
※ ※ ※
お昼時に目が覚めた。
魔理沙はすでに起きていて、庭を散歩したり私の部屋に置いていた時代劇小説を読んで私が起きるのを待っていたらしい。
朝風呂を済ませ、魔理沙と揃って幽々子様の部屋へお邪魔すると、そこには平謝りしているレミリアの姿があった。
レミリアの話によると一ヶ月ほど前から幻想郷全土で少女を狙った軽犯罪、窃盗、ワイセツな行為、暴行、陵辱などが頻発していたらしい。
寺子屋の慧音や里の自警団では厳重な警戒をしていた。
紅魔館内でもそういったことが相次ぎ、館内の住民が犯人かもしれないとレミリアは疑った。
最初は雇った妖精メイドの下着が狙われたという。次に門番や魔女の下着。そしてレミリアの下着まで盗まれることとなった。
ここまできてレミリアは咲夜が犯人なのでは、と疑い始めた。時間を操れるのだから、やりようはいくらでもあると思って。
ところが咲夜の下着が消えるという事件も起きたので、咲夜は犯人ではないと思い込んだ。そう、レミリアは咲夜の工作によって騙されたのだ。
疑いが晴れたのを良い事に、咲夜の欲望はどんどんエスカレートしていって霊夢の下着や靴下まで盗むようになったという。
人形遣いと魔理沙も被害に遭ったというのでどうしたものかと悩んでいたところ、つい最近咲夜が夜な夜な私のところに来るのをレミリアが察知し、今朝ようやく犯人特定に繋がったと。
数日前まで咲夜とは普通に遊んでいただけに、未だに驚いている。
レミリアはこの事件の被害者にどんな罪滅ぼしだってすると額を畳に擦りつけながら言った。
プライドの塊みたいなレミリアがここまでするのは、咲夜の暴走を止められなかったことに対して申し訳ない気持ちがあるということだろう。
レミリアは咲夜を里に連れて行って説明をした後、里の住民らが見ているところで咲夜を私刑にすることを決めた。
信頼を置いていた従者がこんなことをするなんて、と悔しさで一杯の表情だった。
今咲夜はレミリアの魔力で封じ込められている状態。半分死んでいるとのこと。
レミリアは帰り際にもう一度深く長い土下座をしてから咲夜を抱えて白玉楼を後にした。
魔理沙もこれで安心できるということで、帰って行った。
これで良い。さあ庭掃除を片付けていこう。いや、それより先に昼餉を頂くのが先か。
どうせなら魔理沙もお昼を食べてから帰れば良かったのに。
まあいい。今日はご飯が美味しく食べられるだろう。だってあの変質者がついにこの世から居なくなるのだから。
そうだ、部屋のお布団を片付けておこう。ああ、そういえば魔理沙が屋敷の壁を壊したりしたっけ。
色々片付けることが一杯あるらしい。やれやれ、面倒なことを残してくれる。
もしかして魔理沙は片付けを手伝わされると思って帰ったのか? だとすればなんてずる賢い奴なんだ。
ん? おかしい。ちょっと待って欲しい。今何か聞こえなかった? はぁ、はぁって。
いやいや、幻聴に決まっている。もう咲夜はここに居ないのだから。絶対居ないから。
部屋に戻ってみると妙な液体まみれの白く、細長い布らしきものがあった。
さらしだ。いつか盗まれた私のさらしだ。どうして今頃になって、こんなものが?
机の上には盗まれていたであろうカチューシャが置かれている。もちろん、妙な液体まみれ。
私は咄嗟に自分の刀を抜こうと思った。だがおかしい。妙だ。体が動かない。
幽々子様助けてください。嫌な予感しかしません。気がつけば失禁していた。
こんなことをしたらまた奴に下着を奪われる。そしてその場で舐められたりするのだろう。
やめて。近づくな。お願い。来ないで。誰か助けて。気持ち悪い奴が接近してくる。
お願いします幽々子様、私の異変に気付いてください。でなければ今度こそ私は終わってしまいます。
実は知らぬ間に処女散らされてたりして
お人形さん、怖え〜っ!!
古典的ホラー展開の変態瀟洒メイド長ストーリー!!
幻想郷に少女がいる限り、瀟洒は不滅です!!
随所随所に挿入される人形は一体どこから……
ホラー要素入るだけで咲夜さんの異常差が際立ちますね