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『Mind's Desire』 作者: スレイプニル
―――何処からおかしかったなんて誰も分からない。
「よいしょっと…オラ…さっさと入りやがれよっと…」
―――誰もが一度は絶望を感じる時が来る。
「毎度どうもお疲れ様です。コレ…いつもの様に?」
―――希望を信じ切れなくなった時、誰もがそれを目指して心から思うモノ
「あぁ、まったくコレのおかげてこちとら食い扶持に困らねぇぜ、ただ此処に運ぶだけで良いんだからよ」
―――おかしくなってしまったのは
「そうですね。こちらの方もコレのおかげでお金には困りませんねぇ…こんなに楽な仕事、早々ありませんよ」
―――誰のせいであろうか?
「ちげぇねぇ、ちげぇねぇ…俺はコレを運んでくる。お前等はそれを管理するだけで良いんだからよ。」
………
「霊夢ー」
間延びしたような声で、箒に跨った少女が幻想郷に1つとして無い神社、博麗神社の境内へと降り立つと、その管理者で数少ない巫女の博麗霊夢の名を呼んだ。
だが、奥に居るのだろうか、返事はない。大きな声を出すのも面倒なので、その少女霧雨魔理沙は面倒くさそうに神社の中へと入っていった。
「おーい。霊夢ーいるんだろー邪魔するぜー」
魔理沙はどうせここに居るだろうと、客間の麩を開けた。
「何よ。またなんかあったの?」
読み通り、霊夢は随分と暇そうな格好で煎餅を食んでいた。その表情は随分と緩みきっている。
「どうしたもこうしたもないぜ。久しぶりの異変だぜ?」
「はぁ、まったく…異変なんて面倒臭いのよねぇ」
といっても、巫女としての責務か、霊夢はゆっくりと立ち上がった。
「それで?今回の異変はどのようなものなの?」
その顔は、先程までのだらけきった顔つきではない。真剣な博麗の巫女としての風格を現した凛々しい顔つきだった。
「…という訳なんだが、どうにも紅い霧が蔓延していて、かなり面倒くさい事になっているって話だ。私も近づいてみたが視界が悪すぎて、近寄る事すら出来やしなかった。」
「紅い霧…ねぇ…」
魔理沙の話を立ったまま聞いていた霊夢は、そこまで聞くと何か考え込んだように首を傾げる。
「今回の異変はかなりヤバい気がするんだが…霊夢はどう思う?」
「そうねぇ、確かにその霧を個人で操れているのならば、相当な使い手であることは間違いない。でもただ単に霧を出すだけじゃ意味が無いって所が、異変って話よね。」
「まぁ、幻想郷が終わる訳じゃないし、そこんところが異変って言われるんだろうぜ」
「ま、探知の術式でも組んで、元を探ってみるのはかなり時間が掛かるし…」
「し…?」
「正攻法で行きましょうか」
自信たっぷりに言った霊夢の言葉に、魔理沙は溜息をついた。
―――
「おっ、今回のは結構上玉じゃないですか、またいつもの?」
「あぁ、そんな感じだ。いつもあの運送屋が引っ張ってくるが、元々はこちらの…"あの方"が調達しているようなものだ。あの運送屋はそれを回収しているだけで、結局はこちらに戻ってきているに過ぎない。」
「ま、俺にはそんなの関係ないですけれどね」
「そうだな、そういうのは俺にも関係はない。ここで働いていればかなりの金が稼げるしな」
「他言無用さえ守れば、日に5万も貰えるなんて、こんな楽な仕事早々ないって訳で」
「そんな楽な仕事をとっとと終わらせるぞ、そっちの方を持て、俺はこっちを持つから」
「へいへい…つったく…これだけがこの仕事の中で面倒なんですよねぇ…」
「そう言うな、俺もそう思うが、慣れればどうって事無い。傷つけなければ良いだけの話だから、そこさえ気をつけてればどうって事ないさ。」
「俺も一度落とした時にはあの方に結構絞られましたからね。そんなにこんなのが大切なんですかねぇ…?」
「さぁな、俺にもこれが何の為に集められているのかさえ分からん。こんな廃棄物同然のものをあんなに貯めて…」
「あの方にしか分からない事があるんじゃないんですかねぇ?」
「そうだな、これだけ集めているって事は、何かの意味があるんだろうが、俺達には知る必要もないだろうさ」
「ですね…っと、暴れるなコラッ!!」
「おっとっと…落とすんじゃないぞ、暴れてもしっかり掴んでおくんだ。」
「一発殴って静かにしてやりたいですね」
「ああまったくだよ」
―――
霧の震源地を突き止めた霊夢達は、その道中で戦いを挑んでくる数々の妖怪達を完膚なきまでに叩きのめし、進んで行っていた。
