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『Eternal Full moon 第八話』 作者: イル・プリンチベ
―36― サボタージュ因幡てゐ
くそっ、なんてこった!あたしが長い時を賭けて作った蓄えが、あの姫の鶴の一声で没収されちまったよ。その上『月都万象展』の開催を幻想郷中に広めなきゃいかんという面倒な役割を与えられちまったから、腹ただしいこと極まりないったらありゃしないね。
「あ〜あ、ビラ配りも面倒臭いなぁ。こんな意味ないことをさっさと済ませて、“賽銭詐欺”でもしようかな」
あたしは空を飛びながら『月都万象展』の開催のビラ配りをしてるんだけど、来客が来ないことを祈りながらばら撒いているだけでしかないね。勿論、幻想郷の住人達があんなくだらないもの見たさに、なけなしの金を支払うという愚行をしないことを祈りながらさ。
ちなみに神はB5サイズを使っていて、書かれている内容は大体以下のとおりさ。
月都万象展の開催決定!
月の都の技術を幻想郷にいる地上の愚民どもに見せてやるっ!
地上では見られない月の石や、空飛ぶ牛舎に月面探査車、輝き続ける着物など普段では絶対に見られないレアアイテムを展示するので、この機会に絶対に見るべしっ!
開催日時 気の向くまま(来月初めから一週間)
開催場所 どこかの土地(永遠亭)
とこんな感じでビラに書かれているんだけど、あたしにとって客が来ても来なくてもどうでもいいんだよね。
「ふぅ、無駄に疲れちまった。ここいらで一休みしよう」
ビラ配りも飽きたしなんだか無駄に疲れちゃったから、あたしはベンチに座る事にしたんだ。たまたまビラもなくなった事だし、永遠亭に戻ると何かと面倒だからここで時間を潰すとしよう。
「あら、“詐欺兎”さん。今日は何をやっているのかな?」
いきなりあたしの背後から胡散臭い声がしたので後ろを振り向いたら、なんとフリルのいっぱい付いた日傘をさし、紫色を基調とした派手な服を着たアイツがいたんだ。そう、あの、幻想郷の最高権力者の八雲紫が…
「あっ、や、八雲様じゃないですかっ!きょ、今日は凄くいい天気ですね、はい」
いきなりの登場であたしは驚かされてしまったから、適当な話題を振ってこの場を誤魔化す事にしたよ。相手が相手だから、絶対にかかわり合いを持ちたくないっていうものあるしね。
「あら御挨拶ね。本当にあなたの言うようにいい天気ね、これで日差しがなかったらもっと良いのに」
「それに私とあなたの関係なんだから、八雲様なんて呼ばずに“ゆかりん”って呼んでくれればいいのに」
“ゆかりん”はいきなりあたしの隣に座りだし、ニヤつきながら口元に扇子を当てているので、あたしは物凄く気持ち悪さと胡散臭さを感じてしまったね。やっぱりどう考えても自分のことを、わざわざ“ゆかりん”と呼んだり呼ばせたりするのは、どうかと思うなぁ。
「それにあなたのやっていた事ってこれでしょ?」
“ゆかりん”は、あたしがさっきまで配っていた『月都万象展』の開催のビラを見せつけてきやがった。
「あいつらも妙なイベントをやってお金を稼ぎたいみたいだけど、幻想郷の住人の大半は永遠亭の場所を知らないから、ちゃんと教えないといけないわよ」
「まぁ、あの姫の事だから私達を見下していることぐらいお見通しだわ。たぶん『月都万象展』は大失敗に終わると“ゆかりん”は思うの」
口元は笑っているけどさっきから目が笑っていないから、今日の“ゆかりん”は胡散臭いというよりは何とも言えないさっきを感じるので、怖すぎるったらありゃしないよ。ああ、こんな奴と関わり合いなんて持つんじゃなかった!
