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『神聖モコモコ王国 〜 season2 〜』 作者: 木質
【 vol.1 コンビネーション 】
「けーね、おい、起きろモコ」
妹紅は慧音が被っている布団を揺する。
「すまない、もうちょっとだけ寝かせてくれ。昨日、遅くまで調べものをしていたんだ」
「んなこたぁどうでも良いモコ。セカンドシーズンモコ。微妙なキャラリセットして再スタートしたモコ。初っ端からサボってんじゃねぇモコ」
「朝飯は昨日の鍋が残っているから。温めて食べてくれ」
朝日がまぶしいため、妹紅に背を向ける。
「まあ、けーねが惰眠を貪っている内に雑魚妖怪を狩りまくったり、輝夜抹殺の方法を考えたりしてどんどんレベルアップしてやるモコよ」
「それをやると人間としてのレベルは確実に下がるからほどほどにしておくんだぞ」
それを伝えると、慧音は布団の中に潜っていった。
「オッス阿求」
「あら、妹紅さん」
領土(慧音宅)を出て稗田家までやって来た妹紅。
「産廃も新天地になりモコモコ王国も新章に突入したモコ、まぁオルタナティブやホロウアタラクシアみたいな感じモコ」
「はぁ…?」
「けーねのヤツが寝てて暇モコ」
だから遊びに来たらしい。
「仕方ありませんよ、慧音さん今日の会合の為の資料を揃えていたのですから。労わってあげてください」
慧音の事情を知る阿求が擁護する。
「私これからその会合にお出しする茶菓子を買いに行くのですが、ご一緒しますか?」
妹紅の相手をする事が慧音の負担の軽減になるならと思い、誘う。
「面倒臭いモコ」
「そうですか。いつも色々試食してから買う物を決めるのですが、私は小食なので一緒に食べてくれる方がいると助かると思ったのですけど」
「行くモコ」
お菓子に釣られて同行を決断した。
里の大通りを歩く妹紅と阿求。
「輝夜さんとの仲は良好ですか?」
ライバルとの近況を聞いてみる。
「最近、モッ殺してないからイライラするモコ」
執拗に命を狙い続けているため、永遠亭まで行っても絶対に入れて貰えないのが現状だった。
「あら?」
目的地である製菓屋の前に人だかりが出来ていた。
「何か揉めてますね、喧嘩でしょうか?」
二人の少女が言い争いをしていた。どちらも阿求の知らない顔だった。
「大判焼きを買おうぞ!」
「お煎餅にするわよ。こっちの方がお茶に合うわ。日持ちもするし」
「太子様は小倉が好きなのを知らんのかこの白痴が!」
「単に布都が食べたいだけでしょう、この甘党。太るのは勝手だけど太子様まで巻き込まないで頂戴。それに太子様は素朴な味を好まれるのよ? 教えて貰ってないの?」
「なにおぅ!?」
どうやら土産に何を買うかで意見が一致していないようだった。
「微笑ましい争いですが、あんな往来の真ん中で騒がれては皆さんに迷惑です」
「任せるモコ。いっちょモコモコ王国が軍事介入して、40秒で恒久和平を実現してやるモコ」
指の関節を鳴らしながら二人に近づく。
輝夜と戦っていない憂さ晴らしと、早く菓子が食べたいという欲求が妹紅を好戦的にさせていた。
「手加減してあげてくださいよ」
「植民地化で許してやるモコ」
そして二人の間に割って入った。
「モコ畜生…」
製菓屋の向かいに建っている長屋の壁に、妹紅はめりこんでいた。
「大丈夫ですか? 血とかいっぱい出てますけど?」
「とりあえず引っ張ってくれモコ」
「よいしょっ」
半壊した壁から妹紅を救出する。
「奴等、妹紅が乱入した途端にビスケット・オリバとJ・ゲバル並みの共闘スキル発揮しやがったモコ」
「お互いを罵倒しつつも、すごいチームワーク良かったですね」
結局、阿求が仲裁に入り、なんとかコトは納まった。
二人は平謝りして里を去っていった。今、里の大通りは平常に戻っている。
「ヤツらこのままでは済まさんモコ。あの部隊を動かすモコ」
「部隊、ですか?」
―――――【モコモコ王国 公安9課 モ攻殻機動隊 隊長 草薙モコ子少佐】 ――――――――
幼い頃に銀河鉄道999に乗って機械の体を手に入れた草薙モコ子は
モコモコ王国の治安を守るカウンターテロ組織、モ攻殻機動隊の隊長に抜擢された。
今日もゴーストの囁きに従い、輝夜を殺す算段を整える。
「本当に観たい映画は、一人で観に行くことにしてるモコ」
「じゃあ、それほど観たくない映画は?」
「店でレンタルが出るまで待つモコ」
―――――【モコモコ王国 公安9課 モ攻殻機動隊 隊長 草薙モコ子少佐】 ――――――――
「ゴーストがこう囁くモコ『一緒に轆轤(ロクロ)を回しましょう』と」
「そっちのゴーストなんですか?」
「それで、さっきの烏帽子(えぼし)二人組みはどこ行ったモコ?」
「えっと、里の外に」
命蓮寺がある方角を阿求は指差した。
「よし、茶菓子食ってから追跡するモコ」
「そっち優先なんですね」
二人は製菓屋に入っていった。
「畜生、見失ったモコ! 幻想郷は広大モコ」
「そりゃお菓子食べてたらそうなりますよ」
まだ妹紅の口元に残る餡子をハンカチで拭ってやる阿求。
「しかし、こっちに行ったのは間違いないのですが」
辺りには命蓮寺以外、建物らしいものは無い。
「寺の中にいないか調べてみるモコ」
階段を駆け上がり、命蓮寺の門を潜ろうとしたときだった。
「ぎゃーてーぎゃーてー!」
「うおっ!?」
門前を箒で掃除をしていた者が立ちはだかる。
頭に垂れた耳が付いていたので一目で妖怪だとわかった。
「てめぇ何者モコ?」
『てめぇ何者モコ?』
「先に名乗りやがれモコ。あと語尾にモコとか付けんなモコ。キャラが被るモコ」
『先に名乗りやがれモコ。あと語尾にモコとか付けんなモコ。キャラが被るモコ』
「真似すんじゃねぇモコ!!」
『真似すんじゃねぇモコ!!』
一字一句違わぬ言葉を返される。
「確かその方、最近このお寺に入信した山彦さんですよ。名前は幽谷響子さん」
遅れて妹紅に追いついた阿求が説明する。
「山彦モコ?」
「ええ、山で『ヤッホー』ってやると返ってくるアレの妖怪だそうです」
「モコほほう。どこまで完璧にリターンできるか、試してやるモコ」
妹紅は咳払いをして響子の前に立つ。
「バスガス爆発。輝夜ブス」
『バスガス爆発。輝夜ブス』
「生麦生米なままモコ」
『生麦生米なままモコ』
「蛙ピョコピョコミピョコモコ、あわせてピョコピョコムモココ」
『蛙ピョコピョコミピョコモコ、あわせてピョコピョコムモココ』
「……」
『……』
