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『産廃百物語A『甘味幽霊』』 作者: ウナル
※産廃百物語A参加作品です
朝の白玉楼。どんぶりいっぱいの白米を幽々子はがばがばと口に流し込んでいく。
これだけの量を食べているというのに、箸を使う動きにどこか上品さが漂うのは腐っても名家の生まれと言ったところだろうか。
その対面に座って何とも慎ましいお茶碗に箸をつけていた妖夢は幽々子の顔を見て、首をかしげた。
「幽々子様? どうしたんですか?」
「もにゃにゃ(なにが)?」
「その頬。吹き出物ですか?」
妖夢に手鏡を渡され鏡の中の顔をのぞく幽々子。確かにほっぺには茶色いツブツブが浮かんでいた。
量はわずか。余程良く見なければ気付かない程度だ。
幽々子は妖夢と同じように首をかしげた。
「あらやだ。寝不足かしら」
「幽々子様に限って寝不足なんてありえません」
「ひどい言い様ね。私は早起きさんなのよ。毎朝7時には起きているわ」
「就寝時間も7時でしょう。12時間。それだけ寝ればナマケモノだって大満足ですよ」
「じゃあ、ストレスのせいかしら。最近食べれらるご飯が減ったし」
「減ったんじゃなくて、減らしたんです。幽々子様の食欲に合わせていたら食料庫が寂しくなって仕方が無いんです」
「それよ! 妖夢の心無い行為に私の身体が悲鳴を上げているのよ! なんてことかしら! このままじゃ吹き出物に侵略されて身体を乗っ取られちゃう! 解決法は一つ! そういうわけで妖夢、おかわり」
「ふざけないでください。こちらは大火災の家計簿と毎晩合戦してるんですよ? 少しは我慢してください。それに、そもそも幽霊って吹き出物とか出るんですか? 私なったことないんですけど」
「普通はならないわね」
「そうですよね」
頬に触れながら、幽々子は鏡の中の自分に問う。
「貴方はだあれ?」
「聞いても答えてはくれないと思いますよ」
話はうやむやのうちに流れていった。
特に何ともないし、そのうち消えるだろう。
幽々子は楽観し、ご飯をのせた箸を口に入れた。
◆ ◆ ◆
「OH〜だんご〜OH〜だんご〜」
午後。成仏しそうな浮かれ具合で、里の道を行く幽々子。
横に立つ慧音は、険しい顔で幽々子に目を流す。その手には“春の花見団子祭り”と書かれたチラシが握られていた。
「一応言っておくが、これは子ども達のためのイベントとだからな」
「あら、私も子どもよ」
「お前はもうン百歳だろう。私の歴史に誤魔化しは効かないぞ」
「死んだときは子どもだもの。そして亡霊は歳取らない。ほら私は子ども」
まさしく子どものそうな理屈をこねながら、歩を進める幽々子に慧音もやれやれと首を振る。
馬鹿は死ななきゃ治らないと言うが、死んだからと言って治るものでもないらしい。
慧音の考えなどどこ吹く風。幽々子は今の満腹を堪能していた。
――――と。
「……………」
「あら?」
道の向かい側に立つ男性に違和感を覚え、幽々子もは顔を上げた。
着古した着物に草履。農業関係者かマメができた手をしたごく普通の成人男性だ。
その男は話しかける訳でもなく、近づくわけでもなく、ただ幽々子を見つめていた。
(誰だったかしら?)
どこかで会ったことがあるか、記憶の山を掘り返す。
男の年齢からして過去30年までで十分だろう。
肉屋さん? 八百屋さん? 米屋さん? 酒屋さん? 魚屋さん? 菓子屋さん?