霧の元凶である紅魔館にたどり着いた霊夢に襲いかかる妖怪を倒し、そして十六夜咲夜を制した霊夢は、最後に待ち構える首謀者、レミリア・スカーレットを長きに渡る弾幕ごっこの末に倒す。
「はぁ…これに懲りたら異変を起こすんじゃないわよ?」
それだけ言うと、霊夢はそそくさと帰っていった。
「今回の異変は大変だったなぁ」
異変を止めた後の道中で、箒に乗って飛んでいる魔理沙と同じように飛行している霊夢がもう朝になろうとしている幻想郷の景色を眺めながら今回の異変について語り合っていた。
「今回の異変は、最近現れた吸血鬼の一行が起こした異変って事で解決されちゃったから良いんだけれど、霧も止まったし…後は帰って寝るだけね。」
「そうだな、異変も大した事なくて良かった。私はこっちだからじゃあまた明日な」
それだけ言うと魔理沙は別れの挨拶はおざなりに手を振って霊夢とは別方向へと飛んでいった。
―――
「いやぁ、やっと運び終わりましたねぇ」
「まったくだ。」
「幾らでしたっけか…?」
「1…2…3…今回は9だな。」
「結構多いですね、それだけあの運送屋の腕が良いって事なんでしょうが」
「そういうトコだな。まぁ搬入も終わった事だし、後は楽で良いな。」
「管理って言っても実質眺めているだけですからね。本当に楽ですよ。」
「1日に1回清掃してコレを洗ってやるだけで良いもんな」
「ですねぇ、ま、当分運送屋も来ないし、今月は楽で良いですねぇ」
「おいおい、まだやることはあるぞ」
「へいへいっと…これもお給料の為だ。働かせてもらいますぜ…」
………
「う…ん…?」
あの後、魔理沙はすぐに自宅へと戻り、服も着替えず寝ていた。
久しぶりの異変で疲れていたのだろうと、疲労が溜まった身体を揺り動かし、まだ明けていない空を窓越しに見て、もう一寝入りしようかと朧気な意識の中思案していた。
「なんか…夢を見ていた気がする…」
そうポツリと漏らした魔理沙は、どうせ夢だと、思考を放棄して、もう一度寝入る事にして毛布を被った。
………
―――どうして泣いているの?
「もう良い…」
―――そんな事言わずに、何があったのか私に教えてくれる?
「もう…私は…」
―――………。
「死んだ方が良い…こんな世界なんて…私を認めない世界なんて…」
―――貴方、絶望しているの?
「………。」
―――そうね、誰しも絶望というものを感じる。それは一度や二度じゃない。
「………。」
―――良かったら、その願い。私が叶えてあげましょう
「願い…叶える…?」
―――えぇ、私は貴方の願いを何でも叶えてあげるわ
「………。」
―――疑っているの?確かに出来過ぎた話よね。でも、貴方は願いを叶えずにはいられない…。
「………。」
―――さぁ、貴方の願い…聞かせてくれるかしら?
「私は―――」
………
「う……?」
朝の日差しが窓越しに目元付近をくすぐり、目を覚ます。
また変な夢を見たと、魔理沙は少し夢について考えてみたが、どうでも良いとゆっくりと寝起きの身体をずるずるとナメクジのように動かした。
「ふぁあぁ…今日も朝日がまぶしすぎるぜ」
朝の一杯とばかりに熱いコーヒーを飲もうと準備しながら、いつもの朝の風景を魔理沙は眺めていた。
「今日は時間もあるし、霊夢の所でも行くかな」
適当に今日の日程を決めて、魔理沙は丁度熱くなった熱湯を愛用のマグカップに注ぎ込んだ。
「魔理沙ー居るー?」
こんな朝早く誰だろうと、魔理沙は来客の人物の声を聞いて、あぁと呟くように言った。
「なんだ、アリスか、扉開いてるぜ、入ってこいよ」
コーヒーをかき混ぜながら、魔理沙は椅子に腰掛けながらそういうと、扉がゆっくりと開き、同じ魔法使いであるアリス・マーガトロイドが眩しい朝日と共に顔を覗かせた。
「おはよう魔理沙」
「あぁ、今日はえらく朝早いな、何かあったのか?」
「いいえ、何もないわ。ただ私も朝早く起きたから…立ち寄っただけよ。」
「そうか…ま、折角来たんだコーヒーでも飲んでいけよ」
そう魔理沙が言うと、アリスは近くの椅子を選び魔理沙の隣に座った。
「これちゃんと蒸してるの?」
「あぁ、私特製のコーヒーだからな、そんなの要らないぜ」
「………。」
アリスは目の前で注がれるコーヒーかどうかよく分からない黒くない茶色の熱い液体を注がれて微妙な顔をした。
「ねぇ、魔理沙」
「ん?」
「これって…」
「コーヒーだろ?」
「いや…これ…どうみてもココアじゃない…」
アリスの言葉に、魔理沙は若干固まってしまった。
………
―――願いは叶ったかしら?