両者にらみ合う
「ζμ仝βλξ¶ΘΨΛΩ£凵Y仝ッ!!」
『ζμ仝βλξ¶ΘΨΛΩ£凵Y仝ッ!!』
「畜生!」
秘策が破られたことにショックを受ける。
「ぎゃーてー!」
「もごぁ!」
響子のボディブローが炸裂する。
「モ゛ゴゴゴゴ。どうやらてめぇを見くびっていたようだモコ。本気で相手してやるモコ」
妹紅は両手を広げた。パンッと勢い良く手を叩いた。
響子も手を叩いて同じ音を返す。
「三三七拍子するモコ。ちゃんとついて来いモコ」
そう宣言して手拍子を始める妹紅。それにワンテンポ遅れて拍手する響子。
タンタンタン・タンタンタンとリズミカルに手を打つ二人。
(ピタッ)
「ッ!?」(パチン)
最期の締めとなる拍手、それを妹紅は叩かずに寸止めした。しかしリズムに乗っていた響子は手を止められず拍手してしまった。
「魔法の言葉で〜楽しい〜仲間が〜〜モコココ〜〜ン♪」
先ほどのお返しとばかりに、響子の顔を殴る。
「モコふふんっ。この程度モコか?」
「ちょっと妹紅さん!なんで暴力なんか!?」
阿求が殴った理由を問う。
「邪魔すんじゃねぇモコ! これは妹紅と山彦の正当なる決闘モコ!」
「ぎゃーてー!」
妹紅に同意するように響子は叫び立ち上がる。
再び対峙する両者。
妹紅は息を大きく吸った。それに合わせて響子も吸う。
「都会(まち)はきらめく passion fruit ウインクしてる every night〜♪」
『都会(まち)はきらめく passion fruit ウインクしてる every night〜♪』
『グラスの中の passion beat 一口だけの fall in love〜♪」
『グラスの中の passion beat 一口だけの fall in love〜♪』
「甘いメロディー 風に乗れば今夜 秘密めいた 扉がどこかで開くよ〜♪』
『甘いメロディー 風に乗れば今夜 秘密めいた 扉がどこかで開くよ〜♪』
「……」
『見つめるキャッ…あ』
サビを歌っているのが自分だけだということに気付き、しまったと顔を上げる響子。
「モコココ〜〜ン♪」
満面の笑みで、手首に捻りを入れながら響子の顔を殴る。
「ギブするモコか? 今なら寛大な処置を下してやるモコ」
地を這う彼女の顔を覗き込む。血の混じった唾を吐いて、再び妹紅の前に立った。
「やめておくモコ。今ので貴様の底は知れたモコ。痛い目を見たくないならどきやがれモコ」
『やめておくモコ。今ので貴様の底は知れたモコ。痛い目を見たくないならどきやがれモコ』
響子の瞳は闘志に燃えていた。
「うしっ、次行くモコ」
喉を鳴らして咳払いをする。
「粉雪〜舞う季節は〜〜いつぅ↓も↑すぅれ違い〜♪」
『粉雪〜舞う季節は〜〜いつぅ↓も↑すぅれ違い〜♪』
握り拳を作り、気持ち良さそうに歌いだす。
「人込みに紛れても〜同じ空みてるのに〜〜風に吹かれて〜〜似たように凍えるのに〜〜♪」
『人込みに紛れても〜同じ空みてるのに〜〜風に吹かれて〜〜似たように凍えるのに〜〜♪』
「僕は〜〜君の全てなど〜〜知ってはいないだろう〜〜それでも〜〜1億人から君を見つけたよ〜〜♪」
『僕は〜〜君の全てなど〜〜知ってはいないだろう〜〜それでも〜〜1億人から君を見つけたよ〜〜♪』
「根拠はないけど〜〜本気で思ってるんだぁ ……些細な言い合いもなくて ラライ・ラライ 同じ時間を〜いきてなどいけない〜♪」
『根拠はないけど〜〜本気で思ってるんだぁ ……些細な言い合いもなくて ラライ・ラライ 同じ時間を〜いきてなどいけない〜♪』
「すなぁ↑おにぃ↓なーれないならー 喜びも悲しいも〜〜虚しい〜〜だぁ↓け↑〜〜〜」
『すなぁ↑おにぃ↓なーれないならー 喜びも悲しいも〜〜虚しい〜〜だぁ↓け↑〜〜〜』
「……」
『……』
今度は引っかからなかった。
「ぎゃーてー!」
軽い助走をつけながら満面の笑みで、妹紅の顔を殴る。
(意味が分からない)
ルールが理解できない阿求はただ見ていることしかできなかった。
ただ、妹紅が意外と歌がうまいことだけはなんとなくわかった。
その頃、寺の本堂では寅丸星がナズーリンに檀家獲得のための案を出していた。
「人間の寿命は短いです、つまり成長も早い。ならば若い層からの人気にも気を配らなければならないと思うんです」
「まったくもって正論だ」
珍しく真っ当な意見を出してくれたことに、ナズーリンは大いに感心する。
「それでコレです! 今時の若い子にもウケるように木魚を改良してみました」
「なんだいこれは?」
木魚の真横からL字の鉄棒が生えており、その鉄棒の先にドラムのシンバルが付けられていた。
「お経を唱えながら絶妙なタイミングで『シャーン!』とビートを刻み点数を稼ぎ、目指せ全国一位!」
「ご主人の頭にフルコンボをキめてやろうか?」
手持ちのロッドでシンバル部分だけを破壊する。
「え? 駄目ですか? 若い子にはウケると思ったのですが」
「色々と失敗だと思うぞコレは」
「じゃあこんなのはどうでしょう?」
「まだあるのかい?」
星は一冊の雑誌を取り出した。
「『週刊命蓮寺』。毎号、命蓮寺の情報が盛りだくさん。付属されるパーツを組み合わせて自分だけの命蓮寺を作ろう」
「宣伝効果はあるかもしれないが、売り上げは右肩下がりだぞ絶対」
「ちなみに創刊号には全員のスリーサイズも記載しておきました。ナズーリンって結構スリムなんですね、羨ましいです」
「よくやったご主人。二階級特進だ」
「すみません! どなたかいらっしゃいませんか!!」
ロッドが星に振り下ろされる直前、阿求の声が本堂に響いた。
「どうかされましたか?」
「お寺の門で、妹紅さんと幽谷響子さんが意味不明なルールで喧嘩を!」
「はい?」
「モコココ〜〜ン♪」
「ぎゃーてー!」
門までやって来ると阿求の言うとおり、二人は取っ組み合いをしていた。
「最初は何かの法則に則って戦っていたのですが、途中からただの喧嘩に!」
「二人とも何やってるんですか!?」
「やめないか!」
星とナズーリンが二人の間に入り、妹紅を星が、響子をナズーリンが押さえつける。
「邪魔すんじゃねぇモコ! タイガーアンドナーズリー」
「変なコンビ名をつけるな!」
――――――【挿入歌】――――――
『タイガー&ナーズリー 〜ミッシングホウトウ〜』
失くした宝塔は奪われたんだよ
何処かで落とした覚えはないから
違和感もないほど軽い袖には 宝塔という名の宝が確かにあった
「誰に奪われたのでしょうか? 大事にしてたんですよ?」