どれも違った。幽々子のまったく知らない顔だ。
亡霊である幽々子が人里で目立ってしまうのは仕様が無いことだが、男の視線は妖怪を恐れる様子でも、物珍しさに顔を向けた感じでもない。
言うなれば服を透かし、肌を顕わにして、その身体を舐めるような視線。
「やん。まいっちんぐ」
「……何をやっているんだ?」
「乙女の嗜み?」
「なにを馬鹿な」
一瞬。ほんの一瞬だが、慧音の瞳に怪しい光が覗いた。
男と同じ、欲情し幽々子の全てを覗き見るような視線。
「半獣先生さん。どうかしたのかしら?」
「――いや、なんでもない」
すぐに慧音は視線を戻して歩き出した。その顔は先ほどまでと何ら変わらないものだ。
男はいつの間にか居なくなっていた。
ぽりぽりと幽々子は自分の頬をかいて、慧音を追いかけた。
風に乗り茶色の欠片が散っていった。
◆ ◆ ◆
幽々子は食べた。
団子を食べた。
団子を食べて、食べて、食べまくって、近くの子どもまで泣かせた。
「美味しかった〜」
至福の表情で、歩く幽々子。
腹を擦れば、ぽんぽこに膨らんだ感触が返ってくる。
「さあ、夕飯は何かな〜」
昨日は魚だったから今日は肉がいいな。そんなつぶやきをしながら幽々子は白玉楼への道を進む。
すると、そばの茂みから一人の男が飛び出してきた。
「あら熊だわ。死んだふりしなくちゃ」
「いえ、もう死んでらっしゃると思うのですが」
「そうだったわ。森の中で熊さんに出会ったら踊るんだったわね。盆踊りでよろし?」
「いえ熊でもないです。先ほど会いましたしがない男Aです」
「あらAさん、こんちにわ。さっきの手紙のご用事なあに?」
「歌が変わってますよ。それはそうと幽々子様」
「はい、なんでしょう?」
男は耳まで真っ赤にしながら幽々子に言った。
「幽々子様、私には妻も子もいます」
「それは結構なお手前で。もこも」
「しかし幽々子様を一目見てからというもの、心奪われてしまったのです。高鳴る鼓動、定まらない呼吸。妻への想い以上のものを幽々子様に感じるのです」
「あ、風鈴だ。風鈴って良いわよね。涼しい音。ふーりんーふーりーん」
「だから、だから――!!」
感極まったように男は飛び跳ねた。
池に飛び込むカエルのように手足を広げ、幽々子へと飛び込む男。
だが幽々子は手の平で男の頬を叩きつつ、するりと身をかわしてみせた。
「へぶっ!?」
「へ〜い。いえす! ぐれいず!」
ぶい。指をチョキにして幽々子は高らかに勝利の盆踊りを踊る。
指先に違和感。
見れば手の平に茶色いドロのようなものがこびり付いていた。
「あらやだ。ちゃんとお風呂に入ってる?」
問うた相手は地面に接吻中。
棒で突いても目覚めることはなかった。
その時、背後から声がかかる。
「どうした? なんだ今の声は?」
声の主は慧音だった。
倒れた男と幽々子を交互に見るうちに、その顔はどんどん強張っていく。
「……どういうことか?」
「んーと、ドキドキ告白ターイム→ルパンダーイブ→百烈張り手?」
「全くもって状況わからんが、この男を傷つけたのはお前で間違いないのだな?」
「それはもう」
「ならば逮捕だ」
どこから取り出したのか、幽々子の手に手錠をかける慧音。
がちゃりと重苦しい音共に幽々子の腕に銀の輪がかかる。
「……刑事さん、ムショの風は冷たいですかい?」
「心配するな、カツ丼くらいは食わしてやるぞ」
「わーい」
「ただし一杯な」
「しょんぼりー」
そうして幽々子を引っ張りながら、慧音は人里の方へと歩いていった。
ぽつり。ぽつり。
「あら、雨?」
「何を言っている。雨など降っていないぞ」
ぽつり。ぽつり。
「でも音が聞こえないかしら? ぽつぽつって」
「そんなことはないぞ。なにもきこえない」
ぽつり。ぽつり。
「あらら? どうしてこんな人気のない所に行くの?」
「里のみんなにお前の姿を見せるわけにもいかんだろう。ぱにっくになる」
ぽつり。ぽつり。
「ねえねえ。どんどん人気がなくなるわよ?」
「いいんだ。いいんだ」
「でも」
「幽々子!」
いきなり抱きつかれた。
慧音は幽々子の首筋に鼻を沿わせながら、すんすんと匂いを嗅ぐ。
「ああ……良い匂いだ。幽々子、お前はとても魅力的だ」
「きゃっ、いきなり呼び捨て? さっきといい五世紀を経て初のモテ期かしら? いやん、だめですわ。夫が帰ってきます」
「幽々子、私は今日お前を見て気付いた。運命の出会いとはこういうものを言うのだと。見てくれこれを。もうぐしょぐしょだ」
「あら本当」
「だから、幽々子。私はお前を、お前を――」
そこで一度言葉を区切り、慧音は顔を伏せる。
一度の深呼吸、上目使いに慧音は幽々子を見た。
「――お前を食べることにしたんだ」
ガリッ!!