「………。」
―――そう、それは良かったわね
「・・・…・・…。」
―――えぇ、そうよそれが貴方の願い。
「・‥・・・・・・‥?」
―――大丈夫よ、貴方のお仲間は沢山居る。それで貴方の願いは必ず叶う
「・・・・・‥…・」
―――さぁ、お迎えは明日来るわ。それでは御機嫌よう、あっちは良いトコロよ。
………
「霊夢ー」
「何よ」
「今日も幻想郷は平和だなぁ」
「当たり前の事を聞くんじゃないわよ」
いつもの幻想郷の一風景、魔理沙が縁側で寝転がり、霊夢から貰った饅頭を美味そうに食んでいる。それを客間から遠目で見ている霊夢。
「たまには異変でも起きないもんかね」
「やめなさい。アンタがそう言うと本当に起きちゃうかもでしょ?」
「大丈夫だ霊夢、そんなに簡単に異変なんて起きないさ」
そうだといいんだけどねぇと霊夢は魔理沙にギリギリ聞こえるぐらいの声量で呟いた。
「ん…?また何かあったのか?」
「いやね。最近やけに冬が終わらないと思わない?」
「そうだな、縁側も寒いぜ」
寝転がっている魔理沙は冬景色を見る為、厚手の服を着て耐寒に備えていた。
「じゃあ、こっちに入って来なさいよ。見ているこっちが寒いし麩は開けっ放しで全然温まらないじゃない」
「まぁ良いじゃないか、これぐらいの温度が一番気持ちいいぜ」
「アンタはそれで良いんでしょうが、私は結構この格好で寒いのよ?」
霊夢の反論に背中を向けた状態でひらひらと魔理沙は手を振った。
「はぁ…」
一向に終わりそうにない冬に霊夢は小さなため息をついた。
………
「思ったんですけど」
「あ?」
「コレって何に使うんでしょうかねぇ」
「さぁな、そういうのは何も聞かせてもらってないからな」
「結構俺ってそういうところやっぱり気になるっていうか…」
「よせよせ、あんまり首突っ込むと、消されちまうかも知れないぞ?」
「確かに、こんだけヤバイ事やってるんだ。どっかのドラマみたいに口封じされそうっすからね」
「そういう事だ。俺達は何も気にせずただ金を受け取ってれば良いんだよ」
「そうっすねぇ、あ、アレまた勝手に動き出して…」
「チッ…手間かけさせやがって…あっち塞げ、俺が抑えておくから…」
………
「この異常な気候はあの白玉楼のせいって事ね…」
「なら、話が早い。」
「面倒だけれど解決に行くわよ」
「霊夢、そんな格好で外出るのか?」
「首掛け巻いてれば大丈夫でしょ」
「その巫女服…とっても寒そうなんだが…」
………
『―――ア…a…』
「おっ…コレ、かなり暴れだしましたよ」
「あぁ、また2本ぐらい打ち込んどけ」
「分かりましたよっと…ほーら、いい子にしててねぇ…ブスっとな」
『………!!!』
「静かになりましたね」
「定期的に打たないとこうなっちまうからな」
「それにしてもこの注射、何で出来ているんですかねぇ?」
「さぁな、でもこうなるって事は結構ヤバイモンに違いないだろ」
「ははは、ですねぇ、それでコレはいつ入ってきたでしたっけ?」
「んー…ちょっと前ぐらいじゃなかったか?あの9人ぐらい入ってきた後だよ」
「あぁ、あんまり前だったから忘れてましたよ。確か…何処かの―――」
「そうだ。資料には―――の―――だな。」
「―――が、何故こんなトコロに居るんですかねぇ…?言わば―――でしょ?」
「色々事情があるんだろうよ」
「変な話ですわな」
「ま、お前もこうならんように頑張れよ」
「あはは…いずれは我が身って事ですか?そりゃ冗談がきつい…」
………
「さぁ、幻想郷の春を返しなさい!」
白玉楼の起こした春を奪うという異変は程なくして解決された。首謀者の西行寺幽々子も反省しているようで、事態は丸く収まった。
その帰りの道中、魔理沙は霊夢に別れを告げると、魔法の森の方面へと緩やかに飛んでいた。
「待ちなさぁい」
突然声をかけたれて、魔理沙は驚いてしまった。気配も何も無く、まるで背中越しに声をかけられているような悪寒に魔理沙は速度をまた緩め、安全な体勢で後ろを向いた。
「何だ…紫じゃないか、脅かすんじゃないぜ」
「それはごめんなさぁい?そんなに邪見しないでくださいませ。」
「お前に会うとロクな事に巻き込まれないからな…今回の異変もバックは紫が着いていたんだろう?」
「またまた、今回はたまたまですわ。幽々子と私は旧来の友達、友の願いを聞き届けない訳がありませんわぁ」
「で、何のようだ?私は今とても眠いんだぜ?」
飛行しながら魔理沙は追い払うようにしっしと手を払った。
「まぁまぁ、私って結構嫌われてますのね。本題?敢えて言うならば、貴方は毎日が楽しいかしらぁ?」
意味不明な含みがあるその言葉を魔理沙は理解出来なかった。
「は?どういう意味だよそれ」
「なぁんでもありません。ただ言ってみたかっただけですわ」
そう言うと満足したのか紫は次元の裂け目のような仄暗い闇に中に消えていった。
「意味が分かんねぇぜ…」
まぁあの紫の事だと気にせず魔理沙は家へと帰っていった。
………
―――貴方は友達が欲しかったのね?