「うるさい! ひとごとみたいに言いやがってもう!」
何を憎めば良い 星か自分自身か
「出来れば今日見つけてきて」
※(宝塔は 星の机の引き出しの中にありました)
――――――【挿入歌】――――――
その後、結局うやむやになり、追跡してた二人は見つからなかった。
【 vol.2 メメント・モリ 】
「早く帰りてぇモコ」
「すまないな付き合わせて」
深夜、慧音と妹紅は命蓮寺近くの墓地を提灯を揺らしながら歩いていた。
命蓮寺が建った影響か、最近このあたりに色々な妖怪が出没するようになった。
里への被害はまだ出ていないが、出てからでは遅いと考えた慧音はこうして見回りを行っている。
「そろそろ終わりにしたいモコ」
墓地の一周した頃、妹紅がそう切り出した。
「そうだな、今日はこのくらいにしとくか。でもその前に、ちょっといいか?」
「モコ?」
慧音は近くにあった墓の前まで来ると、しゃがんで両手を合わせる。
「誰の墓モコ?」
お世辞にも立派とは呼べない墓石ではあったが、新しい花が飾られ表面に苔なども無く、他の墓よりもずっと手入れが行き届いていた。
「私の教え子が眠っているんだ」
彼女は定期的にここを訪れては墓石の掃除と、お供え物をしていた。
「何で死んだモコ?」
「それは…」
「ちーかーよーるーなー!!」
突然、目の前の土が盛り上がり、そこから少女の姿をしたものが飛び出して来た。
「先手必勝! モコられる前にモコる!」
ここにやって来た時点で臨戦態勢だった妹紅は、この事態に驚くことなく対応し、敵の出現と同時に拳を振りかぶっていた。
体重と炎の乗った拳が襲撃者の顔面目掛けて放たれる。
しかし拳が届く直前。慧音に後襟を掴まれて、強引に引き戻された。
「けーね何しやがるモコ!? ……けーね?」
この時、慧音の視線は目の前に現れた妖怪の少女に釘付けだった。
「そんな、どうして、まさか…」
慧音の表情は強張り、体は震えていた。しかし、その反応は恐怖から来るものでは無かった。
「芳香…なのか?」
たった今、黙祷を捧げていた相手が目の前にいるからである。
「昔……いや、そんなに過去じゃないか。宮古芳香という生徒がいたんだ。素直で良い子だった」
墓の前で、慧音は彼女の事を語る。
「家が貧しかったこともあって、色々と苦労の絶えない子でな、親に代わって幼いの兄弟も面倒も見ていた」
家の手伝いで寺子屋に来られない日があっても、宿題を忘れた日は一度もなかった。健気で真面目な子だったのを覚えている。
「色んなことを学んで、家を貧乏から脱出させるって良く言っていたよ。歴代の生徒の中でも、彼女ほど勉強熱心な子はそうそういなかった」
楽しそうに喋っていたのはここまでで、途端に慧音の表情は急に暗くなる。
「卒業して2〜3年経った頃、里を流行病が襲ってな。大勢が感染したのに薬の数が限られていて、なかなか彼女まで回らなかったんだ」
薬は必然的に裕福な家庭から買われていった。
「結局、彼女まで薬が回ることは無かったよ…」
あまりにも短い生涯だった。
慧音にとって悔やんでも悔やみきれない思い出の一つである。
「てめえのつまんねえ回想なんざ興味ねぇモコ! 手伝えモコ!」
慧音が話している最中ずっと、芳香は妹紅を捕食するために、妹紅に覆いかぶさり歯を剥き出しにしていた。
「うーまーいー」
「いでっ! いでで! 噛むんじゃねーモコ!」
妹紅は芳香の顔を押し返して必死に抵抗する。
「芳香。お腹空いてるのか?」
自分達の夜食にと用意していたおにぎりを、彼女の口に近づける。
「おおッ!」
妹紅から興味を失い、慧音が持つおにぎりにグイと首を伸ばした。顎が外れる寸前まで大口を開ける。
「ガッガッガッガッ」
「美味しいか? まだまだあるぞ。たしか梅干が好きだったけ?」
おにぎりを頬張る様子を愛をしそうに眺める。
「本当は子供らしく、周りにもっと甘えたかったんだろうな」
生前の芳香の姿を思い浮かべながら頭を撫でる。
芳香がその手を噛もうとしたので妹紅は慌てて芳香の首を捻った。
「コイツはただの動く死体モコ、目ぇ覚ませモコ」
恩師である慧音の手を噛み千切るべく、芳香は何度も顎を上下させている。
「うん。わかってる」
ゆっくりと頷いた。
目の前にいるのは、元教え子の姿をした理性の無い化け物。頭ではちゃんと理解している。
「わかってる。わかってるのに……なぜかそれを受け入れられない自分がいるんだ」
胸が締め付けられるように痛かった。
「ごめんな芳香、あの時、もし私にもっと力があったら、お前をこんな姿になんかさせなかったのに」
その声は震えていた。血を吐くように言葉を紡ぐ。
「お前をこのまま放っておけばきっと人を襲う」
「現在進行形で襲ってるモコ!! 痛ぇ! うおお! 妹紅の小指が無ぇ!! どこいった!?」
「だからもう一度、眠ってくれないだろうか?」
努力したけれど失敗してしまった生徒を慰めている時のようなに優しい声だった。
「こんな形でも、また会えて嬉しかったよ」
伝えたいことは山ほどあった、しかし、それは死んだ彼女にはもう届かない。
墓から少し離れた更地まで移動した。
「キョンシーは、退治する以外に成仏させる方法は無い」
彼女の半身であるハクタクは中国由来の妖怪である。同じ出身のキョンシーのことを知らないわけがなかった。
今、芳香は額の札を剥がされ、動きを停止していた。手を組んだ形で地面に仰向けで寝かされている。
「妹紅、すまないが彼女を火葬してやってくれないか?」
「楽勝モコ」
妹紅は掌を燃え上がらせる。
「その前に少しだけいいか?」
「モコ?」
妹紅が行動に移す前に、慧音は芳香の体を抱き起こした。
「納得なんて、してくれなくて良い」
彼女から嫌悪感を抱く臭いがしたが、そんなのはまったく気にならなかった。
「生前、何もできなかった私を恨んでくれて構わない。今、こうしてお前を退治する私を呪ってくれて構わない」
この言葉も抱擁も、全てが自己満足以外の何物でもないという自覚はある。
しかしやらずにはいられなかった
どれだけの時間、彼女の体を温めていたのかはわからない。
彼女を送る決心が付くまでしばらくそうしていた。
妹紅はその間、急かすことなくちゃんと待っていてくれた。
「頼む」
「ブルジョワ直火焼きにしてやるモコ」
そして、今まさに妹紅が術を使おうとした時だった。
「あの、この子が何かご迷惑をおかけしましたか?」
丑三つ時の墓場近くで聞くには最も似つかわしくない澄んだ声だった。
薄蒼いワンピースと、個性的なかんざしで飾った青い髪の少女。