「はぁ」
情けないことに今のあたしが出来る事は、“ゆかりん”に好き放題に振り回されることぐらいだから、本当に嫌になっちゃうね。
「この間あなたは今まで滞納してきた税金を支払うって言ったのに、全然支払う動きを見せていないじゃないの」
「あなた達に忠告しておくけど、私は竜神様の代理で幻想郷を取りまとめているんだから、近いうちに竜神様がお怒りになっても知らないわよ」
“ゆかりん”は胡散臭いから、竜神様の代行を務めているって言ってるけど、あんな奴等にあたしの財産の一部を支払い続けるつもりなんて全くもってないね。税金なんていう厄介な代物は、収める素振りを見せておけば問題ないしこれからもそうし続ければいいんだ。
「近いうちに納めますんで、ちょっと待ってくださいな」
あたしは目一杯“ゆかりん”に愛想をついておくことを忘れない。いくらなんでも胡散臭い“ゆかりん”といっても幻想郷の最高権力者なんだから、機嫌と取っておけば何とかなるんだから。
「そ、そっ、それではあたしは永遠亭に戻りますので、これにておさらばです!」
こんな胡散臭い“ゆかりん”の相手なんてしてられないし、一刻も早くこの場を立ち去りたかったあたしは席を立つと、脱兎の如く永遠亭に向かって飛び去ったんだ。
―詐欺兎逃走中―
「あらあら、もう帰っちゃうの?つまらないわねぇ」
“ゆかりん”はもっとあたしと絡みたさそうだったけど、こっちは絶対に絡みたくなかったからここは逃げた者勝ちってもんさ。
―詐欺兎逃走完了―
「あの姫もいい感じでマヌケだけど、月の英知と自称している永琳もなかなかおバカみたい。あの玉兎もアホなのは、絶対に師匠から譲り受けているに違いないわ。頑張っているのはわかるんだけど」
「だって、このパンフレットには、永遠亭のアクセスルートが書かれていないもの。たぶん間違いなく、『月都万象展』は大失敗に終わる筈だわ」
“ゆかりん”は『月都万象展』の開催するビラを流し読みすると、独特の胡散臭い笑みを浮かべざるを得なかった。
「私だってその気になればあいつらを潰せるんだけど、向こうから自殺行為をやってくれてるんじゃ私が手を下す必要はないみたいだもの」
「近いうちに竜神様の名分を使って、そろそろ“あいつら”を送り込むとしますか。絶対面白いことになる筈だわ、うふふふふっ」
“ゆかりん”は胡散臭い笑いを浮かべてからベンチから立ち上がると、左手でスキマを展開しその中に入れば、この世界のどこかにあるという八雲紫の住み家のある“マヨイガ”に帰ってしまったのだった。
―37― 鈴仙の薬売りと『月都万象展』のPR作戦
「人里の皆さん、お薬はいかがですか〜。あと来月の頭から永遠亭で『月都万象展』を開催しますので、進んで足を運んでくださ〜い!」
私は師匠の薬を売るとともに来月の頭から始まる『月都万象展』を、人里に住む地上の愚民どもにわざわざ伝えにやってきた。
「あっ、怪しい竹林にいる怪しい兎がまたやってきた!」
「門次郎。おかしくなるから、あの兎を見ちゃいけません!」
「兎鍋食べたいなぁ」
「美代、今日はカレーよ」
「ハァハァ、ウサ耳の女の子とセクロスしたいお」
「そこのウサ耳のお姉さん、カメラ撮らせて下さいっ!」
「けへへへへっ。お姉さん、ミニスカートから縞パンが見えてますぜ!キヒヒヒヒッ!」
なんというか、相変わらず私は人里の子供たちに怪しい呼ばわりされていて、さらに変で気持ち悪い奴らが私に絡もうとしているから、鳥肌が立ってしまわずにはいられない。
本来ならば地上の民が私に気易く声をかけれるはずがないのだが、今日人里にやってきた目的は『月都万象展』の開催を知らせて奴らから金を巻き上げることが目的なので、クソガキどもを不用意に襲いかかってはいけない。
「咲夜、あの兎をうちのメイドとして雇いたいわ。なんていうかウサ耳メイドって、うちにいないタイプのキャラだから、一羽ぐらいいてもいいんじゃないかしら」
「いけませんお嬢様。あの兎でしたら雇っても絶対に役に立ちませんから、やめといた方がよろしいのでは?」
「そうよね!あの兎の事だから、絶対にヘマをやらかして咲夜の足を引っ張りそうだもんね。だが、それがいい…。見ていて面白そうだからな」
「お嬢様、今日のおゆはんは兎鍋に致しましょうか?」
「そうしよう。今日は盛大に“兎鍋パーティ”をするぞっ!」
「畏まりました」
私の姿を見た紅魔館の当主とメイド長が仲良く買い物なんぞに来てやがったが、私のことを見て今夜は盛大に“兎鍋パーティ”をやるとぬかしやがった!