「・・・…」
―――貴方の願いは叶えてあげたわ
「・・・‥・…」
―――そうね、まだ物語は終わらないわ。夢という幻想は幻想を夢見る者の光であり願い。
「・」
―――この幻想が終わるまで、少しの間生きていると良いわ
………
「あ………?」
また嫌な夢を見たと、魔理沙はまだ真っ暗な空を見て、そう思った。腹の中がかき混ぜられるような不安と焦燥の感覚に、何か思い出さなければならないことを必死になって想い出そうとした。
「………。」
紫が言った事が引っかかると、思いながら、まだ夜が明けない内に博麗神社へと飛んでいった。
「霊夢!起きろ!起きろ!」
まだ夢見心地であった霊夢を布団から引きずり下ろし、身体を強引に揺らす。
「ん…あー…?魔理沙…?」
「起きろってば!」
「なによぉ…まだあさにも…なってないじゃなあい…」
「良いから!まず起きてくれよ!」
「しかたないわねぇ…ふああああ…」
だるそうに霊夢は布団から這いでて、冷たい畳の上に座り込んだ。
「でぇ…?何かあったわけ…?」
「最近変な夢を見るんだよ…」
「ゆめぇ…?そんなの誰だってみるじゃない…」
「違うんだ…その夢は…なんか昔体験していないけどしたような…生々しい現実感がある夢っていうか…」
語りだす魔理沙に霊夢は眠そうに聞く。
「このところずっとなんだ…訳のわからない1場面が張り付いて動かないような夢ばかり見る。そしてそこには私のようなものが居て、それを私が見下ろしているような…」
「ふぅん……」
興味なさそうに霊夢は話半分程度に魔理沙の話を聞いていた。
「何か…そこがおかしいんだよ…なんというか…私がこれまで追体験したかのような…」
「あるわよねぇ…予知夢ってヤツでしょ?そうまとー?」
寝ぼけた声でそう突っ込む霊夢に、魔理沙はなんとも言えない顔をした。
「霊夢、ちゃんと聞いてくれよ。昨日の異変だってそうだ。何か仕組まれているような感覚すらあるんだ。」
「へぇ…」
「この一件…私は紫が絡んでいるとしか思えないんだよ…」
「じゃー…」
霊夢が魔理沙の話を折るように間延びした声で言った。
「もう一度夢を見なおせば分かるんじゃない?」
それだけ言うと、霊夢はまた布団の中へと入っていった。
それを聞いて、魔理沙はこのもやもやを解消するにはそれしかないと、自宅へと帰っていった。
………
(やはり…ここは…見たことがある…そしてここはどう見ても幻想郷じゃない…)
眠りに入った魔理沙が見直した夢は、まるで壊れた家という風景であった。
重い換気扇の音と、薄暗く暖房が効いていないぐらい冷たいコンクリート
(身体が…重い…夢だから自由に出来ないって事か…?)
しかし、耳にははっきりと周囲の音が聞こえる。
「―――Бж…」
聞こえるが、それは決して人語のように聞こえない。顔をその音がする方向へと動かそうとするが、思うように動かす事が出来ない。
(どういう事だ…?)
視界だけは微弱だけだが動かす事が出来た。その薄暗い部屋の中で、視界の奥の奥、魔理沙と同じぐらいの身長の身体が見えた。
(なんだ…?アレは…私と同じぐらいの身長だ…?どうしてここに…?)
確かめようと注視するが、薄暗すぎて何であるかすら分からない。
「―――ん?先輩、―――起きてるっぽいですよ?」
「―――が切れ―――押さえとけ―――」
遠くから聞いたことのない声が聞こえてこちらへと歩いてくる足音が徐々に高まってくる。
(逃げないと…!逃げないと…!)
必死に身体を動かそうとするが、身体は鉄のように動かない。程無く身体は何者かに掴まれ、その細腕に何かが刺さっていく。
………
「…はっ…!」
飛び起きるように、夢から覚めた魔理沙は身体中が大量の汗でぐしゃぐしゃに濡れていた。
「どういう事…だ…?あの風景は…?」
その張り付いた汗を気にせず、思考を開始する魔理沙…。
「もう一度…夢を見なおせば…見えてくるのか…?」
魔理沙はテーブルから小瓶を取り出すと、その中に入っている小粒程度の大きさの白い薬を飲んだ。
程無く急激な眠気が魔理沙を襲い倒れ伏すように魔理沙は布団に崩れ落ちた。
………
「―――っと、最近"目覚め"が早くないですかねぇ?」
「―――確かにな、この薬…相当ヤバイモンだと思っていたが、本当にヤバイものかもしれんな…」
はっきりと聞こえる男達の声、前回と同じく、薄暗く冷たいコンクリートの風景が映る。
(そもそも…冷たいという感覚があるっていうのがおかしい…何が私を襲っているというのか…?)
夢とは脳が創りだす幻想に過ぎない。感覚はなく夢の中で死んだとしても、痛みも苦しみもない。しかし、この魔理沙が見ている夢は、確かに五感があるという意味が分からない空間だった。
(今度こそ、動かせるか…?)
手足に力を込めると、今度はすんなりと動いた。しかし、下手に動かすとあの男達にバレる可能性がある。
(…機会を待つか…?この夢が私に影響を及ぼしているのなら…)
目を閉じた振りをして、薄めで周囲を探っていた魔理沙であったが、その耳にはやはり聞きなれない耳障りな音が混じって入ってくる。
『―――дё…Л…』
(それにしても何の音だこれは…?)