幼い顔だちではあったが落ち着いた雰囲気があり、少女の容姿にも関わらず大人びて見えた。
「あなたは?」
「私は霍青娥(かく せいが)と申します。仙人のようなものをやっております」
「ようなもの?」
彼女の言葉尻に引っかかるモノがあり訊いた。
「道士しての肩書きもありますので。他にも色々」
「道士? ではあなたが、このキョンシーの主ですか?」
「え、ええ。そうですけど?」
キョンシーを知っているのに、少しだけ驚いた様子を見せる。
「申し遅れました。私は上白沢慧音。里で寺子屋を営んでいる者です。彼女は藤原妹紅。私の友人です」
「おめーの簪(かんざし)あれモコか? 必殺仕置き人が使う暗器モコ?」
慧音はなるべく感情を顔に出さぬよう努めながら自己紹介をした。
「これはこれはご丁寧に」
「何故です?」
挨拶もそこそこにして、慧音は尋ねた。
「何故とは?」
質問の意図がわからず首を傾ける。
「どうしてこの子をキョンシーにしたのですか?」
「ある場所を守る番人が必要になりまして、この墓地からキョンシーとして使えそうなのを探していたら、ちょうどこの子が見つかりまして」
「何故です?」
「何故とは?」
主語の無い質問に、青娥は再び首を傾げた。慧音はすぐ補足する。
「どうしてその子を選んだのですか?」
「この世に未練を抱きながら死んだ者は、キョンシーになる素質を持っています。芳香は生前、何か辛いことがあったのでしょうね」
精神の陽の部分を『魂』、陰の部分を『魄』と呼び。『魄』だけが残った死体はキョンシーになる。
「私がこの子の死体を見た時、もう陽の部分は完全に擦り切れてしまっていました。一手間加えるだけで簡単にキョンシーになりましたよ。面倒臭い儀式をしなくてよかったので助かりました」
「そうですか」
暗がりであったため、慧音の目が徐々に険しいものに変わった事に青娥は気づいていない。
「もしですよ?」
「はい?」
「あなたの死後、あなたの死体が勝手にキョンシーとして使われたらどう思います?」
「上白沢様はもしかして『キョンシー化は死者への冒涜』だとお考えの方ですか?」
慧音が言いたいことを先読みして答えてきた。
「クスクス」
「私、何かおかしなことを言いましたか?」
「ああ、これは失礼」
怒気を孕んだその言葉を青娥は涼しい顔で受ける。
「“人”は死ねば“物”です。限りある資源は有効に使わねば。この国ではそういうのを『もったいない』と言うのでしょう?」
慧音は生理的な嫌悪感を、この女から抱かずにはいられなかった。
「ところで上白沢様、藤原様。この子から何か危害を加えられましたか?」
「札を剥がす際、爪で少し引っかかれた程度です」
「それは一大事です。キョンシーの爪には毒があり、すぐ適切な治療を受けなければあなたもキョンシーになります」
「心配には及びません。私は白澤(ハクタク)と人間のハーフです。この程度でキョンシーには成り得ません」
治療の見返りに法外な請求をされるか、払えないならキョンシーにされる未来が容易に想像できた。
「まあ白澤をその御身に? 白澤といえば我が故郷の聖獣。さぞ上白沢様は徳の高い御方をお見受けします」
慇懃な言葉の後、今度は妹紅を見る。
「妹紅は死なねぇからキョンシーとか関係ねぇモコ」
「死なない?」
その言葉に青娥の目の色が変わる。
「死なないとはどういう意味ですか?」
「そのままの意味に決まってるモコ」
「嘘偽り、比喩表現ではなく本当に死なないのですか?」
「だからそう言ってるモコ」
ずいと、妹紅の眼前までさらに詰め寄る。
「本当に本当ですね? 口から出任せだったりしたら怒りますよ」
「しつけぇモ…」
「えいっ」
青娥の掌から発生した大きな球体が、妹紅の顔の右半分を削り取った。
「貴様ッ!?」
「あ、コレですか? 『ヤンシャオグイ』といいまして、幼子の霊を加工して作ったんですよ」
「そういうことじゃない! 何故殺した!」
「だってご本人が死なないと仰ったじゃないですか?」
慧音の方を向かず、妹紅の顔の断面をジッと見つめる。
「リザレクション!」
顔の半分が元に戻った妹紅は素早く身を起こした。
「てめえ、いきなり何しやがるモコ!」
「まぁ、まぁ。まあまあまあまあまあまあまあまあまあ!!」
両手を頬に当てる。
まるで極上のデザートを口に運んだ時のような表情だった。
「どうやってその御力を? どんな代償を払いましたか? どちらで修行を? 何かの宝具の加護ですか? 魔法ですか? 外法ですか? 家柄ですか? それとも道術? 法力?」
目を輝かせ、歓喜に身を震わせながら質問の羅列をぶつける。
別人かと思えるほど青娥は態度を一変させていた。
「私が生涯追い求めている物こそがまさにこれです!」
不老不死の完成形。それを目前にした青娥の興奮は冷めやらない。
「藤原様。どうか、どうか、この卑しい仙女にご教授を」
「モコ?」
妹紅の両手を握り教えを乞う。
「教えてる必要なんてないぞ」
青娥から引き離すように妹紅の身を引っ張った。
「あなたに教える筋合いは無い」
「まあ酷い御仁。ではこうしませんか?」
懐から札を出して放ると、札はまるで生き物のように空中で何度も軌道を変え、芳香の額に張り付いた。
「んあ?」
「いらっしゃい芳香」
起き上がりこぼしのように、踵の力だけの不自然な姿勢で立ち上がった芳香を手招きする。
「上白沢様の要望はこの元教え子の芳香を成仏させる。違います?」
「お前、やはり最初から盗み見ていたな」
「そんな人聞きの悪い。偶然、近くにいて聞こえてきただけですよ」
白々しくそう言って、芳香の首に腕を回して抱き寄せた。
「それで、この子を成仏させたいのですか? させたくないのですか? 私はこの子の主、この子の魂を輪廻の巡りに戻すなど容易いこと」
「教えたらそうしてくれるのか?」
「いいえ。追加で条件があります」
「何?」
「藤原様の生肝をいただけないでしょうか? 今この場で。簡単なことでしょう?」
青娥が示した要求は妹紅が不老不死の理由と、彼女の生肝の二つ。
「ふざけるな」
「おかしいですね。正当な要求だと思いますが? この子を手放さなければならないという精神的苦痛。そして成仏させるために行う労役。ほら、二つでしょう?」
指を2本立てて見せ付ける。
「お前が芳香を好いているようには見えないが? 道具程度の認識だろう?」
「心外ですね。私これでも芳香を気に入っているのですよ? 愚直で忠実。可愛いじゃありませんか?