私はあいつらに殺意を覚えたが、人里で揉め事を起こすと二度とこれなくなるどころか、最悪の場合だともう二度と復活できない位に退治されてしまうので、ここはグッとこらえておいた。
「お嬢様。あの怪しい竹林に住む怪しい兎がいますから、常備薬でも買っておいてもよろしいでしょうか?」
「ダメよ、咲夜。出所のわからない怪しい薬を飲んで、死んじゃったらどうするのよ!?」
さっきからムカつくことばっかり言ってるあの吸血鬼とメイドですが、私がこの世で最も敬愛するお師匠様を侮辱しやがりましたっ!
「そこのお嬢様とメイドさん。来月の頭から『月都万象展』を開催しますので、是非とも永遠亭にお越しくださいませ!」
この場はあえて喧嘩をせず、あいつらにも『月都万象展』の開催するビラを配っておけば、我慢しきれば今は私の勝ちというものです。
これ以上変態どもに絡むと私自身がおかしくなりそうなので、いつものように私の気配を悟られないように姿を消す事にしました。まぁ、人里だけでなく妖怪の山や地底都市に行く必要がありますからね。
―38― 永琳の診察時間の切り上げ
「さて、今日も『月都万象展』の準備をしないといけないわね」
あれから私は一日じゅう『月都万象展』の準備に取り掛かっているが、例の如く八意診療所は『月都万象展』が終わるまで休業しなくてならないのは仕方ないことだと思う。なぜなら、『月都万象展』は私達の威信がかかった一大事行事なのだから、この際量もやむを得ないと思う。
「八意様、月の石を置くのはここでよろしかったでしょうか?」
私が会場に行くと、とある妖怪兎の少女達が私に月の石の配置場所がここで間違いないか確認してきたので、私は会場の図面と現場を照らし合わせてみることにした。
「問題ないわ、月の石はここに置きなさい。貴重なものだから、大切に取り扱いなさい」
私は彼女達に月の石をここに置くように言うと、
「わかりました」
彼女達は月の石を土台に置いたのだった。展示会場に月の都に関わる道具が置かれているのを見ると、我ながら幻想郷最大規模の博物館が出来た事に誇りを感じざるを得ないのだった。
「八意様。白黒の魔女が急患をやってきたのですが、私は八意様が重大な用事があって来られないと言って追い返したのですが、アイツは引き下がろうとしません。一体どうすればいいでしょうか?」
もう一人の妖怪兎の少女が私に急患を求めている人間がいることを伝えてきたようだが、優先順位が高いのは『月都万象展』の準備であって、地上の民を診察することではないのだ。
「私は用事があるので診察出来ないということを、あのゴミクズに行って頂戴!」
私はあのゴミクズが突っかかって来ることを予測したので、診察が出来ない理由を手紙に書いて引き下がるようにけしかけておいた。
「わかりました。あの人間の魔女を追い返すようにします」
私が月都万象展の準備に追われている事を理由にすることで、あの泥棒癖のあるゴミクズを追い払うように彼女に指示をしておいた。ついでに手紙を渡すように言ったのだから、これで厄介払いできたいうものだ。
「永琳、展示会場の進捗具合はどうかしら?」
姫様が私に展示会場がどうなっているかを聞いてきたので、私は滞りや問題がなく順調に進んでいる事を報告した。
「姫様、展示会場の方は問題ありません。このまま順調にいけば、明後日以内にこちらのグループの人員を他の班に回せると思います」
「そう、わかったわ。私は今まで通り特設会場の準備をしているから、なるべくならこちらの方に回しておしいのよ」
私は姫様に展示会場が何の問題もなく進んでいることを報告すると、メインイベントを行う特設会場に多めの人員を振り分けるように注文を受けたのだった。出来ることなら明日までに準備を整えておきたいところだ。
―少女(魔理沙)抗議中―
「申し訳ございません。ただいまお師匠様は大事な用事がありまして、一切の急患を受け付けていないことを私にいつけられましたので、どうかお引き取り下さいませ」