男達の談笑の声は次第に遠くなってくる。大体の距離から何とかバレないだろうと、ゆっくりと音のする方向へと顔を静かに動かした。
『―――гЙ…。』
奇妙な呪詛のような言葉を吐いていたのは比喩ではない。人間であった。端正な顔立ちで、魔理沙程の背格好でまだ幼さが残る表情は、すやすやと眠りについている。しかしその口からは意味不明な言葉を吐いている。
(なんだ…?コイツは…?意味が分からない…何でこんな所に…?)
薄暗がりで良く見えない為、魔理沙は良く確認するため、男達にバレないように、ゆっくりと身体を近づけようとする。
『―――Зсч…Й…』
「…ヒッ!」
思わず魔理沙は夢の中で声を上げてしまった。それもそのはずである。遠目からは美しい少女のように見えた顔立ちは大量の汗と滝のような涙、そして口から止めどなく出している涎がその綺麗な服を汚らしく汚し、シミを大きく作っていたのだから。
「―――ん…?先輩、何か声しませんでした?」
「―――あぁ、いつものだろ?気にすんな、それよりもうすぐ昼食の時間だ、お前は何食べたい?」
「―――やりぃ!先輩おごってくれるんですかぁ!」
「―――たまには…おま…」
魔理沙が上げた声も気付かれずに済み、男達は扉2度開閉して出て行った。
部屋に取り残された魔理沙は、そこで自由にやっと行動出来るようになる。
(何だ、これは…?皆、何か…おかしい…まるで狂っているかのように…)
周囲を見渡すとロクに照明が効いていない部屋で何十人もの殆ど少女で構成されている汗と涎と糞尿の匂いが充満する悪臭渦巻く部屋で、意味不明なノイズの走るかのような声を啜り上げるように"彼女たち"は上げていた。
魔理沙は立ち上がり、その少女達を丹念に見ていくが、悪臭がするその身体を注視できるはずもなく、目を背け、鼻を摘む。
(どういう事だよ…これは夢…なんだろう?)
悪夢と形容しがたいこの現実味があるユメに魔理沙は必死に目を覚まそうとしていた。
「えぇ、それはユメなのかもしれないわね…」
はっきりと部屋全体に広がるその澄んだ声を魔理沙は知っている。
「その声は…―――!」
「いつかは気づくとは思ったけれど、案外早かったのね。」
「八雲…!紫…!」
キッと睨む目に紫は流し目でそれをやり過ごすかのように見ている。
「やぁねぇ、そんなにムキにならなくても、大丈夫、コレはユメなんだから…そう、ゲンジツに戻りなさい…」
それだけ言うと薄暗がりの向こうの、いつもの奇抜の服ではない八雲紫の声をしたソレはそれだけ言うと、魔理沙の視界が急に朦朧とし始めた。
「く…そ…」
「ユメは起きてみるものじゃないという言葉があるけれど、それって間違いだと思わない?それじゃあ、ゲンジツでまた会いましょう。覚えていたらの…話だけれど」
朦朧とした意識は休息とユメから覚めようとしていた。
………
「うっ…はっ…っ…はっ…はぁ…くっ…」
呼吸さえ出来ないような苦しさから開放されたかのように、魔理沙が夢から目を覚ました。
身体から発汗される汗は尋常ではなく、服はぐしょ濡れというレベルではなかった。
「あの夢…紫が絡んでいる事には変わりがない…それに…アイツ…何がしたいんだ…?」
まだ辺りが暗いが、魔理沙は紫を探しに、空へと飛んでいった。
しかし、幻想郷何処を探しても紫の姿は見つからない。何とか冥界に入り、白玉楼の方を探しても、紫を見ていないと言われた。
そうなれば、紫の本拠地であるマヨヒガに行くしか無かった。しかしマヨヒガは本来誰にも分からないような所にあり、場所も不確定だ。魔理沙も殆どそこに入ったことすらないが、そこは魔理沙の力の見せ所である。
境界の繋ぎ目を幻想郷中駆け抜けて探し、怪しい所に突撃してくことを続けて数時間、辺りはもう朝の日差しがさしこもうとしていた。
「はぁ…はぁ…これで…終わりにするか…」
紫が見つからない以上、問い質す事も出来ない。これで最後と一番怪しい場所へと高速で突き抜けていく。弾かれると思ったが、すんなり入った幻想郷ではなさそうな感覚に、ここがマヨヒガなど確信した。
「流石私だぜ…っと」
境界の境目を超えたそこには、一軒の昔良く見た古びた家がポツンと建っていた。
あれが例のマヨヒガだと魔理沙は、着地し、中へとずかずかと入っていく。
乱暴に麩を開け、紫を探すが何処にも居ない。客間も座敷も風呂も厠も何処にも姿は見当たらなかった、
「ここにも居ないって事は…どういう事だ…まさか、外にでもいるのか?」
1階を探し終え、2階へと登ろうとした時、かすかな物音がして魔理沙が振り向く。
「あら、バレちゃったかしら?」
「………。」
「そんな怖い顔しないでくださる?」
