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『ブームが過ぎたビックリマンチョコはどうなるんだぜ?』 作者: 筒教信者→零雨→ウナル→うらんふ
<リレー小説ルール>
1:小説の起承転結の各パートを一つずつ書いて、次の人に回す
2:どんな無茶振りでも必ず続けて書く
3:書き出しは「魔理沙が増えた」
魔理沙が増えた。
具体的に言えば魔理沙が四人になったのである。
博麗神社の居間に四人の魔理沙が座り、その隣ににとり、パチュリー、アリスが座っている。その光景は、百人が見れば百人がおかしいと思うことだろう。
ちゃぶ台を挟んで反対側に座る霊夢の表情は険しく、それに対する七人は顔を伏せたままだ。事情としては彼女らに非はないのだが、霊夢の威圧感にすっかり気圧されてしまっていた。
空気も凍りつくかのような異様な空間。その中で口を開いたのは霊夢であった。
「で、ちょっと状況を整理したいから、何でここに魔理沙が四人も居るのか聞いて良いかしら」
その声に四人の魔理沙は、全く同じタイミングで視線を三人へと向けた。ご丁寧に微妙に顔の位置をずらしている。
――ああ、こいつら間違いなく魔理沙本人だわ……。
その様子を見た霊夢はそんなことを思った。
四人の魔理沙の視線を最初に受けたにとりは思わず目を逸らし、パチュリーは下を向いたまま何やらブツブツと呟き、最後に残ったアリスは泣きそうな顔になった。
前の二人がどうしようもないのなら、自分が説明しなければいけない。
アリスは貧乏くじを引きがちな自分と、逃げの一手に出た二人への呪詛を心のなかで吐きながら霊夢へと顔を向けて……固まった。
ああ何でこんな面倒なことを持ってきたの、私はゆっくりしたいのに。まるでそう言いたげな顔である。
一つ大きな深呼吸をしてから、アリスは口を開いた。
アリスは自宅で安楽椅子に座り、のんびりと紅茶を傾けていた。
外では鳥たちが歌い、春の麗らかな日差しが窓から家の中へと注ぎ込んでいる。
――まったく、なんて素晴らしい朝なんだろう。
来客の予定は一切なかった。この最高のひとときを邪魔する魔理沙は、今日は博麗神社に行ってくるぜと昨日言っていたので、来ることはない。
一抹の寂しさを感じ、アリスはそれを否定した。あれはたしかに良い友人かもしれないが、喧しすぎるきらいがある。
友人と一緒に居るのは楽しいが、たまにはこうやって一人でのんびりしたいのだ。
だから、コンコンとノックの音がしたのでドアを開け、そこに魔理沙が立っていたときは目を丸くした。
――あんた、霊夢のところに行ったんじゃなかったの?
――いや、そんな事言ったか?
――ええ、確かに言ったわよ。今日は霊夢のところに行くーって。
――そんな覚えないんだけどなぁ。
すっとぼけながら首を傾げる魔理沙を見て、アリスは何か誤魔化しているのではないかと考えた。
霊夢が居なかったのなら素直にそう言うだろう。わざわざ誤魔化す必要はない。
誤魔化す必要があるときは、なにかやましいことがある時だ。きっと神社で何かやらかして、慌てて逃げてきたのだろう。
そう判断したアリスは魔理沙の腕をがっしりと掴むと、戸惑う魔理沙を引っ張りながら空へと飛び上がった。
戸惑う魔理沙へ、「一緒に神社に行ってやるから、申し開きはそこでね」と告げた。
――何の話だぁぁぁぁぁ!?