骨を叩き割るような鈍い音が響いた。
「え?」
よろよろと幽々子は尻餅をついた。
胸元に微かな違和感を持ち、視線を下げる。
天より幽々子に与えられた二つの豊かな実り。
その片方が、根元から砕けていた。
「あっはぁぁ。なんて美味しいんだ幽々子の胸は。口の中でとろりと溶けて、舌に絡み付いて……思ってた以上じゃないか!!」
目の前では慧音が一心不乱に茶色に何かを貪っている。
慌てて幽々子は右胸を触った。
そこは岩石のように削れ、表面を茶色のぬめりが覆っていた。
「あれ? あれ?」
痛くはない。痒くもない。
そして何も感じない。
「ねえ慧音、私の身体どうしたの? 私の身体どうしたの?」
慧音は答えず、ひたすらに幽々子の胸を貪っていた。
仕方なく幽々子は指についたぬめりを舐めてみた。
甘い。とても甘い。
「……チョコ?」
ミルクチョコだろうか、指を口に入れた瞬間深いコクが広がった。
見ればそこを触った指先も、茶色に変色し始めていた。
両手にはいつの間にか茶色の粉が浮き、その量を増やしている。
だがそこで終わりだった。
自身の身体がチョコになったとはわかったが、それ以上のことは推測しようもない。
「と、とにかく、家に帰ろうかしら……」
慧音は幽々子の胸を食うのに気を取られているのが幸いした。
まとまらない思考を引っ張りながら、幽々子は白玉楼への道へ向った。
「うぁぁ……」
「ゆ、幽々子様!?」
門をくぐるなり妖夢は悲鳴に近い、声を上げた。
白玉楼に辿り着く頃には幽々子の身体の半分以上がチョコに変わっており、圧力で溶けたチョコが足跡となって点々と続いていた。
「と、とにかくお部屋へ!」
肩を抱こうとした妖夢はなめくじに触れたかのような感触には悲鳴を上げた。
夏も終盤とはいえまだまだ暑い季節だ。このままでは幽々子の身体は全て溶けてしまうかもしれない。
急ごうとすると身体がついてこず、身体を崩さないようにするには爆弾を処理するほどの丁寧さが必要とされた。
布団が敷かれ、幽々子はそこに横たわる。
その顔を妖夢はじっと見ていた。
「ようむぅ?」
口の中が溶け出したためだろか、呂律の回らない声で幽々子が声をかけた。
冷水を浴びされたように、はっと妖夢は身を離す。
「――幽々子様はここに居てください。なんとか私が治し方を探してきますから」
それだけ言い、妖夢は逃げるように去っていった。
「……ようむ」
身体はチョコになっても考え方まで甘くなったつもりはない。
棒切れのように固くなった関節を何とか動かしながら、幽々子は布団から這い出た。
妖夢の楼観剣が幽々子の布団を貫いたのは、それから五分後だった。
「ゆ、幽々子様が悪いんですよ? こんなに美味しそうな身体しているから……!」
刀を前後に揺らす妖夢の顔はとてもまともな顔ではなかった。
獣のように目を血走らせ、ぼたぼたとヨダレを垂らしている。
「チョコォ! チョコレェェェェェェェェトォォォォォォ!! 全部、全部私のだぁぁ!!」
刀を抜き、一気に布団を剥ぎ取る。
そこにあったのは、丸められたシーツとチョコでできた片腕だった。
「……ようむぅ」
魔法の森の木々に身を隠しながら、幽々子はつぶやいた。
夕方になり気温は下がってきたためか、ようやくチョコの溶解は抑えられてきた。
だが、すでに失われた量は少なくなく、幽々子の身体は一回り小さくなっていた。
「おなかぁ……へったぁ……」
片腕を切り取っても何の痛みも感じなかったのに、何故か空腹だけは明確に自己主張する。
失ったものを取り戻そうとするように、食欲は加速度的に増加していく。
ふと足元に木の実を見つけた。茶色にツヤツヤの肌触り。大きさは指の爪ほどで、いくら食べても腹の足しにはなりそうになかった。
だが、食べずにはいられなかった。
手を伸ばした瞬間、タールの塊が目の前を横切った。
「ぅぁぁ」
喉がねじれたような声を出した。
半端に固まったそれは、爆心地の焼死体を思わせる。
辛うじて残った五本の指がなければ、とても元人間とは思えない。