物陰にわざとらしく隠れていた紫を、魔理沙は簡単に見つけてしまった。その般若の如き怒りの表情は全て紫へと向けられていた。
「どういう事だよ…」
「どうしたの?」
「分かっているんだろ?あの夢の事だよ!」
「夢?私には良く分かりませんわ?」
首を傾げ馬鹿にするかのように紫はクスクスと笑った。
「いい加減にしろ!何が目的だ!」
「目的…?はてさて、一介の妖怪にはよぉぉく分かりませんわねぇ…?」
「こっちはもう知っているんだよ!私にあの夢を見せていたのはどう見てもお前だった!」
「チッ…」
紫が先程までの笑顔を急に止め、悪態をつくように舌打ちを1つした。
「なんだよ…」
「まぁ、気づいちゃったのなら仕方ありません、ね。」
「やっぱり…そういう事なのかよ…!」
「えぇ、そうですわ。ご明察ご名答大正解おめでとう。良くここまで来て気づいてしまわれましたね。でも残念です。」
「残念?どういう事だ?」
憤る魔理沙とは裏腹にクスクスと含んだ笑いをあげる紫。
「くすくす…貴方は何も知らなくて良かったのに、それでも本当に知りたいの?」
「…あぁ」
「じゃあ質問ですわ。ここは"何処"?」
紫が的外れな事を言う。それは誰しもが分かりきった事である。
「何言っているんだ?此処は幻想郷だぜ?」
「それは"間違いなく"?」
「?」
「そして、ここは『ゲンジツ』?『ユメ』?」
「何を言っているんだ?ここはどう見ても幻想郷で現実だろう!」
その魔理沙の答えに紫はくすくすと笑い返すだけだった。
「何がおかしい?間違いじゃない!私はここにいるし、お前もそこにいるじゃないか?何が…何がおかしい!」
「くすくす…可哀想な人、ゲンジツとユメの区別もつかないなんて、ああなんて可哀想な人なんでしょう!」
まるで悲劇のヒロインの如く両手を広げ悲壮感たっぷりな大仰な演技をして、紫は魔理沙の方を見た。
「なぁんにもわかっていないのに…私を犯人と決め付けるなんて、それはかなり無作法ではなくて?」
「う…それはそうだが、確かに私は夢でお前と話たんだ!あの夢で!」
「へぇ、じゃあどうするの?」
「どうって…あの夢の真相が知りたい。あの夢を何故お前は私に見せ続ける?」
「もう一度聞こうかしら。ここは何処?そしてここはゲンジツ?」
「それは…ここは幻想郷で…」
「ほ ん と う に ?」
大きく開けられた口で歯切りよく言われた言葉に魔理沙はどもる。
「まさか…」
「貴方は本当に何も知らず生きていれば良かったのに、結局は回帰してしまうのね。あぁ悲しい結末ね。幻想はやがて終わるものだと思っていたけれど、こんなに早く終わるとは私も思いませんでしたわ」
「どういうことだ…?」
「簡潔に言いましょう。それが魔理沙…いや霧雨魔理沙ではない…『貴方』にも大切な事でしょう。貴方は最低な選択をしてしまったけれど、幻想はいつまでも残酷ですわ。」
「貴方…?」
「そう、霧雨魔理沙じゃない『貴方』よ。貴方…この場合は魔理沙でもいいわ。魔理沙は、この幻想郷はゲンジツだと言ったわね?残念だけれど、それは『キョコウ』よ」
「まさか…そんな…」
ばっさりと斬り捨てるかのように告げられた真実に魔理沙は信じられずにいた。
「考えれば分かる事でしょう?どの世界に、魔法を使い、妖怪が生息し、空を飛び、弾幕ごっこという死闘を繰り広げるなんてあり得る訳がありませんもの。それにあんな弾幕で死なない訳がないでしょう?」
「嘘だ…嘘だ…そんなのあるわけが…この幻想郷はゲンジツだろう?ユメなんかじゃない…」
「そう思うのは、この幻想郷が貴方にとってのゲンジツに足りうるモノだったから…」
「へ?」
錯乱しそうになっていた魔理沙が、紫の一言で気の抜けたような声を出す。
「私の為?」
「えぇ、そうよ。私は貴方の言う『ユメ』で『貴方』を捕まえた。『ユメ』での『貴方』はとても落ち込んでいた。翌日には死にそうな顔をいつもしていたわ。そして『ワタシ』が現れた。貴方が死ぬ間際に1つだけ私に願った願い事を私は叶えているだけ、それだけなのですわ」
「願い…ごと…?私はそんな…」
「それは魔理沙が知る訳がないじゃない。この幻想郷で生きている魔理沙は、魔理沙が言う『ユメ』の『貴方』が魔理沙が言う『ゲンジツ』で見ている一抹の『ユメ』なのですから…」
くすくすと馬鹿にした訳ではない笑いをあげ、紫は魔理沙の耳元まで擦り寄った。それは甘言で騙す蛇のようなしつこい寄り方であった。
「つ…つまり…今ここにいる『ワタシ』自体が『ユメ』って事なのかよ」
「えぇ、そうですわ。貴方はユメの住人、ゲンジツが創りだす思い通りの世界、それが『幻想郷』の正体なのですわ。この幻想郷では貴方は魔理沙として生きて、痛快無比な人生を送る平凡な魔法使いという役を演じている。あぁ信じなくて結構ですわ。信じ切れないと思いますからね。」