世の人間の醜さといったらもう見るに堪えません。嘘や打算、責任転嫁など日常茶飯事、自身の保身のことしか考えていない俗物の塊。
腐りかけたこの子の方が何百倍も美しく清らか。穢れそうな私の心を、この子は日々癒してくれるのですから。おいそれと離別などできません」
「言っておくが、アレの生肝を食べたからといって、不老不死にはなれないぞ」
「そんなことは百も承知です。ですがこれ以上にない研究材料。価値は大いにあります。芳香に移植してみるのも面白そうですし」
真剣な眼差しが、冗談ではなく本心からそう語っていることを窺わせた。
「さあご決断を」
「断るに決まってるだろ」
「はい?」
慧音の返事がよっぽど予想外だったのか、彼女は愁眉を歪めた。
「なぜです? この取引であなたは何一つ苦痛を伴わない。それに藤原様とて臓器を失ってもまた再生するじゃないですか?」
「そんな人の道から外れた取引など応じられるわけがない。私は子供の手本となる教師だ、誰よりも道徳を重んじなければならない」
「はぁ、どんな崇高な信条があるのかと思えばガッカリです。まあいいでしょう。急なご提案です、即決できないのも無理ありません。気が変わりましたら、いつでもお声をかけてください」
呆れかえる青娥を中心にあたりの空気が一変する。慧音は咄嗟に身構えた。
「ではでは、藤原様、上白沢様。本日も良い一日を。ほら芳香もご挨拶しなさい『慧音先生また明日』って」
芳香の手首を掴み。手を振るように促す。
「ん? あ……ばいばーい」
青娥の一礼の後、二人の姿が消えた。
「あいつらワケがわからな……おいけーね?」
柳の下の霊のような、ふらふらとした足取りで慧音は里の方へ歩いていく。
「お前、ちょっと先に行くなモ…」
「ばぁ! うらめし…ぎゃあああああああああ!!」
慧音を驚かそうと草むらの裏から飛び出してきた多々良小傘は、逆に慧音の表情を見て悲鳴を上げた。
翌朝
妹紅が目を覚ますと、いつも通りちゃぶ台に朝食が用意されていた。
「おはよう妹紅」
寺子屋に行くための支度をしながらさわやかに挨拶をする。
「けーね、お前大丈夫モコか?」
「珍しいな。妹紅が私の心配をするなんて」
「いや、だって、その…」
昨晩、慧音は家に帰ってくるなり、風呂にも入らず布団を敷いて気絶するように眠ってしまっていた。
「芳香の件なら大丈夫だ。もう持ち直したよ。寺子屋に行って来る。使った食器は流しに入れるんだぞ」
「お前、本当にその衣装で寺子屋行く気モコか?」
「ん?」
部屋にある姿見に目を向ける。
「な、なんだこの格好はっ!?」
リクルートスーツに眼鏡、ストッキング、ハイヒールを履いている自分の姿に驚愕する。
「女教師モノのAVにしか見えねーモコ」
「あれ? え? なぜだ? 私は普段どおりに…」
「てか、今日寺子屋は休みの日じゃねーモコか?」
「そう言えば」
指摘されて、今ようやく気が付いた。
どうやら慧音が患っている動揺は生半可なものではないらしい。
「なあ妹紅。ちょっと気分転換に散歩でも行かないか?」
「今のけーねを一人にしたらどっかの宇宙生物と契約して魔法少女になりかねんモコ」
「じゃあ行こうか」
「おい、だから着替えろモコ! 出るなモコ! 違うモコ! これは企画モノAVの撮影じゃありませんモコ! だから集まってくるんじゃねーモコ! 汁男優なんて募集してねぇモコ!」
慧音を家に連れ戻し、普段の服に着替えさせるのに、かなりの労力を使った妹紅だった。
里の公園、間伐材で作られたベンチが二脚設置されており、その一つに妹紅と慧音は腰掛ける。
もう一方にはすでに先客がいた。
「ほら芳香。動かないで。上手く取れないでしょ?」
「お゛うあ゛あ゛」
芳香の頭を膝に乗せて、彼女の耳掃除をする青娥がいた。
「最近、土の中ばかりいたでしょ? 色んな物が詰まっているわよ。地面から出て柔軟体操とかしてる?」
「してないぞー」
「まったく直ぐに忘れるのだから」
耳掻きが根元まで入っているが、青娥も芳香も気にしていない。
「ほら、こんなにも溜まっている」
「お゛お゛〜」
泥なのか脳の一部なのか、蛆なのかよくわからない物が耳掻きの先端にくっついており、それを芳香に一度見せてから紙にくるむ。
「なあもこたん」
「お、おう?」
慧音に『もこたん』と呼ばれて困惑する。
「耳掻きしてやろうか?」
落ちていた枝を拾う慧音。
「や、やめとくモコ」
「遠慮するな。私は耳掻きのプロだぞ、むかし里長に『慧音様ぁ、オラに耳掻きしてくだせぇ』と言いわれよく胸元に札束を捻じ込まれたものだ」
「やらないモコ」
「そっか………じゃあ一人モノポリーでもやるか」
公園の地面にボードを広げ、一人でサイコロを振ってコマを進めて行く。
「私つよーい。不動産王じゃーん、ハワイ丸ごと買えるじゃーん、ソ連征服できるじゃーん」
(今の慧音を直視できねーモコ)
「上白沢様は随分と変わった遊びを興じられるのですね?」
芳香の耳掃除を終えた青娥がそっと妹紅に耳打ちする。
「そもそもお前らなんで居るモコ!? 思わすぶりな演出で退却しておいて翌日公園でバッタりとか意味わかんねーモコ!」
「あら、公園のみんなのものでしょう?」
「公園は里のものだ、皆のものではない」
モノポリーの途中、突然振り向いた。目が真剣だった。
「す、すみません」
「わかればいい」
青娥の返事に満足した慧音は再びゲームに戻った。
「モノポリーも飽きたし、今度は七並べでもするか」
ポケットからトランプを出して地面に並べ始めた。
「おい、誰だ? ダイヤの8を止めているヤツは? くそぅパス1だ」
「この方は酔ってるんですか?」
「酔ってねーモコ」
「ドラッグでもキめてるんですか?」
「キめてねーモコ」
「だあああああ負けたあああああ!」
持っていたトランプを全部投げ捨てた、紙ふぶきのようにトランプが鮮やかに宙を舞う。
「ちょっと芳香聞いてくれよ」
芳香の横に座り、肩に腕を回す。
「さっき七並べをしたんだ、対戦相手がみんな意地悪でな。6と8を一枚も出してくれないんだ、お陰でビリだよ、ハハハ…うう、グスッ」
涙ぐむ慧音。
「なんで死んだんだよ芳香ぁぁ! 将来、お前をお嫁にしたいっていう男子が沢山いたんだぞ! 地子って同級生覚えてるか!? あいつお前のせいでガチレズになりかけてたんだぞぉぉ!」
胸に顔を埋めてワンワンと泣き出した。