妖怪兎の少女は、鬼のような形相をした白黒のエプロンドレスを着ている少女に対し、深々と頭を下げているのにはわけがある。
「おい、お前。さっきから医者を出せって言ってるんだ!見りゃわかるとおり、霊夢が病気なんだよ」
永遠亭の扉の前で鬼の形相を晒しながら叫んでいるのは、泥棒とかゴミクズとか呼ばれ続けている霧雨魔理沙だが、背中に自分より大柄な霊夢を背負っているのだった。
「はぁはぁ…、はぁはぁ…」
魔理沙が背負っている霊夢は、さっきからずっと凄く苦しそうにしている。魔理沙が永遠亭にある八意診療所に訪れている理由は、いつものように博麗神社に遊びに行った時にいつもなら“素敵なお賽銭箱”の前に座っているのに、今日に限って座ってなかったので気になって母屋に忍び込んだ所、台所の前で霊夢が倒れているのを発見したからだ。
無二の親友の一大事とばかりに魔理沙は霊夢を抱き抱え、疾風の如く永遠亭に向かうのだったが、肝心要の永琳が『月都万象展』の準備に追われていることなどこれっぽっちも知らなかったのである。
「お師匠様は大切な用事があるので、これをあなたに手渡すように言われました。ですから、お引き取りをお願いいたします」
本来ならば急患を受け付けるべきだとこの妖怪兎の少女は思っているのだが、自分の主である永琳の命令には逆らえないのも事実なので、魔理沙に帰って貰うように説得をした。
「さっきからこっちは急患なんだって言ってるだろう!?何でそれが解らないんだ!?霊夢の命に関わる問題なのに、なんで診てくれないんだ!」
医者の本文は患者の命を助けることが最優先だと考えている魔理沙は、永琳がどうしようもない用事を優先して霊夢を診察しない姿勢を激しく非難した。
「もういいっ!こんなクソ診療所、2度と来るもんかっ!財政破綻でブッ潰れちまえばいいんだぜ!」
「永琳に言っとけ。お前には失望したとな」
魔理沙は対応をし続けている妖怪兎の少女を見下すと、霊夢を抱えたままそのままどこか遠くを目指して飛び去ってしまった。もちろん、例の如く永遠亭の住人達を激しく罵倒しながらやるのは、魔理沙にとって当たり前である。
「すまない霊夢、お前を助けてやれなくて…。」
「こうなったら仕方ない。あんまり世話になりたくないんだが、アリスんところかパチュリーの所に行くしかないな」
「先にアリスん家に行くとするか。それっ」
魔理沙は目的地を魔法の森にあるアリスの家に決めると、善は急げと言わんばかりに閃光の如く向かっていくのであった。全ては霊夢を助けるために。
―39― 姫様の『月都万象展』
今日は悲願の『月都万象展』を永遠亭で開催日である。この日のために私は倉庫にある貴重品を仕方なしに展示することにしたが、やっぱり地上の愚民どもに見せるのはどうしても気が進まない部分があった。
私は幻想郷に住んでいる地上の愚民どもが永遠亭にやってきて、因幡どもを24時間フル態勢で“修羅場モード”でコキ使い用意させたアトラクション見たさで大金を支払うと見込んでいたのだった。
「嘘でしょ?お祭り騒ぎが大好きなあいつらだったら、こんな面白いイベントがあれば飛びついてやって来る筈なのに、こんな事ってありえないじゃない!」
私が想像していたのは、穢れきった地上の愚民どもがアトラクション見たさに金を支払う光景だったが、現実は残酷なもので永遠亭には穢れきった地上の愚民どもが誰一人たりともやって来ないという有様だった。
「永琳。地上の愚民どもはまだ来ていないの!?」
私は会場に足を運んだのだが来客者は誰一人たりとも着ていないことを確認したので、永琳を呼び付け地上の愚民どもが未だにやって来ないのかを尋ねてみた。
「姫様、申し訳ございません。愚かな私を死罪に処してください」
永琳は自分に落ち度があったことを認め、自分の処遇を死罪にするように言ってきた。死なない蓬莱人が死罪を要求するなんて白々しいのだが、これ以上変に指摘してもロクなことにならないので、あえて突っ込まないでおくとしようじゃないの。
