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『堕天伝説 MARISA 』 作者: うらんふ→筒教信者→零雨→ウナル
<リレー小説ルール>
1:小説の起承転結の各パートを一つずつ書いて、次の人に回す
2:どんな無茶振りでも必ず続けて書く
3:書き出しは「魔理沙が増えた」
『起:うらんふ』
魔理沙が増えた。
対照的に、レミリアは減っている。
何が増えたかといえば、点棒である。
魔理沙はにやにやと笑いながら、目の前で悔しそうにうつむいているレミリアに向かっていった。
「どうした?お嬢様。運命を操る力というのは、そんなものか?」
「……うるさいわね」
そういうと、レミリアは卓の真ん中にあるボタンを押した。
卓が割れ、中に牌が吸い込まれていく。
「まだ東一局、勝負は始まったばかりよ」
今、幻想郷は空前の麻雀ブームであった。
外の世界で忘れ去られた「麻雀」というゲームが、つい数か月前に幻想郷に入ってきたのだ。
最初はルールもよく分からず、みんな適当に遊んでいたのだが、
『美しい役を作ると点が高い』
という麻雀の本質と、
『強さだけでなく、美しさでも競い合う弾幕ごっこ』
に慣れた幻想郷の面々に波長があったのか、いつの間にか、幻想郷で麻雀をしない者はいないというほどのブームになっていたのであった。
「……私の親番さえくれば、どんな点数差があってもひっくりかえせるのに」
「分かっているさ。だから、レミリア。もうお前に親番がやってくることはないぜ」
悔しそうに見つめてくるレミリアを前にして、魔理沙はにこりと笑った。
手にした牌をくるくると回している。
【親番で天和をあがる程度の能力】
これが、運命を操ることのできるレミリアが、麻雀で手にした能力であった。
親番さえくれば、レミリアは必ず天和をあがることができる。
この能力をつかって、レミリアは幻想郷での地位を確立してきた。
しかし……
「だから、お前には、親番を回さない」
魔理沙には特別な能力はない。
吸血鬼の能力も、生粋の魔法使いの能力も、妖怪としての能力もない。
ただ、「努力」という才能だけはあった。
その努力をつかって、魔理沙は……
「正々堂々と、イカサマをさせてもらうぜ」
イカサマを駆使していたのだ。
今宵は、幻想郷最強のものを決める大会が開かれていた。
その決勝戦に残ったのは、4人。
すなわち、
【レミリア】
【魔理沙】
【さとり】
【紫】
この4人である。
「このまま東場の親で決めさせてもらうぜ」
「『このまま東場の親できめさせてもらうぜ』……と思ったでしょう」
さとりの言葉に、魔理沙は動きをとめた。
「そうか、お前は、人の心が読めるんだったな」
「……そう。私の前では、あなたの手牌はガラス張り」
敵はレミリアだけではなかった。
ここまで残っているのだ。ほかのメンツも、ただものではない。
(しかし、それでも)
魔理沙は負けるわけにはいかない。
魔理沙には、この麻雀で負けられない理由があった。
それは……
つづく
「さてさて、頑張っておるのぅ」
魔理沙の真後ろで椅子の上にあぐらをかき、頬杖をついて対局を見守っているのは二ツ岩マミゾウである。
その顔に浮かんでいる笑顔は魔理沙の奮戦を見ていることから、だがそれだけではなく、彼女が何時負けるかという期待感からくるものも含まれている。
そう、魔理沙はマミゾウに借金をしていた。それも尋常な額ではない。
最初はちょっとだけ、というつもりだったのだ。それがどんどん積み重なり、借金はふくれあがっていった。
マミゾウの金貸しは無金利が売りである上に、返済を急かさない。
借りた額をキチンとその都度返済する連中には良心的な金貸し屋に見えるが、それはあくまで猫を被っているだけだ。
だが魔理沙のような、借りたことをすっかり忘れているような人間には、急かさないという事自体が罠となる。
――なっ……私、こんなに借りてたのか!?
愕然とした表情で叫ぶ魔理沙に、幻想郷麻雀大会のチラシを見せてやった。
優勝すると、賞金が出るという一文に魔理沙の目が釘付けとなる。
一方的にまくし立てるだけでは悪評が立ってしまうので、こうやって救済案も提示してやると一方的に押し付けられている感覚が薄れるものだ。
――普通のやり方じゃあ返せんじゃろう。だからほれ、幻想郷麻雀大会。あれで優勝して、その賞金をすべてくれれば借金はチャラになるぞ。
――そ、それでいいのか?