その場にドップラー効果を残し、アリスと魔理沙は神社へと飛んでいった。
そして、神社に居た魔理沙とパチュリー、にとりの連れてきた二人の魔理沙に蜂合わせたのである。
「こういうことなんだけど……」
「期待はしてなかったけど、これだけじゃあ何で増えたのか分からないわね」
呆れ顔の霊夢が魔理沙たちに視線を向けると、彼女らは互いに顔を見合わせて「どうしようか、どうしようか」等と囁き合っている。
よく見るとそれぞれは微妙に様子が違っていた。
表情がコロコロ変わる明るい魔理沙。あまり喋らず、表情を変えない魔理沙。どこか不機嫌そうな表情の魔理沙。どこかのんびりとした印象をうける魔理沙。
四人は確かに魔理沙だが、どこか違っているように見えた。
だが、それが分かったからといって何の解決にもならない。
「どうしたものかしらねぇ……」
腕組みをする霊夢の背後で、障子が勢い良く開け放たれた。
その場に居た全員の視線が障子へと向けられる。
「ねー、魔理沙と一緒に遊びに来たよー!」
「あ、えっと、その……」
満面の笑みを浮かべたこいしと、その横に居る五人目の魔理沙を見て、場の空気が凍りついた。
【承:零雨】
最初に沈黙を破ったのは、こいしだった。
「え?何コレどういう状況なの?」
いつも笑顔のこいしも今回ばかりは顔が少し引きつっていた。
こいしの質問に答えたのは霊夢だった。
しかし、彼女にもまだ理解できていないこの状況。
霊夢の怒りの矛先は必然的に魔理沙に向かった。
「ちょっと、魔理沙。本来ならあんたが説明するべきじゃないの?」
霊夢が魔理沙に説明を求めるも、魔理沙達はサッと全員が視線を合わせないように顔をそらした。
彼女達は彼女達で混乱しているようで、キョロキョロと挙動不審な動きをしている。
その中の一人、明るい魔理沙が口を開いた。
「い、いや、実はまだ私達にもよくわからないんだ……。」
ばつが悪そうに喋りだす魔理沙。
一同は苦笑しながら話を聞いているが、その目は全く笑っていない。
その時、さっきまでずっと本を読んでいたパチュリーが、何かを思い出したように本を閉じて立ち上がった。
「そういえば、魔理沙。あなた確か紅魔館で妹様のスペル『フォーオブアカインド』について、私やレミィに聞いてまわってたわよね?もしかして、妹様を真似てスペルを発動しようとしたんじゃないでしょうね?」
「え、あ、いやいや、そんなことはないぜ!」
「あのスペルは妹様のような強大な魔力がなければ失敗するわよ。失敗したら、分身出来たとしても制御不能になるか、際限なく分身し続けるかといったところでしょうね。」
「も、もし、失敗したらどうすればいいんだ?」
「さあ?分身に失敗したなら、増えた分身を集めたらいいんじゃないの?何人に増えたのかは知らないけどね。」
「そ、そうか!その手があったか!ありがとうパチュリー!……あ。」
喜んでガッツポーズをしていた魔理沙の肩を、霊夢が思い切り握る。
霊夢は笑いながら怒るという器用な表情を浮かべながら、神社の外を指差して叫んだ。
「早く全員集めてきなさい!全員集めるまで神社には戻ってこないでよね!!」
「わ、分かったからそう怒鳴るなよ!幸いここには5人も私がいるわけだしな!協力すればすぐ見つけられるさ!」
「早く行ってきなさい!」
霊夢が再び怒鳴ると、魔理沙達は蜘蛛の子を散らすように空に飛び立っていった。
残されたアリス、パチュリー、にとり、こいしの4人は顔を見合わせ、ため息をついた。
「全く、コレだから魔理沙は……。」
といった呟きが聴こえるが、霊夢は魔理沙たちを追い出せたことに満足したようで、さっきまでの怒りは何処へやらニコニコとしていた。
「でも大変ねぇ。今、幻想郷には魔理沙が何人いるか分からないわけだしね。」
霊夢のその言葉にこいしが反応した。
「何人いるか分からないなら、1人くらい地底に連れて帰っても問題ないわね。」
と、無意識なのだろうか考えが口に出てしまっている。
当然、その呟きを聞いた残りの3人が大人しくしているはずもなく、全員目をぎらつかせながら、魔理沙を探しに飛んでいった。
「本当に大変ねぇ、魔理沙も、あいつらもね。」
【転 ウナル】
それから数ヵ月後。
「居たわよ! パチュリー! 予定通りよろしくね!」
「OK!! アリス!」
アリスとパチュリーは森の中を駆けていた。狙いはもちろん魔理沙だ。アリスの前方、約十メートル。特大箒を乗る魔理沙が一人。