「永琳、私達には落ち度がなかったわよね!?みんなそれぞれ自分の役割を果たそうと最大限に努力をした筈なのに、一体どうしてこんな事になったの!?」
私はこう見えても永琳と鈴仙の尽力があったから『月都万象展』の開催にこぎつけれたと思うし、地上の妖怪兎どもですら自らの役割を果たしていると思う。“詐欺兎”だけを除くことを前提として判断する。
「姫様、会場には地上の民どもが誰一人たりとも着ていません」
永琳は申し訳なさそうに頭を下げてばかりいるが、永琳の提案があってこれだけ多くのアトラクションが出来たのであって、幻想郷初のテーマパークと言っても過言ではない位の出来だと思う。
「姫様。地上の愚民どもが来ないので、私が付いた餅を使った雑煮がいっぱい残ってしまいました」
鈴仙が落胆しているのは、来場者たる地上の愚民どもにくれてやる月の兎が付いた餅を使った雑煮が1つも売れていないからだ。
「鈴仙、あなたは悪くないわ」
売れる見込みを立ててやったのにこの結果じゃ、いくらなんでも笑うに笑えない。『月都万象展』をやって莫大な利益を上げようと思ったのに、逆に負債を抱えてしまう現実を叩きつけられるなんて想像するにも出来なかったからだ。
「戦犯はあいつ以外いないじゃないの!」
私が『月都万象展』を失敗に追い込んだ戦犯は、いつも自分のこと以外考えていない地上の兎で、その上無駄に長生きをしている“詐欺兎”のあいつ以外いない。
「あの時は私に忠誠を誓う素振りを見せたけど、本音は自分以外の存在の命令を聞く気なんてないんじゃないかしらね」
私は永琳と鈴仙にあの“詐欺兎”は自分以外の誰の命令を聞こうと思っていないことを指摘したら、
「姫様、絶対そうとしか言いようがありませんよ」
永琳も私の考えを肯定してくれたら、
「てゐの言ってることはどれが本当か嘘かわからないですから、初めから信頼しない方が良かったんです」
「私もあの“詐欺兎”を信頼していたい目にあったんですから」
鈴仙も私と永琳と同じ見解を持っていたのは、過去に信頼をしてが故に大きな痛手を被ってしまった経緯があるからだ。
「あの“詐欺兎”は絶対に私が命令した仕事をしていないに決まってるわ!」
「私はあいつを信用して『月都万象展』の開催の宣伝という重要な役割を与えたのに、信頼に答えようとしないなんて絶対おかしい!」
やっぱり地上の民は信頼ならないという事が判明した。あの詐欺兎限定かもしれないが、人の信頼を裏切る行為は月の民なら絶対にしない行為であり、もし私達月の民が人の信頼を裏切ったならば死んでも汚名を背負い続けなくてはならないのだから。
「後でアイツを尋問するわ!絶対戦犯はてゐに決まってるんだから!」
―少女対談中―
今日も紅魔館のテラスで盛大なパーティが開かれているのだが、お嬢様の気まぐれとこの間病魔に倒れた霊夢の快気祝いをかねて行われている代物だった。奇しくもこの日は偶然にも永遠亭で『月都万象展』の開催日であることに、ある種の因縁を感じざるを得ないだろう。
霊夢と魔理沙と早苗以外はうまそうに酒を飲んでいる。霊夢は病み上がりという事もあって、飲酒をするなというお達しがあったためにお酒の入った瓶を残念そうに見つめている。
「すまない霊夢。お前の病気をすぐに直せなくて…、私が治療の呪文が使えないばかりにこんなつらい思いをさせるなんて…」
魔理沙は泣きながら霊夢に申し訳なさそうに謝るのだが、
「いいのよ。魔理沙が私を見つけてくれなかったら、私はそのまま死んでいたかもしれないじゃないの」
霊夢は今自分がこうやって生きているのは、真っ先に自分のことを助けるために尽力した魔理沙という友人のおかげだと言って慰めた。
「何言ってるのよ。魔理沙は最善を尽くしたでしょう?あれからすぐに紅魔館に向かわず、私の所に行ったのは最善の判断だったと思うわ」
アリスは魔法使いとしてのキャリアは魔理沙より長いために、人形を操る事を得意としながらも治癒を始めひと通りの呪文が使えるので、霊夢に対し応急処置が出来たのだった。
「霊夢〜、本当に心配したんだよ〜!」