――ああ……。じゃがな、もし優勝出来なかったその時は……。
その後の言葉を告げた時の魔理沙の顔。それを思い出すだけで、下品な笑いが込み上げてくる。
優勝して賞金をもらえたら、金貸し屋としては十分である。その過程にあるであろう、魔理沙の奮闘まで見れるのだから儲けものだ。
だが、万が一優勝できなければ……これもまた、マミゾウにとっては面白い事態になるだろう。
「しかし……魔理沙も中々やるのぅ。まさかこうなるとは思わなんだ」
「ははは、まぁ私だってやるときはやるってことだな」
「油断したよ、まさか私が振り込むなんて。いや、まさかいきなりあんな手が来るなんて思えるもんか」
「ははは、それが油断ってヤツさ。天下のレミリアお嬢様のまだまだ私には及ばないってことだぜ」
「うるさいわよ。もう次はないから、覚悟しておくんだな」
先程の上がりは、レミリア直撃の三色同順だ。まさか直撃を、それもリーチ一発タンヤオ三色同順という大物くらったレミリアの苛立ちが手に取るように分かる。
だが、それだけで苛立つようではまだまだじゃな、とマミゾウは思った。満貫とはいえ、まだ飛んでいないのだ。この程度で苛立ちを表に出すようでは、まだまだである。
それより気になるのは魔理沙の運の良さだ。
マミゾウはこの決戦に上がってくるまでの魔理沙をずっと観察していた。どれもこれも、異常な速さでテンパイし、勝ち上がってきている。
全自動で洗牌から山牌積みまでしてくれる全自動麻雀卓では積み込みは出来ず、山牌の良し悪しは運次第だ。
それが見事に魔理沙の有利になるような積まれ方をしているのだから、運が良いとしか言いようがない。
まるで麻雀の神様でも付いているようじゃないか。
新たな配牌を見て、マミゾウはその確信をいっそう強めた。ドラがあり、東が二枚揃い、少し伸びれば満貫に届きそうだ。
「凄いことになっておるな……これは……」
「勝ちが見えた、ということですね」
聞こえないように呟いたマミゾウへ、これまで何のリアクションも起こさなかった覚り妖怪が、口を開いた。
確か、古明地さとりという名前だったはずだ。旧地獄にある地霊殿の主で、皆から忌み嫌われている妖怪だと、ぬえが教えてくれたことを思い出していた。
マミゾウがさとりへ顔を向けると、彼女は含みのある笑みを見せた。
なるほど、ガラス張りということは振り込むことは一切ない。サマを得意にしているという魔理沙の手が動かないのも、さとりの能力が原因だ。
サマをしようとする意思から相手に筒抜けでは、イカサマなど出来るわけがない。
「そうです。どんな相手だろうと、何かリアクションをしようとする思考があって初めて体が動く。私にはそれ全てが見えるのだから、この卓でイカサマなど不可能です」
「……ずいぶんと便利な能力じゃな。確かにその能力はそのまま麻雀でも有効というわけか。常に牌を見て、考えるわけじゃからのう」
「ええ、だから今魔理沙がどんな牌を引いたかも丸見えというわけです。彼女は今、どう上がろうか考えていますから」
「それを言うのは、玄人としての矜持に反する、じゃろ? まぁお主がなにか言った時点で、周りは警戒するがの」
「そういう正確なものですから、ですが何を持っているかは決して言いません。しかし、それがわかっているのですから、私が魔理沙に振り込むことはありませんよ」
「分かっておる。じゃがな、その能力があってもお主は上がることが出来ておらんだろ? 引きが悪いにもほどがあるのではないかのう」
マミゾウの指摘にさとりは苦笑いを浮かべると、自分の牌へと目を移した。
その指摘通り、三人の牌が丸見えになっているという圧倒的有利にも関わらず、さとりはまだ上がれていない。それだけツモが悪すぎるということだ。
「ええ、自分でも驚くほどですよ。まるで魔理沙に運を吸われているのではないかと思うほどですね」
「実際そうではないかの、そのような都合のいい能力を持っている者に、天は微笑まんということじゃな」
「……」
それっきり、さとりは黙りこんでしまった。
マミゾウがもう一人のだんまりはどうじゃろうかと視線を向けると、そいつは澄ました顔で牌を並び変えていた。
紫はマミゾウの視線に気がつくと、チラリと一瞬だけ顔を向け、また牌へと戻した。
彼女も妖怪、それもとびきり強大な妖怪なのだから何かしらの能力を持っているはずだ。だが、これまでに能力を使った気配はない。
卓の上で何かが起きている様子はなく、さとりにも動きがない以上、心を読むなどという芸当の出来無い二人に紫の能力を知る術はないのだ。
「さて、そろそろはじめましょうか?」
「良いですよ、こちらの準備は出来ましたから」