「まさか…私が見たユメ…ゲンジツに居たあの少女達は…?まさか…!」
「えぇ、ご心中の通りでございますわ。」
「何で…こんな事を…!」
「だから言ったじゃない。ゲンジツの『貴方』がそう望んだ。他の幻想郷のモノ達も同じようにゲンジツから抜け出す為に、私に願った。それを『ワタシ』が答えただけですわ。」
「どう…説明つける…どうやって…」
「あらあら、肩を震わせて、こわいこわい。怒りに任せて私か『ワタシ』を倒しますか?」
紫はそうっと魔理沙から離れ、マヨヒガの外へと出ていく。魔理沙がその後を追う。
………
「今日はリストの管理の日でしたよね?先輩」
「あぁ、そうだったな。確か…リストには…」
「きり…なんて読むんです?」
「きりうまりしゃ…って読むんだ。結構へんてこな名だがな」
「へぇ…もっと別の呼び方もあるんでしょう…ええっと…幼少の頃から英才教育…たぁ、結構出来た子なんですねぇ、うわ、六歳であの有名大学を飛び級ですって…すげぇ子も居たもんですねぇ…それにその後はあの海外の大学で学会に入っているなんて…俺みたいなヤツとは全然違いますねぇ」
「あぁ、だが、経歴によると、何でも魔法なんていうものを解明しようとして周りから馬鹿にされて学会から追い出されたらしいな。」
「はぁ、なんでまた、そんな頭を持っているならもっと活用できそうなんですけどねぇ」
「さぁな、天才様の考える事なんざ頭の出来てない俺達には一ミリも分かりはしないさ。まぁそんな天才様もこんな所にいるんだからよ変な話だぜ」
………
「待て!」
強く呼び止めた先、マヨヒガから出た魔理沙の目に映ったのは宙に浮いて今にも臨戦体勢の八雲紫の姿だった。
「魔理沙、貴方はどうするの?このゲンソウがユメと知って、貴方はここから出たいの?私はワタシはそうは思わないわ。ゲンジツに戻れば必ず貴方は後悔する。」
「これがユメなら…覚めるべきなんだ…」
「本当に?貴方は本当にそう思っているの?馬鹿げているわ。良いわ。最後の手土産に教えてあげる。」
―――願いの行く末
「博麗神社の巫女にして、異変解決のスペシャリスト、博麗霊夢」
―――古びた神社の一人娘で親を早々と無くし、そのまま借金のカタに売られた神社とその『巫女』の慣れの果て
「500年と生きた吸血鬼、レミリア・スカーレット」
―――名門の令嬢で、意味不明な悪魔信仰で今まで築き上げてきた名門を取り潰した『お嬢様』の慣れの果て
「普通の魔法使い、霧雨魔理沙」
―――幼少から英才教育を受け、その天性の才を我物とし、その力を魔法という概念に注ぎ学会を追われて生きる道を断たれた『魔法使い』の慣れの果て
嘘か真か分からない紫の言葉は紙にペンを走らせる如く続いていく。
「それが…本当の私なのかよ…」
「えぇ、私は嘘は言っていませんわ。本当にそれでも戻りたいのですか?」
今まで皆を騙していた魔女は笑う。
「でも…」
「でも?」
「いつかはユメから覚めなくてはならない…それは分かっている…」
「覚めても何にもなりませんよ?」
「いいや、お前が見せてくれたユメは、私にとってもとても良い毎日だった。ゲンジツの私とユメの私が繋がっているのなら…きっと明るい毎日を取り戻してくれる…」
「なら…」
笑っていた紫の笑みが消え、その代わりに邪悪な顔が現れた。
「残念ながら魔理沙には消えてもらうしかない…」
高速で放たれた弾幕が魔理沙の脳天を穿とうと飛んでくる。
「一応言っておきますが、これを受けたら本当に魔理沙、貴方は消えさってしまう。ゲンジツには戻れない。永遠にゲンジツとユメの狭間を彷徨うだけですワ」
そう言いながら、高速で弾幕を展開し、速攻で魔理沙を殺そうと次々と弾幕を放っていく。
魔理沙は必死に避けるが、これ以上避けていれば、いずれ当たってしまう。
「どうしてだ!どうして、戻ってはいけない!」
「ドウしてもコウしても…そレがアナタのタめですわ…」
右手に持っていた扇子を横薙ぎに払い、衝撃波のような一文字の弾幕が魔理沙へと飛んでくる。
それを紙一重で避けるが、紫は容赦なく次の弾幕を飛ばしてくる。
「くそっ…お前を倒さなければ…駄目って言う訳かよ!」
「えェ…そうなりマすわ…ははハ…私は幻想郷を管理する大妖怪でスのよ?貴方に勝てる訳がありまセン」
大振りに扇を払い、特大の弾幕を魔理沙に向けて放つ。魔理沙は低速で迫ってくる弾幕を避けようとはしなかった。
「カカカカ…!これで魔理沙!貴方はオシマイです!!111」
狂ったような勝利宣言を紫は笑いながら魔理沙の死ぬ様を見ていた。
「それはどうかな…!」