鬼も伊吹萃香は、霊夢が倒れたと聞き慌てて地上に戻って見舞いにやってきたのだったが、霊夢の快気祝いを誰よりも望んでいた一人でもある。
「霊夢さん。良かったですね!」
「そうよね〜、霊夢がこっちの世界に来るにはまだ早すぎるものね」
冥界の白玉楼の主である西行寺幽々子と、そこで庭師として低賃金でこき使われている魂魄妖夢も霊夢が死んでしまうかと本気で心配したのだった。
「ゲホゲホ、ゲホゲホ、ゲホゲホ、ゲホゲホ。私が対処をしていたら、下手をしたら霊夢が死んでいたと思うの。あの時の霊夢は心筋梗塞だったから、対応を間違ったら死んでいたかもしれないわ。ゼイゼイ、ゼイゼイ、ゼイゼイ、ゼイゼイ。あの場合、最初にアリスに任せて正解よ」
喘息の発作を起こしながら魔理沙の対処を称賛したパチュリーだった。傍から見ると、パチュリーこそ病院の世話になるべきだと思われるのだが、そこは突っ込まないのがお約束である。
「全くあそこときたら、医療機関なのに何を考えているのかわかったものじゃないわね。この間薬をよこせと言ってもくれなかったんだから、何様のつもりかしら」
紅魔館の当主であるレミリアは八意診療所があてにならないことを皆に言ったら、
「全くお嬢様のおっしゃる通りです」
メイド長と努める十六夜咲夜もあきれ顔で答えるしかなかった。
「それにしても良かったですよ、私も巫女の快気祝いを新聞でつたえてるんですから。巫女の訃報なんていう内容は、正直言って書きたくありませんからね」
妖怪の山にある天狗の集落から、文々。新聞を出版している射命丸文がパーティを倒し夢と共に巫女に対し取材をしていた。
「私も霊夢さんが危ないと聞いたので、正直言って不安で仕方なかったんですが、何とか完治されたみたいなのでこれで一安心しました」
守矢神社の風祝を務める東風谷早苗も霊夢の身を案じていた。
「あ〜ら、みんな揃って楽しいことをやってるじゃないの」
パーティ会場に響き渡る胡散臭い声がして、スキマから紫を基調とした派手な服を着たアイツが式神2人を伴いやってきた。
「紫じゃない!あんた、今まで何をしていたっていうのよっ」
霊夢は座布団を紫の顔に向かって投げつけたのだが、紫は首を亀のように引っ込めてそれを回避してしまった。こんな避け方をする一人一種族のスキマ妖怪の生態はいまだ解明されていない。
「あら、御挨拶ね。それだけ元気だったら、もう心配する必要はないわね」
紫は実の娘のように可愛がっていた霊夢が倒れたと聞いて物凄く驚愕したと共に、急患に訪れたにも関わらず対処をしなかった八意診療所のことを腹ただしく感じていた。
こうして霊夢が一名を取り止め元気でいられるのは、ボーダー商事が取り寄せた特効薬の効果によるものだが、魔理沙らの働きがなかったら霊夢を助けることが出来なかったのもまた現実である。
「ここにいる者はみんな助け合って生きているのよね。私は今まで一人で生きてると思ってたんだけど、みんなが私を助けてくれたからこうやって生きて入れるんだわ」
「みんな、ありがとう…。」
霊夢は皆の尽力により自分の命が助かった事に対し、どうしても感謝の意を述べずにはいられなかった。
「あーうー、いくらなんでもお葬式なんて御免だよ。みんなで楽しく凄くのを見ていたいもんだからさ」
「そうだよ、誰かが死ぬっていうのはつらいもんだ。ましてや自分の知り合いはおろか大切な存在であったらなおさらだからな」
守矢神社の2柱の八坂神奈子と洩矢諏訪子も、誰かが死ぬという事は物凄く残念なことであると言った。
信仰を失ったことにより、自分たちの存在そのものが無くなってしまうという危機を乗り越えたからこそ、誰よりも死の意味が解っているのだ。
「霊夢さんが無事で何よりです」
「私達は博麗神社を応援しています」
「これからはあんまり無理をしないで下さいね」
いつもは悪戯をしているサニーとルナとスターも、やっぱり霊夢の身が心配でならなかった。
「良かったわ。これでまた霊夢を苛められる!」
フラワーマスターでいじめっ子の風見幽香は、これからも神社に訪れて霊夢いじめが出来ることに喜びを感じていた。