「ああ。そもそも卓の外で喋るんじゃなくてさ……」
「麻雀なんだから、これで語ろうじゃないか」
レミリアが山から牌を取り、それを打牌した。
それが合図となり、四人は目の前の勝負に集中し始めた。相手の手牌が何か、表情からツモが良いか悪いか少しでも読み取ろうと意識を集中させる。
かちゃり、たん、かちゃり、たん。牌を取り上げ手牌に入れる、河へ捨てる。
それを何度繰り返した時だろうか、魔理沙が動いた。
「それ、ポンだぜ」
紫の切った東を取り上げると、手牌の中の二枚と合わせて卓の右側へと並べる。
これで一役だ。今の魔理沙なら、ここからあっという間に何かしらの役でテンパイしてしまうだろう。
「くそっ……ダブ東か……」
焦るレミリアと対照的に、牌が完全に把握できるさとりと手堅く打っている紫は冷静さを崩してはいない。
「ん……?」
そんな紫を見ていたマミゾウには、まるで能面のような紫の顔がすこしだけ歪んだように見えた。
役が確定した魔理沙は、だがこちらも表情を崩さない。彼女の性格上、ダブ東だけで満足するはずがないのだ。
何の迷いもなく、必要のない北を河へと捨てる。それに対しての動きはなく、レミリアはかちゃりと山から牌を取り、それを捨てた。
紫、さとりのツモと捨てた牌に対しての動きもなく、どこか確信したような雰囲気を醸し出しながら魔理沙が山から牌を取り上げる。
それを確認するや否や魔理沙はニヤリと笑い、流れるような動きで右側に寄せられている明刻へとそれを加えた。
「カン、だな。さて、ドラは……」
「ああ、ちょっとまって頂戴」
カンドラを表にしようとする魔理沙の手を、紫の言葉が止めた。
何事かと紫を見る三人の視線を受けながら、ゆっくりと手元の牌を倒していく。
ぱたぱたぱたん。
それが何を意味するのか理解した時、魔理沙の顔がさっと青ざめた。
「槍槓、国士無双よ」
そう宣言し、紫はニッコリと微笑んだ。
【転:零雨】
「そんな馬鹿な……!」
レミリアが声を張り上げた。
彼女が慌てているのにも訳がある。
実は、レミリアもまた魔理沙と同じように金に困っていた。
紅魔館の財政の悪化、それがレミリアをこの大会に参加させた理由であった。
声を荒げるレミリアに対して、国士無双に振り込んだ張本人である魔理沙は冷静だった。
何故なら、魔理沙は気づいたからだ。
「そう、こいつは、紫はイカサマをしたッ……!!」
魔理沙が紫を指差して叫ぶッ!
そう、八雲紫はイカサマをしていた!しかし、どうやって!?
「こいつらはグルだ! 紫とさとり、お前ら2人のことだ!」
2人の顔が引きつった。魔理沙は自分の推理を確信する!
「でも、仮に私達2人がグルだったとして、どうやってこの牌を揃えるって言うの? まさか、私達が牌を受け渡ししたとでも言うつもり?」
「いや、それは少し違うな。さとり、お前が渡したのは、私達の手牌についての情報だ!」
「それこそ馬鹿らしいわね。それとも、どうやって私が手牌を教えたのか説明できるのかしら?」
「ああ、出来るさ! さとりが取った方法は、こいしに伝言係をさせたんだ! そこに居るんだろ? 出てこいよこいし!」
魔理沙の声に反応して、さとりの後からこいしが音もなく現れた。
少し驚いたようで、珍しく笑顔ではなくなっている。
「なんで私が居るって分かったの? 完璧に無意識の領域に入り込んでいたのに」
「簡単なことだ。こいし、お前さとりの髪の毛で遊んでただろ? それとも無意識だったのか? さとりの髪の毛が不自然に動いていたから、私は気が付いたわけだ」
「このッ……! こいしッ……! あなたのせいよッ!」
さとりが今にも殴りかからんばかりの勢いでこいしを責めた。
こいしは涼しい顔でそれを受け流す。
「さあ、どうする紫? これじゃあゲームは成立しないぜ? 当然、賞金も何もかもなしだ」
「一体私にどうしろっていうの?」
「そこでだ、私と取引しようじゃないか。お前がそこまでして優勝したい理由は何だ? それも、お前が嫌っていた地底の連中とまで手を組んでるんだ。さぞかし深い理由があるんだろ?」
魔理沙が問い詰めると、紫は渋々語りだした。
魔理沙には聞かされていなかったが、このゲームの優勝商品は賞金だけではないらしい。
このゲームの主催者は永遠亭。
そして、優勝商品は好きな薬を製作してもらえるのだそうだ。
さとりと紫、2人の望みは安定した世界で暮らすこと。
そのための薬を永遠亭に作らせたかったらしいが、そのための企みを魔理沙に看過されてしまった。
魔理沙がイカサマを見抜けなかったら、今頃幻想郷はまったく別の世界になっていただろう。
(いや、まてよ? 普通に永琳に薬を頼めばいいだけじゃないのか?)