「あの箒、あの目付き! 間違いない! レア物の『ダンディ魔理沙』!」
ドリフトを駆使しながら木々を高速で駆け抜ける魔理沙。
その横顔はまるでニヒルなハリウッド俳優を思わせる。その姿にドギマギしながらも、アリスは魔理沙を見失わぬよう背後をキープする。
「疾ッ!!」
アリスから放たれた人形がダンディ魔理沙に迫る。
だがダンディ魔理沙は箒が地面を擦るほどどの低空飛行と強引なターンで持ってそれを回避した。風圧に吹き飛ばされた木の葉がアリスの目の前に煙幕となって立ちはだかる。
「くっ! 流石は百戦錬磨の猛者! やってくれる!」
ギリッと奥歯を噛み、大木を蹴って強引に曲がるアリス。
だが木の葉煙幕によって速度を落としてしまったため、魔理沙との距離はわずかに広がってしまった。
そんなアリスにダンディ魔理沙はくるりと振り返り、流し目を寄こした。
「ふふっ。お嬢さん。レディがそんなはしたないことをしてはいけませんよ」
「はぅ!?」
予想外の攻撃。
ダンディ魔理沙はフェミニスト。余程の事がなければ女性に攻撃を仕掛けない代わりに、魅惑のフェイスとハンサムボイスで相手を悩殺するのだ。
驚異的な運動能力と魅惑の技術。これこそダンディ魔理沙捕獲を困難にさせる要素だった。
「ま、魔理沙ったら……、そんなお嬢さんなんて」
思いっきりダンディ魔理沙の魅惑に引っかかったアリス。顔を赤らめ、速度が途端に落ちる。
その隙にダンディ魔理沙は一気に逃走を図ろうと、高度を上げる。森から出て一気に加速すればアリスから逃れることも可能だろう。
目の前には眩い太陽。
そこに向かいダンディ魔理沙は箒を奔らせる。
「――なっ!?」
「かかったわね」
太陽の影から聞こえてきた声にダンディ魔理沙の顔が歪む。
ダンディ魔理沙が太陽だと思っていたのはパチュリーのロイヤルフレアだったのだ。
箒を折らんばかりに回避行動を取るダンディ魔理沙。だがそれよりも早くパチュリーは腕を振り下ろす。
「この距離、このタイミング! 貰った!」
重力に引かれるようにしてロイヤルフレアは魔法の森に落ちていく。
ダンディ魔理沙は自身の限界を振り絞り、逃げの一手に賭けるが間に合わない。
火球はダンディ魔理沙を巻き込み、巨大な火柱を立てた。
「捕獲完了、と」
「ちょちょちょ! 何してくれてんのよ! もっと穏やかな魔法で捕まえるはずだったでしょ!! 傷でも付いたらどうすんのよ!!」
黒こげになったダンディ魔理沙を摘まむパチュリーと顔を真っ赤にするアリス。
だがパチュリーは憮然とした顔のままぽいとダンディ魔理沙を投げて寄こした。
「こうでもしなきゃ捕まらないわよ。命に別状はないから安心しなさい。それとも逃がした方が良かったの?」
「ぐ、むぅ」
口を尖らせつつも、ダンディ魔理沙を捕まえたという感動に顔が緩むアリス。ボロボロの身体を無防備に晒す姿にはそそるものがあった。
苦節一週間。ダンディ魔理沙の行動パターンを調べ、捕獲計画を立て、パチュリーとの連携を特訓した時間は無駄ではなかった。
アリスはポケットから鉄の鎖を取り出し、しっかりとダンディ魔理沙の首に付ける。無論、鍵付きだ。
「ダンディ魔理沙! ゲットだぜ!!」
魔理沙は増えた。
増えすぎて、今では幻想郷の生態系の一環を担っている程である。
これに対し、幻想郷の管理者たる紫は最初こそ難色を示したものの、アリスたちが発案したプロジェクトを聞くなり考えを改めた。
『魔理沙が増えるなら狩ればいい』。
まさしく逆転の発想であった。
魔理沙を一定量に保つため、紫は魔法の森の一角に魔理沙管理区、通称『マリサランド』を建設。
この管理区内に結界で持って魔理沙を押し込めることとその人数を一定量に保つことで魔理沙の存在を許容する運びとなった。今や魔理沙狩りは幻想郷を代表するスポーツとなっている。
増えた魔理沙はそれぞれ個性がある。
最初こそ多少性格が違う程度の違いであったが、今では『服や肌の色が違う』『翼や角が生えている』『乗っているのがデッキブラシ』『ダンディボイス』などなど極めて特色ある魔理沙が存在している。
手の平サイズの『ミニチュア魔理沙』は人里でも人気をはくし、愛玩ペットとして飼われている。体長二十メートルを超える『ドラゴン魔理沙』は妖怪たちからも歯応えある狩り相手として認識されている。特色ある魔理沙たちは好事家たちに捕まえられては夜の愛玩に使われたりしている。