「がじがじ」
「ちょっ! けーね頭齧られてるモコ!」
「よいしょ、ほーら芳香。たかいたかーい」
「お?」
「さあ、お前の失われた青春を取り戻しに行くぞ」
芳香を担ぎ、走り出す。
「逃げたモコ! あの野郎攫いしやがったモコ!」
「芳香ああああぁぁ!!」
慧音が正気に戻ったのは、それから三日後のことだった。
芳香については、これから青娥と地道な交渉を進めていくという方針を、正気に返った最初の日に妹紅に打ち明けた。
【 vol.3 グレイトフルデッド 】
「妹紅! 起きろ妹紅! 大変だ!」
「うるせえモコ、もっと寝かせろモコ」
「それどころじゃない! いいから起きろ!!」
布団から無理矢理引っぺがされた妹紅は、窓から外を向かせられる。
「なんじゃコリャモコ!!」
里の往来に額に札を張った者達が大量発生していた。
両手を前に突き出してジャンプしながら行進している。
里の人間が全員キョンシーになっていた。
「キメェ! アンブレラ社が幻想郷入りしたモコか?」
「わからん、起きたときには既にこうなっていた」
「それについては私がお話しましょう」
突然声がした。
「誰だ?」
玄関を見るが誰もいない。
「どこモコ?」
「ここです。お二人のすぐ後ろ」
「後ろなんて壁しか…うわっ!?」
壁から青娥の上半身が出現していた。
「言い忘れてましたが。私、壁をすり抜ける程度の能力なんですよ。芳香も入って来なさい」
「おじゃましまーす」
青娥の言葉の後に、芳香が家の玄関から入ってきた。
「事情を知っているようなことを言ったな?」
「はい」
壁から上半身だけの状態で頷く。
「というかお前が首謀者だろ?」
「こ、これには訳が。決して悪気があったわけではないのです」
「聞くだけ聞こう」
「わ、私、何時でも何所でもキョンシーが作れるように、陰の魂を大量にストックしているんですよ」
魂の無い死体に陰の魂を吹き込むと、キョンシーを作ることが出来る。
「それが入った容器を朝寝ぼけて割ってしまいまして」
「15廻天くらいかな。壁も一緒に砕けるが、まあ良いか。芳香は私が責任を持って最期まで見届けるから安心しろ」
オーラを放出させながら、慧音は腕を回し始める。
「待ってください! 陰の魂は生者には定着しません。里の皆さんは一時的に取り憑かれているだけで、一時間もしたら剥がれ落ちます」
「本当だな?」
「天と地よりも敬愛する父の名に誓って」
『父』という言葉を発した時の青娥の真剣な眼差しを信じることにした。
「そうと分かれば急がないと。妹紅」
「モコ?」
「永夜の時のようにこの里の歴史を喰い、一時的に外部から里が見えないようにする」
時間が経てば戻るというのなら、下手に事を荒立てたくなかった。
里の外にいる妖怪や博麗に巫女に干渉されては、確実に死人が出る。
キョンシー達がすべて里の人間である以上、ことが戦闘にまで発展するのはなんとしても避けたかった。
「私は里の外に出て、外部から来た者の応対をする」
慧音の能力は強い妖怪には効果が無い。
そのため異変を嗅ぎつけてやって来た者に状況を説明して、手を出さないように説得する必要があった。
「キョンシー化を免れて逃げ惑っている者がいるかもしれない、妹紅はその者たちの救助に行ってくれ」
そう頼み、慧音は家を飛び出した。
「説得でしたら私の得意分野、ご一緒しま…あれ? ちょ、抜けません」
慧音について行こうとするが、腰から下がこれ以上家の中に入れなかった。
「あれ? おかしいですね。最近この能力使ってなかったから? 普段ならこうスーっと」
「せーが様はおしりがでか…」
「ふん!」
ヤンシャオグイが芳香の腹に風穴を開けた。そのまま仰向けに倒れて、腸を床にこぼす。
「くせえモコ!」
腐臭が部屋に充満する。
「この臭いぜってぇ落ちねえモコ! オエェェ」
朝食前だったお陰で、吐くのは透明な胃液だけですんだ。
「あ、あとでちゃんと特殊清掃もやっておきますから、とりあえず引っ張ってもらえますか?」
両手を伸ばして妹紅に掴んでもらうよう頼む。
「せーのモコ」
「イタタタタタタタダダ! ギブ! 離してください!」
「我慢しろモコ」
「む、無理です、今ので腰をヤッてしまいました。日ごろの運動不足が祟ったようです」
肉体労働系の仕事をすべてキョンシーに任せてしまっているツケを今払わされた。
「痛み止めを、モルヒネをください。湿布でもいいです。私、あんまり痛いのに慣れてないんです。危ない時は芳香を盾にしてますし」
「その言葉をけーねが聞いたら、間違いなくモッ殺されているモコ」
とりあえず何か無いかと戸棚を漁ってみる。
「モコ」
「ありましたか?」
「ハッピーターンが出てきたモコ。これは使えるモコ」
「お菓子じゃないですか」
「これを喰って脳が『うめぇ』と感じている間は、痛みが和らぐモコ」
「そんな滅茶苦茶な……ひうんっ!?」
急に青娥は艶っぽい声を上げた。
「いきなりエロい声だしてんじゃねーモコ」
「だ、だって。だ、誰かが私のお尻を」
妹紅が裏に回って様子を見て来た。
「どうでした?」
「男のキョンシーがお前のケツを撫で回しているモコ。しかも1匹じゃねーモコ」
「そんなっ! 藤原様、どうか退治して来てください」
「里の人間に手を出したら慧音が五月蝿いモコ」
「そう仰らず、何卒。この哀れな邪仙をお救いください。キョンシー達の札を剥がすだけで結構ですから」
「しょうがねえモコ……お、アイツは?」
玄関を出た時、何かを見つけた妹紅。
「こうしちゃいられねえモコ!」
そのまま何処かに走り出してしまった。
「あの、藤原様? どこへ行くのですか? ちょっと?」
妹紅は完全に見えない場所まで行ってしまった。
「芳香、あの助け…」
自分で壊してしまった芳香を見る。空気に含まれる微量の霊気を吸い修復を始めていたが、効率が悪いため復活するのはまだ先のようだった。
「きゃわっ!」
先ほどまで臀部を撫で回していたキョンシーの手つきに変化が現れた。
「嘘、やだ、スカート…そんな」
スカートを捲くりあげ、下着の上から性器を愛撫し始めた。
「んん、くぅ、ああっ」
悶えていると、下着に手が掛かったのがわかった。
「ひっ、だ、駄目! それだけはッ!」
足をバタつかせて抵抗するが、体の強固なキョンシーがそれで怯むわけない。
「許して! 堪忍してください!」