ふと、魔理沙は紫の話を聞いて思ったが、プライドの高い紫が頼むとは思えないし、何より安定がどのような安定なのかはハッキリとしていない。
しかも、そこにさとりが加わるのだ、少なくとも世間一般が思い浮かべる安定とは程遠いだろう。
「それで、取引って具体的にはどうするのよ?」
「お前らに薬を作ってもらう権利を譲ろうじゃないか。ただし、薬は私にも見せてもらおう。それと、賞金は私とレミリアが頂く。それでどうだ?」
「それ、私達がどう考えても不利じゃない?」
「なら、いいぜ。このまま大会はナシってことでもな」
この取引は、魔理沙にとっても大きな賭け。
借金を全て返済できるわずかな希望の道筋。
相手は妖怪の賢者と、地底の主。
魔理沙の推理には矛盾もあるし、抜けているところもある。
しかし、そんなものはささいなこと。
相手の弱みにつけこむことが出来た、それだけ魔理沙は有利になっている。
果たして、霧雨魔理沙はこの厄介な妖怪達を出し抜いて無事に借金を返済し、元の生活に戻ることが出来るのか?
結 ウナル
結論から言おう。紫たちは魔理沙の取引に応じた。
紫たちは薬さえ手に入ればいいのだから、無用なリスクを背負う理由は無い。元より賞金は眼中には無いしイカサマもばれた以上、ここは魔理沙の提案に乗るのが最善と考えたのだ。
魔理沙が取引について嘘をついていないことも、さとりが確認している。保険として魔術的な契約書を書くことを条件に紫とさとりは魔理沙の提案を受け入れた。
最後までごねたのはレミリアだった。だが彼女とて今の状態が好ましくないのは否定しようがない。正々堂々とした戦いならまだしも、イカサマまで含めた麻雀でこの三人に勝つのは難しい。それを認識できる程度にはレミリアは自身の状況に冷静であった。
後は外に対するポーズだけ。
建前だけの出来レース麻雀をして魔理沙とレミリアを同点一位とし、幻想郷の麻雀大会は何も知らない者たちからの賞賛の中で終了した。
その後の各人たちについて少し語ろう。
レミリアは手に入れた賞金を元手にし、何とか紅魔館の財政を立て直した。
麻雀大会で一位となった功績は咲夜やパチュリーにも認められ、紅魔館を火の車にした手落ちと合わせて評価はとんとんと言ったところ。
だが今後は無駄な出費をしないよう財政管理は必ず咲夜を通すこととなった。完璧で瀟洒な彼女のこと、今後は堅実な財政管理を行い紅魔館が財政不安に陥ることは少なくなるだろう。
「咲夜。紅茶の味、落ちてない?」
「茶葉を変えましたので」
「咲夜。なんで茶請けがケーキじゃなくてクッキーなの?」
「お菓子代も節約でございます」
「……わびしいわね」
「地獄の沙汰も金次第。節約しつつ何とかお嬢様に気に入られるよう努力します」
「ま、いいわ。また機会があったら今度こそ私が一位をもぎ取ってやる」
こうしてレミリアは平穏な生活と少しだけ味の落ちた紅茶を味わうのだった。
なお、後日紅魔館メンバーで行われた家族麻雀では、
「あ、すいません。それロンです。混一色ドラ2に――あ、裏も乗りました」
「レミィ。まだ飛んだわね。これで三回連続」
「美鈴。貴方こんなに強かったのね」
「えへへ。実は小さい頃からずっと麻雀やってまして」
「……………」
美鈴が圧倒的強さで勝利し、レミリアは二度と麻雀はしないと心に誓うのだった。
紫とさとりは永琳に『結界強化の薬』を作らせた。
安定した世界。それは二人にとって『住み分けのなされた世界』だったのだ。
さとりの住まう地底では二柱の神のてこ入れや、先の間欠泉騒ぎによって幻想郷と繋がる道が無数に開けていたのだ。
これを使い地上と地底を行き来する者が後を絶たず、それを防ぐためにさとりは結界を張ることにした。結果、地底と幻想郷と繋いでいた穴はふさがれ、地底に行けるのはごく一部のルートのみとなった。そのルートにも橋姫や鬼が番人として立ち、不審な者を通さないようにするという徹底ぶりだ。