アリスたちほどの魔理沙マイスターとなると、魔理沙全種コンプリートを掲げ、自宅に専用の飼育施設まで建てて魔理沙を愛でている。
世はまさに魔理沙時代。
だがそんな世界に不満と怨嗟を抱く者も居た。
「また魔理沙が狩られたぜ。あのダンディな奴だ」
「そんなあいつが!?」
「何てことだぜ。あいつは何度も敵陣を偵察してくれた勇敢な奴だったのに」
「そのせいだぜ。偵察に行った帰り、アリスとパチュリーの待ち伏せにあったみたいだぜ」
「またあの二人か!」
マリサランドのとある洞窟の中、十数人の魔理沙が顔を突き合わせている。
彼女らは魔理沙の中でもとりわけ理性的な知性を残している者たちだ。多くの魔理沙が知性を失っていく中、彼女らは魔理沙狩りから逃げ回る一方で虎視眈々と魔理沙開放への道を探っていたのだ。
「もう限界だぜ! 魔理沙の総戦力を上げて打って出るべきだぜ! このまま仲間が捕らえられていくのを見たくはないぜ!」
熱血漢魔理沙が叫ぶ。魔理沙の熱い心を強く受け継いだ彼女は勇敢で仲間思いだ。仲間が狩られているという今の現状に一番強く怒りを覚えているのも彼女だった。
だが、すぐさま向かいに座っていた慎重派魔理沙が首を振る。魔理沙の中の努力家な部分が発露した魔理沙は熱血漢魔理沙と違い、確実な成果を狙う性格をしていた。
「ではあの結界をどう突破する? 紫と霊夢の二重結界。あれを越えないことにはどうにもできない。それに私たちが誰かを傷つけたら、それこそ危険人物として皆殺しになる。ここは霊夢と話し合い共存の道を探るべきだぜ」
「どうせ適当にお茶を濁されて終わりだぜ! 魔理沙狩りが幻想郷に受け入れられている以上、霊夢の奴が止めるはずないぜ!」
「だが戦いとなれば魔理沙は破滅だぜ!」
「私たちの聖戦が次の魔理沙に繋がるんだぜ!」
激しく言い争う熱血漢魔理沙と慎重派魔理沙。
そこに第三の意見を投げ入れたのはニコニコと微笑んでいた魔理沙だ。見ればその服装も雰囲気もどこか他の魔理沙たちとは異質である。
「うふふ。ここは逃げ延びるのはどうでしょう。全員で魔界に逃げ込むのです。あそこなら紫もそうそうに手は出せないでしょう。そこで新天地を築くのです」
だがすぐに他の魔理沙が反論する。結局結界はどうするのだ。魔界に行っても平和とは限らない。自分はマリサランドが気に入っていて出て行きたくない。
そうして議論はまとまりを欠いたまま進まず、無為な時間だけが過ぎていく。
個性化した結果残った強いエゴ。
魔理沙たちが具体的な行動を起こせないのはこれが原因だった。
個性化された魔理沙たちは態度を変えられない。その性格がアイデンティティなっているため、相手の意見に自身を擦り合わせられないのだ。
結果、議論は平行線を辿り、具体的なことが何も決まらぬまま時間だけを消費する。
そうして次の日を迎えては仲間の魔理沙が居なくなったと大騒ぎする。
傍から見れば滑稽な光景。しかし、当の魔理沙たちだけはそれに気付けない。まるで滑車に入れられたネズミのように、同じ場所をぐるぐると巡る。
「……お母様」
洞窟の隅で小さくなっていた幼女魔理沙がつぶやいた。
洞窟の一番奥、数々の花や装飾と共に飾られている一本の箒と三角帽子。それは全ての魔理沙の原点、霧雨魔理沙と呼ばれた少女のものだという。
霧雨魔理沙がどうなったのか、知る者はいない。
どさくさの内に捕らえられたという者もいれば、幻想郷で暮らしているという者もいるし、運命の日に魔理沙たちを導くために降臨するという者もいる。その全てが根も葉もない噂に過ぎなかった。
だが、霧雨魔理沙は魔理沙たちにとって信仰の対象だった。
全ての魔理沙の原点であり、魔理沙を生み出した原因。故に多くの魔理沙は彼女を母と呼ぶ。箒と帽子は飾られ、幾人もの魔理沙がそれに祈りを捧げる。
「お母様は、今どこにいるのですか?」
【結 うらんふ】
それから20年の月日が過ぎた。
すでに、魔理沙は幻想郷の隅々にまで浸透していた。
当初は魔理沙を集めることに燃えていたアリスやパチュリーも、魔理沙が増えていくにつれて、「どうして私、こんなに熱くなっていたのかしら?」と、その熱情は冷めていっていた。
手に入れることが難しかったから、手に入れたかったのだ。
どこにでもいる魔理沙に対して執着する必要なんてない。
魔理沙がほしければ、近所の「魔理沙ショップ」にいけばいくらでも売っているのだから。
魔理沙の成長は早い。