魔理沙は限界まで弾幕が迫っている事を感じながら、懐の八卦炉を取り出し、紫の方向に向けて、放り投げるように構えた。
「オシマイなのはお前のほうだぜ!!」
閃光が魔理沙の中心からほとばしるように放出された。雷の如き速さで紫が放った弾幕ごと包み込み、魔理沙の必殺中の必殺『マスタースパーク』が紫を包み込んでいく。
「まサか…!私が…!八雲紫がやられルなンて…!グワアアアアアア!!!!!!」
紫の最後はまさしく低級妖怪のソレのような断末魔をあげていた。
マスタースパークの閃光に包まれて、黒い液体のようなモノになった紫の残骸は土にべちゃりと落ちて、動かなくなった。
「終わったな…」
紫が絶命した後、魔理沙はその身を包むかのような風を感じていた。管理者である紫が死ねば、この幻想郷…ゲンソウのユメは終わりを告げる事は明白だった。
それを分かっていて、魔理沙は紫を倒したのだ。
「いつまでも、ユメを見るだけじゃいけない。確かにこの幻想郷での生活は楽しかった…しかしユメは何も生み出さない。ユメは起きてみるもんだ。紫もそう言っていたな。私も起きないといけないと…」
地震が起き、暴風が木々を巻き込み、幻想郷は終末の色で染まっていく。
「じゃあな、私が好きだった幻想郷…」
亀裂が走った裂け目に、魔理沙は抵抗する事なく、飲み込まれていった。
そして、幻想郷…魔理沙達はゲンソウを見るのを止め、ゲンジツと向き合うように、ゲンジツに戻った。
―――
重苦しい換気扇の音、冷たいコンクリート
魔理沙は、ゲンジツの魔理沙となって産声をあげるように息を吹き返すように目を覚ました。
『………ア…ア…』
ゲンジツの魔理沙は声を発する事が出来なかった。次第に暗がりの中から呪文のような聞き取れない何かが聞こえてくる。
『………ヒャェギャヘエエヘッヘッヘ…ギャッギャッギャ!』
『………ギュルオゥイアラギェギェエレレレ…』
『………чг…』
暗がりのコンクリートで塗り固められたそれほど大きくない密室に敷き詰められていた少女達が一斉に目を覚まし、理解不能な言葉を吐き散らかす。
『ウゲェェェ・・・ゲロォッ…キャッキャッキャ…!!』
中には脱糞するものや嘔吐するもの、失禁するものが多く居た。
「うおっ…コイツら…薬が切れてやがる…先輩!先輩!」
扉を開けた何者かが、驚きの声を上げて出ていく。開け放たれた扉を誰も出ようとはしなかった。
『………クスリ…クス…ゲンソウ…』
ゲンジツの魔理沙は最後の最後までそう漏らしていた。
《お昼のニュースです。今朝7時頃、都内工業地帯の手付かずのビルの一室で薬物中毒と思われる集団が通報により確保されました。確保された薬物中毒者はどれも重度の中毒症状を引き起こしており、現在隔離病棟に移送されたとの事です。この事件は、10年前に起きた連続拉致事件が発端となったと思われる事件で、警察庁ではこの事件の首謀者と思われるヤクモユカリを全国指名手配する事に決定しました。ヤクモユカリは、身寄りのない子どもに甘い言葉で近づき、高純度合成麻薬の一種である『ゲンソウキョウ』というドラッグを格安で販売するという犯行に及び、その後中毒になった被害者を拉致、そして監禁したと思われます。警察庁では、引き続き、追跡調査を行うという事です…。それでは次のニュース…》
コブラ「俺が見た夢は現実だったという訳か」
それはまぎれもなくやつさ
コブラ「サイコガンは、心で撃つもんだぜ」
BAGOOON!!
魔理沙「コブラ…」
コブラ「人間なんて不思議なもんだな、いざ普通の生活を始めてみると、またどうしようもなくスリリングな世界に戻ってみたくなる」
お前は次に「ヒューッ!」と言う。
冗談は良して、今回は殆ど一発書きの近い状態で書きました。構想自体は昔にあったのを流用してなんか温まったので今日ジョバンニが半日ぐらいでやってくれました。
幻想郷はこんな側面があるんだなぁぐらいで、ひとつ。
スレイプニル
http://twitter.com/#!/_Sleipnir
作品情報
作品集:
29
投稿日時:
2011/11/12 05:24:16
更新日時:
2011/11/12 14:52:49
分類
魔理沙
紫
ゲンソウ
ユメ
堅実な人生なんかつまらない。
無い無い尽くしの素寒貧。
いくらあっても足りない、俺達のドリーム!!
遅きに失した快楽人生。
悔やんでもしょうがないので、さあ、楽しみましょう。
素敵感激、俺達のドリーム!!
リズムを口ずさみ、ビートを刻め!!
話にゃ聞いたが、ありゃ酷い。
ダクトの奥底、排水口。
目も当てられない、敗残者の掃き溜め。
すいませんヤクモさん、俺にも『ゲンソウキョウ』をもらえませんかね
まあほぼ死んでるも同然だろうけど。
お薬ってすばらしいね。