「さとり様。お酒の準備できました〜!」
「ご苦労様。さ、そろそろ始めましょう」
今日の地底は雪の空。地獄の炎があるとはいえ、肌寒い一日であった。
熱燗とうまい夕食。それらを囲みながらさとりたちは静かな一時を過ごす。
「おねーちゃん。ごめんね」
「ま、結果オーライよ」
ほんのり頬を染めながら、こいしは頬をほころばす。
普段は見えないその心も今なら少し、理解できそうだった。
地上の姦しさも懐かしくはある。だが、さとりは今まで通り妹とペットたちとの静謐な時間を過ごすことだろう。
「こうして幻想郷は今日も平和なのでした」
「誰に語ってるのよ」
博麗神社の縁側に霊夢と並んで座る紫。
紫は幻想郷に張られた博麗大結界の強化を行った。
これにより博麗の巫女に対する負担は軽減され、霊夢はより一層の暴れっぷりができるようになった。
もちろん、そんなことは霊夢には知らせていない。
「ちょっと、私の羊羹食べたでしょ」
「あら? これは私へのプレゼントなのかと思ってたわ」
「図々しいわね。まったく、また切らないといけないじゃない」
「おかわりよろしく〜」
「金払え。つまみ食い妖怪」
鼻を鳴らしながら台所へと戻る霊夢。
その規則正しい足音を聞きながら紫は一口茶をすする。
「おいし」
今日は晴れ。幻想郷の空はどこまでも青く澄み渡っている。
そして魔理沙はというと――
「さ、約束の賞金だ。これで私の借金はチャラだな」
ここはマミゾウの隠れ家の一つ。
そこに備え付けられた木机に重い音を響かせて巨大な袋が机の上に置かれた。無論その中には麻雀大会の賞金が詰まっている。
慎ましく生活すれば十年と生きられるその額に、魔理沙はどうだと言わんばかりに胸を反らせる。
「さ、とっとと勘定して、借用書を渡してくれ。これで私は自由の身だ」
鼻を高々とさせる魔理沙に対し、マミゾウは温和な笑顔。それは罠にかかった子ウサギを見る顔だった。
「いやいや魔理沙。君は大切なことを忘れているぞい」
「はあ? おいおい。まさか、どっかの極悪借金取り十分三割複利とか何とか屁理屈こねる気じゃねえだろうな?」
「まさか。儂はそんなあくどいことはしないぞい。いつもニコニコ無利息無利子が儂のモットーじゃがからな。じゃがな、大会前に儂が言った言葉を覚えておるか?」
訝しげに眉を寄せる魔理沙。
「え? だから大会の賞金で借金を払えって……」
その瞬間、マミゾウはまさしく裂けるような笑みを浮かべた。
「儂は『その賞金をすべてくれれば借金はチャラになる』と言ったんじゃぞ。これじゃあ借金の半分しか返済されんわい」
「…………へ?」
間の抜けた声。そしてわずかに遅れて魔理沙の顔から血の気が引いていく。
札束の袋を突きながら、マミゾウは大仰に首を振ってみせる。
「レミリアと山分けなんぞせんで独り占めすれば良かったものを。いやいやおぬしの人の良さにはほどほど感心するわい」
ぱちんと指を鳴らすマミゾウ。その瞬間、扉が開け放たれ幾人もの妖兎が入ってくる。
「マ、マミゾウ!?」
「残念じゃが、チャンスは一回こっきり。いつもニコニコ無利息無利子。払ってくれる奴にはいくらでも貸すが、払えない奴ぁはケツの毛まで毟る。それが儂のモットーじゃてな。これ以上待ってもおぬしには支払い切れんじゃろうし。残りは身体で払ってもらうぞ」
瞬間、魔理沙は三つのことを同時に行った。
まずは振り向きながら敵の数を確認。そして側に置いてあった箒を左手で掴み、右手で懐から八卦炉を取り出す。
続けて敵を十数人の妖兎。それも密集して扉を固めていると確認した魔理沙は八卦炉をその中心に向けた。