「やめて。神社に来ないで。私を苛めないで」
霊夢は幽香に苛められるのが嫌なので、当然の如く拒絶をしたが幽香にとって何の意味もなさない。こう見えても幽香は霊夢のことを大切に思っているのだが、残念ながら霊夢には通じることがない。
「また要石ブチ込んでおく?」
「総領娘様、またロクでもないことをするのをおやめ下さい」
天人崩れがまたひと悶着起こそうとしていたので、竜宮の使いがあきれ顔で諫め始めた。
「ああもう!あんたらにかまってちゃ、身がもたないじゃないのよ!」
もちろん霊夢もこの天人崩れに絡みたくないことをアピールするが、当然の如く説得は功を為さないのがお約束である。
「地底を治める私といたしましても、霊夢さんが無事だったので本当に良かったと思っています。」
地霊殿の主の古明地さとりも霊夢の身を案じていたので、火炎錨燐や霊烏寺空などのペットを従えて地底を代表してわざわざ訪問に訪れたのだった。
さとりと神奈子と諏訪子が共同で進めている“河童のエネルギー革命”も、幻想郷にとって害があるならば紫の許可があって初めて実行できるのだ。
「私、聖白蓮は命蓮寺を代表して、この度霊夢さんが快気された事を祝い申し上げます。お葬式があれば私に任してほしいのですが、出来ればその日は来ないことを祈るばかりです」
命蓮寺の住職である聖白蓮は霊夢が危篤状態に陥ったことを聞きつけ、さとりと同様に従者たちを連れて見舞いにやった来たのである。
「とにもかくにも、困った時はお互いさまでしょ?私達は幻想郷という大地で共存しているのですからね」
「それでは、霊夢の快気を祝って、乾杯!」
紫は幻想郷という大地で生きていくには、人間も妖怪も上手く共存していかなくてならないことと霊夢の快気祝いを音頭にとって、いつも通りハチャメチャな展開になる飲み会を始めるのだった。ただし、病み上がりの霊夢と下戸の早苗を除いてだが。
―あとがき―
今回はパートひとつごとに語り手を変えて、永遠亭の住人達に交代させるようにお話を進めてみました。というか、久々に“ゆかりん”登場。胡散臭さ爆発しているでしょうか?
そして俺のSSを読み直すと、相変わらず内容がヘボいから落ち込むという始末。これもいつも通りなんで、あんまり気にしないようにしてるんですよ。
そしてこのお話も終わりが近づいています。“月都万象展”がやや手抜きに感じられてしまう読者様が多いと思うのですが、初めからこうしたいと考えておりました。これも仕様です。はい。
イル・プリンチベ
作品情報
作品集:
28
投稿日時:
2011/08/25 08:09:05
更新日時:
2011/08/25 17:09:05
分類
因幡てゐ
鈴仙・優曇華院・イナバ
八意永琳
蓬莱山輝夜
永遠亭
ブラック企業
幻想郷から叩き出されて、外の世界で変化に取り残されて狂っちまえ。
不老不死だから一箇所に落ち着くなんてまず無理だろうし、月の技術云々も外の現代文明じゃさして役に立たないだろうし。
一欠けらでも他者の事を思う気持ちがあれば、ここまでどうしようもなくなる事もなかったろうに……
なんてしんみりしてましたがラストの綺麗な霊夢がかわいすぎてもうそれだけで俺は(ry
聞こえるぞ……。
クソ永遠亭の破滅への足音が……。
異変解決人たる霊夢と魔理沙をないがしろにして、
幻想郷の管理人たる『ゆかりん』を侮って、
幻想郷の皆を馬鹿にして……。
もう、良いんじゃないですか。
お肉を美味しく頂くための熟成期間は。
さあ、早く!!
鉄板で炙って、
ソースをかけて、
皆で貪り食いましょう!!
てゐが、傷つきながらなおも生きようと藻掻いてる様がたまらない。
正義の鉄槌だとかはどうでもいいけど、
勝手に破滅への道をひた走る永遠亭が楽しみだ。
ところで、誤字とかいちいち突っ込むのは野暮な気がするけど
キャラクター名は間違えない方がいいと思うけれど…
(霊烏寺→霊烏路、火炎錨→火焔猫)
永遠亭確実に終わりそうな展開だけど……