魔理沙と魔理沙を組み合わせて、より従順な魔理沙を作り出すブリーダーも増えていった。
20年という月日の中で魔理沙は貴重な労働力としての立場を確固たるものにしていた。
「おたくの魔理沙、どんな感じです?」
「先日買ったばかりなんですけど、なかなかいい感じですね。今は工場のラインに20人ばかり使っています」
ブリーダーの涙ぐましい努力によって、魔理沙の「個性」も、より人々が使いやすい「個性」へと変えられていった。
どんな命令にも従順に従う魔理沙が特に喜ばれた。
畑仕事や工場、はたまた魔法の実験台など、幻想郷のあらゆるところに魔理沙が使われていた。
魔理沙は文句も言わず、よく働いた。
維持費も安い。キノコさえあればそれで生きていける。
農民たちも、辛い農作業から解放された。
朝から晩まで、鍬をもって畑を耕している魔理沙の姿がみかけられた。顔を泥だらけにしながら、もくもくと作業する魔理沙。
その片隅で、農民たちは談笑していた。
魔法の実験台としても、魔理沙は優秀だった。
なにしろ、全員「同じ魔理沙」なのだ。あらゆる魔法実験の被験者として魔理沙は使われた。
普通の人間相手にはできないようなひどい実験も、魔理沙になら遠慮なしにすることができた。
おかげで幻想郷の魔法文明はより発達し、幻想郷はますます豊かになっていった。
子供たちのお守にも魔理沙は使われた。
なにしろ、文句を言わないのだ。
子供を魔理沙にあずけて、親たちはあいた余暇を自分のためにつかっていた。
子供も魔理沙になついていた。なんでも言うことを聞いてくれる従順な魔理沙。
それはとても、便利な道具だった。
もはや幻想郷は、魔理沙なしでは成り立たなくなっていたのだ。
暖炉の火によって、アリスの頬は照らされていた。
その顔は20年前と変わらない。魔法使いは年をとらないのだ。
「もう少し薪をくべて」
視線は手元の本に向けたままで、アリスは部屋の端にたっていた魔理沙に対して指示を出した。
魔理沙はすぐに主人の言葉に反応し、薪をくべる。
パチパチと音がして、部屋が暖かくなった。
台所では、とんとんという音がする。そこでも別の魔理沙が夕食の準備をしていた。
今は冬。外は雪。
また別の魔理沙が、外の雪かきをしていた。
アリスは、もはや魔理沙に対して何の感情も持っていなかった。
当たり前だ。
幻想郷のどこにいっても、魔理沙はいるのだから。
パチュリーだって、同じことだろう。
昔は魔理沙をめぐって争ったものだが、今はそんなこと思い出しもしない。
「平和ねぇ」
しんしんと降り積もる雪をみながら、アリスはそうつぶやいた。
それからさらに、30年の月日がたった。
もはや、魔理沙が昔、「魔理沙という個人」として生きていたということを知っている者はほとんどいなくなった。
魔理沙が増えてからもう50年の月日がたったのだ。
生まれたときから魔理沙がいて、死んだときにも魔理沙がいる、という村人も少なくない。
魔理沙は、いて当たり前のものだったのだ。
魔理沙のおかげで、幻想郷は豊かになった。
辛い仕事、ルーチンワークなどはすべて魔理沙にまかせ、人々は空いた時間を自分のために使うことができた。
戯曲や芝居も浸透していった。
人は空いた時間で本を描き、本をよみ、文化的な生活を送ることができた。
人々は、幸せだった。
そんなある日。
村人のケンタ君は、今日も朝から外で遊んでいた。
そばにいるのは、ケンタ君が生まれた時からずっと世話をしてくれている魔理沙だけだ。
お父さんもお母さんも、今日はお芝居の日だからといって出かけている。
ケンタ君は、手にしたボールを魔理沙にぶつけて遊んでいた。
どれだけボールをぶつけられても、魔理沙は文句も言わずにボールを投げ返してきてくれる。
それは、いつもの光景だった。
……その時までは。
「えい!」
ケンタ君が思いっきり投げたボールが魔理沙にあたる。
いつもならすぐに拾って投げ返してくれるはずが、魔理沙は動かずに、じっと空を見上げていた。
「もう!魔理沙!早くボール投げてよ!」
怒るケンタ君。
しかし、魔理沙は動かなかった。
「……」
じっと空を見つめたままだ。
普段と様子が違う。
こんな魔理沙、初めてだ。
ケンタ君は、おそるおそる魔理沙に近づいてみた。
近づいてみると、魔理沙がぶつぶつと何やらつぶやいているのが聞こえてきた。
耳ををこらしてみる。
「……お母様」
何を言っているのだろう?