歪な手を震わせて幽々子をは木の実を口へと放った。
バキンッ。
軽快な音ともに黒い破片が零れ落ちた。
「うあ……あ」
たかが木の実の硬さに歯が耐えられなかったのだ。
こうなれば転んだだけで、全身が砕けてしまうかもしれない。
「おなかぁ……」
ぎりぎりと痛む腹。
全身が食料を求めている。
「うあぁぁぁ」
木の皮を齧る。唇が削れただけだった。
木の葉を食む。奥歯にくっつき取れなくなった。
芋虫を飲み込む。胃の辺りに穴を開けられた。
「あぁぁぁぁぅうあぁぁ……」
かすれた声を振りまきながら、幽々子は森の中をかき分ける。
そのたびに指先が削れていくことすら埒の範囲外のようだ。
ない。ない。ない。
食べられるものなんて何もない。
「あぁ……」
はたと気付いた。ここにあるじゃないか。
幽々子は残った左手を口の中へ突っ込んだ。
半溶けの指先は口の中で相殺され、細かい欠片となって幽々子の中へと飛び込んでいった。
それはまさに天使の粉。
空腹で喘いでいたところに濃厚な甘みのチョコレート。
「あっはぁぁ――――っ!!」
身体にヒビが入るのも気にせず幽々子はあらん限りの声を上げた。
一心不乱に左手を舐めあげる。
その内に残っていた指先はヘラのようにまとまってしまい、人の手として機能しなくなっていった。
それでも幽々子は止まらなかった。
左手を食い尽くしたら次は右足。右足も食べてしまったら最後の左足。
四肢を全て失い、黒いダルマになった幽々子だが、その顔は心底嬉しそうだった。
黒い舌を伸ばし、胸元をちろちろと舐める。
肩を木の幹に擦りつけ、欠片を落とす。
舌が届く所がなくなるまで、自分を食べつくす幽々子。
「ぁぁぃぅっぇぇぇぇぇ〜」
やがて森の中にはまぶたも、鼻も、耳も、そして舌さえもなくした幽々子の頭部が転がった。
それは何事かをつぶやきながら、ゆらゆらと揺れていたが、夜明けと共に動き出した蟻によってすっかり食べられてしまった。
「西行寺幽々子。亡霊にして餓鬼道へと墜ちた者。これでわかったであろう。喰われるも者の痛み、喰らう者のおぞましさ、人の業が。これに懲り、食の業について今一度考え直すこと。それが貴方のできる善行です」
「あれ?」
「幽々子様? どうしたんですか? ぼーっとして」
気付くと幽々子はいつものちゃぶ台の前に居た。
手にはどんぶりと箸。
目の前には妖夢の姿がある。
「んん〜?」
「何をかしげているのですか?」
「いえね。夢オチとは今時逆に珍しいって思ってね」
「はい?」
「ん、いいの。ところで妖夢」
「はい」
「今日は、ご飯少なめでいいわ」
妖夢の手から茶碗が滑り落ちた。
作品情報
作品集:
28
投稿日時:
2011/08/20 12:26:50
更新日時:
2011/08/20 21:26:50
分類
産廃百物語A
西行寺幽々子
幽々子
いきなりファンタジーな展開かと思いきや、
辛い現実を突きつけられて幽々子は……。
チョコになった自分自身を貪った〜っ!!
ん!?
グロなど物ともしない私が、オチに、幽々子の最後の台詞に、恐怖しました!!
ゆるゆるとした会話とリズムのいい展開。そしてさりげなく混ざるぞくりとした感覚。
もう筆を置いてしまいたい。
それはともかくとして、最後のゆゆ様の台詞。
これはもう立派な異変じゃないのかな。
しかしこの幽々子、ノリがよい
百物語楽しかったです!!
1>>最後のオチは真面目に書いたつもりですよw
2>>異変ですよね。映姫様は幻想郷を叩き潰すつもりですよ
3>>子どもが欲しかったけど過去の男のせいで子宮がダメになってて、自分のうんちを集めて子育て妄想するパルスィとどっちを書こうか悩みました
4>>私の中の幽々子様はこんな感じですw
5>>「我が善行道を阻む者はすべからく死刑である」
6>>ありがたいお言葉です!!
7>>幽々子様はほわほわぽこりんのイメージです。だからエロにし難(粛清されましt
考えただけでも恐ろしい…。
夢オチで安心した