秘所が外気に触れるのを感じ、下着を剥ぎ取られたことを知る。
「いやあああああああああああああ!!」
雄キョンシー共の視線が青娥の花弁に集中していた。見えずとも女の本能がそれをひしひしと感じていた。
「私清楚なのにぃぃぃ、邪仙だけど清楚なのにぃぃぃ」
羞恥であるハズのそれが何故か快感で、湿りだす。
そこに親指よりも太くて熱いモノがあてがわれた。
「ヤダ、ヤダ、キョンシーになんて…顔だって一度も見たことのない相手なのに…」
ソレは青娥の割れ目を数回なぞってから、中に侵入してきた。
「いぎぃぃぃぃ!」
イチモツは青娥の穴にピッタリと納まった。
間接が自由に曲がらないキョンシーは、足首を使ったジャンプをすることで、自らの腰を青娥の形の良い尻にぶつける。
「いきなりそんな激しくらめええええええええええええええええええ!!」
奥まで突かれる度、青娥の上半身が跳ねる。
腰の痛みなどとうに忘れていた。
「バック気持ち良いのぉぉぉぉぉ!! 成り立てオスキョンシーの生チンポとっても気持ち良いのぉぉぉ!!」
女の悦びを一度得てしまったらもう止らない。
青娥の肉壷は、脳の信号とは関係なくうねり、肉棒の射精を手伝う。
「もっとぉぉ! もっと乱暴に動いてぇぇ! オナホールだと思ってメチャクチャにしてぇぇ!!」
自ら胸元を開き、張りのある乳房を曝け出し、手加減なく揉みしだく。
「んあ? せーが様?」
この時、丁度体の修復を終えた芳香が目を覚ました。
妹紅が置いていったハッピーターンのおかげで回復が予定よりも早まった。
「芳香ぁ! 私のオッパイ吸ってぇ! 甘噛みして一杯苛めてぇ!」
「わかったー」
ただ命じられたことを実行する。
「あっ! あっ! しゅごいいいぃぃ! 上手よぉ芳香ぁぁぁ!!」
男キョンシーも限界が近いのか、腰を打つ力がいっそう強くなる。
「ちょうだい! 精子ちょうだい! キョンシーザーメン一杯注いでぇぇぇ!!」
そう叫んだ直後、肉棒が脈打ち、射精が始まった。
「あじゅいぃぃぃぃ!! イっじゃぅぅぅぅぅ!!」
絶頂の快感にその身が大きく痙攣した。
「ハァ、ハァ、ハァ……気持ち、良かっ、た」
「せーが様、あへってるー」
心地よい余韻に浸っていると、突然秘所に生暖かいものが触れた。
「そんな、まだ、私、イったばっかり…はぅぅん!!」
今度はまた別のキョンシーが青娥の体を貪り始めた。
「とっかえひっかえ犯されてるうぅ…自分で作ったキョンシー達に輪姦されてるうぅ…」
一時間が経過するまで、まだだいぶ時間は残っていた。
その頃、里の一角。
「もう、なんなのこいつ等!」
鈴仙は自分の身に寄りかかってきたキョンシーを背負い投げる。
仰向けに倒れたその腹に踵を落とすが、硬い感触しか返ってこない。
「どうしてこんなにも頑丈なのよ!」
護身用に持っていたナイフを首に突き立てるが、あっさりと折れてしまった。
「こんなことなら突撃銃でも持ってくるんだった」
月製の拳銃をブレザーの内側から抜いて、腹にありったけを撃ち込んだ。
この武器、元々は対藤原妹紅用に持ってきた物だった。
「やっと止った」
彼女の周りには五体のキョンシーが倒れてる。
首の折れた者、眉間に穴の空いている者、背骨が反対に曲がっている者、顔が潰れている者、腹が抉れている者。すべて鈴仙が倒した。
「姫、今の内に里を脱出しましょう」
周囲が安全なことを確認してから、屋根の上に避難していた輝夜に呼びかける。
輝夜が『早朝の里を散歩したい』と言い出したので、付き添うことになったのだが、とんだ災難に巻き込まれてしまっていた。
「そうねボヤボヤしていると、また集まって来るわ」
「急ぎましょう。今ので手持ちの武器はすべて使ってしまいましたし」
「どりゃモコォォォォ!!」
「わっ!」
鈴仙に勢い良く飛び蹴りを放ってきた者がいた。
両腕を交差して、靴底を受け止める。
「コイツ、今までのヤツとは動きが違……ってあんた妹紅でしょ!」
顔にお札を貼っているが、その姿は間違えようがなかった。
「気をつけなさいイナバ。そいつがきっとボスよ」
「妹紅ですってば。化物の振りして姫様を殺そうとしてるんですよ!」
「言われてみれば妹紅に似てるわね」
「你好(ニーハオ)謝謝(シェーシェー)糢糊糢糊(モコモコ)」
「でも中国語を喋っているわよ? 他人の空似じゃない?」
「そんなコテコテの中国語、今日び小学生だって知って…くっ」
体重の乗った妹紅の上段蹴りを仰け反って回避する。
「てめぇに用なんざねぇモコ! さっさと退けモコ!」
「断るに決まってるでしょ! てかやっぱり妹紅じゃない!」
「イナバ危ない! 後ろ!!」
「ッ!?」
輝夜の忠告の後、鈴仙は背筋に冷たいものを感じてその場から飛びのいた。その位置をキョンシーの頭突きが掠めた。
「こいつら、もう復活して…」
倒したと思っていたキョンシーが足首を機転にして起き上がり、再び活動を始めた。
体で負傷していた部分は完全に回復していた。
「こいつは好機モコ」
「しまった!」
鈴仙の横をすり抜け、輝夜に体当たりを食らわす。
「きゃっ!」
「姫!?」
「ありがとウサギはキョンシーと遊んでやがれモコ!」
地面に炎弾をぶつけて砂煙を起こす。
「くそっ!」
煙幕にまぎれて輝夜をさらい、その場を離れた。
その頃、里の外では。
「ぎゃーーてーーぎゃーーてーーー!!」
「どうした新入り?」
門の前で響子が騒いでいるので、ナズーリンは朝食を作る手を止めて門までやって来た。
響子が指差す方を見て、ナズリーンは慌てて寺の中に戻った。
「みんな大変だ!」
仏前で経を読んでいた白蓮と一輪、村紗に声をかけた後、まだ熟睡中の主人を起こしに向かった。
「慧音さん!」
寺の留守を響子に任せて、白蓮、一輪、村紗が里の前までやってくる。
「これは一体?」
「それほど深刻な事態じゃありません、ご安心ください」
血相を変えてやってきた白蓮達に事情を説明する。
「……だから私の能力で里の歴史を食べたのです」
「なるほど、この里を見たときに感じた違和感の正体は慧音さんの能力だったわけですね」
得心いったと白蓮。聖には普通に里が見えていた。
「私には少し靄(もや)が掛かって見える」
「う、うん。実は私も」
村紗がそういうと、一輪も頷いた。
「修行が足りませんよ二人とも」
里をしっかりと認識できているのは白蓮だけのようだった。
「もし力を貸してくれるのなら、避難者の救助にあたって欲しい」