ケンタ君の母親は、今朝がたお芝居に出かけたままだ。魔理沙と母さんとの間に、何の関係があるのだろう。
ケンタ君は知らなかったのだが。
いや、幻想郷のほとんどの人は知らなかったのだが。
この日。
オリジナルの魔理沙が老衰で死んだのだった。
「……魔理沙?」
ケンタ君が、そっと魔理沙の顔を見上げる。
そこには、いつものケンタ君のよく知った魔理沙の顔はなかった。
今までみたことのない、のっぺりとした、表情。
「お母様が死んだ今、私たちも死ななければなりません」
魔理沙はそういうと、ケンタ君を無視して、すたすたと歩き始めた。
「魔理沙?」
驚いたケンタ君は、急いで魔理沙を追っていった。
しかし魔理沙は振り向かない。
「魔理沙!まってよ、魔理沙!」
しかし魔理沙は振り向かない。
ふと見ると、村がおかしかった。
いたるところから、魔理沙が歩いてきていたのだ。
全員、同じ表情。
ありとあらゆる所から、魔理沙が歩いてくる。
「まって!魔理沙!」
人々の悲鳴が聞こえる。
幻想郷のすべての魔理沙が、時を同じくして、一斉に「マリサランド」に向かって歩き始めていたのだ。
見ると、マリサランドが燃えていた。
マスタースパークが撃ち込まれたらしい。
魔理沙たちは、その炎で包まれたマリサランドに向かって、無表情で歩いていく。
何百、否、何千、何万という魔理沙がすべてマリサランドに向かっていく。
そして中で燃えていく。
この日、魔理沙はいなくなった。
魔理沙に頼り切っていた幻想郷がそれからどうなたのか……それを知る者はいない。
おわり
ビックリマンチョコってありましたよね?
シールだけとってチョコを捨てる子供たちがたくさんいました。
その子供たちも、今では立派な大人になって、この日本を動かしているんだなぁ、と思うとなんか変な気持になりますね!
面白い企画に参加させていただきまして、ありがとうございました!!(うらんふ)
筒教信者→零雨→ウナル→うらんふ
作品情報
作品集:
29
投稿日時:
2011/12/05 11:25:27
更新日時:
2011/12/05 20:25:27
分類
東方
リレー小説
うらんふさん、常に予想外の方向に持って行ってやっぱり面白いです!
そして、一人の死により全てが無に帰る魔理沙。
魔理沙は死んだのか?
いいえ、私達の心の中で生き続けるのです。
死だけは平等に人を迎えてくれるのですね。
妖怪にとって50年は短いでしょうから案外ここからまた徐々に普通の生活に皆戻っていくかも知れませんね。
半世紀の間人々と共にあり続けた魔理沙に黙祷。
そしてリレー小説に参加された皆さんお疲れ様でした。
どのssも皆普通の小説とは違った面白さがあって読んでいて楽しかったです。
あと分裂した魔理沙の個性が魔理沙のいろんな面をちゃんと写しててそれがとても印象に残りました。
魔理沙がゲシュタルト崩壊する