マスタースパークの貫通力に物を言わせて妖兎を突破、その後箒で持って全力逃走。
咄嗟の判断としてはほぼ満点と言える状況判断だった。
だが――
「無論、そこまでは予想済みじゃ」
「っ!?」
赤い光が瞬いたと思うと、踏み込んだはずの地面に足がずぶずぶと足が沈んでいく。
さらに意識は混濁し、目の前に居るはずの妖兎の姿すら霞んでいく。
「手間をかけさせたの」
「いえ、これはこちらの仕事ですので」
妖兎たちの奥。一人、赤い瞳を輝かせた少女の指示により、魔理沙は担ぎ上げられた。
「くっ、くそ……降ろへ、降ろへ……!」
自由にならない身体。心の奥で必死に抵抗するのに身体はまったく動かない。
そうして魔理沙は連れ出され、部屋には一人金を数えるマミゾウだけが残った。
「どう? 地下王国の具合は」
「はい。姫様。全ては順調です」
ワインを揺らしながら蓬莱山輝夜はモニターを眺める。妖精大のモニターには生きも絶え絶えに働く人々の姿が映っている。
ここは永遠亭地下にある秘密王国。ここではあらゆることが許される。
人身が売買され、賭博に麻薬が平然と行われる。地上が幻想郷の光と言うならば、ここは幻想郷の闇。楽園の闇に潜む享楽の都なのだ。
無論、賢者たる紫もこの王国の存在を認知している。その上で見逃しているのだ。
美しい幻想郷を保つためには不要な者もいる。素晴らしい幻想郷のためにはガス抜きができる場所がいる。自身も強大な妖怪である紫はそれを知っている。
「もっともっと大きくしなきゃね。肉も必要だし、労力も金も足りないわ」
今もなお王国は肥大化を続けている。そのための労働力は借金によって首の回らなくなった者たちや、幻想郷住人から疎まれた者たちだ。
人間・妖怪問わず、この都の闇に飲まれた者は二度と地上へは出られない。彼ら彼女らの末路は強制労働の末に過労死するか、三ツ星レストランの皿の上に横たわるか、白濁した液を流しながら息絶えるか用意されていないのだ。
闇の中、金の髪を持った少女はそこにいた。
どことも知れぬ闇の底に沈んでも、その牙は抜けていない。八卦炉も箒も己の尊厳さえ奪われても意地という武器だけは捨ててはない。
ごそり、その手から取り出したのは木彫りの賽。
少女はにやりと口元に笑みを浮かべる。
「おい、そこの。私と勝負しないか?」
魔理沙の新たな伝説が、今始まる。
おわり
「まさかこう来るとは……」
最初の交換日、筒教信者さんがうらんふさんの書かれたファイルを受け取って言った言葉です。
この言葉を目にし、私はずっとうらんふさんがどんな変化球を投げてきたのが楽しみでした。そしてうらんふさん、筒教信者さん、零雨さんと巡ってきたリレー小説を受け取った時、私は筒教信者さんと同じ思いをしました。
「まさかこう来るとは……」
投げられたのは変化球どころでなく、まさしく魔球でした。
横殴りの魔球でした。
最後に、ここまで読んでいただいた皆様に感謝を(ウナル)
うらんふ→筒教信者→零雨→ウナル
作品情報
作品集:
29
投稿日時:
2011/12/05 11:18:04
更新日時:
2011/12/05 20:18:04
分類
東方
リレー小説
何せ、自分が麻雀のルールを全く知らなかったんですからw
慌てて哲也を読んで調べたりしましたよw でもたのしかったので、ありがとうございました!
魔理沙のことだから、ゴキブリのしぶとさでドツボから這い上がっては、自業自得で堕ちるの繰り返しになるんだろうな……。
リレー小説なのに綺麗にまとまった面白さの感じられる作品でした。
リレーSSながら魔理沙がざわざわとどん底から這い上がっていく続きも読んでみたいです。
ただ「息絶えるか用意されていないのだ。」の箇所が気になりました
これ大変だったろうな。お疲れ様といいたいです