「心得ました」
白蓮が二人に目配せをして、里の中に飛び込んでいった。
それから少し経って星とナズーリンが追いついた。
白蓮達と同様の説明を受ける。
「把握しました、行きましょうナズーリン」
「ああ」
二人も里に突き進んだ。
「ん?」
しかしナズーリンだけが、足を止めた。
「あれ? ご主人、どこに行った? え?」
少し前を走る星の姿が見えていないようだった。
「上白沢慧音、ちょっといいかい?」
「…」
慧音は気まずそうに顔を逸らした。
「言い忘れていたが、私の能力は“低級の妖怪”にしか効果は無いんだ」
他の面々の種族を思い浮かべる。大魔法使い・毘沙門天の代理・入道使い・舟幽霊(ただし聖輦船の船長)。
「えっと、それはつまり…私の種族が“妖怪ネズミ”だからか?」
「もし良かったら、私とここで第三者が来たときの応対を手伝ってくれないだろうか。弁の立つ者がいると助かる」
「……」
生気の無い目で、ナズーリンは頷いた。
騒ぎが起きてから、もうすぐ一時間が経とうとしていた。
里の一角。
「ウオオオオオ! 萃夢想で出禁になった掟破りの残虐スペル『相手を壁際に追い詰めてからのしゃがみパンチ連打』!!」
「痛っ! ちょっ痛いってば!」
「一度嵌(ハマ)れば蟻地獄のように脱出不能! 横スクロールの利点を最大限に活用した無限コンボ!」
塀の壁に輝夜を押し付けて、そのスネの部分に突きを放ち続ける。
「痛い! 痛いから! 本当に痛いから止めなさい妹紅!」
「無間地獄をとくと味わえモ…」
その時、妹紅は背後から肩をポンと叩かれた。
「今良いところモコ。邪魔すんなモコ」
後ろ手で払う。それでも肩を叩く手は止らない。
「いい加減にしねぇと攻撃2400の黒炎弾をブチかますモ…」
振り向くと、そこには薄ら寒い笑みを浮かべる鈴仙がいた。
「もうみんな、とっくに元に戻ってるわよ?」
周囲を見渡す。
「大丈夫ですか? ご自分のお名前はわかりますか?」
「黄色い寝巻きの女の子を見かけられた方は教えてくださーい! お母さんが探してまーす!」
「お茶です、これを飲んで体を温めて。雲山、もっと毛布を集めてきて!」
「ナズーリンどこですかー?」
札の剥がれた人間を命蓮寺の面子が介抱しているのが見えた。
「…」
妹紅はゆっくりと自分の顔の札を剥がした。
「ハッ! も、妹紅は今まで一体何をしてたモコ!?」
「今更それが通るわけないでしょ」
今回の騒動は慧音の能力により、人々の記憶から消されることになった。
後日談
「あの、慧音さん」
「ん?」
「私の服って変ですか?」
「いや、別段そうは思わないが」
「でも里の皆さん、私を見るとなんだがすごく余所余所しい顔をするんですよ」
「さぁ? そんなことより、芳香の今後についてだが…」
真実を知る者は極僅かしかいない。
【おまけ】
稲中パロ
寅丸「いやあ、大活躍でしたね。これで命蓮寺の人気は鰻上りです」
村紗「しかし彼女が慧音さんの能力に影響を受けていただなんて」
寅丸「ええっ!!?」
寅丸(聞きましたかナズーリンさん!? この中に里が見えなかった者がいるらしいですよ!!)ヒソヒソ
ナズ「…」
寅丸(あんな術に干渉されるなんて毛玉ですよ毛玉!!)ヒソヒソ
ナズ「…」
村紗「寅丸さん……ナズーリンさんなんですよ」
寅丸・村紗「〜〜」←すごく驚いている顔
一輪「やめたげなさいよアンタ達!!」
※ナズーリンは種族としてはアレかもしれませんが、戦闘では普通に強いです。
木質
http://mokusitsu.blog118.fc2.com/
作品情報
作品集:
29
投稿日時:
2011/11/05 22:55:08
更新日時:
2011/11/06 07:55:08
分類
神聖モコモコ王国
妹紅慧音阿求
青娥芳香
ナズーリン星
輝夜鈴仙
真面目に読むと疲れる
壊れけーね
それにしてもヤられてる青娥さんノリノリすぎる。
相変わらずのはっちゃけ振りでした。
【 vol.1 コンビネーション 】の感想
自称尸解仙は何処もこんな扱いかいっ!!
『町は煌く破傷風』だと今まで思っていました。
山彦って、拳と言う名の言葉も返す事ができるんだ……。
【 vol.2 メメント・モリ 】の感想
ガンダム00に登場した衛星軌道兵器と何の関連性が?
このセカイの慧音の寺子屋って、各方面に卒業生を輩出しているのですね。
青娥は相変わらず我が道(タオ)を行っていますね。
彼女の外道ぶりにむかっ腹が立ちましたが、慧音の暴走がその上を行ってしまいました。
【 vol.3 グレイトフルデッド 】の感想
ゾンビ物って、たいてい朝起きたら世界が変わっていたって感じですね。
清楚な邪仙の青娥さんが堕ちて乱れる様は、朝っぱらから良いもの読ませてもらったって感じです。
ハッピーターン使用時の脅威の回復力の秘密は、やっぱりハッピーパウダーかな?
巻き込まれた鈴仙と輝夜。妹紅はどさくさにまぎれて輝夜の命殺り(タマトリ)に走るし。
でも、あまり輝夜に妹紅の攻撃が効いていない様な……。
ナズーリン、あんまりな扱い……。
では、次回作を楽しみにしています。
そして壁尻シチュ最高です
続き期待してます
感激です!
まさかのてんこの隠しエピソードがっw
ああ・・いつかモコモコ王国をマンガで描いて見たいっ!!!
これで勝つる!
楽しみにしていました!!!!
またこの妹紅が見られて感激です
芳香ちゃんと慧音にこんな過去があったとは・・・!! 感動してしまいました!
そして壁尻エロイです
ぎゃーてーかわいいよぎゃーてー
緩急がしっかりはっきりしてるので、最後まで楽しんで読めました。
ところで…………フランちゃんの出番が無いんですけど、2ではレギュラーじゃないんですか?
にゃんにゃんはど外道だし慧音先生は苦労性で暴走しがちだし妹紅は相変らずでお腹いっぱい
改変ネタも強引でまさにモコ帝と言える俺得
メメント・モリとは語感と意味深さが合わさり色々な作品に使われる言葉で
元ネタが何か特定しにくいのですが私が思いついたのはメメント森だったりします
ほらホラー後ギャグだったりする作風が似てたりしなくもないですか?
壁尻仙人とか安心のギャグ補正。シリアスなんてなかった
東方同人エロを彷彿とさせる即落ちっぷり青蛾さんにはぜひとも死体愛好家専門店スナックまあ冥土とか経営して欲しいものです