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『殴られたら…』 作者: 遊
ふっと男が息を短く吐き、腕を素早く呼吸に合わせて引いた。そして、息を今一度吸い直すと大きく口を開けて一気に吐き出した。それに合わせて、腕は僕の腹めがけて真っ直ぐに突き出され、なんとも男らしいごつごつとした拳が鳩尾に深く埋まる。肋骨が軋む音がはっきりと聞こえた。それと同時に衝撃で眼鏡は下にずれて、視界はぼんやりと輪郭を失った。
「かっ、は、うぐぅ…。」
腹に収まっている内蔵がぐぐっと圧迫される。すると、すぐさま胃の中のものが胃酸と共に喉元にせり上がってくる。もうすぐ吐瀉物になろうとしているそれは、食道と喉を容赦なく焼いていく。さほど強くないはずの胃酸でも、僕の喉を傷つけるには十分だった。僕の腹を殴りつけた男が、次は「吐いてしまえ。」とでも言いたげに、軽く僕の背を爪先で蹴った。先ほどの突きに比べれば随分と弱いものであったが、それすらも耐え切れず、僕は口内にまで侵入してきていたそれらをみっともない嗚咽と共に唇から溢れさせた。
「お、ぼぇ、ええぇあ、っが、ふ、げほ、ごっがっ、がぁっ、…う、えぇええぇぇ…。」
目頭が途端に熱くなる。一瞬だが世界が赤に染まった。おそらく一時的な充血が起こっているのだろう。ただでさえ不明瞭であった視界は目頭から滲み出た涙によって色すらもあやふやになる。地面についている腕が震える、いや腕だけでなく身体全体が震えに襲われていた。頬を伝うのは涙ばかりかと思えば、知らぬ間に噴出していた汗が水の玉となり玉を小さくしながらに、涙と共に地へと向かっている。そしてその途中衣服に落ち、布の色を濃くしていくのだ。汗が吹き出たのは首から下だけとは限らない。頭皮は汗ばみ、僕の髪は不揃いな束の状態でべたべたと頬や首筋に張り付き、不快感を与えるばかりだ。
「ぐっ、ぅ…?がぁああぁっ!!」
もう一度、男は僕の腹にこぶしをめり込ませた。まだ胃の中に残っていたもの、口元までせり上がった後再び胃へ戻っていたもの、それぞれがまたしても喉を激しく傷つけながら外へ出ようと重力に逆らい始めた。何とか吐き出さずに留めようと抵抗をしてみるのだが、それは全て徒労に終わる。地面を見ると、昨晩飲んだ酒やその時のつまみがぐずぐずになってぶちまけられていた。これは、僕が吐き出したものだ。グロテスクな様を視認したことによりもう一度こみ上げてくる吐き気。次は衝動に逆らわず、素直に吐いた。
「がぁっ、かっは、は、げほ…。」
すると、先ほどの二回の嘔吐より苦しくなかった。どちらかといえば、すっきりして楽になったと思えるぐらいだ。嘔吐物に濡れた唇を拭いながら視線を上げると、僕の腹を殴った男が何故か心配そうに僕の顔を覗き込んでいて、目があった。男の手が僕の方へと伸び、また殴られるのかと思い少し身構えると、手は腹ではなく口元に触れて、吐瀉物をぐい、と拭う。
適当に拭い終わると、男は何事もなかったように歩き去っていく。呆然としながら男の歩いていくその後姿を眺めていたのだが、蹲っていても仕方がないと判断して立ち上がる。立ち上がったとき、咳き込みすぎたのか肋骨と喉がずきずきと痛んだ。そして一度、咳払いをした。とりあえず、散々な目に遭ったと、先のことを思い返しながら店への帰路に付くことにした。
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百物語ラッシュの中で、空気を読まずに投下。
前々からちまちま書いていたやつなので書き上げられてよかった…。
吐くって、いいですよね。
久しぶりに自分も吐いてすっきりしたいものです。
ではでは、次もきっと香霖です。
遊
- 作品情報
- 作品集:
- 28
- 投稿日時:
- 2011/08/20 14:20:23
- 更新日時:
- 2011/08/20 23:20:23
- 分類
- 森近霖之助
- 嘔吐
- モブ男
これもある種のプラトニックな関係と言えるか……?
拳で語り合う、と言うより、一方通行の一撃、二撃。
返答に文字通り、腹の内をぶちまけるこ〜りん。
耐久力や回復力が常人よりあるとはいえ、程々に……。
>先任曹長さん
プラトニックも大切ですよね、たぶん…。吐くのって苦しいけどその後が非常にすっきりするので大丈夫かと。
>んhさん
あれ、まさか香霖攻めだったのか。いつか香霖×魔理沙パパに挑戦したいものです。